コミュニケーション・

メディア史 ⑥
歌のチカラ
戦時歌謡

唱歌・童謡に隠れた暗部

『我は海の子』文部省小学唱歌
一九一〇年、宮原晃一郎作詞
作曲者不詳。原曲は七番まで

『汽車ポッポ』

富原薫作詞,草川信作曲,1938年(昭和13年)

暗部とは

隠蔽される出自
• 『我は海の子』。海洋・海軍国家とし
ての日本を支える心意気。
• 『汽車ポッポ』。原題は『兵隊さんの汽
車』。出征する兵士を見送る歌。
1945年末の「紅白音楽試合」で川
田正子が歌唱するため,作詞者自ら
が時流に合わせて改作

歌のチカラ
• 1930年以降,ラジオと蓄音機の普
及で,日本は一気に「音楽大国」に
• 歌はもともと人々の感情・情動を揺
さぶるチカラを秘めている
• 日本軍政部ほど,歌のチカラを国民
精神の総動員に用いた組織はない
• しかし,人々は唯々諾々と従ったか?

プロパガンダ
• 特定の思想・世論・意識・行動へ誘
導する宣伝行為。情報戦,心理戦,
宣伝戦,世論戦
• 国体のあり方,ナショナリズム,国策
遂行,国家防衛の思想などを多面的
に擦り込むのが国策プロパガンダ
• 自由な言論の統制がセットになる

音楽プロパガンダ
• 愛国的な歌詞,他国を攻撃するよう
な歌詞,国家指導者を称える歌詞を
挿入し,繰り返し聞かせ,また歌わせ
ることで洗脳していく
• 『威風堂々』(英)・『ゴッド・ブレス・ア
メリカ』は“第二国歌”的位置付けの
プロパガンダ・ソング

歌謡曲の黄金期

『影を慕いて』

『人生の並木路』

戦前の最大ヒットで大傑作!
• 「故郷を捨てた」=大陸に渡ったと
暗示しつつ,「泣く」ほどつらかった
• 4番は「生きてゆこうよ 希望に燃え
て」と励ましに変わる
• 国民的な気分を,兄と妹との関係に
置き換えて歌い切る
• 国策とは対極にある

『蘇州夜曲』

映画『支那の夜』挿入歌
昭和十五年。
詞 西:條八十・曲 服:部良一

最も美しいセレナーデ
• 占領地である「蘇州」を舞台にした
“異国情緒”がキモではある
• しかし,メロディーはひたすら甘い
• 作曲の服部良一(死後,国民栄誉
賞)は,国策に抗い,軍歌・戦時歌謡
はいっさい作曲しなかった
• 戦後に,服部良一の花が開く

プロパガンダ歌
―公募歌―

紀元二千六百年

金鵄輝く日本の 榮ある光身にうけて
いまこそ祝へこの朝 紀元は二千六百年
あゝ 一億の胸はなる
歡喜あふるるこの土を しつかと我等ふみしめて
はるかに 仰ぐ大御言 紀元は二千六百年
あゝ 肇國の雲青し
荒ぶ世界に唯一つ ゆるがぬ御代に生立ちし
感謝は清き火と燃えて 紀元は二千六百年
あゝ 報國の血は勇む
潮ゆたけき 海原に 櫻と富士の影織りて
世紀の文化また新た 紀元は二千六百年
あゝ 燦爛のこの國威
正義凛たる旗の下 明朗アジヤうち建てん
力と意氣を示せ今 紀元は二千六百年
あゝ 彌榮の日はのぼる

紀元二千六百年とは?
• 神武天皇即位から数えた「皇紀」
• 1940(昭和15)年
• 公募歌(詞:増田好生,曲:森義八
郎)
• 奉祝歌なので,学校などで国歌とと
もに強制的に歌わされる第二国歌
• 「国民はすべて天皇陛下の赤子」
「戦争は御意による聖戦」の考え

公募歌『爆弾三勇士』
昭和七年

『アッツ島血戦勇士顕彰国民歌』
北千島のアッツ島守備隊が玉砕。
一九四三年五月。死者二六三八。
朝日新聞社が公募。山田耕作が曲。

藤田嗣治の絵

洋画家・藤田嗣治はアッツ島玉砕の絵を描いた。
藤田はこの作品を封印し,戦後はパリに住む

大陸侵略の国策

国策を歌う『建設の歌』

詞:西條八十・曲:古賀政男
昭和一五年。

『国境の町』

詞:大木惇夫・曲 阿:部武雄。
昭和九年。東海林太郎

『誰か故郷を想わざる』

『支那の夜』

音楽挺身隊
• 北原白秋・山田耕作・サトウハチ
ロー・古賀政男・古関裕而,第一線
の音楽家らが昭和16年に組織
• 第一作は合唱曲『大陸の黎明』
• 以後,彼らは,陸軍・海軍などのた
めに「軍事歌謡」を作り続ける

『愛国行進曲』

讀賣新聞社が軍の依頼で作った
「報道歌」。詞 西:條八十・曲 :
古関裕而。「いざ来いニミッツ
マッカーサー 出て来りゃ地獄
へ 逆落とし」と敵将名を読み
込んだため、西條八十は「戦
犯」訴追が必至と噂された

『比島決戦の歌』

軍歌

露営の歌

昭和十二年

露営の歌の四番
思えば今日の 戦闘に
朱に染まって にっこりと
笑って死んだ 戦友が
天皇陛下 万歳と
残した声が 忘らりょか

『麦と兵隊』

詞 藤:田まさと・曲:大村能章
昭和十四年。東海林太郎
徐州=中国江蘇省の都市名

『出征兵士を送る歌』

詞:生田大三郎・曲 林:伊佐緒
昭和十四年
大君=天皇

『同期の桜』

『同期の桜』五番
貴様と俺とは 同期の桜
離れ離れに 散ろうとも
花の都の 靖國神社
春の梢に 咲いて会おう
• 現在,再吹き込みされて販売される
『同期の桜』では,この五番の歌詞が
省略されるケースが多い

『月月火水木金金』

『若鷲の歌』

『加藤隼戦闘隊』

『ラバウル海軍航空隊』

『神風特別攻撃隊の歌』

最も愛された軍歌は?
• 厭戦的気分と「友を失う哀愁」に充
ちた『戦友』
• ラバウル島基地はアメリカが攻略す
る意味を見出さなかったため,終戦
までほとんど戦火を被らなかった。
そこで生まれた楽園的ムード溢れる
『ラバウル小唄』

『戦友』

『ラバウル小唄』

銃後の守り

『九段の母』

『愛国の母』

『父よあなたは強かった』

『兵隊さんよありがとう』

『そうだその意気』

『勝利の日まで』

『勝ちぬく僕等少国民』

国民が愛した歌謡曲

『名月赤城山』

『あゝ それなのに』

『二人は若い』

『湖畔の宿』

『純情二重奏』

『旅の夜風』

ノリつつサメる
• 戦時日本人の対応は面従腹背。プ
ロパガンダにノリつつ,サメていた
• 表では,勇ましい二(四)拍子の軍
歌・戦時歌謡を歌うけれど,隠れて
楽しむのはブンチャッチャッと馬鹿
にされたワルツやセレナーデ
• 体制賛美歌は敬遠する

音楽家の戦争責任
• 戦時歌謡に携わった音楽家が戦争
責任に問われることはなかった
• 音楽家の処世術として体制迎合の御
用作家化も一つの方法だが,その生
き方を拒絶した音楽家も多い
• 古賀政男らは「転向」して戦後の歌
謡界にも功績を残したが,贖罪は?

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