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梶原研 雑誌会 2001/06/27

発表者 梅村 舞子

概要: 定温 MD 法(能 勢の方 法)
A UNIFIED FORMULATION
OF THE CONSTANT TEMPERATURE MOLECULAR DYNAMICS METHODS
Shuichi Nose
The Journal of Chemical Physics, 81(1), 1984, 511-519

文責  梅村 舞子
1.は じめ に

 この論文は定温 MD 法の最も完成されたものの一つ、能勢の方法についてのものである。歴史的に
みると、MD(分子動力学)法は一定エネルギー(ミクロカノニカルアンサンブル)の条件下で粒子の
軌道を計算するところから始まった。しかし実際の実験のほとんどは定温あるいは定圧状態で行な
われる。したがってシミュレーション結果を有効なものとするためには、定温あるいは定圧条件を生
成するアルゴリズムが望ましい。能勢の方法(以下 ES 法--Extended System method--)はその
一つであり、定温 MD 法の頂点に立つものである。さらにこの論文では、能勢オリジナルの ES 法とア
ンダーソンの定圧法を組み合わせた能勢-アンダーソンの方法も展開されている。

2.下 ごし らえ

 ここでは理論の展開に必要な最小限の知識について述べる。
ニュー トンの 第二法 則
F = - dV / dr = ma …(1)
ラグラ ンジュ 形式
L = T–V ( T: 運動エネルギー, V: ポテンシャルエネルギー )
ラグランジュの運動方程式

d / dt ( ∂L /∂qi ) - ∂L /∂qi = 0 …(2)
ハミル トン形 式
・ ・
H ( q , p ) = p・q – L ( q , q ) = T + V …(3)
ハミルトンの正準方程式
・ ・
qi = ∂H /∂pi , pi = - ∂H /∂qi …(4)
カノニ カルア ンサン ブル
粒子数(N)、体積(V)、温度(T)一定。k をボルツマン定数、β= 1 / kT として、
分布関数
ρ(N) ( rN , pN ) = ( 1 / h3N N! ) [ exp{ -βHN ( rN , pN )} / QN ( V , T ) ] …(5)
QN ( V , T ):分配関数
QN ( V , T ) = ( 1 / h3N N! )∫∫exp{ -βHN ( rN , pN )} drN dpN …(6)
等温等 圧アン サンブ ル
粒子数(N)、圧力(P)、温度(T)一定。TP アンサンブルとも呼ばれる。
分布関数

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ρ(N) ( rN , pN , V ) = ( 1 / h3N N! ) [ exp[-β{ HN ( rN , pN , V ) + PV }] / YN ( P , T ) ]
…(7)
YN ( P , T ):分配関数
YN ( P , T ) = ( 1 /h3N N! )∫∫∫exp[-β{HN ( rN , pN , V ) + PV }] drN dpN dV
= ∫exp(-βPV ) QN ( V , T ) dV …(8)

3. ES 法

 現実系での温度を一定に保つため、熱浴としての仮想系を考え、その自由度を s とする。さらにこ
の自由度 s によって、現実系における(プライム付き)座標 qi’、運動量 pi’、時間 t’と仮想系としての
拡張系における(プライムなし)それらを関係付ける。
qi’ = qi , …(9)
pi’ = pi / s , …(10)
t’ = ∫t ( dt / s ) . …(11)
さらに粒子系と変数 s を合わせた拡張系のハミルトニアンを、仮想変数を使って、
N

H = Σi pi2 / 2 mi s2 + Φ(q) + ps2 / 2 Q + g k T ln s …(12)

とする。ここで、ps は s の共役運動量 、Q は s の慣性量、g は後で明らかになるある定数である。Q の

値は実際には試行錯誤的に決定される任意性を持つ。拡張系での粒子の運動エネルギーは、現実系で
Σi( pi2 / 2 mi )となるようにとってある。このとき
d H / d t = Σi { (∂H /∂pi ) ( dpi / dt ) + (∂H /∂qi ) ( dqi / dt ) }
+ (∂H /∂ps ) ( dps / dt ) + (∂H /∂s ) ( ds / dt )
= 0 …(13)
で H は保存される。
 このように拡張系のハミルトニアンを定義すると、対応する現実系ではカノニカルアンサンブル
が構成される。これはすなわち、粒子系+熱浴としての拡張系を H を保存量とするミクロカノニカル
アンサンブルとすると、その粒子系への射影は温度T一定のカノニカル分布になっているというこ
とを意味する。

4.証 明

 H はミクロカノニカルアンサンブルであるから、その分布関数 ρ について
ρ( p , q , s , ps ) = δ{ H ( p , q , s , ps ) – E’ } …(14)
が成り立つ。ここで E’はある定数、δ はディラックの δ 関数である。3.を証明するには、H の分布関
数を(定数部分を無視して)
Z = ∫dps∫ds∫dp∫dq ρ( p , q , s , ps )
とすると、この Z がカノニカルアンサンブルの分配関数(式(6))に比例することを示せばよい。


pi = ∂L / ∂qi ( i = 1, 2, …, n ) を満たす量を一般化運動量(generalized momentum)、正準運動量(canonical
momentum)、または qi に共役な運動量(momentum conjugate to qi)などと呼ぶ。

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 まず式(13)より
Z = ∫dps∫ds∫dp∫dqδ{ H0 ( p/s , q ) + ps2 / 2Q + gkT ln s – E’ } . …(15)
ただし d p = dp1 dp2 …dpN , dq = dq1 dq2 …dqN , H0 ( p , q ) = Σi pi / 2 mi + φ(q), E’:あ
2

る定数。また 式(9)と(10)より、素体積 dp dq = s dp’ dq’ 。したがって、
3N 1

Z = ∫dps∫ds∫dp’∫dq’ s3N δ{ H0 ( p’ , q’ ) + ps2 / 2Q + gkT ln s – E’ } .
…(16)
上の δ 関数において、その変数(argument)は変数 s の関数として0となる点を唯一つもつから、
f(s0) = 0 ; δ[f(s)] =δ( s – s0 ) / f’(s0)
の変換公式を用いて、
Z = ( 1 / gkT ) ∫dps∫ds∫dp’∫dq’ s3N+1 ⅲ

×δ( s – exp{ - [ H0 ( p’ , q’ ) + ps2 / 2Q – E’ ] / gkT } )
= ( 1 / gkT ) exp[ ( (3N+1) / g )E / kT ]
×∫dps exp[ - ( (3N+1) / g ) ps / 2QkT ]
×∫dp’∫dq’ exp[ - ( (3N+1) / g )H0 ( p’ , q’ ) / kT ]
= C ×∫dp’∫dq’ exp[ - ( (3N+1) / g )H0 ( p’ , q’ ) / kT ] . …(17)
ここで g=3N+1 と選べば、明らかに Z は式(6)に比例する。よって、現実系ではカノニカルアンサン
ブルを構成することが証明された。

5.現 実系 にお ける 運動 方程 式

 ハミルトニアン(式 (12))に従う現実系の運動方程式を導出しよう。拡張系におけるそれぞれの
変数の運動方程式は、ハミルトンの正準方程式(4)より、
dqi / dt = ∂H /∂pi = pi / mi s2 , …(18)
dpi / dt = - ∂H /∂qi = - ∂φ/∂qi , …(19)
ds / dt = ∂H /∂ps = ps / Q , …(20)
dps / dt = - ∂H /∂s = ( Σi pi / mi s2 – gkT ) / s . …(21)
式(9)(10)(11)及び s’ = s, ps’ = ps / s を使ってこれらを実変数に変換して、
dqi’ / dt’ = s ( dqi’ / dt ) = s ( dqi / dt ) = pi / mi s = pi’ / mi ,…(22)
dpi’ / dt’ = s ( dpi’ / dt ) = s ( d / dt ) ( pi / s ) = dpi /dt – ( 1/s ) ( ds / dt ) pi
= ∂φ/∂qi’ – s’ ps’ pi’ / Q , …(23)
2
ds’ / dt’ = s ( ds’ / dt ) = s ( ds / dt ) = s’ ps’ / Q , …(24)
dps’ / dt’ = s ( dps’ / dt ) = s ( d / dt ) ( ps / s ) = dps / dt – ( 1/s ) ( ds / dt ) ps
= ( Σi ps’2 / mi – gkT ) / s’ – s’ ps2 / Q . …(25)
H(式(12))を実変数によって変換した H’
N

H’ = Σi pi’2 / 2 mi + Φ(q’) + s’2 ps’2 / 2 Q + gkT ln s …

1
粒子系の自由度を3 N としたとき。ex. dpi = dpix dpiy dpiz = s3 dpi’x dpi’y dpi’z = s3 dpi’.

f(x)δ(x - a) = f(a)δ(x - a).

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はハミルトニアンではないが、保存はされる。
dH’ / dt’ = Σi { (∂H’ /∂pi’ ) ( dpi’ / dt’ ) + (∂H’ /∂qi’ ) ( dqi’ / dt’ ) }
+ (∂H’ /∂ps’ ) ( dps’ / dt’ ) + (∂H’ /∂s’ ) ( ds’ / dt’ )
= 0 …(27)
ラグランジュアンは
d / dt’ ( mi s’ ( dqi’ / dt’ ) ) = - s’ ( ∂φ /∂qi’ ) , …(28)
2
d / dt’ ( ( Q / s’ ) ( ds’ / dt’ ) ) = Σi mi ( dqi’ / dt’ ) – gkT . …(29)
現実系では実時間で解かれるため、自由度としての定数 g は3 N でなければならない。

5’. (補 足) 計算 に使 う運 動方 程式

 論文中の運動方程式は5.のラグランジュアンの形で終わっているが、このままでは実際の MD
計算に使えないので使える形まで書き下しておく。
 まず qi’に関して、
d2qi’ / dt’2 = ( 1 / mi ) ( dpi’ / dt’ ) ( ∵ 式(22) )
2
= - ( 1 / mi ) ( ∂φ/∂qi’ ) - ( pi’ / mi ) ( s’ ps’ / Q ) / s’ ( ∵
式(23) )
・ ・
= - ( 1 / mi ) ( ∂φ/∂qi’ ) – ( s / s ) qi’ ( ∵ 式(24) )
…(30)
s( = s’ )に関しても、同様に
d2s / dt’2 = d / dt’ ( s2 ps’ / Q )

= Σi ( mi s qi’2 / Q ) – s gkT / Q + s2 / s …(31)
さらに式(31)に、熱力学における温度の等分配則
( 3 / 2 ) Nk<T> = < Σi Mi Ri2 / 2 > …(32)
を適応して(g=3N)、
・・ ・
s = Σi ( mi s qi’2 / Q ) – s 3NkT / Q + s2 / s

= ( 2 s / Q ) ( Σi ( mi qi’2 / 2 ) – ( 3/2 ) NkT ) + s2 / s

= ( 2 s / Q ) ( 3/2 ) Nk( Treal – T ) + s2 / s …(33)
式(30)(33)がアルゴリズムとして有用である。

6.等 圧法 への 拡張 (能 勢 -アン ダー ソン の方 法)

 以上が定温 MD 法としての ES 法であるが、これにアンダーソンによる定圧 MD 法を組み合わせ
ると、定温定圧アンサンブルを生成する方法となる。
 圧力を一定に保つため、セルの 3 方向から等方的に圧縮・膨張させるピストンを導入する。そして、
基本セルの体積 V 自身をピストンに関する一般化座標として取り入れる。このとき、
qi’ = V1/3 qi , …(34)
pi’ = pi / V1/3 s , …(35)

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t’ = ∫t d t / s . …(36)
そして拡張系のハミルトニアン H を
N

H = Σi pi2 / 2 mi V2/3 s2 + Φ( V1/3 q) + ps2 / 2 Q + g kT ln s + pv2 / 2W + Pex V

…(37)
とする。ここで pv は V の共役運動量、W はピストンの慣性質量、Pex は外界の圧力である。すると以下
同様にして、現実系では温度と圧力の両方が一定に保たれる NPT アンサンブルが構成されることが
証明できる。この場合、運動方程式は V を含めて
・・ ・ ・ ・ ・
qi = - ( 1 / ( mi V2/3 ) ) (∂VN /∂qi ) – ( 2/3 ) ( V / V ) qi – ( s / s ) qI …(38)
・・ ・ ・
s = Σ i ( mi V 2/3
s q / Q ) + s / s – s gkT / Q
i
2 2
…(39)
・・ ・ ・ ・
V = Σi ( mi s2 qi2 / ( 3WV1/3 ) ) + ( s / s ) V
– Σi ( s / (3WV) ) (∂VN /∂qi ) qi – s2P0 / W …(40)
さらに式(39)及び式(40)は、式(32)と、等方性流体において成り立つ圧力の公式
N l ・ N l ・

<P> = ( 1 / 3V ) < Σi=1Σα=1 miα riα2 > - ( 1 / 3V ) < Σi=1Σα=1 riα2・∇iαVN >
N l ・

= Nk<T> / V + ( 1 / 3V ) < Σi=1Σα=1 riα2・Fiα >
N N l l ・

= Nk<T> / V + ( 1 / 3V ) < ΣΣI>jΣα=1Σβ=1 rαβ・Fαβ > …(41)

を使って、最終的には
・・ ・
s = ( 2 s / Q ) ( 3/2 ) Nk( Treal – T ) + s2 / s …(42)
・・ ・ ・
2
V = ( s / W ) ( Preal - P ) + ( s / s ) V …(43)
として使用する。

7.結 論

 拡張系を導入して時間を制御するこの方法によって、厳密にカノニカルアンサンブル及び TP アン
サンブルが構成される。ただし s 及び V はそれぞれ Q 及び W に依存し、これらの定数の任意性は ES
法の弱点でもあり利点でもある。しかし、ES 法による計算結果における速度の自己相関関数は通常
の MD 計算によるものと大差なかったので、Q 及び W の任意性は実験の有効性を覆すものではない

8.発 表者 より 最後 に一 言。

・原本には、ES 法に拘束条件∂H/∂s≡0 及び∂H/∂ps≡0 を付加することにより、ES 法以前の定温

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MD 法の一つ Hoover ら及び Evans による HLME 法の導出が可能であることも載せられていた
が、冗長になるので省略した。興味のある方は各自ご参照願いたい。
・仮想的時間の導入という発想が◎。
・次回は RESPA 法の予定です。ご拝聴ありがとうございました。

以上

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