第2回

環境省との対話

総括報告・論点報告

総括報告
2011 年 8 月に第 1 回目の環境省との対話を開催しました。2011 年 6 月に中央環境審議会環境保険部
会石綿健康被害救済小委員会(以下、小委員会)の「今後の石綿健康被害救済制度の在り方について
(二次答申)

(以下、二次答申)が出されました。これは、石綿健康被害救済法(以下、石綿救済法)
の見直しを検討する議論を経てまとめられた報告書です。小委員会のヒアリングで、患者団体や労働
組合から給付内容の改善を強く求められていたにも係らず、結果として大幅な見直しを図る結論は出
されませんでした。なぜ大幅な見直しが図れなかったのかを、二次答申や委員会の議論経過、事務局
の運営方法を議事録・二次答申等から検証して、改めて環境省と議論をする中で総括する必要がある
と考えました。
石綿健康被害を中心とした問題に係る関係省庁との意見交換は「交渉」という形で、これまでにも
被災者団体等で実施されてきました。特に 2005 年 11 月以降、中皮腫じん肺アスベストセンターと中
皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会が合同で横断的な関係省庁交渉を開催してきました。昨年か
ら開催した環境省との対話は、そのような経過もご参考にさせて頂きました。交渉ではなく対話とし
たのは、意見をぶつけて形式的な回答を得て、さらに意見をぶつけるという一方通行になりやすい形
を、少し形態を変えて被災者と行政の双方が合意できる発展的な論議ができないかと考えたからです。
どうすれば建設的な議論をしていくことができるかという点に注意をおいて、中身はともかくとしな
がらも、まずは形式を作るという意味で「対話」の場を設けるに至りました。
正確な対話の内容の理解は議事録をご確認頂くのが良いのですが、今回の対話を終えて再認識され
たことは、被害の実態と救済制度が十分に噛み合っていない、ということです。これは労災や他の補
償・救済制度との比較によってわかるものではなく、当事者の経験から実態を丁寧に聞き、その上で
現行制度は十分に対応できているのかを検証して初めてわかるものです。本来の救済のあり方を考え
る際に現行制度の性格や他の制度との比較はもちろん有意義ですが、最も大切な論点は当事者にとっ
て、社会にとってどのような救済の姿が望ましいのか、を考えることだと思います。
今回の対話の中でも、環境省から給付内容の改善が図れない制度上の限界が述べられる回答に対し
て、救済制度を考える議論では「あるべき姿」の提示から始めるものではないか、という意見があり
ました。今後、私たちの対話の取り組みでも、もう少し明確な形でそのような議論をしていく余地が
あると思います。小委員会の議論を振り返ると、
「あるべき姿」について部分的に意見は出されました
が、個別具体的な問題や法律的な論点に議論が集中してしまった印象を持ちます。
さらに問題なのは、二次答申の土台となった議論が非公開にされて議事録も公開されていないこと
です。したがって、二次答申の結論が導き出された経過を精査する条件が整っていません。ただちに
議事録を公開する必要があります。
現在の救済制度は、その対象とる被害の個別の因果関係の立証できないから、補償ではなく、あく
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までも救済なのだという論理が行政側からしばしば使われ、被害者やそれに近い方々もその論理に対
抗して議論をしてきた傾向が強いと思います。私もその 1 人です。
しかし、今回の対話では新たな観点が出てきました。それは現在の救済制度には「社会的・道義的
責任」が含まれているのではないかという見方です。これは突き詰めていくと、救済の名目における
制度では補償という名目の制度に対して給付の内容に限度が設定されるのではないか、という考え方
の転向を図るものです。つまり、
「あるべき姿」の議論の収斂に、責任の範囲に限界がないとも考えら
れる「社会的・道義的責任」の観点を組み合わせることができます。極端に言えば、救済法だからと
いう理由で、補償的制度の給付内容よりも劣るという論理が成立しなくなります。尼崎におけるクボ
タの救済金制度が、現在においてはその最たるものと言えるかもしれません。
その議論に関連するものですが、別の方からは労災発生数という具体的な被害発生数だけではなく、
石綿を取り扱ったことで被害は出さずとも利益を上げた事業者から財源を徴収してはどうか、という
意見も出ました。実は小委員会の議論でも大塚直委員から、不法行為の如何とは異なる、原因者負担
論(石綿の生産や輸入などの行為も、その行為がなければ大きな意味での被害に対する因果関係があ
り、責任があるのではないかという考え)が提示されています(2010 年 4 月 28 日、第 6 回小委員会)。
部分的には「社会的・道義的責任」の観点と重なる議論だと思います。
これらの観点を意識した中で、
「セカンドオピニオン料金の補助」、
「家族の負担を考慮した給付の見
直し」など、現行制度の性格を考慮した上での具体的な提案や給付内容に組み込むべき新たな要素の
提示が対話の中でされました。
「救済法の成立から 6 年以上経っている。子どもで言えば小学校を卒業して、中学校に上がる。6
年間で色んなことを勉強して成長していく。救済制度も同様に、時間の経過の中で得た新たな情報や
考え方を取り入れて見直しをすべきではないか」、という趣旨の意見もありました。そのような意味に
おいては今後、この対話の場を有効に活用し、情報共有にとどまらない、
「あるべき姿」の探求の場と
しての意味合いを強くしていければと思います。
今回の対話にあたって作成した質問書は、事前に中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会にご協
力を頂いて患者さん・ご遺族個人から意見を出して頂いたものをベースにしています。当日も多くの
患者さんやご遺族の方々がご参加され、意見を出されました。率直な感想として、質問書の作成に際
してと、当日の対話において患者さんやご遺族のあれだけの意見が出なければ、今回のような、救済
を考える上で大切にすべきものは何かという再認識の作業はできず、対話での新たな発想の提示はな
かったと思っています。患者さんやご遺族の方々には、日常生活上でのさまざまな困難があると思い
ますが、今後も積極的な意見の提示を期待しています。
環境省および環境再生保全機構の皆さまには、多忙を極める中、長時間を割いて対話にご協力頂き
ました。石綿健康被害という非常に深刻な問題を扱う中では、相手の立場に配慮しない言動が生まれ
ることもありますが、立場の違いから生じる意見や発想の相違を少しでも解消し、双方が納得のでき
る議論ができるよう今後もご協力して頂ければ幸いです。
参議院議員の川田龍平議員には第 1 回目から、この対話の趣旨をご理解頂き、場を取り持って頂い
ております。改めて、ご協力に感謝致します。
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論点報告の見方
第 2 回は石綿健康被害救済法の給付内容のあり方を中心に議論を展開しました。質問項目ごとに「問
題意識」、環境省と環境再生保全機構から得られた「回答」、
「議論で確認できたこと」、
「議論を踏まえ
ての提案」をまとめました。

「問題意識」
・・・質問の趣旨を理解して頂く補助的な情報。
「回答」・・・議論の前に口頭で出された質問書に対する回答。
「議論で確認できたこと」・・・議論から確認できた共通認識事項。
「議論を踏まえての提案」・・・議論の際に出た提案、あるいは議論終了後に出された提案。

項目によっては十分に議論が尽くされず、あるいは議論の必要がなく、記載がないものがあります。
環境省には、特に「議論を踏まえての提案」を確認して頂き、前向きな行政運営を図って頂くよう期
待します。

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法務省の判例タイムズ問題(法務省、環境省)

■問題意識
法務省の職員が『判例タイムズ』という法律雑誌に、アスベスト問題と薬害問題における国の責任
が問われている訴訟を題材に寄稿をしています。質問書にも記載した法務省職員の主張は、訴訟をし
ている被害者だけに限らず、公害・環境問題における被害者全体の救済や補償の正当な考え方をおび
やかすものです。
端からさまざまな主張を退ける必要はありませんが、問題は法務省の職員が肩書き付きで 60 年以上
の実績を持つ法律雑誌に特定の思想に基づく主張を展開したことです。その上、労働・環境・公害事
件の被害者にとってはあまりにも公正とは思えない主張です。実体として法務省の見解ではないのか、
そうであれば法務省の行政運営は偏った思想に基づき為されているのか、というのが質問の問いかけ
です。

■法務省の回答
法務省は出席を拒否しました。事前に議員事務所を通して、当該記事の寄稿は一職員の私的行為で
あるとして、法務省そのものの行為ではないから説明する理由はない、というものでした。また、NGO
側が当該論文で取り上げられている大阪・泉南アスベスト国賠訴訟を応援している団体であるという
理由で出席できないとの説明もあったようです(そのような団体であるという説明はどこにもしてい
ません)。いずれにしても、法務省は説明責任を果たす義務が解消されたわけではありません。誠実な
対応が求められます。

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■環境省の回答
・石綿救済法に基づいて被害者の方々の救済を迅速・適切に実施していくことが重要である。法務省
が掲げる主張とは関係なく行政運営をしていく。

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環境省の被災者救済に対する姿勢(環境省)

■問題意識
石綿救済法による被害者や遺族への給付は、加害者による何らかの責任に基づくものではなく、見舞
金的性格に基づいています。二次答申では、給付内容の改善について、「責任の有無を問わずに救済措
置を実施するという性格を維持する以上は、費用負担者の在り方、また類似の他制度との衡平性からし
て、現行の救済給付を上回る変更を理論的に裏付け、説明することは容易ではない」
(p.6)としました。
現行の給付内容では、被害者本人の治療や療養、家族の生活に大きな支障をきたす方々がおられます。
したがって、給付内容の改善を訴えてきましたが、二次答申では上述のような結論が出され、給付内容
の改善を図らずとも良いとの結論が出されました。
しかしアスベスト健康被害問題では、これまでに多くの企業の責任が問われ、それを認定する司法判
断も下されています。被害の実態や司法判断の潮流を直視した場合、環境省がこのままの制度内容と給
付水準で問題がないと考えているのか、事務局の意識を確認しました。

■環境省の回答
・石綿救済法は被害者の苦しみや負担を迅速に救済する事を目的としている。民事上の賠償責任と離
れた形で石綿による健康被害の特殊性に着目をした制度として制定された。あくまでも労災保険で救
われない被害者を救うための制度で、他の救済制度も参考にしながら、どのように救済を図っていく
か考えられた制度である。
・石綿救済法と公健法、労災保険は、損害の性質や給付制度の性格、個別の受給者の状況が異なる。
損害の補てん状況を比較するのは困難である。
・石綿健康被害は原因者が損害を負担することが基本。原因者の特定が困難であったり、ばく露源がわ
からない被害者のために救済制度がある。
・原子力災害は原因者がはっきりしている。災害から時間が経っていない事などが石綿の健康被害とは
全く異なるものであるので、紛争の解決を促す原子力損害賠償紛争審査会のように加害企業に補償を促
す取り組みとは比較できない。

■議論で確認できたこと
・石綿救済法による給付の枠組みでは、被害者はもとより被害者死亡後の遺族に生活上、重大な支障
を及ぼしている事例が発生していることが双方で認識された。しかし環境省として当面は、二次答申
に基づく決定にしたがっていく方針である。引き続き問題の認識はしていく。

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■議論を踏まえての提案
・原因者は企業と国である。国民は利便性を享受したが、危険性を知ってのものではない。したがっ
て、救済給付の財源(現行制度でいう特別事業主に該当する部分)をもっと広範な企業から徴収する
必要がある。労災認定の発生状況に係らず、石綿の取り扱いによって収益を上げてきた企業にもさら
なる負担を科すべき。
・石綿救済法の性格には社会的・道義的責任が内在している。それは国にもある。そのような観点か
ら給付の内容の改善を図れるのではないか。
・法律の作成・見直しには、まずどの程度の救済のレベルのものを目指すべきかを提示すべきではな
いか。それから段階的に制度として成立するのかを検証していくべきではないか。
・石綿救済法施行から 6 年以上が経っているのだから、この間に蓄積してきた情報があるはず。それ
に見合って考え方を取り入れるべき。

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石綿健康被害救済法の特別拠出金(環境省)

■問題意識
石綿健康被害救済制度の財源は国、地方公共団体、労災保険に加入している全事業主、さらに石綿
の取り扱いと関係が深かったクボタ、ニチアス、太平洋セメント、旧日本エタニットパイプ(現・リ
ゾートソリューション)から「特別拠出金」を徴収しています。質問書にあるとおり、昨年の 8 月 25
日に参議院環境委員会で環境省から発表されるまで、これらの事業者名は非公開でした。今回の回答
では、2008 年の石綿救済法の改正時に追加された「国は国民に対し、石綿による健康被害の救済に必
要な情報を十分、速やかに提供する」という規定に基づいて発表した、とありました。
しかし、改正から約 3 年が経過していました。その間に公表しなかった理由は説明がありませんで
した。今後は被害者の救済を妨げるような判断はやめてほしい、同じような事を繰り返さないように
行政運営を進めて頂きたいという思いが質問には含まれています。
また、特別拠出金については何らかの責任が加味されているものと考えています。二次答申では加
害責任に基づくものではないから給付の見直しが困難であるという論理が導き出されました。しかし、
特別搬出金の搬出事業者選定には労災発生状況等が加味されており、救済制度の財源徴収に被害を発
生させた責任は全く関係ないと言い切れるのか、という問題意識が生じます。

■環境省の回答
・特別事業主の公表に至ったのは、平成 20 年の石綿救済法改正時に追記された「国は国民に対し、石
綿による健康被害の救済に必要な情報を十分、速やかに提供する」という規定を考慮し、
「国民の知る
権利や政府の説明責任、国会等の関係、あるいは公開した事による企業への影響等を勘案して」公開
する判断に至った。
・被害者の知る権利をないがしろにしてきた事は全くない。
・特別拠出金の搬出には、石綿との関係が特に深い事業活動をおこなっていたと認められる事業主が、
石綿による健康被害の救済により大きな責任を負うべきものと考えられている。事業活動の関係が深
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かった所には追加的に貢献をして頂くという考え方である。

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石綿健康被害救済法の給付内容と申請手続き(環境省)

■問題意識
この項目では、実際の被害状況と照らして救済制度上の欠陥を示し、改善要求をしました。それに
対する環境省の見解を確認しています。また、認定審査をめぐる問題や環境再生保全機構の取り組み
についても説明を頂きました。

■環境省の回答
・石綿救済制度は賠償責任に基づく補償の制度ではない。したがって、療養手当ては実費を支給する
ものではない。療養手当てには入通院にかかる費用も含まれているので、交通費の支給を別途おこな
うことはできない。
・遺族年金の支給も、石綿救済制度は「健康被害者の経済的負担を軽減する」ことを目的に、責任の
有無を問わない性格なので対応するのは困難。災害の賠償責任に基づいて補償をする労災保険制度と
は違う。
・石綿救済法における認定の可否は主治医等の申請に携わった医師の判断と判定小委員会の判定結果
が異なる場合がある。その場合、主治医等の申請に携わった医師の判断を否定するものではない。救
済法として認定か不認定かを専門家の意見を聞いて判断している。
・公害不服審査会からの認定申請者への結果通知方法に関する指摘は重く受け止めている。改善に努
めている。

■環境再生保全機構の回答
・機構では相談窓口を開設し、相談者の事情にも配慮した丁寧な対応をするように教育している。相
談時には労災の案内もしている。保健所担当者向けの説明会を実施するなど、制度の周知徹底を図っ
ている。
・医療費は、請求する本人が医療機関などに証明してもらった内容を確認して機構に請求するもの。
機構が直接、医療機関から償還払い請求についての書類を聴取するという事はない。

■議論を踏まえての提案
・中皮腫の患者が治療施設の選択を円滑にできるように、施設ごとの術数等の客観的な情報をまとめ
て提供してほしい。
・中皮腫の専門的な治療ができる病院は全国的に限られている。居住地によって経済面においても療
養格差が生じている。手法は色々と考えられるのではないか。セカンドオピニオン料金の補助など。
・家族の苦労を認めるものを制度に組み込めないのか。

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石綿健康被害の実態と調査(環境省、①のみ環境再生保全機構)

■問題意識
制度利用アンケートは石綿救済制度の療養費等の受給者(患者に限る)を対象に実施しています。
このアンケートは患者や家族の被害を受けたことによる経済的な負担の実態を把握することを目的と
したものですが、質問項目が実態把握をするのには十分とは言えない内容です。問題は、そのような
欠陥を持つアンケート調査が二次答申の論理を導く材料に使われてしまったことです。アンケートの
必要性は認めつつ、実施するならばより有意義なものにする必要があります。
アンケートは個々の被害の実態を掘り下げるものですが、別の観点として、特定の地域における集
団的な被害の検証が国として十分にできているのか、という問題があります。質問では尼崎に焦点を
当てています。他の公害問題では政府が公式に問題の原因を表明し、一定の態度表明をした経験があ
ります。尼崎地域は特定の工場が最も発がん性が高いとされる青石綿を他の工場とは桁違いに使用し
ていた歴史があります。そのような事実も踏まえ、これまでに尼崎地域における被害の発生と原因に
係るいくつかの研究論文・報告も発表されています。石綿を取り扱っていた工場が多かったから被害
に対する企業の責任を明確にすることができない、との態度を国が取り続けるのが正しいのかという
問題があります。

■環境再生保全機構の回答
・遺族の実態把握の方法については環境省とも相談して検討していきたい。患者に対しても現在のア
ンケートは年間、複数年を通じた実態把握としては必ずしも十分ではない。環境省と一緒に検討して
いく。

■環境省の回答
・水俣病に関する 1968 年(昭和 43)9 月の当時、厚生省による公式見解の根拠となった調査は 2 つあ
る。1 つは、昭和 40 年度の公害調査研究委託費によって取りまとめられた熊本大学医学部水俣病研究
班により編修された「水俣病」。もう 1 つは昭和 41 年度の公害調査研究委託費により熊本大学、熊本
県、水俣市に委託しておこなわれた水俣工場の水銀環境汚染調査結果。
・尼崎地域は中小複数の石綿関連工場が存在していた。各工場の操業当時の石綿排出飛散状況が確認
できない事、石綿がさまざまな施設に利用されていた事を考慮すると特定の排出源が一般環境経由で
石綿以外の原因であると断定することは困難である。
・クボタのような被害を発生させている工場は他に把握していない。
(注)質問にあいまいな表現があった。したがって、環境省はクボタが尼崎地域における環境ばく露
による悪性中皮腫の原因企業として上記のような回答をしたわけではない。
・クボタ以外の原因企業として、原因企業かどうかは定かではないが、昭和 30 年代から 40 年代に尼
崎市には 44 の石綿取扱い施設があったとされている。

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■議論で確認できたこと
・政権によって環境保全機構や環境省の被害者の救済に対する姿勢が変化することはない。
・制度論は別として、環境再生保全機構は患者の個別の状況に対して生活上、大変なケースがあるこ
とは認識している。

■議論を踏まえての提案
・救済法の趣旨が因果関係を問わずに「救済」をするという趣旨ならば、柔軟な見直しができるので
はないか。

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公正な議論の担保(環境省)

■問題意識
言うまでもなく、石綿健康被害救済制度は被害を受けた患者、その家族・遺族のためにあります。
どのような制度を作っていくのか、どのように制度の改善を図っていくのかは、制度を利用する当事
者がそれらの議論に参加していく事から始まります。前回の小委員会での救済法見直し議論の際には、
ヒアリングという形で患者さん、遺族が意見陳述をする機会がありました。しかし、それは当事者が
議論に参加したわけではなく、意見を述べただけにとどまっています。ある種の専門家と言われる集
団だけによって議論が進められることは、当事者たちの合意が得られたとは言いがたく、当事者が議
論の経過への積極的な参加と意思決定を自らの手から放り出しているに等しい状況であると言えます。
このような問題が生じているのは、当事者が議論に参加できる環境が整っていないからです。した
がって、「公募による委員の採用」、障がい者制度改革推進会議にならった「積極的な当事者参加の枠
組み」、といった提案がされるのです。「間接的積極参加の枠組み」とも言えるかもしれませんが、委
員や意見陳述での参加が難しい場合でも、意見募集を常時していくことで、当事者はおろか委員会の
議論もそれら意見を参考に活性化されます。また、意見募集を活性化させる取り組みとして、公開ま
でに時間がかかる議事録だけではなく、物理的に傍聴ができない方のために動画配信による速やかな
議論の公開が必要です。
また、研究者の中には過去に石綿を取り扱っていた企業から研究費を受け取っている者もおり、議
論の専門性・公平性が十分に担保できるのかといった懸念も生じます。少なくともそのような実態を
公開した上で、議論に参加して頂くという形を作ることが望まれます。

■環境省の回答
・委員の選任は中央環境審議会令 3 条によって専任しており、当該専門の事項に関して学識経験があ
ることや高度な専門性が必要であり、したがって一般公募や当事者の参加は難しい。
・委員の利益相反に係る問題は、企業からの研究費がその研究の目的や性質によって利益相反の判断
が異なる。利益相反の疑いがある委員がいても、議論はその他の委員も含めて実施するので問題とな
らない。
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・パブリックコメントは「行政機関が命令等を定めようとする場合に具体的かつ明確な内容の案をあ
らかじめ公示し、広く一般の意見を聴くというのが趣旨」。随時、意見を募集することは国民に混乱を
招く。
・動画配信は各委員の公正・中立的な立場を損なう可能性がある。傍聴者や環境省が動画配信を実施
することは難しい。

■議論で確認できたこと
・「学識経験」に明確な定義が存在しない。
・パブリックコメントの制度を本来の目的に沿わない形で運用している。つまり、
「広く一般に意見を
聴く」というのは、それらの意見を踏まえてさらに議論を重ね、提示された案に修正を加えることも
されるべきである。しかし、実態としては法律で決まっているから仕方なく実施しているに過ぎず、
本来の目的が意識されていない。
・動画配信がなぜ、委員の公正・中立的な立場を損なうのかの明確な理由は存在しない。

■議論を踏まえての提案
①公募による委員専任を導入
現在の委員選任の方法は、その過程が非常に不透明です。農林水産省、国土交通省、経済産業省、
厚生労働省はすでに公募による委員の選任を実施しています。公募によって委員の選任を実施するこ
とと、学識経験、高度な専門性を委員が有することは対立しません。委員の公募を導入することで、
委員選任過程の不透明性を部分的に解消することにも繋がります。全ての委員ではなくとも、2~3 名
を公募することも考えられます。

②常時、意見募集を実施
内閣府原子力委員会新大綱策定会議では常に一般からの意見を募集している。それらを各会義の参
考資料として HP 上でも公開している。意見募集には意見概要の記入欄や意見内容に字数制限、故意
の重複意見の大量提出を禁じる等の規定を設ければ事務局運営に大きな支障が出なくなる。

③動画配信の実施
動画の配信には様々な手法が考えられる。全ての傍聴者に動画の配信を許可する方法(文部科学省
原子力災害紛争審査会)
、事務局が配信を実施し議事録公開までの補助的な情報提供とする方法(内閣
府原子力委員会新大綱策定会議)などがある。実施にあたっては、委員会等の開催にあたって開始冒
頭に各委員に了解をとる、ということも考えられる。ただし、原子力問題に係る各種委員会が積極的
に動画の配信を実施している今般の情勢を見れば、動画配信がされるからと言って意見が述べられな
いという委員は行政施策に関与するにはふさわしいとは言えないと考えられる。

④利益相反の防止
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利益相反の疑いがある委員を選任するかどうかはともかく、まずは委員の選任にあたって過去に石
綿を取り扱っていた企業からの研究費等の受領の有無、それら企業・業界団体の役員経験の有無の確
認が必須であると考えられる。国民がそれらの情報を知らずに議論に参加することが最大の不幸であ
る。最低限、それらの確認は事務局がすべきである。

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架空検査結果による認定審査問題(環境省)

■問題意識
2011 年 10 月 13 日に公害健康被害補償不服審査会が石綿健康被害救済制度に関する審査請求の取
り消し裁決をしたことが公表されました。その事案は、架空の検査結果が医学的判定に採用されてい
たと指摘されたものでした。問題発覚直後、NGO 側は環境省へ問題の究明を図る要請と、このよう
な問題が発生する原因について議論をしました。質問はその報告を求めたものです。

■環境省の回答
・調査報告は 2 月の 23 日に公表し、2 月 27 日にはホームページにアップした。今回の不手際に関し
て多大なご迷惑をおかけした事をこの場を借りてお詫び申し上げる。

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中皮腫登録制度(環境省)

■問題意識
中皮腫登録制度は、中皮腫患者の医学的な情報、石綿ばく露歴や生活歴を一括して把握し、把握して
認定の迅速化や治療水準の向上、原因の特定に寄与する制度です。イタリア、ノルウェー、デンマー
ク、アメリカやフランスの一部の地域などで制度が運用されています。日本でも制度創設に向けて提
言がなされているのは質問書にあるとおりです。

■環境省の回答
・がん登録制度の状況をがん対策室へ照会をしたり、環境再生保全機構保有データの確認を担当者レ
ベルで協議をしている。
・24 年度中に専門家を招集し議論を開始する。議論の枠組みは未定。

■議論で確認できたこと
・議論を開始する場合、被害者の代表と、参加している NGO 側が推薦する専門委員を入れてほしい
との提案がなされた。中皮腫登録制度は労災対象者が石綿救済制度に紛れ込んでいる問題に関連して
いるので、日頃から相談活動には従事している NGO 関係者の意見が重要、という趣旨であった。事
務局は意見として検討することとした。

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労災等対象者の石綿救済法への紛れ込み対策(環境省、環境再生保全機構)

■問題意識
本来であれば労災保険制度によって救済される被害者が、それらの制度を知らずに石綿救済制度に
おける救済の申請をしているケースがあります。WHO では石綿の職業ばく露による肺がん、中皮腫、
石綿肺の全世界における死者を少なくとも 9 万人、その他の石綿関連疾患と非職業性のばく露によっ
て数千人が死亡していると推計しています(WHO/SDE/OEH/06.03,2006)。そのようなデータ
と比較しても、質問書に記載している日本の実態は労災保険の対象者が石綿救済法による給付を受け
ていると考えられます。人にもよりますが、労災による給付は救済法よりも手厚くなりますので、被
害者の中には損をしている方もおられます。

■環境省の回答
・申請者が労災保険制度について知らない、知りながら申し込みを躊躇する事が考えられる。作業従
事歴のある申請者等には申請者本人に労災保険制度について説明して申請を促すこと、環境再生保全
機構から労災保険窓口へ直接連絡することを検討すべきであると中環審の答申で指摘されている。
・厚生労働省と事務的に調整をして、労災と石綿救済法の統一のリーフレットを作成するなど連携強
化に努めている。

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石綿関連肺がんの見直し(環境省)

■問題意識
石綿健康被害は主に厚生労働省の労災保険制度と環境省の石綿健康被害救済法で救済されています。
労災保険給付は職業歴がある方が救済の対象ですが、実質的に職業歴があっても労災保険法に加入し
ていなかった建設業等における一人親方は石綿救済法によって救済を受けます。
労災保険法における石綿関連肺がんや石綿肺の認定基準では、職業歴と医学的な所見を参考にして
認定の可否を決めています。一方、環境省の石綿救済法は職業歴を一切考慮しません。実際には職業
歴があるにも関わらず、判定の際には考慮しません。被害の実態と救済制度が十分に噛み合っていな
いのが問題です。2010 年 3 月 5 日の第 5 回小委員会でも肺がんの認定要件の問題が取り上げられて
いますが、その後、十分に議論をされていません。厚生労働省では 3 月末に石綿関連肺がんの認定基
準を改正しました。環境省でもそれらの議論を踏まえて認定基準の見直しが検討される予定です。

■環境省の回答
・救済法は、ばく露の状況を確認する事が困難であるという前提で制度を運用している。
・ばく露歴の要件を救済法上の判定に取り入れるのは難しい。
・胸膜プラークの判定については議論をしていく。

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■議論で確認できたこと
・救済法が一人親方など事実上の労働者の救済も兼ねているという認識は事務局にある。
・検討スケジュール、議論の枠組みは決まっていない。
・石綿肺、び慢性胸膜肥厚が救済法の認定用件として追加された際は、それまで指定疾病でないこと
を理由に不認定通知を出した申請者に、認定要件の追加の案内を実施した。その中には認定に繋がっ
たケースもある。

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