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〈琵琶湖と人の暮らし〉

4-12 琵琶湖のエネルギー た大気は、琵琶湖周辺の気候を穏やかに保つことになる。例えば、2004年2月11


日には滋賀県南部に位置する信楽地方で最低気温が−8.0℃であったが、 琵琶湖
北西部に位置する今津では−3.6℃であった。
 地球上の生物にとって、エネルギーは非常に重要である。多すぎても、  大気から湖水に入る年間の熱エネルギーは3.05×10 Kcalで、 湖水から大気へ14

少なすぎてもいけない微妙なバランスの中で、生物は進化してきた。琵琶 出る年間の熱エネルギーは3.03×10 Kcalである。14


したがって、琵琶湖に注がれる
湖の生物も例外ではない。地球温暖化は、今、そのバランスを崩し始めて 全天日射量の約45%が正味の水温上昇として使われることになる。加熱と冷却
いる。本項では、エネルギーの流れの概略を議論する。 の間に少し差があるのは、 湖が少しずつ暖まってきていることを示している。実際、
25年間で琵琶湖内に蓄積した熱量は5.5×10 Kcalであり、 その結果水温は約2.0
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1.滋賀県に降り注ぐ太陽エネルギーとその利用可能性 ℃上昇している。これは過去25年間における滋賀県の平均気温上昇とほとんど
 滋賀県全体に降り注ぐ全天日射量は、 年間に約4.3×10 Kcalで、
そのうちの51
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同じであり、 琵琶湖の水温変化が地球温暖化傾向と同調していることを裏付けて
%の約2.2×10 Kcalが森林や山地に降り注ぐ。これらは、 主に樹木が育つために
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いる。
使われるが、木材生産量と炭出荷量から換算した利用エネルギー量は、約3.0×  湖に入る光のエネルギーは熱だけでなく、 植物プランクトンや水草などの光合成に
10 Kcalで全体の0.014%に過ぎない。ただ、 森林は保水の役割を有しているので、
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も利用される。琵琶湖北湖における基礎生産のほとんどは植物プランクトンが占める
その位置エネルギーは大きなものがある。一方、 農地には、 約6.4×10 Kcalのエネ14
が、その年間の一次生産量は約1.8×10 Kcalであり、 先に求めた年間全天日射量の
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ルギーが降り注ぐ。県内で生産される穀物エネルギーは約7.6×10 Kcalであり、 太陽
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約0.26%になる。 これは、水中の光特性から求めた数値にほぼ等しい (Tsuda and
エネルギーの約0.15%を利用していることになる。数値的には低いが、実際に穀 Nakanishi, 1992)。
物が成育する期間が限られていることと、 県内で必要な食料エネルギーの約73%  食物連鎖における栄養段
を支えていることを考慮すれば、 妥当な数値と言えるだろう。 また、 宅地には約2.4× 階を考慮して魚類の生産量
10 Kcalのエネルギーが注ぐ。太陽光発電と太陽熱の装置をすべての屋根に設
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を推定すると、 約1.7×10 Kcal
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置すれば、 年間に約8.2×10 Kcalのエネルギーが得られ、 滋賀県全体で必要な電


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になる。一方、 琵琶湖の漁獲
力エネルギーの約14%をまかなうことができる。 量から食品エネルギー換算
係数を用いて計算すると約
2.
琵琶湖に降り注ぐエネルギー
3.3×10 Kcalになるので、 琵琶
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 琵琶湖北湖に注がれる太陽の年間全天日射量は約6.8×10 Kcalである (図参 14

湖では全魚類生産量の約2
照)。これは、 電力量に直すと約7.9×10 kWhとなり、 滋賀県で年間に使用する電
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%の水産上有用魚種を捕獲
力量1.25×10 kWh( 2002年実績)の約60倍に値する。また、
わが国における全発
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している計算になる。これは
電量の78%にも達する。驚くほど多くのエネルギーが、太陽から琵琶湖に注がれ
あくまでも概 算であるので、
ていることになる。ただ、 このエネルギーのすべてが湖に吸収されるのではなく、 湖
今後さらに、 きちんとした調査
面で反射されて大気中に逸散するものもある。 また、
いったん湖水に吸収されたエ 図4-12-1 琵琶湖における水温(℃)の分布(南北断面図)
琵 を行う必要がある。
琶 ネルギーも、水の蒸発(潜熱)や熱伝導による熱交換(顕熱) となって空気の運動
湖 琵琶湖・環境科学研究センター 熊谷 道夫
と (対流) を生じ、降水現象や風の変化などといった天気の変化を引き起こすため
人 に使われる。
の 関連する項目は   1-18
暮  一方、 琵琶湖に取り込まれる太陽エネルギーのほとんどは、 湖水を温めるために
ら 【全天日射量】太陽から地上に降り注ぐ光エネルギーは、大気を通過する時に、大気や雲によって散乱さ
し 使われる。春から夏にかけて、 湖は暖められ水中に熱が蓄積される。一方、 秋から れる。散乱されないで直接透過してくる分を直達成分(直達日射量)、散乱されて地上に届く分を天空成分
冬にかけて、 冷却によって湖の熱は大気へと伝わり、 水温は低下する。逆に、 暖まっ (天空日射量)と呼ぶ。この二つを足したものが全天日射量である。

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