リカバリー全国フォーラム 2010 Web 開催レポート http://www.comhbo.

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9/11(土)

【特別講演】リカバリーは精神科病棟で実現できるか
〜イタリアでの経験を踏まえて〜
講演者:大熊一夫(ジャーナリスト)
座長:伊藤順一郎(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所)
大熊一夫さんは 1970 年の『ルポ精神病棟』を皮切りに、精神保健をはじめとした各分野でジャ
ーナリストとして精力的に活動を続けている方です。近著の『精神病院を捨てたイタリア捨てない
日本』の執筆にあたり、単科の精神病院を廃止してしまったイタリア、そしてその先駆けとなった
北部の都市トリエステについて新たに取材を重ねてこられました。この講演では、「日本の精神保
健の世界がいかにおくれているか」ということへの怒りを胸に抱きつつもにこやかに、時にはユー
モアをまじえながら、イタリアでの精神保健改革について熱く語ってくださいました。
イタリアが精神病院を捨て去ってしまったいきさつについては、著書に詳細が述べられているわ
けですが、印象的だったのは、「病院をやめることが目的ではなく、病院を続けるか辞めるかを善
悪の判断基準にしているわけではない。病院の中が悪くて外だったらいいかどうか、という問題で
もない。」、「自由剥奪、管理、支配、隷属、抑圧が恒久化・惰性化した“体制”から脱すること
が、イタリアの精神保健改革のめざすものであった。」という指摘です。そして、こういった支配・
非支配の人間関係がベースとなった人の心身を犯し続ける体制はまた、リカバリーの敵でもあると、
述べられました。
大熊さんはまた、「いますぐ貴方の病院でできること」として、アッセンブレア(集会)を提案
されました。イタリアでは病院解体の際、規模や頻度はまちまちながら、このアッセンブレアが徹
底しておこなわれ、このプロセスを通して、参加者は入院によって低下してしまったコミュニケー
ション能力や社会性を徐々にとりもどし、また、支配・非支配の人間関係にも変化が起き始めたと
のことです。また、いろいろな社会資源が書き込まれたトリエステの精神保健地図を紹介し、日本
でもそれぞれの地域でそのような充実した地図が描けるようになるといいと、述べられました。さ
らに、専門家側と利用者との間でクライシスの際を含む治療方針について契約書をかわすというシ
ステムをトレントの例から紹介されました。この契約の際には、「UFE(専門家された利用者と家
族)」という組織が立会い、保証人にもなるそうです。こういったシステムは、対等な人間関係が
あってこそ成り立つものだと指摘されました。
最後に、イタリアの精神保健改革の父とよばれ、事なかれ主義的な空気を嫌ったというフラン
コ・バザーリアが弟子たちに言ったという(少々)刺激的な言葉「Sporcatevi le mani con la cacca!
(ウ○コで手を汚してみろ!)」を紹介して、講演を締めくくられました。これには、「一番むず
かしい、人の絶対やりたがらないこと、でも一番大切な部分をちゃんとやれ。でないと、腰のすわ
った大改革はできない。」というバザーリアの思いがこめられているのだそうです。
様々な問題提起を含み、示唆に富んだ講演でした。また、ここでの問題提起が次のシンポジウム
での白熱した討論にもつながっていき、リカバリーフォーラムならではの、大変興味深い展開とな
りました。プログラムの関係上、質疑応答の時間がとれなかったのが残念でしたが、この後大熊さ
んは午後の分科会(分科会 21)に飛び入り参加され、そこでさらに突っ込んだ意見交換がなされ、
大変盛り上がりました。
≪秋山裕海(NPO 法人地域精神保健福祉機構)≫