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2 109
研究論文
冷 間圧 延 した アル ミニ ウ ム板 の残 留 応 力
今井 克 哉*・米 谷 茂**
Residual stresses in the aluminum sheet specimens rolled from 20 to 89% total sectional reduction were measured. Used
reduction per pass was 20% and more heavy percentage. Textures in the sections of these specimens were measured.
Normal residual stress generated to the rolling direction is tension in the outer parts and compression in the inner parts
of these specimens except heavily reduced ones. In the residual stress distribution of these specimens, the layer where
the residual stress changes from tensile to compressed one corresponds to the layer where hardness begins to decrease
slightly in the inner part. It has been shown that these residual stresses are correlated with the texture formed by the roll-
ing, and that residual shearing stress in the section has the relation to the structural internal strain caused by the plastic
deformation.
Keywords: residual stress, cold rolling, aluminum sheet, residual shearing stress, rolling texture
残 留 応 力 を測 定 した。 ま た 断面 内 各部 の集 合 組 織 を 測 定
1. 緒 言
して, 残 留 応 力発 生 に際 して の集 合組 織 と の関 連 に つ い
冷 間 圧 延 材 の 残 留 応 力 の 測 定 は 古 くか ら行 わ れ て お て も検 討 を行 っ た。
り1)∼3), 鋼材の圧 延 材 では 全 圧 下 率 が10%以 下 の もの に
2. 実 験 方 法
つ いて, 非 鉄 金 属 材 で は 全 圧 下 率 が 約40%以 下 の もの に
つ い て 行 わ れ た 結 果 が報 告 され て い るが, 強度 の圧 下 率 2.1 供試材
ま で圧 延 した もの に つ い て 残 留 応 力 を 測 定 した 例 は あ ま 市 販 の ア ル ミニ ウ ムの 熱 間 圧 延 板 (純度99.9%) を板
り見 られ な い。 圧 延 に よ る残 留 応 力 は, 1パ ス圧 下 率 や の長 さ方 向 に そ って19.8×50×430mm3に 機 械 加 工 した
そ の他 の 圧 延 条 件 に よ って 種 々異 な る もの とな る と考 え 後, 653Kで 焼 な ま し (7200s保 持 後 炉 冷) を 行 っ た も
られ るが, これ らに つ い て 詳 細 に 検 討 を 行 った報 告 は な の を 圧 延 用 素 材 と した。 圧 延 は 表 面 が 平 滑 な 直 径300
い。 mmの 圧 延 ロー ル を 有す る圧 延機 で, 常 温 に お い て圧 延
強 度 の 圧 延 加 工 を 行 った 板 材 は 内部 に 集 合組 織 を生 じ 速 度31.4mm/s, 無 潤 滑 の条 件 で一 方 向 圧 延 を した。 圧
て お り, 組 織 的 に は 異方 性 の あ る もの とな る。 この た め 延 の パ ス ス ケ ジ ュ ー ル を Table 1に 示 す。1パ ス圧 下 率
残 留 応 力 の 発 生 に 対 して は, 力学 的 条件 に よる影 響 に さ を 約20%に した も の (Condition 1) と1パ ス 圧 下 率 を
ら に集 合 組 織 生 成 の 影 響 も考 え られ る。 最 近, X線 的 よ り大 き く した もの (Condition 2) の2種 類 を 行 った。
方 法 を 用 い て 強 度 に 圧 延 した板 材 の 残 留 応 力 の測 定 も行 2.2 残留応力の測定
わ れ, 集 合 組 織 との 関 係 も検 討 され て い る4),5)。 圧 延 を 行 うと板 の 断 面 内 長 手 方 向 と これ に垂 直 な板 幅
こ こで は 冷 間圧 延 材 の残 留応 力 発 生 に 関す る基 本 的 な 方 向 に 残 留 応 力 が 生 じ る。試 料 の 圧延 方 向 にそ った 方 向
研 究 と して, 著 者 ら6)がさ きに ア ル ミニ ウ ム引 抜 丸 棒 の をx方 向, 圧 延 方 向 に 対 し垂 直 な 板 幅 方 向 をy方 向と
残 留 応 力 に つ い て 行 った研 究 と同 様 な方 法 に よっ て, ア し, また試 料 表 面 に 垂 直 な 方 向 をz方 向 と し, こ こで 圧
ル ミニ ウ ム の板 材 につ い て, 2種 類 の1パ ス 圧 下 率 の 条 延 方 向 に 垂 直 な 断 面 内 に 生 じ る圧 延 方 向 の残 留 応 力 σx
件 で 全 圧下 率 約20%か ら約89%ま で圧 延 を行 っ た試 料 の を 求 め た (板表 面 に 垂 直 な 方 向 の残 留 応 力 σzは0と す
* 金 沢大学大学院 (金沢市)。Graduate School of Kanazawa University (Kanazawa-shi, Ishikawa).
** 金沢大学工学部 (金沢市)。Faculty of Engineering, Kanazawa University (Kanazawa-shi, Ishikawa).
110 軽 金 属 (1990)
Table 1 Reduction rate and thickness of sheets in each stage of the rolling sequence
試 料 表 面 部 は 圧 縮 力 と さ らに 摩 擦 力 が 作 用 し, この 影 響
に よ って 試 料 内 で長 手 方 向 に 表 面 よ り不 均 一 な せ ん 断 変
形 を 生 じ, この 結 果 せ ん 断 残 留 応 力が 生 じる こ とが 考 え
られ る。 最 近, 研 削 や せ ん 断 変 形 を 伴 う塑 性 変 形 を 行 っ
た もの に つ い てせ ん 断 残 留 応 力 が 測 定 さ れ て い る6),7)。
こ こで は Dolle ら8)に よ って 開 発 され た 方 法 を 用 い て,
圧 延 方 向 の 残 留 応 力 σx, お よび 圧 延 方 向 に 平 行 な 面 に
そ っ て, この 方 向 に 作 用 す る せ ん 断 残 留 応 力 τxzも求 め
た。
測 定 方 法 に つ い ては, 著 者 らは さ き に アル ミニ ウ ム引
抜 丸 棒 の残 留 応 力 に 関 す る研 究6)にお い て, X線 を 用 い
て残 留 応 力 の測 定 を行 った が, こ こ で も 同様 な 方 法 で 行 れ た 実 測 値 の 直線 性 が 問 題 とな る。Dolle ら10)は集 合 組
った。 そ の概 略 を述 べ る と, 圧 延 方 向 にそ ったx方 向 と 織 の あ る も の の 残 留 応 力 の 測 定 に は(h00)面 また は
試 料 面 に 垂 直 なz方 向 を含 む (zx) 面 内 に お い て, z方 (hhh)面 を 測 定 す る こ とを 推 奨 して お り, 本 実験 で は,
向 を 角 度0と し, これ よ り種 々な 角 度 ψ傾 け た 方 向 よ X線 はCrKα線 を 用 い, 試 料 の(222)面 の 回 折 に よる 格
りX線 を 入 射 し, また 反 対 方 向 に (zx) 面 内 に 同 じ く 子 面 ひ ず み を 求 め た。 本実 験 の結 果 で は, 実 際 に 応 力 を
角 度-ψ傾 け てX線 を 入 射 し, そ の 回折 線 の 移 動 を 測 定 求 め る に あ た っ て, (1)(2)式 に お け る {(ε3)x,+ψ+(ε3)
して, これ よ りそれ ぞれ の回 折 面 に垂 直 な方 向の 格 子 面 x,-ψ}/2に対 す るsin2ψの 関 係, お よび {(ε3)x,+ψ-(ε3)
ひずみ (ε3)x,+ψお
よび (ε3)x,-ψを
求 め た。 こ の 部 分 の x,-ψ}/2に対 す るsin 2ψの 関 係 に お い て, そ れ ぞ れ 両 者
圧 延 方 向 の 残 留 応 力 σxとせ ん 断 残 留 応 力 τxzとひ ず み の 間 に は ほ ぼ 直線 的 関 係 が得 られ た。
(ε3)x,+ψ,(ε3)x,-ψと
の 間に は 次 の関 係 が成 立す る6),8),9)。 弾 性 係 数 は 組 織 に 優 先 方 位 を 生 じる もの で は, そ の 方
位 に よ っ て異 な る。 こ こ で は ヤ ン グ率E, ボ ア ソ ン比
(1)
vは, 各 圧 下 率 の もの に つ い て 試 験 片 を作 り, 引 張 試 験
ら応 力 σx,τxzを 求 め た。 vは 一 様 と仮 定 して残 留 応 力 を求 め た。
集 合 組 織 を も つ 試 料 に つ い てX線 に よ る応 力 測 定 を 試 料 内部 の残 留 応 力 を求 め る ため, 試 料 は 片 面 よ り,
行 う さ い に, 普 通 こ の よ うに し て 得 ら れ る ひ ず み 腐 食 に よっ て外 表 よ り外 層 を逐 次 に除 去 を し, この 外 層
(ε3)x,+ψ, (ε3)x,-ψ対す るsin2ψと の関 係 に おい て得 ら 除 去 過 程 中 の試 料 の表 面 部 の 圧 延 方 向 残 留 応 力 σxお よ
Vol. 40, No. 2 111
試 料 断 面 内 各 部 の硬 さ 測定 は, マ イ ク ロビ ッ カ ー ス硬
度 計 を用 い, 荷 重1.96N, 負 荷 時 間30sの 測 定 条件 で 行
った。
2.3 集 合 組 織 の測 定
集 合 組 織 の 測 定 は, 各 圧 下 率 の ものに つ い て, 断 面 内
の外 表 近 く, や や 内 部, 内部 の 各 位 置 で{111}極 点 図 を
作 成 し行 った。 試 料 を エ メ リーペ ー パ ーに よる 研磨 と腐
食 に よ っ て厚 さほ ぼ0.1mmに 仕 上 げ, CuKα線 を用 い
て Decker ら13)の透 過 法 と反 射 法14)を併 用 して 極 点 図 を
作 成 し た。 試 料 表 面 に 対 す るX線 の 入 射 角 度 αが
0°, 90°の場 合 に は, ラ ン ダ ム試 料 の α=0°, 90°にお け
る回 折 強 度 を 基 準 回 折 強 度 と し, そ れ 以 外 の角 度 の場 合
に は 吸 収 補 正 式 を 用 い て, 測 定 され た 強 度 を補 正 した。
3. 実 験 結 果
発 生 す る もの で, 硬 さは この と きの 材 料 の塑 性 変 形 の程
び せ ん 断 残 留 応 力 τxzを測 定 した。 つ い で, 除 去 過 程 中 度 を 示 す もの と考 え られ る)。Fig. 2に 素 材 お よび1パ
の 表 面 残 留 応 力 σxか ら, 試 料 断 面 内 の 圧 延 方 向 に 釣 合 ス 圧 下 率 を 約20%に して (Condition 1) 圧 延 した 試 料
い を 保 っ て存 在 す る残 留 応 力分 布 を求 め た11)。 の板 厚 方 向 の 断面 硬 さを 示 す。 断 面 内 各部 の硬 さ分 布 は
また, 実 際 に 各 条件 の試 験 片 は, 後 述 の集 合 組 織 の測 どの圧 下 率 の もの も外表 部 か ら内 部 に 向か って 硬 さは や
定 結 果 か ら知 られ る よ うに 各圧 下 率 に よっ て, ま た断 面 や増 加 し, や が て 内部 で や や 低 下 す る よ うな分 布 と な っ
内 各部 分 で も異 な り一 様 な組 織 で は な い。 さら に, これ て い る。 また, Fig. 3に は, 1パ ス圧 下率 を よ り大 き く
ら をX線 に よ っ て 測 定 して 得 られ る ひ ず み は, 試 料 した も の (Condition 2) の 断 面 硬 さ を示 す。 分 布 の 傾
(222)面 の ひ ず み で あ る。 こ の た め, X線 的 に 測 定 され 向 は先 の圧 延 条 件1の 場 合 とほ ぼ 同 じよ うで あ るが, 圧
る残 留 応 力 と, 機 械 的 に 測 定 され る残 留 応 力 との比 較 検 延 条 件1の 場 合 に比 べ 外 表 か ら内部 に か け て の 硬 さの 変
討 を 行 った。 こ こで は 次 の よ うに した。 厚 さhの 板 の試 化 は 大 き い よ うで あ る。 この硬 さ 分布 か ら断 面 内 で 外 表
料 を 片 面 よ り厚 さaま で除 去 し, 除去 反 対 面 の ひず み を 部 と内 部 で 不 均 一 な 塑 性 変 形 が 生 じた こ とが 推 察 され
測 定 す る。 外 層 除去 過 程 中 に お け る試 料 表 面 の残 留 応 力 る。
を σ'x(a)(これ は 外 層 除 去 に よ っ て 変 化 して い る), ま 次 に残 留 応 力を 測 定 した結 果 につ い て 述 べ る。 は じめ
た 試 料 の 除 去 側 と反 対面 の, 除去 に よ って生 じる ひず み に試 料 の 板 幅 方 向 の 中心 部 に おけ る圧 延 方 向 と 板 幅 方 向
料 は1パ ス圧 下 率 を よ り大 き く した もの (Condition 2)
ε=-2/E∫haσ'x(a)/ada (3)
の, 圧 下 率63.5%お よび84.9%の もの で あ る。(板 幅 方
そ こで, 機械 的 方 法 と して 抵抗 線 ひ ず み 計 を用 い て 除去 向 の応 力 はX線 を 横 方 向 か ら 入 射 し, 圧 延 方 向 と 同様
反 対 面 に 生 じる 機 械 的 ひ ず み εを測 定 す る。 また σ'/E な 方 法 で求 め た もの で あ る)。 い ずれ の もの も 板 幅 方 向
と して は, 外 層 除 去過 程 中 に逐 次 測 定 され る試 料 表 面 部 の 残 留 応 力 は, 圧 延 方 向 の 残 留 応 力 分 布 と同様 な傾 向 の
の(222)面 のX線 的 ひ ず み を 用 い, 式(3)の 関 係 か らX 分 布 で あ る。 しか し圧 延 方 向 の 残 留 応 力 に 比べ, 外 表 部
線 的ひ ずみ εを求め て 機械 的 ひず み と比 較検 討 を行 った。 で は 圧縮 応 力 とな って お り, 引 張 応 力 分布 が 内 部 に移 行
Fig. 1に1パ ス 圧 下 率 を 約20%に した も の (Condition した よ うな 分布 とな って い る。 また, この ほか に外 層 除
1) の 圧 下 率20.4%, 58.4%, 89.2%の 試料 に つ いて測 去過 程 中 の圧 延 方 向 に 平 行 な 面 に そ っ て, この 方 向 に作
定 した 結 果 を 示 す。 い ず れ の もの も機械 的 な方 法 で 測定 用 す るせ ん 断残 留 応 力 τxzを式(2)に よ って 求 め た が, こ
した ひ ず み と, X線 測 定 か ら求 め た ひ ず み は ほ ぼ よ く れ に つ い て は後 の考 察 の と ころ で説 明す る。
一 致 して い る よ うで あ る。 各試 料 の板 幅 方 向 の 中 心部 に お け る板 厚 方 向 の, 圧 延
112 軽 金 属 (1990)
方 向 残 留 応 力 分 布 に つ い て 説 明 す る。 素 材 お よび1パ ス
圧 下 率 を 約20%に し た も の (Condition 1) の 各 圧 下 率
の試 料 の圧 延 方 向 残 留 応 力 分 布 を 求 め た 結 果 を Fig. 5
に, また1パ ス 圧 下 率 を よ り大 き く した も の (Condi-
tion 2) の 各 圧 下 率 に お け る残 留 応 力分 布 を Fig. 6に 示
す。1パ ス圧 下 率 を約20%に した もの に お い て は, い ず
Fig. 3 Hardness distribution in the cross-sections of
aluminum sheets after rolling to the various reduc- れ の 圧 下 率 の 試 料 も最 外 表 で ば 圧 縮 応 力 で あ るが, や や
tions under condition 2. 内 部 に 入 るに 従 って 引 張 応 力 が あ らわ れ て お り, さ らに
Vol. 40, No. 2 113
内 部 に 入 る と圧縮 応 力 に移 行す る よ うな 分布 とな っ て い
る。 圧 下 率20.4%の もの は や や 内 部 で あ らわ れ る引 張 応
力 は 大 き く, 36.3%に な る とや や 低 下 す る が, 36.3%,
58.4%の も の に は, そ の 引 張 応 力 部 分 に お け る分 布 に は
多 少 凹 凸 が 認 め られ る。 ま た 圧 下 率20.4%の ものを除
き, い ずれ の もの も 内部 の圧 縮 残 留 応 力 は 中心 に 近 づ く
に つ れ て 減 少 す る よ うな 分 布 と な っ て い る。Fig. 6に 示
す1パ ス 圧 下 率 を よ り大 き く した も の で は, 圧 下 率
39.4%の 試 料 は 同 じ く外 表 近 くに 大 きな 引 張 残 留 応 力 が
留応 力部 分 が あ らわれ て い る。 そ して さ らに 内 部 で 再 び ては, 本 実 験 の場 合 軟 質 の ア ル ミニ ウ ム材 で あ るた め ほ
圧 下 率77.8%の もの も同 じ よ うに 外 表 近 くの 引 張 応 力 は 断 面 内外 表 よ り中心 に 向か っ て硬 さが 低下 し始 め る付 近
小 さ く, や や 内部 で圧 縮 応 力が 大 き くあ らわ れ る よ うな が, 残 留 応 力 の引 張 応 力か ら圧 縮 応 力 に移 行 し て い る と
な残 留 応 力 発生 傾 向 の差 は, 硬 さ分 布 の状 態 の 差 か ら推 布 とな っ て い る。
察 され る よ うに, 両 者 の塑 性 変 形 の状 態 の差 に よる もの 3.2 考 察 (集合 組 織 お よび 残 留 応 力 の発 生 に つ い て)
と考 え られ る。 ま た残 留 応 力分 布 と硬 さ分 布 との 対 応 を 本 実 験 の試 料 は, いず れ も圧 延 に よ る集 合組 織 を生 じ
み る と, ま ず残 留 応 力 の硬 さ に対 す る直 接 的 な 影響 と し て お り, こ こで, 残 留 応 力発 生 を 考 察 す る た め, は じめ
114 軽 金 属 (1990)
部 で は 圧 延 集 合 組 織 は よ り明 瞭 に な る が, 内部 で は
{110}<001>方 位 が まだ 認 め られ る。
こ の よ う に 試 料 内 部 に お い て は, 圧 下 率58.4%で
{110}<112>, {123}<412>方 位 に 強 い 集積 が あ らわ れ る よ
うに な る もの の, {112}<111>方 位 は あ ま り認 め られ ず,
圧 下 率 が89.2%に な って も圧 延 集 合 組 織 は まだ 十 分 に 発
達 して い な い。 一 方 試 料 外 表 の部 分 で は, 圧 下 率 の増 加
に 伴 っ て 逐 次 圧 延 集 合 組 織 が 発 達 し, 圧 下 率58.4%,
78.8%, 89.2%の も の で は{112}<111>方 位 も多 くな り圧
延 集 合 組 織 の 様 相 を 呈 して くる のが 認 め られ る。 圧 下 率
89.2%で か な り明 瞭 な純 金 属 型 圧 延 集 合 組織 とな って い
る。 こ の よ うに 外 表 近 くと内 部 とで は 各 圧 下 率 に お け る
集 合 組 織 お よび そ の 変 遷 状 態 が 異 な って い る。 また や や
内 部 の 位 置 に お け る集 合 組 織 は この 中 間 的状 態 で, 圧 下
率36.3%ま で の もの は 比 較 的 内 部 に お け る集 合 組 織 に近
い も の とな っ て お り, 圧 下 率58.4%, 78.8%, 89.2%の
もの は 外表 近 くの集 合 組 織 と よ く似 て い る。
この よ うに 本実 験 に お い て も, 圧 延 過 程 中 の各 圧 下 率
の段 階 で集 合組 織 が異 な り, ま た各 圧 下 率 の も の につ い
て もそ の断 面 内各 部 で集 合 組 織 は異 な っ てい る結 果 が 得
に各 試 料 の 集 合 組 織 に つ い て 述 べ る。 こ こ では1パ ス約 られ た。 しか しこ の よ うな結 果 にか か わ らず, 残 留 応 力
20%圧 下 を 行 った 圧 延 材 の 各 圧 下 率 の もの の集 合 組 織 を 分 布 は Fig. 5に 示 す よ うに 外 表 近 くで 引 張, 内 部 で 圧
測 定 した 結 果 に つ い て 述 べ る。 縮 の 形 で ほ ぼ 一 定 の 分 布 で あ る。 これ らの こ とか ら, 個
アル ミニ ウ ム圧 延 板 の 集 合 組 織 の 形 成 に つ い て は 従 来 々詳 細 な 分 布 の 差 は 別 と して, 残 留 応 力 発 生 に つ い て は
よ り多 くの報 告 が あ る15)∼17)。
試 料 の 断 面 内 各 部 で は, まず 圧 延 時 に 作 用 す る力 学 的 条 件 に よ る影 響 が 大 き く,
圧 下 率 の増 加 に 伴 って 圧 延 集 合 組 織 が 発 達 して ゆ き, 各 以 上 の よ うに 組 織形 成 に よ る影 響 (各集 合組 織 に よる塑
圧 下 率 の 段 階 で 集 合 組 織 が 異 な り, また 各 圧 下 率 の もの 性 異 方 性 の 差 に よ る影 響) は2次 的 で は な い か と考 え ら
に つ い て も そ の 断 面 内 各 部 で も 集 合 組 織 は 異 な って い れ る。
る。形 成 され る 集 合 組 織 の 違 い は 断 面 内 各部 の すべ り変 次 に, 各試 験 片 の せ ん 断残 留 応 力 お よび半 価 幅 を測 定
形 と関 連 して い る こ と が 考 え ら れ る。Fig. 7お よ び した 結 果 を 述 べ る。 こ こで 示 す せ ん 断 残 留 応 力 τxzは,
Fig. 8に 各 圧 下 率 の も の の 断 面 内 の 外 表 近 く, や や 内 応 力測 定 時 の外 層 除 去 の さ い の各 試 料 表 面 部 に おけ るせ
部, お よび 内部 の 各 位 置 に お け る{111}極 点 図 を 示 す。 ん 断 残 留 応 力 で あ る。 こ のせ ん 断 残 留 応 力 は, X線 を
ま た Table 3に 同 じ く各 試 料 断 面 内 に 認 め られ る 優 先 入 射 した と きの 浸 透 深 さ の範 囲 内 に お け る平 均 の 残 留 応
方 位 を示 す。 力 であ る。 また 半 価 幅 は, 結 晶 粒 子 の大 き さ と結 晶 構 造
圧 下 率20.4%の 試 料 は ま だ か な り再 結 晶 集 合 組 織 の 様 の 乱 れ に 起 因 す る微 視 的 な 内 部 ひ ず み に 対 応 す る もの で
相 を呈 して い る。 圧 下 率36.3%の 試 料 に な る と, 外 表 近 あ る。 両 者 を 比 較 す る こ とに よ って, そ の部 分 の 塑 性 変
くで は, 20.4%で 認 め られ た方 位 の まわ りに 分 散 が 起 こ 形 状 態 を 推 察 す る こ とに した。
っ て い る。 や や 内部, 内部 で は圧 延 方 位 へ の集 積 は まだ 1パ ス 圧 下 率 を 約20%に した もの の 各 圧 下 率 に お け る
弱 い。 圧 下 率 が58.4%に な る と, 試 料 外 表 近 くで は 圧 延 せ ん 断 残 留 応 力 お よ び 半 価 幅 を Fig. 9に 示 す。 こ こ で
集 合 組 織 が か な りあ らわ れ て くる。 そ して や や 内 部 も外 (相対) 半 価 幅 値 は 応 力 測 定 の さ い の 入 射 角 ψ=25°と
表 近 くの 集 合 組 織 に 近 い もの に な っ てい る。 しか し内部 35°の場 合 の 回折 像 か ら求 め た。 各 圧 下 率 の そ れ ぞ れ に
Vol. 40, No. 2 115
力が あ らわ れ た の で は な い か と考 え られ る。
4. 結 言
1パ ス 約20%圧 下 お よび1パ ス圧 下 率 を よ り大 き く し
た もの の 各 条 件 で 圧 延 を 行 った ア ル ミニ ウム冷 間圧 延 板
の 残 留 応 力 をX線 的 方 法 に よ っ て 測 定 した。 また 断 面
内 各部 に お け る 集 合 組 織 の 状 態 を 調 べ, 圧 延 材 の残 留 応
力発 生 に つ い て検 討 を 行 った。
(1) 残 留 応 力 は, 1パ ス約20%圧 下 の もの は 外 表 部 分
は引 張 残 留 応 力 がみ られ, 圧 下 率 の 小 さい もの では そ の
部 分 の分 布 に 凹 凸 が み られ る。 ま た 内部 は 圧縮 残 留 応 力
で あ る。 しか し, 強 圧 下 の もの に な る と, 外表 部 の 引 張
残 留 応 力 部 分 は よ り減 少 し, 内部 は圧 縮 残 留応 力 で あ る
が, 中 心 部 で は 引 張 残 留 応 力 が あ らわ れ る。
(2) 集 合 組 織 は 圧 延 の各 圧 下 率 の段 階 で それ ぞ れ 異 な
り, また どの 圧 下 率 の も の も断 面 内の, 外 表近 く, や や
内 部, さ らに 内 部 の 各 部 でお のお の異 な る。 しか し, 残
留 応 力 の 発生 は い ず れ の もの も外 表 近 くで は引 張 応 力 が
あ らわれ て い る。 これ は, まず 圧 延 時 に お け る 力 学 的 条
件 に よる もの と考 え られ る。 さ らに 集 合組 織 の 形 成 に よ
る影 響 も加 わ っ て い る もの と考 え られ るが, こ れ に つ い
て の詳 細 は今 後 検 討 を行 う予 定 で あ る。
参 考 文 献