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1 社会福祉とは

1.1 「社会福祉とは?」に答えるパースペクティブ

1.1.1 歴史的観点

その起源は近代社会(モダン)の成立そのものにある。

前提は社会

社会の対極としての個人

近代になり個性をもつ個人の誕生

社会と個人の対立図式の誕生

個人(個性)の増長による社会の崩壊 * 1

1.1.2 論理的観点

個性が強化されることにより、個人(自分)が個人(自分)について言及する場面が多くなった。自己言及という のは自己矛盾を内包する。これは目新しいことではない。古くはギリシア時代から知られていた。有名なものとして は「嘘つきのクレタ人」というものがある * 2

自己言及そのものは実はそれほど問題ではない。自己言及は言い替えればメタ言語ともいえるが、メタ言語は日常的 に駆使されているし、これなくしては言語活動そのものが成り立たなくなってしまうからだ * 3

近代から現代にかけての問題はむしろ、自己言及が個人に向けられることが強調された(強調されすぎた)ことに依 る。個性と何かしらの関係をもつ学問が多く発生した事実からもそれは分かる * 4

個性の強調はしかし、あくまで個性を客観視できている範囲内でのみ有効である * 5 。現代では個性があまりに強調さ れすぎ、ある意味それが社会現象として逆表出するまでにいたっている * 6 。個性の増長の産物は結果的に、自らの揺 りかごとしての社会の崩壊であった、ともいえる。

以上のような現象に関する反発(あるいは自己調整機能)として登場したのが社会福祉である、という仮説も成り

立つ。

1.1.3 まとめ

社会福祉とは、近代社会が自ら内在する矛盾から創出された一つの制度、ということができる。その源泉には「強

い個人」があり、その結果生じてきた現象がある。家族やその他の集合帯では満たされない個人の生存や生活上の

ニーズが、社会問題として認識された、その結果として生じたものと言い替えてもよかろう。

* 1 個人(個性)の増長とは、個人が自分自身について考え、語り、より深く知ろうとする傾向のことを指す。このことを換言すれば、個人が 自己言及を始めたといってもよいだろう。社会という集合の中での要素という地位からは決して脱しきれない個人というものがそれをする ことはしかし半面、論理的にみると後述するように、必ず矛盾に陥る。

* 2 「クレタ人は嘘つきだ」とあるクレタ人がいったとしよう。このクレタ人は正直者か嘘つきか。

* 3 例えばメタ言語によって、言語について言語自身で説明することができる(「○○という語は~という意味です」というふうに)。結果、人 間はそれによって言語を学習することができる。相手と通じ合えない場合も「この時こういうつもりで~と言ったんだけど」と言って相互 理解を図り、人間関係を調節することができる。これらはすべてメタ言語の働きである。

* 4 代表的なものとしてはフロイトの『夢判断』(1900)『精神分析学入門』(1917) を始祖とする現代心理学。他にも人類自身の個性という分野 を確立したダーウィンの『種の起源』(1856) がある。数学の分野でも奇しくも自己言及がトピックスになったのはこの時代であるし、アイ ンシュタインの相対性理論にもこの影響が認められることは認知されている。フロイト、ユング 関連年表

* 5 すでにこのような言い回しそのものがメタ言語をメタメタ言語として用いていることが分かるだろう。事実この通り、メタ言語の危険性と いうのはそれが限りなく増長していく性質にある。個性が強化されるということはメタ化の歯止めが効かなくなるということでもある。日 常の会話ではこのようなことは起きない。個性の客観視というのは自己言及が会話の中で収まっている範囲内と言い替えても良い。

* 6 その例を見付けるのは容易である。家庭崩壊などがそうであろうし、さらにはカルト教団による大量殺戮、小子化などもこの視点からみれ ば個性の増長が影響しているといえる。

1

この意味で、社会福祉はいつも、「個人のニーズ」の充足や個人の幸福となんらかの意味で関わっている。したがっ て、「個人のニーズの充足」を「社会福祉の目的」として理解するのは社会福祉においては至上命題であるとともに もっとも受けられやすい定義であろう。 最後に付言しておくとすれば、こういうことになる。逆説的に聞こえるかもしれないが「個人のニーズ」は実は個人 のものであって、個人のものではない、というのがそれである。個人のニーズは、いつも何らかの社会的刻印を押さ れている。例えば飢餓ではなく貧困は社会福祉の問題領域であるが、これは常に社会によって「一定に意味付けされ た貧困」としか定義できない * 7 、ということである。

もちろん、ここには注意が必要だ。それは社会というものは決して均質な個人の集合体ではない、という点である。 社会には様々な差異が含まれており * 8 、そうした差異を個人のニーズは反映した形である、ということは社会福祉に とって忘れてはならない重要な視座である。

* 7 例えば、ニート。現在これは従来の日本の社会における職業観からすれば「貧困」のイメージと結び付いているが、これがあと数十年続け ばどうであろうか。働きたい時に働く。そしてそれで生活ができる状況に社会が変容した時、これを貧困と結びつけて考える風潮は自然消 滅するのではないか、と私は思っている。新しいことがつねによいとは思わないが、これはある意味新しい職業観とはいえるのでないか。 よってニート問題は古い職業観と新しい職業観との間のせめぎあいの時代の一つの現象であると考えられる。

* 8 男と女、大人と子供からはじまり、障害者と健常者、専従者と新参者といった差異を指す。

2

2 福祉の歴史

2.1 日本の福祉史

2.1.1 1945-55 占領期と社会福祉改革

戦後日本の法律の大半は、GHQ(General HeadQuarters) 主導の政策から生まれた。焦土と化した日本における社会福

祉の法律もそうである。

福祉三法

公的扶助 (食糧・住宅・物資不足の解消)「生活保護法」

児童養護 (戦争孤児) 「児童福祉法」

障害者救済 (旧軍人) 「身体障害者福祉法」

福祉三法が成立すると、その後の社会福祉政策をさらに押し進めるために、1949 年に社会福祉6目標が策定 * 9 が策定 された。この6目標を立法化したのが、1951 年の「社会福祉事業法(現:社会福祉法)」である。

この社会福祉事業法によって

社会福祉事務所の設置

有給専門 吏員 * 10 (社会福士主事)の配属

社会福祉協議会の設置

りいん

などが実現した。

2.1.2 1951-1955 戦後復興期

再軍備。日米安全保障条約・自衛隊に代表される。 1954 年に厚生年金法が公布。

2.1.3 1961-1970 高度成長期

■国民皆年金・国民皆保険 地方からの出稼ぎ増加   社会福祉ニーズの変化

疾病と貧困の悪循環から   国民健康保険法(医療保険制度)

高齢者の老後不安に対して  国民年金法

■福祉六法 時代の変化に応じた福祉三法への補足的な意味をもつ。

身体障害者福祉法)   精神薄弱者福祉法 * 11 (児童福祉法)   老人福祉法 (ベビーブーム)   母子福祉法 * 12

* 9

1. 厚生行政地区制度の確立

2. 市厚生行政の再組織

3. 厚生省の助言的措置及び実施事務

4. 公私責任分野の明確化

5. 社会福祉協議会の設置

6. 有給専門吏員の現任訓練

* 10 吏員(りいん)とは簡単にいえば、地方公共団体の部局の職員を指す言葉。地方自治法 (昭和 22 年法律第 67 ) 173 条に定められている。 * 11 現在は知的障害者福祉法と名称改正されている * 12 1981 年、母子及び寡婦福祉法と名称改正

3

2.1.4

1971-1990 現代型福祉の模索

高度成長期による大量消費社会の完成と、それを支えた労働者の低賃金、長時間労働。その結果としての低水準福祉

や急速な核家族化、地方切捨て型経済、環境破壊などの問題と取り組まなければならなくなった時代。

経済と福祉との相克が本格的に表面化する。

とりわけ特徴的な現象のみを挙げる。

1973

造語としての「福祉元年」 高度成長期にある政府が、社会保障関係予算を伸ばしたことでつくり出した造語。当初は従来の高度経済成長 路線から社会保障の充実などへ政策転換を図っていく最初の年と意図されていた。しかし、実際には福祉関係 予算が国鉄運賃や健康保険料の値上げによって賄われていたことで、評価は無きに等しかった。しかもこの年 の「石油ショック」が引き金となり、インフレが急速に進み、大量の失業者が発生した。こうしてたんなる政 治の人気とり政策として利用された福祉は、理念的な後退を余儀なくされる。旧来の生活保護的な意味での福 祉への逆戻りをせざるを得ず、したがった名目的な意味での福祉予算は大幅にカットされた * 13 。福祉元年と呼 ばれる年の具体的な政策は、

老人医療費の無料化

医療保険の給付率の改善

厚生年金での5万円年金の実現

年金の物価スライド制の導入 などであったが、一部では「社会的入院」や「バラまき福祉」に対する見直しが議論され、健康増進や生きが いの発見など、国民の福祉ニーズも多様化したこともあり、国に依存する形で拡充が図られてきた社会保障制 度が、在宅福祉優先・市町村主導・民活導入など大幅な政策の転換を迫られることとなった。

1979

新経済社会 7 ヶ年計画に登場する「日本型福祉」 1976 年、全国社会福祉協議会が「低成長下における社会福祉の在り方」という提言をした。この中には、今日 の社会福祉を特徴づけているキーワードがすでに登場している。

1. 施設収容主義の見直し。すなわちコミュニティケアへの移行

2. 福祉要員確保とボランティア

3. 福祉の効果的運営

4. 民間福祉の確保と社会福祉目的税

それぞれ現代の

1. コミュニティケア(地域福祉)

2. ホームヘルパー

3. 介護保険 (2000)、障害者自立支援法 (2006)

4. 消費税

など(場合によっては重複的・総合的)に反映されているのではないだろうか。

これに連動する形で発表されたのが、政府の「新経済社会 7 ヶ年計画」に示された「日本型福祉」というキーワード である。 特徴としては

個人の自助努力

家族・近隣相互扶助の連体

などである。 前者からはイギリスのサッチャー政策に見られる強権政治を、また後者からは日本の伝統的なコミュニティがすでに 崩壊したことを匂わせる。 しかもこの提言はすなわち、福祉財源の削減を意図したものであり、実際これを機に、1982 年の「第三次行政改革に 関する答申」では明確に、福祉は

* 13 こうした経済状況によってその都度振り回される背景には、「福祉充実は経済成長によってのみ可能である」という理念がある。このこと を「パイ理論」と呼ぶ

4

有料化

民間活力の導入

徹底した行政簡素化

「小さな政府」に舵取りを変える(公的福祉放棄)

へ転換していくことが盛りこまれた。

こうした現在にもつながる福祉政策の基本路線を確立した上で、さらに日本の福祉は「国際化」と「高齢化」を利用

し、基本路線を具体化していった。

■国際化 ICD * 14 の補足として 1980 年、WHO(世界保健機構) にて、「ICIDH * 15 () * 16 。 これに連動する形で翌年、1981 年、国連にて国際障害者年(「完全参加と平等」)が宣言される。 1983 年、日本ソーシャルワーカー協会を設立。民間活力の本格的な導入の足固めをした。 ちなみにこの折、「QOL」や「ADL」等、外来の福祉用語が広く知られるようになった。

■制度改革 国際化と連動する形で、1985 年の社会福祉・社会保障関係の国庫補助率引き下げに伴い

福祉施設の入所措置事務等の団体委任事務化

社会福祉法人の設立認可権限委譲 「社会福祉士及び介護福祉士法」公布 (1985) * 17

などを次々に成立していった。

■高齢化 すでに明らかとなっていた日本の高齢化に対しては、1989

市町村の役割重視

在宅福祉の充実

民間福祉サービスの健全育成

福祉と保健・医療の連携強化・総合化

福祉の担い手の養成と確保

サービスの総合化・効率化を推進するための福祉情報提供体制の整備

などが政府によって提言され * 18 、消費税の導入に伴い「高齢者保健福祉推進十ヶ年戦略(ゴールドプラン)」を策定 した。 また、これを円滑に推進するための基盤整理として「福祉関係八法改正を改正した。 福祉関係八法とは、すでに経済的に成熟したことも反映して生活保護法を除き、また高齢化を見通して、保健・医療 の方面も鑑みた形で

児童福祉法

身体障害者福祉法

精神薄弱者福祉法

老人福祉法

母子及び寡婦福祉法

社会福祉事業法

老人保健法

社会福祉・医療事業団法

の八法とされる。

* 14 International Statistical Classification の略。1898 年、オスロでの「国際統計会議」にて発足した国際疾病分類。 * 15 “International Classification of Impairments, Disabilities,and Handicaps” の略。日本語では「機能障害」「能力障害」「社会的不利」とされる。 * 16 2001 年、WHO 54 回総会において、ICF(International Classification of Functioning, Disability and Health) が採択された。

* 17 ちなみに現在も「業務独占」ではなく、「名称独占」である * 18 政府の「今後の社会福祉の在り方について」意見具申

5

改正の内容であるが、21 世紀の本格的な高齢社会の到来に対応し、住民に最も身近な市町村で、在宅福祉サービスと 施設サービスがきめ細かく一元的かつ計画的に提供される体制づくりを眼目とした。

在宅福祉サービスの位置づけの明確化

在宅福祉サービスの支援体制の強化

在宅福祉サービスと施設福祉サービスの市町村への一元化

市町村及び都道府県への老人保健福祉計画の策定

障害者関係施設の範囲拡大

などが挙げられていた。

2.1.5 1990-2000 現在型福祉の成立

現在型福祉にとって、象徴的な法案の一つとしてあげられるのは 1995 年の「地方分権推進法」であろう。 この法案は先の福祉八法改正によって決定的となった、福祉に関する権限の市町村への委譲がすでに社会一般にとっ ての既定路線だということを内外に広く知らしめることとなった。 すでに 80 年代に障害者・高齢者に関する福祉指針は決まった。 90 年からの 10 余年はこの路線に、新たに少子化問題を加えて、確固たる予算確保のため、確固たる制度整備のため に費されたといえる。

■障害者プラン(ノーマライゼーション7ヶ年計画 障害者施策については、1993 年(平成 5 年)「障害者対策に関 する新長期計画」の策定、障害者基本法の制定、1995 年(平成 7 年)には、19 省庁からなる障害者対策推進本部が 「障害者プラン」(ノーマライゼーション7か年戦略)を策定した。 以下の7つの視点から施策の重点的な推進を図るとしている。

地域で共に生活するため

社会的自立を促進するため

バリアフリーを促進するため

生活の質(QOL)の向上を目指して

安全な暮らしを確保するために

心のバリアを取り除くため

■新ゴールドプランと介護保険 高齢者施策は、1994 年(平成 6 年)厚生大臣の私的懇談会である高齢者社会福祉ビ ジョン懇談会が、少子・高齢社会に向けた「21 世紀福祉ビジョン」 * 19 の報告を受けて、同年、大蔵・厚生・自治の 3 大臣合意として「高齢者保健福祉推進十か年戦略の見直しについて」(新ゴールドプラン) 策定という形で進められた。 新ゴールドプランでは、 目標水準を引き上げるとともに、

利用者本意、自立支援

普遍主義

総合的サービスの提供

地域主義

* 19 21 世紀福祉ビジョンとは,21 世紀における社会保障の全体像と主要施策の進むべき方向を検討するため,1993(平成 5)年 10 月に発足し た「高齢社会福祉ビジョン懇談会」の報告書であるが,今後の社会保障の方向としていくつかの注目すべき提言をしている。第一に,現行 ではおよそ 541 となっている年金,医療,福祉等の給付構造を,福祉等の水準を引き上げること等によりおよそ 532 程度へと転換 していくこと,第二には,高齢者介護については新ゴールドプランを策定し,21 世紀に向けた新たな介護システムを構築していくこと,第 三には,子育てを社会的に支援していくための総合的な計画(エンゼルプラン)を策定することである。 このうち,21 世紀に向けた介護システムについては,「国民誰もが,身近に,必要な介護サービスがスムーズに手に入れられるシステム」を 構築する必要があるとして,次のような基本的視点が重要であるとした。

医療・福祉などを通じ,高齢者の介護に必要なサービスを総合的に提供できるシステム

高齢者本人の意思に基づき,専門家の助言を得ながら,本人の自立のために最適なサービスが選べるような利用型のシステム

多様なサービス提供機関の健全な競争により,質の高いサービスが提供されるようなシステム

増大する高齢者の介護費用を国民全体の公平な負担により賄うシステム

施設・在宅を通じて費用負担の公平化が図られるようなシステム

(以上、厚生労働省(当時:厚生省)平成8年度厚生白書(ホームページ:http://wwwhakusyo.mhlw.go.jp/wpdocs/hpaz199601/b0041.html

より抜粋)

6

といった基本的な枠組みを定めている。

また、老人保健福祉審議会は、1995 年(平成7年)から今後の高齢者介護システムの全体像について検討を進めて いたが、「新たな高齢者介護システムの確立について」中間報告を取りまとめた。社会保険方式により費用を負担し、 ケアマネージメントによって総合的なサービスが提供される。2000 年(平成 12 年)4 月より介護保険として施行さ れている。

■児童福祉の新展開 現代の家庭規模は、少子化、核家族化、両親の共働きなどで、両親と子供の接触が、短時間化・ 希薄化してしまう傾向となっている。子どもの健全な発達と生活を守る為に、地域社会での充分な子育て支援を求め る傾向が生じてきた。

児童相談所の役割 1998 (平成 10 ) に、身近な地域で相談できる体制作りのため「児童家庭支援センター」設け られた。ただし、すでに児童相談所の受付件数は、全国で 34 万件(1999 年実績)を突破しており、育児に対 する不安や孤立化が浮き彫りとなっている。現在は、電話、ホームページなどの活用により子供自身からの相 談も受けやすいようにするなど、環境を変化させていっているが、現状は非効率的な運用に陥っているといわ ざるをえない。

エンゼルプランの策定 1994 年(平成 6 年)、「子育て支援社会」の構築を目的として、文部・厚生・労働・建設の4 大臣合意により「エンゼルプラン」が策定された。その基本方針は、安心して出産・育児が出来る環境を整え、 家庭における子育てを基本とする子育て社会を構築し、子供の利益を最大限尊重するというものである。 具体的な施策は5つから成り立っている。

子育てと仕事の両立支援 * 20

家庭における子育て支援 * 21

子育てのための住宅・生活環境の整備

ゆとりある教育の実現と健全育成

子育てコストの軽減 * 22

* 20 育児休業給付の実施 多様な保育サービスの充実 * 21 地域子育て支援センターの大幅拡充 母子保健医療体制の充実 * 22 育英奨学事業の充実

7

2.1.6 戦後日本の福祉史

1: 戦後日本の福祉史 -障害者福祉中心に-

世情

                             

備考

       

1988 年に「精神保健法」に名称改訂 (1946 )

         

1999 年に知的障害者福祉法に名称改定

1987

する法律」に名称改訂

 

1981 東京オリンピック開催 称改定

 

内容

   

身体障害者手帳の交付

診査・更生相談の実施

身体障害者更生援護施設

補装具の交付

身体障害者更生相談所の設置

   

事務所の設置)

援護実施機関を市町村に変更

身体障害者更生援護施設に「ろうあ者

更生施設」を加える

更生医療給付の制度化

 

障害者福祉年金の支給が開始

         

1.

2.

開始

制度名

(S.21) 日本国憲法制定

 

(S.24) 身体障害者福祉法

 

精神衛生法

(S.25) 生活保護法(新)

(S.26) 社会福祉事業法

身体障害者福祉法の改正 (1)

 

身体障害者福祉法の改正 (2)

(S.33) 身体障害者福祉法の改正 (3)

国民年金法

(S.35) 精神薄弱者福祉法

身体障害者雇用促進法

老人福祉法

母子福祉法

母子健康法

   

(S.22)

   

(S.25)

   

同年

 

1954(S.29)

   

(S.34)

 

同年

(S.38)

(S.39)

1965(S.40)

1946

1947

 

1949

1950

1950

1951

1958

1959

1960

1963

1964

9

1: 戦後日本の福祉史 -障害者福祉中心に-

世情

               

「国際障害者年」(国連)

 

備考

           

「精神薄弱者の権利宣言」(国連)

WHO にて ICIDH(障害分類)採択

 

前年の公布

内容

 

障害者の生活の安定を明記 身体障害者相談員制度 機能障害心臓または呼吸器の付加 身体障害者更正援護施設への通所を 認可 身体障害者更正援護施設入所資格の 15 歳以上への引き下げ

訓練費の支給

活用具の給付

関係省庁の障害者施策の基本法

身体障害者療護施設を身体障害者更生

援護施設に加える

腎臓機能障害の追加

人工透析療法を更生医療の給付対象に

加える

福祉手当の支給制度

 

障害者福祉・リハビリテーションの 向上

「完全参加と平等」理念への取り組み

 

1.

2.

3.

4.

5.

1.

2.

3.

 

制度名

理学療法士および作業療法士法

 

(S.42) 身体障害者福祉法の改正 (4)

(S.43) 身体障害者福祉法の改正 (5)

 

(予算措置)

(S.45) 心身障害者対策基本法

 

(S.47) 身体障害者福祉法の改正 (6)

 

(S.50) 特別児童扶養手当等の支給に関する法律

 

(S.56) 国際障害者年推進本部の設置

(S.58) 老人保健法施行

同年

     

(S.44)

       

1980

   
 

1967

1968

1969

1970

 

1972

1975

1981

1983

10

世情

消費税導入

備考

身体障害者更生援護施設の入所決定権等の町村

理念に「身体障害者の自立と社会経済活動への

1: 戦後日本の福祉史 -障害者福祉中心に-

身体障害者更生相談所に身体障害者福祉司

在宅福祉サービスの位置づけを明確化

1.「更生」概念の修正ー経済的自立から

対象者を身体障害者から「障害者」に拡大

障害者の生活基盤としての所得保証制度

聴覚障害者情報提供施設の創設

重度障害者の経済的軽減を目的として

身体障害者福祉ホームの創設

膀胱・直腸機能の障害を追加

内容

参加を促進」を追加

「更生年金法」改正

日常生活の安定へ

への移譲



3.

2.

 

 

(H.1)

(S.62) 身体障害者雇用促進法の改正

(S.61) 身体障害者福祉法の改正 (8)

(S.59) 身体障害者福祉法の改正 (7)

制度名

(H.2) 福祉関係八法改正

特別障害者手当

障害基礎年金

同年

同年

1990

1989

1984

1986

1987

11

1: 戦後日本の福祉史 -障害者福祉中心に-

世情

               

備考

 

政府障害者対策推進本部が策定

 

新ゴールドプラン、エンゼルプラン揃い

踏み

123 ,12 17

       

内容

完全参加と平等

対象障害を、身体・知的・精神 3 障害とした

12 9 日を「障害者の日」とする

障害者基本計画(旧障害者対策に関する長期計

画)…国・策定義務、地方公共団体・策定努力

義務

 

リハビリテーションとノーマライゼーション

地域で共に生活するために

社会的自立を促進するために

バリアフリー化を促進するために

生活の質(QOL=Quality Of Life)の向

上を目指して

安全な暮らしを確保するために

心のバリアを取り除くために

わが国にふさわしい国際協力・国際

交流

     

平成 15 年から平成 21 年までの 7 か年計画

 

1.

2.

3.

4.

5.

6.

7.

制度名

 

(H.5) (心身障害者対策基本法改正)

 

(H.5) 市町村障害者計画策定指針策定

 

障害者プラン

-ノーマライゼーション 7 ヶ年戦略-

(H.9) 介護保険法制定

(H.12) 介護保険法施行

社会福祉事業法等一括改正法制定・施行

新障害者プラン策定

(H.18) 障害者自立支援法 施行

 

1993

 

1997

 

同年

1997

2000

同年

同年

2006

12

世情

備考

1: 戦後日本の福祉史 -障害者福祉中心に-

増大する福祉サービス等の費用を皆で

公平なサービス利用のための「手続き

地域の限られた社会資源を活用できる

障害者の福祉サービスを「一元化」

障害者がもっと「働ける社会」に

負担し支え合う仕組みの強化

や基準の透明化、明確化」

内容

よう「規制緩和」

3.
4.

5.

1.
2.

制度名

障害者自立支援法

2006 (H.18)

2.2

海外の福祉史 (イギリス)

2.2.1 中世~近世

教会による自主的な「慈善活動」から次のような展開を見せた。

1. 慈善活動を行えば、神によって自分の罪が許される、という考え

2. 慈善活動の氾濫

3. 貧困者の増大

2.2.2 エリザベス救貧法 (1601)

当時の産業政策によって生じたのが、エリザベス救貧法である。

その産業政策とはイギリス農業革命(囲い込み運動:エンクロージャ)である。この政策によって地方の自作農が困窮

し、都市への人工流出が起きたという。

特徴

労働力に応じて貧民を三つのレベルに分けた(「有能貧民」「無能貧民」「児童」)

貧民を労働力として活用するための方策(「定住法」「懲治院実験法(ワークハウステスト法)」)

また、貧民監督官を置き、救貧税を徴収した。税は以下の費用に割り振られた。

労働不能貧民の救済費

強制労働させる懲治院の維持費

徒弟に出す子どもの養育費

• 徒弟に出す子どもの養育費

エリザベス救貧法の最大の特徴はなんといっても、国家単位での救貧行政という点にあった。 エリザベス以前の救貧行政は各地の裁量に委ねられていたが、この改正によって救貧行政は国 家の管轄となった。それゆえ、エリザベス救貧法は近代社会福祉制度の出発点とされる。 しかし、一方で法の本当の目的は救済ではなくあくまで治安維持にあった。したがって貧民の 待遇は抑圧的でありつづけ、懲治院は強制収容所 ・刑務所 と変わらない状態にあった。 よって、ときには健常者と病気を持つ者を分け隔てなく収容し、懲治院内で病気の感染もお こった。 こうした待遇から脱走や労働拒否を試みる貧民はあとを絶たず、一定の社会的安定をもたらす 効果はあったものの、根治には至らなかった。

2.2.3 新救貧法 (1834)

エリザベス救貧法は長命の法律であった。産業革命を経ることで時代の要請もあり、下記のような経緯をもって新救

貧法となっていった。

ギルバート法

教区のいくつかで実験的に導入した制度 * 23 が結果的に失敗に終わったことにより、懲治院(ワークハウス) * 24 には老人・病人のみを収容することように機能を縮小し、有能貧民(健常者)には自宅で仕事を与える(院外 救済)という方針転換がなされた。 スピーナムランド制度 (1795) ギルバート法の院外救済の制度を拡大解釈し、物価連動制を救貧制度に導入した初めての法律。パンの価格に

(1782)

* 23 17 世紀 末ブリストル で、複数の教区・都市が連合して懲治院を建設し、救貧行政を行う制度を実施した。ブリストルの実験制度自体は成 功し、治安の改善や貧民の独立がみられた。この制度はイングランド各地にひろがり、中央でも懲治院実験法を制定して全国的に広めよう とした。しかし懲治院の居住環境がさらに悪化して伝染病の温床となるなど弊害がおこった。 * 24 労役場、救貧院とも呼ばれる。17 世紀末に、イギリスの救貧法適用者の宿泊機関であるとともに、労働力を調達する機関として設立され た。救貧法により行政機構に取り込まれたワークハウスがさかんにつくられ、そこに貧民を収容し、労働力の組織化を通して近代的労働を 創出させた。

14

下限収入を連動させ、働いていても下限収入を下回る家庭 * 25 には救貧手当が支給された * 26

新救貧法

(1834)

ギルバート法、スピーナムランド制度とも、貧民にとって決定的な救済策とはならなかった。救貧法に甘える

貧民たちに対する反感はますます高まった。人口抑制・自助努力を柱にし、労働能力のある貧民への救済を極

力抑えることを眼目に置いた新救貧法が制定された。その骨子は

独立した救貧法委員会を設置し、救貧行政にあたる。

教区(15,000)ごとの救貧を改め、教区連合(600)ごとに救貧を行う。

院外救貧を全廃し、懲治院による救貧のみとする。

「最下級の労働者以下」の待遇とする。

というものであった。

しかし、逆にイギリス全土で貧民・労働者の暴動という事態を招き、資本家と労働者の対立を激化させる結果

に終わってしまった。

しかし、その後、最終的に新救貧法が歴史上からなくなったのは、1948 年の国民生活扶助法成立によってであった。

2.2.4 COS 運動 (Charity Organization Society)

1870 年頃から始まった初の市民活動といわれる。

実際には学者が行政に働きかける、という形で始まった。

平行棒理論

救貧法の援助方針では運営団体の相互協力が不十分で、サービスがあまりに無秩序であることが明らかになっ

たため、貧困者を「救済に値する貧困者」と「救済に値しない貧困者」に分け、前者を民間事業団体、後者を

救貧法によって救済していく分業を提案。現在の民間救済事業と公的救済事業の先駆けとなる。

繰り出し梯子理論

民間福祉は自主性と創意により実験性・先駆性をもち、公的福祉へと引き継ぐ先導的な役割を果たす、という

観点から

地区委員会中心の活動

画一的な調査活動を通じたケースワークの誕生

金銭以外の援助方法の模索

が生まれてきた。

2.2.5 ソーシャル・セツルメント運動 (Social Settlement)

そもそもは大学人が自主的にスラムに住み込み (Settlement; 植民)、そこでの生活環境を自ら改善していく活動から始

まった。S. デニスン、S. バーネットらが有名である。

「貧困は低賃金・過重労働・不安定就労の結果である。よってそもそも貧民という区別(差別)が存在しない。救済

活動の目的を、貧困者が自ら(貧困から)這い出るチャンスを作ることにシフトしていくべきだ」

1884 トレンビーホール(アメリカのハルハウスへ飛び火)

1. 教育

2. 公衆衛生・住宅環境・救済活動の改善

3. 社会調査と世論喚起

社会調査

1889-91 ロンドン調査(ブース)

1901 第一次ヨーク調査(ラウントリー)

* 25 これはフランス革命の影響から物価が高騰するいっぽう、収入は増えず困窮する農民・市民が続出したためだといわれている * 26 しかし、この博愛精神から生まれた制度は、安い賃金でも差額を救貧費で埋めてくれるため、企業家たちが労働者の給与を切り下げだした ため、救貧税が膨れ上がることになり、1810 年ごろには当初の 3 倍以上に急増したという。救貧税を負担していた農民は重税に耐えきれず 貧民化し、いっぽうで貧民は働いても働かなくても収入がかわらないという悪循環をもたらす結果に終わった。

15

1906

最低賃金制度

1908

児童法

1920

失業保険法 * 27

1940

ミーンズテスト(資産調査)

2.2.6

ベヴァリッジ報告

民間救済機関による援助の限界。国家的責任の登場。

「ゆりかごから墓場まで」 社会保険(社会保障制度)と公的扶助(社会福祉サービス)をもって次の「五巨人悪 (Five Giant Evils)」に対 抗する。 ここでいう五巨人悪とは、窮乏・怠惰・疾病・無知・不潔、を指す。 そして、具体的な方策としては次のものが挙げられる。

1. 貧困者の権利の保証(最低限の所得の保証)

2. 補償金の財源を税金とする

3. 衣料・教育サービスを制度とする * 28

4. 金銭より現物や人的サービスを優先 * 29

社会事業から社会福祉事業へ

窮乏はこれまで社会の責任という気運はあったが、その対策は局所的にしか行われてこなかった。よってサー

ビスが貧困者のニーズに振り回されていた。

また貧困者に対する権利の側面に対する配慮もかけていた。

このことから次の二点を明確に政策立案方針が提出された。

貧困者の差別なく、すべての国民にサービスを提供する

すべてのニーズを満たすことは、基本的に国民の権利である * 30

2.2.7 ノーマライゼーション

ベヴァリッジ報告(プラン)において、さしあたり、国民全体へ行き渡る福祉の原型をみた、といってよい。

しかし、障害者に対してはこのベヴァリッジ・プランでは十分とはいえなかった。

というのも、ベヴァリッジ・プランを基本とする福祉国家では、労働と社会保険料の拠出を市民と義務としていたか

らである。長期雇用されない者(障害者)にとり、このことは自分達がこのシステムからは十分な恩恵を受けられな

いことを意味している。

別言すれば、障害者は社会によって自らの社会的価値を低められた、といってみよいだろう。

ノーマライゼーションの理念は、こうした現代福祉国家のシステムそのものがもつ欠陥への素朴内儀申し立てから始

まった、といわれる。

現在ではこのノーマライゼーションの理念は、障害者はもちろん、老人、女性、少数民族、移民といった、いわゆる

「社会的に価値が低められている人の問題」へ対抗する社会福祉全般に適用される基本原理にまで高められようとし

ている。

* 27 その後、1929 年の世界恐慌を経て、 1934 には失業法に改定される。 * 28 税金から費用を捻出する、ということ * 29 ヘルパーや児童給食などが登場 * 30 これが後に基本的人権に理念的に盛り込まれていき、現在の基本的人権の基本要素にまで高められていく

16

3 社会福祉の供給主体と実施主体

3.1 公的福祉と民間福祉の役割分担

1970’ 中葉移行、先進諸国において経済分野のリーダー交替や財政危機、高齢化が進行した。これにより「福祉国家 の危機」が叫ばれ始めた。そこで提唱されたのが 社会福祉供給主体を「政府」か「市場」か、という線引きからの脱 却だった。新に考案された4つの分類には、「個人が自ら選択したサービスを提供者との契約により利用する」という 理念、「分類された各部門がばらばらにサービスを提供するのではなく、それぞれが適切に交じり合うことによってよ り効果的なサービス提供を目指す」という往年の理想を掲げていた。

19 世紀末から 20 世紀前半にかけての議論をまとめると次のようになる。

平行棒理論

公的福祉と民間福祉は交錯しない

繰り出し梯子理論

民間福祉は先駆的・実験的という意味で公的福祉の先導的な役割を果たす

福祉の社会的分業論(ティトマス)

社会福祉の供給主体は4つに大別される。公的か民間という線引きではない。

 

ティトマスの4類型

 

1 類型

非公的部門 (informal sector)

血縁や地縁が中心

 

2 類型

公的部門 (statutory sector)

国・自治体が中心

贈与関係

3 類型

民間非営利部門 (voluntary sector)

個人の自発的な活動

4 類型

民間営利部門 (private sector)

(市場原理に従う)企業

社会的市場

2 ティトマスの社会福祉供給主体4類型

表 2 ティトマスの社会福祉供給主体4類型 fig: 日本における福祉供給主体

fig:日本における福祉供給主体

この世界的な潮流と日本も無縁ではない。しかし、日本の場合には歴史上、福祉サービス供給システムは4類型では

なく、3類型に収まっている。

17

3類型それぞれには以下のような特徴がある。

3: 日本における福祉供給システム

システム(型)

長所

短所

 

1. ニーズの充足が広くあまねく行われる

1. サービスが非効率になりやすい

2. 所得に関わりなく、ニーズの強い方に

2. 財政負担(社会保険料)が高くなりす

公共型

優先的にサービス供給が行われる

ぎる

3. 外部機関へ配慮が払われる

3. サービスが画一的になり、弾力性を欠

4. 規模の利益を活かしやすい

きやすい

   

1. 営利追求のため、質の悪いサービスを 行う場合がある

1. 経営的効率性が高い(はず)

2. 利用者の需要に応じた多様なサービス

2. 疎地など、営利性を欠く地域ではサー ビスが供給されない場合がある

市場型

が行える

3. 外部性が無視される

3. サービス供給に弾力性がある

4. 社会保険料(税金)負担を小さくで

4. 貧困者等、支払い能力に欠く人々への サービス供給が行われにくい。クリー ム・スキミング * 31 が行われる場合も ある 

きる

 

1. 人間的に暖かみのあるサービスが行

1. 家族や近隣者等に恵まれない人々へは

える

サービスが供給されにくい

自発型

2. 社会的連帯感や互助の精神が育まれる

2. 看護や介護をする家族(特に女性)に

3. 社会保険料(税金)負担を低く抑える

過大な負担を追わせることになりや

ことができる

すい

4 日本の社会福祉供給主体3類型の特徴

実際は図で示した以上に、日本の(だけではなくほぼすべての国における特徴でもあるが)福祉供給システムは、

公共型のウェイトがとても大きい。その理由は日本の戦後福祉が措置によって運営されてきたからである。

3.2 日本の公的福祉

3.2.1 措置の誕生

日本の福祉は元来から公的福祉によって運営されてきたわけではない。そもそもは日本でもヨーロッパ同様、善意の

民間人からそれは発生した。しかし、寄付金等の慈善的な援助だけでは福祉施設運営は当然賄いきれないので、戦前

の日本では公的な補助金と奨励金にも補助を受けられる、民法上の公益法人(財団)という形で運営されてきた。

しかし敗戦後、ある意味、現在の状況にはむしろ適っているようにも思われるこのシステムは GHQ(General Headquarters) によって変更をよぎなくされる。というのも GHQ は公私を混同した財団の解体を念頭に置いて日本を 変革しようとしていて、社会福祉は、この意味ではその煽りを受けてしまったともいえるからである。

実際このことは憲法の次の条項にに明確に具現化されている。

18

公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支 配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならな い。(憲法 89 )

い。 ( 憲法 89 条 ) ✏ ✑ ✒

しかし、これが民間社会福祉施設の運営の足枷になってしまった。とりわけ戦後の混乱期においてこのことは決定 的で、戦前 (1937) には 6,400 ほどあった社会事業施設が、敗戦直後 (1947) には 4,800 まで減ったといわれている。

ここから生み出された苦肉の策が本節のテーマとなる「措置」である。

措置はそもそも、上記の憲法 89 条によって得ることができなくなった公的補助金に代わる苦肉の策として生み出 されたものといえる。それは福祉三法(「生活保護法」「児童福祉法」「身体障害者福祉法」)ですでに実現していて、 これらの法律ではそれぞれ

都道府県の公的責任に属する事業を民間社会福祉施設に委託し、委託に要する費用を実費弁償するものとして 委託先に支払う

こととして各々決められている。 これが措置制度の成り立ちと内実である。

つまり、補助金の捻出が困難になったことで、それに代わるものとして編みだされた、委託とその弁償、というの が措置という制度誕生の所以である * 32

3.2.2

措置の内容

福祉三法で急場しのぎという形で始まった措置制度だが、1951 年の社会福祉事業法(現:社会福祉法)では、都道 府県が公的責任に属する事業を民間社会福祉施設に委託し、委託に要する費用実費を弁償する、この措置制度を追認 した。

これが実質、その後半世紀にわたり日本の社会福祉を支配することになる措置制度の始まりといってもよいだろう。

さて、この措置制度だが、そのポイントのみを挙げれば

1. ニーズの判定(の権限)

2. サービスの確保(の権限)

3. サービスにかかる諸費用(の裁定)

これらすべては実際にサービスを行う社会福祉施設にあるのではなく、委託している側である行政庁側にあくまで ある、つまり上記 3 点全てが行政庁に一方的に握られている、という点につきる。

この制度の特異性は一見似ているように思われる医療保険制度と比較してみると際立つだろう。医療の世界では自

由開業医制度の下で開設された医療機関を患者は自由に選択し、医療保険制度の下にあったとしても自分の責任で

その費用を支払う。それに対し、民間社会福祉施設の利用では、都道府県知事等の措置権者が個々のケースにつき、

一々利用を必要とするかどうかを判定し、利用する民間社会福祉施設を指定し、必要な費用は措置権者の責任で丸抱

えすることになる。

これを図にすれば次のように示せるだろう。

* 32 ここにはある種の捻れがあることは明らかで、それは形式上の事業主が国・自治体(公設)で、実質上の事業者が民間社会福祉事業者(民 営)という形態も公然と認められることになる。

19

1955

給与

1960

期末・勤勉手当

1964

通勤手当・超過勤務手当・社会保険料事業主負担金

1965

夜間手当

1970

住居手当

1971

宿直手当

1973

非常勤保母・寮母・調理員雇用費

1975

管理職手当

5 措置費における給与改善状況

表 5 措置費における給与改善状況 fig: 措置 3.2.3 衰退していく措置制度

fig:措置

3.2.3 衰退していく措置制度 およそ人間の社会に存在する制度で永久に変わらない制度などというものがあるはずはない。時代が経つにつれて人 間の社会は変化していく。制度は、その時代その時代の申し子である。時代が変われば当然、制度は元のままではあ り得ず、変容していかざるを得ない。これは措置制度も同じである。

ただ、その前に敗戦から現在までのおよそ 560 年間の間に措置制度に起こった変容を著しく表している例を一つ だけ示しておく。 上記の表から分かることは、二点あろう。一つは措置制度の元、社会福祉施設の職員の待遇は当初、一般企業に比べ ると格段に低いものであったこと。もう一つは、それでもようやく 1970 年代には福祉施設職員にもそれなりに一般 的な社会的待遇が与えられるようにはなった、ということである。

では、この表が示す問題点とは何か。それは、皮肉な逆説だが、措置制度の元での社会福祉施設職員の厚生に関す

る待遇が向上した事実によって生じてしまった事態である。

20

措置制度の最大の特徴というのは、良い意味でも悪い意味でもその家長父的な権威をそれがもっているというとこ

ろにある。上記にも述べた通り、ニーズの判定やサービスの確保、それに伴う諸費用の裁定を行政が一括して行うと

いうことは、社会福祉施設の対象者が、貧しい人々であった時代にはサービスの質の確保等に効果的な威力をもつ。

しかし、高度成長期を通じて次第にその対象が少しずつ広がりを見せ、市民全体が貧窮にかかわらず、生活における

障害の度合に応じて社会福祉施設の対象になってくると、これまでの窮屈な制度に市民はだんだんとあきたらなく

なってくるのである。これは既に述べた医療の世界との比較を見ても明らかであろう。

しかし、こうした一般論はあくまで問題の背景である。こうした背景の下、本当の問題が生じる。

それは社会福祉施設の側から見れば、措置制度ほど気楽な制度はない、ということに尽きる。もちろん、敗戦直後 は国の財源も市民生活も貧しく、その内容は決して満足のいくものではなかっただろう。しかし、高度成長の結果、 およそ十年を経て、ある程度満足なものとなってきた。そうなると、大体ほかの御商売と比べれば、お客さんは役所 が見つけてきてくれるし、お客さんには国が必要な費用を付けてきてくれるので、食いっぱぐれの危険性は皆無の商 売、ということになる。このことによって、次第に緊張感が緩み、施設側サービスの向上が期待できなくなってきた のが次の 10 年以降に実際に生じてきた現象 * 33 である。

制度が永遠ではない、と冒頭に述べた。いま述べた状況はまさにこれに該当する。残念ながら、この状況に対する 対応は迅速には行われなった。偶然にも結局「失われた 10 年」を作る契機になったバブルの時代 (1980 年代) と重な るが、福祉の世界でもまったく同じ事が起こったわけである。ようやく 1997(平成 9)年の児童福祉法改正による保 育所等への入所の選択を皮切りに、2000(平成 12)年、介護保険法の制定による特別養護老人ホームヘの被保険者の 権利としての自由な選択による入所が行われるようになった。さらにこの傾向は加速し、2003(平成 15)年には、社 会福祉基礎構造改革による、障害者福祉施設に対する支援費支給制度の導入 * 34 が行われている。

* 33 現に寝たきり老人のお世話をする特別養護老人ホームでは、手間のかかる高齢者よりも、手間のかからない、介護保険制度でいえば要介護 度の低い高齢者を歓迎する傾向すら見受けられるようになった。 * 34 知的障害者、身体障害者の援護施設に限られており、精神障害者の援護施設は以前から措置制度とは関係なく、契約施設とされていた。

21

3.3 介護保険と障害者支援費制度

3.3.1 介護保険制度導入の背景

1900 年代の初め頃から、高齢化の進行に伴い高齢者を抱える家庭に対する介護支援の在り方について、国民的論議 が次第に大きくなってきた。わが国では、これまで家庭における高齢者の介護は、もっぱら女性(主婦)によって行 われてきたが、介護そのものの重度化、長期化に重ねて、女性労働力の社会的進出や介護をする側の女性そのものの 高齢化が、健全な家庭の存在そのものを脅かす重大な社会問題になってきた。

これまで介護は、もっぱら女性の問題だとのんびり構えていた男性側にも、この危機は次第に深刻に受け取られる

ようになってきた。介護を個々の家庭の問題から、社会全体の問題と考えを改めるについて、採るべき方法は二通り

あった。

1. 社会化のため福祉サービス(財源は一般租税による)による方法

2. 社会保険サービス(財源は社会保険料)による方法

かなり早い時期に政府は、このどちらを選択するのかについて世論に問うたところ、80 %という多くの国民が社会 保険の方法を採るべきだと答えた。

これまでも既存の福祉サービスを使って介護の社会化は進められてきたのであるが、押し寄せる介護の社会化の波

を前にして、財源を安定的に確保するためには介護保険の創設以外途はなかったし、また、これまでの福祉サービス

は国や地方自治体から恩恵的に与えられるということで、大多数の人々にとっては利用しにくいものだった。それな

らば、いくばくかの保険料を払っても権利として堂々と利用できるシステムの方がよいと考えたのであろう。

社会保険の内容が具体的に定まらないのに、早々と介護保険の創設は決まってしまった観もあるが、政府の準備は 着々と進み、関係審議会の答申を受けて介護保険法の政府案が作成され、国会の審議を経て 1998(平成 10)年には 介護保険法が成立し、2000(平成 12)年 4 月から施行の運びとなった。 * 35

3.3.2 介護保険の概要

介護保険法の主な内容は次の通りである。 * 36

 
  1. 高齢により要介護の状態になった者を介護する目的で介護保険法を創設する。

1. 高齢により要介護の状態になった者を介護する目的で介護保険法を創設する。

2. 介護保険の実施主体は市町村、特別区とする。

3. 加入者(被保険者)は、65 歳以上の第 1 号被保険者と 40 歳上 64 歳の第 2 号被保険者とする。

 

4. 保険給付は、居宅サービス給付と施設サービス給付の現物給付とする。いずれも要介護度に応じて

被保険者本人が内容を選択して利用する。

5.

保険料の半分は被保険者、残りの半分は公費で負担することとする。保険料負担のうち 17 %(平

15 年度~17 年度は 18 %)は第 1 号被保険者が年金給付で負担し、33 %(平成 15 年度~17 年度 は 32 %)は第 2 号被保険者から医療保険の保険料に上乗せして徽収することとする。

 

介護保険にはこのように幾つかの特徴があるが、実は上記に記されていない最大の特徴はそれが

措置からサービスへ

変わったことであろう。 このことを先の措置の図と比較したかたちで示すならば次のようになろう。

* 35 館山不二夫,『社会福祉施設の歩み』, 社会保険研究所,2005,p137-138。さらに詳しくは『厚生白書(平成 11 年版)』第一編第一部第一章第

四節二「社会保険と社会扶助」を参照。http://wwwhakusyo.mhlw.go.jp/wpdocs/hpaz199901/b0017.html

* 36 館山不二夫,『社会福祉施設の歩み』, 社会保険研究所,2005,p139-140

22

fig: 介護保険 さらに、簡略化すれば次のようになる。 * 3 7 fig: 措置から契約への変化

fig:介護保険

さらに、簡略化すれば次のようになる。 * 37

* 3 7 fig: 措置から契約への変化

fig:措置から契約への変化

実際に捕捉が必要なのは 4. ならびに 5. についてであろう。

4. の保険給付の実際であるが、介護保険当初とは少なからず変化があるが、2004 年現在ではほぼ次のようなサー ビスが提供されている。 * 38

* 37 日本高齢者介護協会編「第三者評価受診の勧め」2004 年度版より抜粋

* 38 鏡諭編,「介護予防給付の創設と課題について (http : //www.wel.ne. jp/ f eature/2005kaigo/colum k agami2.html)」より引用

23

fig: 介護保険による保険給付の実際 5.

fig:介護保険による保険給付の実際

5. に関しては正確な数値ではないが、おおよそ下図の通りのイメージだと考えればよいだろう。

fig: 介護保険における財政面での変化

fig:介護保険における財政面での変化

さらに、1.5. では触れなかったが、介護保険導入によって社会福祉施設職員への待遇も形式的に変わったことを付 け加えておく。

実際に報酬という側面において、介護福祉導入は次のような変化をもたらした。

介護保険では、介護報酬というシステムがとられる。介護報酬とは,介護保険制度を通じて介護サービスを提供す

る機関が、そのサービスに応じて受け取る報酬で、診療報酬と同様、審議会(社会保障制度審議会)の諮問を通じ厚

生労働大臣が決定する公共料金の1つである。診療報酬では、個々の処置、手術、検査のサービスに対して単価が設

定されている場合が多いが、介護報酬は、基本的に単位時間や日数当たりの単価にまるめられて決められる。ただし、

単純な時給・日給計算ではなく、あくまでサービスの原価に基づいて決定される。高齢者の介護、看護の費用の主要

な中身は人件費であるが、その評価の客観的指標を「時間」と「人員配置」としたことは、今後、診療報酬における

24

療養病棟の評価の指標においても、介護保険との整合性が図りたいという意図があると思われる。

3.3.3 障害者支援費制度成立の背景 障害者支援費制度は、戦後とりわけ 1970 年代以降の福祉施策の中から生まれたものである。まず、簡単に障害者 施策の歴史を振り返っておく。

概観

1973 年のオイルショックに象徴されるように、70’ 以降の日本は安定経済傾向、あるいは低経済成長期に入る。 経済のこうした傾向は、福祉施策においてそれは次のような傾向をもって顕現したと考えられる。

民活化 (市場型の発展系)

自立化 (自発型の発展系)

地域化あるいは市町村への権限移譲 (公共型の発展系)

在宅化

80’ 以降、障害者に対する国際的な潮流は、この傾向をさらに後押ししたと考えられる。80 年国際障害者年のス ローガン「完全参加と平等」は「地域が主導的な役割を果して、障害者の社会進出を推進していこう」という意味に とらえられ、ここに現在の障害者支援費制度に代表的に見られる傾向が誕生したとも考えられる。

25

25

総合?

社会福祉目的税

(=消費税)

     

福祉と保健・医療の 連携強化・総合化

   

在宅化

施設収容主義の

見直し

     

「在宅福祉の充実」

に力点を置いた

福祉関係八法改正

居宅支援

地域化(市町村の重視)

コミュニティケア への移行

徹底した

行政簡素化

福祉施設の入所措

置事務等の団体委

任事務化

社会福祉法人の設

立認可権限委譲

市町村の役割重視

効率化を推進する

ための福祉情報提

供体制の整備

地域生活支援事業

自立化

福祉要員確保

とボランティア

   

社会福祉士

及び介護福祉士法

 

福祉の担い手の

養成と確保

訓練等給付

 

民活化

有料化

民間活力の導入

   

民間福祉サービス の健全育成

 

介護給付

   

施策名

新経済社会 7 ヶ年計画

答申

 

社会保障関係の国庫補助

率引き下げ

 

年戦略

 

90 年代以降の傾向

施策年

1979

 

1982

 

1985

 

1989

 

26

90 年代に入ると、この傾向は加速度を増していく。1988(S.63) の「社会福祉士及び介護福祉士法」の施行を皮切り に、1990(H.2) の「社会福祉関係八法(正式には「老人福祉法等の一部を改正する法律」)」 * 39 において、身体障害者福 祉法は

法の目的規定を整備し、「身体障害者の自立と社会経済活動への参加を促進する」理念を追加

在宅福祉サービスの位置づけの明確化

身体障害者更生援護施設の入所決定検討の町村への譲渡

などが改正され、すでに自立化・在宅化・地域化が唱われた。

1993(H.5) には、障害者の自立と社会参加をいっそう推進するために、「心身障害者対策基本法の一部を改正する法 律」が施行され、心身障害者対策基本法は「障害者基本法」に名称改定された上で、

心身障害者対策委員会を「障害者施策推進協議会」に名称改定 「完全参加と平等」を明記

法律の対象となる障害を、身体・精神薄弱・精神とすること

基本理念として「障害者の自立と、社会・経済・文化・その他あらゆる分野の活動への参加機会をあたえる」旨 を追加

12 9 日を「障害者の日」として法に規定

政府は「障害基本計画」を策定し、地方公共団体はこれに準じた計画を策定しなければならないこと

雇用の促進、および公共的施設の利用や情報提供に関して、国と地方公共団体の責務の規定を整備

などを規定した。

1994 (H.6) には、「障害者保健福祉施策推進本部」が設置された。これは身体・知的・精神障害の各分野にわたる

施策の総合的な検討を目的として設置されたもので、

自立と社会参加の促進に向けた、地域における障害者の生活を支えるための施策の充実

ライフステージを通じた総合的な障害者施策の展開

障害の種別を越えた横断的・総合的なサービス提供体制の整備

などが主に検討された。

また、同年、初めて総理府が「障害者白書」を発表している。この白書は毎年はその後、毎年刊行されている。

1995 (H.7) には、「精神保健法の一部を改正する法律」が施行され、これがその後、「精神保健及び精神障害者福祉

に関する法律(精神保健福祉法)」に名称改定されている。これにより、精神障害者が 1993 年に始まる「障害者基本 法」の対象として明確に組み込まれることとなった。 同年にはもうひとつ、施策に関する大きな流れが作られた。

この年、内閣総理大臣官房内政審議室長から「市町村障害者計画策定指針」が発表され、市町村における障害者施策

の重点ポイントが

1. 情報提供、相談体制の整備

2. 広報啓発の促進

3. 地域内ボランティア活動の育成・支援

4. 保健・福祉サービスの充実

5. 障害児の育成・教育の充実

6. 市町村立の施設・設備等の環境整備

7. 地域内のまちづくりの推進

8. 国及び都道府県の行う障害者施策との連携・協力体制の推進

* 39 老人福祉法、身体障害者福祉法、精神薄弱者福祉法、児童福祉法、母子及び寡婦福祉法、社会福祉事業法、老人保健法、社会福祉・医療事業 団法

27

として示された。 さらに、7 月に「障害者保健福祉施策推進本部」が発表した報告書を元に「障害者プラン ~ノーマライゼーション 7 か年戦略」が策定された。そもそも障害者保健福祉施策推進本部は

(身近な)市町村でサービスが受けられること

障害種別による縦割りにならないサービス体系を確立すること

都道府県、複数市町村を含む広域的圏域、市町村それぞれの役割分担を明確にすること

などを指摘しており、これをもとに「障害者プラン」では

1. 地域で共に生活するために

2. 社会的自立を促進するために

3. バリアフリー化を促進するために

4. 生活の質 (QOL) の向上を目指して

5. 安全な暮らしを確保するために

6. 心のバリアを取り除くために

7. わが国にふさわしい国際協力・国際交流

を重点推進事項としていた。

これを受け、1996 (H.8) にはこれまで 3 3 課にまたがっていた障害者組織は一元化され、大臣官房に「障害者保 健福祉部」が設置された。

ちなみに、障害者プランは 2002 (H.14) 終期を迎えたが、引き続き

障害者の自立と社会参加

を推進するために、2005(H.15) から 10 年間に講ずべき基本的方向を定めた「障害者基本計画」が策定され、それに 基づく重点施策実施5か年計画「新障害者プラン」が定められた。

3.3.4 障害者支援費制度 2000 (H.12)、「社会福祉の増進のための社会福祉事業法等の一部を改正する等の法律」が成立した。

この法律の最大の目的は、サービス内容を措置制度から「支援費制度」への移行準備であった。そして実際、2003

(H.15)、障害者福祉サービスも措置制度から支援費制度に移行する。厚生労働省のホームページに掲載されている図

などを参照にしながら、

1. 基本的な仕組み

2. サービス対象

3. 制度におけるサービスの流れ

を見ていく。

仕組み

1. 支援費支給希望者は市町村の「相談支援」を受けた後、市町村に対し「支給申請」をする

2. 市町村が審査の上、支援費支給決定

3. 支援費受給資格者(支援費支給希望者)が、都道府県知事指定の業者または施設と契約を結ぶ

28

サービス対象   身体障害者福祉法 知的障害者福祉法 児童福祉法

サービス対象

 

身体障害者福祉法

知的障害者福祉法

児童福祉法 (障害児関係のみ)

   

・知的障害者更生施設

 

支援費制度へ移行するもの

・身体障害者更生施設

・知的障害者授産施設

・身体障害者更生施設

(政令で定める施設に限る。)

・身体障害者療護施設

・知的障害者通勤寮

・児童居宅介護等事業

・身体障害者授産施設

・心身障害者福祉協会が設置する福祉施設

・児童デイサービス事業

(政令で定める施設に限る。)

・知的障害者居宅介護等事業

・児童短期入所事業

・身体障害者居宅介護等事業

・知的障害者デイサービスセンター

・身体障害者デイサービス事業

・知的障害者デイサービス事業

・身体障害者短期入所事業

・知的障害者短期入所事業

 

・知的障害者地域生活援助事業

 

・身体障害者福祉ホーム

   

・身体障害者相談支援事業

・知的障害児施設

支援費制度へ移行しないもの

・身体障害者生活訓練等事業

・知的障害児通園施設

・手話通訳事業

・盲ろうあ児施設

・補装具製作施設

・知的障害者福祉ホーム

・肢体不自由児施設

・盲導犬訓練施設

・知的障害者相談支援事業

・重症心身障害児施設

・視聴覚障害者情報提供施設

・知的障害者の更生相談に応じる事業

・障害児相談支援事業

・身体障害者の更生相談に応じる事業

・日常生活用具給付事業

・児童の福祉の増進について

・日常生活用具給付事業

相談に応じる事業

・補装具給付事業

・日常生活用具給付事業

 

・更生医療・育成医療

7 支援費制度のサービス対象

29

制度におけるサービスの流れ

制度におけるサービスの流れ 3.3.5 障害者自立法 障害者自立法は、 2003
制度におけるサービスの流れ 3.3.5 障害者自立法 障害者自立法は、 2003
制度におけるサービスの流れ 3.3.5 障害者自立法 障害者自立法は、 2003

3.3.5 障害者自立法 障害者自立法は、2003 年にはじまった支援費制度を受けて、以下の問題意識の元に考案されたとされる。

従来の施策においては、障害種別ごとに法律があり、サービスが提供されていて、制度的に様々な不整合がある

同様のことが地域にも生じており、地域格差として現れ兼ねない危険がある

支援費制度以降により、利用者が増えた

政府は「地域」をキーワードに、この問題点を次のように転換していく。

1. 障害者ができるだけ身近なところでサービスを受けられる地域作り(障害保健福祉施策の総合化)

30

2.(就労も含め)障害者も地域に貢献できる仕組み作り(自立支援システム)

3. より公平で効率的な制度作り

このアイデアは、2006 年、「障害者自立支援法」として具現化された。

障害者自立支援法の基本的方向性と概要は以下の通りとなる。

1. 障害者のある人が普通に暮らせる地域作り a)従来のサービス拠点が遠さ * 40 を解消するため、既存の社会資源(NPO, 空き教室, 空き店舗等)を生かせる ようにする規制緩和 (b)従来のサービス種別(障害種別)を取り払い、共通の場(一箇所)でサービスを提供できるようにする規 制緩和

制緩和 * 4 0

* 40 高齢者と比較すると障害者の数が少なかったから、というのがよくいわれるが、実際はおそらく、障害者福祉の法が高齢者福祉より歴史が あり、また当時からの偏見のため交通の便が悪い土地に作られたとする方が自然な解釈であろう

31

2.

ニーズや適正に応じた自立支援

a)施設や事業体系の見直し。障害種別を越えた対応を可能にするとともに、具体的なサービス内容は個人に

合わせたものを作れるような体制作り。

b)従来あまり力をいれてこられなかった就労支援

3.
3. 市町村を中心とするサービス提供体制の確立 (国・都道府県による支援)
3. 市町村を中心とするサービス提供体制の確立 (国・都道府県による支援)

32

4. 効果的・効率的なサービス利用の推進 サービスの地域格差が生じたりしないように (a)相談支援体制を整備 (b)サービスの客観的提供ができるような尺度(障害程度区分)の作成

( b )サービスの客観的提供ができるような尺度(障害程度区分)の作成 33
( b )サービスの客観的提供ができるような尺度(障害程度区分)の作成 33

33

5. 費用の公平な負担と資源配分の確保 利用者負担を見直し、福祉サービスの利用料に応じた 1 割を上限とした定率負担とする。 詳細は下記図参照のこと。

1 割を上限とした定率負担とする。 詳細は下記図参照のこと。 34

34

35
35

35

36

36

3.4 【捕捉】かわりゆく社会福祉の主体

1997 年の社会福祉基礎構造改革を皮切りに様々な変化が起きたことはこれまで見てきた通りであるが、最後に 2000

年に名称改定され、その内容にも変更がなされた社会福祉法(旧:社会福祉事業法,1951’)を概観する。

介護保険法、障害者支援費制度にも共通することだが、ここであらためてこのような急激な制度変更を強いている

社会的背景を列挙しておく。

1. 急速に進んだ少子高齢化

2. 確実に浸透した核家族化

3. ノーマライゼーションの理念の普及

これらに派生した現象としては、高齢者の孤独死、家庭内暴力、児童虐待、ならびに間接的にはカルト集団による

無差別大量策略なども、こうした一連の社会的背景に起因する事件だとする見解もあるだろう。

こうした社会背景に対応すべく、1. に対しては介護保険、3. に対しては障害者支援費制度が設けられた、と考えて もよいだろう。しかし、2. に関しては本講義の初めに述べているように分野に関わらず、現代の社会福祉全般で決定 的な方策が提出されているわけではない。そこで、この問題に取り組むべき出された指針が「地域福祉」と呼ばれる ものである。「地域福祉」とは何か。社会福祉法の第 107 条にその理念は書かれている。

 
  市町村は、地方自治法第 2 条第 4

市町村は、地方自治法第 2 条第 4 項の基本構想に即し、地域福祉の推進に関する事項として次に掲げ る事項を一体的に定める計画(以下「市町村地域福祉計画」という。)を策定し、又は変更しようとす るときは、あらかじめ、住民、社会福祉を目的とする事業を経営する者その他社会福祉に関する活動 を行う者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるとともに、その内容を公表するものとする。

1. 地域における福祉サービスの適切な利用の推進に関する事項

 

2. 地域における社会福祉を目的とする事業の健全な発達に関する事項

3. 地域福祉に関する活動への住民の参加の促進に関する事項

 

 
 

都道府県は、市町村地域福祉計画の達成に資するために、各市町村を通ずる広域的な見地から、市町

村の地域福祉の支援に関する事項として次に掲げる事項を一体的に定める計画(以下「都道府県地域

福祉支援計画」という。)を策定し、又は変更しようとするときは、あらかじめ、公聴会の開催等住民

 

その他の者の意見を反映させるために必要な措置を講ずるとともに、その内容を公表するものとする。

 

1. 市町村の地域福祉の推進を支援するための基本的方針に関する事項

 

2. 社会福祉を目的とする事業に従事する者の確保又は資質の向上に関する事項

3. 福祉サービスの適切な利用の推進及び社会福祉を目的とする事業の健全な発達のための基盤整備に関する

事項

 

まず目を引くのが第 108 条の 1. であろう。従来の措置時代にはなかった視点が示されている。つまり都道府県は市 町村のバックアップに回るということは都道府県と市町村の行政上の立場がここにきて逆転しているのである。

また、第 107 条の 1.3. であるが、この項目はそれぞれ次の3つの視点に立脚している * 41 ように思われる。

住民主体

福祉は、行政が行うものとされてきた、これまでの考え方から、地域住民自ら実践するものという住民主導型

37

の考え方に変化させ、これまでの行政主導で実践してきた地域福祉とは異なり、「行政」と「住民」が対等の立

場で協力しながら新しい地域福祉を確立することが必要である。

新たな地域ネットワークの構築

より実効性の高い地域福祉の推進を図っていくためには、行政等が行う制度化された福祉サービスだけでなく、

家庭、地域住民、ボランティア、NPOなどが行う制度化されていない活動とも連携し、地域における新たな

ネットワークの構築をしていくことが必要である。

福祉文化の創造

福祉に対する地域住民の積極的な参画・学習を通じて、福祉への関心と理解を高めていくとともに、住民が

サービスの担い手として地域社会に参画していくことが必要である。こうした住民による福祉活動の積み重ね

が、地域における社会資源と連携することにより、地域の福祉文化を創造していくことが重要である。

とはいうものの、「地域福祉」には様々な概念が含まれており、一言で表現することは大変難しい。しかし、これが介

護保険や障害者支援費制度と同様、これまでの国や地方自治体が行ってきた「措置による福祉」に対して、「地域の助

け合いによる福祉」という意味合いがまず第一義としてあることは分かるはずである。

福祉施策の成り立ちを時系列的に見てみると、福祉サービスが地域とは無関係に隔離された方法、例えば特別養護 老人ホームへの入所等で提供される時期 (Care Out Of the Community) から、主に行政による在宅サービスが開始さ れ、不十分とはいえ住み慣れた地域での生活が可能となる時期 (Care In the Community) を経て、行政による制度的な 福祉(フォーマルケア)に加えて、NPOやボランティア団体等の市民組織による福祉(インフォーマルケア)が有 機的に結合して自立生活を支える時期 (Care By the Community) へと進んでいくように分類することができるだろう。 社会福祉法に言う「地域福祉」とは、このケア・バイ・ザ・コミュニティが意図されていますといってもよい。

fig: 地域福祉への未来予想図 38

fig:地域福祉への未来予想図

38

4 福祉的ニーズの理解に向けて

4.1 ノーマライゼーション、ケア、QOL

4.1.1 ノーマライゼーション ノーマライゼーションはスウェーデンの知的障害者施設(その父母)から自然発生的に生まれてきた概念である。

ノーマライゼーションとは、文字どおり「何か」をノーマルにしていくことを意味するが、福祉におけるその「何

か」とは

生活

のことを指す。福祉的援助に携わる人は、対象者(利用者)の「生活」を援助していくことになる。では、この「生

活」とは何だろうか。

一言で「生活とは何か」に答えるのは難しい。しかし、「生活」がどのようなものによって構成されているか、はど

うにか答えることができる。

生活とは「時間」「空間」「関係」によって構成されている

ということができる。

ということができる。 fig: 生活の構成要素

fig:生活の構成要素

ノーマライゼーションとはすなわち、この生活の各要素を健常者のそれに近づけていく作業だととらえれば良いだ

ろう。

ノーマライゼーションを唱えた人物の一人、スウェーデンのニルジェの定義によれば、ノーマライゼーションとは

1. 起床し、衣服を着、食事をし、就寝するといった一日の生活リズム

2. 週末を平日とは異なるものとして区別し、家庭生活・仕事・余暇を楽しむ一週間のリズム

3. 長期休暇も含む一年のリズム

4. 幼児期、青年期、成人期、老年期といった、ライフサイクルの各段階を通じての生活の向上

5. 自己決定

6. 結婚する権利を含む異性との関係など、さまざまな人間関係の発達

7. 公正な賃金を守るための十分な方法を含む経済的標準

8. 普通の市民が利用できる施設をモデルとして作られる諸施設(学校、作業所、入所施設など)を含む環境標準

以上の事項を十分満たしているときのこと * 42 をいう。

* 42 ちなみに、1.4. は生活の時間的要素、 5.7. は関係的要素、8. は空間的要素についての指針だと考えると理解しやすいだろう。

39

ノーマライゼーションの概念に触れるとき、感じるのは、あまりにそれが当り前すぎることであろう。しかし、ノー

マライゼーションで肝心な点はきっと、障害者(障害を生理的必然的に伴ってくる高齢者も含め)と交わることで逆

に「ノーマル(普通)とは何か」と我々が自らに問いかけるきっかけになることだと思う。そのことを、例えば糸井

一雄人は、「この子ら(障害児)『に』世の光『を』」ではなく、「この子ら『を』世の光『に』」と表現したのであろう。

つまり、ノーマルというのは、我々を基準にするのではなく、利用者の生活こそ基準にして我々のアブノーマルさを

戒め、改善していくきっかけにするものかもしれないのである。

4.1.2 ケアとキュア

ケア (care) とキュア (cure) とはまったく別物である。

cure とは「治療」のことであり、医療行為に属する。医療行為というのは物理的・実験的な側面も含むので、一部 福祉の世界とまったくオーバーラップしない部分も併せ持つ。もちろん、医療行為の目的は実験ではなく、機能回復 にあるため福祉の仕事にも深く関わってくるのだが。一方 care とは「看護・介護」のことであり、は実験的な要素は まったくない。これは一部、機能回復も含むが、何よりその第一義的な対象は「生活 (life)」である。もし図で表すと すれば次のようになるだろう。

すれば次のようになるだろう。 fig: ケアとキュアの違い 4.1.3

fig:ケアとキュアの違い

4.1.3 自由最大化状況 (The Least Restrictive Alternative) とは

自由を定義するには、自由という言葉のみを考えても答えは出ない。その反意語を考えてみるとよい。自由の反意

* 43 は責任である。言い替えれば、責任がないところには自由はなく、自由とはそれに責任が必ず影のように伴うも

* 43 反意語というとき、そこには幾つかの種類が考えられるが、ある場合には論理的な「反対関係」を表し、「矛盾関係」を表さない場合があ る。矛盾関係とはふたつの言葉(文章)があるとき、その二つが共に真でも偽でもあり得ない関係をいう。それに対し、反対関係とは共に 真であることはできないが共に偽であることはできる場合(反対関係)と、共に真であることはできるが共に偽であることはできない場合 (小反対関係)がある。前者の例としては

日本人は感情的だ

いや、日本人は感情的ではない というものがある(この二つの文が共に真であることはできない。しかし、実は日本人がそもそも感情的か否かを問題にすること自体がお かしな場合がある)。それに対して

正直な人がいる

正直でない人がいる という文章は共に偽であることはいえないが、共に真である場合がある(そもそもこの二つの文が同一人物について語っていない場合が考 えられる。人間には正直な人もそうでない人もいるものだ)。自由の場合、もし人間が完全に自由ならば、「お腹が空いたけれど眠い」とい うことはあり得ないことなどなくて、寝ながらケーキを食べられるはずである。しかし眠くて不満だけれど、甘いものが食べたいので我慢 して食べることはある。つまり人間には完全な自由などはなく、「正直な人」「正直でない人」の例に挙げられるような状態でしか自由を享 受できない生き物だと考えられるのである。「正直な人」を自由、「正直でない人」を責任に置き換えてみると分かるのだが、自由であっても (あるが故に)責任があるというのは、「眠いけれど食べたい」という状態と良く似ている。責任をもつ、ということは制約を受けるという

40

のである。それでは改めて問う。自由とは何か。すると、人間が享受できる最大の自由とは「自分の世界に起こる出

来事すべてに責任を負える」ことだといってよいだろう。こう考えると人間は、健常者であろうと障害者であろうと、

完全に自由な状態を享受することはできない、ということができるだろう。

自由という言葉に込められている意味をきちんと把握していれば、次の、どのようにすれば自由が最大限に発揮さ

れる状況をつくり出せるか(自由最大化状況の実践方針)をより理解できるだろう。

1.「個別化」

一人一人の生活状態は独特なものなので、個々別々に具体的に処遇していく

2.「平等な保護」

より不利なハンディキャップを受けている利用者に対して、より大きなサービスを提供する

3.「正当な手続き」

利用者へのサービス提供に際して、インフォームド・コンセント(説明と同意)を十分得られるような手続き

4.「選択権」

十分な説明を受けた上で、利用者あるいは利用者家族はインフォームド・チョイス(説明と選択)を行使でき るようにする

5.「処遇権」

利用者本人が持っている生活や健康の水準を可能な限り引き出してもらえるような処遇を求めることができる ようにする

6.「処遇拒否権」

なんらかの処遇を受ける前であっても、処遇の最中であっても、利用者あるいは利用者家族には適切な処遇で

ない場合には、それを拒否できるようにする

この条件はある指針であって、決して援助者の行動を制約するものではない。しかし、この選択権とそれに伴う責

任感を利用者や(利用者にそれができない場合には、その)利用者家族と十分話し合った上で理解してもらうことは

円滑な介護活動をする上で有用であると考えられる。

4.1.4 QOL(Quolity Of Life)

生活の質、と訳される。生活という言葉はとても広義であり、それを一言ではなかなか上手く表現することができ

ない。そこで、生活を構成している要素があることを、テキストを参照に示す。

ことを意味するが、責任をもつ範囲内では同時に自由なのである。例えば、料理をすることはどんな具材を使って、どんな手順で作っても

よいのであるから「自由」なのであるが、その味に関しては旨かろうとまずかろうとそれは本人の「責任」である。料理が好きな人はこの

「責任」を自ら背負うことを厭わないため、まずい料理でも(文句をいわれながらも)他人へ食べさせる「自由」をもっている、といえる。

41

fig:QOL の対象 4.1.5 チームケア

fig:QOL の対象

4.1.5 チームケア

援助では決して利用者と援助者が一対一で行われることはない。必ずチームを組んで行われるものである。よって

チームワークについて日頃から考えながらケアを考えることは援助者にとって日頃から欠かすことのできない仕事の

一つである。

この援助チームのメンバーはどのように構成されているのだろうか。大きく分ければ次のような構成メンバーに

なっているであろう。

利用者

ご家族 * 44

医療専門スタッフ(医者、看護師)

援助者

これらの人々が利用者を取り囲む形で、それぞれの立場からサポートしているというのが現状である。

* 44 ご近所とも時には協力しなければならないこともある

42

fig: 一般的に考えられているチームケア

fig:一般的に考えられているチームケア

まず確認すべきは利用者は、障害の度合に関わらず、つねに様々な人間関係の中で生活している、ということであ

る(図中の赤線)。健康な我々も様々な関係性のなかで生活しているが、その関係性に応じて我々も様々な顔(態度)

を持っている。事情があって障害と付き合わざるを得なくなっている利用者にとってこのこと自身が負担の一つに

なっていることを再認識しておくことは重要である。

また、利用者に接する人間もそれぞれ、違う立場から利用者に接していることを確認しよう。ご家族にはご家族の、

医療スタッフにはスタッフの立場から利用者に接している。これら、利用者を支える関係者はそれぞれ利用者にとっ

て有用だと判断して利用者に接しているのだから、それぞれの立場に十分理解することも重要である。

最後に、実は利用者は自分が決して知ることのない関係性に常に取り囲まれているものである。それは例えば、ご

家族と医療スタッフとの相談。ご家族と我々援助者との相談。医療スタッフと我々援助者との相談。それぞれが、そ

れぞれの立場から利用者の障害をサポートしようと意見を交わす。しかし、逆をいえば、我々援助者から見れば、ご

家族と医療スタッフとの間で日々、どのような会話がなされ、利用者の障害に対してどのように立ち向かっていこう

としているか見えにくくなっている場合もある。このそれぞれの立場から、別の立場間の関係が見えにくくなってし

まうのが、援助の現場の常でもある。

とりわけ最後の観点は援助者にとって重要である。利用者とご家族とが日々どのような話題を好んで取り上げてい

るのか、とか、医療スタッフがどのような指示や処方を利用者になし、ご家族にどのように説明をしているのか、と

か、そういったことを我々が知らないのは援助していく上で、問題が生じる場合もあるし、また医療スタッフから見

れば、我々援助者と利用者とがどのような援助プランを相談しているのか、またご家族と援助者がどのような関係を

構築し(良好なのか、劣悪なのか)、どのような会話をしているのか等を知らされていないのは、その治療方針を決定

していく過程でも命に関わる重要なポイントを見逃してしまう原因の一端になりかねないのである。

実はこうした問題は常に援助の現場につきまとっている問題でもある。現場によって様々なカラーがあって、医療

スタッフが率先して援助に口を出す場合や、ご家族が医療スタッフや援助者の助言や指導を無視し、利用者に対して

絶対的な権威をもって接している場合もある。このような時、どのように対応していけばいいのか、我々援助者に

とっては頭の痛い問題になっていくのだが、ここで提案したいのは、援助者という仕事には技術をもって身体的に援

43

助する、という側面の他に、いま述べてきた、それぞれの関係を良好なものに保つ、その調整役という仕事も含まれ

ている、という自覚を援助者の皆さんにもってもらえないだろうか、というものである。

もちろん、援助の現場は上記の図のように利用者中心で物事すべてが進んでいくものであり、実際にそうである。

しかし、関係性、ということに注目した場合、私は次のような形が理想的だと考える。

fig: 理想的なチームケア

fig:理想的なチームケア

一見複雑そうに見えるが、このようにすべての異なる人間関係に気を配れる人がいれば、最終的に利用者にとって

最良の援助関係が構築されることは納得してもらえると思う。

では、なぜ中心に援助者が置かれるのだろうか。理由はこうである。

援助者は「戸井の人」であり、援助者は他の患者も多数抱え、高度に専門的な知識を求められる医療スタッフや、援

助を外部の人間に求めざるを得ない状況に追い込まれているご家族に比べて、より「生活」、すなわち援助の対象に

もっとも近い関係にある人間だからである。こうした側面からも私が援助者に期待するところ大なのである。

と同時に援助者の仕事が以上の案件を期待される以上、激務になることは必至である。性質の異なる関係を、偏見

なく平等に鑑み、時には衝突しながらも上の図が歪な三角形にならないように、つねに気を配らなければならない。

そのためにはまず援助者が健康で、健全な「戸井の人」つまり常識人であることが求められよう。大衆の道こそ王道

なのである。

もちろん、現実は実際に上記図のように単純ではない。医療スタッフに様々な職種がある * 45 ように、利用者以外は 一つ一つの円のなかに複数の人間関係が存在する。当然援助者にも援助者同士(同業の先輩・後輩など)の密接な連 携関係がある。援助者一人一人にそれぞれ異なる性格があり、生活があることも忘れてはならないことであろう。と もかく複数の人間が一つの「援助者チーム」として利用者を支えているのである。すべての関係において良好な状態 が保たれているとき、ケアは最上のパフォーマンスを示すことになるだろう。それに向けて、援助者のもつもう一つ の重要な任務、「各人間関係の優秀な調整役」を目指してほしい。

* 45 その他にも、保健師・ソーシャルワーカー・建築士・臨床心理士・ST(言語聴覚師) などが含まれるであろう。

44

fig: チームケアの二重性 45

fig:チームケアの二重性

45