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文の嬉しそうに手を叩く音だけが響き、次第に小さくな

紫は唖然とした表情だった。

「私の勘。紫が犯人、はい決定」

「霊夢さん? こう言ってますが?」

を踏みなさいな」

「完全に容疑者扱いじゃない。疑うのならもっと、段階

紫さんが嘘をついているか」

「じゃあ、紫さんの寝相が悪いんですかね?それとも、

「え? 私? さっきまで寝てたわよ?」

た。

それで二人の突き刺すような視線が和らぐはずもなかっ

文も霊夢も視線を紫へと向けた。紫は目を瞬かせるが、

「神隠し、ねぇ」

て」

消したそうです。まるで神隠しにあったんじゃないかっ

被害者の父親に取材したところ、厠に入って忽然と姿を

「今日の午前中なのですが、子供が攫われたんですよ。

げ、ふわりと地上から体を浮かせた。

くふっ、と文は笑い声を噛み潰す。背中の翼を大きく広

平坦な声音で、ごくつまらなそうに霊夢は答えた。

「そうね。アンタのつまんない新聞よりは面白いわね」

多々良

「 妖 怪 が 神 社 の 掃 除 な ん て 、珍 し い の で 声 を か け ま し た 。

を含んだ嫌らしい笑みを浮かべた。

言葉を区切り、文は済ました表情を壊す。ニヤリと何か

「いえ」

「あれ? アンタ小傘と知り合いだったの?」

ば小傘さんはいつから、ここに居るんですか?」

「なるほど。私の用件は終わりました。っと、そういえ

うだい。全てを救えるなんて思ってもないんだから」

「私は全知全能じゃないんだから無茶を言わないでちょ

で」

うかだけが知りたかったのですよ。どうやらまだなよう

「ま、冗談はさておき。霊夢さんが既に動いているかど

た。

小傘さんでしたっけ?面白い名前ですね」

っていく。はぁ、とため息を漏らして文は短い髪を振っ

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に一言だけ。文は口を開いた。

翼を大きくはためかせた。去るのだろう。ただ、その前

す る と 、文 は 馬 鹿 に す る よ う な 笑 い 声 を 漏 ら す 。そ し て 、

霊夢は睨み返した。

まるで出来の悪い子供を見るような視線だった。つい、

つめた。

しそうな微笑を貼り付ける。やんわりと二人は霊夢を見

今 更 で す か ? と 文 は 苦 笑 い を 浮 か べ 、黙 っ て い た 紫 は 寂

立場があるでしょ?」

「 別 に ど う も 思 っ て な い わ 。私 は 巫 女 だ し 、小 傘 は 妖 怪 。

はどう思ってますか?」

「小傘さんは霊夢さんに懐いてるようですが、霊夢さん

「全然宜しくないわ」

しょうか?」

「あ、そうそう。霊夢さん。一つお聞きしても宜しいで

霊夢に悟られぬよう、紫はそっと姿を消したのだった。

だから、あえて何も口にはしない。

ってはいるけれど、止められない事情もあった。

ただ、この場で静観している紫は全てを知っていた。知

気がしていた。

今日見た夢の嫌な感覚も含め、分からないことだらけな

り払うかのように霊夢は深く息を吐き出した。

のだから。しかし、一抹の不安が胸にあった。それを振

小傘は付喪神なのだから。そんな悪い事をしない妖怪な

現状、少なくとも霊夢はそう言葉にするしかなかった。

答えじゃない答え。それはただの否定だった。

「小傘が攫うわけないでしょうが」

もなく、霊夢は答えを呟いた。

胸にずっしりと重たい感情が入り込む。誰に聞かせるで

えを聞かなくても、分かっているとばかりに。

「もし、小傘さんが子供を攫ったとしたら、霊夢さんは
どうしますか?」
返答を待たずに文は空へ駆けていった。まるで霊夢の答

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それから新聞記者の鴉天狗がその騒動を取りあげ、命蓮

なって、つい遠くに投げてしまった事。

村紗が洗濯をしていた時、白蓮の下着が突然正体不明に

小傘も命蓮寺での事を語った。

とてもウザかったと霊夢が思った時の事。

早苗を招いてお酒を飲んだ晩。実は早苗は笑い上戸で、

っ黒に染まり、霊夢が怒って魔理沙に掃除をさせた事。

は別の、ドロドロとした黒い液体を放出した。境内が真

ノコを使ってしまった。八卦炉からマスタースパークと

魔理沙はキノコから魔力を抽出しようと、間違えて毒キ

そして霊夢は、魔理沙や早苗の話を語った。

ていたからだ。

言い換えるのならば、それは監視。何か、嫌な予感がし

理由はないけれど、霊夢は小傘の傍に居ようと思った。

合うのは小傘だった。

霊夢は布団に入ったまま、上半身を起こしていた。向き

薄暗い寝室で少女が二人。

夜も深けていく時刻。

「イジメかっこ悪い!」

ー。リアクションが良いからかしら?」

「ふっ、なんだかあの鴉とか紫の気持ちが分かるわねぇ

「やめてよ、髪の毛ぐしゃぐしゃになっちゃうよ」

霊夢は右手を伸ばし、小傘の髪をぐしぐしとかき回す。

辛辣な言葉だった。

ちょうだい」

「嘘よ、嘘。うざったいから一々泣きそうな顔しないで

「酷っ! それはあんまりでしょ……」

「この疫病神」

「そうかなぁ?」

「嗚呼、そういえばアンタ来てから忙しいわね」

ぽつり、と霊夢は呟いた。

しさは身を潜める。

ふとした瞬間だった。霊夢と小傘の談笑も途切れ、騒が

二人はひとしきり笑い合った。

った事。

寺の妖怪が三日三晩追いかけ、自分もそれに混ざって追

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事実、膝を立てて小傘は胸に右手を当てていた。頬が薄

今にも立ち上がって拍手しそうな勢いだった。

い、凄い可愛かったよ!」

「知らなかった。霊夢ってそんな顔出来るんだ。凄い凄

ただ、小傘は嬉しそうに言葉を続けた。

予想とは違った答えに、霊夢は声を詰まらせる。

「なっ?」

「うん、変だよ。霊夢」

また虐めるキッカケを求めて、霊夢は答えを待った。

「何よ? 私の顔がそんなに変なの?」

に変える。

然と見つめられ視線に気づいたのか、霊夢は獰猛な笑み

つい、小傘は霊夢の優しい笑みに魅入られてしまう。呆

め、やんわりと笑んでいた。

霊夢は心地よい陽射しを浴びているかのように、目を細

視線を上げると。

小 傘 は 髪 型 を 崩 さ れ な が ら 俯 い て い た 。な ん と は な し に 、

「じゃあ、何か面白い話をしてよ」

私には出来ないわ、そんな顔」

「多分ね、霊夢と同じぐらいの時に私って生まれたの。

小 傘 は 霊 夢 の 肩 に 両 手 を 乗 せ る 。そ の ま ま 、体 を 屈 め る 。

「ううん、そうじゃないの」

「……しつこいと殴るわよ」

「ねぇ、霊夢って凄いね」

代わりに一つだけ、決意を固めた。

がままで良いじゃないかと、全てを飲み込んだのだ。

だからこそ、小傘はあえてソレに名前を付けない。ある

名前を付けるとすれば、愛しいという感情だろう。

とても優しい。そして、何よりも温かい感情だった。

小 傘 の 胸 の 中 に 澄 ん だ 空 気 が 入 り 込 む 。ソ レ は 柔 ら か く 、

――嗚呼、良いなぁ。

その反応もまた、小傘にとっては新しい。

いて、小傘の視線から逃げようとした。

ちに近かったのだろう。霊夢は恥ずかしげにそっぽを向

霊夢は、まさか絶賛されるとは思ってなかった。不意打

っすらと紅潮し、妙な色気が生まれていた。

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静 か な 声 だ っ た 。で も 、霊 夢 の 耳 に は 悲 痛 な 響 き と し て 、

遅いけどね。私は気づきすぎちゃった」

「 駄 目 だ よ 。気 づ い た 後 じ ゃ な い と 意 味 が な い の 。も う 、

「昨日今日と散々聞いたでしょ?」

「別に何も。ただ霊夢の声が聞きたいだけよ」

「意味が分からないわね。何が言いたいの?」

ね。でもね、それって疲れるの。だからココに来るの」

「ふふふ、そうだねぇー。紫って面倒な事しかしないよ

も面倒な事しかしないから」

「来るけど、私的には来ないで欲しいわ。アイツ、いつ

って、よくココに来るでしょ?」

来ないの。霊夢が強いからだね。私が弱いからだね。紫

「優しい顔。温かい気持ちにさせてくれるの。私には出

小傘は小さく想いを溢していく。

えは――出ない。

心 の 奥 底 で 何 か を 駆 り 立 て て い る 。何 を ? 自 問 自 答 。答

霊夢は言い表せない何かに覆われた。

「そんな顔ってどんな顔よ」

くすくすと喉を鳴らしながら、小傘は腰を上げる。傍に

「そうだよねぇ、ごめんねぇ」

「そりゃそうでしょ。それが仕事だもの」

「大丈夫。霊夢ならきっと問題ないわね」

そして満面の笑みを浮かべ、口を開いた。

しなりを付けた体を支えるために、右手を畳につける。

しなだれるように小傘は体を離す。そして足を崩した。

せば、相応の行動で対処するわ」

誰であろうと、どんな理由があっても妖怪が人に害を成

「 退 治 す る わ 。私 は 幻 想 郷 の 秩 序 を 守 る 巫 女 で も あ る の 。

「人を殺す妖怪は、どうするつもり?」

「そりゃあ悪さをすれば懲らしめるわよ」

「霊夢って妖怪退治ってどう思う?」

そう思わずにはいられないぐらいに、静かな夜だった。

るのかもしれない。

月なのだろう。襖を開けば、感傷的な光景が広がってい

襖を見やると、黄色い光が障子紙に照らされている。満

届いていた。

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その背中に小傘は薄っすらとした笑みを浮かべた。

首を落として小傘に背を向ける。

さがあった。抗うのも面倒だと霊夢は居座りを直した。

にこやかな笑みを浮かべながらも、言葉には異様な強固

「良いじゃん。私がしたいのよ」

「別に良いわよ。そんなに肩凝ってないから」

のかなって思ったの。あ、肩揉んであげようか?」

「だって、霊夢って優しいからねぇ。肩張って疲れない

「さっきから嫌な質問しかしないわね」

あった傘を手にとった。

そして、夜空へと飛び立った。向かう先は、人里だ。

向かう。自分の靴に足を通して、玄関を開けた。

胸が暖かくなる景色を思い出しながら、小傘は玄関へと

り、話をしていたのだ。

昨日と今日。確かに小傘はそこに居た。霊夢とお茶を啜

ら見渡した。廊下を抜け、居間を見つめた。

た縁側を進んでいく。縁側の軋む音。家の中を歩きなが

寝室を出て行きながら小傘は呟く。襖を開き、庭に面し

は祟り神の時間だね」

「さぁて、さてさて。付喪神の時間は終わり。これから

すぐに尖った笑みを浮かべ、カラカラと声を上げた。

人里では騒然としていた。やはり、子供が攫われれば人

そして、閉じた傘を大きく振りかぶり。
「じゃあ、霊夢。おやすみ」
妖力の込めた傘が霊夢の後頭部に振り下ろされた。
岩を砕いたような鈍い音が響く。呻き声も上げず、衝撃
のままに霊夢は前方に倒れていった。その傍に小傘は膝
を下ろし、霊夢の口元に指を当てる。浅い呼気で人差し
指の腹が湿っていく。
ほっ、と安堵したように小傘は頬を和らげる。しかし、

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死者が呼んでいる気がした。男は手に力を込め、震えを

れこうべが笑うのなら、きっとそんな声音だろう。

冷たい怨みへの怖れ。カタカタと刀が笑い出した。しゃ

肉を裂く感触、噴き出す血の匂い、あの妖怪の恐ろしく

まだ覚えている。

来、彼はその刀を鞘から抜いた事はなかった。

自宅の居間で男は刀を手にした。人を殺した刀。それ以

男には分からなかった。

害者は覚えているものだ。だからこそ、なぜ今なのか?

今は解散しているとはいえ、十数年の時が経っても、被

だった。

男は昔、妖怪を退治する集団に居たことは、暗黙の事実

だよ」 と告げれば、誰も彼もが何も言えなくなる。

憤るけれど。男が一言だけ「とある妖怪と因縁があるん

里 の 者 た ち は「 何 を 言 っ て い る ん だ ? 」な ど と 、戸 惑 い 、

しかし、攫われた子の父親はソレを断った。

手を募り、探索をするのが常識なのだろう。

どこからか見られている気がして、居心地がザラリと砂

自然と足が笑い出す。逃げられる気がしなかった。今も

した。

それだけを言い残し、紫は背後に隙間を作って、姿を消

今晩里の入り口で待っていなさい』

『子供は預かっていますわ。無事に帰して欲しければ、

紫はくすくすと喉を鳴らして告げた。

ない。結局の所、妖怪だったのだろう。

彼女は八雲

たからだ。

どこかで見た事のある傘を差した少女が、男の前に現れ

今朝の事だった。男は里の大通りで叫びそうになった。

た時もあった。男の心を蝕むのは、傘を差した人影だ。

眠れない夜に怯え、人としての在り方を見失いかけてい

ばどれだけ救われただろう?

男は忘れない。忘れられなかった。アレが一夜の夢なら

「……殺される」

ても、背筋からの震えは止まらない。

紫と名乗った。時を重ねても容姿に変化は

抑える。刀は静かになった。しかし、腕の震えが収まっ

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我が子の代わりに刀を抱きしめた。

安堵したのか、男は膝を崩す。肩を震わせ、良かったと

「……そうか」

だからこそ、私は攫ったのよ」

「アレは祟り神。貴方が苦しむことなら何でもするわ。

呆然と眼を瞬かせる男に、紫は淫靡な微笑を向ける。

為だと男は思っていた。

男は立ち上がり、振り返る。てっきり悪意があっての行

守っている?

ますわ」

「そう。安心しなさい。貴方の娘はしっかりと守ってい

「っ、良いわけ、ないだろ」

「気分はどうかしら?」

ような裂け目から、紫は上半身を覗かせている。

屋、その景色がぱっくりと横に裂けていた。薄ら笑いの

男の背後で、とぼけた声が生まれた。襖で閉じられた部

「あら? 勘が鋭いのね」

を食んだように悪い。

変化は一瞬だった。

れない」

が恐れている祟り神のような存在になってしまうかもし

ら?怨むかも知れない。殺意を抱くかもしれない。貴方

「貴方が死んだとして、残された者はどう思うのかし

「でも」と紫は優しく言葉を続けた。

とさせる程に。

紫の言葉は刀のように鋭かった。男の胸を抉り、肩を落

私はソレを良しとしない。だから行きなさい」

は 死 ぬ わ 。逃 げ れ ば 、他 の 人 間 ま で 祟 ら れ る で し ょ う ね 。

「私に謝っても意味が無いでしょ?このままだと、貴方

「すまなかった」

もう起きてしまった事だからしかたないわ」

わ。ただ、この幻想郷では起きて欲しくなかったけど、

「人が人を殺すなんて、どこの世界でもありふれている

傘を直した人間を殺したんだぞ?」

「アンタは、賢者様は俺を恨んでいないのか?アンタの

「安心するのは早いわ」

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氷のように冷たい赤子へ手を伸ばす。捨てた親を求めて

と抱いた想いを掘り下げる。

思い出せと、眼を閉じて男は強く念じた。あの時の感触

た」

林の茂みで泣いてたんだ。まだ赤子で体が冷え切ってい

「俺がアイツを拾ったのは十年前だったよ。雨の中、竹

った。言葉に全身全霊を込めて、男は告げる。

かちゃり、と刀が一つ鳴いた。男の体に震えはもう無か

眼をもって。

嗚呼、と男は紫の視線に応える。硬い芯の通った、強い

それでも男は家を出て行った。

外は暗い。昼は人間の時間。夜は――妖怪の時間。

だった。

残された男は固い決意を胸に、深く呼吸を吐き出したの

と隙間が閉じていく。

言葉を紡ぎながら、体を隙間に落としていった。すぅ、

てもとても残酷な事ですわ」

「嗚呼、幻想郷は全てを受け入れる。それはそれは、と

を滑らせる。

男の覚悟を見届け、紫は緩やかな声音で歌うように言葉

た。

誰にも何かしらの想いはある。

いたのか、赤子は男の人差し指を握ったのだ。赤子とは
思 え な い 強 い 力 で 、” 生 き た い ” と 意 思 を 表 し た の だ 。
理由は分からないけれど。男は無性に泣き出したくなっ
た。愛しさまで感じ、赤子を抱き上げたのだった。
育ててみて、分かった。赤子は強かった。今の今まで泣
いた顔を見たことがないぐらいに。だからこそ、泣かせ
るような真似は出来ない。
そして、持った刀を強く強く握り締め、男は覚悟を決め

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そうに口を平坦に閉じた。

一瞬だけ紫の視線に呑まれるが、直ぐに霊夢はつまらな

め た 。薄 っ す ら し た 視 線 の 中 に 、強 い 光 が 含 ま れ て い る 。

掴みかかろうとする霊夢を無視して、紫はスゥと目を細

「小傘はね。付喪神じゃあ無かったのよ」

「はぁっ? 意味分かんない事言って誤魔化さないでよ」

「寝坊よ、霊夢。祟らぬ小傘は人里へ向かってるわ」

水 滴 を 払 っ た 。避 け る よ う に 紫 は 口 元 を 広 げ た 扇 で 隠 す 。

怒 り 叫 び 、霊 夢 が 跳 ね 起 き る 。野 犬 の よ う に 頭 を 振 っ て 、

「なにすんのよっ!」

から数秒。

始める。バシャバシャと後頭部で弾ける飛沫が生まれて

霊夢の頭上に隙間が開き、大量の水が滝のようにこぼれ

が悪いのかしら? と、紫は指を鳴らす。

布団に対し、体の位置は斜めになって伏せていた。寝相

団の上で霊夢は倒れていた。

だからこそ、紫は霊夢の元にも訪れた。薄暗い寝室。布

は確かに教えてしまったのだ、祟らぬ小傘、と。

何か思い出したように霊夢は声を上げた。そうだ。自分

「昨日まで……、あっ」

傘。だから、小傘は昨日までは付喪神だったわ」

け 、一 文 字 だ け 名 前 を 隠 し た の 。祟 ら ぬ 小 傘 、多 々 良

「それは私が隠したから。祟り神が祟らぬように名をつ

「でも、小傘も自分の事を付喪神だって言ってたわよ」

元気で騒がしい付喪神にしか霊夢には思えなかった。

誰かを恨んでる様子も記憶にはない。落ち着きがなく、

った。

しかし、霊夢から見て、小傘が祟り神とは信じられなか

り神よ」

を 忘 れ て た で し ょ ? だ か ら 、あ れ は 正 確 に 言 え ば 元 ・ 祟

「博麗神社に封印されてた祟り神のことね。アレは恨み

「祟り神? 魅魔みたいなやつ?」

が込められている。それはね、小傘が祟り神だからよ」

前は祟らぬ小傘。読んだとおり、祟らないようにと意味

「あの子の名前を私がつけたと言ったでしょ?小傘の名

「どういう事よ?」

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「隠された名を思い出し、自分が何故、祟り神なのかも

った……」

「私は、ソレを夢で見て、だから私は小傘に訊いてしま

返事もせず、霊夢は隙間の中へ進んでいったのだった。

「じゃあ、お行きなさい」

準備が出来たのだろう。霊夢は真っ直ぐ紫を見つめた。

思い出してしまった。夢で見たといったわね?名前には
意味がある。それは貴女も同じよ」
「霊夢、霊の夢?」
「あの子は祟り神になる前は亡霊だった。小傘が無意識
で望んだのか、それとも運命だったのか。まぁ、今それ
を詮索しても仕方ないわね」
用意をしなさい、と紫はくすくすと喉を鳴らす。
「私が小傘の元まで送ってあげるわ」
「送ってあげる? 何処へよ」
肩を竦めて紫は隣に隙間を広げた。
「祟り神は恨みの妖怪。小傘は何故、祟り神になったの
か? 何故、人里へ行ったのか? 考えてみなさい」
瞬 間 、弾 か れ た よ う に 霊 夢 は 動 き 出 し た 。寝 巻 き を 剥 ぎ 、
部屋隅の箪笥から取り出した巫女服に袖を通す。
元々巫女服自体に最低限の装備は仕込んであった。

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