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「コンテンツ」と「コンテキスト」

by MAO(野知潤一)

 作品はコンテンツそのものだ。一つの世界観で構成された小宇宙といえるだ
ろう。この「マチともの語り」の目的は、ネットから文芸作品(=コンテンツ)を
生み出すことにある。そう覚悟を決めてスタートしてから一年半が過ぎた。
 このサイトから多くの作品が生まれ、電子本、オンデマンド本となって二十数
作品を送り出すこともできた。では大成功なのか? というとそうでもない。ま
だ送り出した作品がネットユーザの目に触れ、多くの読者を獲得するまでいっ
ていないのだ。正直にいえば、期待していた数字は未だ遥か先の目標としてその
ままであり、少しもその距離は縮まらない。

 どうすればいいのか、これがこの半年ずっと考えていることなのだ。考えるだ
けでなく、あれこれとできることを試しているのだが、まだこうすればいい、と
いう解決の糸口を見つけていない。ぼくらの追っている夢は、けっして見果てぬ
夢ではないはずなのだが……。
 この国の出版をとりまく環境や、IT革命による通信技術の進歩で出版は確
実に紙の時代から、紙もその選択の一部にしかなくなるデジタルパブリッシン
グの時代へと向かっているのは事実なのだ。電子出版を支える技術や端末機器
も数年前と比べても格段の進歩で、多少の面倒くささを乗り越えれば、パソコン
やケータイ端末などで作品を読むことが可能になっている。

 作品に読者を獲得するための力がないわけではない。手前味噌かもしれない
が電子本となった作品たちは書籍として出版されている本と比べてもなんら遜
色のない水準にある。書籍というものは、その内容が優れた作品であることが多
く売れることの条件の一つだとしても、内容以上に必要なものは読者が今なに
を求めているかというマーケティング的な要素であったり、そこにかける宣伝
の効果だったりする。ぼく自身はそうしたマーケティングで量産されるトレン
ド本には興味はないのだが、実際にビジネスとしての出版を考えればそれを無
視することはできない。
 しかし、店頭に数ヶ月しか並ばない書籍とちがって電子本は在庫も返品もな
いのだから、時間をかけてもその内容のよさを伝えて、読者との邂逅を待つこと
ができる。待つことはできても、いつまでもただ待っているわけにはいかないの
で、その出会いのためにはなにが必要かをもっと考えなければいけないのだろ
う。
 と前置きが長くなったのだが、ネットの面白さという視点から考えてみる。
 この「ネット漂流記」のベースの新聞コラム「ネット航海術」を一年間やってみ
て感じたことは、キーワードをいくつも重ねながら一つのテーマを追ったり、ま
たそこから新しいテーマに出会ったりすることの面白さだった。見つける一つ
一つの記事そのものよりも、自分が探し出していくその道筋とそれによってつ
ながれ、姿を見せてくる一連の文脈=コンテキストが刺激的だった。
 そうしたコンテキストがなければ誰も来ない、見つけることができないよう
な場所に実に興味深い、記述やデータが埋まっている。それらを見つけ出すこと
に知的な興奮を感じたのだ。
 一般的にぼくたちは整理され、編集されたものをニュースや作品として読ん
でいる。そのためのビークルとしては紙というのはとても優秀な媒体である。し
かし、その紙の上にまとめられた背後にあるだろう膨大なデータは巻末の参考
資料でしか知ることは出来ない。ほんとうの面白さはそちらにあるのじゃない
か、作者こそがその楽しみを独占しているのじゃないかと勘ぐりたくなる。

 コンテンツよりもコンテキストの方がネットでは面白い、というのを発見し
たのがこの連載コラムでの経験だった。リンクされ、コピーされ、増殖し、変容し
ながらネットの大海を漂いつづけるコンテキスト。その姿は遺伝子に似ている
のかもしれない。文化的遺伝子をミームと呼ぶが、ネットはミームの進化を加速
する培養液だ。

 さて最初のネットで生まれたコンテンツというテーマへ戻るとしよう。
 一つ一つのコンテンツがどれほど素晴らしくとも、ネットの大海ではそれは
プランクトンのようなものでしかない。コンテンツがネットでの情報価値をも
つには、コンテキストによって他のコンテンツと関連付けながら情報連鎖の一
部へと組み込まれていかないといけないのだろう。
 書籍であればレビューや書評、クチコミなどがそれらに相当するのだが、まだ
インディーズ系電子出版ではそうした仕組みが上手く機能していないようだ。
まだないからといって諦める必要はない。なければつくればいいのだし、ぼくら
が必要だと感じていることは同じような新しいパブリッシングの挑戦をしてい
る人たちにとっても同じことだろう。
 今年は自分たちのコンテンツを生み出すだけじゃなく、電子出版というコン
テキストを共有する仲間たちを探しだし、共同して何かをやってみたい。ぼくら
がやっているのは小さな先駆的な試みかも知れないが、孤立しているわけでは
ない。どこかに未だ見ぬ仲間がいると信じることで何かが変わるような気がす
るのだ。
「ネット航海術」改め「ネット漂流記」を連載しながら、そうしたマチともの語り
と電子出版をめぐる話題も書いていこうと考えてる。