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ニュー・カルチュラル・スタディーズ

大山真司

03

批判的経営研究
Critical Management Studies

New Cultural Studies
Shinji Oyama
英語圏における新しいカルチュラル・スタディーズ(CS)の動向を紹介する連載第 3 回。

今回は、経営学の領域にありながら、CS に触発されて発展した批判的経営研究を紹介する。
CS に共通する批判的経営研究の実践的、かつ解放的なアプローチとは?

This essay, which is the third in a four-part series, introduces the history, theoretical scope and
key thinkers of critical management studies. CMS is a new sub-discipline within management
studies which, since having emerged in the 1990s, has firmly established itself in the UK resulting
in numerous publications, conference streams and a small but vibrant academic network devoted
to critical analysis of practices and management discourse. The emergence of CMS can be seen
as part of wider intellectual movements in the humanities and social sciences ignited partly by
cultural studies. CMS accordingly draws on very similar theoretical and intellectual traditions as
cultural studies. Management theory and discourse have significant influence on the directions of
our cultural and public life yet it has so far eluded the critical analysis of cultural studies. This essay
argues that new cultural studies would benefit greatly from paying more attention to management
practice and discourse, and learning from and working with critical management studies.

 前回まで見てきたように、カルチュラル・スタ
ディーズ( CS)を生んだイギリスの知的潮流は、

C M S の誕生

人文学・社会科学の内外の多くの学問領域に直

 私はロンドンに来る前の 10 年間、広告に加

接的、間接的な影響を及ぼしました。その中に

えて、ネット企業の経営企画業務を通じて財務

はいわゆる実学と呼ばれる法学、工学、医学(医

会計や人事、経営戦略など比較的幅広い業務を

療人文学)そして経営学も含まれます。今回は

経験しました。また修士の単位の多くをビジネ

イギリスの経営学とビジネススクールの中で発

ススクールで取得しました。研究職についてか

展してきた、批判的経営研究( CMS, Critical

らも専門領域である文化産業に限らず、企業経

Management Studies)をとり上げます。

営全般に強い関心を持ってきました。こうした
経緯もあり、現在所属するロンドン大学バーク
ベックカレッジのメディア・文化学部が経営学部
と共同で 2010 年にスタートした MA Creative

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は批判理論とポスト構造主義に強い影響を受け ると考えられており、比較的最近の出来事です。 た経営学の一派で、理論的、問題意識は CS と 多くの共通点があります。  経営学はイギリスでは学部生全体の 11%、文 系学生の 24.2%から 25.5%に選択される最も人気のある専 *1 アメリカでもビジネスを専攻する 攻科目です。 学部生の比率は 1970 年の 13.Industries(クリエイティブ産業論修士課程)の 共同責任者を務めてきました。これは CS と経 C M S の歴史と制度化 営学の知見、理論を合体させる試みですが、経  CMS は、主にイギリスの研究者が築き上げ 営学部の同僚と一緒に必修科目をデザインし、 た経営研究の方法論です。一般に、現在スウェー 議論をする中で、イギリスの経営学の中に CS デンのルンド大学のアルベッソンとマンチェス の影響を受けた CMS が存在することを知り、 ター大学のウィルモットの共著である Critical 非常に興味を持ちました。後述しますが、CMS Management Study( 1992.7% から大幅に 増えて、2011 年には 20.  経営学およびビジネススクールが生産する競 背景に、労働過程論、社会学、哲学、CS など 争やコストなどの言説・理念体系は、幅広いメ の学位を持つ研究者が一定数ビジネススクール ディアを通じて企業だけではなく、政府・公共部 に職を得ることになります。アメリカではビジネ 門、また我々の日常生活に深く浸透しています。 ススクールは 19 世紀後半から存在し、厳密な 文部科学省の有識者会議において、一部のトッ 科学を指向して他の社会科学に比べ相当程度自 プ大学以外は職業訓練校にすべきという提案で 律した発展を遂げてきました。これに対してイギ 波紋を呼んだ冨山和彦氏は元米系の戦略コンサ リスでは、1960 年代までビジネススクールは 2 ルタントですし、M B A(的)人材はあらゆる指 ➡ 3 )とビジネススクールの隆盛を 校しか存在せず、そのほとんどは 80 年代以降に 導的立場で活躍しています。しかしこうした巨大 誕生します。80 年代までには社会科学全体に な影響力にもかかわらず、主流派の経営学部内 反実証主義的態度、社会的構築主義が深く浸透 に批判的な言説はほぼ存在しません。C M S は していました。さらにビジネススクールは多くの 経営学部の内部からそうした事態への異議申し 場合社会科学の学部内につくられたため、教員 立てをしています。 は社会科学の批判的な伝統を共有・保持するこ とになります。こうした研究者はビジネススクー ルの役割に関する批判的な議論を続け、ニュー 107 .5% と最も人気のある 専攻になりました。修士レベルでも、MBA の学 生数の比率は 11.4% に倍増し、2 位 のコンピュータサイエンス、ほぼ半減した人文学 ( 8%)に大きな差をつけています。*2 日本でも、 たとえば明治大学の 2014 年の入学者数を見る と、商学部商学科と経営学部の3科を合わせて 1769 人。全入学者 7387人の 23%ですから、相 ➡ 2) 」に端を発す 制度化も進んでおり、1999 年以来隔年で CMS カンファレンスが開催されているほか、2015 年夏にはイギリスのレスターで Is There an Alternative? Management after Critique と いうテーマの CMS 学会が開催されます。アメ リカ経営学会 ( Academy of Management )も、 1998 年に CMS のワークショップを開催以降、 内部組織として CMS 部会を組織し、2015 年2 月現在、705 名の会員が登録しています。*3   イギリスとヨーロッパでの CMS の発展を 後押ししたと考えられているのは、アメリカ式 MBA のヨーロッパへの進出です。イギリスでは 1980 年代における社会科学全体、特に左派の 温床と見られた社会学への政府からの研究費 当な比率です。 削減( 2010.

ライト、ニューレフトを通じて強化されていく管 に対する態度になります。CMS で多用される理 理主義( Managerialism )に対して意義を唱え 論は、マルクス主義(労働過程分析、フランクフ ていくことになります。 ルト学派の批判理論、グラムシのヘゲモニー論) 、  経営学全体から見れば、CMS に関わる研究 フーコーを中心としたポスト構造主義、脱構造 者は Critter( 珍獣)と揶揄されるほど少数派で 主義、それからポストコロニアル理論なども含み す。 ( ➡ 6 )それでもロンドンシティ大学、ロンド ます。したがって引用されるこうした理論によっ ン大学クイーンメアリー校とロイヤルハロウェイ て CMS に輪郭を与えることが可能です。 校、大陸ではコペンハーゲン・ビジネススクー  CMS が主流派と決定的に異なるのは、経営 ル( CBS)、ルンド大学などのビジネススクール の有効性に対する態度の違いです。主流の経営 には CMS の研究者が多く集まっており、特に 学では、経営学の知見は、アウトプットの最大 レスターでは主流派ともいえる存在です。私と 化という目的に合致する限りにおいて価値があ 同時期にゴールドスミスカレッジの Centre for ると考えられます。そしてそれは使用される用語 Cultural Studies で博士号を得た友人も、CBS に決定的に現れます。たとえばジェンダーという とクイーンメアリーに職を得ています。また、ス 題材は、CMS にも主流派にも現れますが、主 チュアート・ホールと一緒にオープン大学 *4 の 流派ではそれは効率性の追求のために活用され 教科書シリーズを書いたポール・ドゥ・ゲイもそ るべき多様性の一部としてのみ扱われます。ジェ の後ウォーリック大学ビジネススクールを経て、 ンダーの不平等はここでは活用されない資源で 2008 年より CBS に所属し、CMS 関連の出版 あり、機会の平等は効率と有効性の言説のなか も多くあります。 (➡ 6)クイーンメアリーにはステ に押し込められています。また CMS は様々な ファノ・ハーニーのように、CS に深く関わってい 経営に関わる概念の脱自然化を指向しています。 る研究者も在籍していました。 (➡ 4) 主流派では組織、グローバル化や強欲・競争、 ヒエラルキー、そして市場といった概念、あるい はジェンダー、人種、企業内のヒエラルキーなど 何が批判的なのか? ─ 脱自然化、有効性、再帰的 *5 の構造は自然の所与のものとして議論されるの ですが、CMS ではそれを歴史における特定の 条件下で生まれたものと考え、したがって違った  CMS では、主流派の経営理論が客観的、価 在り方を提示することを指向します。また CMS 値中立的なものとして扱ってきた概念、思考様式 は常に再帰性に意識的です。 が脱自然化され、現実の経営の持つ権力作用、 不平等と支配の構造を隠 するものとして批判 されます。CMS は、経営の政治性を解明し、か つ経営学の内部からの批判により権力関係を変 C M S の事例 ─ 管理会計 質させることで組織や社会の変革を目指すとい 108 う、CS に共通する実践的かつ解放的な構えを  CMS に理論的なアイデンティティを与える 持ちます。CMS は非常に多様なプロジェクトで ことは可能ですが、CMS が扱う分野は多様で あり、内部でも批判的であることの根拠に関して す。発行以来、頻繁に引用される The Oxford は意見が分かれているのですが、大きな共通点 Handbook of Critical Management Studies は研究が依拠する理論群と、特に経営の有効性 (➡ 1)を見ると、理論的アプローチとしては批判 .

理論、批判的リアリズム、ポスト構造主義、そし 競って内面化し、自動制御された主体になりま て労働過程論などがあり、主要なトピックとして す。会計技術による統治は、個人が目標を達成 組織論と環境、組織における権力論、アイデン することで得られるポジティブな満足感、アイデ ティティ、グローバル化、言説分析、組織変革、 ンティティの構成や再確認を通じて可能になりま 倫理、ジェンダーと多様性が、そして適用分野と す。ここで可視化される会計的知識と権力関係 してはマーケティング、情報システム、戦略、コ の共犯関係は素朴ともいえるほど典型的なフー ミュニケーション、人事管理、会計があげられて コー的権力作用ですが、その分析は会計の実践 います。 や歴史への深い理解と精密な分析に根ざしてお  会計学を少し詳しく見てみましょう。主流派 り、会計や金融化をメタファーのレベルで使用 の会計学は、会計とは意思決定者の経済的かつ した議論とは一線を画します。多くの従業員が 理性的な決断に必要な客観的で中立的な判断 不満に感じる人事評価、個人・部門の業績評価、 材料を提供するものと考えてきました。それに あるいはもっと抽象的にネオリベ化、 け主義、 対して CMS の批判的会計学は、会計のイデオ 改悪などと様々に呼んでいる一連の変化を、その ロギーと政治的機能を強調します。研究対象は 会計的な根拠から精密に分析するのがこのフー 財務報告や会計士という職業の専門化など多岐 コー主義会計学の管理会計なのです。 にわたりますが、ここでは管理会計、とくにフー コー派会計学をとり上げます。  フーコー派会計学における方法論は、フー CMS と NCS コーの権力と知の共犯関係を会計現象に適用し  CMS は理論的には CS と共通することが多 明さ」ではなく、 「力の計算、関係の計算、富の いとはいえ、ニュー・カルチュラル・スタディー 計算、支配力というファクターの計算」などの計 ズ( NCS )の内部にあるというわけではありませ 算行為を決定的に重要なものとして扱います。 ん。むしろ前述したように、CS 的なものが、い フーコー派会計学が強調するのは、社会的に設 かに広範な影響を与えたかという例として理解 定された抽象的な統治プログラムを、会計という したいと思います。実際に CMS は CS に強い 統治のテクノロジーが支援するという構図です。 興味をもち、様々な理論や方法論をとり込んで 統治のテクノロジーとしての会計計算とはきわめ きました。 (➡ 5)ただ逆に、CS 側の無関心によっ てイデオロジカルなものです。しかしたとえば予 て、相互触発の機会は限られてきたという印象 算管理、コストセンターなどの管理会計のテクノ があります。マンチェスター大学を拠点にした研 ロジーは中立的な装いをまとい、従業員を数値 究プロジェクトの CRESC *6 、あるいはマンチェ 化、分類化、ランク化によって同質化と同時に スター大学ビジネススクールの会計学の教授で 異質化し、規律・支配できる主体として構築して CMS の中心人物であるカレル・ウィリアムズ、 いきます。業績は数値化され、報告・監視され、 ラトゥールと並んでアクターネットワーク理論の そして許容されるレベルからの偏差によって報 提唱者であるミシェル・カロン、CS の大物ロー 奨と懲罰の対象となります。 レンス・グロスバーグなどが編集委員に名を連ね  もちろんフーコーが指摘するように、規律は る Journal of Cultural Economy 、またジャー 上から押しつけられるだけではありません。従 ナルの Ephemera *7 などは、そうした相互触発 業員は自身の業績を常に評価し、規律の規範を の数少ない成果であると思います。 ニュー・カルチュラル・スタディーズ たものです。フーコーは権力の行使において、 「賢 03 New Cultural Studies 03 109 .

Hassard (2011). Willmott (1992). Hanlon. Parker.20. V.ephemerajournal.econ. M. Sage. Temple University Press. (2002).asp *3 http://aom. S. The Dark Side of Management: A Secret History of Management Theory. (2010). (2015). T. Cultural Studies 24(3): 431-444. C. Cambridge. and H. Critical Management Studies: A Reader. Academy of Management Review 36(2): 318-337. M. それでは NCS は、CMS から何を学び、それ をどのように使えるのでしょうか? CMS は、経 References ➡1 Alvesson. ➡3 Fournier. ➡2 Alvesson. How Come the Critters Came to Be Teaching in Business Schools? Contradictions in the Institutionalization of Critical Management Studies. Bridgman and H. Management. Organization 18(5): 673-689.org *4 通信教育を行っているイギリスの公立大学。日本 の放送大学はこのオープン大学をモデルに創設 された。 *5 http://w w w. P. Oxford. ➡6 Rowlinson. Willmott (2009). Routledge. and the Creative Industries.jp/~takaura / business_ethics_glossar y. Grey. and J. M.cresc.ac. (2015). M. Fleming and G. Polity.uk/stats *2 http://nces.. The Oxford Handbook of Critical Management Studies. and H. 110 . P. London. C.hesa. Against Management: Organization in the Age of Managerialism. G. Oxford University Press.ed. At the Critical Moment: Conditions and Prospects for Critical Management Studies.gov/programs/digest/d13/ tables/dt13_318.html#critical_ management_studies *6 http://www. Human Relations 53(1): 7-32.ac.ac.. Resisting Work: The Corporatization of Life and Its Discontents. 営という CS にとってほとんど手つかずで膨大な 研究対象を、すでに我々がある程度なじんだ語 彙を使って切り取り、解説してくれています。起 業家精神、リーダーシップ、戦略、イノベーション、 組織文化、人事管理、ワークライフバランス、競 争力、報酬理論、モチベーション論。こうした経 営学の概念、トレンドは我々の社会生活にます ます強い影響を及ぼすことになります。その影 響力を考えるとき、経営とその周辺に構築された フレームワークや概念などの自明性を問い直して いく作業は、CS の初期の雑食性をとり戻すきっ かけになるのかもしれません。 *1 https://www. Critical Management Studies.tohoku. ➡4 Harney.org CMS 参考文献 Fleming. Oxford University Press. Hanlon (2011). Willmott (2005). From Borrowing to Blending: Rethinking the Process of Organizational Theory Building. and C.uk *7 http://www. Oxford. Unfinished Business: Labour. ➡5 Oswick. Grey (2010).

Professor of Organizational Sociology. Queen Mary School of Business and Management ( 2015 年 2 月メールインタビュー) Dr José Ossandón. Director of Institute for Cultural and Creative Entrepreneurship. Department of Organization. former Lecturer. Gregor Claude.協力 Dr. Richard Hull. Queen Mary School of Business and Management( 2015 年 2 月 27 日クイーンメア リーにてインタビュー) Dr. Gerard Hanlon. Copenhagen Business School ( 2015 年 2 月メールインタビュー) Dr. Goldsmiths College( 2015 年 2 月 25 日ゴールドスミスにてイン タビュー) ニュー・カルチュラル・スタディーズ 03 New Cultural Studies 03 111 .