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株式会社 IHI

世界最大の
LPG プラント誕生の軌跡
プラント建設ラッシュのなか,IHI は困難を乗り
越え,見事に世界最大の LPG( 液化石油ガス )
プラントを完成させ,信頼を勝ち得た
アルジェリア西部の町アルズーにある工業地帯に 2010 年 8 月 3 日,世界最大の LPG プラント
が 30 年をかけ完成された.1984 年に 1 期工事で 400 万 t,
1998 年に 2 期工事で 200 万 t,
今回の 3 期工事で 300 万 t 完成,合計で年間生産能力 900 万 t の LPG プラントが誕生した.

プロセストレイン全景

花の都パリから直行便で約 2 時間半,日本から遠 社( SONATRACH 社 )が運営する工場群が立ち並ぶ


く離れた北アフリカ,アルジェリア.地中海に面し アルジェリア第一のアルズー工業地帯がある.その一
た西の玄関口である第 2 の都市オランへ.空港から 角に,東西約 2.5 km,南北約 0.6 km に及ぶ原料 LPG
さらに東にハイウェーを 40 分走ること,港町アル ( 液化石油ガス )を分離・精製・液化・低温冷却およ
ズーに到着する.ここには湾内の沿岸に沿って東西 び貯蔵する世界最大の LPG プラント,通称 GP1Z 工
約 20 km,1970 年代から建設された国営炭化水素公 場がある.1 系列が製品である低温プロパン・ブタン

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我が社の看板娘

LPG 製品ができるまで
LPG の原料受入から出荷までの
プロセストレイン
フラクショネータ
設備を IHI が手掛けています.
プロパン ディエタナイザ 主にヨーロッパ,
プロパン アメリカ向けに
とブタン プロパン製品の ホットオイルヒータ
LPG 原料 を分離 タンカーで出荷
フィルタ/ 貯蔵設備 フィード 純度を高める
する される
デマキュライザ ディハイドレータ チリングコンプレッサ 低温
プロパン製品 LPGタンカー
分離したプロパンとブタンを 貯蔵タンク
原料 LPG 常圧貯蔵するために冷却する
プロパンとブタンの
原料 LPG
混合液化ガス.アル 原料 LPG に 熱交換器
LPG を安定 中の水分を −38℃
ジェリア南部のガス 含まれる,砂, 常 温 プロパン
低温
して,プロセス 1 ppm 以下 ブタン製品
田からパイプライン 鉄粉,水銀を 常 温
プロパン
貯蔵タンク
LPGタンカー
取り除く トレインへ供給 に低下させ −6℃
で搬送される ブタン
するための原料 る
( その距離なんと, ( 脱水銀装置 ) ブタン
一時貯蔵設備 国内向けに,
1 400 km ) 180℃
常温
熱 媒 タンクローリー
ブタン製品
で出荷される
常 温
ブタン

LPG プラントのフロー

を,1 年間で 100 万 t 生産できる能力をもつプロセス き た.GP1Z 工 場 で は 1984 年 に 初 め て 第 1 期 工 事


トレイン( 蒸留・分離・液化設備 )が 9 系列,製品 で,年産 100 万 t のプロセストレイン 4 系列と製品
を貯蔵する 1 基 70 000 kl の金属製タンク 6 基と新 の LPG を貯蔵するタンク 6 基,タンカーへの積出し
設のコンクリート製タンク 2 基の合計 8 基,海外へ 設備および関連設備を完成させた.1998 年には年産
製品を運ぶ大型タンカーへの積出し設備や,そのほか 100 万 t のプロセストレイン 2 系列とその関連設備,
運転に必要な水,圧縮空気,蒸気などを生産する用役 2010 年には年産 100 万 t のプロセストレイン 3 系列
設備,制御室,電気室,その他事務所などの建屋があ と製品の LPG を貯蔵するアルジェリア初となるコン
る LPG プラントが操業中である. クリート製タンク 2 基を 8 月初めに試運転を完了さ
本 LPG プラントは 1 400 km 以上も離れたアルジェ せ,SONATRACH 社に引き渡した.IHI は一貫して,
リア南部のサハラ砂漠にあるガス田からパイプライン この LPG プラントのエンジニアリング,機材調達,
で送られてきた原料 LPG( プロパンとブタンの混合 輸送,据付,試運転といったフルターンキープロジェ
液化ガス )を,初めにフィルタや脱水銀塔にて砂,鉄 クト( キーを回すだけで工場設備を運転できる状態
粉などの不純物と水銀を除去し,原料タンクに貯蔵 に仕上げて引き渡す契約形態 )を変化する国際情勢
する.貯蔵された原料 LPG はポンプにて,プロセス のなかで,マネジメントしてきた.1 期工事では土地
トレインに送られる.ここでは脱水塔で原料中の水分 の造成から.2 期では,政情が不安定で治安的にも緊
を 1 ppm 以下まで除去した後,蒸留塔( フラクショ 迫した時期に施工された. 
ネータ )でプロパンとブタンに分離される.蒸留には 今回の 3 期工事では,世界的なプラント建設のブー
約 180℃にまで加熱したオイルを使用する.分離され ムの中で,納期が優先されるプロジェクトであった.
たプロパンはディエタナイザにてさらに製品純度が高 第 1 期,2 期工事と同様,生産能力( 年産 100 万 t /
められ,ブタンともに冷却工程に送られ,プロパンは 1 トレイン )
,各製品の純度,回収率および電力・燃
- 38℃,ブタンは - 6℃まで冷却されて,製品タンク 料消費量,排気ガスの成分など,経済性や環境対応な
に送られ貯蔵される.製品タンクからは,これもパイ どの性能も充分に満足させて,納期どおりに完成させ
プラインを通して約 2 km 離れた桟橋からタンカーに たことはいうまでもなく,さらに強固なお客さまとの
積出しされる.また冷却前の製品についても,タンク 信頼関係を構築することができたことは両社間にとっ
ローリーに積まれ,国内の販売所に輸送される. ての重要なもう一つの成果であるといえよう.
IHI がアルジェリアに初めて足を踏み入れたのは, そのほか,この地区においては 1985 年に老朽化し
1960 年代後半,首都アルジェから東方 400 km にあ た低温アンモニア貯蔵設備の改修工事,2006 年には,
る港町スキクダ.ここに年産 80 万 t の LPG プラン ガスタービンによる発電設備とその排熱を利用した海
トを 1973 年に完成させたことから始まる.これを足 水淡水化設備を併合した IWPP プラント設備,2008
がかりにここアルズーの地では,IHI プラントセク 年には他社が建設し,老朽化した LPG プラントの診
ターは 30 年以上におよびプラント建設に従事して 断・改修工事も完成させたことも,長年にわたり IHI

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が信頼を得られている要因の一つになっている.
次にプロジェクトの実施内容について紹介する.
(1) お客さまのニーズ,時代のニーズに合ったサービ
スの提供
GP1Z 3 期工事の契約当時はアルジェリア南部の
ガス田の開発が急ピッチで行われており,LPG 増
産のためにも本プラントの早期運転開始が第一の要
求であった.
そのためにお客さまの当初の計画案からのリスク
の低減を図るため,既設のプラントの運用実績から
設計的に継承すべきことは継承すべきとして,第 3
期工事に向けて IHI から種々提案し,それらが採
タワー据付け
用された.お客さまが IHI を信頼してくれている
あかしであった.今までに慣れ親しんだプラントの
使いやすさをそのまま引き継ぎ,満足できる計画が は,契約前からの調達先の絞込みを実施した.また
でき上がった.まさにお客さまと一体となって作り 契約後,東南アジア地域などに発注した機器などに
上げた計画である. ついては,現地の工場へ設計・調達担当者を派遣
設計に当たっては,3D-CAD やコンピュータシ し,工場の担当者との交渉を幾度となく重ね,管理
ミュレーション技術を使っての設計・検討を実施. を実施してきた.また IHI とメーカの各マネジメ
また,計測・制御などの進化の著しい分野において ントレベルでの会議も開催し問題点の共有とその解
は最新の技術・機器を採用し,併せて既設では実施 決への協力体制を築いた.
していなかった環境影響評価,プラントのリスク評 機器製作の後は,製品を現地に送る船の手配.蒸
価などのエンジニアリング手法も積極的に採用.よ 留塔など大型機器の海上輸送では現地の港湾の事情
り使いやすく,安全で環境にやさしいプラントに発 で,世界に数隻しかない重量物輸送船が必要となっ
展させた. た.そのため,かなり早い時期での配船計画を実施
(2) 調達管理と輸送管理 し輸送船を確保した.また世界的に船の需要も多い
本プラントは中東諸国などの産油国で大型プロ なか,ひっ迫した船便を効率的に運用し,活用する
ジェクトが具体化され,資機材の納期遅れやワーカ ために,各地から一度に多くの貨物を集荷して輸送
不足が懸念されるなかで契約に至った.資機材の納 した.輸送に関する管理項目は約 29 万点に及ぶ膨
期遅れを最小にするために,長納期品であるプラン 大なものとなったが,前述の事前の計画,および状
トのキーコンポーネント( 主要な機器 )について 況に応じたその場その場での判断によって,機器は
現地が必要とする時期に搬入することができた.
(3) 建設下請業者の確保と管理体制
現地の建設工事のなかで,土木・建築工事は日本
のゼネコン,大型コンクリートタンクは日本・イタ
リアのコンソーシアムをともに IHI との実績があ
る会社を採用したが,機械工事の業者については,
世界的なプラント建設ラッシュの影響のなかで,過
去に IHI と実績のある機械工事会社は多忙のため
辞退され,IHI として は初めての中国の工事会社
( アルジェリアでの工事実績をもつ )を採用するこ
現地港でタワーを降ろす とを決断した.

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GP1Z 工場 全体プロット図

約 2.5 km

:着色部は Phase-I で完成


:着色部は Phase-II で完成
:着色部は Phase-III 対象エリア

プラントのプロットプラン

言葉の問題を含め,十分に技量を確認できていな ると確信している.
い建設会社との円滑なコミュニケーションを図るた 1 期工事では,お客さまにとっては初めてのコント
め,社内では特別に中国のエンジニアおよびスー ラクタということで一つ一つの事項に対しなかなか信
パバイザを集めてマネジメント組織を構成し,現地 用してくれず,プロジェクトを進める意味でもかなり
での工事の進捗,施工の管理と HSE( 環境安全衛 障害となっていたが,それらをまじめに対応し,工事
生 )を管理することにした. を契約どおりに完成させたとき,高い評価を受け,こ
調達のみならず,建設工事においても IHI と下 こに信頼関係が確立した.2 期工事においても,1 期
請業者との各マネジメントレベルでの定例会議を開 の実績を生かし,納期・品質ともに満足できるプラン
催,問題点の共有と解決への協力体制を構築し運営 トを納めることができ,さらにその信頼関係を強固な
した.各社トップから作業員までが同一の目標に向 ものにした.3 期工事はそういった長年の信頼関係と
けて動くことができた効果は大きかった. 20 年以上にも及ぶプラントの順調な稼働が評価され
(4) 契約納期の確保 IHI に決まったものである.この強い信頼関係によっ
建設工事最盛期には外国人 1 800 人,アルジェリ て,プロジェクトをスムーズに進めることができたと
ア人が 2 000 人,合計 3 800 人の大所帯でのプロ いえる.
ジェクト遂行となり,世界の 24 か国の人たちがこ
のプラントの建設工事に参加した. 長年のプロセスプラントにおける IHI のプロジェ
世界的なプラントの建設ラッシュの真っただ中 クトマネジメントおよび EPC 遂行能力は今後ともお
で,建設用の資材や機材の遅れに加えワーカ不足に 客さまのニーズに対応していく.
も直面し,工事日程にも影響があったが,お客さま
の協力もあり,結果的には,契約納期をわずかに前 問い合わせ先
倒しした形での完成,引渡しとなった. 株式会社 IHI
プラントセクター プロジェクト統括部
今回の第 3 期工事は,過去の工事と同様に幾つか 海外プロジェクトグループ
の困難に遭遇したプロジェクトであったが,成功へと 電話( 03 )6204 - 7620
つながった原動力は,お客さまから勝ち得た信頼であ URL:www.ihi.co.jp/

IHI 技報 Vol.51 No.3 ( 2011 ) 25

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