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(論文)
ジャイロダンパを用いた超長大吊橋の耐風安定性の向上
Aerodynamic Stability Improvements in Super-long-span Suspension
Bridge through the Use of Gyroscopic Dampers
This paper deals with a gyroscopic dampers (GD) used to reduce bridge deck flutter. Analytical and
experimental GD studies are also described. Flutter analysis and wind tunnel testing verified that GD are
very effective in suppressing flutter. In addition, it is shown that GD efficiency can be greatly improved by
increasing the rotor speed. Furthermore, analysis showed that an increased GD inertia moment can reduce
the GD's oscillation that causes control performance deterioration.
まえがき=現在,世界最大の明石海峡大橋(中央支間長 タ運動方程式,及びねじれ振動系に対するジャイロの制
1 991m)を上回る規模の吊橋となるといわれている東京 振理論を説明する。ここでは,フラッタ抑制効果の指標
湾口,伊勢湾口,紀淡海峡などの海峡横断プロジェクト となる等価極慣性モーメント比を定義し,その特性を明
が計画されている。しかし,これら超長大橋の実現に向 らかにする。次に,2 自由度ばね支持橋桁断面モデルを
けては解決すべき課題は多く,とくに強風により生じる 用いた実験により,その有効性を示すとともに解析との
連成フラッタに対する耐風安定性の確保が最重要課題と 比較を行う。最後に中央支間長 2 500m の超長大吊橋を
なっている。この連成フラッタは,ある風速を超えると 想定したジャイロダンパの設計例を示し,実用化に向け
突然発現し,ひとたび発生すると橋梁に壊滅的なダメー た考察を加える。
ジを与える振動で,橋梁のたわみ振動とねじれ振動とが
1.理論解析
空気力を介して連成することにより生じる。橋梁は支間
長が長くなるほど固有振動数が下がり,連成フラッタの 1.
1 橋梁のフラッタ方程式
発現風速はそれに応じて低下する。このことにより,超 図 1 に示す箱桁内にジャイロダンパを設置した場合に
長大橋では特に連成フラッタが問題となり,その発現風 ついて考える。ジャイロダンパは,ロータとそれを 1 自
速を十分に高めるための対策が必要となる。 由度回転支持で支えるジンバルから構成され,橋梁のね
このような背景のもと,本研究ではジャイロダンパ じれ振動に対して制振効果がある。ジンバル軸の回転を
(GD)による方法に着目し,実験及び解析によりその効 バネとダンパで支え,ジンバルの固有振動数と減衰比を
果を検証した。ジャイロダンパは,
「こま」のように 適切にチューニングすることにより制振効果を持たせ
ロータを高速回転させることにより生じるジャイロモー る。
メントを利用した安定化装置の一つである。従来の研究 図 1 に示す橋梁の運動を,たわみとねじれの 2 自由度
から,長大橋梁に対しても非常に優れた耐風安定化効果
Main cable
を有するといわれている1)∼4)。ロータを回転させるため
のエネルギを必要とするため,電力の安定供給や長期使 Hanger rope
用の信頼性などが懸念されるが,動吸振器などのパッシ
Rotor Ir
ブな制振装置に比べて,飛躍的に軽い重量の構造になる y
のが大きな利点である。しかし,超長大橋を対象とした
ϕ
連成フラッタに対して実験による検討が行われた例はな Deck θ
く,詳細な設計パラメータの影響などは明らかにされて Ω
Gimbal IG
いない。連成フラッタに対するジャイロダンパの効果を
実験により検証することは,解析理論の妥当性を検証す Spring k ϕ & damper c ϕ
る上でも有意義である。 図1 橋桁内に設置したジャイロダンパ5)
本論文では,まずジャイロダンパを含む橋梁のフラッ Fig. 1 Gyroscopic damper (GD) installed inside deck box5)
*
技術開発本部 機械研究所 **都市環境・エンジニアリングカンパニー 構造技術部 ***㈱コベルコ科研 エンジニアリングメカニクス事業部
m 0 0 η η すなわち,ジャイロダンパの特性をμe に代表させられる
0 I 0 θ + 0 cθ IrΩ ・ θ ことを意味する。ただし,実際にはジンバルの振幅が大
0 0 IG ϕ 0 IrΩ c ϕ ・ϕ
きくなると,ジンバルの可動範囲の問題や式(1)のジャ
kη 0 0 η L (η,θ,・η,・
θ)
+ 0 kθ 0 θ = M ( ,θ,・
η η,・
θ) ……………
(2) イロモーメントの非線形性による制御性能の低下などの
0 0 kϕ ϕ 0 問題が現れる6),8)。自励振動であるフラッタのみを考え
ここで kη,cη及び kθ,cθはそれぞれ橋梁のたわみ及 た場合,理論的にはフラッタ発現風速まで系は安定でジ
びねじれ自由度に対する剛性と減衰である。m,I は,ジ ンバルは振動しないが,
実際の風には乱れがあるために,
ャイロダンパの装置を含めた橋梁の等価質量及び等価極 橋桁は強制的に加振され,それに反応してジンバルが振
慣性モーメントである。ジャイロダンパの Ir と IG につい 動する。橋桁のねじれ振動に対するジンバルの振動倍率
ても同様に,その設置位置及び台数に応じて換算した等 (Φ/Θ)は,ジンバルの橋梁に対する極慣性モーメント
価な慣性モーメントとする6)。L,M は非定常空気力の揚 比μ(=IG/I)を用いて,次式で表される。
力成分及び空力モーメント成分で,換算風速 U(=U/fB,
r Φ μe −jh
= μ 2 2 ……………………………(7)
U:風速,f:振動数)の関数で表される。 Θ
f −h +2jζϕ fh
本研究では,実橋を対象としたフラッタ解析には,平 この式から,μe が等しくてもジンバルの極慣性モーメン
7)
板翼の理論値 を用い,実験で用いた橋桁断面模型に対 トが小さいと,ジンバルの応答が大きくなることが分か
する解析には,後述する対象模型において測定して得ら る。
5)
れた空気力係数 を用いて表現する。
2. 模型による風洞実験及び解析との比較
1.2 等価極慣性モーメント比
連成フラッタの発生に関しては,通常ねじれ振動が支 2.
1 実験装置
配的となるので,まず,ジャイロダンパの橋桁のねじれ 図 2 に示す 2 自由度ばね支持剛体模型を用いた風洞実
振動に対する振動抑制効果を検証する。式(2)からたわ 験 を 実 施 し た。模 型 断 面 は 扁 平 六 角 形 で,桁 幅 B =
み自由度を除いた次の運動方程式で説明する。 0.352m,質量 m=4.05kg,極慣性モーメント I = 4.51×
: :
I 0 θ 0 −IrΩ ・
θ + kθ 0 θ = M 10−2 kg・m2 とした。模型のたわみとねじれの振動数は,
+ ……(3)
0
IG ϕ IrΩ cϕ ・ϕ 0 kϕ ϕ 0 それぞれ 1.34Hz,2.39Hz,対数減衰率はそれぞれ 0.024,
このとき,橋梁の減衰 cθは十分に小さく無視できるもの 0.015 とした。この模型の非制御時における連成フラッタ
jωt
とする。右辺の M は,M=M'e (ここに,j =√
 ̄− ̄,ω
1 発現風速は 7.2m/s で,そのときの振動数は 1.95Hz であ
は外力の周波数)で表される周期的外力とする。無次元 った。
化のために次の記号
kθ kϕ cϕ
ωθ2 = , ω ϕ 2 = , ζ
ϕ = ,
I IG 2IGωϕ
……………(4)
ωϕ ω
M’
f = , h= , θst= Bridge deck
ωθ ωθ kθ (B=352mm, D=30mm)
を導入すると,桁のねじれ変位θの伝達関数は次式で表
4 050g
される。
θ f 2−h2+2jζϕ fh
=
θst
Ir2 Ω 2 2 …
(5)
h4+f 2− f 2+1+ h +2jζϕ fh(1−h2 ) Heav.
I G I ωθ
Tors.
この伝達関数からジャイロダンパの性能を表す等価極慣
性モーメント比μe が求められる。制振原理の近い動吸振
器では,一般に固有振動数は主系の振動数近傍に設定さ 図 2 ジャイロダンパを搭載したばね支持模型 5)
れ,共振点近傍での応答が評価されることから,それに Fig. 2 Spring supported bridge deck model with GD unit 5)
8.8m/s
1 800rpm 及び 3 000rpm のとき,橋桁のねじれ倍振幅が
8.0
2°
に達する前に,ジンバル振動の倍振幅が装置の可動範
0.15
囲である 20°に達するのが確認できる。このことが,ジ
ャイロダンパの性能が解析を下回った理由である。すな
0.10
8.5 わち,橋桁の振幅が急激に増加する橋桁のフラッタが発
7.75
現する前に,ジンバルの振幅がその可動制限に達してい
0.05
る。このようにジンバルの振動が大きくなるのは,式
(7)の橋桁のねじれ振動に対するジンバルの振動倍率が
0.00
1.4 1.5 1.6 1.7 1.8 1.9 2.0 大きく,橋桁のわずかな振動に対してジンバルが大きく
Natural freq. of Gimbal (Hz)
反応するためである。乱れた風の作用する自然界におい
(a) Experiment
ては,このジンバルの過大な応答が問題になると予想さ
0.25
れ,ジャイロダンパの設計には注意が必要であることが
明らかとなった。
0.20
Damping ratio of Gimbal ζϕ
3.実橋適用時の検討
0.15
8.5 9.0 最後に,中央支間 2 500m,側径間 1 250m の超長大吊
橋に対するジャイロダンパの設計例を示す。吊橋の諸元
0.10
は,桁幅 41m,桁とケーブルの単位長さあたりの質量は
8.0 41ton/m とする。鉛直及びねじれの対称 1 次モードの等
0.05
価質量 m 及び極慣性モーメント I は,それぞれ 41.4ton/
9.5
m,10 353 ton・m2/m,鉛直及びねじれモードの各固有
0.00
1.4 1.5 1.6 1.7 1.8 1.9 2.0 振動数は,それぞれ 0.056Hz,0.16Hz とする。対数減衰
Natural freq. of Gimbal (Hz)
率は両モードとも 0.02 とする。フラッタ解析は,平板空
(b) Analysis
図 4 橋桁模型のフラッタ発現風速(ロータ回転数 30Hz)5)
気力を用いた 2 次元解析により実施した。対策前のフラ
Fig. 4 Flutter speed for bridge deck model with GD (rotor speed : 30Hz)5) ッ タ 風 速 は 64m/s で,フ ラ ッ タ 発 現 風 速 の 目 標 値 を
8.8
9.7
10−1
モーメント比μe は 74%(基準振動数= 0.09Hz)にもな
4 5 6 7 8 9 10 り,広いパラメータ範囲で風速 80m/s を満足する。なお,
U (m/s)
(a) Heaving (Deck) 橋桁のねじれ振動に対するジンバルの振動倍率は約 300
倍となる。この倍率が問題になるかどうかは,乱れた風
101
0 rpm
により生じる橋桁の捩れ振幅より決まるが,できる限り
1 800 rpm 小さくなるように設計することが望まれる。
2.0 3 000 rpm 次に,上記のジャイロダンパと等価極慣性モーメント
100
θ(p-p) (deg.)
8.8
9.7
ら,設置個数の増加やロータ径を大きくするほどロータ
10−2
4 5 6 7 8 9 10 回転数が下がり,ジンバルの振動倍率が低下することが
U (m/s)
分かる。どの組合わせを採用するかは,乱れた風が作用
(b) Torsional (Deck)
する中での制振された橋桁のねじれ振幅と,ジンバルの
102
0 rpm 1.0
1 800 rpm
20
3 000 rpm 0.8
ϕ (p-p) (deg.)
101
Damping ratio of Gimbal
6 000 rpm
0.6
85
80
100
0.4
75
7.2
8.8
9.7
0.2
10−1
4 5 6 7 8 9 10 70m/s
U (m/s)
0.0
(c) Gimbal (GD) 0.02 0.04 0.06 0.08 0.10 0.12
5) Natural freq. of Gimbal (Hz)
図 5 各ロータ回転数における橋桁模型の応答
Fig. 5 Responce of bridge deck model with GD at various rotor 図 6 ジャイロダンパ設置時の吊橋のフラッタ風速 5)
speeds 5) Fig. 6 Flutter speed for bridge deck with GD 5)
イロダンパの高いフラッタ抑制効果を確認した。ジン
バルの可動範囲の制限により,フラッタ発現風速は解
析を若干下回ったものの,ジャイロダンパの最適チ
ューニングパラメータや,ロータ回転数の増加により