ソフトウェア開発に求められる

ガバナンス

ア部門が年に 1 度開催している、開発者
向けカンファレンスだ。世界各地から約
2,300人を集めた今年のRSDCのテーマは
「In Concert
(コンサートで)」。そのテーマ
どおり、連日の基調講演はロック・バンドの
演奏で幕を開けた。
 ソフトウェア開発者向けカンファレンスの
テーマが、なぜ
「In Concert」
なのか。その
理由は、初日の基調講演で壇上に上った
ロジャー・オバーグ氏
(米国IBM ラショナル・
ソフトウェア マーケティング&戦略担当副
社長)
によって明らかにされた。
 「バンドが良い演奏をするには、個々の
奏者が高い技量と創造性を持っていること
ももちろん大切だが、それと同時に、それぞ
れの楽曲が課す約束事、制約に従うこと
が重要だ。なぜなら、皆が勝手気ままに楽

Event
R e p o r t

ソフトウェア開発の
新たなるガバナンス確立を
目指すIBM

 RSDCは、IBM のラショナル・ソフトウェ

(当時は
「IBM Rational Software Dev

器を奏でても、決して良い演奏にはならな

elopment User Conference 2004」
とい
う名称で開催)
で発表されたソフトウェア開
発プラットフォーム
「IBM Rational Softw
are Development Platform」
だ。Eclipse
をベースにした同プラットフォームは、開発
プロセスの策定/管理、要求/変更管
理、システム設計/実装、テスト、品質管
理、さらにはソフトウェア資産のポートフォリ
オ管理までを統一的にサポートする。RS
DC 2006の目玉の1つは、オバーグ氏に
続いて壇上に上ったダニー・サバー氏
(米
国IBM ラショナル・ソフトウェア ゼネラル・
マネジャー)
が発表した、同プラットフォーム
の最新版「 IBM Rational Software
Development Platform
(以下、Rational
SDP)V7.0」
である。
 Rational SDP V7.0には、前バージョ
ンから刷新/追加されたものとして、以下
の3つのツールが含まれている。
● IBM Rational ClearQuest V7.0:変
更管理ツールの新版。新たに、要求、

IBM Rational Software Develop

いからである。これが、ロック・バンドが必

テスト、変更に関する情報をリポジトリに

要とするガバナンス
(統治)
だが、これと同

よって一元的に管理することが可能にな

様のガバナンスが今、ソフトウェア開発の

った

世界でも求められている」

●IBM Rational ClearCase V7.0:構成

 ソフトウェア開発でも、個々の開発者は

管理ツールの新版。新たに Apache

それぞれに創造性を発揮することが求めら

Antと連携してビルドの監査を行えるよう

れる。ただし、それと同時に、プロジェクト
の約束事や制約に従って作業しなければ、
良いソフトウェアは作れないというわけだ。
しかも、インターネットの普及により、今日
のソフトウェア開発プロジェクトの多くは、ネ
ットワークを介して運営されている。ロック・
バンドなら、隣にいる奏者を直接見て、互
いに呼吸を合わせて演奏することができる。
しかし、地理的に離れた場所にいる開発
者たちの場合、そうはいかない。ソフトウェ
ア開発には、こうした問題にも対処可能な
新たなるガバナンスの確立が求められてい
るのだ。

米国 IBMは今年 6月、フロリダ州
オーランドにおいて、開発者向
けカンファレンス
「IBM Rational
Software Development Confe
rence(以下、RSDC)2006」

開催した。同カンファレンスでは、
Eclipseベースのソフトウェア開発
プラットフォームの新版が発表さ
れたほか、新たなる開発プラットフ
ォーム構想が披露された。ここで
は、基調講演の内容を中心に、
RSDC 2006のもようをリポートす
る。

になった。また、IBM Tivoli Provision
ing Managerと連携させ、完成したソフ
トウェアを実行環境上に自動的に配備
することもできる
●IBM Rational Build Forge V7.0:米
国 IBMが今年 5月に買収したビルドフォ
ージの製品をベースにしたビルド管理ツ
ール。ソフトウェアのビルド作業の自動
化を実現する
 これらの製品によって構成されるRatio
nal SDP V7.0 の最大のポイントは何か。
サバー氏によれば、それは「配布(Delive
ry」
である。
 Rational SDP V7.0では、
「各製品が

Rational SDP V7.0を発表

緊密に連携することで、ソフトウェア開発

 では、そのガバナンスを確立するため

から配備までの作業に対するトレーサビリテ

に、IBMはどのような方策を用意しているの


(追跡可能性)
を確保している」
(サバー

か。その基盤となるのが、一昨年のRSDC

氏)
という。

の自動化を推し進めるとともに、要件管理

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p

 例えば、ClearQuest V7.0とBuild Fo

はEclipse 開発プロジェクトのリーダーとし

rge V7.0を連携させることで、
Build Forge

ても脚光を浴びている。Eclipse のベース

V7.0で行ったビルド処理の結果を、Clea

になった開発環境は、もともと米国 OTIが

rQuest V7.0によって詳細に管理すること

開発したものだ。その同社を米国 IBMが

が可能だ。つまり、要求管理から配備まで

買収し、Eclipseファウンデーションを立ち

の管理作業を、ClearQuest V7.0 上で一

上げた。ガンマ氏はOTI の時代からEcli

元的に行えるわけである。また、Tivoli Pro

pse の開発を主導してきた、いわば Ecli

visioning Managerと連携させ、ソフトウェ

pseの
“生き字引”
的存在である。

アの変更手続きを標準化したり、権限/

 基調講演でガンマ氏は、Eclipseの開発

承認手続きの管理を行ったりすることもで

コミュニティがどのように成長してきたのか

きる。こうした機能は、2009 年に国内での

を語った。その中で氏が強調したのが、

施行が予想されている日本版 SOXへの対

「何よりもオープンであれ」
ということであ

応でも必要となるものだ。

る。

 一方、チーム開発のサポートの強化も、

 ガンマ氏によれば、Eclipseは当初
(OTI

Rational SDP V7.0 の特徴の 1 つであ

時代)
、現在のようにオープンな開発スタイ

る。例えば、ClearQuest V7.0では、分散

ルを採用していなかった。通常の商用ソフ

開発環境でテスト計画の策定から実行、

トウェアと同様、閉じた環境で作られていた

結果の記録までを管理するためのワークフ

のだ。開発チームは世界中に分散してい

ロー機能が拡張された。さらに、Rational
SDP V7.0では、世界各地で実施される
開発プロジェクトをサポートするために、多

ラショナルのマーケティング戦略を担当す
るダニエル・オバーグ氏。RSDCはオバー
グ氏の司会で進行するのが恒例だ

言語対応を強化したという。

たが、ソース・コードにアクセスできる者は
限られていた。それが2001年、Eclipseフ
ァウンデーション設立を機に、オープンソー
ス・ソフトウェア
(OSS)
化された。当初はソ

ment Conference 2006 Report
 以上のような機能により、開発作業の

ース・コードを公開することへの戸惑いもあ

効率化/自動化を推し進めるとともに、開

ったが、公開後間もなく、コミュニティからさ

発者間のコラボレーションを統一的な基盤

まざまなフィードバックが寄せられるようにな

の上で実現する。それを通して、開発者の
創造性を損なうことのないガバナンス
(Pas
sive Governance)
を確立しようというの

が、Rational SDP V7.0のねらいなのであ
る。

り、それが Eclipse の機能/品質の向上

基調講演に立つダニー・サバー氏。氏は
講演の中で、オープン・コンピューティング
を支える3つの要素、オープン・スタンダー
ド、オープン・アーキテクチャ、オープンソー
ス・ソフトウェアの重要性を強調した

に大きく貢献した。これにより、イノベーシ
ョン( 技 術 革 新 )
を駆 動する場としての
OSSコミュニティの真価に目覚めたガンマ
氏らは以降、プロジェクトのオープン化を徹
底して推し進めたのだという。

Rational SDPの未来

Rational SDPの

 こうした特徴を持つ Rational SDP

ロードマップが明らかに

V7.0は、もちろんIBMにとって1つの通過

 ガンマ氏らに続いて壇上に立ったのは、

点にすぎない。今後同社は、Rational S

米国IBM ラショナル・ソフトウェア 製品開

DPをどのように発展させていこうとしている

発&カスタマー・サポート担当副社長のリ

のか。その方向性が明らかにされたのが、
2

ー・ナックマン氏である。Eclipse の開発を

日目の基調講演である。

主導するのがガンマ氏なら、それをRatio
nal SDPとして育ててきたのがナックマン

エリック・ガンマ、

氏だ。氏は、このRational SDPを、今後

Eclipseコミュニティを語る

どのように成長させていくのかを語った。

 2日目の基調講演にはまず、あのエリッ

 まず、会期中に発表された Rational

ク・ガンマ氏
(IBM ラショナル・ソフトウェア

SDP V7.0だが、
IBMは今年第4四半期に

ディスティングイッシュト・エンジニア)
らが

も、同バージョンの拡充を予定している。

登壇。ガンマ氏と言えば、書籍『Design

その主な内容は、次のようなものだ。

Patterns』の著者として知られるが、最近

● Eclipse 3.2、
JDK 5.0、およびWebS
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ようなプラットフォームなのかを紹介するデ

phere最新版のサポート
●パフォーマンスとメモリ使用量の改善

モ・セッション「JazzBOF」
が、ガンマ氏ら

●ユーザビリティの向上

によって催された。

●コンポーネント化の推進

 図1に示すのが、
Jazzの構成だ。ご覧の

●モデル駆動開発への対応の強化

とおり、
Jazzはクライアント側のJazzクライ

 このうち、
「コンポーネント化の推進」

アントと、サーバ側の Jazzサーバとから成

は、ラショナル製品を、より細かい単位で

る。このうち、
Jazzクライアントの実行環境

流通可能にすることを指す。それにより、

になるのは、当然 Eclipseだ。Jazzクライ

ユーザーがオンラインで、好きなときに必要

アント上では、各種成果物の一元的な管

な機能
(コンポーネント)
を購入できるように

理、プロセスの管理、要求管理から設計、

しようと目論んでいるのだ。個別取材に応

開発、テスト、ビルドなどの作業が、
“チー

じたナックマン氏によれば、同社は現在、

ム”
として円滑に行えるようになっている。

それを実現するための管理ソフトウェアの

 一方、Jazzサーバの実行環境となるの

開発に取り組んでいる。RSDC 2006 の

は、TomcatなどOSS のアプリケーション・

展示会場でそのデモンストレーションを見た

サーバである。その上で、開発プロジェクト

が、ユーザーが購入済みのライセンスや権

で扱う各種成果物のメタデータを核にして、

限に応じて、インストール可能なSDPの構

コラボレーションやセキュリティ、バージョン

成が自動的に選択されるなど、ソフトウェア

の管理などが行われる。なお、クライアント

のオンデマンド供給を強く意識したものとな
っていた。
 ナックマン氏の講演ではまた、Rational

Eclipseで経験したオープンソース開発コミ
ュニティのダイナミズムについて話すエリッ
ク・ガンマ氏

側とサーバ側は、Webサービスによって通
信する。
 ガンマ氏らによるデモでは、実際の開発
プロジェクトを摸したかたちで、Jazzが実現

SDPの次期バージョンであるV8.0の機能

IBM Rational Software Develop

強化予定も明らかにされた。主なポイント

する新たなるチーム開発の世界が披露さ

は、下記のとおりだ。

れた。例えば、開発者が使うJazzクライア

●ソフトウェア・ライフサイクル管理機能の

ント上には、常に自身が所属するチームの

改善

状況が表示される。他のメンバーの進捗
状況はどうか、昨日書いたコードのテスト結

●分散開発機能の拡充
●セキュリティ、コンシューマビリティの強

● TCO
(Total Cost of Ownership)

ラショナルの製品開発を主導するリー・ナ
ックマン氏は、Rational SDP のロードマッ
プを明らかにした

果はどうか、現在プロジェクトにはどのよう
な問題が生じているのかといったことが、
一目で把握できる。また、開発者間のコミ
ュニケーション・ツールとして、
Wikiやインス

 そして、さらに続けてナックマン氏は、V

タント・メッセンジャなどが組み込まれてい

8.0 以降の開発計画まで明らかにした。果

る。こう書いても、特に目新しさが感じられ

たして、V8.0 の次には何が来るのか。それ

ないかもしれないが、これらの環境をすべ


「Jazz」
である。

てOSSなどによって構築している点が、Ja
zzの最大の特徴だ。

Jazz

 ただし、
Eclipseに対するIBMのスタンス

――Eclipseを包含する開発プラットフォーム

と同様、Jazzについても、OSS ベースのも
ののほかに、ラショナル製品などで構成さ

 Jazzとは、OSSをベースにした開発プラ

れる商用版が提供される。ナックマン氏は

ットフォームだ。OSSの開発プラットフォーム

基調講演の中で、こうした「OSS/商用

と言えばすでに Ecipseがあるが、Jazzは

製品」
という二重の開発体制のことを
「オ

Eclipseをも包含し、チーム開発のさらなる

ープン・コマーシャル・ソフトウェア・ディベ

円滑化、各種成果物の一元的な管理を

ロップメント」
と呼んだ。Eclipseで成功を収

実現する開発プラットフォームを目指してい

めたこの手法により、
OSSコミュニティが秘

る。

めるイノベーションの力を、自社製品の中

 会期2日目の夕刻には、このJazzがどの

にさらに深く、広く取り込んでいこうというの

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である。

規律や権威も必要であり、意思決定

 なお、OSSをベースにしてはいるものの、

を行う者が必要である。このチーム型

Jazzは現在、IBM 社内で開発が進められ

組織は、これまでの組織の枠外のも

ている。ラショナル・ソフトウェアの技術戦

のである。小編成のジャズバンドや外

略を主導するシュリダー・イェンガー氏
(チー

科の手術チームがチーム型組織の典

フ・テクニカル・ストラテジスト ディスティン

型である。

グイッシュト・エンジニア)
によれば、今後

(『方法論としての起業家精神』――『テクノ

JazzをEclipseのようにOSS化するのか、

ロジストの条件』所収)

またいつリリースするのかといったことにつ
いては一切未定だという。

 Jazzが目指すところ、それはまさに、
ドラ
ッカー氏が示したチーム型組織によるソフト

OSSモデルの取り込みを
さらに加速するIBM

ウェア開発の世界なのかもしれない。
 EclipseのOSS化から約5年、Rational
SDP の発表から約 2 年が経過した今日、

 以上、駆け足となったが、RSDC 2006

IBMはOSSを基盤とする巨大な経済圏
(エ

における主なトピックを紹介した。最後に、

コシステム)
を作り上げた。Jazz により、そ

ここまでに見てきたIBM の動きを整理して

のエコシステムはさらなる拡大を遂げるのだ

おこう。

ろうか。今後、最も注目していくべき開発プ

 まず、先にも触れたように、今日、ソフト
ウェアの世界で起こるイノベーションの一

ラットフォームの 1つ、それが Jazzであるこ

スクリーンに映し出されたJazzクライアント
の画面

とは間違いない。

角は、OSSが主導している。その OSSが
基盤とするのは、ネットワークを介したオー

ment Conference 2006 Report
プンな開発者コミュニティだ。このコミュニ

ティでは、アパッチ・ソフトウェア・ファウン
デーションの例に代表されるように、適切

な役割分担や権限委譲、プロセス、チー

ム開発を助けるインフラの整備などにより、
従来のソフトウェア開発とは異なるガバナ
ンスが確立されている。IBMは、アパッチや

図 1:Jazzの構成

Eclipse の経験から、こうしたガバナンス・
牽引するものだと考えた。そしてこれを、Ra
tional SDPやJazzにより、企業でのソフト

Plug-in 1
Web Browser

ウェア開発にうまく取り込んでいこうという

ー氏はかつて、イノベーションを実現するた
めの組織の姿として、次のようなものを提
示した。
さらに重要なこととして、人と人との関
係についても新しい組織をつくりあげ
なければならない。指揮命令型組織
ではなくチーム型組織が必要である。
さらに柔軟性が必要である。とはいえ

Plug-in 3

Plug-in n
Derby

Team Client API / Extensibility
Eclipse(IDE&RCP)

 それにしても、新たなる開発プラットフォ
ントの権威として知られるピーター・ドラッカ

Plug-in 2

Team UI Foundation awareness, SCM UI, collaboration

のが、同社のねらいである。
ームの名前が、なぜJazzなのか。マネジメ

Jazz
クライアント

Client Platform Extensions

モデルこそ、次世代のソフトウェア開発を

Webサービス
Tomcat

Extension
Web UI’
s

Tomcat

Server Platform Extensions
Plug-in 1

Plug-in 1

Plug-in 1

Plug-in 1

Platform API / Extensibility

Admin

Project
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State
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Collabo
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Health

Versioning

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Communication
(Wiki, blog)

Team Metadata

Derby

Jazz
サーバ

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