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【書評】『一隅を照らす行灯(あんどん)たちの物語』佐々淳行


2009.5.17 08:55

�■今も忘れない護民官の志

�ローマに「護民官(トリプヌス・プレービス)」という役職があった。このラテン語は直訳すれば
「平民族の頭(かしら)」ということになるが、この人たちは古代ローマでは貴族に対して平民の
主張を代表し、貴族側の決定をもやめさせて平民の福利を護(まも)る役目を果たしていた。
戦前の日本では内務省が護民官に当たるという誇りを持っていた。その内務省は占領軍に
よって解体されたが、「護民官になるのだ」という決意を抱いて警察官になった東大法学部卒
の一青年がいた。それが本著の著者の佐々淳行氏である。

�護民の役目は、悪者を退治するという強さの面と、市民を守るというやさしさという2つの一見
相反するように見える面がある。ちょうど、不動明王には大日如来の代理として、やさしく人々
を教化する面と、その教化に応じない悪者を降魔の剣で退治するこわい面とがあるように。佐
々氏は浅間山荘事件などで警官隊を指揮するときは降魔の剣を振っているときの不動明王の
ようである。佐々氏のこの面は映画にもなってよく知られている。こわい姿の不動さんの姿がよ
く知られているように。

�しかし佐々氏は護民官の志を忘れず、しかも実行し続けた人である。やさしい顔の不動さん
の像を見ることがないように、警官として、また危機管理官としての佐々氏の姿はあまり知られ
てこなかった。

�しかし弱者や不幸な者にやさしい護民官としての活躍が佐々氏の出発点であり、退官後も続
いた仕事であったのだ。それは福祉施設の子供のためにサクマドロップを買う話から始まり、
日本国際救援行動委員会(JIRAC)の実践に発展してゆく。カンボジアやシベリアの救援の話
など、すべて感動の物語だ。その体験の中から「人材行灯論」という秀抜な教育論、日本が今
一番必要とする教育論が生まれてくる。あまりどうということのない平凡な青年男女も、難民
の救援などの機会を与えられると一変してすばらしい能力を示すのだ。教育に関心ある人、特
に文科省の方にはぜひ読んでいただきたい。(冨山房インターナショナル・1785円)

�評・渡部昇一(上智大名誉教授)

http://sankei.jp.msn.com/culture/books/090517/bks0905170856003-c.htm
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