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2022年に向けた

健保連提案、
私はこうみる!
――これからの医療のあり方を語る
 健保連は8月23日に、2022年度の次期診療報酬改定に向けた5つの政策提言を、9月
9日に、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になり始め、健康保険組合など被用者保険
の拠出金負担が急増する局面への早急な対策に焦点を当てた「今、必要な医療保険の重点
施策―2022年危機に向けた健保連の提案―」
( 健保連の提案。本誌2019年10月号特集
を参照)を相次いで発表した。こうした健保連の提言・提案の内容、さらにはこれからの医療・
医療保険制度のあり方などについて、財政、社会保障といった政府の審議会委員などを多
く務める慶応義塾大学経済学部教授の土居丈朗氏と、亀田ファミリークリニック館山院
長で、家庭医療専門医・指導医として活躍する岡田唯男氏に話を聞いた。 (編集部)
O K A D A TA D A O

DOI
TA K E R O U

■岡田 唯男(おかだ ただお) ■土居 丈朗(どい たけろう)


亀田ファミリークリニック館山(千葉県)院長。 慶応義塾大学経済学部教授。
京都大学医学部付属病院、米国ピッツバーグ大学メディ これまで財政制度等審議会委員、社会保障審議会臨時
カルセンター付属シェイディサイド病院家庭医診療 委員など多くの政府関係審議会の委員を務め、医療保
科部長などを経て、現職。 障にも造詣が深い。

2019.12
2019.12 ■健康保険66
■健康保険
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国民との対話で 範 囲。 つ 目 は、自 己 負 担 の 抑 制 度 合 い。

2019.12 ■健康保険
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この つの軸をできるだけ広い方向に伸
医療のあり方決定すべき

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ば し て い こ う と い う の が UHC の 基 本 だ
が、全ての軸を広げることは難しいので、
亀田ファミリークリニック館山 院長  岡田 唯男 氏 バランスを考えて調整する必要がある。
 わ が 国 の 例 で 言 う と、後 期 高 齢 者 の 自
出さないように経営してほしいと求めら 己負担割合を 割に引き上げる案につい
社会保障を取り巻く

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れ て も、「 な く な っ た ら 困 る か ら、あ る 程 て な ら、そ れ に よ り 医 療 財 源 に 少 し 余 裕
現状と課題
度 の 公 的 資 金 の 投 入 は や む を 得 な い 」と が発生する分をどこへ回すのかという議
 少 子 高 齢 化 が 進 展 し、か つ て の よ う な 言えるかにかかってくる。ただ、財源は無 論とセットで考えないといけない。
高 い 経 済 成 長 が 見 込 め な い な か、国 は 健 尽 蔵 に な い の で、ど こ で 線 引 き す る か 議
 私は後期高齢者の自己負担 割への引

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康 政 策 や 福 祉 政 策 の 理 念 を 国 民 に 示 し、 論しておく必要がある。 き 上 げ の 是 非 に つ い て、と く に 意 見 を 持
共有しなければならない。それは、自分の
 人口が減少傾向にあるわが国の選択肢 た な い が、定 率 負 担 と い う 仕 組 み は 根 本
国のあるべき形態が大きな政府か小さな と し て は、身 の 丈 に 合 っ た 給 付 に 縮 小 し 的に変える必要があると思う。それは、定
政 府 か と い う 選 択 を 国 民 に 求 め、国 民 と て い く か、財 源 を 増 や す か ど ち ら か し か 額 に す る と い う こ と で は な く、複 雑 に は
の対話を通じてコンセンサスを得るとい ない。財源を増やすことになれば、結局は な る が、サ ー ビ ス の 種 類 に よ っ て 自 己 負
う こ と だ。政 府 と し て は 国 民 に は い い 顔 税 収 に 頼 る こ と に な る か ら、外 国 人 労 働 担率を変更してはどうかということだ。
を し た い の で、大 き な 政 府 を 掲 げ た い だ 者を多く受け入れて生産性を高める必要
 具体的には、
エビデンス(科学的根拠)

ろ う が、な い 袖 は 振 れ な い こ と を き ち ん が あ る が、そ こ は 国 が 国 民 と 対 話 し て 合 強く認められている質の高い医療行為に
と国民に伝えなければならない。 意を得ないといけない。 対しては負担割合を下げる。逆に、フリン
 例 え ば、公 立 病 院 の 経 営 効 率 化 の 問 題 後期高齢者自己負担2割への
ジサービス(付加的医療)といわれるよう
な ら ば、赤 字 の 解 消 を 前 提 に 考 え る の か な、比較的エビデンスが弱かったり、個人
引き上げ案
ど う か、首 長 と 住 民 と の 間 で 話 し 合 わ れ の生活の質(QOL)に関する部分は負担
 国民皆保険制度、
ていないと思う。
警察や消防・救急の場合、 英語でいうとユニバー 割 合 を 増 や す。こ れ ま で の 定 率 負 担 の 上
私 た ち は 利 用 し て も お 金 を 払 わ ず、国 民 サル・ヘルス・カバレッジ(UHC)の対象 げ下げによるインセンティブのかかり方
の 合 意 に 基 づ き 税 金 で 賄 っ て い る が、赤 範 囲 拡 大 に は、 つ の 大 き な 軸 が あ る と で は、患 者 と 医 療 機 関 と で 逆 方 向 に 働 い

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字 経 営 で も 誰 も 文 句 を 言 わ な い。公 立 病 世界的にいわれている。 つ目は、医療行 てしまう。
つまり、
質の高い、
望ましい医療

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院の場合、首長は、住民や議会から赤字を 為の給付対象範囲。 つ目は、人的な対象 行 為 を 推 奨 し よ う と し て、医 療 機 関 の 診

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療 報 酬 を 上 げ る と、医 療 機 関 は さ ら に 多 コストは上がってしまう。 タ を 活 用 し、現 状 を 認 識 す る こ と が 第 一
くの医療行為を行おうという方向に動く
 一方、古い薬も、いったん承認したらお 歩だ。胃薬だけでもいいので、少なくとも
のかもしれないが、
定率負担の原則によっ しまいではなく、保険給付の対象にすべき 同じ患者に胃薬が複数出されている場合、
て、患者負担も増えるので、患者は望まし かどうか入れ替えや棚卸しを定期的に行 医療費全体に占める割合を出すなど、
デー
い医療への受診を抑制する方向に動く。 い、少 し ず つ 除 外 し て い か な い と い け な タを活用して明らかにすることが必要だ。
 地域包括診療料という質の高い地域の い の で は な い か。開 発 さ れ た 当 時 は 適 切
健保連の主張・活動への見解
かかりつけ機能を提供する医療機関だけ な治療だったものも、
年月がたつと変わっ
が算定できる比較的優遇された診療報酬 てくることはある。  保険者として提言・提案をまとめ、訴え
が あ る が、算 定 要 件 を 満 た し て い る に も て い く こ と は 非 常 に 良 い と 思 う。さ ら に
 また、医師法には第1条に「公衆衛生の
か か わ ら ず、や は り 患 者 の 負 担 が 増 え る 向上及び増進に寄与する」とあるが、個人 多くの人に関心を持たれるような活動を
からと、
多くの医師は算定を行っていない。 としての患者を目の前にして、
国の大義の し て も い い の で は な い か。保 険 者 だ か ら
私はこうみる!

た め に「 こ の 薬 や 検 査 は エ ビ エ デ ン ス が こ そ で き る こ と、言 え る こ と が た く さ ん
保険給付範囲の見直し
少 な く、医 療 費 を 押 し 上 げ る だ け な の で あると思う。
 基本的には賛成だ。わが国では、これま やめよう」
と言うのは非常に大変なことだ。  米 国 で は、企 業 が 払 う 保 険 料 額 の 上 昇
で費用対効果の分析が全く行われずに公 全体のコストとして見合わない薬や検査 カ ー ブ と 個 人 の 所 得 の 伸 び を 並 べ、何 年
的医療保険給付の対象として承認してき だから、保険対象にしないと、国から決定 後には所得以上の保険料を払うことにな
特 集 2022年に向けた健保連提案、

た。こ れ か ら 新 し く 出 て く る 治 療 法 や 薬 してもらえれば、
医師も断りやすい。 るのかという予測のグラフの存在が話題
に つ い て は、今 ど き エ ビ デ ン ス の な い も になった。ある企業は危機感を持ち、社内
 そのためには健保組合など保険者のデー
のは出てこない。しかし、エビデンスのあ に独自に診療所を設けた。そして、その企
る も の を 全 部 対 象 と す る 場 合、コ ス ト は 業 に 就 職 し た ら、社 内 の 診 療 所 に 無 料 で
上がり続ける。
医療費高騰の最大の要因は、 かかることができるとアピールしている。
医療・医学のテクノロジーの進歩だ。 そ う す る こ と で、企 業 は 統 制 の で き な い
 例 え ば、糖 尿 病 の 治 療 薬 が こ の 程 度 の 医療機関で行われる医療行為の請求通り
効 果 だ と 分 析 さ れ て い て、新 た に 糖 尿 病 に 支 払 い を す る の で は な く、行 わ れ る 医
の 治 療 薬 を 開 発 す る と な る と、既 存 の も 療 行 為 に 直 接 関 わ る こ と で、支 払 う 保 険

健康保険■ 2019.12
のよりも効果の優れた薬を創出する必要 料額を抑える方向に持っていくことがで
性があるので、後になればなるほど、追加 き る。そ う し た 提 案 が あ っ て も い い の で
効果を上乗せするためのハードルと開発 はないか。

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