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オトせ!弁当屋の娘 (仮題)

■ エピローグ
みなさんはよく街中の、『弁当屋の娘』を見て何を感じるだろうか 。
白い頭巾を被ってせっせとご飯をうつわへと詰め込むその姿、ちょっと油で汚れている白
「あぁっスミマセンっ!」と眉 を 8 時 20 分にし
いエプロン、何かミスをしてしまったとき、
て本当に申し訳なさそうにお客に誤るあの表情…。
そんな娘に我々男性はみな、もう禿しく萌えてしまうもの。
あの服装と弁当を詰め込む姿は男心をくすぐるものなのだろうか…。

ここにもそんな弁当屋の娘に熱い想いを抱く一人の男がいる。
彼はプロのミュージシャンを目指すバンドマン。ベーシストのタケシ(フリーター 21 歳)
ある日、とうとう我慢ができなくった彼は、問題の弁当屋でバイトしている一人の女のコと
是非友達になりたいと行動を起こした。
この日記は、彼の血と汗と涙の結晶である…。

9月26日
今日、東京に出てきて初めて、『ときめき』というものを感じた 。
場所は近所の弁当屋。
そこに一人のカワイイ女のコがいたんだ。
そのコはおさげがとっても似合う同じ歳ぐらいの女のコだった。
たしか昨日まではいなかったから今日からのアルバイトだろう。
何だか注文を間違えたみたいで怒るお客さんに謝っていた。
さんざんその客に怒られたあと、俺が頼んだのり弁のごはんを半ベソかきながら詰めてい
る様子がとてもいとおしかった。
お金を払うとき、俺はドキドキして彼女の顔をよく見れなかった。
アパートに帰ってから俺はハッとした。
彼女の名札を確認しなかったぞ!
まあいい。次に行くときにちゃんと確認しよう。

9月29日
夕方、バンドの練習に行く前に急いであの弁当屋に寄ってみた。
こないだ行ったのは5時過ぎだったから、きっと閉店までいると思ったんだ。
…ところが彼女はいなかった。
そういえば昨日、お客に怒鳴られていたっけ。
果たして休みなのか辞めたのか気が気じゃなくて、バンドの練習に身が入らなかった。
どうかただの休みであってくれ~!

9月30日
今朝、バイトに行く前、何気に弁当屋の前を通った。
もう彼女のことが心配で心配で。
辞めていたらどうしよう・・・ 。
でも、彼女はいた。
彼女は白い頭巾からおさげの髪をのぞかせて、カップみそ汁を並べていた。
よかった、辞めたんじゃなかったんだ!
しかし、こんな早い時間からいるということは、あの弁当屋で一日中働いているのだろうか。
今日はバイトが夜8時すぎまでだったので帰りによることはできなかった。
ちょっとブルーな気分。

10月1日
今日こそ彼女の名札を見てやるという意気込みでスタジオに行く前に弁当屋へよってみた。
運良くお客はひとりもいなかった。
でも彼女の他にもうひとり、太った中年のババアが一緒に働いていた。
注文しようとしたらそのデブのババアがよってきた。
彼女は奥で揚げ物を作らされていた。
のり弁を注文すると「他には?」って聞いてきやがった。
大きなお世話だ、俺にとってはのり弁で十分贅沢なんだよ!
結局、そのババアにのり弁を注文してスタジオで食った。
何かとても気が抜けてしまってドラムと息が合わなかった。
おかげでメンバーから、最近気合が入ってないと怒られた。

10月3日
やった!今日ついに彼女の名前を知ることができた。
あのデブババアが彼女のことを『ゆかりちゃん』と呼んでいるのが聞こえたんだ。
そうかあのコ、ゆかりちゃんっていうのか。
かわいい名前だ。
あのむかつくデブババア、時にはいい仕事もするもんだな。

10月5日
今日も相変わらず、ゆかりちゃんは可愛かった。
それにしても何て澄んだ黒目をしているのだろう。
お客の注文を繰り返すたどたどしい声も気持ちなしかアニメ声のような・・・。
そうそう、なんと今日は彼女の手に触れることができたのだ。
おつりを渡すキレイなゆかりちゃんの指の感触が今でもこの手に残っている。超ラッキー!
よし、これからは毎回必ずおつりを貰うようにお金を払おう!

10月8日
今日ゆかりちゃんの休みが判明した。
毎日、バイトに行く前にチェックしていて判明したのだ。
どうやらゆかりちゃんは今日、水曜日が休みらしい。
それ以外は土日も真面目に働いているみたいだ。
たしか時給は 780 円って書いてあったな。朝から晩まで安い時給でたいしたもんだ。
そんな彼女にますます惹かれていってしまう今日この頃である。

10月12日
今日はバイトで夜8時まで残業だった。
だから弁当屋には寄れなかった。
ところでゆかりちゃんは俺のことを知っているのだろうか?
逆立てた金髪でベースを背負って、毎日のようにのり弁ばかりを買いに来る俺を知らない
はずはないと思うのだが…。
そうだ、明日あることを実行してみよう!

10月13日
今日の俺は弁当屋に行くまで、もうドキドキしまくりだった。
だって今日は、初めてゆかりちゃんに、『のり弁ください』以外の言葉を掛けるからだ !
何て言うかはもう心に決めていた。もうこれしかないだろう。
この一言ですべてが決まるといっても過言ではなかった。
高鳴る心臓。無意識に足がガクガク震えていた。
そして俺はついに意を決してゆかりちゃんにこう言った。
『いつものくださいっ!』
ゆかりちゃんは、大きな目をさらに大きくしながら体を一瞬膠着させたが、すぐにニコッと
微笑んでこう言った。
「たしか…のり弁でしたよね?」
ぃやったぁ~っ!!
俺はその場で小躍りしたくなる気持ちを抑えるのに必死だった。
とりあえずゆかりちゃんは、こんな薄汚いバンドマンの俺を知っていてくれたのだ!!
またその「のり弁」がうまかったこと!
今日、バンドの練習でひとりだけテンションが高すぎだとメンバーから怒られてしまった。
でも今夜はぐっすり眠れそうだ

10月15日
今日のスタジオで、次のライブに向けて新曲を増やそうということになった。
バンドで話し合った結果、一人一曲詩を書くことになった。
俺は迷わずある人に捧げる曲を書こうと思った。
そう、弁当屋で植物油にまみれながら働くゆかりちゃんだ。
タイトルはもう決まっている。
『ザ・ラード・ガール』
予定ではブルーハーツみたいな曲にする予定だ。
しかし、メンバーに猛反対されそうなタイトルだなぁ。
でも俺は断固として押し通すぞ!
さてと、かっこいい詩を考えるとするか

10月17日
今日は本当に腹が立った!!
弁当屋でゆかりちゃんが軽そうな男にからかわれていた。
でも何だかゆかりちゃんもまんざらでもない様子だった。
だから俺はいつものデブババアにのり弁を注文するハメになってしまった。
スタジオでは案の定、俺の作った新曲をメンバーがコテンパンにけなしやがった。
今、ウチらに必要なのは聞かせる曲だっていうことをあいつらは全然わかっていない!
ムカつくからもう寝る