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聲 明 音 律 の科學 的研 究

公 山 貴 光
目 次 音 譜 ﹂ を 出 版 し、 爾 來 各 宗 相 績 いで そ の 企 劃 を 登
序 論 表 し、昨 年 は 日 蓮 宗 に 於 いて 聾 明 者 譜 を 刊 行 し た。
本 論
如 是 の傾 向 は 一に從 來 の譜 の 不 完 全 を 認 識 し、 完
一、中 曲旋 法
全 な る 五線 譜 に よ り て、 佛 教 聲 樂 とし て の 聲 明 の
二、 徴 角 同 の問 題
再 認 識 を 要 望 す るも のと 云 は ね ば な ら 澱。 や、 も
三、 佛 教 聲 樂 とし て の 聲 明
す れ ば 衰 微 に階 ら ん と す る 斯 道 が、 か、 る傾 向 に
結 論
一、聲 明 の宗 教 的 償 値 導 か れ て 隆 盛 に 進 ま ん と し て ゐ る 二 と に注 意 し な
二、聲 明 の音 樂 的 債 値 く て は な ら 漁。
三、 聲 明 道 の振 興
眞 言 宗 に於 い て は、 南 山進 流 な る我 國 聲 明 道 二
大 分 野 の 一を 擁 し て、 天 台 の大 原 流 と 封 立 し、 彼
序 論
の流 の著 々 た る 研究 進 歩 に 封 し、 幾 分 遜 色 あ り し
前 年來佛 教音 樂 た る聲 明 の科學 的研究 に關す る と は 云 へ、廿 年 間 日夜 研 鍛 せ し 岩 原 諦 信 師 あ り、
機 運熟 し、浄 土宗 の如 き既 に大正 十 三年﹁禮讃 聲 明 十 年 間 寸 陰 を 惜 み て勉 めし 大 山 公 淳 師 あ り、 大 山
聲明音律の科學的研究 一〇九
聲 明音律 の科學的硯究 一一〇
師 は 一昨 年 ﹁
聾 明 の 歴 吏 と 音 律 ﹂を、 岩 原 師 は 本 年 以 つ て研 究 を 進 め得 る 法 縁 を 得 た る は 無 上 の光
初 め て﹁聲 明 の研 究 ﹂を出 す。 然 も 千 古 斧 銀 を 入 れ 榮 にし て、 し か も 日本 聲 樂 特 有 の イ ロ、 ッ ヤ、 ユ
ざ る密林中 幾 多 の暗 き疑 黙 な き能 は す。 大 山 師 ソ、 其 他 微 細 な る聲 の 動 き を 初 め て 五 線 譜 に表 現
は古 文 書 學 的 に 考 察 せ ん と し、 岩 原 師 は 理 論 的 に し、 日 本 聲 樂 の 科 學 的 研 究 に封 す る基 礎 を 定 め得
解 繹 せ ん と せ し かど 聲 明 理 論 と し て共 に未 だ 満 た るは、 一に こ れ 弘 法 大 師 の冥 助 に 依 る も のと 信
足 な る能 は す。 聲 明 憂 欝 時 代 の 記 録 と し て 見 なけ じ て ゐ る。
れ ば な ら 譲立 場 に あ る。 要 す る に聲 明 に關 す る疑 黙 の 中 心 の、 中 曲 旋 法
聲 明 は 孟田樂 で あ る以 上、 冶
兀全 な る解 決 は、結 局、 に あ る べき 事 は、 岩 原 師 の著 述 を讃 み た る人 の等
音 樂 の理 論 と 實 際 と よ りす る の 外 な く、 然 も か し く 戚 す る 所 な る べく、 第 二 は 徽 角 同 の取 り 扱 ひ
る場 合 の 理 論 と 實 際 と は 並 行 的 な る關 係 を 有 し、 法 にし て、 こ れ に樹 す る岩 原 師 の 意 見 に は 再 吟 味
聯 も そ の 一に 偏 す る を 許 さ 諏。 の 必要 あ、 依 つ て こ れ ら の問 題 を 本 論 と し て 考
予 は 昨 年 春 以 來、 此 の聲 明 の科 學 的 研 究 に志 し 察 し、 終 り に聲 明 に 謝 す る態 度 の 進歩 を 切 望 す る
一、高 野 山 關 口 慈 曉 師 に就 いて 相 傳 の ま- の 聲 こと に し て、 予 の論 旨 を 進 め ん と欲 す。
明を 五線譜 に表 現 し
蓼 論
二、 大 山 公 淳 師 に就 いて そ の 歴 史 的 造 詣 の校 合
を共 にし 一 中曲 施法
三、 随 時 宮 一
野 宥 智 師 の所 見 を 聴 き 1. 岩原大山繭師説 比較
音 樂 的解 繹 が必要 で あ る。
先 づ中 曲 旋 法 に於 け る岩 原 ・大 山 南 師 の所 論 を

(一)
圖 示す れば 音 樂 基本 調 は ハ
調 で あ る が、 こ れ
は 日 本 の紳 仙 調 に
と な り、 大 山 師 は﹁音 律 蓄 花 集 ﹂に 依 り て 此 の説 を
當 る か ら、 紳 仙 調
出 し、 岩原 師 は洋 樂 に於 け る短音 階 を用 ゐて 尋
律 呂 を 以 て考 察 を
律 秘 要 抄 ﹂と ﹁忠 我 之 記 ﹂と に て謹 明 せ ん と し た る
か に 私 考 さ れ る。 都 進 めた い。
一、呂 は徴 音 が 洋 樂 の ド に當 り、 律 は 揚 朋 が同

(二)
じ く ド に當 る。 故
に、
二、 こ れ を宮.
右 の如 き 洋 樂 の短 音 階 と、 岩 原 師 の中 曲 旋 法 と
商 ・角 の順 に改 め
は、 全 然 別 欄 の も の と ぱ 思 は れ な に、
る と 下 の如 く、
2、律呂 の書樂 的解繹
此 盧 に中 曲 旋 法 を 明 か にす る前 提 と し て 律 呂 の 三、 呂 の宮 と同
聲 響 律 の科學的饗 一一一
聲明音律の科學的研究 一一二
漁。
)三)

じ 音 程 に律 の宮 を
何 故 に喜 び や 悲
持 つて 來 る と律 に
し みを 表 はし得 る
フ ラ ッ ト が 三 つ付
か の音樂 的論 櫨を
く。
示 せ ば 下 の如 く な
四、 音 樂 長 音 階
る。
を短 音 階 に改 め る
と 復 フ ラ ツ ト が 三 つ付 く。 以 上を純 正音 階
と 聡 す。 そ の 音 響
學 的基礎 は
全音 階的宇 音 粒 長 の十 六分 の十 五
五、 故 に呂 は 長 音 階 に當 り、 律 は 短 音 階 に 當 る
小全 音 同 十 分 の九
と 思 考 す る が 妥 當 な の で は な か ら う か。
音 樂長 音 階 は喜 び の調㍉ 短 音 階 は 悲 し み の調 に 大 全音 同 九 分 の八
し て、 古 來 呂 は 喜 音、 律 は 悲 音 と 云 へる に 符 合 す にし て、岩原 師著 ﹁聲 明研究 ﹂五十入頁 に封 し、今
るは今 の解繹 の正し きを 示す も のでなく てはな ら の小全音 を補 足 した い。
3、中曲旋法 読批判 め る に 次 圖 の 如 く な る。
先 づ大 山 師 説 中 曲 旋 法 を 五 線 譜 に 表 は し て 見 る 以 上 三 種 の音 階 は 甚 だ 理 路 整 然 とし
に、 律 を 表 と す れ ば 揚 朋 が ド と な る故 ハ調 の ド に て そ の墾 化 を 明 に し、 大 山 師 の研 究
當 嵌 めれば
に 反 封 論 を禰 え た 岩 原 師 の所 説 は、
全 く の反 灘 論 に は 非 す し て或 程 度 の
賛 成 論 と な る の で あ る。 私 見 を 以 っ
てす れ ば 雨 師 の説 は 途 に同 一音 階 上
と な り、 シ ヤ ー プ (#)の 附 き 工 合 は の 二 つ の 見 方 に外 な ら 漁。
4、中曲旋法 の基本原理
然 る に 予 は 大 山 師 説 の如 く 呂 律 に
で あ り、 更 に岩 原 師 著 ﹁聲 明 の研 究 ﹂百 五 十 一頁 六 用 う る所 有 の音 を総 合 し た 中 曲 旋 法
行 目 中 曲 呂 の角 調 を 取 り 入 れ て、 呂 角 を 宮 とし て の 歌 態 が 果 し て 全 禮 的 に可 能 で あ る
音 階を作 つて見 るに か と い ふ疑 問 を 登 す と共 に、 岩 原 師
説 の如 き、 嬰 徴 は、 呂 角 を 宮 とす れ
ば 出 つ るけ れ ど、 呂 角 は永 久 に宮 に
非 す と い ふ 結 果 に 到 達 し、 此 慮 に嬰
とな る 翻 つ て 前 の 呂 ・律 ・中 曲 ・の 墾 化 の 跡 を 眺 徴 の吟 味 を 要 す る こ と、 な り、 中 曲
難明音律 の科學的研究 一一三
聲明音律 の科學的硯究 一一四
旋 法 に 樹 す る根 本 的 理 解 の爲 め に、 先 づ音 樂 理 論 5、雨 師 説 批 判
の原 理 を 研 討 し て 見 な け れ ば な ら ぬ 必 要 に迫 ら れ 角 は永久 に宮 淀 り得 す、帥 岩原 師説 の如 き嬰朋
る こ と、 な つた。
郎、 三分 損 釜 の 法 に 依 れ ば 下 圖
の麺 り 呂 は
一宮 ・二 徴 ・三 商 ・四 朋 ・五 角 ・六
憂 宮 ・七 攣 徴 ・
入 揚宮 ・
九揚徴・

揚 商 ・十 一揚 朋 ・十 二 揚 角 (
嬰と
揚 と同 じ 意 味 を 表 は す )
律 は 次 頁 圖 の如 く
一朋 ・二商・三 徴 ・四 宮 ・五 角 ・六
揚 朋 ・七 揚 商 ・入 墾 朋 ・九 憂 商 ・

憂 徴 ・十 一憂 宮 ・
十 二憂 角 (
墾と
反 とは同 じ意 味 を表 はす )
の順 序 に出 現 す。
此 の樂 理 を も つ て雨 師 の説 を 考 ふ れ ば 次 項 の如 嬰 商 と共 に嬰 徴を出 す べき音 樂的 根篠 は毫 も存 し
く 言 ひ 得 ら れ る で あ ら う。 な い。大 山師説 揚朋 揚商 に加 ふ る に墾 徴攣宮 呂角
(
反 角 )は、 そ れ に共 鳴 す べき攣 朋 攣 商 を 訣 ぐ 故 、 は 出 來 な い が、 音 樂 の 理 論 的 方 面 よ 中 曲 音 の動
音 樂 的 根 慷 十 二 分 な り と 云 ふ を 得 澱。 き を 科 學 的 に表 現 し 、 音 樂 常 識 の 上 よ り 判 断 す る
な ら ば、 上 述 の如 く 云 は な け れ ば
尚 商 茗
翠 瓦 瓦 な ら ぬ の で あ る。
然 し 次 に實 例 に よ つ て考 へて 見
よう
6、中 曲 の 實 例
こ れ は 中 曲 の中 の傑 作 と 思 は る
ゝ佛 名 に 就 い て で あ る が 、 宮 ・商 ・
嬰 商 ・呂 角 ・律 角 ・反 徴 ・徴 ・朋 ・揚

朋 ・反 宮 の 十 音 を 、何 の 不 自 然 さ も
な く 騙 使 し て ゐ る こ と に驚 異 の眼
を 見 張 ら ざ る を 得 な い。 嬰 徴 を 強
いて 出 せ ば 出 な い こ と も な か ら う
が 、 そ れ で は 聲 明 由 の 統 一性 を 制
勿 論 天 才 的 音 樂 は音 樂 理 論 を 超 越 し て 出 現 す る し 、 音 樂 良 心 を 傷 付 け る も の が有 る で あ ら う 。 而
も の な れ ば 、 未 だ 雨 師 説 の是 非 善 悪 を 断 定 す る こ し て 律 が裏 面 的 に活 躍 し て ゐ る こ と は誰 し も 認 め
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聲 明音 律 の科 學 的 研 究 一 一八
面 に 近 く、 殆 んど 墨 譜 蓮 り に さえ 唱 へら れ て ゐ 下 なし と い ふを 誤解 し、 或 は 基 本 音 階 の反 復 練
る曲 が多 々今 日 に穫 つ て ゐ る、 と 言 ふ情 勢 を 観 習 を 忘 れ て、 そ の 本 質 を 失 ひ し 具 檜 の 幼 稚 性 に封
察 す る時 に 私 は そ こ に吾 が 聲 明 に 醤 す る同 情 と し て の同 情 で、 徴 角 同 の承 認 非 承 認 に つ い て は 更
理 由 を 見 出 さ ざ るを 得 な い﹂(
岩原 師著 聲 明 の研 に愼 重 に考 慮 さ れ な く て は な ら ぬ。

究 二 六 二頁 二六 三 頁 ) 復 岩 原 師 が ﹁現 在 を 大 観 し て 徴 角 同 を認 め れ ば
と言 は るゝ 如 く、 呂 旋 法 の諸 曲 が 何 故 あ や ま ら れ 宗 内 に 師 を 得 ら れ るが、 墨 譜 導 ひ唱 へさ せ よ う と
た か は 口傳 ﹁呂 に高 下 な し ﹂を 誤 ま り 解 鐸 し、 途 に す れ ば と て も宗 内 に良 師 を 得 る事 が出 來 な い﹂ と
五音 の高 低 を 忘 れ る に 至 り し も の と 見 る べ、 律 云 は る、 程、 深 く 一般 に 徴 角 同 の 観 念 が 泌 み 込
に 徴 角 同 の所 も あ れ ば、 徴 角 別 の所 も あ る。 こ れ み、 基 本 者 階 を 忘 れ た 現 状 に 封 し て も同 情 を し な
は 或 程 度 迄、 徴 角 同 の 別 が訓 練 な く し て は 登 聲 し け れ ば な ら ぬ と 思 ふ。
難 き を 傳 へる も の で あ ら う。 訓 練 と は音 樂 の基 礎 ﹁か り に 良 師 を 得 た と し て も 習 得 す る も の が な
音 階 帥 ち 今 の 場 合、 律 の﹁宮 ・
商・角・
徴・朋 ﹂の 五音 いと 言 ふ 結 果 に な る で あ ら う こ と は、 既 に今 日 の
階 の基 本 練 習 を い ふ。 こ れ は 聲 明 家 と し て 必 須 な 情 勢 を 以 て し て 明 ら か で あ る﹂し、 ﹁習 ふま い唱 へ
る べき に か、 わ ら す、 そ の練 習 を な さ す 放 置 し て ま い﹂ と し て ゐ る と せ ば、 何 故 にか く ま で押 し 詰
ゐ た こ と に外 な ら 諏。 つ て 來 た か を 察 す る に、 佛 激 聲 樂 で あ る聲 明 を、
さ れ ど 呂 律 に於 け る徴 角 同 の問 題 が展 開 さ れ た 音 樂 の基 本 訓 練 な く し て 教 へん と し 習 は ん と す る
こ と に は同 情 な き を 得 な い。 そ れ は 口傳 ﹁呂 に高 結 果 に外 な ら な いと い ふ 一つ の 理 由 に、 復 同 情 な
き を得 沁。 上 行 下 行 の 一音 孚 を 苦 にし て ゐ る 人 は 即 ち 五 音
か、 る理 由 を 考 査 し て 後、 そ の是 非 善 悪 を 決 定 認 識 が 出 來 て ゐ な い場 合 當 然 有 り 得 る こ と で、 此
し、 徴 角 同 に封 す る 承 認 非 承 認 の問 題 を 解 決 す べ の上 行 下 行 は 相 關 々係 に 依 る。 岩 原 師 の説 は、 實
き で あ ら う と 信 す る。 地 聲 明 の教 授 に 際 し て、 多 年 苦 心 さ れ た 結 果、 受
2、徴角同論 の批判 講 者 の下 行 一音 雫 の困 難 な るを 歎 せ ら れ た も の と
岩 原 師 が ﹁下 行 一昔 孚 の唱 へ難 い音 程 が 律 角 か 解 繹 さ れ る。
ら 商 に下 る場 合 現 れ る の で、 日上 げ て 徴 に し て け れ ど 聲 明 教 育 者 た る 地 位 の 人 が 下 行 二音 孚 で
下 す と、 下 行 一三日孚 と な り、 落 ち 付 いた 戚 じ が し あ る可 き 自 下 を、 下 行 一音 孚 の 自 下 に唱 へて ゐ る
且 つ唱 へ易 い﹂と 云 は れ る通 り、自 下 は 二音 宇 下 る 入 が あ る が、 日雫 を 濫 用 す る如 き は、 音 程 認 識
代 表 的 な も の にし て、 そ れ は 自 ら 下 る 意 にし て、 の 不 足 を 歎 ぜ し む るも の に て、 か、 る 現 状 を も つ
一音 孚 よ り も認 識 し 易 く、 音 律 認 識 の約 理 説 か ら て せ ば、 誠 に寒 心 に堪 え す と 私 考 す。
す る も 二音 宇 と 三 音 孚 が 最 初 で あ り、 三 分 損 盆 の 呂 に攣 徴 墾 宮 あ り、 律 に嬰 朋 嬰 商 あ り、 五 音 は
法 も 二音 孚 と 三 音 宇 で轄 回 し て 行 く。 此 の原 始 時 七 昔 と な り、 更 に八 音 ・
九昔・
十 音 と な る。 下 行 一
代 の認 識 下 行 一三日牢、 上 行 三 音 雫 が 次 の 時 代 に下 音 孚 ど こ ろ の問 題 で なく、 根 本 的 に聲 明 に 甥 す る
行 三音 孚 上 行 二音 孚 に 憂 化 し、 且 つ培 加 し た る後 態 度 の 再 認 識 を 痛 威 す る も の で あ る。
五音 認 識 に及 び、 此 慮 に 必然 的 に、 一音 宇 の 上 行 3、聲 明教授法 の訣陥
下 行を會得 す る 耳 か ら 入 る も の に は 聞 き 落 し、 聞 き誤 り が 存 し
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聲 明音律 の科學的研究 一二〇
易 いも の で あ る が、 目 か ら 入 る も の に は 見 誤 り ぱ こ と にな ら な く て は, 完 全 な 狡 達 は 期 せ ら れ 澱
比較 的 砂 な い 故 に音 譜 は 非 常 に大 切 で あ る。 然 か く て こ そ ﹁習 ひ た い唱 く、た い﹂と い ふ機 運 が速 進
る に從 來 の 墨 譜 は、 音 の 高 下 を 明 示し な い。 帥 呂 せ ら れ る で あ ら う。
角 と律 角 は孚 音 の差 あ る に か、 わ ら す 同 じ 譜 であ こ れ を 要 す る に現 在 流 布 の聲 明 本 に 徴 角 別 の譜
る。 モ ド リ、 其 他 各 種 の傍 註 に從 つ て 音 程 は 各 々 を 出 す 限 り、 復 これ を 唱 ふ る に徴 角 に 二 昔 別 の 心
特 定 な る べき に、 こ れ を 形 に表 は す こ と が出 來 て 持 ち あ り とす る 入 の あ る限 り、 此 の 二昔 は別 とし
ゐ な い。 復 拍 子 を 表 は す 工 夫 の如 き全 然 敏 げ て ゐ て 見 な け れ ば な ら 緻 と考 へる。
る が 爲 め に、 或 は 長 く、 或 は 短 く、 唱 へる に そ の 三 佛 漱 聲 樂 芝 し て の聲 明
形 だ け が 似 て 居 れ ば 出 來 た 様 に誤 解 し 易 い危 瞼 が 1、聲 明暑階 の吟味
あ る。 聲明音 階 がど れ程基 本訓 練 とし て 必要 であ るか
世 の中 が 忙 し く な る に 從 つ て、 或 程 度 ま で自 學 は前 節 に述 べた 所 で あ る が、 斯 道 が 今 日 迄 瞳 落 し
自 習 が 出 來 な け れ ば な ら な い の に、 現 在 の墨 譜 は た の は 一に 聲 明 の音 階 を 忘 れ た 所 にあ る。 現 在 宗
全 く そ れ に適 せ す、 師 傳 口傳 を 本 と し て 習 は な け 内 で呂 律 の昔 階 を 完 全 に唱 へ別 け ら れ る人 が 果 し
れ ば な ら 諏 のは 不 便 至 極 で あ つて、 墨 譜 を 使 用 す て 何 人 あ る か と い ふ こ と を 考 へた だ け で 此 の實 謹
る限 り、 聲 明 は 沈 衰 に向 ふ の外 な い結 果 と な る。 は 十 分 で あ ら う。 此 の音 階 を 忘 れ た 理 由 は、 音 階
聲 明 家 な る が故 に聲 明 を 激 へ る資 格 が あ る の で は 蔑 視 の 不 都 合 に あ る け れ ど、 忘 れ 易 か ら し めた 音
な く、 音 樂 家﹁
な る が 故 に、 これ を 激 へ得 る と いふ 階 猫 自 の不 合 理性 を 考 へす に は ゐ ら れ な い。
醗 つ て 西 洋 に於 け る聾 樂 が 登 達 し て、 宗 教 音 樂 る如 き は 絶 封 に 登 音 と 音 程 と 結 合 す る 可 能 が な
の 本 質 を な し、 民 衆 の間 に 正 し く 盛 に 行 は れ た の い 加 之 律 に揚 朋 揚 商 を 加 へ、呂 に 反 徴 反 宮 を加
は何 に依 るか 論 す る迄 も なく 音 階 の合 理 性 に 依 へた音 階 を 順 次 上 行 し た 下行 した す ることは
る誘 導 に外 な ら な い 音 階 の合 理 性 と は 何 か。 登 音 樂 家 と 錐 も 不 可 能 に囑 す。 し か も これ ら の音 が
音 と音 程 と の完 全 な 聯 結 こ そ 其 の出 獲 黙 を 存 す 随 所 に 現 は れ る。 此 の 取 り 扱 ひ を 如 何 にす べき。
如 何 に難 し き 音 程 差 も 登 音 に誘 導 さ れ る も の、 ド 實 に聲 明 音 階 の 不 備 が最 も 大 き な癌 で な け れ ば な
レ フ フソ ラ シド の癒 用 範 園 こそ 驚 嘆 に値 す。 例 ら ぬ。
せ ば ﹁ミフワ﹂・﹁シド ﹂と 登 音 す れ ば、宇 音 が 口 を 2,昔階 名の吟味
つ い て 出 で ﹁ド レ﹂・
﹁レミ﹂・﹁フ ワソ ﹂・
﹁ソ ラ﹂・﹁ラ ﹁キ ユー ・ シ ョー ・カ ク ・チ ﹂の登 音 は音 樂 上 最 も
シ﹂は 一音、 ﹁ミ ソ﹂・﹁ラ ド﹂ は 一音 宇 ・
﹁レソ﹂・
﹁ソ 忌 み 嫌 は れ る聲 に し て、 樂 音 で な く、 ﹁ウ ﹂は 無 力
ド﹂は 二音 孚、 ﹁ド ミ﹂・﹁フ フラ﹂・﹁ソ シ﹂は 音、 の聲 で あ る 日常親 し み反復練 習 し たけ ればな ら
﹁フ ワシ﹂は 三 昔﹁ド ソ﹂﹁フ ヲド﹂ぱ 三日半 が そ れ ぞ 漁聲 明 音 階 が、 樂 音 で な く し て、 唱 へ る度 に 不 快
れ 獲 音 と同 時 に音 程 と な つ て表 現出 來 る。 の戚 情 を 不 知 不 識 の 問 に戚 じ さす も の で あ る こ と
以 上 は 皆 上 行 で あ る が、 反 封 に 輻 倒 し て 楼 音 す は、 延 い て聲 明 の狡 達 を 阻 む 有 力 な 要 素 と な る所
れ ば 下 行 が得 ら れ、 登 く 如 何 な る音 程 も自 由 自 在 以 に し て、猶 且 つ﹁ヘソ チ ・ヘ ンキ ュー﹂ ヨー ウ ・
であ る。 然 ら ば 聾 朋音 階 の不 合 理 性 と は 何 か。 上 ヨー シ ョー﹂ な どゝ 長 い登 音 を し て ゐ て は、 絶 封
來 説 く 如 く 律 呂 の音 階 に よ り て 角 の 位 置 が 宇 音 異 に音 程 認 識 な ど 出 來 る も の で な い。
聲 明音 律 の科 撃 的 研究 一二 一
聲明音律の科學的研究 一二二
3、教 授 法 が出 來 す、 如 何 な る樂 器 と の 合 奏 も 亦 随 意 に て、
か く 観 じ 來 る時、 此 麩 に聲 明 教 授 法 の革 新 を 叫 法 樂 も亦 一層 の 趣 致 を 加 へる こ と で あ ら う。 教 ゆ
ば ざ るを 得 諏。 一
即 第 一に一
膏程 の基 本 練 習 に は ﹁ド る に無 駄 な勢 力 を 省 略 し、 習 ふ に 易 く、 佛 敢 音 樂
レ ミ フ ワソ ラ シ ド﹂を 採 用 し な け れ ば な ら ぬ こ と の第 一義 に全 力 を 傾 到 し 得、 佛 数 音 樂 黄 金時 代 現
で あ る。 本 論 第 一節 第 二項 律 呂 の音 樂 的 解 繹 に於 出 の道漕
案内 を 完 全 に 果 途 す る こと、 な る で あ ら
い て記 載 せ し 如 く、 律 呂 の 音 階 は す べて ﹁ド レ ミ
う。 又 何 千 人 集 り て合 唱 す る場 合 も、 一本 の如 意
フ ヲソ ラ シド ﹂の中 に 撮 す わ事 が出 來、 勿 論中 曲 音
棒 に て指 揮 され、 奏 樂 す る崇 嚴 境 の實 現 は、 一に
階 も此 の中 に撮 し 得 ら れ て、 そ れ ら の練 習 に非 常 五 線 譜 に 依 る外 は 得 ら れ な いの であ る。
に 便 利 と な る。 七 音 認 識 が確 實 に な れ ば 十 音 十 一
昔 も自 然 に認 識 し 得 ら れ る の で あ つて、 其 の恩 悪
結 論
は 少 々 で な い。 一、聲 明 の 宗 教 的 債 値
第 二 は音 譜 を 五 線 譜 に 改 め る こと で あ る。 第 二 予 は 佛 敦 學 に 就 い て は 全 く の門 外 漢 で あ る が、
節 第 三 項 に述 べし 如 く、 現 在 墨 譜 は 不 完 全 に し て 今 宮 野 宥 智 師 の 云 は れ る所 を 引 用 す る に ﹁祀 師 弘
五 線 譜 の表 現 に 改 め れ ば 微 細 な 音動 も洩 らす な 法 大 師 ぱ 三 大 修 行 道 と し て 金 剛 頂 業、 胎 藏 業、 聲
く、 し か も 拍 数 一目 瞭 然 と し、 音 程 の動 き 工 合 は 明 業 を 定 め ら れ、 大 日 経 に は眞 言 門 の僧 侶 は 綜 藝
具 禮 的 の形 と な つ て 表 は れ、 見 ま い と し て も、 五 に通 じ な け れ ば な ら ぬ と 説 か れ て あ り、 藝 帥 人 ・
六 拍 先 位 迄 は 理 解 さ れ、 誤 ら う と し て も 誤 る こ と 人 帥 佛 な る に よ り、 藝 即 佛 で、 藝 術 上 に 於 け る 昔
樂 の 至 上 圭 義 を 騰 験 す る こと は盤 明 成 佛 の所 以 ﹂ と な り 了 つた の で あ る。 そ れ だ け 佛 教藝 術 と し て
にし て、 現 代 に 於 て﹁ 其 聲 明 を よ り 立 涙 に導 く よ の聲 明 の重 要 性 は 昔 日 の比 で な く、 し か も 佛 像 の
う 努 力 さ れ て な い のは 物 足 り な い﹂ の で あ る。 永 久 性 に 比 し、 佛 駿 音 樂 た る聲 明 は、 瞬 間 に生 じ
眞 に修 行 道 とし て の聲 明 は 一生 を 費 し て完 成 す て瞬 間 に消 え 去 る。 音 譜 は 痩 し得 れど、 そ れ を 再
べく、 数 ヶ 月 或 は 数 年 の 努 力 に て、 ﹁人 前 の顔 を 現 す る人 は、昔 樂 的 修 行 を 積 む に非 れ ば 望 ま れす、
す る こ と は、 實 に斯 道 を 冒 漬 す る も の と 云 は ね ば 民 衆 の佛 教 に厭 き 足 らざ るも の あ り と せば、 そ は
な ら ぬ。 天 竺 魚 山 に て、 優 婆 梨 奪 者 は 聲 明 の 妙 音 佛 の聲 た る眞 の聲 明 を 聞 き得 ざ る所 よ り 起 る と い
を も つて 廣 ぐ 衆 生 を 濟 度 し て居 ら れた と 傳 ふ。 尊 ふ こ と は 出 來 な いで あ ら う か。
者 は ﹂既 に 音 樂 治 病 の實 を 暴 げ ら れ、 頭 脳 整 理、 頭 謙 つ て 露 納 的 に 考 察 す る に、 有 名 な先 徳 學 匠 が
謄 明 断 法 と し て の効 果 を 墾 げ て ゐ ら れ た ら し い。 聲 明 の達 人 で あ っ た こ と、 偉 大 な 功 績 を 残 し た 人
佛 教 に佛 像 佛 書 あ り、 藝 術 と し て 千 萬 年 の後 に が す べて 音 樂 の理 解 者 で あ つた 事 實 は 述 ぶ るま で
傳 へ、 そ の生 命 は 躍 動 し て 贋 く 人 々 に盆 を 垂 れ、 も な い こ と で、 若 し 云 ひ得 ら る、 な ら ば 聲 明 の達
永 く 戚 化 を 與 へて ゐ る。 さ れ ど 時 代 が 進 む に從 つ 人、 昔 樂 の 理 解 者 で な く て は 一世 を 指 導 す る資 格
て耳 の活 用 は、 そ の範 圃.
盆 々廣 き を 加 へ、 耳 の藝 が 具備 し た こ と に な ら 澱。 同 時 に聲 明 修 行 に よ つ
術 を 要 望 す る情 勢 は 日 々 に進 展 し、 現 代 に 於 い て て の み 偉 大 な 人 格 の完 成 が 可 能 と な る の で は あ る
は ラヂ オ の登 達 に 見 る如 く、 目 の藝 術 よ り も 僧 ま い か。
の重 要 性 を 増 し、 音 樂 は近 代 人 の 大 切 な精 神 の糧 二、 聲 明 の 書 樂 的 債 値
聲明音律の科學的研究 一二三
聲明音律 の科學的硯究 一二四
關 口慈 曉 師 が 云 は れ る 如 く ﹁東 洋 音 樂 が 盆 々世 有 の妙 味 を 傳 へ るも の に し て、 復 全 膿 的 ア ク
界 的 に注 目 さ れ、 日 本 支 那 印 度 に於 け る固 有 の節 セ ント の 確 實 な るは 音 樂 の 本 質 に適 ひ、 共 に
が異 人 達 に望 ま れ る 如 く な れど、 こ れ ら は輩 な る 宗 激 的 崇 嚴 の 戚 に充 ち た も の で あ る。
好 奇 心 ば か り で は な く、 確 に藝 術 的 香 氣 の高 い も 二、 拍 子 上、 三 連 音 譜、 五 連 音 譜 (
呂 由 )、六 連
の が 東 洋 に澤 山 あ る こ とを 物 語 る も の で あ る﹂し、 音 譜、 七 連 音 譜、 九 連 音 譜 (
律 呂 )が 頻 り に現
殊 に ﹁聲 明 は 千 百 有 徐 年 の昔、 囎 師 弘 法 大 師 が 唐 は れ る は 最 も 難 し い所 な れど、 これ ら の不 規
土 よ り 請 來 され、 これ に先 徳 の研 究 が加 は り、 約 則音 譜 は そ れだけ 宗 殺的 奥 ゆ かし さを 形成
六 百 五 十 年 以 前 畳 意 の譜 付 け 有 つ て以 來、 猶 一層 す。
藝 術 的 に償 値 高 く、 宗 数 的 氣 分 濃 厚 と な つた ﹂ と 三、 音 程 上、 飴 程 の熟 練 を 要 す る が、 呂 の聲 明
信 す る。 に於 い て 現 は れ る宇 音 程 は 實 に荘 嚴 の極 と 云
眞 に 日 本 俗 樂 も 其 源 は 聲 明 に 獲 し、 聲 明 の中 に は ね ば な ら 沁。
は古 代 印 度 の旋 律 の跡 あ り、 支 那 音 樂 の影 響 あ り 四、 音 程 上、 ユ ルグ ・
荒 由 等 は 牢 音 由、 ユリ・ッ
更 に千 百 有 籐 年 間 の 先 徳 の 研 究 あ り、 これ 實 に寳 ヤ等 は 一音 由、 イ ロの 一音 孚 由 等が 完 全 に ユ
玉 に磨 を か け た も の にし て、 珍 重 す べき 限 で な く ソ 分 け ら れ る迄 は 多 大 の修 練 を 要 す る も、 こ
て は な ら ぬ。 聲 明 が 音 樂 的 に如 何 な る特 色 あ り、 は 實 に 日 本 聲 樂 の 至 寳 で あ る。
優秀 な るも のであ るかを考 ふ る に 五、 音 程 上、 未 開 人 程 音 程 認 識 少 く、 三 音 階
一、登 聲 上 モ ド リ聲、 ソ リ 切 り の如 き は聲 明 特 五 音 階、 進 み て 文 明 人 と な り、 七 音 階 (
御詠
歌 は 五音 階)、器 樂 の力 にて漸く 十 二音階 (
十 め、 未 解 決 の所 は 大 い に論 戦 を 繰 り 返 へし て、 そ
二律 )を 使 用 す る位 で あ る に、聲 明 は 最 少 六 音 の解 決 を は か る と共 に、 一般 の畳 醒 と 理 解 と に資
階、 最 大 十 音 階、 卒 均入 音 階 に 及 ぷ、 實 に驚 せ ら れ ん こ と を 望 み 聯 か 記 し て参 考 と せし の み。
嘆 に 位 す。 (
以 上)
實 に南 山 進 流 聲 明 は 日 本 音 樂 の豪 華 版 に し て、
佛 教 音 樂 の 珠 玉 篇、 佛 像 を 佛 と し て 尊 崇 す る如 く
に、聲 明即 佛 と し て護 持 崇 拝 さ れ ん こ と を 念 願 す。
三、 聲 明 道 登 達 の 爲 め に
今、
予 が 中 曲 旋 法 の音 樂 的 解 繹 を 試 み、 徴 角 同 の
取 り 扱 ひ 方 の是 正 を 望 み、 聲 明 に 射 す る再 認 識 を
要 望 せ し は、 す べて こ れ聲 明 蓮 登達 の念 願 に外 な
ら す。 岩 原 ・大 山 雨 師 の 大 著、 共 に宗 内 の聲 明 意
識 に畳 醒 を 與 え、 猶 予 の研 究 も 亦 爾 著 によ り て 指
導 さ れ、 今 後 も 指 導 さ る べき 所 實 に多 く、 甚 深 の
謝 意を 表し た い
猶 宗内 には新以
進 の師 も あ ら ん。 幸 に そ れ ら 畳 醒
し つ ゝあ る若 人 を 峯 ゐ て、 こ れ が 理 想 に遮 進 せ し
聲明音律 の科學的硯究 一二五

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