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社団法人北海道勤労者医療協会 勤医協中央病院・勤医協伏古10条クリニック
勤医協中央病院 副院長(内科・総合診療)
尾形 和泰
4月から新しい研修医13名を迎え、医局全体・病院全体で育てようと様々な取り組みが始まっております。大都市とは言え、もっと東区の「地域」を見て感じてもらおうと、病院の友の会員にも協力していただいて健康相談会にもどんどん参加する予定です。2004年から始まった研修制度が、充分な評価もされずに、医師不足・医療崩壊をきっかけに見直されようとしていますが、当院では引き続き、プライマリケアの診療能力を身に付け、患者さんの立場に立てる医師を養成するため、さらに質の高い研修プログラムへとバージョンアップすべく取り組みます。どうぞよろしくお願いいたします。
春・満開[写 真]松浦 武志(勤医協中央病院 内科医長)
 
多職種で診療する勤医協メンタルクリニック東のスタッフ
認知症の診断と治療
人口の高齢化とともに高齢期の脳神経疾患、とりわけ認知症とその関連疾患は増加の一途をたどっています。勤医協中央病院および隣接する勤医協伏古十条クリニック、勤医協メンタルクリニック東ではその状況に対応できるよう、それぞれリハビリテーション科(脳神経外科)外来、神経内科外来、精神科外来にて診療を行っております。最近の認知症診療における特徴は、診断面では脳血流SPECT検査の利用、治療面ではアリセプトなど抗認知症薬の登場と知的機能リハビリテーションの発展でしょう。本号では、以上のような認知症診療の進歩とスタンダードを当院での実際の診療内容を通して紹介させていただきます。
勤医協中央病院 名誉院長
伊古田 俊夫
勤医協メンタルクリニック東 副所長
田村
当クリニックは2008年4月に勤医協札幌丘珠病院の精神科外来部門をそのまま移転し、中央病院第2別館の2階に開設されました。丘珠病院では2006年より神経内科医が中心になって「もの忘れ外来」を開始し、精神科スタッフも当初から運営に協力してきました。2007年より精神科外来で「もの忘れ外来」を引継ぐこととなり、2008年4月のクリニック移転後も継続しています。現在の担当スタッフは医師1名、看護師1名、精神ソーシャルワーカー1名、臨床心理士1名。完全予約制(毎週木曜午前2名枠)をとっています。最初に問診(IADL
*1
、BADL
*2
含む、各種検査(血液・尿検査、MEDE
*3
、脳画像検査など)、医師の診察を行い、約2週間後の外来で結果説明と療養指導を行っています。当外来の特徴としては、①「神経科」「精神科」ではなく「もの忘れ外来」との標榜なので受診の敷居が低い、②一般外来とは別枠で予約運営しているため、診察、結果説明とも十
2
「勤医協メンタルクリニック東」での診療から
(田村修)
1
はじめに
分な時間をとれる、③認知症スクリーニングテストMEDE(多面的初期痴呆判定検査)を臨床心理士がルーチンで行っている、④多職種参加型アプローチにより多面的・包括的に情報を収集・共有している、ことがあげられます。
*1 IADL:手段的日常生活動作(Instrumental Activities of Daily Living)手段的日常生活動作、または道具的日常生活動作と呼ばれ、バスに乗って買い物に行く、電話をかける、食事の仕度をする、家計を管理する、掃除をする、布団の上げ下ろしをするなどが含まれる。*2 BADL:基本的日常生活動作(Basic ADL)普段の生活での必要な動作(食事や排泄、入浴、移動、寝起など)*3 MEDE査(Multiphasic Early DementiaExamination)痴呆障害の介護や行動援助の立場から早期発見、早期対応のために、記憶能力(知的能力)に関する尺度24と、痴呆障害に関連する症状を捉える尺度70(自己評価・他者評価)を選出。障害を顕在化させる周辺機能情報が捉えられる検査。認知症スクリーニングテストで唯一診療報酬算定可保険点数〔その他の心理検査(簡単)80点〕
[症例1]85歳 男性 せん妄 アルツハイマー型認知症
X年3月、近所のA脳神経外科病院に脳梗塞のため2週間ほど入院され、大きな後遺症もなくその後はB病院の脳神経外科外来に通院されていました。翌年1月ころより物忘れが目立つようになり、2月に入って急激に進行。心配した家族が当もの忘れ外来を予約され、受診されました。その直前にB病院にて行ったHDS-R
*4
は7点《重度認知症で介護への抵抗あり》と紹介されました。【臨床心理士のMEDE評価】・見当識の崩れが極端に大きい・会話は成立する割に教示の理解が悪い短期記銘の検査の中で、記憶したものから連想される物が出てくる(混乱?)
勤医協メンタルクリニック東
 
・当院ではHDS-R16点。短期間で極端に上がりすぎ【看護師の問診から】「前病院のDr.から『1合位のお酒ならどんどん飲んでください』と言われたから…」と、今年に入って毎日晩酌をしていたことが判明。【医師の診察】見当職障害と意識の軽い曇りを認めました。元々は大酒家でしたが、1年前に脳梗塞発症を契機に飲酒をやめていました。今年に入り倦怠感や物忘れを心配した本人が「お酒を飲んだらどうなるでしょうか?」と聞いたところ1合程度の飲酒を勧められました。1週間ほど毎日飲酒(少量)してみたが、体調が芳しくないので中止したところ、一気に言動がおかしくなってきたとのことでした。この時点でアリセプトをB病院で投与されましたが、さらに言動がおかしくなったためすぐに中止されています。また長期にわたりかゆみ止めの飲み薬(抗ヒスタミン剤)を服用していました。『せん妄(アルコール+薬剤)+アルツハイマー型認知症』と考え、まず断酒の指導と、薬剤の整理、さらにビタミンB剤を投与したところ、2週間後にはせん妄状態は回復。しかし記銘力低下は持続するためアリセプトを改めて投与開始。3ヵ月後には「だいぶ元通りになりました」とご夫婦とも喜んでいました。当もの忘れ外来は、通常の外来診療ではなかなか気づかれにくい情報を、多職種が包括的に関わる中で得ることができます。本症例もそのような関わりから解決のヒントが見つかった事例です。
*4 HDS-R:改訂長谷川式簡易知能評価スケール(Hasegawa DementiaScale-Revised)被験者への口頭による質問により、短期記憶や見当識(時・場所・時間の感覚など)、記名力などを比較的容易に点数化し評価できるテスト。質問者の熟練度にさほど左右されることなく一定の結果が得られ、評価に要する時間も20分前後と一般の心理検査に比べ短いのも特徴。評価結果については、合計点数30点満点中20点以下が「痴呆症疑い」と判定される。
[症例2]74歳 女性 MCI
5
→ 早期アルツハイマー型認知症
十数年来、高血圧を近医内科にて加療中で病状は安定していました。X年春より物忘れを自覚するようになりかかりつけ医に相談。同年8月にHDS-R30点。脳MR所見も年相応といわれました。しかしその後も物忘れの進行を心配した家族が、当クリニックのもの忘れ外来を予約し同年12月受診。
MEDE評価:年齢相応だが今後記銘力 低下の進行が懸念されるHDS-R:24点 時計描画テスト:(図1)脳MR(X年7月)海馬領域の軽度萎縮 
短期間でのHDS-Rスコア低下と、時計描画の障害より、現時点ではMCIレベルですが、アルツハイマー型に早期に移行する可能性が考えられました。本人および家族と相談し、デイサービスを導入して春まで様子を見ました。翌年5月、HDS-R17点。生活全般の状況も鑑みアルツハイマー型認知症と診断確定しアリセプトの投与を開始しました。その後、認知機能は特に低下することなく維持されています。
*5 MCI:軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment)記憶障害のみで日常生活は支障ない状態。正常と認知症の中間的な状態と考えられている。
[症例3]75歳 女性 早期アルツハイマー型認知症
元々は「聡明な方」(夫談)。十数年来、高血圧と高脂血症を近医内科で加療中、病状は安定していました。X年より物忘れが出現、同じ物(大根、日用品など)を度々買ってくるので家の中に不要なものがたまるようになります。同年と翌年の2回、近所の脳外科病院を受診しましたが「問題なし」と言われます。知人の勧めで、この年の9月にもの忘れ外来を受診されました。
MEDE評価:視覚を用いた記銘力が低下 廃用性のものとは考 えにくい HDS-R:17点 時計描画テスト:長針と短針を間違えて 描く(図2)脳CT:目立った萎縮や血管病変は認めず 脳血流SPECT検査 
(後述検査紹介参照)
:eZIS疾 患特異領域解析 
*6 
3指標とも陽性(図3)
時計描画の間違いよりアルツハイマー型認知症の可能性を考え、脳血流SPECT検査を追加しました。eZIS3指標とも陽性となり、アルツハイマー型認知症として治療開始(アリセプト)。あわせて夫への心理教育を実施。夫より「メモを書けといっても無理なので、自分がメモを書いて渡すようにしたら、少し改善した」と報告がありました。
*6 eZIS疾患特異領域解析:脳血流SPECT検査の画像をコンピュータ解析し、早期アルツハイマー型認知症で血流が低下しやすい疾患特異領域(後帯状回、楔前部、頭頂)の血流低下の程度(Severity)、割合(Extent)、全脳との比較(Ratio)の3指標を算出。それぞれが陽性の場合、8割以上の確率でアルツハイマー型と考えられる。
(図2)11時10分を描いてもら(図1)11時10分を描いてもら(図3)脳血流SPECT検査:後帯状回、楔前部、頭頂部に血流低下を認める
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