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目 次

はじめに…………………………………………………………………………… 2

ボランティア・スタッフ育成のための研修会………………………………… 5

支援事業

 1. 薬物SOS電話相談 …………………………………………………………16

 2.シェルターの管理・運営 …………………………………………………17

 3.バザーへの参加 ……………………………………………………………20

 4.当事者家族による各種グループ・ミーティングの開催 ………………21

 5.教育プログラム ……………………………………………………………22

 6.ワークショップの開催 ……………………………………………………29

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はじめに
はじめに

 薬物依存症は精神障害のひとつに位置づけられる「病気」であり、また、適切な医
療や支援を受ければ回復の可能性は十分にあります。その事実にも関わらず、これま
で薬物依存症者は支援を必要とする「障害を抱えた人」としてではなく、
「犯罪」や「非
行」との関連で語られることが非常に多く、強い差別や偏見の中で、依存症者とその
家族は非常に困難な回復の道のりを強いられてきたといえるでしょう。近年になって
ようやく、多くの回復者、家族、この分野の専門家などの努力の積み重ねによって、
薬物依存症が病気であるということは、ようやく一般社会においても少しずつ認識さ
れるようになってきましたが、その理解度は未だ十分というには程遠い状況にあり、
その中でも特に、依存症者の家族についての理解は極めて不十分といえるでしょう。

 薬物依存症は、家族と極めて関係が深い病気です。といっても、それは家族が悪かっ
たから、その人が薬物依存症になってしまったという意味ではありません。ただ、誰
かが薬物依存症になったとしたら、多くの場合は、その家族の中に、薬物問題以外に
も何か問題が生じていたり、家族としての機能がうまく働かなくなっていたりする可
能性が高いのです。更に、依存症者本人の回復予後を左右する鍵として、家族が依存
症者本人に対してどのような対応をとるかということも非常に重要です。つまり、家
族の中で誰かが薬物依存症という病気に陥ってしまったら、家族全体でその問題に取
り組むことがとても大切なのです。それも、依存症者本人の薬物問題だけに視点を奪
われるのではなく、家族全体の機能や他の家族メンバーに起きている問題についても
十分吟味をして、必要な場合は問題解決のための支援を外部に求めましょう。また、
家族として、依存症者本人に対する適切な関わり方を学び実践する必要もあります。
やるべきことが多くて大変ですが、家族がこのような努力を行うことによって、依存
症者の回復プロセスが飛躍的に早まることは決して少なくありません。このような意
味で、薬物依存症者の回復に家族の存在は非常に重要です。

 しかし、このような家族の重要性が十分に理解されていないため、わが国における
薬物依存症者の家族支援体制は極めて未整備な状態にあります。近年になって少しず

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はじめに
つ状況は改善されつつありますが、常時対応出来なかったり、シェルター機能を備え
ていなかったりと、往々にして緊急対応が迫られる家族支援としては多くの課題が残
されています。そこで、私たちは、これらの課題を克服した新たな形の家族支援の場
を整備するための一歩を踏み出したいと考えたのです。今回の取り組みは、当事者家
族を中心としたほんの小さな一歩かもしれませんが、今後大きく広がっていくことが
期待される家族支援の貴重な支え手のひとつになることができれば大変嬉しく思いま
す。

特定非営利活動法人セルフ・サポート研究所
代表 加藤 力

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ボランティア・スタッフ育成のための研修会 ボランティア・スタッフ育成のための研修会  当事者家族を中心とした事業を行うに先立ち、当事者家族がボランティアとして有益 な活動が行えるようボランティア・スタッフ育成のための研修会を実施しました。 研修会日程 講 師 第1回 平成20年4月 7日 梅野  充(精神科医師) 第2回 平成20年4月14日 森野 嘉郎(弁護士) 第3回 平成20年4月21日 萩原 春代(ファシリテーター) 第4回 平成20年4月28日 秋元恵一郎(精神保健福祉士) 第5回 平成20年5月 5日 梅野  充(精神科医師) 第6回 平成20年5月12日 森野 嘉郎(弁護士) 第7回 平成20年5月19日 萩原 春代(ファシリテーター) 第8回 平成20年5月26日 秋元恵一郎(精神保健福祉士) 第9回 平成20年6月 2日 梅野  充(精神科医師) 第10回 平成20年6月 9日 森野 嘉郎(弁護士) 第11回 平成20年6月16日 萩原 春代(ファシリテーター) 第12回 平成20年6月23日 秋元恵一郎(精神保健福祉士) 第13回 平成20年6月30日 梅野  充(精神科医師)  研修会の主な目的は、(1)ボランティア・スタッフが薬物依存症という病気を正し く理解し、その説明ができるようになること、(2)ピアカウンセラーとして同じ立場 の家族の話を聞く技術を身につけること、です。以下に、研修会内容の一部をご報告し ます。 5 5 .

ボランティア・スタッフ育成のための研修会 研修会(1) 薬物依存症とは  薬物のために自分や周囲の人にいろんな問題が起きているのに、それでも薬物を使う ことがやめられず使い続けている人がいたら、その人は薬物依存症という病気にかかっ ている可能性が高いでしょう。薬物依存症は精神障害のなかのひとつに分類される病気 で、その病気にかかってしまうと、脳の異常によって薬物に対する渇望感が非常に強く なり、どんなに本人がやめようと思ってもなかなかやめられないという状況に陥ってし まいます。どんな薬物でも一度使っただけで依存症になってしまうことはまずありませ んが、繰り返して何度も使っているうちに、だんだんとその人の心身に変化が生じてき て、本人も気がつかないうちに依存が形成されていきます。 薬物依存症の定義  ここ1年間に、次のうち3つ以上の症状がみられるとき ①耐性(※1)が生じる。 ②離脱症状(※2)が長びいて、そのせいで仕事・生活に支障をきたす。この症状は、 薬物を再使用するとなくなる。 ③自分が思っていたよりも、たくさん、長期間にわたって使ってしまう。 ④やめようとしたり、量を減らそうとしたことがあるが、うまくいかない。 ⑤これまでに薬を手に入れたり、使い続けたり、また薬をやめようとして、長い時 間を費やしてきた。 ⑥社会的な活動や、仕事、趣味を犠牲にして薬を使う。 ⑦薬が身体的、心理的問題を繰り返し引き起こすことがわかっていながら使い続け る。 (※1) 耐性=今までと同じ量では薬物の効果がでなくなること。 (※2) 離脱症状=今まで使っていた薬物の使用を中断することによって起こる不快な 症状のこと。 アメリカ精神医学会DSM-Ⅳより改変 6 6 .

ボランティア・スタッフ育成のための研修会 薬物乱用・薬物依存・薬物中毒  依存という言葉や依存症という病気を正確に理解するためには、まず、薬物乱用・薬 物中毒・薬物依存という3つの言葉の違いについて理解することが必要です。  まず、「乱用」というのは「ある物質を社会的許容から逸脱した目的や方法で自己使 用すること」とされています。例えば、覚せい剤などの違法薬物は使用自体が触法行為 ですから、社会的にみて許容範囲を超えており、ただ一度だけ少量使ったとしても乱用 ということになります。一方、薬局で売っている咳止め薬や鎮痛薬、病院で処方される 睡眠薬や抗不安薬などは、決められた用量を守ってきちんと服薬していれば、それは使 ったからといって乱用とはいえません。ただ、咳や痛みを軽減する、適切な時間の睡眠 を確保する、不安を軽減するといった本来の目的を外れて遊びの目的で使用したり、用 量を守らず大量服薬したりすれば、同じ薬でも乱用になります。  一方、「依存」というのは、「乱用」という行為を何度も繰り返した結果、次第にその 物質を使い続けなければならなくなって、自分で量や頻度をコントロールしたり、使う のをやめたりすることが困難になり、なんとかその物質を手に入れることにいつも多く の時間や労力を費やしている状態をさします。このように「乱用」は行為そのものをさ しており、「依存」は状態をさしているというふうに区別ははっきりしていますが、例 えばある人が、ただ「乱用」という行為を繰り返している状態なのか、それとも既に依 存の段階にいるのかを見極めることは非常に難しいことが多いというのが実際のところ です。  次に、「中毒」とは、物質を摂取したことが原因で起こるその物質に特徴的にみられ る様々な精神的、身体的症状のことで、通常物質の使用中かその直後に症状が出始め、 時間の経過とともに消失します。 「中毒」には「急性中毒」と「慢性中毒」があり、「急 性中毒」の代表は、一気飲みなどアルコールを短時間で大量に摂取したことによる吐き 気や嘔吐、酩酊など意識の障害で、重症になると心拍数の低下や体温の下降が進んで命 に関わることがあります。 「慢性中毒」というのは依存に基づいて乱用を繰り返した結 果生じる症状のことで、その代表としては幻覚や妄想といった精神症状が挙げられます。  薬物依存症というのは、その人の体内に「依存」が形成され、その人自身の力では薬 物使用をコントロールできなくなる病気ですが、もうひとつの大きな特徴として、それ に関連する様々な社会的な問題を引き起こす病気であるということがいえます。「暴言・ 暴力」「借金」「就業困難」などが一般的によくみられる問題ですが、これらの多くは、 実はその人自身の問題というよりは依存症の2次的な症状であり、依存症の治療を行わ 7 7 .

ボランティア・スタッフ育成のための研修会 ない限り、これらの問題行動が消失することは難しいでしょう。 1)薬物乱用とは ①医薬品を医療目的からはずれて使用すること ②社会的、医学的常識から逸脱した目的や方法で、薬物を使用すること ③違法の薬物を使用すること 例)風邪の治療目的ではなく、咳止め薬を飲む。   医者から処方された薬を、決められた量を守らずに一度に大量に飲む。   覚せい剤、大麻などの違法薬物を使用する。 2)薬物依存とは ①薬物の作用によって、自分ではどうしても使用をやめられなくなった状態  (やめたいときにやめられなくなっている状態) ②薬物探索行動が生活の一部を形成している状態 3)薬物中毒とは 急性または慢性に薬物を摂取した結果生じる精神症状、身体症状のこと。 例)精神症状(幻覚妄想・知覚異常)   身体症状(肝臓障害・膵炎・腸炎など) 8 8 .

ボランティア・スタッフ育成のための研修会 薬物依存症を見分けるポイント  薬物を使用している本人が、乱用の段階なのか、依存の段階なのかを簡単に見分 けることはなかなかむずかしいことです。しかしだいたいの目安として、以下のポ イントに思い当たるものがあれば、薬物依存症の可能性があると思ってよいでしょ う。 ①やめたいと思った時に、やめられない。  薬物を乱用する場所、時間、量をコントロールできない。 ②罪悪感がある。 薬物を乱用することが、誰かになにかに悪いと思いつつ、やめられない。自己嫌 悪感がある。 ③禁断症状がある。 禁断症状とは、薬物の効果が切れるとあらわれる身体的精神的異常のことで、そ の症状は、不快感、手のふるえ、舌のもつれ、悪寒発汗、幻覚など、薬物の種類 によって違ってくる。 ※体質や薬の種類によっては、禁断症状が出にくい人もいる。 ④社会的な障害が出ている。  ●犯罪   ・薬物を入手するための恐喝事件や窃盗事件を起こす。  ●家庭問題   ・暴力、別居、離婚などの家庭崩壊。  ●職業、経済問題   ・怠業、失業などの職業生活の破綻。   ・金銭問題の頻発と経済生活の破綻。  ●社会的地位の低下   ・喧嘩など対人関係のトラブル。友人、近親者からの離反。  ●事故   ・薬物を乱用して酩酊した状態で、交通事故か転落事故を起こす。  ●自傷行為や自殺   ・孤独感や疎外感を始めとする絶望的気分の中で自傷行為及び乱用薬物を過剰 摂取して自殺を図る。 9 9 .

ボランティア・スタッフ育成のための研修会 薬物依存症の進行プロセス  薬物依存症は、慢性、進行性の病気です。放っておけば死に至ることもあります。 病気の進行は、まず乱用レベルから始まり、依存症の初期、中期を経て、末期にま で至ります。しかし適切な治療と援助を受けることによって、回復も社会復帰も可 能な病気なのです。 10 10 .

ボランティア・スタッフ育成のための研修会 好奇心から薬物に手を出したり、仲間と一緒に楽しく使うレベル。薬 乱 用 物の量や、使用する時間や場所はコントロール可能である。 耐性の形成 精神依存の形成 依存の 強迫的に薬物の効果を求めて、薬物を何とか手にいれようと必死にな 始まり る(薬物探索行動)。薬物がないと物足りず、不安やイライラ、焦燥 感などを感じるようになる。 身体依存の形成 依存初期 薬物の効果が切れると、禁断症状が現われる(手のふるえや悪寒、発汗、 けいれんなど。薬物の種類によって症状は違ってくる)。 社会的症状・トラブルの表面化 暴力、暴言などの対人関係のトラブルや、家庭崩壊、学校や会社に行 依存中期 けなくなる。借金、犯罪、事故などさまざまな社会的症状(トラブル) が表面化してくる。禁断症状が著しくなり、クスリを手に入れること に全人生を費やす。 あらゆる面で破綻 幻覚や妄想などの症状がひどくなり、日常生活を送るのが困難になる。 依存末期 仕事も家庭も失い、身体的な疾患も悪化。経済的にも社会的にも底を つく。 死 適切な治療や援助を受けずにほうっておくと、死にいたることもある。 11 11 .

ボランティア・スタッフ育成のための研修会 薬物依存症の治療  薬物依存症は放っておくと徐々に進行し、死に至ることも少なくないおそろしい病気 ですが、適切な治療を行うことによって回復することができます。回復といっても、依 存症が完全に治って、心身が以前の状態に戻るということではありません。残念ながら、 一度依存症になってしまった脳や体は、現代の医学では治すことはできないのです。け れども、きちんと治療を受けて再発しないための取り組みを続けていけば、多くの人は 通常と同じような社会生活を送ることができるようになります。この意味で、薬物依存 症は完治しないけれど、回復可能な病気であるということがいえます。  薬物依存症は通常長い時間をかけて徐々に深刻化していくので、その回復にも一定の 期間を要します。妄想や幻覚といった精神症状は病院で治療を受けると比較的短期間で おさまることが多いのですが、それだけでは決して十分とはいえません。その後はゆっ くりと、依存症という病気によって悪影響を受け変化してしまった生活習慣や対人関係 などを改善していく必要があります。病気による2次的な変化をひとつひとつ時間をか けて改善していかないと、本当に回復したとはいえず、そのままにしておくとすぐに再 発していしまいます。この病気は、長い時間をかけて回復への努力を続ける中で、良く なったり悪くなったりしながら少しずつ回復していくのが普通です。 12 12 .

ボランティア・スタッフ育成のための研修会 研修会(2) ブリーフ・セラピーのエッセンス ●「ブリーフサイコセラピー」という言葉は、何か特定の流派を指す言葉ではない。 ここでのキーワードは、「効果性」「効率性」の2つだけであって、治療者の流派 的・理論的背景がなんであっても全然構わない。 ●「効果的・効率的な相談活動をしたい」と願い、それを実践されている方はすべ て「ブリーフサイコセラピスト」なのです。大体「効果的・効率的でありたい」 と思えば、何か1つの流派・理論にこだわることはないはずです。それは最も非 効率的な方法だからです。その場その場に応じて、必要なもの、適当なものを用 いるのが、効果的・効率的なあり方であるはずですから。 ●アメリカの精神科医で、ミルトン・H・エリクソン(1901 ∼ 1980)という人 がいました。この人がとても有効な心理療法をやっていたわけです。とても治り そうに思えないような患者さんを、時にはたった1回のセッションで治してしま うような、まあいえば治療の天才です。彼のやり方は、それまでの心理療法の常 識を覆すような、とても“奇妙な”ものでした。 ●そうした彼の方法に興味を覚えた当時若手の臨床家たちが何人も彼の元に集ま り、一体彼が何をやっているのか、について研究し始めたわけです。そこから触 発されたものを元に、あるいはそれを自分達の理論の中に取り込んで、それぞれ が独自の心理療法理論を構築していったわけです。こうしてできあがったものが、 「ブリーフセラピー」です。 ●面接をやっていると、なんだかグダグダと焦点の定まらない、何をやっているん だかよく分からない面接が続いてしまう、なんてことがよくあります。あるいは、 いっぱいいろんな話題が出てきて、どれを扱って、どれを扱わないでいいのか、 分からなくなってしまうこともあります。こういう時って、クライエント自身が、 なにがどうなっているのかよく分からなくなっているから、面接での話もそんな 感じになってしまうわけです。 ●そういう場合、おおまかに分けて、3つの対応法があります。  ①そのいくつかの“問題”に優先順位をつけてもらう。  ②直接“ゴール/解決像”を聞く。  ③こちらもグダグダ話をする。 13 13 .

ボランティア・スタッフ育成のための研修会 ●クライエントの話が一段落したら(それまではあまり質問もせず、話も誘導せず、 ただただ聞いている)、まずは①をやってみる。 ●「いろんなことが話の中に出てきたね(ここで、たくさんのことを話してくれた ことに礼を言ってもよい)。1つは○○のこと。それから△△のこと。あるいは ××のこと。××のことはさらに□□のことと☆☆のことに分けられるでしょう。 で、その中で今すぐなんとかしたいこと、今日ここで特に相談したいことって、 どれかある?」 ●クライエントがこの質問に答えてくれたら、ラッキー。話はとりあえず絞られま した。にもかかわらず、クライエントはまた別の話を持ち出してくるかもしれま せん。その場合は、そのつど「ああ、その話にする? さっきの話はおいといて ね」と、話題が変わったことをいったんクライエントにフィードバックしておい てから、そちらの話題に移る。 ●しかし、うまく答えられないようならば、さっさと②に移りましょう。つまり、 「と すると、結局のところ、どうなればいいんだろうなあ? ……どう思う?」ある いは「そういうのが全部解決した後って、どんなふうになってるんだろう」 ●あるいはブリーフセラピーの教科書どおりに、ミラクル・クエスチョンをしても よい。つまり、「ちょっと変な質問をするけど、想像してみてくれる? 今夜君 が眠りについて、あすの朝、目が覚めるまでの間に奇跡が起こって、君の問題が 全部解決してしまったとするんだ。でも君は眠っているから、奇跡が起こって問 題がすべて解決してしまったことに気づいていない。だけど目が覚めると、どう もいつもと様子が違うんだ。いったいどんなふうに様子が違っているんだろう? 奇跡が起こったことを、君はどういうところから気づくんだろう? あるいは君 の周りの人は、それを君のどういうところから気づくんだろう?」 ●この“ゴール/解決像”を聞く質問は、どれももともと答えるのが難しい質問。 答えはすぐには返ってこないでしょう。しかし①の場合とは違い、今度はこちら が少しねばります。いろいろと質問の形を変えたり、「たとえば、こんなふうに なればいいのかなあ? それともこんなふうかなあ? それとも……」などと選 択肢を与えたり、イエス/ノー・クエスチョンの形で質問するなど、クライエン トが答えやすいように質問を工夫しながら、ねばるわけです。 ●ミラクル・クエスチョンならば、それにつけ加えて、   「たとえば、それは君が目を覚ました瞬間に分かると思うかい? もう目覚め方 からして、いつもとはまるで違うとか…。それとも洗面所に行って、歯を磨いて いる時に分かると思うかい? それとも朝ご飯を食べている時にわかるかな?  それとも玄関を出る時? 学校に行く途中? 学校に行ってから? いつ君は、 14 14 .

ボランティア・スタッフ育成のための研修会 昨晩奇跡が起こったということに気がつくんだろう?」などと誘導していくのも いいでしょう。 ●ここで重要なことは、どの質問法を採用したとしても簡単な1つの答えでセラピ ストは満足してはいけないということ。何か一つ答えが返ってきたら、さらにそ れを具体的にしていく質問を繰り返したり、その他の答えを導き出せるように、 「たとえば?」とか「それから?」とか「ほかには?」というふうにどんどん聞 いていくことが肝要。とにかくこのことに関してクライエントにたくさん考えて もらうことが重要。15分∼ 20分ぐらい使ってもいいくらい。 ●その際、よいゴール/解決像の条件とは何かを知っていると良い。それは、  (1)大きなことではなく、小さなことであること。  (2)抽象的ではなく、具体的に(できれば行動の形で)語られていること。  (3)否定形(∼しない)ではなく、肯定形(∼する)で語られていること。  これに近づけるよう誘導していく。また、 “解決”の場面のイメージを膨らまし ていけるよう話を続けていく。 ●別の言い方をすると、話を先の方(未来)にいったんもっていって、それから今(問 題)に戻って、また先に進めて、今に戻って、また先に進める、といったふうに やっていくと、こんがらかったダンゴ状態の結び目が徐々にほぐれていく、とい うわけです。 ●時に、“問題”だけを扱っている時に出て来る話題と、“解決”を扱い始めた時に 出て来る話題は違うことがあります。この場合はもちろん後者の方を中心に扱う。 前者が扱われないからといって、クライエントが欲求不満に陥ったりすることは さほどないものです。なぜなら多くの人は、やはり“解決”を望んでいるからです。 ●こんなふうに②で進めていっても、ちっとも“解決”の方向に話は進まないで、 “問 題”の話が延々と続くクライエントに対しては、③でやることになる。   (森俊夫「先生のためのやさしいブリーフセラピー」ほんの森出版) 15 15 .

支援事業1 支援事業1.薬物SOS電話相談   薬物SOS電話相談 16 16 .

支援事業2   シェルターの管理・運営 支援事業2.シェルターの管理・運営  薬物依存症者と家族の回復を支援する重要な場のひとつとしてシェルターがありま す。病気が進行して依存が深刻化するに伴い、なんとか薬物を使い続けようと必死にな っている依存症者本人が家族に暴力をふるうことが少なくないからです。たとえ暴力が なかったとしても、本人が家で薬物を使って不審な行動をしていたり、また、家に借金 の取立てが頻繁にやってきたりするようなことがあれば、家族にとっては非常に大きな ストレスです。このようなときにシェルターが役に立ちます。安全なシェルターに一時 非難し、落ち着きを取り戻すことで、家族は次の一歩をより冷静に踏み出すことができ るようになります。 17 17 .

支援事業2 利用者の声   シェルターの管理・運営  息子の薬物の問題で、カウンセリング機関に相談にいったときから、カウンセラー に本人や家族と離れることを提案されていました。多分私が、ものすごく家族にとら われ執着していることを見抜いておられたのでしょう。息子は、向精神薬(リタリン 他)の使用で入退院した後、現在は病院で統合失調症の通院治療中ですが、暴力を振 るうわけではありません。本人と距離を持つことは大切だと思いながら、高齢の義母 や、老犬の世話や、家業の金銭的な問題を考えるとなかなか別居に踏み切れませんで した。  けれども、秋頃から自分の内面にいろんな変化が起こり、私はものすごく家族や家 庭にこだわっており、自分の言いようもない寂しさをいつも誰かに満たしてもらおう と生きてきたのかもしれない、と思うようになりました。ただその寂しさや心の空洞 は底なしで埋めようがない…そんな自分の考えが煮詰まって、少し頭を冷やしたいと 思い、夫の休みを利用して5泊6日の間だけシェルターを利用させていただきました。  自分では考えた末の行動でしたが、カウンセラーから「なぜ家を出るんですか?」 と問われ、改めて家を離れる目的を明確にしました。   1:家族と離れて、自分を内省する時間を持つ。   2:自分がどうしたいのか、どう生きたいのか考える。   3:今の自分をありのままに感じる。  夫に事情を話し、義母と老犬の世話を頼み、本人(息子)は手を放せば、何でもや れる力を持っていることを夫と確認し合いました。息子と義母にはシェルターの件は 伏せ、姉の家へ行くと言って、家を出ました。  年末の忙しい時期に、仲間に手伝ってもらいながら、最低限の日用品を揃えました。 いろんな人に助けていただくことが、何とも申し訳なくて、不安と責任の重さに押し つぶされそうでした。  初めての場所、初めての部屋、初めての家具、初めてのキッチン…初めてづくしの 暮らしは、開放的というよりは、言葉にならない緊張と不安でいっぱいでした。朝か ら晩まで、自分のために、ヨガをやったり、読書したり、近隣の温泉や神社を巡り歩 いて、一人で過ごしました。  何から何まで、自分で決めて自分で行動することは、自由だけれど、責任が伴いま す。一人の時間は、いつも聴いているCDの音も、本を読む集中力も全然違うのです。 一人の時間は、緊張と責任と、静かな落ち着きがあり、小さな何気ないことに喜びを 18 18 .

支援事業2   シェルターの管理・運営 感じるのです。一人の時間は、私を孤独から開放し、本当の自分と向き合う静けさと の出会いでした。  ありのままの自分の気持ちと向き合っているうちに、いつもの何気ない暮らし全般 に、ものすごく寄りかかって執着している自分が見えてきました。家族のことは意識 的に考えないようにしましたが、何故今ここにいるのかを考えたとき、過去を遡って 自分の両親のことや、子ども時代のこと、盆踊りの帰り道、暗闇がとても怖かったこ となどが思い出されました。今が過ぎていく。失うことと、出会うこととは、繋がっ ていると感じました。  たった6日間とは言いながら、自分の生活を変えることは、とても不安で、勇気が 必要でした。  いかに自分が住み慣れた生活パターンや固定観念の中で生きているか、暮らしを変 えてみて、一人になって初めて実感できました。息子や家族に変わってほしいと思う 私自身が、変わることの難しさを体験しました。  5泊6日の一人暮らしでは、これからどう生きたいのかという答えは見つからなか ったのですが、小さなことでいい、自分に出来ること、心惹かれることをもっと本気 でやってみようと思いました。雑事から解放され、自分の心に向き合える静かな時間 を持つことが大切だと思いました。  私の場合、家に居ると心がザワザワするので、なるべく外出するようにしています。 家族の回復プログラムに参加したり、ヨガや地域の活動に力を注いでいます。用事が なければ、荒川土手で夕日を眺めたり、映画を見たり、場所を変え、行動を変えて、 意識を変えるよう努めています。  何だか毎日があっという間に過ぎていきます。日常が充実してくると、心に余裕が 出来、家族とのコミュニケーションも少しずつ楽になり、息子と何気ない会話も増え ました。我が家は、いろいろ問題山積みで、家族の関係をもっと良いものにしていく ことが必要だと思いますが、それは他者に求めることではなく、私が自分に目を向け、 自分を変えていくことだと思います。  今はもう、家を出ることにも、あまり執着していない自分がいます。出る時は出る だろうし、いつかそんな時が来るかもしれません。すべてが思い通りではありません が、自分がずっと望んでいた形とは別の幸福が目の前にあるので す。たくさんの人が私を支え、助けてくれています。  さあ、大きく深呼吸し、今日一日を精一杯生きる…  今はそんな心境です。 19 19 .

支援事業3 支援事業3.バザーへの参加   バザーへの参加  平成20年7月6日の日曜日、田園調布教会のバザーに参加しました。活動資金獲得の ためのバザー参加ですが、仲間同士の親睦を深めたり、私たちの活動を地域に伝えるた めの機会としても役立っています。  当日は、与えられた長テーブル一台分のスペースに、仲間から提供してもらった品物 を所狭しと並べて販売しました。日傘、食器、袋物、乾物、タオル、文房具など、なん でもありの売り場になりましたが、多くのお客様にお立ち寄りいただき、私たちもとて も楽しく充実した時間を過ごすことができました。 20 20 .

支援事業4 当事者家族による各種グループ・ミーティングの開催 支援事業4.当事者家族による各種グループ・ミーティングの開催  当事者家族だけの各種グループ・ミーティングを実施しています。 「共依存」など依 存症と関連が深い内容にテーマを絞ったミーティングを行ったり、 「薬物依存症の娘を もつ」という共通点のもとに集まった小グループのミーティングを行ったりしています。 ここでは、「共依存」をテーマにしたグループを紹介します。 参加者の声  誰がクスリを使っていたとしても、人に振り回されずに自分の人生を大切に生きる。 相手の言動に一喜一憂することをやめ、いつも心穏やかに安らかに生きていきたい。 そのためにはどうしたらよいのか、 「アラノンで今日一日」という本を教材に学んで います。  グループでは、自分たちの日常生活の出来事を振り返り、自分がどのように感じ、 どのように行動したかを話し合ったり、その中から、自分が「なるほど」と思う事柄 を拾って身につけていったりします。  自分を変えることは容易ではありません。人の話をきいて、良いと思ったことを身 につけようと思っても、なかなかノリで貼るようにはくっつきません。それでも、遅々 とした歩みであっても、ミーティングに出て人の話を聞き、 「ああそうか。今度そん なことがあったらそうしよう」と思える度にチョコッと成長したように思います。  自分を大切に幸せにしてあげる。それができて初めて、人に指示したり、コントロ ールするような偽りの愛でなく、誠の愛を伝えられると思うのです。「子どもは親の 愛に満足してはじめて自立して行く」とある精神科の先生がおっ しゃっていましたが、その言葉は真実だと思います。親が共依存 症から回復すると、子どもも回復が早まるような気がします。  どうぞお出掛けください。  ご一緒に成長しませんか。 21 21 .

支援事業5 支援事業5.教育プログラム   教育プログラム  病気を克服するためには、まず病気に関する正しい知識を身につけることが大切です。 どんな病気であっても、まずその正体を見極めなければ、良い解決方法は得られないか らです。そこで、私たちは、薬物依存症者をもつ家族が知っておくと役に立つ内容をま とめた教育プログラムを実施しました。 教育プログラム日程 講 師 第1回 平成20年10月 3日 森野 嘉郎(弁護士) 第2回 平成20年10月 6日 梅野  充(精神科医師) 第3回 平成20年10月20日 萩原 春代(ファシリテーター) 第4回 平成20年10月28日 近藤あゆみ(精神保健福祉士) 第5回 平成20年11月 4日 梅野  充(精神科医師) 第6回 平成20年11月10日 森野 嘉郎(弁護士) 第7回 平成20年11月17日 萩原 春代(ファシリテーター) 第8回 平成20年11月25日 近藤あゆみ(精神保健福祉士) 第9回 平成20年12月 1日 梅野  充(精神科医師) 第10回 平成20年12月 8日 森野 嘉郎(弁護士) 第11回 平成20年12月15日 萩原 春代(ファシリテーター) 第12回 平成20年12月22日 近藤あゆみ(精神保健福祉士) 第13回 平成21年 1月 5日 梅野  充(精神科医師) 第14回 平成21年 1月13日 森野 嘉郎(弁護士) 第15回 平成21年 1月20日 萩原 春代(ファシリテーター) 第16回 平成21年 1月26日 近藤あゆみ(精神保健福祉士) 第17回 平成21年 2月 2日 梅野  充(精神科医師) 第18回 平成21年 2月 9日 森野 嘉郎(弁護士) 第19回 平成21年 2月16日 萩原 春代(ファシリテーター) 第20回 平成21年 2月23日 近藤あゆみ(精神保健福祉士) 第21回 平成21年 3月 2日 梅野  充(精神科医師) 22 22 .

教育プログラム日程 講 師 支援事業5 第22回 平成21年 3月 9日 森野 嘉郎(弁護士)   教育プログラム 第23回 平成21年 3月16日 萩原 春代(ファシリテーター) 第24回 平成21年 3月23日 近藤あゆみ(精神保健福祉士)  家族が身につけるべき知識には実に様々なものがあります。まず、依存症は医学的に は精神障害の枠組みに入る病気ですので、医学的な見地からみた病気の理解というもの が必要になります。医学的に見ると依存というのはどういう状態をさしているのか、代 表的な依存性薬物にはどういうものがあるのか、また、それらの薬効はどのようなもの か、といった知識がこれにあたります。それから、心理学的な領域では、依存症者の心 理に関するものがあります。依存症の進行とともに強化される一定の性格パターンや、 薬物に対するコントロール喪失のメカニズムを理解することなどが挙げられます。更に、 もう少し視点を広げて、薬物依存症が家族や周囲の人々にどのような影響を及ぼすのか、 また、依存症に関連が深い概念にはどのようなものがあるのか、というようなことにつ いても学ぶことが必要です。それから、薬物依存症は犯罪と関連することが多いので、 必要な司法制度や法律の知識について理解しておくことも役に立ちます。  家族にとってこれらの知識を身につけることがなぜ大切かというと、まず、家族自身 が落ち着きを取り戻すことができるという点があげられます。例えば、医学的な見地か ら依存症を学ぶことにより、依存症がれっきとした病気であり、ある段階から薬物使用 は本人の意思ではコントロールできなくなってしまうことがわかります。また、依存症 には様々な要因が関係していて、家族や他の人が悪かったからそのせいで依存症になる わけではないということもわかってきます。そうすると、これまで病気の原因を本人や 誰か他のせいにしていたために悪化していた家族関係がやわらぎ、みんなでひとつの方 向を向いて依存症に立ち向かうという姿勢に変化していくかもしれません。また、依存 症の本質が見えてくることにより、目の前の問題をとりあえず解決することに気をとら れ、いたずらに心身を消耗するようなことが減ってくるでしょう。依存症は簡単な病気 ではありませんが、その正体をよく知って、冷静に立ち向かえば、決して克服不可能な 病気ではありません。  教育プログラムの中から、司法関連のテーマと、家族に関するテーマをひとつずつ選 んでご報告します。 23 23 .

教育プログラム(1) 家族による薬物事犯の公判傍聴活動 支援事業5   教育プログラム  教育プログラムの一環として、薬物事犯の公判傍聴を行いました。家族が公判傍聴活 動に参加することは、司法手続きについて理解を深めるのに役立つだけでなく、薬物事 犯を取り巻く日本の司法制度のあり方を家族の立場からよく観察し、問題点を発見する ことにもつながります。当事者家族がこれらの活動を通して常に問題意識を高く持ち、 社会に向けた提言が行えるよう成長していくことが大切です。 参加者の声  東京地裁で、薬物犯罪に関する公判2件を傍聴しました。2件とも執行猶予中に覚 せい剤や大麻を使用し、再逮捕されたということでした。  審理の過程では、もう決して薬物に手を出さないという本人の意思を問い、親には 監督責任を課すという相変わらずの状況でした。裁判官、検事、弁護人ともに、薬物 依存は病気であるという認識は感じられず、リハビリの重要性については全く触れて いませんでした。  折りしも前日の新聞に、法務省が、性犯罪や薬物犯罪者に対する再犯防止プログラ ムを策定するという記事が載っていました。刑務所内や保護観察中の仮出所者にプロ グラム受講を義務づけることや、就職支援なども含まれるようです。同時に、厚生労 働省は、脱法ドラッグについて、法改正を含んだ規制強化に乗り出すという記事もあ りました。これらのことが一体となり、医療や司法領域、一般社会の認識が深まって、 薬物防止策が是非実効性のある方向に進んでほしいと思いましたし、私たち一人ひと りも何ができるかを考えなければと思いました。 24 24 .

教育プログラム(2) 支援事業5   教育プログラム 薬物依存症と家族   依存症という病気の影響を受け、家族が実際にどのように変化していくのか時間を追 ってみてみると、こういうことがいえるでしょう。初期の段階ではまだ大抵の家族は依 存症に関する知識も十分ではありませんし、たとえ依存症が病気であることは知ってい たとしても、そのことを軽く考えようとしたり、なるべくみないように現実から目を背 けたり、問題の原因を他に転嫁するなどして、なかなか直視しようとはしません。この ように、家族が依存症の問題に気がついていなかったり問題を認めようとしなかったり というような、「家族の否認」という現象がしばしばみられます。  そのうち依存症が深刻化し、問題行動もエスカレートしてきて、家族の手に余るよう になってきます。依存症者の問題が家族成員それぞれの生活全体に大きく影を落とすよ うになってくるのですが、家族は病気ではなく依存症者本人がその根本的な原因だと感 じていますから、そのように迷惑や心配ばかりかけている本人に対して怒りが増し、憎 しみや恨みといったネガティブな感情が芽生えます。  やがて問題が家庭内におさまらず、地域でのトラブルや逮捕など社会的な範囲に及ぶ ようになってくると、家族は世間的な面目を保つためにもますます薬物をやめさせよう と必死になります。このような状態では広い視野をもって、問題解決に向けて建設的に 行動するということが難しくなってきますから、家族はとにかく目の前の問題である薬 物をやめさせることに集中し、そのためならどんなことでもしようと躍起になっていま す。なんとか使わせまいと本人を監視したり、目の前から薬物を隠したり、発見したら 捨てたり、脅したり、説教をしたり、懇願したり、出来ない約束を取り付けたり、完全 な「巻き込まれ」の状態です。このような行動は一時的には効果をみせることがあって も長期的にみると失敗に終わるのですが、何度失敗を繰り返しても、視野が狭くなって 冷静な判断ができなくなっている家族は、 「私たちの努力が足りないからだ」 「もっと愛 情をかければなんとかなる」と思い込み、ますます熱心にこれらの行動にのめり込みま す。  何度やってもうまくいかない失敗を繰り返すうちに家族の疲労はピークに達し、心身 の不調が高まってきます。 「あの子のために私たちの人生がめちゃくちゃにされてしま った」 「これまで一生懸命やってきたのに、どうしてあの人にすべてをぶち壊しにされ なくてはならないのだろう」という被害感、「また失敗した」「何度やってもうまくいか 25 25 .

ない」という自己不全感、無力感、 「あの子は私のこれほどの愛情をどうしてわかって 支援事業5 くれないのだろう」 「こんなに信じようとしているのに、あの人は私を裏切ってばかりだ」 という恨み、憎しみがどんどん膨れ上がり、精神状態は悪化する一方で、このような状   教育プログラム 態では家族はとても起きている出来事を冷静に考えたり、 適切な場所に支援を求めたり、 新たな方法を試してみたりすることができません。 「生活がめちゃくちゃになってしま う前になんとか薬物をやめさせなければ」「薬物さえやめれば全てまるくおさまるのに」 と、頭の中は薬物のことでいっぱいです。一方で、ひどくなる問題をなんとか周囲に隠 し通そうと必死になり、家庭の外での活動は減り、閉じこもりがちになってしまいます から、社会生活からは遠のくばかりです。こうして家庭の中は深刻さを増す一方なのに 孤立は強まり、家族は精神的に追い詰められ身動きがとれなくなってしまいます。この ように、依存症は徐々に本人だけではなく、家族のことも追い詰め、心身の健康を奪っ ていきます。 家族の回復  長い間依存症者が引き起こす様々な問題行動に振り回されてきた家族は心身ともに疲 弊し、的確な判断とそれに伴う適切な対応が難しくなっていますから、まずは家庭の外 に助けを求めることが必要です。身近なところでは、地域の保健所や精神保健福祉セン ターがあげられるでしょう。アディクションを専門に取り扱っている民間の相談機関や 依存症者をもつ家族自身が活動を行っている家族会などもあります。依存症者のその時 の状態によっては精神病院への相談が必要なときもありますし、本人の暴力がひどくて 家族が危険にさらされている場合などは、警察に緊急対応を求めなければならないとき もあります。この時大切なことは、なるべく依存症に詳しい専門機関から多くの情報や 助言を得るようにすることです。家族の中に依存症者がいるというのはいろんな意味で 特殊な状況ですから、たとえば依存症のことを全く知らない友人や親戚からの助言をう のみにして行動することは、かえって状況を悪化させる原因ともなります。  最初訪れた専門機関から思うような対応をしてもらえず落胆することも多いのです が、あきらめずに支援を得られる場所を探しているうちに、家族は徐々に依存症に対す る知識を持ち始めます。精神保健福祉センター、民間の相談機関、家族会など当事者グ ループが実施している家族教室や教育プログラムに参加し、依存症に関する正しい知識 を得るうちに、家族は依存症が病気のひとつであることを知り、これまでの認識や対応 の多くが誤りであったことに気がついてきます。と同時に、これまでわがままで身勝手 26 26 .

な行動ばかり繰り返してきた本人を依存症という病気をもった人としてみるようにな 支援事業5 り、その病気のために家族自身も心の健康さを失っている現在の状況を理解するように なります。依存症という病気を理解し、家族の中に依存症者がいることを受け入れ、家   教育プログラム 族全体がその病気のために冷静さを失いバランスを欠いた状態にあることを認める、こ れが「家族の否認」が解けていく過程です。  依存症を知り病気を受け入れることは、これまで混乱の中にあった家族にとって、依 存症という病気と本人を切り離して考え、家族が現在おかれている状況を整理すること に役立ちますが、その一方で、家族も含めた回復への長い道のりを進む覚悟をせまられ ることでもあります。また、これまで本人をなんとかしようと一生懸命やってきたこと がかえって依存症という病気を悪化させてきたのではないかという後悔の気持ちが高ま ったり、そもそも親やパートナーとしての自分に問題があったからこんなことになった のではないかという自責の念に駆られたりしがちな時期でもあります。このような時期 に大切なことはひとりにならないことです。これまでの誤ちを認めて修正する努力は有 意義ですが、孤立からくる不安や過剰な自責の念を持ち続けることは、かえって家族の 精神状態を悪化させるだけで、家族のためにはもちろん本人の回復にも役立ちません。 このようなネガティブな感情に陥らないためにも、孤独を避け、仲間と集うようにここ ろがけることが大切です。その意味で、自助グループや家族教室に積極的に足を運ぶこ とはとても意味があるでしょう。同じような立場の家族と数多く出会うことで、このよ うな苦しみを経験しているのが自分たち家族だけではないことがわかり、安心してこれ まで言えなかった話もできるようになりますし、また、先行く仲間の経験を聞くことで 回復への希望がもてるようになったり、回復の具体的なイメージを描くことができるよ うになるでしょう。  知識を学び依存症を正しく理解した後は、家族が本人の回復を妨げることなく、回復 を支援し、治療機関につなげる力となれるような学習を続けることが必要です。家族が どのような態度をとり、依存症者にどういう対応をしていくことが回復に役立つのかを 学び、実際にそれを実践できるようになるのは意外に時間がかかるものです。  本人に対する適切な対応を実行し、自分自身の問題に取り組む姿勢で毎日を送ってい るうちに、家族には変化が訪れます。その現れ方は人によってそれぞれですが、体調に 関する変化としては、以前はあれほど本人の薬物の問題に心を奪われて不眠が続き、食 欲も不振であったのに、ふと気がつくと夜ぐっすりと眠れるようになっていたり、以前 と同じように美味しく食事をとれるようになっているかもしれません。徐々に落ち着き を取り戻してくると、ストレスをやりすごしたり、自分の感情をコントロールすること 27 27 .

も上手くやれるようになってきますし、依存症を通して新しい交友関係が広がることか 支援事業5 ら思いがけない楽しみや新しい希望に出会うこともあります。混乱と絶望に打ちひしが れた家族が、依存症という病気を通してもう一度自分自身の生き方を問い直し、家族で   教育プログラム いることの意味を考え、答えを探しているうちに、依存症という病気に苦しむ前の状態 よりはるかにレベルの高い、生き生きとした喜びに満ちた新しい人生の側面に到達する ことも決して少なくないのです。 28 28 .

支援事業6 支援事業6.ワークショップの開催   ワークショップの開催  薬物依存症者の回復を考えたときに、家族が依存症について理解を深め、また、依存 症者への対応を変えていくことはとても重要です。しかし、家族の回復という視点から 見ると、依存症や依存症者への対応を学ぶというのはあくまでその一部にしか過ぎませ ん。家族の回復のほんとうの目的は、家族それぞれがより自分らしく幸福に生きられる ようになることです。  薬物依存症という病気に取り組む中で、多くの家族は、もう一度家族関係を見直した り、自分らしさや自分自身の生きがいについて改めて考えてみたりすることが必要にな ります。今まで薬物依存症者をなんとかコントロールしようと必死になってきた家族が、 一歩立ち止まって、今度は自分自身の体や感情に目を向けるようになります。そして、 他者ではなく自分自身の中に変化すべき課題を見出したり、自分自身のケアができるよ うになっていきます。また、自分と相手との間に境界線を引き、お互いを大切にしなが ら親密な関係性を築くことを目指すようになっていきます。こういったこと全てが家族 の大切な回復プロセスです。  このような家族の回復には時間がかかりますが、細く長く、仲間とともに成長をつづ けていくことを目標に、ワークショップを実施しました。その中から、10月のワークシ ョップの内容についてご報告します。 29 29 .

支援事業6 ワークショップ日程 講 師 萩原 春代(ファシリテーター)   ワークショップの開催 第1回 平成20年10月25-27日 ウォン・ウィン・ツァン(セラピスト・音楽家) 新海 正彦(セラピスト) 萩原 春代(ファシリテーター) 第2回 平成21年1月19日 新海 正彦(セラピスト) 萩原 春代(ファシリテーター) 第3回 平成21年3月21-22日 新海 正彦(セラピスト) ワークショップ(10月25-27日)  心と体といのちのセンター 水輪にて 1日目 2日目 3日目 • 自然農園見学 • 座禅 • 座禅 • 自己紹介  • 散歩 • 散歩  • 音楽鑑賞 • 体ほぐし • 楽器演奏 • 体ほぐし • 気づきを深めるワーク • 合唱 • 瞑想 • わかちあい • わかちあい • わかちあい 30 30 .

支援事業6 参加者の声   ワークショップの開催  「水輪」は自然と建物と人のたたずまいが美しく調和しており、人が気持ちよく憩 うことへの気配りが細部まで感じられました。  人と接することが苦手な私ですが、ほとんど初対面の方ともすぐに打ち解け、三日 目が終わるころには、すべての方と心の通ったお話ができたような気がします。同じ 悩みを共有するからでしょうか。  自然農園を見学し、ひとみの美しい青年のお話から、大きないのちの流れの中で、 無駄なものは一つもないということを知り、素晴らしい体験ができました。柔らかな 土の上を歩いていると、野菜も人も自然のままにいのちいっぱいすくすくと生きられ るに違いない、そんな思いが私を温かく包んでくれました。ウォンさんのピアノの音 の波の中で虚空に投げ出されたように漂ったり、みんなで子どものように手をつない で歌ったりしているうちにいつの間にか心が開放され、本当の自分の気持ちが見えて きました。  夢のようなワークからの日常に戻り、思いがけず目の前の現実に向き合ったとき、 「この瞬間、私はこのような人間であり、これ以上変わりようがありません」「この瞬 間、あなたはそのような人間であり、それ以上変わりようがありません」と、何度も 祈るようにつぶやく日もありました。この言葉は、思った以上に、 深い意味のある言葉として、私の中で育てています。  私の目の前の問題も、息子の病的な状態も、自分が自分らしく 生きるために必要な、とても大切な時間なのだと愛おしく思える ようになりました。たくさんの出会いに心から感謝申し上げます。 31 31 .

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