You are on page 1of 7

「官僚たちの夏」がニッポンを冬にしたのか?:NBonline(日経ビジネス オンライン) 20/10/09 11:57 AM

COLD JAPAN(コールド・ジャパン)

日経ビジネス オンライントップ>企業・経営>COLD JAPAN(コールド・ジャパン)

「官僚たちの夏」がニッポンを冬にしたのか?
【課題編】過保護型コールド・ジャパン 
2009年10月20日 火曜日 細山 和由,黒澤 俊介

コールド・ジャパン  官僚たちの夏  通産省  城山三郎  産業保護  IBM  官僚  国内市


場  世界市場 

 日経ビジネスオンラインでは10月20日(火)より、10回にわたり「COLD JAPAN(コールド・ジャパン)∼クー
ル? コールドな日本産業の処方箋」をおくる。

 新たな政権を迎え、気分も新たに成長を進めようとしているニッポン。しかし、一方で、停滞する国内市場のもと
喘いでいる企業も多く景気の先行きが不安視されている。「クール=カッコいい」ジャパンと呼んでいるわりには、
内情は冷え切っており、なにか新しい世界との関係や突出したビジネスを誰もが渇望してやまない状況となっている
ようだ。

 本連載では、最新の事例やケース=症例を豊富に取り上げながら、「巣ごもり」「ガラパゴス」などと揶揄される
「コールド」なニッポンの現状を理論的な切り口で分析、《コールド・ジャパン》脱却と新たな成長のための「処方
箋」を提言していく。本連載が、国内市場の凋落を前に、気分新たにこれからの成長を模索している企業の経営幹部
やキーパーソンの方々のヒントになれば、望外の喜びである。

 「あんたにも日本人の血が流れてるんだろ」

と思わず立ち上がって、ぶん殴りそうな勢いで食ってかかる佐藤浩市。憮然として冷たい視線を投げかける麻生
祐未。そして、一言。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20091009/206762/?ST=print Page 1 of 7
「官僚たちの夏」がニッポンを冬にしたのか?:NBonline(日経ビジネス オンライン) 20/10/09 11:57 AM

 「哀れなサムライね」

 「なんだと!」と言わんばかりに、佐藤浩市は目をひん剥いてにらみ返す。

 先日の夜、東京のとあるバーで起こった一触即発のこの事件・・・ではもちろんなく、この間まで放送していた
テレビドラマ「官僚たちの夏」の1コマです。

エレファント対モスキート

 この二人の出会いは、佐藤浩市さんが演じる「ミスター通産省」のもとへ、アメリカの巨大コンピューター企
業IDN社の副社長が、麻生祐未さんが演じる日系人通訳を伴って来訪したことがきっかけでした。

 IDN副社長が日系人通訳を通して「国産コンピューターなんてまだ性能が悪くてニッポンの企業で使えない」
「IDNが日本でビジネスをするのを認めなさいよ」と持ちかける。これに対し「ミスター通産相」が「ノー!」
と言ったことに通訳であったはずの彼女は通訳という立場を超えて腹を立てたわけです。

 通産省を代表して米国コンピューター企業の経営幹部と向かい合ったその官僚は、ドラマの中でこんな発言を
します。

 「IDNの開発費は日本の国家予算の半分、性能速度は今の日本製品の100倍。世間では『エレファント対モス
キート』つまり象と蚊と揶揄されている現状、IDNが日本に参入なんてしたら国内のコンピューター企業は全部
潰れてしまう。アメリカは民主主義の国と言われているが、こんなのは民主主義じゃない。単なる強い者の横暴
だ」と。

 これに対し、通訳は副社長にその言葉を訳すよりも先に官僚をにらみつけ、「ああ、これが、世界で悪名高き
通産省の正体ですね」とポロッと言ってしまう。

 冒頭でご紹介したエピソードは、この通訳(麻生)のコメントに思わず「ミスター」とまで呼ばれる通産省を
代表するお役人(佐藤)が「日本人なのだから、今のニッポンの事情はわかるだろう!」という怒りが立ち込め
たために起こったわけです。

「蚊」は確かに守られた

 もちろんテレビドラマはフィクションですが、実際これに近いニッポンのコンピューター産業の自立を保護す
る動きはあったようです。

 1960年、通産省は来日したIBM副社長と折衝し、IBMの活動を制限しながらも日本の産業保護を認めさせま
す。1961年には政府の助成を受け国産コンピュータメーカー7社の出資による日本電子計算機株式会社(JECC)
設立。1962年、通産省の指導により富士通・日本電気・沖電気が電子計算機技術研究組合設立など、まさに現在
のニッポンを代表するコンピューター企業はこの時代に萌芽を迎えていたことが分かります。「蚊」は確かに守
られていたわけです。

http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20091009/206762/?ST=print Page 2 of 7
「官僚たちの夏」がニッポンを冬にしたのか?:NBonline(日経ビジネス オンライン) 20/10/09 11:57 AM

 それから約60年を経たいま、「蚊」はどこまで成長を遂げたのでしょうか。簡単に最新の「蚊」と「象」の状
況を見てみましょう(「象」については最近成長を遂げてきた“新種”もまとめておきます)。

 グラフの数字を見れば一目瞭然、確かにニッポンの「蚊」たちはあのときの規模からグンと成長を遂げ、
「象」に匹敵するとは言わないまでも見劣りしない程度にまで成長することができたことがわかります。「ミス
ター通産省」の面目躍如といったところでしょう。

元気がないニッポンが懐かしむ痛快な「黄金時代」

 テレビドラマ「官僚たちの夏」は、城山三郎氏が1974年に著した同名小説を原作としています。ただし、毎回
登場する企業やその様子はほとんど小説には記述されていません。

 例えば、今挙げた国産コンピューターについて取り上げられた番組から数週後に放送された日には、外国企業
の進出から国内産業を守るための国内産業保護法案の成立に邁進する「ミスター通産相」が、その法案の目玉と
して過当競争を防ぐため普通自動車の量産メーカーを3社に絞るという業界再編「自動車三社構想」を構想、根
回しを行います。

 原作には、外国コンピューター輸入折衝の場面も、自動車業界再編構想と自動車業界との衝突も一切登場しま
せん。

 原作の熱き官僚の姿に、その時代の実際に起こったエピソードなどを基にしたドラマを重ねたもののようです
が、それにしても、毎週のようにニッポンの大きな産業を1人のリーダーと少数精鋭のチームたちが動かし、時
には中小産業育成のために海外の脅威から守り、時には大企業の過当競争を防ぐために業界再編を指導するとい
う場面の連続に私たち視聴者はつい「俺が国を動かしてるんだ」と痛快な気分になります。

 ネット上のブログなどの感想などを見ても、原作では「暑苦しい」とさえ形容されるニッポン官僚の姿に心を
打たれるという感想が多いようです。「涙が出ます」「日本を見直しました」「佐藤浩市かっこいい」こんなコ

http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20091009/206762/?ST=print Page 3 of 7
「官僚たちの夏」がニッポンを冬にしたのか?:NBonline(日経ビジネス オンライン) 20/10/09 11:57 AM

打たれるという感想が多いようです。「涙が出ます」「日本を見直しました」「佐藤浩市かっこいい」こんなコ
メントで溢れていました。

 ドラマ製作者の皆さんも、まさに意図の通りに決まった! と手ごたえを感じておられるかと思います。いま
ニッポンはとても元気がない。ワクワクするような活力を持ってもらうためには、ニッポンが熱い時代だった姿
を見てもらうのが一番です。

 このドラマはいまのニッポンに住むひとたちに「俺たちも昔は、すごかったんだなあ」と黄金時代を振り返る
と同時に、ニッポンを守ろう、もういちどニッポンを動かすぜ、まだまだ頑張らなきゃと希望を与えてくれてい
ます、と言えるのでしょう・・・。

夏のあとの「蚊」は・・・

 ・・・と結論づける前に、ちょっと考えたいことがありました。

 確かに、官僚たちが熱く盛り上げた「夏」によって「蚊」は成長し、繁栄しました。さて、助けたはずの
「蚊」たちは、いまでもその「夏」を謳歌しているのでしょうか。

 答えは、下のグラフに表われています。

■ 世界の象、日本の蚊
連結売上 成長率 日本売上割合
HP 118,364 13.6% 3.8%
IBM 103,630 6.5% 10.9%
デル 61,101 3.2% 12.0%
富士通 46,929 -3.8% 68.0%
NEC 42,156 -4.7% 77.8%
(デルのみアジア含
(億円) (直近3年平均)
む)
(各社アニュアルレポートより、ウェイクアップ!ニッポン研究会作成)

 ここから考えられるのは、下記のような推論です。

 日本の「蚊」たちは確かにこれまでニッポンという国において保護され、ちやほやされたおかげで、世界でも
恥ずかしくない規模の成長を遂げました。

 ところが、国土の大きさがありますので、今や小さな日本で巣食う場所は食いつくされてしまった感がありま
す。おかげで近年はマイナス成長を否応なくされています。にもかかわらず日本以外に飛び出すことができな
かったことは日本からの売上割合を見ると明らかです。

 これに対してこれら新旧の「象」は世界市場の成長率と近似した成長率を今でもキープしており、好調です。
しかも、ニッポンにはドメスティックな「蚊」と保護主義的な官僚の系譜が存在してきたにも関わらず、各企業
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20091009/206762/?ST=print Page 4 of 7
「官僚たちの夏」がニッポンを冬にしたのか?:NBonline(日経ビジネス オンライン) 20/10/09 11:57 AM

しかも、ニッポンにはドメスティックな「蚊」と保護主義的な官僚の系譜が存在してきたにも関わらず、各企業
とも日本(あるいはアジア)市場依存度を世界戦略の約10%にとどめることで、確実な成長を支えているので
す。

 ニッポンで拒否されつつ世界に目を広げた「象」と、「象」から守られ成長したにも関わらず(いや、むしろ
守られすぎたために)世界に飛び立てなくなった「蚊」。「官僚」たちは次の図を見るとさらにショックを受け
るはずです。

 読者の皆さんもうすうす気づいていたはずですが、日本ではいまだ土俵を守っている「蚊」は世界では「象」
たちに思いっきり敗北を喫しています。

 さらに、世界:日本の市場規模比でも約10:1となっていることでわかるとおり、「象」たちは決して「官
僚」たちに負けたわけではなく、世界における日本市場の規模に応じた売り上げを確実にゲットしていたことが
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20091009/206762/?ST=print Page 5 of 7
「官僚たちの夏」がニッポンを冬にしたのか?:NBonline(日経ビジネス オンライン) 20/10/09 11:57 AM

僚」たちに負けたわけではなく、世界における日本市場の規模に応じた売り上げを確実にゲットしていたことが
わかります。

 落ちこぼれたのは「蚊」だけだったのです。結局「官僚」は何をしたのか?

 どうやらここに、世界経済の中で取り残されるダメなニッポンの1つ目の患者と症例が見つかったようです。

<過保護型コールド・ジャパン>における読者への課題

 あらためて患者と症例を整理しておきましょう。

1. 確かに発展途上国などにおいて「保護主義」的な政策が適用されるケースはあると思わ
れます。しかし、今回の症例において通産省のとった行動はいつの間にか「過保護」に
しすぎて「箱入り娘」を生み出してしまった印象があります。官僚たちは正しかったの
か。あるいは、まったくの間違いだったのか。それとも、途中で態度を変化させるべき
だったのか。

2. いやいや官僚が悪いのではない、企業に問題があったのだ、という意見もあるかと思い
ます。ドラマの中では大沢無線という企業が通産省に家電・テレビ製造への参入を拒否
され、コンピュータ開発に業種転換せよと「指導」されています。この「指導」に従っ
ておけば「保護」されるから安心、と企業もタカを括っていたのではなかったのか。ほ
んとうは企業はどうすべきだったのでしょう・・・・。これがコールドジャパン現象の典型
的な症状の1つです。

 次回はこの症例ポイントを分析し、「コールド・ジャパン」脱出の処方箋をご提示していきます。経営者幹部
や企業の鍵を握っておられる皆さんからもこの症状に対するご意見をお待ちしています。

 なお、ご参考までに。先ほどもお伝えしたとおり企業事例などは一切記されていない原作本では、出世街道
まっしぐらだった「ミスター通産省」はその暑苦しさゆえにクールな国際派に変わる時代の節目を読み切れな
かった、というストーリーが展開していきます。命を賭けてまで通そうと小説の大半で躍起になっていた法案
が、結局通らず、出世街道からも外れ、淋しく「冬」を感じていくのです・・・。皆さん、この結末に納得してい
たのでしょうか。

COLD JAPAN(コールド・ジャパン)

新たな政権を迎え、気分も新たに成長を進めようとしているニッポン。しかし、一方で停滞する国内市場のもと
喘いでいる企業も多く景気の先行きが不安視されている。つまり、「クール=カッコいい」ジャパンと自己満足
的に呼んでいるわりには内情は冷え切っており、なにか新しい世界との関係や突出したビジネスを誰もが渇望し
てやまない状況となっているようだ。本連載では、最新の事例やケース=症例を豊富に取り上げながら、「巣ご
もり」「ガラパゴス」等と揶揄される「コールド」なニッポンの現状を理論的な切り口で分析、《コールド・
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20091009/206762/?ST=print Page 6 of 7
「官僚たちの夏」がニッポンを冬にしたのか?:NBonline(日経ビジネス オンライン) 20/10/09 11:57 AM

もり」「ガラパゴス」等と揶揄される「コールド」なニッポンの現状を理論的な切り口で分析、《コールド・
ジャパン》脱却と新たな成長のための〈処方箋〉を提言していく。本連載が、国内市場の凋落を前に、気分新たに
これからの成長を模索している企業の経営幹部やキーパーソンの方々のヒントになれば望外の喜びである。

⇒ 記事一覧

細山 和由(ほそやま・かずよし)

ウェイクアップ・ニッポン!プロジェクト代表。日本興業銀行(現みずほコーポレート銀行)にて米国債・各種
デリバティブのトレーディングを担当した後、ITベンチャーへ。ITコンサル会社の起業、投資顧問会社勤務を経
て、フリーライターとして日経ビジネスアソシエなどに寄稿。その後、上場企業のCFOとして在任期間中に時価
総額を10倍以上に押し上げることに貢献。日本経済の最前線での経験や上場企業で学んだ経営ノウハウ等を生か
し、現在はスタートアップ企業のインキュベーションを行っている。一橋大学経済学部卒。東京在住。

黒澤 俊介(くろさわ・しゅんすけ)

ウェイクアップ・ニッポン!プロジェクト副代表。ソニー出井伸之氏の社長・会長時代におけるリ・ジェネレー
ション(再生)戦略のフラッグシップスタッフとして、VAIO、So-net、メディアージュ、スカパー!など矢継ぎ
早に新規事業立ち上げに成功。さらに元マイクロソフト・ジャパン社長の成毛眞氏率いる投資ファンド、携帯IT
ベンチャーなどで米国・欧州と日本を結ぶ企業を次々に設立、取締役、創業時の社長を歴任。現在は日本映画の
米国進出支援ビジネスをリードしている数少ない日本人の1人。東京大学経済学部卒。LA在住。

日経ビジネス オンライン 会員登録・メール配信 — このサイトについて — お問い合わせ


日経BP社 会社案内 — 個人情報保護方針/ネットにおける情報収集/個人情報の共同利用 — 著作権
について — 広告ガイド
© 2006-2009 Nikkei Business Publications, Inc. All Rights Reserved.

http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20091009/206762/?ST=print Page 7 of 7

You might also like