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み か づ き

うた

まき

三日月の歌の巻

むかしむかし―――――。 海辺の小さな村に ピオという


うつく うみべ ちい むら うた うた あか は ね ことり

美 しい歌を歌う 赤い羽根の小鳥が いました。

ピオは アンのまくらもとで 毎日 歌を歌いました。


しょうじょ

まいにち うた

うた

少 女 のアンは、病気のために 一 日 中 ベッドの上。
あそ い うた いちばん たの

びょうき

いちにちじゅう

うえ

どこにも遊びに行くことが できません。 だから、ピオの歌が 一番の楽しみでした。 アンがねむりにつく時、ピオは とっておきの歌を 歌いました。 その歌を聞くと アンは、いつも すてきな夢を見ました。 そして、病気の苦しみを 忘 れることができたのです。 「ピオの歌があるから アンは病気と 戦 えるの。ピオ、ありがとう」
うた びょうき たたか びょうき くる わす うた き ゆめ み とき うた うた

ところが、ある日―――――。 ピオは、とつぜん 歌を歌えなくなって しまいました。 それは、アンが大好きだった とっておきの歌です。 アンは悲しみ、病気が ひどくなってしまいました。


よう かな びょうき だいす うた うた うた

「おまえなんか、もう用なしだ!」 おこったアンのパパは ピオを うらの森に すててしまいました。


もり

もり

森の巨木の根もとで ピオは 泣きつづけました。

きょぼく

「ごめんねアン。ボクのせいで 病気が もっとわるくなったチュ」 ピオは、その 美 しい羽を くちばしで むしりとると


きょぼく うつく はね ね

びょうき

巨木の根もとに おきました。 「巨木さんは、この森の神様なんでチュ? ボクのこの羽を あげるチュ……。 だから、アンの病気を なおしてチュ!」 ピオは、また羽を むしりとりました。 「アンは、巣からおちて けがをしたボクを
たす す そだ はね びょうき はね きょぼく もり かみさま

助けて育ててくれたチュ……。 とってもやさしい子チュ!」 ピオの 涙 が ポトポトと 巨木の根もとに落ちました。


なみだ きょぼく ね お こ

泣きつづけるピオに だれかが 声をかけました。 「ピオ。そんなことしたら 飛べなくなるロン」 「飛べなければ 死んでしまうワン!」 「えっ!? だれチュ?」


かお と し と

こえ

顔を上げたピオの前に、なんと 巨木よりも大きな オレンジ色の巨人と うすよごれた犬が 立っていました。


いろ きょじん いぬ た

まえ

きょぼく

おお

きょじん

巨人は、ピオから もらい泣きしています。 「オデは、ボノロンだロン。 オメの願いをかなえるために 巨木 の森タスムンから来たロン」


いぬ ねが きょぼく もり き

犬も、やさしく ほほえんでいます。 ボノロンとゴンは、ピオの願いは アンの病気を なおすことだと思ってい ます。 だから、ゴンは ちょっと悲しい顔をして 言いました。 「でもね…人を生きかえらせたり 病気 をなおすことは できないワン! それいがいなら、ひとつだけ かなえるワン!」
ひと い びょうき かな かお い ねが びょうき おも

でも、ピオの願いは ちがいました。 「だったら、アンを三日月の船に 乗せてあげてチュ!」 おどろいたボノロンは 空を指さしました。 「もしかして 三日月って……空の?」 「そうだチュ」 「そんな むちゃだワン!」 ボノロンとゴンは、こまってしまいまいた。
み か づ き そら そら ゆび み か づ き ふね の

ねが

ボノロンたちは 海辺から 三日月を見ています。


くも

うみべ

み か づ き

雲のすきまから 月がぽっかりと 顔をのぞかせています。 その月を見て ボノロンはポツリと 言いました。 「たしかに、三日月は 空にうかぶ 船みたいだロン」 「ああ、でも……月の船だワン。 乗るのはむりだワン……」 「どこにも行けないアンが 一番好きだったのは、部屋の窓から見える あの三日月だったチュ。
いちばんす へ や まど み み か づ き い の つき ふね み か づ き そら ふね つき み い

つき

かお

アンは、いつも夢の中で あの三日月の船に乗って たびをするのが 大好きだと言ってたチュ…」


だいす い

ゆめ

なか

み か づ き

ふね

すると、ボノロンは立ち上がり ゴンとピオを 背中に乗せて 空にまい上がりました。 「ピオ、もう歌を 思い出さなくていいロン!」 ボノロンは、なにをする気なのでしょう? ゴンもピオも 心配になりました。 ボノロンは 高く高く まい上がります。 そして、とうとう 空の雲を つきぬけました。
そら くも たか たか あ しんぱい き うた おも だ せなか の そら あ

「ああっ! す…すごいチュ!」 そこには ピオもゴンも見たこともない けしきが ひろがっています。 そこから見える三日月は、まるで 雲の海に うかぶ船。 それも さらにかがやきがました 黄金の船だったのです。
おうごん ふね み み か づ き くも うみ ふね み

「さあ、このけしきを 歌にするロン!」 「チュチュ?」 ピオには 意味が わかりません。 「ピオは、アンが大好きロン! だから、オメは アンが大好きな 三日月を 歌にしたんだロン! その歌を聞いて アンは夢の中で 三日月の船に 乗っていたんだロン!」 その言葉に ピオの顔が 明るくなりました。 「だから、 新 しい三日月の歌を つくるロン!」 ゴンも ピオをはげまします。 「今度の三日月は、雲にうかぶ 黄金の船だワン!」 「わかったチュ! ボクの 新 しい歌で アンを 三日月の船に 乗せてあげる チュ!」 ピオの顔は、三日月とおなじ 黄金色に かがやいています。
かお み か づ き こがねいろ あたら うた み か づ き ふね の こんど み か づ き くも おうごん ふね あたら み か づ き うた ことば かお あか うた き ゆめ なか み か づ き ふね の だいす み か づ き うた だいす い み

うた

アンは、もう何日も ねむりつづけています。
むらびと

なんにち

村人は、もうすぐアンは死ぬと うわさしています。 パパもママも お医者さんも アンのことを 悲しい顔をして 見つめています。


いしゃ

そこに、窓から ピオがやってきました。 「ピオ!!」 パパは、すてたはずの ピオが


かえ

まど

帰って来たので おどろきました。

ピオは、アンのまくらもとに まい下りると 歌いはじめました。 それは、 美 しく 夢をさそうような 歌です。 ピオは 心 に強く 思いうかべました。 あの ボノロンたちと見た 雲にうかぶ 三日月を……。 ピオは、いっしょけんめい 歌いました。 あの 黄金の 三日月の船の歌を……。 その船には、大好きなアンが 乗っているのです。 でも、アンはもうほほえんではくれません。 アンのからだは つめたくなりはじめています。 それでも、ピオは歌いつづけます。 パパの目から 涙 が こぼれてきました。 「アンのために、また 歌いに来てくれたのか……。 わしは……わしは、おまえを 森にすてたのに……」
もり うた き め なみだ うた ふね だいす の おうごん み か づ き ふね うた うた み くも み か づ き こころ つよ おも うつく ゆめ うた

うた

ママは、ねむるアンの顔を やさしく なでてあげます。 「アン……ピオが 帰って来たわ。ほら、聞こえる? 美 しい歌ね……」


かえ き き うつく うた

かお

すると、なんとアンの目から 涙 が こぼれおちました。 「アン!!」 それを見たママは おどろきました。 さらに、アンは ゆっくりと 目をひらきました。 「ただいま……ママ……」 お医者さんは、アンの手首をにぎると さけびました。 「きせきじゃ!! アンの 命 が帰って来た!!」
ゆび いのち かえ き いしゃ てくび め み

なみだ

アンは、ゆっくりと 指を かざします。 ピオが その指にチョコンと とまりました。 「アンは…ピオといっしょに…たびをしてたの……。


くも ゆび

雲にうかぶ…黄金の 三日月の船に乗って……」 アンは、やさしく ピオに ほほえみました。 「ピオ……すてきな歌ね……ありがとう」


うた

おうごん

み か づ き

ふね

ピオは、羽ばたきをして 大よろこびです。 そうです! ピオの願いは かなったのです。 そして、大好きな アンの笑顔が 帰って来たのです―――――。


だいす えがお かえ き ねが

おお

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