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ジャーナリズムの倫理

ジャーナリストの組織・活動に
かかわる自律的な――自分たち
で決めて自分たちで守る――社
会的な取り決め
ジャーナリストは倫理の規律を
強く要請される職業
権力の監視・批判者としての役
割を期待されるがゆえのこと。
ただし,権力の批判者の活動が,
全面的に“法”で規律されてし
まってはいけない
法による介入・干渉は最小限に
とどめ,ジャーナリズムの諸問
題は基本的に倫理にゆだねられ
ることが「プレスの自由」「表
現の自由」の趣旨にかなったや
り方であるという考え方が日本
では根強いが,それは正しいか?
法が本来行うべき規律を厳格に遂
行していないがゆえに,倫理がい
つまでも育たないという状況も無
視できない
法が積極的に介入して,倫理の棲
息環境を保全しなければならない
場面も確実に存在するのでは?
ルールを覚え込んだり,「べか
らず集」のようなものを頭に叩
き込んだりすることではない
ジャーナリズムの自主規制ルー
ルは実際には無数の例外を伴い,
一つの行動についての倫理的判
断が,専門家の間でも見解が分
かれることがある
倫理的ルールは定言的な条項と
して表現できず,マニュアルの
ようなものに編集することは不
可能である
倫理とは本質的に「非定型的」
なものである
「あるべきジャーナリズム
(ジャーナリスト像)に近づこう
とするジャーナリストの主体的
な営み」こそが「倫理」として
捉えられるべきものなのかもし
れない
日本における
ジャーナリズム
倫理の構造
表現の自由は人間の基本的権利
であり,新聞は報道・論評の完
全な自由を有する。それだけに
行使にあたっては重い責任を自
覚し,公共の利益を害すること
のないよう,十分に配慮しなけ
ればならない。
http://www.pressnet.or.jp/outline/ethics/
新聞は歴史の記録者であり,記
者の任務は真実の追究である。
報道は正確かつ公正でなければ
ならず,記者個人の立場や信条
に左右されてはならない。論評
は世におもねらず,所信を貫く
べきである。
新聞は公正な言論のために独立
を確保する。あらゆる勢力から
の干渉を排するとともに,利用
されないよう自戒しなければな
らない。他方,新聞は,自らと
異なる意見であっても,正確・
公正で責任ある言論には,すす
んで紙面を提供する。
新聞は人間の尊厳に最高の敬意
を払い,個人の名誉を重んじプ
ライバシーに配慮する。報道を
誤ったときはすみやかに訂正し,
正当な理由もなく相手の名誉を
傷つけたと判断したときは,反
論の機会を提供するなど,適切
な措置を講じる。
公共的,文化的使命を果たすべ
き新聞は,いつでも,どこでも,
だれもが,等しく読めるもので
なければならない。記事,広告
とも表現には品格を保つことが
必要である。また,販売にあ
たっては節度と良識をもって人
びとと接すべきである。
編集権声明
新聞の経営,編集管理者は常時編集
権確保に必要な手段を講ずると共に
個人たると,団体たると,外部たる
と,内部たるとを問わずあらゆるも
のに対し編集権を守る義務がある。
外部からの侵害に対してはあくまで
これを拒否する。

http://www.pressnet.or.jp/statement/report/480316_107.html
ジャーナリズム倫理の主体(制
定者)が“企業経営者”であり,
日常の取材・報道活動の担い手
であるジャーナリストはその制
定過程から疎外され,制度上は
単なるその客体(名宛人)の地位
に置かれている
「知る権利」を委ねている一般
市民も,こうした倫理構造の中
に位置付けられていない。
日本のジャーナリズム倫理は,
専ら「企業(経営者)倫理」とし
て認識され,展開されてきたと
言える
日本新聞労働組合連合(抜粋)
自らの良心に反する取材・報道の指示
を受けた場合,拒否する権利がある
大資本からの利益供与や接待を受けな

会社に不利益なことでも,市民に知ら
せるべき事実は報道する
記者は営業活動を強いられることなく,
取材・報道に専念する
http://www.ritsumei.ac.jp/~syt01970/newpage27.html
業界単位でいくつかの倫理規範
が作られる一方,各メディア企
業で,取材・報道の際の行動規
範である「報道マニュアル(記者
行動規範)」を制定している
http://www.ntv.co.jp/shinsa/kihan.html
http://www.tv-tokyo.co.jp/main/yoriyoi/rinri.html
プレスの自由と倫理
「報道機関の報道は(略)国民の
『知る権利』に奉仕するもので
ある。したがって(略)事実の報
道の自由は,表現の自由を規定
した憲法21条の保障の下にあ
る」(1969.11.26 博多駅テレビ
フィルム提出命令事件 最高裁
大法廷決定)
知る権利: right to know
最高裁は「報道のための取材の
自由」は副次的・消極的に捉え
ているのが特徴
取材の自由は,憲法第21条で直
接保障される報道の自由に比べ
て,他の法益と対立する場面で
制限されやすく,取材情報を国
家が利用するハードルも低い
「放送事業者がどのような内容
の放送をするか(略),どのよう
に番組を編集するかは,表現の
自由の下,公共の福祉の適合性
に配慮した放送事業者の自律的
判断にゆだねられている」

NHK番組改変事件最高裁判決,2008.6.12
“奉仕”の意味が不明確
マスメディアに何らかの国民に
対する奉仕的義務があるとして,
そのことでマスメディアは取
材・報道の自由を行使する際に
何らかの法的拘束を受けること
になるのか
国民は,マスメディアを自らの
「知る権利」実行の代行者とし
て承認するに際して,この権利
の本来の主体としての立場から,
マスメディアに対する何らかの
コントロール権を有するのだろ
うか?
「知る権利」への奉仕を一種の
理念的目標として捉える見方
報道の自由を,一般人の表現の
自由の延長線上にある主観的自
由と捉え,マスメディアに特権
や責任を課すことに消極的な立
場(社会的・倫理的責任論)
「知る権利」への奉仕を法的義
務として捉える見方。マスメ
ディア固有の社会的役割に着目
して,取材・報道の自由をそれ
にふさわしい制度・装置として
再構成しようという考え方。マ
スメディアに地位にふさわしい
特権と責任を付与する
司法取材特権
選挙報道・評論特権
取材源秘匿権
証言・証拠提出拒否特権
情報統制制度からの適用除外
(国家秘密保護・個人情報保護
など)
新聞の公共性を鑑みた経営支援
が実施されている
日刊新聞紙法(株式譲渡を事業関係者
に限定)
再販制度・新聞特殊指定
新聞業景品制限告示
第三種郵便制度
反論権保障の責任
企業内ジャーナリストの表現の自
由(内部的自由)の確保の責任
言論の多様性(複数性)確保の責任
報道評議会(プレス・カウンシル)
など第三者機関を創設する責任
マスメディア業界代表者と市民
の代表者によって構成され,合
議に基づきマスメディアに対す
る苦情処理を行うと同時に,マ
スメディアの倫理的水準の維持
のための各種活動を実施する
放送と人権等権利に関する委員
会(BRC,1997),毎日新聞「開
かれた新聞」委員会(2000)など
次は,業界横断的な第三者機関,
プレス評議会(council)の設立
が急がれる
「公然と事実を摘示し,人の名誉
を毀損」(刑法230条)する行為
不特定多数の人々に情報が伝達さ
れれば「公然性」が認められる
事実とは,それが本当のことか否
かを証明することが可能な程度に
具体性があるストーリー
人がその人格的価値(品格・道
徳性・名声・信用など)につい
て社会から受ける客観的評価,
つまり社会的評価を意味する
民事責任と刑事責任(親告罪)
名誉毀損行為が「公共の利害に
関する事実に係り,かつ,その
目的が専ら公益を図ることに
あったと認める場合は,事実の
真否を判断し,真実であること
の証明があったときは」,その
行為が免責される(刑法230条の2
第1項)
「公訴に至っていない人の犯罪
行為に関する事実」には公共性,
「公務員又は公選による公務員
の候補者に関する事実」には公
共性と公益性が,無条件に認め
られることになっている
提示された事実の真実性が証明さ
れない場合でも,行為者が真実と
信じたことが前後の状況からみて
やむ得なかったという見なしうる
事情があれば(真実と信ずるにつ
いて相当な理由がある場合),真
実性の証明があった場合と同様に
免責が認められる
社会問題に関する公正な議論を
妨げたり,萎縮させたりしない
こと
人格権の一つとしての名誉の保
護と取材・報道の自由とのバラ
ンスをとること

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