米国で暗躍する中国諜報機関 JBpress 03/05/09 12:33 AM

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米国で暗躍する中国諜報機関
中国株式会社の研究∼その5
2009年05月01日（Fri） 宮家 邦彦

 前々回書いた「武装する中国株式会社」を象徴するような事件が最近続出している。

 3月初旬、海南島沖で多数の中国船が米海軍調査船に対
する妨害行為を繰り返した。その2週間後、中国の梁光烈
国防相は浜田靖一防衛大臣に空母建造の意思を表明する。
5月からは、日米欧の強い反対を押し切って、中国が外国
企業にIT関連情報の開示を義務付ける予定だ。

 それぞれ別個のニュースにも見えるが、これら一連の事
米国防総省は、南シナ海の公海
件は、「中国株式会社」が必要であれば軍事的、強制的手 上で8日、5隻の中国艦船が、米
段を用いてでも、国家意思を実現するという強い決意を示 海軍の非武装の調査船「イン
すものと見るべきだ。 ペッカブ（写真）」に対し、約
8メートル以内に近づくなどの
危険な妨害行為を行ったと発表
 今回から数回に分けて、「中国株式会社」の中でも最も した〔AFPBB News〕
秘密のベールに包まれた調査部門（諜報機関）と警備部門
（人民解放軍）が「中国共産党生き残り」のために果たす
役割を検証していく。

ソースコードの重要性

 中国が5月から開示を求めるのは「中国で生産・販売する外国製のIT製品のソースコー
ド」だ。報道では「ソースコードとは、コンピューター言語で書かれたソフトウエアの設
計図」とされているが、それがどれだけ大事かは素人には分かりにくい。

 筆者自身、「ソースコード」なる語を初めて聞いたのは
21年前、外務省で当時のFSX（次期航空自衛隊支援戦闘
機）の日米共同開発問題を担当していた1988年の夏であ
る。その際、日米間の最大の懸案の1つがこのソースコー
ドの開示をめぐる攻防であった。

 米側は、共同開発のベースであるF16の航空管制電子機 米ネバダ（Nevada）州インディ
アンスプリングズ近郊の演習場
器用のソフトは「オブジェクトコード」しか日本側に開示
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アンスプリングズ近郊の演習場
器用のソフトは「オブジェクトコード」しか日本側に開示
上空を飛ぶF-16C戦闘機
しないと強硬に主張、ついに最後まで「ソースコード」は （2007年9月14日撮影、資料写
開示しなかった。理由は簡単、マシン言語で書かれた「オ 真）〔AFPBB News〕
ブジェクトコード」だけではソフトの真の構造が分からな
いからだ。

 FSXだけではない。通常の営利企業ならソフトウエアの核心である「ソースコード」を
無償で開示することはない。まして最先端のソフトであれば「ソースコード」など門外不
出である。だからこそ、自前の技術開発力に乏しい「中国株式会社」にとって、こうした
最新先端技術の獲得は死活的に重要なのだ。

 始末の悪いことに、「武装する中国株式会社」はそのためなら手段を選ばない。しか
も、その活動は1949年の中華人民共和国成立直後から一貫して続いているのだ。

在米中国企業3000社に潜在するスパイ

 モラー連邦捜査局（FBI）長官（当時）は2003年の議会
証言で「現在米国にはスパイ活動を行う中国の“偽装会
社”が3000社以上存在する」と述べた。中国は過去20年
以上にわたり米国内に巨大で多様な情報収集インフラを作
りつつあり、最近摘発されたスパイ事件は氷山の一角に過
ぎない。
米国のセキュリティーソフト会
 今後とも米国における中国の諜報活動の大半はHUMINT 社は世界で最も危険なドメイン
（人的諜報活動）と公開情報収集である。 は香港だと発表(2008年）。日
本のドメインは最も安全と認定
された。写真は香港のタクシー
 これらはすべて公然の秘密である。今回のソースコード 〔AFPBB News〕
開示の強制も、こうした情報収集活動の延長上にあるの
だ。

 現在米国では数千人の中国人スパイが活動中であり、最近では米捜査当局が捜査に着手
した米国技術違法流出事件のほぼ半分が中国絡みだとすら言われる。

 米国の国家防諜局（Office of the National Counterintelligence Executive）のブレ

ナー局長（当時）も、米国における中国の諜報活動は「キューバ、ロシア、イランの諜報
機関よりも重大な問題」であり、「米国の先端技術を極めて攻撃的な手法で取得しようと
している」と認めているほどだ。

対米秘密工作の変遷

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 さらに詳しく、米国における中国の諜報活動を見ていこ
う。冷戦時代、クリントン時代、ブッシュ時代の3期に分
けると理解しやすい。

 第1期の冷戦時代は古典的な「プロによるエスピオナー
ジ」の時代だ。

 1985年に逮捕されたラリー・チン（Larry Chin）のス 中国国家安全部で諜報活動を

行っていたという李鳳智（Li
パイ活動は冷戦直後の1952年にまで遡ると言われる。当 Fengzhi）氏（40）は、今年3
時米国に渡航できる中国本土出身者が少なかったこともあ 月、米国に亡命申請した
り、中国の諜報活動は、米国政府内の中国系米国人を「一 〔AFPBB News〕
本釣り」する手法が主流であった。こうした傾向は概ね
1980年代まで続いたようだ。

 1990年代に入り、冷戦も終結し、対米工作をめぐる環境は大きく変化する。共産主義
諸国に厳しかった共和党政権に代わり、民主党のクリントン大統領が就任したからだ。中
国はこのチャンスを逃さなかった。

 クリントンの故郷リトルロックの中華料理店主を含む様々な中国系米国人ルートを通じ
て、クリントン政権に対する「選挙用献金」という名の現ナマ作戦を開始する。一連の工
作で、中国はクリントン政権に対し500万ドル以上の献金を行ったとすら言われる。

 この対米工作には一定の成果があった。大統領選挙中は対中批判を繰り返していたクリ
ントン政権が、就任後は先端技術の対中輸出政策を徐々に軟化させ、1996年には中国が
米国製ミサイルに関する機密情報の入手に成功したと噂されている。

 しかし、こうした成功も長くは続かなかった。クリント
ン政権末期には中国系米国人による不正献金問題が政治問
題化し、1999年にはロスアラモス研究所の中国系米国人
学者が逮捕されるなど、米国内で中国の対米諜報工作に対
する批判が逆に高まったからだ。

 2001年にブッシュ政権が登場してから、中国絡みのス カリフォルニア州連邦地裁は
パイ事件は報道されたものだけでも十数件ある。「権力の 2008年、米海軍情報持ち出した
中国系技術者に禁固24年を言い
中枢にいる者を現金で買収する」という中国ではごく当た 渡した。写真はロサンゼルス級
り前の手法がもはや通用しなくなったことを悟った中国は 攻撃型原潜フィラデルフィア
方針変更を迫られたようだ。 〔AFPBB News〕

一般中国人をスパイに

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 幸い、1980年代から本格化した「改革開放政策」によ
り多くの中国人が米国に入国できるようになった。現在中
国は米国に7つの在外公館と2750もの「商業事務所」を維
持している。

 10万人以上の中国人学生が勉学し、毎年2万7000人の
中国代表団が米国を訪問する。米国への中国人移民は毎年
2万人（不法入国者も含めればその数倍）も増えている。 マイク・マコネル米国家情報長
官は2007年、中国が米国内で冷
戦時代と同レベルの諜報活動を
 どうやら「中国株式会社」はこの巨大なマンパワーに目 行っていると警告した〔AFPBB
をつけたようだ。現在の諜報活動の主流は学生、学者、技 News〕
術者のような諜報工作の「素人」集団である。むろん、米
国だけではなく、この種の活動は欧州、日本などでも活発
に行われていることであろう。

 次回は、中国の諜報機関が如何にしてこれら中国人に情報を収集させているかを詳しく
見ていきたい。次ページには最近の中国系米国人等による情報収集活動をまとめてみた。

1985年11月 Larry Wu-tai Chin（金無怠）

 1985年11月、中央情報局（CIA）の通訳であったLarry Chinは1952年から米国政府
の機密文書を中国に売り渡していた容疑で逮捕され、翌1986年スパイと脱税容疑で有罪
となったが、同年刑務所内で自殺した。

1992年∼ John Huang（ジョン・フアン）＝中国政府の違法献金支援疑惑あり

 クリントン候補がインドネシア華僑系財閥で人民解放軍と関係が噂された「リッポー・
グループ」から約400万ドルの不正献金を授受した疑惑。在米代表ジョン・フアンが選挙
後に商務省副次官補に抜擢され、CIA中国関係秘密資料を閲覧した疑惑。

1996年2月 Charlie Trie（チャーリー・トリー）＝中国政府の違法献金支援疑惑あり

 リトルロックの中国料理店主トリーはクリントンのセクハラ訴訟で63万ドルの献金、
さらにクリントン再選で65万ドルを民主党全国大会に寄付。1996年2月にはホワイトハ
ウスで「保利集団」王軍会長（王震元国家副主席の息子）がクリントンと面会。

1996年6月 Johnny Chung（ジョニー・チュン）＝中国政府の違法献金支援疑惑あり

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 1996年6月に中国人民解放軍傘下の「中国航天国際公司」の劉朝英（劉華清・元中央
軍事委副主席の娘）から選挙資金として約30万ドルの秘密資金を受け取り、約10万ドル
を民主党全国委員会に献金、その後1996年7月に劉朝英をクリントンに会わせたと言わ
れる。1998年3月に詐欺・脱税で起訴された。

1997年 Peter H. Lee（ピーター・リー）

 国防省関係企業に勤める物理学者が1985年と1997年5月に潜水艦を追尾するレーダー
技術に関する機密情報を北京・中国科学院での講義中に漏らした容疑で起訴され、1998
年3月に有罪（2000ドルの罰金と3000時間の労働奉仕）が確定。

1999年3月 李文和（ウェン・ホー・リー、Wen Ho Lee）

 1999年3月、ロスアラモス研究所を突然解雇され、1999年12月に米国の最新核弾頭
に関する情報を持ち出したとして逮捕・起訴されたが、結局機密漏洩の事実は立証でき
ず、2000年9月に釈放。1999年5月25日に米下院がCox Reportを発表。

2001年11月 Fei Ye（葉飛、40歳）、Ming Zhong（鍾明、39歳）

 両容疑者は中国東部の杭州市当局などが出資する技術企業に設計情報を渡すため、米国
IT企業からマイクロプロセッサーの設計情報を盗み、2001年11月にFBIに逮捕され、
2002年12月に起訴された。

2003年4月9日 Katrina Leung（陳文英、49歳）、James Smith（59歳）

 1983年からFBI協力者リョン容疑者は中国に再三渡航、FBIの担当者で愛人でもあった
スミス容疑者を通じて入手した機密情報を中国側に提供した容疑等で逮捕・起訴、リョン
容疑者の訴追は司法手続き不備により2005年1月6日棄却。

2005年5月26日 陳用林（37歳）

 2005年5月26日、在シドニー中国領事の陳一等書記官は妻子とともに政治亡命。現在
は豪政府から永住が認められシドニー市内在住。豪州には中国のスパイが1000人いる、
米国にはその3倍のスパイがいると聞いているなどと述べた。

2005年6月17日 ハオ鳳軍（Hao Feng Jun）

 カナダ進歩保守党副党首は「先般豪州で亡命申請したハオ鳳軍元中国警官の提供した情
報によると、カナダにおける中国のスパイは1000人を超えており、カナダでも法輪功学
習者の活動に対して、威嚇と妨害などの手段を取っている」と述べた。
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習者の活動に対して、威嚇と妨害などの手段を取っている」と述べた。

2005年10月 麦大泓 （56歳）、麦大志（Chi Mak、66歳）

 2005年10月、イージス艦等米海軍艦船の先端技術情報を記録したCD-ROMを中国に
持ち出そうとした容疑でFBIは香港に出国しようとしたマック被告の実弟夫婦をロサンゼ
ルス空港内で逮捕、マック被告夫婦も自宅内で逮捕した。

2006年12月 Xiaodong Meng

 シリコンバレーのソフト会社「クヮンタム3D」の技術者Mengは、同社開発の軍事訓
練用シミュレーション装置他多数製品のタイ空軍、マレーシア空軍及び中国軍事関連会社
に対する不正売却容疑で逮捕され、2006年12月14日に起訴された。

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