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2006 年前期 課題レポート

エイズ対策 ∼ケニアと日本の違いから∼

エイズ(AIDS)とは、後天性免疫不全症候群(Acquired Immune Deficiency Syndrome)


の通称であり、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)が引き起こす後天的な免疫不全症の事である。
1980 年代初頭にアメリカで初めて報告されて以来、約 20 年で世界に広がり、未だに感染
が拡大している。2001 年の国連の統計によると、世界には 4000 万人のHIV感染者とエ
イズ発症者が存在し、そのうちの約7割がサハラ以南のアフリカ諸国で暮らしているとい
う1)。
エイズがこれほどの早さで広まったのは、2つの特徴、
「長い潜伏期間」と「感染が生み出
す複雑な人間関係」が原因であると言われている1)。前者は、HIVが人体に感染してから
エイズを発症させるまでに数年、時には 20 年もかかる特徴に起因しており、無自覚なHI
V感染者の、他者への感染を引き起こしている。また後者の「感染が生み出す複雑な人間
関係」とは、例えばHIV感染者が自身の感染を知った場合に、自身または周囲のHIV
への理解の薄さや、文化的背景から生じる偏見などから、他者との繋がりが希薄になって
いくことなどを指す。感染者が疎外され、表に出てこられない社会では、いつまでも社会
全体でエイズを正面から受け止める体制が整わず、更なる感染へと繋がっていくのである。
上に代表されるようないくつかの特徴を持ったエイズは、国ごとにその拡大の要因も異な
っている。日本とアフリカ(特にケニア)を例に挙げ、考察していきたい。

既に述べたように、世界には 4000 万人のHIV感染者とエイズ発症者が存在し、そのうち


の約7割がサハラ以南のアフリカ諸国であった。中でもケニア共和国では、250 万人が生活
しており、総人口約 3000 万人のうち、約 8.3%が感染していることになる1)。15∼49 歳の
大人に限ると 15%が感染しているとみられており、早急な対策が求められる国の一つであ
る。これほどまでの蔓延は、ケニアの平均寿命を 1970 年から 2002 年の間に 50 歳から 45
歳と短くまでさせているのである(日本における平均寿命は、同期間に 72 歳から 81 歳)2)。
ケニア政府は、このようなエイズの蔓延を防ぐため、エイズに対するネガティブキャンペ
ーン、つまり「エイズに感染する者は不道徳である」という宣伝を行っているが、これは
必ずしも効果的でない。むしろ非感染者に対して「私はエイズと関係ない」という間違っ
た安心感をもたらし、エイズに対する偏見さえ助長し、最も重要な「自分にも感染する危
険性がある」という認識の醸成にも寄与しないからである。アフリカでは不安定な社会や
それに由来する貧困が、低い教育レベル、高まらぬ女性の地位、それに伴う性的暴力の常
態化、高い人口流動性などの複雑な要因を生み出しているため、その対処も難しい。結局
「最も効果的なのは、地道な教育だ」というありきたりな結論に達してしまうのだが、ケ
ニアの庶民にとって、教育は生活資金を奪われる要因である。また、家族内に患者がいる
ことも珍しくないため、その看病役として子供をあてがったり、親代わりに働かせたりし
て、子供を学校に行かせないことも多く、就学率は低い 3)。実際、エイズによる成人の死亡
率が急速に上昇していることによって、子供の就学率の低下をもたらしているとの報告も
あり 3)、就学率の更なる低下が泥沼的悪循環をもたらすことが懸念される。ただし、2003

年 2 月、キバキ新ケニア大統領は選挙公約であった初等学校教育の無料化を実行した。現
在、施設や物品不足により十分な教育体制が整っているとは言い難いが、今後この政策を
継続した場合のエイズ患者数や、HIV感染者数がどう変化するかは大変興味深く、期待
されるところである。日本が行える支援としては、この初等学校教育の無料化を支援する
と共に、ネガティブキャンペーンではないエイズ教育の助成が挙げられるであろう。

他方、日本ではどうであろうか。日本は、エイズの感染率それ自体は世界諸国と比較して
小さい。その理由として、高い教育レベルや、コンドーム等の高使用率(エイズ感染防止
というよりは避妊具としての使用であるが)などが挙げられている。今後もこの低い感染
率であることが望ましいが、残念ながら日本においてもHIV感染者およびエイズ患者報
告数は増加の一途を辿っている。厚生労働省によると 2004 年のHIV感染者、エイズ患者
のそれぞれの報告者は 780 人、385 人に上り 4)、累計数もそれぞれ 3257 人、6527 人にの
ぼっている。その増加要因はいくつか存在するが、日本においては「同性間の」性的接触
が主な感染経路であり、突出して「男性の感染が多い」にもかかわらず、それに対する社
会的認知が成熟していないことはあまり知られていない原因であろう。ちなみにアフリカ
では「異性間の」性的接触が主な感染経路である。日本において、同性愛者への偏見が未
だ存在することは認識されている方も多いと思う。今後、日本においてエイズの広がりを
防ぐためには、同性愛者に対する寛容な心を育むことも重要な視点といえる。

このように、一概にエイズ問題といえども、国々によってその背景は異なる。ケニアと
日本についてのみ例を挙げたが、他にも各国における感染経路はその社会的背景によって
異なり、例えば東欧では薬物注射のまわし打ちによる感染が多い。つまり、必要とされる
対策が異なることは言うまでもない。
現在、世界中でエイズ問題は深刻化しているが、この問題は数年単位で解決される問題で
はない。むしろ人類が永遠に共に歩んでいかなければならない病気であるとさえ私は考え
ている。正直いって、根絶への道は絶望的である。しかし、それでも我々は忍耐強く対処
してゆかねばならない。闇の中に一筋の光があるとすれば、感情的にならず、それぞれの
国の実態を分析し、それに見合った対策を効果的に行うことのみであろう。

参考文献
1)横森健治, ケニアにおけるエイズ問題―希望を持って生きるためにー, AMDA Journal
2002 年 12 月号
http://www.amda.or.jp/journal/kenya/0212-06.html
2)ワールドビジョンジャパン, http://www.worldvision.jp/child/world/kenya.html.
3)山野峰, トーマス・ジェイン, エイズと子供の就学率―ケニア農村の事例, 教育と経済発
展, 丸井工文社, p151-172 (2003)
4)社会実情データ図録, http://www2.ttcn.ne.jp/~honkawa/2250.html

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