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Sounding off

音聞き見苦しきこと

広告における音楽の担う重要な役割とは裏腹に、音楽の効用は、これまでほ
とんど評価されてこなかった。今、その状況が変わろうとしている。(文
ジョー・ボウマン)

周りの人に、聞いたことのあるテレビ CM の BGM を、いくつ憶えているか口ずさん


でもらおう。そして、その音楽が何の CM に使われたか、聞いてみよう。きっと、不
意に聞かれて 5 つ以上答えられる人は少ないのではないだろうか。

例えば、リーバイスの「悲しいうわさ」、コカ・コーラの定番「愛するハーモニ
ー」や、「イッツ・ザ・リアル・シング」、もっと最近のもので、 ルノー・メガー
ヌの“I See You Baby”、ドイツでは鳥までがさえずり出したというノキアのメロデ
ィーなどがある。また、各国で定番の CM ソングとなったが国外に輸出されること
のなかった、英国ホービス社の CM、オーストラリアのエアロプレーン・ゼリーな
ども挙げられる。

十数個 挙げ ることができて、商品名も正しく答えられたとしても、 毎年 制 作される


CM の数と比べると驚くほど少ない。

著名な演奏家にして音 楽教育者、また映画・広告業界の音 楽コンサルタントを務める


マイケル・スペンサー氏によると、これは、驚くことではないのだそうだ。広告主
や広告代理店が CM にぴったりの音楽を選ぶのは稀、とのこと。

「(広告業界では)ほとんどの人が音楽を理解していません。そして、そのことを
みなさん気にしているのです。」とスペンサー氏は語る。

また、広告において音楽が重要な役割を担っているにもかかわらず、たいていの場
合、広告の制作過程において、音楽、そして音全般が軽視されているのだそう。

暗中模索

スペンサー氏は、フォーカスグループで消費者に CM に起用予定の音 楽 について質


問した、というのは聞いたことがない、と言う。さらに、「多くの場合、音は補足
的に最後に追加されます。私の知る限り、この分野の研究はあまり進んでいません 。
大部分は、勘に頼っているのが実情です。暗中模索といった所です。音 楽は、たい
てい(広告制作の)最後に付け加えられますが、本当は、最初の段階で検討するべ
きなのです。誰も、表現したいことを表現できるボキャブラリーを持ち合わせてい
ないのです。」と続ける。

「例えば、『結婚式で泣かせてくれるような音 楽 が欲しいんですけど。』とか、
『最後に盛り上がるような曲はありますか。』とか、そういう注文がよくありま
す。」

なぜこういうことになるかというと、大多数の広告担当者は、大多数の消費者と同
様、 歌を歌ったり、 楽器を演奏したりする 経験 は、小学校のクリスマスコンサート
止まりで、それ以降の音 楽との関わりは、ポピュラー音 楽や、最近ではコンピュー
タミュージックや、携帯の着信メロディーに留まっているからなのである。
「CM の BGM について判断を下す人たちは、このような音楽ばかり聞いていて、音
楽の知識は、せいぜい 30 年さかのぼるのがやっとなのです。音楽には、2000 年の歴
史があります。音楽には、ものすごい広がりがあるのです。」スペンサー氏は、こ
う語る。

曲当て

オペラに詳しくない人でも、ブリティッシュ・エアウェイズの CM の BGM として


『ラクメ』を知っているかもしれない。 1 だが、ヴェルディの『イル・トロヴァトー
レ』より「鍛冶屋の合唱」と言われても、何度も鼻歌で歌ったことのある、パスタ
ソースの CM で使われたあの曲だよ、と教えられるまでピンと来ないだろう。2

音楽だけではない。音そのものも重要である。シュウェップスの「シュー」という
音、ギネスビールをゆっくり注ぐ音など、覚えておられるだろうか。

テレビ CM における音楽の成功度を測るのはやっかいなことかもしれない。しかし 、
そのパワーは、「オー・ソーレ・ミーオ」の旋律を聞いて、“Just One Cornetto”
と歌いだす人の存在からも明らかである。

今年、英国 BBC ラジオが、長年親しまれてきた第 4 ラジオ局のテーマ音 楽 を取りや


めたところ、全国的に新聞紙上等で大騒ぎになり、英国議会での質疑にまで発展し
た。

「音楽が驚異的な反応を引き起こすことは知られています。でも、実際どの程度こう
いったことが人々の意識に根ざしているのか、どうやって計測したらいいのでしょ
う。状況証拠はたくさんあるのですが、測定方法はまだ開発されていないので
す。」とスペンサー氏は言う。

スペンサー氏は、この知識のギャップを埋めることを目指しており、ブレインジュ
ーサー社と共同で音楽の計測技術を開発中だ。

小さな世界

スペンサー氏の企業クライアントには、ユニリーバ、プライスウォーターハウスク
ーパース、サーチ・アンド・サーチ、ボッシュ、ヤング・アンド・ルビカムなどが
名を連ねる。また、日本の各種団体との関わりも深く、日英議員連盟のメンバーで
もある。日本オーケストラ連盟の全国規模のエデュケーションプログラムを 7 年間
にわたって指導するなど、長年にわたって日本との関係を築いてきた。

スペンサー氏は、音 楽の鑑賞力は世界共通だと言う。「音 楽には、文化や社会の境


界を乗り越える力があります。」音楽の好みは、地域による違いがあるかもしれな
いが、自然と人を足踏みさせる音楽には、一定の傾向がある。スペンサー氏による
と、例えば台湾の現代音楽は、西洋式のハーモニーの特徴を踏襲している。

世界中で愛され、世界中で使われている曲もある。ルイ・アームストロングの「こ
の素晴らしき世界」は、ここ数年間で、リーバイス、マイクロソフト、ディズニー
ランド・パリ、エスティローダー、コミックリリーフ、英国癌研究基金の CM で使
用された。

1
訳注 ドリーブ作曲『ラクメ』より「花の二重唱」。ブリティッシュ・エアウェイズの CM に 1988
年より採用。
2
訳注 ユニリーバ社のパスタソース「ラグー」の CM に採用。
また、ロバート・パーマーの「恋におぼれて」は、90 年代半ばのある 1 年間で、の
ど飴「スーザーズ」と英国産豚肉の CM に採用された。

スペンサー氏は、より的確な音 楽 を選ぶためのボキャブラリーを広告業界に提供す
る活動の一環として、ユニリーバ社において「サウンドバリアの克服」プログラム
を行っている。音楽の重要性について、参加者は目を(そして耳を)見張るものが
あったと言う。参加者の一人はこう言った。「音は生活の一部だということがよく
わかりました。単なる(CM の)付け加えではないんですね。」

「超音測」?

広告主や広告代理店が外部に委託するやり方ではなく、このように共同で取り組む
やり方が不可欠である、とスペンサー氏は言う。「音 楽のプロ」を名乗る人たちが 、
短期間、プロジェクトに参加し、メロディーを選んで(あるいは作曲して)、それ
でおしまい、というやり方とは比べものにならない。

「何にでも使えるメロディーの特効薬などというものはないと思います。でも、心に
残るもの、つい口ずさんでしまうようなものがあると大 変有 効 です。」テレビの
CM において、何を持ってよい音楽と言えるか、との質問に、スペンサー氏はこう
応じた。そして、音楽をいかに戦略的に利用するか、CM のどの部分で使うか、ど
のくらいの頻度で使うか、の問題でもある。

「ぴったりの音楽を作って、その CM を放映すれば、誰もが豆を買いに走ってくれ
る、と考える人は大勢いますが、そう簡単にはいきません。」と、スペンサー氏は
言う。

「その製品について詳しく知っている人と一緒に仕事をして、初めて使い物になる
作品ができます。頼まれて『はい、一丁できあがり』では、ダメなのです。」

マイケル・スペンサー

ロンドン交響楽団の楽団員として 14 年間、レナード・バーンスタインやポール・マッカー
トニーをはじめとする巨匠たちと数々の国際的舞台で共演する。その後、ロイヤルオペラハ
ウスの教育事業責任者となり、英国内の学校 5 千校で導入されることとなった芸術教育ソフ
トウェア ”In2Arts:opera” を制作する。

現在、音を通しての企業アイデンティティ確立についてアドバイスするコンサルティング会
社、サウンド・ストラテジーズ(www.sound-strategies.co.uk)、芸術を通して教育へのよ
り積極的な関与を働きかけるクリエイティヴ・アーツ・ネットの 2 社を経営。今年のカンヌ
国際広告フェスティバルにおいて、音と広告の関係についてスピーチを行う予定。

(『リサーチワールド』誌 2006年7・8月号 36~37頁掲載)