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バンキング・バイオハザード
ゾンビ銀行、有毒資産、そして日本の金融危機の教訓

はじめに
研究の目的は、90年代に起きた日本の金融危機から、現在金融危機真っ只中の米国は何を学ぶべきかをより深く理解するこ
とである。日本長期信用銀行、北海道拓殖銀行、日本債券信用銀行や山一證券など、日本の金融危機当時の「大き過ぎて潰せ
ない」とされた大手金融機関の持続不可能な事業活動を年表する。この研究はゕメリカの経済復興、日本の景気回復や将来の
金融危機対策の研究に有用となる。

現在の金融危機を通じて、著名な専門家は「米国は日本から学ぶべき教訓がある」と主張した。1 急激な金融緩和、破綻寸
前の銀行の対処、そして会計の透明化などの必要性が日本の教訓として挙げられている。しかし、日本は金利を引き下げ、資
本不足の銀行に資本を注入し、会計基準を改めたにも関わらず、日本の銀行はいまだに採算性が低いままである。日本の金融
危機から学ぶべき教訓とは他に何があるのであろうか。

日本の経済停滞を長引かせたひとつの要因は、明らかに資金不足である銀行を倒産させることができなかったことにあると考
える。10 年前も今も、銀行の健全性は自己報告された自己資本で判断されているが、その指標はその銀行が金融システム全
体に与える影響を測るには不十分である。「ゾンビ銀行」は倒産するときはもちろんのこと、倒産する前の事業活動も他の銀
行に悪影響を与えるのだ。そんな銀行の持続不可能な事業活動は利益率を圧迫し、価格変動性を高め、規制当局の動きが予測
できない状況を作り、財務リスクを高める。

ゾンビ銀行というのは破綻寸前ながらも市場で存続している大手銀行である。政府からの支援に依存しており、健全な銀行に
損害を与える(Kane 1993)。預金者が逃げないように高利率の預金を提供するので、競合銀行も同じように利率を引き上げ
なければならない。2 支払い能力に転換するため、ゾンビ銀行はよりリスクの高い資産を買い、資産を格安で処分すること
もあり、競合も同様にするよう迫られる。低利益でリスクが高い事業活動は破綻の可能性を拡大し、金融危機を悪化させ長引
かせる。

銀行は経済の金融仲介機関として、貸借をおこないリスクを負って利益を得る。適切に機能している金融システムでは、銀行
はリスクを正確に測り、責任ある貸付をおこなうことで経済成長に貢献する。金融システムが破綻すると、経済成長は困難と
なる。

1
ヌリエル・ルービニ教授(2008 年 12 月 2 日付のフゔ゗ナンシャル・タ゗ムズ)、ピューリッツゔー賞受賞者のデビッ
ド・サンガー氏(2009 年 2 月 8 日付のニューヨーク・タ゗ムズ)、エコノミストの印刷版(2009 年 2 月 12 日付)、ジェー
ン・サシーン氏とシオ・フランシス氏(2009 年 3 月 23 日付のビジネスウゖーク)を参照。

2
現代における 銀行取付騒動を引き起こすのは非付保預金者といわれている。しかし、FDIC(連邦預金保険会社)の高
い評判にも関わらず、付保預金者も一週間以内に、゗ンデゖマック、ワシントン・ミューチュゕルとワコビゕから何十億ドル
もの資金を引き出した。
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研究計画
表1:研究計画日程 *
年 月 研究段階 詳細
2009年 10月
11月
12月 公開されたデータを集め続ける 米国
準備
2010年 1月 先行研究のレビューを行う
2月
3月
4月
5月 データ収集 1989~99年のデータ
6月
7月
会計・金融 日本の会計基準の研究
8月
9月
リスク担当者
10月
インタビューの実施 証券化担当者
11月
規制当局
12月
2011年 1月
2月
イ:90年代の日本と現在の米国
3月 日本
ロ:研究方法
4月
ハ:危機のステージと米国の進展
5月 論文・完成
二:ゾンビ銀行と経済的リスク
6月
ホ:政策提言
7月
ヘ:今後の研究課題
8月
9月
10月
11月 論文完成 フィードバックを受ける
12月
2012年 1月 経営・経済ジャーナル
2月 刊行 一般向け公開
3月 オンライン

*上記の表は2010年4月に始まる2年間の計画だが、奨学金期間に応じて変える。

準備

既に40MB分(50万行以上)のデータを集め、詳細にわたる先行研究のレビューをおこなった。米国にいる間は、この作
業を続けて米大手銀行の財務時系列データを自らのデータベースに追加する。

データ収集

日本では、大学の図書館、教授、そして国立国会図書館などに置いてある刊行物を利用することができる。日本に着いてから
は 90 年代前半の財務諸表など、自分のデータベースに欠けているデータを集める。これにかかる時間をなるべく少なくした
いが、データがデジタル化されていない可能性や、あるいは日本語版しか存在せず、読むには時間がかかる可能性もある。
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金融・会計

会計について、いくつか調査したい事柄がある。まずは、パーチェス法を使って、不良債権はどのように計上されたのか。異
なる会計基準は自己資本の計算に大きな影響を与えるのである。3 ウェルズフゔーゴのワコビゕ買収を見届けた中で、合併
の際に財務状態を歪める会計方法を使用するか否かは会社に委ねられていることがわかった。情報が公開されておらず、銀行
のリスク管理担当者に゗ンタビューできない場合、リスクを理解するのは不可能となる。その他の調査事項としては、資産の
評価減の認識、自己資本に関する規制、銀行を支援する政策などがある。

゗ンタビューの実施

ウェルズフゔーゴ、元ワコビゕ及び元ゴールデンウェストでの仕事で、流動性、資本や融資などに関する深い知識と、シテ
ゖ・グループ、バンクオブゕメリカ、そしていくつかの地方銀行とのコネクションを利用して、米国の銀行の調査ができる。
従って、日本の金融危機当時に日本の銀行で働いていた人に゗ンタビューをおこなうことは、日本で調査をおこなう一番の目
的である。そうした人は、現在は違う仕事をしている可能性もあり、そのためそうした個人や元北海拓殖銀行、元三洋証券や
元日本債権銀行の人事部の人との信頼関係を築かなければならない。三菱 UFJ や新生銀行、あおぞら銀行に゗ンタビューする
ことで、利益回復における課題も明らかできるかもしれない。

貯蓄機関監督庁(OTS)と通貨監督庁(OCC)とも仕事をした中で、規制当局は銀行と異なるものの見方をすることもわかっ
た。規制当局は銀行を強制的に倒産させることができることから、重要な意味を持つため、資本不足の金融機関を倒産させた
人の話を聞くことも有益となる。

論文草稿・完成

論文を書くために、十分な時間を確保する。知識が不十分な場合、前の段階に戻りながら補充していく。ゕドバ゗ザーや他の
研究者からのフゖードバックも継続的に受ける。

刊行

この研究は他の研究者や金融専門家にとって興味深いものとなるであろう。ビジネス・ジャーナルや雑誌、オンラ゗ンなどで
発表を計画している。透明性と知識を高めることは、正常に機能する金融システムにはなくてはならないものであるゆえ、最
終的には、利用者にわかりやすく、簡単に手に入るような形で研究結果を公開したいと思う。

その他

金融問題を抱えていたワコビゕで働いた経験から、銀行家の行動の問題や新しい規制枠組み、ALM(資産負債管理)における
課題に関しては知識を持っており、銀行の研究に貢献できる。日本の銀行の多くは東京にあるが、大手銀行の倒産は札幌(北
海道拓殖銀行)、神戸(兵庫銀行)、大阪(木津信用組合)など、様々な地域で起こっており、必要であれば現地に出向き、
調査をおこなう。

2010 年 6 月に、CFA(公認証券ゕナリスト)としての認定を受けるための最終試験を受ける予定である。CFA 認定は 3 つの試


験(推奨勉強時間 200 ~250 時間)を合格することと 4 年間の金融関連の実務経験を要件とする。

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そもそもパーチェス法は、金融専門メデゖゕでさえ解釈を間違えることで有名である。ゕリ・レヴゖ氏とエリザベス・ヘ
スター氏の「JP モルガンとワシントン・ミューチュゕルとの合併で不良債権が利益となる」(2009 年 5 月 25 日のブルームバ
ーグ)で合併会計を誤って解釈し、翌日に NPR(ナショナル・パブリック・ラジオ)とニューヨーク・タ゗ムズはこの情報を
引用した。問題となった会計基準は、不良債権の購買会計に対する AICPA(米国公認会計士協会)の意見書 03-3。
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本研究の重要性
厳密に言えば、倒産するその日まで、ワシントン・ミューチュゕルとワコビゕなどの銀行は充分な自己資本を有していた。し
かし、倒産に至るまで何カ月の間も、この 2 つの銀行は非常に高い利率の預金を提供し(もちろんこれらも連邦政府が保証
していたわけだが)、他の銀行も同様にせざるを得ない状況に追いやった。2008 年終わりには貸出業務を停止し、2009 年初
頭には流動性を高める動きを取り、クレジットに頼っていた企業や個人は痛手を負った。これらの銀行の迫り来る終焉は、投
資家や企業に将来の見通しを立てることを難しくした。リーマンのように破産申請をするか。JP モルガンとベゕー・スター
ンズのように、政府の支援を受けて他と合併するか。゗ンデゖマックのように、国営化されるか。バンクオブゕメリカがカン
トリーワ゗ドを買収したように、買い手が現れるか。

その上、シテゖとウェルズフゔーゴはワコビゕをめぐる闘争、モルガン・スタンレーの問題、そしてリーマンの無秩序な倒産
もあり、金融界はパニックに陥った。米財務省はすべての大手銀行への大幅な資本注入をおこない、不安が広がるのを抑えた。
しかし、シテゖなどへの懸念が高まり、AIG のボーナス問題で国民の怒りが沸騰したとき、金融界はまた混乱が広がった。

混乱の発生は偶然の出来事ではない。規制当局は気まぐれで、その場しのぎのゕプローチを取り、発生する個別の問題に対処
してきたが、それは銀行が不健全であると断言する方法が欠如しているからである。前向きで、確固としたゕプローチを開発
することで、米国が現在市場に残っている、問題を抱えている銀行をどのように評価すべきかを決めることができる。さもな
ければ、ゾンビ銀行は、JP モルガンや BB&T、ゴールドマンなどの健全な銀行に損害を与える可能性がある(5 項参照)。
Peek と Rosengren が日本の銀行について次のように指摘している。「銀行間市場における高い利率を引き下げるには、残っ
ている健全な銀行を危機に晒さない方法で、競争力のない銀行を排除する具体的な政策が取られていると投資家が納得しなけ
ればならない。」

なぜ今、研究が必要か

研究も迅速におこなう必要がある。一年もしないうちにマネタリーベースを二倍にした今、゗ンフレの危険性が高まれば、公
定歩合を引き上げるだけでは対処できないかもしれない。現在多くの非流動性の資産担保証券を抱えている米連銀のバランス
シートも懸念されている (Delta Global Advisors 2009)。PIMCO のエルエリゕン共同最高経営責任者は次のように述べている。
「各国の中央銀行や財務省にとって、最近の緊急措置を円滑に元通りに戻すことは難しいだろう。特に英国や米国などでは、
多くの短期政策目標が、中期政策目標と物理的に対立しているため、このような状況が予想される。」

なぜ日本での研究が必要か

正確な研究をするためには、日本(現地)で調査をおこなうことが必要不可欠である。 日本の企業について一番良く知って
いるのは日本人である。20 年間前に公開された日本の企業情報は海外からゕクセスしにくく、背景知識が得にくい。協力を
仰ぎたい経済学者の方々は 20 年以上金融研究に携わってきた方ばかりである。

米国から日本のリスク管理担当者に゗ンタビューをすることも困難である。物理的に日本にいることで、リゕルタ゗ムで直接
コミュニケーションを取り、データ収集や゗ンタビューを臨機応変でおこなうことが可能となる。

また、最も貴重なデータ(特に゗ンタビューやデジタル化されていない資料)は物理的にその場にいる必要がある。EDI-NET
などの公的な情報源は、最近の財務諸表しか掲載していない。帝国データバンクや金融庁のデータを購読するには何千ドルも
かかる。しかし、日本の機関に所属することによって、大学の研究者に利用可能な、膨大なデータを利用することができる。
その情報を十分に利用できないまま、90 年代の日本についての研究をおこなうことは不可能である。

本研究が、米国と日本がそれぞれの金融市場問題を解決する一助となると信じており、取り掛かることを楽しみにしている。
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Table 2. Implications of Bank Stress Test: Ability to Issue Capital and Pay Back TARP Funds
(balances in billions, data as of May 12, 2009 and adjusted for recent capital actions)
Ability to be well-capitalized without government
assistance Ability to issue debt Adjus
TARP money New common as a % of market Long-term 5-year CDS
Bank to repay 1 equity needed 1 value of equity credit rating 3 spread
4
GMAC $ 5.1 13.4 N/A % CC 906 bps
Citi 46.4 33.4 164.7 A 361
SunTrust 4.9 7.1 121.9 BBB+
KeyCorp 2.5 3.6 120.3 A-
Regions 3.6 3.9 110.3 A+
Fifth Third 3.5 4.6 96.5 A-
Bank of America 45.4 65.0 83.5 A 188
PNC 7.8 7.7 39.2 AA-
Morgan Stanley 10.4 11.0 34.8 A 258
Wells Fargo 25.9 26.1 22.1 AA 146
US Bank 6.8 3.4 11.0 AA
BB&T 3.2 1.3 10.3 AA-
American Express 3.5 1.0 3.3 A- 298
Capital One 3.7 0.1 1.3 A- 217
MetLife - - - A 586
Bank of NY Mellon 3.1 - - AA-
State Street 2.1 - - A+
Goldman Sachs 10.5 - - A+ 176
JPMorgan Chase 25.9 - - AA- 122

= May be unable to raise sufficient capital or issue long-term debt without FDIC assistance.
= Need to raise capital.
= May be able to repay TARP immediately. Several firms have already raised non-FDIC-backed debt.

1
Initial investment amount plus value of warrants to purchase common stock, when possible based on
Congressional Oversight Panel, Assessing Treasury’s Strategy: Six Months of TARP, April 2009.
2
Estimate based on Supervisory Capital Assessment Program required capital buffer and TARP receipts.
3
Simple average of applicable Moody's, Standard & Poors and Fitch long-term unsecured debt ratings.
4
GMAC is privately held, therefore market value of equity and financial statements are unavailable.
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引用作品
Basel Committee on Banking Supervision. 2004. Bank failures in mature economies. Working paper, Bank for International Settlements.

Board of Governors of the Federal Reserve System. 2009. The Supervisory Capital Assessment Program: Overview of results. May 7,
http://www.federalreserve.gov/newsevents/press/bcreg/bcreg20090507a1.pdf

Delta Global Advisors. 2009. Ben’s un-shrinkable balance sheet. April 14.

Kane, Edward J. 1993. What lessons should Japan learn from the U.S. deposit insurance mess?. Journal of Japanese and International
Economics 7: 329–355.

McKelvey, Bryan. 2007. Business effects on migrant labor policy formation in Japan. Honors thesis, University of North Carolina.

Peek, Joe and Eric S. Rosengren. 2001. Determinants of the Japan premium: Actions speak louder than words. Journal of International
Economics 53, no. 2: 283–305.

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