ひと
増井 俊之氏
米 Apple Inc.
できる限りGUIを減らしたい
　高校時代からアセンブラでのプログラミングなどソ
フトウエアに興味がありました。富士通では半導体
チップというハードウエアの開発が担当だったのです
が，
「ソフトウエアの仕事がしたい」という思いが高じ
て，シャープに転職。そこでワープロ向けなど独自の
GUIの開発を手掛け，それ以後は新しい職場に呼ば
れる形で今までやってきました。
　Apple社への移籍は2006年5月の「ちょっと話を
しに来ないか」という突然の電話がきっかけでした。
ほんの見学のつもりで行くと，CEOのSteve Jobs氏
が同席する面接試験が待ち構えていました。Apple
社の魅力は，ソフトウエアの新しいアイデアをすぐに
端末として実用化できる可能性があるところ。社内
は，新人がすぐ働ける機能的な環境が整っています。
それでいて一緒にピクニックに行くなど家族的な雰
囲気で，関西系の企業に似ています。
予測入力は検索技術の研究が基に
　現在，日本の携帯電話機で広く使われている「予
測入力」は，私がソニーコンピュータサイエンス研究
所にいた1996年ころに開発したものです。当時，ワ
ープロやパソコンで単語を辞書検索する際の打鍵の
回数を減らすために，単語の先頭部分の情報と統計
情報などを用いて検索候補を絞り込む「あいまい検
索」の研究をしていました。そこで，この技術が辞書
検索に限らず一般の文章の入力にも応用できること
にふと気が付いたのが，予測入力の始まりです。
　予測入力が成功した理由の一つは，最近よく使っ
大学院での修士論文のテーマは， 「コンパイラの自動生成」 。1984 年に富
士通に入社後，シャープ，米 Carnegie Mellon University，ソニーコン
ピュータサイエンス研究所，産業技術総合研究所を経て，2006 年10 月に
米国シリコンバレーの Apple Computer, Inc.（現 Apple Inc.）
に移籍。
ている単語がトップに来る，といった単純なアルゴリ
ズムを採用したことです。それまでも入力内容を予
測するアルゴリズムはありましたが，考慮する要素を
増やし過ぎてかえって望む単語や文章がなかなか出
てこないというものになっていました。
　それ以後は「実世界GUI」が大きな研究テーマに
なりました。これは，家電などの機器はできる限り直
接操作できるようにし，それによって従来のGUIの
数を減らすことを目指すものです。例えば針を合わ
せるだけでセットできる目覚まし時計を参考にすれ
ば，ビデオ予約の複雑なGUIは不要になります。重
要なのは実際に機器を触って操作することです。照
明をつけるのに壁にあるスイッチを使うのでは，まだ
間接的。スイッチと照明の対応関係を頭に入れて使
う必要があるからです。
　各種センサをコンピュータと実世界のインタフェー
スに用いることも，GUIを減らす上で有望な手段かも
しれません。例えば切符の券売機のGUIをより簡単
にするにはどうすべきかといった研究がありましたが，
非接触ICカードの「Suica」などの登場で，券売機の
GUIを研究する意味自体が薄れてしまいました。
（談）

 （野澤 哲生）
NIKKEI ELECTRONICS 2007.6.4
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