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1 「障害者の家族支援」とは

障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(以下、「障害者
総合支援法」という)や児童福祉法に基づき障害児者自身に対して行われる各種
の支援は、本人の生活支援や介護、訓練、発達支援などを目的としているが家族
支援としての意味も持つものである。

筆者は、かつて知的障害児通園施設(現在の「障害児通所支援」)で障害児保育
をしていた時期があった。通園施設には、知的障害や重症心身障害など、さまざ
まな障害をもつ子どもが通っていた。通園施設の利用を始めるまでの家族、とり
わけ親は、それまでの数年間、生まれたばかりの子どもの障害を医師から告知さ
れて大きなショックを受け、悲しみ、不安の中で障害を「治そう」と医療機関を
転々とし、障害の回復に効果があると聞くとさまざまな療法を試す一方、子ども
の障害を隠すように人目を避けて自宅にこもった生活を送るなど、強い緊張に支
配された生活の中で子育てをしてきた様子がうかがえた。

通園施設は、子どもが親から離れて通園することが基本であった。それまでの親
子密着した生活から、日中は親子分離した生活へ移行し、最初は親子とも不安を
感じながらの通園であったが、障害のある子どもを育てる親同士が出会い仲間を
得、子どもが通園施設の生活に慣れ、楽しんで過ごせるようになると親も安心
し、日中ゆっくり家事をしたり、通園施設で出会った親同士が集まって食事会等
をしながら悩みを共有したり情報交換するなどゆとりが生まれ、家族の緊張感も
緩和され、落ち着いた生活を取り戻すことができるようになっていった。

その通園施設には、「お泊まり保育」という行事があった。通園している子ども
と職員が、通園施設で一泊の「お泊まり会」を行うのであるが、この行事が親た
ちからとても人気があった。親子が夜を別々に過ごすことは、医療機関への入院
以外、ほとんどの親にとって初めての体験である。最初は心配で、夜中にこっそ
り子どもの様子を見に来る親もいたが、子どもの方は親の心配をよそに普段担当
している職員と楽しく一晩を過ごすため、2回目からは安心し、その日の夜に合
わせて夫婦でデートを楽しんだり、きょうだいにサービスしたり、親同士が集
まって朝までカラオケパーティーで大騒ぎしたりと、普段できない特別な過ごし
方をするようになっていった。

「お泊まり保育」の翌朝、親たちは化粧も剥(は)がれ寝不足と飲みすぎで顔が
むくみ、その夜をどう過ごしたかが言わずとも分かる状態で子どもたちを迎えに
来たが、日頃のストレスを一気に解消した表情は誰もが晴れやかで生き生きとし
ており、「改めて子どものことをかわいく感じた」「また今日から子育てしてい
く元気が湧いた」などの感想を多く聞いた。

「お泊り保育」に対する家族の希望が高まり、通園施設を運営していた法人は、
それを制度外のサービスとして事業化した。家族が何らかの理由で子どもを預け
たい時に、子どものことを日頃からよく知る職員が、予約制でそれを引き受ける
というサービスで、筆者はその専任職員になった。サービスの予約をしてくる時
に、ほとんどの家族は利用時間中の子どもの過ごし方について要望を伝えてき
た。「食事はハンバーグにしてほしい」「日中はプールに連れて行ってほしい」
「テレビは、いつも楽しみにしている番組を見せてほしい」。サービスの利用時
間中において、子ども自身の希望が尊重され、いつもと同じような生活をさせて
ほしいと望んだ。家族が望んでいたことは、家族の都合で「子どもを預ける」こ
とではなく、家族が世話をできない時に、家族と同じように子どもを尊重した支
援が受けられることであった。

これらの「通園施設」や「お泊まり保育」「制度外サービス」の体験を通じて理
解したことは、家族は、障害のある子どもの生活が尊重されるサービスが提供さ
れることで、初めて本人の世話から心身ともに解放され、サービスを利用してい
る間を自分自身の時間として過ごすことができる、家族支援は本人支援の上に成
り立つということであった。

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