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アクティベート ・ リーフ No.

696

L VE
WHILE
I CAN
できるうちに愛を伝えたい
エルサ・シクロフスキー
 両親との口論が、私の大学時代 従兄と話がしたいという思いで設置 頬をつたいます。母親が、わかっ
に影を落としました。口論の内容 したものです。2011 年に日本が東 ているよと言わんばかりに、父親
は、交友関係を広げることにかけ 北での地震と津波で大きな被害を を一番好きだったのは娘だと言う
ている時間、テレビのトーク番組 受けてからは、生存した被災者た と、兄は驚いて、「嫌いだと思って
にハマり始めたこと、バイクを買い ちが、壊滅的な災害によって奪わ た」と言いました。
たいと思っていること、など数限り れた家族に自分の思いを伝えるた  私は、少し前に両親と言い争い
なく、それは、今思えば取るに足 めに、この電話ボックスをたびたび をしたことを思い返しました。何
りないことだけれど、当時の私に 訪れるようになりました。 らかの災害が起きて、両親のどち
とっては非常に感情的になってし  悲しみに打ちひしがれた人たち らか、あるいは私がいなくなって
まう事柄だったのです。あの頃は、 が、線のつながっていないこの電 しまったとしたら、どうでしょう
両親のことを、私が人生の最盛期 話に向かって涙ながら話をし、家 か。快適さと便利さに埋もれた現
を楽しむのをじゃまする考えの古 族を失った痛みや絶望感を言葉に 代生活を送っているうちに、私は
い監視者として見ていました。 する光景が次々と映し出されるの 人の命がどれほどはかないものか
 最終学期に、私は人類学を取り を見ている内に、思わず胸がつま を忘れていました。あの娘さんが、
ました。死に関する文化的信条を りました。「なんで死んだの」と尋 父親が生きていたなら話したかっ
主題とした授業の時に、教授は日 ねる人や「戻ってきてよ」と懇願 たであろうことを、あのように口
本の NHK によって制作された「風 する人もいます。ドキュメンタリー にしながら泣いていた切ない映像
の電話~残された人々の声~」と の最後の方で、母親とその三人の を見たことで、私は心が苛立つ時
いうドキュメンタリーを見せてく 子が、地震で亡くなった夫であり に、もっと広い目で物事を捉える
れました。それは、 「風の電話」と 父親であった人に話しかけるため、 必要のあることを気づかされまし
呼ばれる、電話線のつながってい 電話ボックスを訪ねてきます。娘 た。明日は何が起きるかわからな
ないダイヤル式の電話機に向かっ は、生きていた頃の父親とはかな いのだから、私は今日のうちに愛
て話すことで、亡くなった家族と りぶつかっていたようです。電話 を示すべきなのです。取るに足り
心を通わせることができると考え 機を手にしてもじもじしながら、 ない意見の相違のせいで、皆にとっ
る人たちについてのものです。こ 「何をしゃべればいいの」と弟に尋 て本当に大切なものである家族愛
の電話はもともと、2010 年に佐々 ねていました。父親に辛くあたっ をなおざりにすることなどできま
木格という人が、その年亡くなった ていたことを謝り始めると、涙が せん。

「アクティベート・リーフ」は、英語の「Activated」誌からの記事を翻訳したものです。その他の記事は、ホームページでご覧頂けます。 http://www.activate.jp
© 2019 Aurora Production, Ltd. All Rights Reserved Translated from English Activated Magazine Vol. 20-11 p10 http://www.activated.org

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