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INFORMATION SHARING

PART3
KEY TO SUCCESS

今こそ求められる
ナレッジ・マネジメント基盤の
再点検
情報活用の“真の実現”へ向けて

「ナレッジ・マネジメント(KM)
」という言葉は、
1990年代から一貫してCIO、IT部門にとっての重要テーマであり続けている。
しかしながら、その重要度に比べると、成功事例は決して多くない。
はたして、その理由はどこにあるのだろうか。
本稿では、KMを機能させるためのポイントをあらためて整理しながら、
企業における情報活用基盤のあり方を考えてみたい。

吉川日出行 ● みずほ情報総研 コンサルティング部 シニアマネジャー


text by Hideyuki Yoshikawa

036
大競争時代に求められる 「情報」という無形の資産まで総動員することが

「知」の力 求められているわけである。

 
「競争時代の到来」が言われるようになってか なぜKMは失敗するのか
ら久しいが、最近の経済社会を見ていると、こ
の言葉があらゆる分野で現実になっていること  実は、上述したような取り組みは、
「ナレッジ・
が実感される。現に、多くの企業・組織が、系 マネジメント(以下、KM)
」として、2000年ご
列関係や過去の実績に基づいた取引関係を見直 ろから今日に至るまで周期的にその重要性が指
し始めているし、取り引きにおいても、相見積 摘されてきたキーワードである。一時期、
「知識
もりを取るコンペ形式や競争入札形式のものの 経営」の名の下に、組織の有する知識・ノウハウ
割合が増えている。 こそが競争力の源泉であるとして、これらを積
 このような競争的な市場環境の大きな特徴は、 極的に蓄積・活用していこうという機運が高まっ
「ほんのわずかな実力差が結果を大きく左右す たこともある。その概念に基づいたシステム/
る」ということである。従来であれば、例えば、 ツールとしてグループウェア、社内掲示板シス
多少実力で劣っていたとしても「系列」の威光で テム、文書管理システム、検索エンジン、企業
注文を獲得し、その後でライバルの製品を研究 情報ポータル、さらにはイントラ・ブログや社内
し模倣することで実力差を埋めることも不可能 SNS(Social Networking Service)などが次々
ではなかった。そして、次の調達の機会には、 と登場し、多くの組織がそれを導入してきた。
今度は「過去の実績」を盾に再受注を獲得をす  しかしながら、企業での実際の取り組みを見
ることもできた。つまり、製品力、研究力、提 るかぎりにおいては、そうした取り組みが必ず
案力に多少の差があっても挽回する余地があっ しも大きな成果を生んでいるとは言い難い。そ
たわけである。 れはなぜなのであろうか。
 実は、こうしたコンペ形式・入札形式の普及  1つの要因として考えられるのは、情報を活用
は、実力差以上の格差拡大を助長する要因であ するために必要になるいくつかの“前工程”を理
ると言われる。というのも、コンペ形式になれ 解することなく、やみくもにツールを導入してい
ば、比較対象には数値的な評価が与えられ、ほ るケースが少なくないということである。これで
とんどの場合はその中で最も高得点を得た提案 は、経営者やCIOがいくら声高に「知識を活用
が採用されることになる。要するに、仮に数値 せよ」
、「情報を上手に使え」と叫んだところで、
上の評価が「51」対「49」であっても、受注額は 現場は動かない、いや、動けないのである。
「51」を獲った者の総取りということになるのだ。  ここで言う“前工程”とは、すなわち以下のよ
実力差がわずかでも、受注や売上げの金額に大 うな取り組みのことを指す。
きな差がつきやすくなるのは自明の理である。
 こうした厳しい競争環境の中で、日本企業が ①増やす工程
真剣に取り組んでいるのが、組織やその構成員  まず何よりも、活用する情報そのものが存在
に埋もれている「情報」や「知識」の活用である。 しなければKMは機能しない。そこで、暗黙知
製品やサービスといった有形の資産だけでなく、 である「知識」を形式知である「情報」へと変換

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してシステムなどで扱える形式にしつつ、この種 は「情報」と「人」とを結び付ける重要な役割を
の情報を集めて増やしていく必要があるわけだ。 担っていると言える。ここには、重要な情報を
つまり、この工程では、組織の中の構成員の頭 必要なメンバーへ届ける「配信」と、欲しい情
の中に眠っている知識を表出させて情報に変換 報のありかへそれを求めるメンバーをいざなう
する作業と、すでに表出している情報を収集し 「誘導」の、2つのアプローチがある。
てくる作業──この2つの作業が中心となる。  この2つのアプローチは、情報の重要性や緊
 この2つの作業のどちらを主体とするかは対象 急性によって使い分けられるべきものであろう
となる業務や競争環境によっても異なるが、そ が、従来は、この使い分けが上手にできない組
れを明らかにするためには、どういった知識(情 織が多かった。
報)が意思決定時の決め手になるか、競争力に  現在、KMの効果が十分に上がっていないと
つながるかといったことを分析する必要がある。 お悩みの方は、まず、上記3つの工程がそれぞ
我々は、このようにして導き出された重要な知 れ適正に機能しているかどうか、あらためて分
識(情報)を「コア・ナレッジ」と呼んでいる。 析してみてはいかがだろうか。
 かつては、知識を表出させて情報に変換する
作業は難易度が高いとされていたが、昨今では 現状を分析することによって、
知識コミュニティと呼ばれるQ&Aツールやイン 問題点をえぐり出す
トラ・ブログ、社内SNSといった、あまり強制
力を持たない緩めの情報発信ツールを使うやり  情報活用の“前工程”を、実際の組織の状況
方が、いくつかの組織で試行され始めている。 に当てはめて分析してみると、KMに失敗して
いる組織にはいくつか共通する問題点があるこ
②ためる工程 とが分かる。以下では、各タイプの特徴と、対
 収集したり表出させたりした情報はきちんと蓄 処法について解説することにしたい。
積しておく必要がある。情報の保管にかかわる
コストや容量上での制約が少なくなった現在は、 蓄積先行型
どうしてもデータをすべてシステムに放り込んで  情報を蓄積することだけが先行し、活用がま
しまおうといった意識が働きがちになるが、後の ったく進んでいないというのがこのタイプであ
活用を考えれば、そうした安易な姿勢は決して る。特に、情報の蓄積が複数のデータ・ソース
望ましくない。情報の重要度や内容によって分 にまたがっている組織の場合、この状態に陥り
類・評価を行い、適宜メンテナンスを施して古 やすい。
い情報をふるいにかけるといった取り組みが必  こうした組織では、何よりも情報の整理・統
要となる。また、セキュリティ面のリスクを考慮 合を進めることが先決だ。場合によっては、エ
し、蓄積した情報についてきちんとアクセス権 ンタープライズ・ サ ー チやEAI(Enterprise
を付与して管理する必要もある。 Application Integration)といった情報へのア
クセスを効率化するツールの導入も検討する必
③届ける工程 要があろう。
 情報を使うのは人である。よって、この工程  また、古典的な掲示板システムを導入してい

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P A R T 3 KEY TO SUCCESS

タイプ別に見るKMの問題点

生かす
増やす ためる 届ける

分類・評価
 蓄
収集(外部情報) 配信(Push)
知識の活用


内面化
表出(内部情報) 配信(Push)

収集 表出 蓄積 分類・評価 配信 誘導
できている
蓄積先行型

できていない

できている
理念先行型

できていない

できている
情報洪水型

できていない

るような場合には、その機能を見直し、情報の 情報洪水型
通達・連絡経路を確保することも重要である。  最近、とみに多いのがこのタイプである。情
これによって、蓄積されてきた情報を「届ける」 報が十分に蓄積されているにもかかわらず、配
ほうに重点を移すわけだ。 信・誘導に問題があるために、活用が進んでい
 なお、このタイプの組織では、蓄えた情報の ないという状況にあるわけだ。
メンテナンスがおざなりになっているようなケー  このタイプの特徴の1つは、
「届ける」仕組み
スも少なくない。 が「配信」あるいは「誘導」のどちらかに偏って
 情報の陳腐化を避けるための更新、定期的な いるということである。そのため、解決策として
棚卸しによる不要な情報の廃棄、関連データの は、やみくもに情報を配信するのではなく、利
分散配置といった無駄の排除──等々、ためる 用者のプロフィールを反映したきめ細かなパー
工程の細かな部分に関しても再点検することが ソナライゼーションを施す、アクセス時に関連
求められる。 する情報を一緒に提示するリコメンデーション

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を行う、といった仕組みの実装を検討すべきで 勉強会や研究会を定期的に開催するといったよ
あろう。 うな、システム面以外の施策も有効である。場
 また、蓄積された情報が分類・評価されてい 合によっては、外部から情報を購入することも
ないケースも少なくない。確かに、この作業に 検討すべきであろう。
は大きな負荷が伴うが、きめ細かな「届ける」仕  
「とにかく情報を表出させよう」と意気込んで、
組みを実現するうえでは、この取り組みを欠か ブログやSNSといった表出系のツールを導入して
すことはできない。 みても、それだけではノイズが増えるばかりで
 昨今では、こうした分類・評価をより効率的 真に価値のある情報は出てこないということを肝
に行う手法として「フォークソノミー」という手 に銘じておく必要がある。
法が注目されている。これは、従来のトップダ
ウン型/中央集約型ではなく、利用者自身が情 「生かす工程」
報を活用する過程の中で、情報のタグづけなど
を行い、自然なかたちで分類・評価を行うとい  このように、3つの前工程を実施し、そこでの
うもので、利用者数の多い大組織では特に魅力 課題をクリアした段階で、一橋大学名誉教授の
的なアプローチとなる。ログを活用したランキ 野中郁次郎氏が「SECI理論」
で言うところの「内
ング形式での情報陳列などと組み合わせて採用 面化(Internalization)
」の工程が始まることに
されることをお勧めしたい。 なる。これは、いったん「記号」となって流通し
た情報が、それを使う利用者のもとで再び「知
理念先行型 識」へと再構成されるという工程である。ここま
 世の中には、
「情報活用を積極的に行う」など でたどり着かせることが、
4つ目の工程となる「生
と掛け声だけは勇ましいが、肝心の情報が組織 かす工程」であると言える。
内にほとんど蓄積されておらず、また情報を増  情報を知識に再構成するのを支援するような
やすための仕掛けもまったく施されていないと システム/ツールは、現時点ではきわめて少な
いう組織も存在する。エンタープライズ・サーチ・ い。組織内での研修プログラムがいまだにOJT
システムを入れてはみたものの必要な情報がま (On-the-Job Training)中心であることからも
ったく出てこない、企業情報ポータルを作って その事実がうかがえる。
はみたもののそこに載せるべき情報がなく、単  ただし、ここにきて普及に弾みがつきつつあ
なるリンク集に終わってしまっているといったよ るeラーニング・ツールやテスト支援ツールなど
うな失敗例は枚挙にいとまがない。 は、
「内面化」に際して一定の効果もたらすと見
 こうしたタイプの場合には、まずは情報を「増 られる。効率的な内面化を行うためには反復作
やす」ことが先決である。そのためには、昨今 業が有効であることがすでに確認されており、
流行の「見える化」といったアプローチを駆使し こうしたツールを使って手軽に学習やチェック、
て、自らの組織に有益な知識や情報は何か、今 啓蒙活動を繰り返すことが、結局は近道になる
の組織に足りない情報は何か──といったこと のかもしれない。
をあらためて明確化する必要があるだろう。  それからもう1つ、内面化が実際の体験を通
 また、情報の表出を促進するためには、社内 して進んでいくという特徴からすれば、将来的

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に注目される技術として「仮想世界」を挙げて 優秀なハッカー人材の無償の支援によって成り
おく必要があろう。すでに、一部の企業では、 立っている。この成功の秘訣の1つとして挙げら
Web上の仮想空間でマーケティング活動を展開 れるのが、
「ハッカー倫理」と呼ばれる、表現活
し、その結果を現実世界に生かそうという試み 動や創作活動のインセンティブを金銭的な報酬
が行われている。今後、技術が進展していけば、 にではなく仲間からの賞賛に求める精神である。
仮想世界でモノづくりや組織運営を行い、現実  ここにきて、いくつかの大企業がブログや
世界では不可能な成功や失敗の体験をさせなが SNSを使って社内にバーチャル・コミュニティ
ら、内面化を支援していくといった取り組みが を設け、社員間のコミュニケーションを活発化
なされるようになることも十分に考えられる。 しようとしている背景には、実はこうしたハッカ
 一過性の流行ととらえる向きもあるが、こう ー倫理的な文化を醸成したいとのねらいも込め
した仮想世界のシミュレーター的な活用法につ られている。
いても、CIOとしては頭の隅にとどめておいて  むろん、OSSのように、企業の中で金銭的報
損はないはずだ。 酬によるインセンティブをまったくゼロにすると
いうのはナンセンスだが、実のところ、こうした

“ネオ・ナレッジ・マネジメント”
の 仲間からの賞賛や評判をインセンティブにして

潮流 社員のやる気を引き出すという手法は、古き良
き日本型組織においてはしばしば見られた光景
 さて、
これまで述べてきたような「情報の流通」 である。
という切り口以外に、組織内コミュニティやコミ  欧米型の成果主義の台頭によって薄らいで
ュニケーションの切り口からKMをとらえる動き しまった我が国固有の企業文化を取り戻す動き
もある。その根底にあるのは、
「そもそもコミュ が、
「ネオ・ナレッジ・マネジメント」として世界
ニケーションが十分に取れている組織であれば、 的に注目されている現状は、なんとも皮肉であ
ナレッジ・マネジメント・システムは必要ない」 ると言うほかない。
という考え方だ。要するに、組織内に良質なコ
*  *  *
ミュニティを作り出すことで、所属する人と人
との情報伝達を画期的に改善しようという取り  組織によって特徴やコア・コンピタンスが異
組みである。これは、知識をいったん情報に変 なるように、コア・ナレッジとそれを生み出すコ
換した後に蓄積・共有するモデルとは別のアプ ア・プロセスも組織によって異なる。
ローチであると言える。  また、すべての業務や工程をカバーできるよ
 このアプローチにおいて、コミュニティを機 うな万能のツールが存在しないことも、KMを
能させるための“コア・エネルギー”として昨今 巡る大きな特徴だ。
注目されているのが「賞賛」と「評判」である。  CIO諸氏には、ツールを過信することなく、各
そしてその代表的な成功例としてしばしば取り ツールのカバー範囲を明確に理解したうえで、
上げられるのが、オープンソース・ソフトウェア KMの各工程に人や組織をどのように介在させる
(OSS)の開発コミュニティだ。 かという視点も含めて、自社の情報活用のビジョ
 Linuxに代表されるOSSの開発は、世界中の ンをきちんと明確化するようお勧めしたい。 ■
CIO

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