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CLINICAL REPORTS

症 例 報 告

ファンクショナリーディスクルーデッドオクルー
ジョンを考慮したプロビジョナルレストレーション
Functionally discluded occlusion considered provisional restoration

堀 洋一
Yoichi Hori

Keyword : functionally discluded occlusion, diagnostic wax up, planning wax up, provisional restoration, tooth
form, arch form, oral composition
キーワード:
ファンクショナリー ディスクルーデッド オクルージョン,
診断用ワックスアップ,
計画用ワックスアップ,
プロビジョナルレストレー
ション,歯列形状,歯冠形状,オーラルコンポジション

Functionally discluded occlusion (FDO) is based on group functioned occlusion theory. FDO
is focusing on the physiologically harmonized occlusion. Diagnostic wax up and planning wax up
to give a patient s own four inches spherical surface was done to treat with this FDO based resto-
ration. Then, provisional restoration was made. The patient with FDO prosthesis was able to gain
physiologically harmonized occlusion without occlusal adjustment. He feel very comfortable with
it. So I assume that provisional restorations considered FDO has huge advantage. This report is
the clinical case of this method.

グループファンクションドオクルージョンを基礎に,生理的に調和のとれたオクルージョンがファンクショナリー
ディスクルーデッドオクルージョン(FDO)である.この理論に基づいて修復治療を行うために,患者固有の 4 イ
ンチ球面を付与する診断用ワックスアップと計画用ワックスアップを行い,それを基にプロビジョナルレストレー
ションを作製した.これを装着した患者は, 合調整もなく生理的に調和のとれた 合状態を獲得し,快適さを実
感した.FDO を考慮したプロビジョナルレストレーションには優位性があると考える.その方法について実際の症
例を通して報告する.【 顎 咬 合 誌 3 5( 3 ): 1 6 4 - 1 7 3 ,2 0 1 5 】

などが,口腔内や顎顔面周囲組織にまで為害作用を及ぼ
緒言
すことがあるとし, 合調整の必要性とその指針を示し
日常臨床の中で全顎的な歯冠修復治療が必要な患者に た 1).
多く遭遇する.その原因はさまざまであるが,水平的, 桑田正博は,Schuyler の理論 Group functioned occlu-
および垂直的に顎位の是正が必要な場合が多い. sion を継承し,進化させたエリアオブセントリック 2)
1940 年代には,Schuyler らにより,生理学的 合調 に 基 づ く Functionally discluded occlusion( 以 下 FDO)
整(診断そして修復に入る前の要件)が行われていた. を提唱し,その調整方法を詳細に示した 3).FDO で
Schuyler らは CR と CO のズレや偏心運動時の 頭干渉 は,それぞれの歯の 頭頂を同一平面上(4 インチの
Monson カーブ上)に えて位置づける(図 1).できる
医療法人誠心 ほりデンタルクリニックホワイトエッセンス
〒 819-1123 福岡県糸島市神在 1392-27
限り多くの上下顎の歯を下顎静止位において均等な圧で
Tel:092-324-8118 全歯において接触させる.それにより 合圧はそれぞれ
受付日:2015 年 1 月 10 日  受理:2015 年 10 月 23 日 の歯に均等に分配される(図 2)
.軽く 合させた時の

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図1 それぞれの歯の 頭頂は,同一平面上(Monson カーブ)に


えて位置づける.①(桑田2)より引用)

図2 できる限り多くの上下顎の歯を,下顎静止位において,均等な圧で全
歯において接触させる.それにより 合圧はそれぞれの歯に均等に分配さ
れる.②(桑田2)より引用,改変)

図3  合接触点はエリアオブ
セントリックとし基本的には
頭と窩の関係とする. 合圧の
方向は歯の長軸と一致させる.
③ ④ ⑤ ( 桑 田 3)よ り 引 用 , 改
変)

図 4  前方運動時に,できるだ
け多くの歯で下顎前歯部切縁は
上顎前歯舌側辺縁隆線と互いに
平均的に接触,滑走させる.し
かし,臼歯は瞬時に離開させる.
⑥(桑田4)より引用,改変)

合接触点は 0.5mm のエリアオブセントリックとする. 斜面は,おおむね臼歯において,窩の中心に近づくほど,


臼歯部 合接触点は 頭と窩の関係とする.咀嚼運動時, 接近度合を高くする.非作業側では.接近接触させない
徐々に閉じていく過程で最後に歯が接触した時, 合圧 (図 5)
.上顎臼歯部作業側内斜面は角度の異なる二つの
はできるだけ歯の長軸方向に向かい,側方圧が及ばない 斜面にする.これにより側方圧の過重負担を回避する
ようにする(図 3).前方運動時に,できるだけ多くの (図 6).第二,第三大臼歯は,咀嚼運動時における,接
歯で接触滑走させる.しかし臼歯部は瞬時に離開させる. 近度合を大きくする.
下顎前歯部切縁は上顎前歯舌側辺縁隆線と互いに平均的 今回,全顎的な歯冠修復治療を望む患者に対して,桑
に接触,滑走させる(図 4).側方運動時,できるだけ 田正博の提唱する FDO の理論に基づき作成した診断用
多くの歯が,作業側においては機能的な接近度合が保証 ワックスアップ,計画用ワックスアップを基にプロビ
されるように適切な展開角を与える.臼歯部展開角は後 ジョナルレストレーションを作成し,患者に装着した.
方臼歯ほど徐々に大きくさせる.非作業側では決して接 まだ最終補綴装着に移行中だが,その有効性を一症例を
触させない.側方運動時,臼歯部では作業側の作業側内 通して考察する.

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図5 側方運動時,臼歯部では作業側
の作業側内斜面は,概ね臼歯におい
て,窩の中心に近づく程,接近度合
いを高くする.非作業側は接近接触
させない.⑧(桑田3)より引用,改
変)

図6 上顎臼歯部作業側内斜面は,角
度の異なる二つの斜面にする.これ
により側方圧の過重負担を回避する
⑨(桑田3)より引用,改変)

図7 初診時口腔内初見
他医で治療中の受診であり,すでにプロ
ビジョナルクラウンとブラケットが装着
されている.前歯部の被蓋が深く, 合
平面は乱れている.左側 合平面は anti-
Monson カーブになっている.

冠の崩壊があった.左臼歯部 合平面は anti-Monson


症例
カーブになっている.上顎前歯部切端には若干の 耗が
患者:69 歳,男性,会社員. みられるが舌側面辺縁隆線に 耗はなく,フレアーアウ
主訴:臼歯部の違和感,欠損,歯並び,前医で補綴 トはしておらず傾斜には問題ない.下顎前歯部には著し
と矯正治療途中であったが転医希望 い 耗がみられ,犬歯尖頭の 頭は平らになっている.
初診日:2012 年 4 月 3 日 前歯部の被蓋は深い(図 7).
患者は他医で治療途中のため,プロビジョナルクラウ 初診時パノラマエックス線写真(図 8)では,顎関節
ン,ブラケットが装着されていたが転医希望.「臼歯部 には問題なく,中等度の歯周病と根管充塡不良の歯が
で咀嚼し難く,違和感がある,前歯部切端の 耗が気に あった.CT による TMJ 診断でも問題はない.ペリオ
なる,奥歯の欠損が気になる」とのことであった.全て チャートと 10 枚法エックス線写真(図 8)では,全て
の歯の周囲に炎症が認められ, 合平面,歯列形状が不 の歯に 4 ∼ 7mm の歯周ポケットがあり,大臼歯では歯
いである.臼歯部の 7 4 5 , 7 が欠損し, 合面,歯 根分岐部病変が認められた.全顎的に中等度の歯周病で

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546 535 426 647 646 636 636 626 543 345 645
8 7 6 5 4 3 2 1 1 2 3 4 5 6 7 8
676 564 556 544 444 544 456 466 444 644 745
446 745 655 445 533 323 323 324 423 324 444 444 444
8 7 6 5 4 3 2 1 1 2 3 4 5 6 7 8
446 644 525 426 645 424 434 425 523 324 524 434 455

図 8  初診時パノラマエックス線
写真,ペリオチャートとエックス
線写真10枚法

内眼角
1.618 18mm
鼻下点 鼻下点
1 1
切縁 切縁
1.618
オトガイ
図10 CRポジションでのアンテリアガイダンスの
図9 ゴールデンルーラーを用いた顔貌による 合高径の診査診断 診査診断

6 は歯根分岐部骨吸収が大きく保存不可と診断した.次 height は 50°,正常範囲内なので 合高径は正常と診断


に,ゴールデンルーラーを使用した顔貌による 合高径 した.診査の結果,プロブレムリストとして,①中等度
の診査をした.ゴールデンプロポーションにはほぼ基づ の歯周炎,②後方支持域の減少,③歯列不正,④審美
いているが,上顎前歯部切端はスマイル時あまり見えず, 障害をあげた.フェイスボウトランスファーにて上下顎
耗もあるので審美的にも若干の切端の修復はしたほう を顆頭安定位でマウントし,前歯部を診査する(図 10).
がよいと診断した(図 9). Dawson テクニックで採得した顆頭安定位では,上下顎
Ricketts の セ フ ァ ロ 分 析 を 行 っ た が,Lower facial の歯は早期接触部位の 5 と 5 で 合している.上顎にお

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Bonwillの切歯点

図11 先ず下顎前歯部のワックスアップを行う. 図 12  ワックスアップした下顎前歯部からジグをつくり,
ジグをあて 合挙上した状態を診断する.

図13 下顎のワックスアップの臼歯部機能 頭頂に0.7mmのフィッシャーバーで
穴をあけ,0.7mmのワックスロッドをたてる.

いては,切歯部切端に若干の 耗がみられるが,舌側面 トアップする.先ず上顎前歯部の舌側面と接触するよう


前辺縁隆線には 耗がなく,特に問題はない.下顎にお に,下顎前歯部をワックスアップして整え,その上下
いては,切歯,犬歯に 耗がみられ適切なアンテリアガ 顎のかかわりから臼歯部におおよそのワックスアップ
イダンスが確立できてない.今の高さでは 4 インチ球面 を行う.できあがった臼歯部の機能 頭頂に 0.7mm の
を与えると臼歯の削除量が増えるため,できるだけ侵襲 フィッシャーバーで垂直に穴をあけ,その穴に 0.7mm
を少なくする観点からも,Bonwill の切歯点の回復,犬 のワックスロッドを埋め込む.機能 頭頂が明確になり
歯尖頭,近心縁,遠心縁の回復が必要である.前歯部 そのポイントは金太郎あめ状態になっているので,ワッ
合高径は,自然頭位での 頭嵌合位で 16mm,顆頭安定 クスアップをカットしても 頭頂の位置が明確になる
位では 18mm で平均値あった. 頭嵌合位での 合高 (図 13).「Monson の 4 インチ球面学説」は観察の結果
径は顆頭安定位より 2mm 低く, 合を挙上するほうが であり統計学的に下顎歯列の彎曲が 4 インチの球面上
よいと考えた.挙上量は 合高径,前歯部被蓋関係から にあるということを説いたものである 7). 合平面が 4
約 2mm の挙上は可能である.2mm の挙上で下顎切歯, インチの球面上にあることは,長い人類の進化の過程で
犬歯の回復ができると診断した.決めた 合高径で下顎 観察された統計学的数値で,この 合平面を与えられる
前歯部切端,犬歯尖頭を回復させ下顎前歯部をワックス ことで,作業側では,上下顎の機能 頭頂が対合する歯
アップする.基準として上顎前歯部舌側面に接触し切端 の作業側内斜面と機能的に接近する.
の高さ,唇面への露出が うようにする(図 11). その 合様式の基となるセントリックにおける 合接
ワックスアップした下顎前歯部からジグをつくり,舌 触は,ナソロジーの ABC コンタクトではなく,中心窩
側にジグをあて 合挙上した状態を診断する(図 12). にある直径 0.5mm の FDO のエリアオブセントリック
顔貌からは,2mm の 合挙上に問題はないと診断した. である.そして非作業側では,瞬時に離開していく.こ
合高径は 18mm で標準値である.再度 Ricketts のセ れらを基に, 合平面を決定していき,4 インチの球面
ファロ分析をしたが 2mm 合挙上した状態でも, 合 を正確に模型上に表す方法が,オクルーザルプレーンア
高径は正常範囲内と診断した.決めた 合高径で下顎の ナライザーを用いた手技手法である.
歯列形状からはずれている 5 4 3 3 4 をアーチ内にセッ 6 が生活歯なので削除量を減らすためにアンテリア

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図 14  アンテリアサーベイラインとモーラーポステリア 図 15  コンパスの針をオクルーザルプレーンサーベイセン
サーベイラインの交点付近に4インチ球面の中心になるオク ターに合わせ,下顎臼歯の 合平面をカッティングナイフで
ルーザルプレーンサーベイセンターを求める. Monson カーブを ワックスアップ上に描く.

サーベイポイントを下顎犬歯尖頭に決める.ここにコン
パスをあて 4 インチのアンテリアサーベイラインをフ
ラッグに印記する.基本は犬歯の尖頭だが, 合平面を 30° 30° 30° 30°

低く設定したい場合は,犬歯尖頭から遠心斜面上の遠心
にあてることで調整する.次に,モーラーポステリア
サーベイポイントを決定する.コンパスの先端を 7 の遠
心 頭頂に合わせ,フラッグに 4 インチのモーラーポ
ステリアサーベイラインを描く.アンテリアサーベイラ 図16 展開角をKPD展開角度形成器の30°で臼歯部 合面

インとモーラーポステリアサーベイラインの交点をオク 上に付与する.後方臼歯にいくにつれ展開角を緩やかにして
いく.
ルーザルプレーンサーベイセンターとする.これが患者
固有の 4 インチ球面の中心となる.基本は,交点に求
めるが,実際の臨床上では交点に限らずオクルーザルプ 角度形成器の 30°がはまったのでこれを使用した.ここ
レーンサーベイセンターを通る水平線上のセンター付近 で注意するのは,後方臼歯にいくにつれ展開角を緩やか
に求める.センターを交点よりも近心に求めれば臼歯 にしていくということである.後方臼歯にいくにつれ歯
部の Monson カーブは急になり,遠心に求めれば緩やか 軸は舌側傾斜が強くなる.展開角を緩やかにすることで
になる(図 14).コンパスの針をオクルーザルプレーン 上下の後方臼歯の離開度合が大きくなり下顎運動時の
サーベイセンターに合わせ,下顎臼歯の 合平面のワッ 頭干渉がなくなる(図 16).左側にも同様の作業を行い
クスをカッティングナイフ(以下 KPD)で削り,4 イ 30°の展開角を与える. 合面がカットされても機能
ンチの Monson カーブを与える(図 15). 頭頂はブルーのワックスロッドで明確なので歯冠形状と
また,機能 頭のオクルーザル・コンタクトをあら 歯列形状を理想的に整えることができる. 合圧を全て
かじめ 頭と窩の関係により決定し,ブルーの直径 の歯に均等に分散させるために,オクルーザルコンタク
0.7mm の細いワックスロッドを対合歯の 合接触部位 トの高さは 4 インチ球面を付与した 合平面上に一致
に位置付けてワックスアップ上に立てているため,カッ させる.これにより 頭干渉を招くリスクを小さくする
ティングナイフで削っても,オクルーザル・コンタクト ことができるので下顎を先にワックスアップする.下顎
の位置は変化しない.このオクルーザル・コンタクトを の形態に合わせて,上顎のワックスアップを行う.上顎
基準として 合面の形態を作る.反対側も同様の作業 臼歯部の 合接触部位にワックスロッドを埋める.これ
を行う.これにより,患者固有の球面が 合平面に再現 により上下の臼歯部の 頭頂と窩の位置関係が明確にな
される.次に展開角を臼歯部 合面上に付与する.この る(図 17)

症例では天然歯である 5 の展開角がちょうど KPD 展開 最 終 補 綴 設 計 を た て る. 6 は 歯 根 分 岐 部 の 骨吸収

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図 17  歯列形状と歯冠形状が整った上下顎の診断用ワックス
アップを基にプロビジョナルレストレーションを作製する.

図 18  一連の歯周治療,歯内療法,矯正,
インプラント埋入を終えたパノラマエック
ス線写真.

図19 計画用ワックスアップ

が大きく保存不可と診断したので抜歯する.欠損部 歯周治療,歯内療法,矯正治療,インプラント埋入
7 4 5 , 7 にインプラントを埋入する. ④ 5 ⑥ のインプ を終えた後(図 18),再度診査し計画用ワックスアップ
ラントブリッジ補綴とする.欠損部 7 , 7 にインプラン を行った.FDO を考慮して診断用ワックスアップと同
ト補綴をする. 6 3 7 , 7 6 4 6 は P. F. M. とする.前 様に上下顎の計画用ワックスアップを完成する(図 19)

歯部はコンポジットレジン充塡とする.診断用ワックス 計画用ワックスアップを基に作製したインデックスコア
アップを基に,プロビジョナルレストレーションを作製 を使用し,上顎前歯部と上下顎小臼歯部をコンポジッ
しセットする. トレジン充塡で修復した.計画用ワックスアップを基に,

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図20 インデックスコアとコンポジットレジン充塡
した口腔内所見

図21 最終プロビジョナルレストレーションを装着
した口腔内所見

上下顎のプロビジョナルレストレーションを作製し口腔 スアップを基に上下顎プロビジョナルレストレーショ
内にセットした(図 20).最終補綴設計をする.臼歯部 ンを作製し,口腔内にセットする(図 21). 合状態を
の 6 5 4 7 , 7 6 5 4 4 5 はジルコニアクラウンとし,上顎 チェックするために,ウォーターバスで歯科用ワックス
前歯部は,患者の強い要望で,ブラックトライアングル (スカイラーワックス:Keystone Industries,以下ワック
と 耗の改善,清掃性向上と適切なエマージェンス・プ ス)を 55℃で軟化し,Dawson テクニックで顆頭安定位
ロファイルを与え,アンテリアガイダンスを獲得するた に 合誘導するが,この時,噛みこませずに直前で止め
め,オールセラミックスクラウンに変更した.ワック 印記し,接近度合を歯接触分析装置(Bite-eye:GC)で

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図22 歯接触分析装置でワックスを読み取り, 合をチェックする.

確認する.ワックスの抜けが多いほど接近度合が大きい においては機能的な接近度合が保証されるように適切な
ことになる.後方臼歯になるほど接近度合を小さくする 展開角を与える.非作業側では,決して接触させない.
ことで 頭干渉を回避する(図 22).患者はこの FDO ⑧側方運動時,臼歯部では作業側の作業側内斜面は,概
を考慮したプロビジョナルレストレーションのセットで ね臼歯において,窩の中心に近づく程,接近度合いを高
快適な口腔環境を実感している.しばらく経過観察し, くする.非作業側は接近接触させない(図 5).⑨上顎
最終補綴に移行していく. 臼歯部作業側内斜面は,角度の異なる二つの斜面にする.
これにより側方圧の過重負担を回避する(図 6).⑩第
二,第三大臼歯は,咀嚼運動時における,接近度合を大
考察
きくする.オクルージョンとは上下顎歯の当て方と離れ
修復治療を進めていく基となる FDO には,主要な基 方の関わりの学問であり,修復治療とはそこにあるべき
本項目がある.それについて解説する. 姿をそこに再現することである.
①それぞれの臼歯部の 頭 頂 は, 同 一 平 面 上 そ し て, 歯 列 形 状( ア ー チ フ ォ ー ム ), 歯 冠 形 状
(Monson カーブ)に えて位置づける(図 1).②でき (トゥースフォーム),歯冠歯列の全顎的な周辺組織との
る限り多くの上下顎の歯を,下顎静止位において,均等 調和(オーラルコンポジション),いわゆる 「修復治療
な圧で全歯において接触させる.それにより 合圧はそ の 3 要素」 が得られた口腔環境をトータルであたえるこ
れぞれの歯に均等に分配される(図 2).③軽く 合さ とで口腔の健康を長期にわたり保証することができると
せた時の臼歯部 合接触点はエリアオブセントリックと 考える.今回,全顎的な歯冠修復治療を望む患者に対し
する.④臼歯部 合接触点は基本的には 頭と窩の関係 て,桑田正博の提唱する FDO の理論に基づき作製した
とする.⑤咀嚼運動時,徐々に閉じていく過程で最後に 診断用ワックスアップを基に治療計画をたてプロビジョ
歯が接触した時, 合圧はできるだけ歯の長軸方向に向 ナルレストレーションを装着し,歯周治療,歯内療法,
かい,側方圧が及ばないようにする(図 3).⑥前方運 矯正治療,インプラント治療を同時平行的に進めていっ
動時,前歯部はなるだけ多くの歯で接触滑走させる.下 た.しかしこれらの治療は治療計画どおりの結果が得ら
顎前歯部切縁は上顎前歯舌側辺縁隆線と互いに平均的に れるとは限らない.また患者の口腔内環境は診断用ワッ
接触,滑走させる.しかし,臼歯部は瞬時に離開させる クスアップ時とは変化し,患者の要望も変わってくるた
(図 4)
.⑦側方運動時,できるだけ多くの歯が,作業側 め,再度の計画用ワックスアップが必要であると考える.

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これを基に作製したプロビジョナルレストレーションの
結論
セットと,インデックスコアでのコンポジットレジン充
塡をプレパレーションの前に行った.これにより計画用 FDO を考慮し,忠実に患者固有の 4 インチ球面を与
ワックスアップの最終状態を口腔内で体感でき,患者・ えたプロビジョナルレストレーションを装着してから,
術者ともに最終のイメージを共有し生理的に調和のとれ 患者は装着時より違和感なく快適に生活することができ
た口腔環境が得られたことを確認でき,治療ゴールが明 た.また,従来のプロビジョナルレストレーションより
確になった.最終のプロビジョナルレストレーションを も 耗も少なく,脱離や破折も少なかった.ゆえに,こ
セットし暫く経過観察する.その後に,最終補綴に移行 こで示した FDO を利用した一連の方法は生理的に調和
していく.この一連の手技手法は安心・安全・確実な修 がとれており優れていて,FDO を臨床上とりいれる意
復治療法であると考える. 義は大きいと思われる.

参考文献 ンド版) :93-320,カラーアトラス セラモメタルテクノロジー2(オ


1) Clyde H Schuyler: Correction of occlusal disharmony of ンデマンド版) :20-389, 医歯薬出版 (東京), 2009.
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2) 桑田正博:カラーアトラス セラモメタルテクノロジー2(オンデマ 6) 桑田正博,西川義昌:Single Crown Provisional Restoration
ンド版) :315-217, 医歯薬出版(東京), 2009. ̶̶ 天然歯形態の観察から始まる修復治療 ̶̶(第 1 版) :
3) 桑田正博,茂野啓示:Practical Occlusal Adjustment and 72-141, 医歯薬出版(東京), 2010.
Function 実践 合調整テクニック (第1版) :38-118, 医歯薬 7) Mann AW, Panky LD:Oral rehabilitation. J Pros Dent, 10:
出版(東京), 2009. 1960.
4) 桑田正博:カラーアトラス セラモメタルテクノロジー1(オンデマ

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