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総合資源エネルギー調査会基本問題委員会(第 10 回)意見書

放射線の人体影響に関する補足

2012.2.1

原子力資料情報室 伴英幸

第9回基本問題委員会において低線量被ばくへの影響について意見を述べたが、

放射線被曝のリスクの大小に関して疑問が出された。そこで、意見を補足した。

1. ICRP(国際放射線防護委員会)の考え

ICRP は被ばくとガンのリスクについて、基本的に「閾値なし」で「直 線」的に影響を受けるという立場をとっている。すなわち、これ以下な ら安全という被ばく線量はなく、微量の被ばくでもそれに応じて影響を 受けるという考えに立脚している。この立場は米国科学アカデミーも支 持している。

② 全集団でのガンのリスク係数は 0.055/シーベルト(Sv)とされている。 すなわち、100 人・Sv あたり 5.5 人がガンにより死亡するとしている。 これは半数死亡の確率なので、ガンに罹患する人は 11 人になる。 ③ 人・Sv は各人の被ばく線量の合計値を意味する。平均で 5 ミリシーベ ルト被ばくした人が 150 万人いたとすれば、7500 人・Sv となるので、 ガンに罹患する人は 825 人となり、この内の半数が死亡する。2 ミリシ ーベルト被ばくした人が 1,500 万人いたとすれば、3,300 人がガンに罹 患し、半数の方が亡くなる。

ICRP の考えからはこのような結論が導かれる。 (参考文献:国際放射線防護委員会の 1990 年勧告、2007 年勧告)

2. ICRP に対する批判 この ICRP に対する批判は根強くあるが、放映された「低線量被ばく―揺ら

ぐ国際基準」(追跡真相ファイル 2011 12 28 日、NHK-BS 放送)によ れば、ICRP は低線量被ばくの影響を科学的に得られたデータを政治的に半 分に見積もったとしている。

ICRP の事務局長のクリストファー・クレメント氏(科学事務局長)は

インタビューに答えて、ICRP が低線量の被ばくのリスクは低いとみな し、半分にとどめてきたことに対して、「低線量のリスクを半分にして いることが本当に妥当なのか議論している」と答えている。 ② 「ファイル」は次のように報告している。「低線量のリスクをめぐる議

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論は、実は 1980 年代後半からはじまっていました。基準の根拠となっ ていた広島、長崎の被爆者データがこのころ修正されることになったの です。それまで原爆で 1000mSv の被ばくをした人は5%ガンのリスク が高まるとされてきました。それが日米の合同調査で、実際はその半分 の 500mSv しか浴びていなかったことがわかったのです。半分の被ばく 量で同じ5%ということは、リスクは逆に2倍になります。しかし ICRP は低線量では半分のまま据え置き、引き上げないことにしたのです」。

③ その理由について、1970 年代から 90 代半ばまで ICRP の基準作りに携 わってきたチャールズ・マインホールド氏(ICRP 名誉委員)はインタ ビューに、「原発や核施設は労働者の基準を甘くしてほしいと訴えてい た。その立場はエネルギー省も同じだった。基準が厳しくなければ核施 設の運転に支障が出ないか心配していた」ことに配慮して、「アメリカ の委員が低線量では逆に引き下げるべきだと主張したのだ。低線量のリ スクを引き上げようとする委員に対抗するためだった」と答えている。 因みに、米国エネルギー省が基準に引き下げられることで、対策に 3 6900 万ドルの追加費用が必要になると懸念を表明する報告書を 1990 年 に ICRP へ提出したという。こうして上記のリスクが据え置かれた。

④ また、「労働者に子どもや高齢者はいないのでリスクは下げてもよいと 判断した。科学的根拠はなかったが ICRP の判断で決めたのだ」として、 さらに労働者のリスクをさらに 20%緩和した。

3. ICRP に対する批判(2) ① 欧州放射線リスク委員会(ECRR-European Committee on Radiation Risks)は、「2010 Recommendations of the ECRR - The Health Effects of Exposure to Low Doses of Ionizing Radiation」においてリスクを ICRP 2 倍に見積もることを提案している。

http://www.euradcom.org/2010/2010recommendations.htm

この立場に立てば、1.②および③は 2 倍に増える。 ② マーティン・トンデル博士はスウェーデンにおけるチェルノブイリ原発 事故の影響について疫学調査を行い、低線量被ばくでも有意にガン発生 率が有意に増えることを示している。

http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/tyt2004/tondel.pdf

③ ドイツの KIKK 研究では、疫学調査によってドイツの原子力施設周辺に 全小児がん並びに小児白血病の有意な増加がみられることを明らかに した。その罹患率は原子力施設から離れるに従い減少している。ただし、 このレポートでは推定被ばく線量から原子力施設との因果関係を明瞭

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に示すことは困難であるので、研究の継続が必要としている。

http://www.infekt.ch/updown/documents/jc/jc_jan08_derungs.pdf

4. 放射線の影響は若い世代にいっそう強く表れることを考慮する必要がある。 “日本人の 30%はガンで死亡することと比べて、福島原発事故による被ば くのリスクは小さい”とする「専門家」の説明には深い疑問を持っている。 また、被ばくは単年度で考えるのではなく、積算で考えることにも注意をし ておく必要がある。

5. このリスクをどうとらえるかは、立場によって異なるだろう。しかし、少な

くとも明瞭なのは、原発など原子力施設に関連することでは、利益を得る受

益者たちと放射線被ばくのリスクを受ける受難者たちが異なる集団である

ことだ(医療被ばくとはこの点が異なる)。原子力政策はこれまで、受益集

団だけで議論され、決定されてきた。受難者は政策決定の当事者に入ってい

なかった。

6. 放射能の寿命が人間よりはるかに長いことを考えれば、環境に人工の放射能

を蓄積し続けることは、被ばくにともなうリスクを高めていくことになる。

そのような愚行を避けるのが賢明な人間の姿勢と考える。

参考)

北スウェーデンでのガン発生率増加はチェルノブイリ事故が原因か?

(次ページから掲載)

マーチン・トンデル

出典:「チェルノブイリ原発事故の実相解明への多角的アプローチ:20 年を機会とする事

故被害のまとめ」(共同研究報告書) KURRI-KR-133

2007 8 月)より

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北スウェーデン地域でのガン発生率増加はチェルノブイリ事故が原因か?

マーチン・トンデル (リンショーピン大学病院、スウェーデン)

はじめに

ヨーロッパでのチェルノブイリ事故影響への関心はまず、子どものガン、とりわけ被曝後の潜伏

期間が短い白血病に向けられた。旧ソ連の領域外においていくつかの調査が実施されたが、いずれ

もチェルノブイリからの汚染との関係は示されなかった。しかし、母親の妊娠中に胎内被曝をうけ

た子供たちでは、ギリシャ、ドイツ、ウクライナにおいて白血病リスクの増加が報告されている。

ただし、ベラルーシからは報告されていない。最近ウクライナから、チェルノブイリによる被曝に

よって大人の白血病が増加したと報告されている。一方、ベラルーシ、ウクライナおよびロシア西

部では、事故と関係して子どもの甲状腺ガン発生率が劇的に増加している。ヨーロッパの他の地域

では、大人の甲状腺ガン増加が認められている。

スウェーデンには、1986 4 28 日から 29 日にかけての大雨とともに、チェルノブイリから放

出されたセシウム 137 の5%が降下した。放射能は主に、スウェーデン東海岸北部のウメアから南

部のストックホルムを汚染した。最初の数週間の被曝は短半減期放射能が主体で、それからセシウ

地表汚染レベル セシウム 137 kBq/m 2 80 ~ 120 (1) 60 ~ 79 (9) 40 ~
地表汚染レベル
セシウム 137 kBq/m 2
80
~ 120
(1)
60
79
(9)
40
59
(42)
30
39
(41)
3 ~
29
(240)
< 3
(117)

図1.セシウム 137 による地表汚染区分. 括弧の中の数字は地区の数である.スウェーデン放射線防護局の依頼によりスウェ ーデン地質サーベイが作成した地図を、許可を得て著者が修正したもの.

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134 やセシウム 137 といった長半減期放射能と入れ替わった。住民の被曝量は、居住地域、野外

活動、食習慣に依存するものの、最初の1年間で 1-2mSv、最大で約 4mSv と見積もられている。

我々の疫学調査は、スウェーデン北部で汚染の大きかった7つの州の住民を対象とし、その中には、

汚染を受けていないので内部対照群として利用できる地域も含まれている。スウェーデン南部は、

汚染がかなり小さかったことと、また大都市では、バックグラウンドとなるガン発生率が大きいこ

とから、調査対象としなかった。

方法

スウェーデンの全 21 州のうち、本研究の対象としたのは、ノルボッテン(Norrbotten)、ヴェズ

テルボッテン(Västerbotten)、イェムトランド(Jämtland)、ヴェステルノルランド

Västernorrland)、イェブレボルグ(Gävleborg)、ヴェステルマンランド(Västmanland)、ウプサ

ラ(Uppsala)の各州である。これらの州と主な都市を図1に示してある。1986 年に 0 歳から 60

であって、1985 12 31 日と 1987 12 31 日に同一住所に登録されていた住民すべてを調査の

対象とした。ガンの症例と死亡例、ならびにその診断日の検索には、1986 年から 1996 年のスウェー

デン・ガン登録を用いた。追跡調査の開始日を 1988 1 1 日に設定し、その結果、年齢、性別、

先行する2年間の居住地区といった情報を備えた、114 3182 人の集団が得られた。表1は、この

集団についての、1988 年から 1996 年の間のガン発生数である。

スウェーデン放射線防護局は、1986 5 月から 10 月にかけてスウェーデン全土の航空機によるガ

ンマ線サーベイを実施し、地表のセシウム 137 汚染を 12 レベルに区分した沈着地図を作製した。こ

12 区分を、<33-2930-3940-5960-7980-120 kBq/m 2 の6つのレベルに再区分し、本研究の

対象となっている7州 450 地区(地区は行政の最小単位)を割り振った(図1と表1)。本調査で

は、汚染されていない 117 地区(3 kBq/m 2 以下)を対照地域として扱う。

表1.被曝区分ごとの住民数とガン発生数.

「相対リスク」は、非被曝区分(3 kBq/m 2 以下)を対照群に用いた.(年齢調整済みの)「発生率 変動」は、19881996 年の 10 万人当り発生率から 19861987 年の 10 万人当り発生率を引いた 値である.統計誤差は、95%信頼区間で示した.すなわち、相対リスクで 1.00 以上の範囲、発生 率変動で 0.00 以上の範囲にあれば統計的に有意である.

被曝区分

住民数 1988 1 1

ガン発生数

1988-1996

相対リスク (95 % CI)

発生率変動、

Cs-137

kBq/m 2

10 万人当り

(95% CI)

 

1.00

30.3

<3

359 509

6 691

(対照群)

(25.5-35.2)

 

1.05

36.8

3-29

527 812

10 378

(0.99-1.11)

(32.6-41.0)

 

1.03

42.0

30-39

92 323

1 827

(0.95-1.12)

(33.0-51.0)

 

1.08

45.8

40-59

124 862

2 744

(0.94-1.23)

(37.9-53.4)

 

1.10

50.1

60-79

21 625

401

(0.89-1.34)

(29.4-70.8)

80-120

17 051

368

1.21

56.4

 

(0.98-1.49)

(33.9-78.9)

合計

1 143 182

22 409

0.11*

(0.03-0.20)

*;セシウム 137 汚染 100kBq/m 2 当りの過剰相対リスク(ポアッソン分布に基づく直線回帰係数).

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表1第4列の「相対リスク」は、対象地域のガン発生率を1としたときの各汚染区分でのガン発

生率相対値であり、人口密度、喫煙習慣、社会経済状態、ガン発生率について、事故前(1986-

1987)のデータで調整してある。第5列の「発生率変動」は、追跡期間中(1988-1996)の年齢調整

済みガン発生率から、チェルノブイリ事故前(1986-1987)のガン発生率を引いたもの、つまりチェ

ルノブイリ事故前後での比較である。

結果 3kBq/m 2 以下を対照群とした場合、全ガンの相対リスクは、いずれの被曝区分においてもわずかに 増加している。全被曝区分に対する平均的な値として、100kBq/m 2 のセシウム 137 汚染当り 0.11 95%信頼域 0.03-0.20)という過剰相対リスク値が得られた。また、発生率変動を求めるにあたっ ては、集団が高年齢化することを考慮して年齢を 5-59 歳に限定し、1 3823 件のガンを解析の対象 とした。対照群での発生率変動 10 万人当り 30.3 件は、この間の時間傾向であり、チェルノブイリ事 故とは関係ない増加と見なされる(表1)。相対リスクと発生率変動のいずれも、各区分での喫煙 傾向では説明できない。また、放射線感受性で潜伏期間が短い白血病や甲状腺ガンが、チェルノブ イリ事故以降にスウェーデン北部で増加しているということはなかった。

考察 本調査に取りかかるにあたり我々は、チェルノブイリ事故の影響があるとしてもそのリスクはわ ずかな大きさだと考えた。それゆえ、小さな増加を観察できるよう感度のいい調査計画を立案した。 できるだけ多くの汚染州を調査対象とし、小さな領域(最小行政地区)ごとに被曝区分を割り当て た。チェルノブイリ事故による放射線被曝ははじめの2年間にその大部分がもたらされたが、調査 の対象を、その期間に同じ住所にいた人々に限定した。さらに、調査対象年齢を、悪性腫瘍の発生 率が比較的小さい年齢層に限定した。追跡調査中の個人住所の変動を考慮に入れれば、もっと適切 な被曝区分が可能であろう。しかし、大部分の人々は追跡期間中同じところに居住していた。 短い潜伏期間や低線量の被曝にもかかわらず、我々の調査結果が、スウェーデン北部においてチ ェルノブイリからの汚染にともなうガン影響を示唆していることは、統計的な観点で言えば意外で あった。わずかな増加ながら、旧ソビエト地域以外でチェルノブイリ事故による全ガン増加の影響 を示唆している研究はこれが最初である。 我々の解析によると、2 2409 件のガンのうち、849 件がチェルノブイリからの放射能汚染によ るものである。とはいえ、そのうち 494 件以上が、汚染第2区分である 3-29kBq/m 2 の地域で生じて おり、汚染区分の分け方が異なると、汚染に起因するガン発生数の数も大きく変わってくるものと 思われる。 スウェーデンでの 50 年間にわたる集団被曝量の推定値 6000 人・Sv と国際放射線防護委員会 (ICRP)によるガン死リスク係数の値とを用いると、スウェーデンにおけるガン死数の期待値は 300 件となる。我々の調査結果に基づくと、低線量被曝によるガン影響は、ICRP の予測に比べて早 く現われ、いくらか大きめである。ICRP のリスクは、主として広島・長崎の被爆生存者追跡調査に 依存しているが、その追跡調査は 1950 年に生存していた人を対象としてはじめられたものであり、 初期のガン影響は無視されている。 我々の調査結果のような短い潜伏期間は、放射線被曝に関する他の疫学研究においても認められ ている。チェルノブイリ事故後しばらくしてスウェーデンで全ガンが増加したという我々の観察は

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ユニークなものではないし、また、特定の部位のガンが増えていたわけでもなかった。それゆえ、 放射線被曝は一般的なガン発生プロセスの後期に促進効果をもたらすのではないかと考えられる。 もっと大きな問題は、チェルノブイリ事故にともなう我々の被曝区分がセシウム 137 の地表沈着 量であり、食品や呼吸を通しての内部被曝を考慮していないことである。このことが重要になるの は、比較的地表汚染が小さくて、野イチゴ、キノコ、野鳥などの摂取量の多い地域で、そこでは内 部被曝が外部被曝より大きな値となる。政府規則に基づく摂取制限により被曝は低減するが、それ は主に高汚染地域についてであり、そこの人々の被曝量は摂取制限がない場合より減少した。しか しながら、我々の調査のような大集団について個人レベルでそのような情報を集めることは不可能 である。 我々の調査では、チェルノブイリ事故と甲状腺ガンとの関連は認められなかった。甲状腺ガンに 関しては、スウェーデン住民の安定ヨウ素の摂取状況は、甲状腺ガンが急激に増加した旧ソ連の子 供たちにくらべ良好である。 チェルノブイリ事故の関連した白血病の増加も観察されなかった。ウクライナからの最近の報告 を除き、旧ソ連内のもっとも大きな汚染をうけた地域においても、白血病の増加は観察されていな い。一方、放射線被曝と白血病のよく知られている関係は、原爆による、比較的大きな線量でしか も短時間の被曝によるものであり、低線量被曝の研究には適用できないかも知れない。 我々の調査の追跡期間はまだ短いものであり、スウェーデンでの放射能汚染とガン発生との因果関 係について結論的なことを述べるには、もっと長期間の調査が必要である。もしも我々が、ガン発生 プロセスの終わりでの促進効果を観察したのであれば、これからガン発生率が減少し、長い調査期間 全体では平常値におさまるといったことが起きるかも知れない。こうした考えも、将来の研究によっ て明らかにされるべき推測である。

(今中哲二 訳)

参考文献 Tondel M et al., “Increase of regional total cancer incidence in North Sweden due to the Chernobyl accident?” J Epidemiol Community Health 58:1011-1016, 2004. www.jech.com

※ 本稿は、「科学・人間・社会」No.952006 1 号(pp.3-7)に掲載された.

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