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文藝春秋編 日本の論点PLUS 10-09-21 7:33 AM

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自衛隊の離島奪回訓練
2010.08.26 更新
 防衛省は、陸海空自衛隊による本格的な離島奪回訓練を、今年12月、大分・
日出生台(ひじゅうだい)演習場などを中心に、九州・沖縄の訓練海域で初め
ておこなうことを明らかにした。これは防衛省が新たに策定した南西諸島(沖
縄県全域と鹿児島県・奄美諸島)への防衛警備計画にもとづき、この海域内の
離島が“仮想敵国”軍に占拠されたことを想定しておこなわれるもので、日出生
台(ひじゅうだい)演習場の一部を離島に見立て、米第七艦隊を主力とする米
国海空軍も支援に参加する。

 この離島奪回訓練は、まず仮想敵国軍が自衛隊の配備されていない離島に上
陸して占拠し、島内に対空ミサイルなどを備え付けるとともに周辺海域に海軍
艦船を集結させているという事態から始まる。すぐさま防衛出動が発令され、
防衛省は対地、対艦の攻撃能力が高い空自F2戦闘爆撃機、海自PC 戒機な
どを出動させる。仮想敵国軍の対空兵器を弱体化させるとともに、空自F13
新鋭戦闘機の護衛下に8機の空自C130輸送機で運ばれた陸自空 団、約1個連
隊が、海空自の援護射撃を受けながら次々とパラシュートで降下し、仮想敵国
の占拠部隊を攻撃し、島を奪還するというシナリオだ。

 仮想敵国名こそ伏せているが、この離島奪還演習は、今年3、4月の、2度に
わたって南西諸島周辺海域で大がかりな訓練と挑発行動を行った中国海軍が、
近い将来、尖閣列島を占拠するケースを意識しているのは明らかだ。実際、防
衛省幹部は、「中国に対して、日本は南西諸島を守りきる意思と能力があるこ
とを示す。それが抑止力となる」と訓練の目的を語っている(読売新聞8月19日
付)。

 沖縄・南西諸島をめぐる防衛については、7月27日に首相の私的諮問機関
「新たな時代の安全保障と防衛力に関する懇談会」(座長 佐藤茂雄・京阪電
鉄最高経営責任者)が報告書を提出し、自衛隊を全国に均等配備する根拠とさ
れてきた「基盤的防衛力構想」は、北朝鮮の核開発や中国の海洋進出が顕著に
なった現在の安全保障環境にはそぐわないとして撤廃を提起していた。報告書
では、非核三原則および武器輸出三原則の見直しや、集団的自衛権の柔軟な解

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釈,PKO参加5原則の見直しとともに、部隊配備についても全国均一から沖
縄・南西諸島の離島地域重視に転換するよう求めている。報告書は防衛省の計
画案とすり合わせがおこなわれ、今年12月までに閣議決定される予定の「防衛
計画の大綱」の土台となる。

 しかし、民主党政権下で初めての「防衛計画の大綱」が、すんなり閣議決定す
るかどうかは疑問とする向きは多い。同懇談会の提言では、非核三原則のうち
の「持ち込ませず」が骨抜きになっていた実態に、政策のほうを合わせるべきと
する見直し案が提起されたが、民主党政権はこれを拒否し、唯一の被爆国とし
ての国是は変えることはできないと、非核三原則を堅持する方針だ。

 菅民主党政権は、7月、竹島は日本固有の領土と明記した平成22年版の『日
本の防衛』(防衛白書)について、韓国側に配慮して仙谷官房長官が閣議了承
を8月末まで見送る決定を下している。同白書は、竹島問題について平成18年
版から日本固有の領土でありながら韓国が不法占拠を続けている竹島について
「領土問題が未解決のまま存在する」と実名をあげて明記してきた。今年が1910
年の日韓併合からちょうど100周年という微妙な年に当たるため、白書の公表
を韓国の光復節(日本による植民地支配の解放を祝う8月15日)の後に先伸ば
しにしたのはやむを得ないとする見方があるいっぽうで、昨年までとくに問題
なかった表現を韓国側に配慮し、閣議了承を先送りしたことで、民主党政権と
防衛省の現場との間に溝ができてしまったと指摘する識者も多い。

 「東アジア共同体」や外国人参政権の実現を打ち出している民主党政権だ
が、自衛隊の沖縄・南西諸島への重点配備という同懇談会の提言に拒否反応を
示すようだと、防衛省サイドと政権の亀裂は深まり、ひいては日本の安全保障
政策に大きな影を落すことになる。

 他方、米韓両国は、今年3月、朝鮮半島西の黄海で撃沈されたとされる韓国
戒艦沈没事件への対抗措置として、この9月、中国の遼東、山東両半島から
近い黄海洋上で、海空合同軍事演習をおこなう予定だ。金大中・盧武鉉政権時
代、冷え切っていた米韓関係も、李明博政権に代わってからは日米関係以上に
緊密化している。小泉首相時代には、戦後でもっとも親密といわれた日米関係
だが、民主党政権の登場後は日本と韓国は、対アメリカの関係においては真逆
になったといえる。

関連論文

筆者の掲載許可が得られない論文はリンクしていません。
96年以前の論文については随時追加していきます。ご了承ください。

◆ 私の主張

(2010年)米国は日本を守り日本は基地を提供する――同盟は対等かつ唯一
の選択肢
岡本行夫(外交評論家)
(2010年)米国に追随せずとも同盟は消滅せず――日本には独自の安保戦略
がある
孫崎 享(元防衛大学校教授)
(2010年)平和のカギは東アジアの軍事バランス。在日米軍は重要な国益で
ある

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村井友秀(防衛大学校教授)
(2010年)自衛隊員に尊厳を与えずして、国を守る気概をもてるわけがない
田母神俊雄(元航空幕僚長)
(2010年)国が何を考えようが自らの身を顧みず命令に従うのが士道という
ものだ
杉山隆男(ジャーナリスト)
(2008年)改憲派に質問――それで日本は「戦争ができる国」になれるので
すか?
内田 樹(神戸女学院大学教授)
(2008年)九条どころか、前文二項を改正しなければ、日本は漂流するしか
道がない
西部 邁(秀明大学学頭)
(2008年)「被爆」と「核の傘」――二律背反をのみこんだ日本人の精神構
造を解く
東郷和彦(ソウル大学客員教授)
(2006年)日本防衛の対象は日本周辺のみにあらず。世界規模の米軍再編と
協同せよ
志方俊之(帝京大学教授)
(2006年)米軍再編で自衛隊は米軍の一員になる。危険な集団的自衛権の行
使は必至
前田哲男(軍事評論家、東京国際大学教授)
(2005年)運用の改善はもう限界。地位協定を改定しなければ沖縄県民の犠
牲が続く
稲嶺惠一(沖縄県知事)
(2004年)核抑止力を肯定するなら自主防衛の一環として核武装を選択すべ
きである
西部 邁(秀明大学学頭、「発言者」主幹)
(2004年)自主防衛としての核武装――その魅力的論理に隠された危うさと
欠陥
佐瀬昌盛(拓殖大学海外事情研究所所長)
(2004年)政権交代可能な二大政党制こそ日本再生のカギ――民主党は必ず
その一翼を担う
岡田克也(衆議院議員、民主党幹事長)
(2003年)「核均衡の崩壊」を直視すれば核武装も検討されるべき選択肢の
一つである
福田和也(慶応義塾大学環境情報学部助教授)
(2003年)報復の連鎖を断つ――今こそ「新・非核三原則」を高く掲げると

秋葉忠利(広島市長)
(2002年)地位協定は日本に不利ではない――政府には沖縄を説得する義務
がある
田久保忠衛(杏林大学社会科学部教授、学部長)
(2002年)運用改善では地位協定の不公正は是正されない。条文改定こそ唯
一の選択
前田哲男(軍事評論家、東京国際大学教授)

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(2001年)基地の返還・縮小に拘泥せず、日本自ら戦略的意義を提案すると

ポール・S・ジアラ(元米国防総省日本部長、軍事問題コンサルタント)
(2001年)存在理由を失った沖縄米軍基地――海兵隊は二〇〇〇人に縮小せ

田岡俊次(朝日新聞編集委員、「AERA」スタッフライター、筑波大学客
員教授)
(2000年)日米安保の本質は「抑止」にあり――新ガイドラインはその実効
性を高めた
岡本行夫(岡本アソシエイツ代表)
(2000年)軍事的下請け体制の成立――新ガイドラインで露わになる戦略外
交の不在
豊下 彦(立命館大学教授)
(1999年)占領下の沖縄と米国本土――ふたつのアメリカを見て私は目覚め

野中広務(衆議院議員・内閣官房長官)
(1999年)グローバル・スタンダードに反発するより、日本はいま米国に学
ぶべき
菅 直人(衆議院議員、民主党代表)
(1998年)新ガイドラインは安保実質改定を意図した「日米ウォー・マニュ
アル」だ
前田哲男(東京国際大学教授、ジャーナリスト)

◆ 議論に勝つ常識

(2010年)[日米同盟五〇年の歴史についての基礎知識]
[基礎知識]日米同盟はどんな歴史を歩んできたか?
(2010年)[自衛隊と専守防衛についての基礎知識]
[基礎知識]「専守防衛」の中身とは何か?
(2010年)[在日米軍についての基礎知識]
[基礎知識]在日米軍の存在理由とは何か?
(2008年)[原爆投下についての基礎知識]
[基礎知識]なぜ原爆投下「正当」論は根強いのか?
(2006年)[米軍再編についての基礎知識]
[基礎知識]米軍再編で日本の負担は増えるのか?
(2005年)[日米地位協定についての基礎知識]
政府はなぜ地位協定「改定」に消極的なのか?
(2004年)[日本の核武装についての基礎知識]
日本の核武装をアメリカが容認するか?
(2003年)核武装論議についての基礎知識
[基礎知識]安全保障の空白部分――核武装論はなぜタブーか?
(2002年)日米地位協定についての基礎知識
日米地位協定では米兵による犯罪はどう扱われるか?
(2001年)沖縄基地の日米の評価の違いを知るための基礎知識
(2000年)周辺有事の際の日本の行動を知るための基礎知識
(1999年)日本とアメリカとの適正な距離を模索するための基礎知識

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(1998年)日米新ガイドラインと集団的自衛権を考えるための基礎知識

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