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【09衆院選】選択の焦点(1)年金�民主は改革先送り、自民

の 約束 も疑問
2009.8.19 22:37

�衆院選公示を数日後に控えた社会保険庁の新宿年金相談センター。建築会社経営の69歳
の男性は相談後、ため息まじりに語った。

�「国民年金だけじゃ少ない。まだ働いているよ」

�平成19年度の国民年金の平均支給額は月約4万9千円。満額でも約6万6千円にすぎず、
大都市部の単身高齢者で8万円ほど支給される生活保護よりも少ない。未納や免除期間が
あれば、さらに目減りする。

�社保庁の不祥事が相次ぎ、国民の年金不信は頂点に達している。受益と負担の世代間格差
は広がりをみせ、昨年度の国民年金納付率は過去最低の62・1%に落ち込んだ。

�����◇

�「実態解明は登山の1合目。政権交代できたら、ひき出しの中まで開けて実態を出させる」。
9日のNHKの討論番組で、民主党の長妻昭政調会長代理は記録問題解決に向けての意気
込みを熱く語った。

�年金政策で民主党が最優先に位置づけたのが、記録問題だ。基礎年金番号に未統合の「宙
に浮いた記録」で未解明は1695万件残る。社保庁職員による改竄(かいざん)なども発覚し
た。

�年金政策は、記録問題解決と年金制度そのものの改革が2本柱となる。民主党のマニフェス
トの工程表では、記録問題解決については22、23年度を「集中対応期間」と位置づけて最優
先で取り組み、年金制度については、制度設計を24年度、関連法成立を25年度までに先送
りした。

�なぜ同時並行で進めないのか。直嶋正行政調会長は「国民の年金への信頼を回復していく
ことが大事」と、記録問題優先の理由を説明している。年金不信を決定的にした記録問題の
解決なくして、制度改革への理解は得られないというのが民主党の立場だ。

�しかし、民主党の意図について、楽天証券経済研究所の山崎元・客員研究員は「制度改革

http://sankei.jp.msn.com/politics/election/090819/elc0908192240025-c.htm
議論は記録問題への対応と同時にできる。だが、民主党は制度改革では、最低保障年金の
財源を消費税とした。来年の参院選で消費税増税を掲げて戦いたくないのだろう」と読む。政
権樹立直後から制度改革の議論に入れば、消費税アップに言及せざるを得なくなり、参院選
では不利に働くというわけだ。逆に、記録問題は、19年の参院選での民主党大勝の一因であ
り、国民うけがいい。

�民主党の記録問題解決に向けた基本姿勢は、「8億5千万件の紙台帳を使って、オンライン
記録の入力ミスを修正することを優先的に行う」という考え方だ。オンライン記録に入力ミス
がある以上、これを手掛かりに解明作業を行う政府の現在の取り組みは合理的ではないとの
判断である。「集中対応期間」に人員や財源(2千億円)を投入し照合に取り組むのもこのため
だ。

�民主党は、総務省の年金記録確認第三者委員会が物証がなくとも積極認定するよう基準も
緩和する。「年金通帳」で自分の記録をいつでも確認できるようにもする。ただ、照合手段や
解決のめどは明確ではない。「オンライン化後に記録更新されているケースもあり無駄な作
業」(野村修也中央大法科大学院教授)といった厳しい見方もある。

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�自民党の記録問題のスタンスは、紙台帳との全件照合より、国民の協力を得てできるものか
ら解決する方が効率的との考え方だ。

�国民に直接確認を促す「ねんきん特別便」が、対象1億873万人のうち7141万人の確認を
終えるなど一定の成果を上げたことへの自負もある。マニフェストでは現行対策の着実な推
進をうたった。

�だが、記録問題に詳しい谷沢忠彦弁護士は「問題発覚から2年以上経過しても全容が明らか
にされず、自民党案は信用できない。保険料納付を否定する明確な証拠がない限り支払うぐ
らいしないと解決にはならない」と指摘する。

�自民党はマニフェストで、「来年末をめどに解決させる」と、解決時期を明確化した。「解決」
の意味について、園田博之政調会長代理は「記録照合を終え、間違いも全部正して年金を払
える状態」という。

�これまでの政府方針は、オンライン記録と紙台帳記録との照合は22、23年度は申し出た
人、その後は全受給・加入者に対して計画的に実施するというもので、舛添要一厚生労働相
は政府方針を「10年かかるかもしれない」と説明してきた。今回はこれを大幅に前倒しする約
束をしたわけで、実現できるあてがあるのか疑問だ。

�����◇

�年金制度で各党が重視するのが、形骸(けいがい)化した最低保障年金の改善だ。この問題
では、年金給付の最低額引き上げと無年金者救済が焦点となる。無年金者(無年金となる見

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込みの人も含む)は推定約118万人。国民年金では、低年金に陥って老後が不安視される非
正規社員や無職者が過半数を占める。このまま放置すれば、将来、深刻な社会問題になりか
ねない。

�各党の立場は、現行制度の手直しか制度の作り直しかで大きく異なる。

�自民党の基本的考え方は、基礎年金の財源を税金と保険料とで賄う「保険方式」の堅持だ。
制度の大枠を変えることなく、見直すべき点の修正・強化を図る。重きを置くのは、無年金・低
年金対策だ。

�「年金を受け取るのに必要な期間は現行25年だが、短縮を検討したい」。麻生太郎首相は、
年金受給資格を得るための最低加入期間の短縮を掲げ、公明党との共通公約では最低加
入期間を「10年」とした。

�だが、10年に短縮した場合の問題点も多い。加入期間が短くなる分、受給額も少なくなる。
これでは無年金者は減るが、低年金者を増やすことになる。低所得者向け保険料免除を40
年受けた人の国民年金が月額3万3000円なのに、保険料を10年納めた人は1万6500円
にとどまるという 逆転 も起こる。

�細田博之幹事長は最低支給額の引き上げが課題との認識を示したが、財源を含め具体策
は示していない。税金で救済すれば、保険料を支払ってきた人との不公平が生じる。専門家
からは「無年金・低年金対策は意味があるが、それで年金空洞化という根本問題の解決とは
ならない」との指摘も聞かれる。

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�「現行制度の微修正では100年安心の制度にはならない」。民主党の長妻昭政調会長代理
は現行制度の限界を繰り返し訴える。民主党の主張は抜本改革だ。

�職業にかかわらず制度を一元化し、納めた保険料に応じて受給額が決まる「所得比例年金」
をベースに、低所得者には消費税を財源に満額で月7万円の「最低保障年金」を支給する。
所得比例年金の保険料算定のため、個人所得額を把握する納税者番号制度を導入、「歳入
庁」も創設する。

�実現すれば基本的に未納や低年金・無年金問題は解消する。

�だが、民主党は制度の細部を依然として明らかにしていない。最低保障年金の場合、平成
19年の参院選では小沢一郎代表(当時)が「年収600万円前後から減額し、1200万円超で
打ち切る」と明言したが、今回の衆院選マニフェストでは明示していない。財源に充てる消費
税も「数十年かけて新制度に移行することから、当初の必要財源は小さく、税率引き上げは当
面必要ない」とするが、移行期間が「20年」か「40年」か説明が定まらない。これでは「当面」
がどれぐらいの期間か分からない。

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�制度一元化の課題も大きい。保険料は収入の15%で、会社員は労使折半だが、国民年金
加入者は会社負担分がない分、負担は大きくなる。給付額は現行と同水準もしくは若干上回
るとしているが、具体額は明らかでない。

�民主党の年金改革案は15年の衆院選で打ち出して以来、同党の目玉政策だっただけに、
「民主党の年金改革案はスローガン程度で、抜本改革を言い始めて5年間も細部を明らかに
していない。うまい政治戦略だとは思う」(権丈(けんじよう)善一慶応大教授、7月10日付産
経新聞インタビュー)といった痛烈な皮肉も聞こえてくる。

�移行期間が長いこともさまざまな課題を残す。移行中は現行制度が並存するためだ。民主
党は政権を取れば、移行完了までは、現制度で生じている無年金・低年金者問題などの課題
への責任も負うことになる。この点は、マニフェストでは触れていない。

�民主党幹部は「無年金・低年金者には給付付き税額控除などで対応する」とするが、自民党
は「(新制度移行に)何十年もかかるなら、無年金・低年金で苦しむ方々に対応することに全く
ならない」(麻生首相)と批判する。

�国民との長期契約である年金制度が、政権交代のたびに変更したのでは混乱を招く。自民
党は「社会保障制度改革国民会議」の法整備や、超党派協議機関の早期設置を掲げた。民
主党の鳩山由紀夫代表は「協議をするのは重要だ」と前向き姿勢を示しているが、協議機関
に応じる場合でも、制度改革を工程表通りに進められるか不透明だ。

(桑原雄尚、河合雅司)

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�衆院選投開票日の30日に向け、各党の熱い論戦が繰り広げられている。今回の選挙は「政
権選択」が最大の焦点。政権交代の可能性も指摘される中、自民、民主の二大政党を中心
に、日本の将来を左右する各党のマニフェスト(政権公約)を政策別に点検する。

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