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即席活用 忍術氣合術秘傳

幻術の極意

〇忍術とはどんなものか

忍術とは讀んで字の如く「しのび」の術であつて古來より殆んど武術家の極意として窮地を
遁れ又敵地に入り隱現出沒を恣にする塲合に應用せられたものである。
つまり我が身體は他人の目前に於て働きながら他人の目に觸れざるやう我が身形を秘して
他人の家に密に忍び入るとか又は他人の目に觸れて惡いと思ふ時などに此の術を以て我身
を隱す塲合に行ふ術である。

〇忍術の別名

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忍術は古い昔からあつた名稱であつて別名をば隱身術——又は隱形術——成は身體隱現術
とも稱せらる要するに神出鬼沒——隱現變化するから名附けられた名稱である。

〇忍術と盜賊術との相違

忍術は奇法魔術的の現象結果を生ずる爲めに一寸考へると盜賊術によく似て居る處がある、
頗る物騷の術とも思はれ何だかこんな秘傳などを公開するのは穩やかならん樣ではあるが
それは决して心配はないのである。
術そのものゝ眞髓が違ふのと術を行ふ塲合が忍術は善用の塲合であつて盜賊術に惡用のも
のであるから自ら出發點も到着點も違つて居る、昔しから忍術を惡用した者は總べてその術
が破れて成功せないのである、例へば石川五衛'門が豐太閣の寢所に忍び入つて千鳥の番爐
を盜まんとしたのも、仙臺萩の仁木彈正

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が鼠に化け込んで鶴千代君の御壽命を縮.めんと企てれのも、有名な忍術の破れた話である。
昔から忍術を惡用してはその術が無効であると云ふ事は一般に認められて居る次第である、
左に紀州家忍術の達人名取靑龍軒の極意書にある一節を摘錄せん自ら忍術と盜賊術との區
別は明瞭になるのである。
忍者之事(原文ノ儘)
是ハ日本ノ間者ト云常ニ事ニアクマズ、晝夜ヲワカタズ忍フ者也、盜人ト其品同ジ然レ
ドモ忍ノ者ハ物ヲ取ラヌ者也、行難キ所ニモ能忍フ道ナケレドモ能歸ル、是レ名人ノ忍
也可謂ツ其術甚ダ深シ。
盜人之事
是レハ心フテキニシテ物ノ分ケテモ不知ラ先キノ難義ヲ辨ズタトヱハ鹿ヲ追フ獵師ノ
不見山ヲト云如ク物ヲ取ニ於テ身ヲ亡スノ不知辨

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ヘテヲ呼鳴ツタナキ事不可勝言ト云々。
されば忍術は正道に依て用へられるもので决して盜賊や掏摸などの樣な之等の秘慾の爲め
に用いてもその術は成就せないものであると斷定せらる、つまり忍術と盜賊術は直覺的には
類似はして居るものゝ根本意義に於て天地雲泥の差違がある、讀者の先づ本術の活用を試み
んとするには第一にその本旨を誤る勿れである。

〇學術上より研究したる忍術
忍術の學術的說明を試みるは現代に於ける頗る新らしき研究であらう。戰国時代より豐臣德
川氏時代にありても忍術の達人名士は輩出ありたるも忍術なるものは公開嚴禁の術として
卦ぜられ、多くは師弟相傳の極めて秘密の口傳であつて他の劍術創術弓術などの樣に秩序的
武術的に研究せられて文字の

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上に遺されたものが無いのである、爲に今日に至りては從て的確なる考證もない、さればそ
の實地の存在活用さへ危ぶまれて居る有様である。
人智未だ進步せざる時代にありては單に奇妖不思議の奇術として科學的人爲的のものでな
い全く神秘性のものであるかの如くに世人は勿論術自身に於ても思ふて居つたのである。
然るに文明發達の今日にありて科學の進步は哲學——理學——化學——等の立脚地より奇
術も——魔法もすべて解决せらるゝに至つたこの神秘的忍術なるものもその科學的の解决
を與ふるのも敢て困難ではない。
現代にありてはその忍術の學科的說明をなすものに諸說ありと雖ち多くは偏狹的の見解を
なすものあり未だ千古不枯の卓說とは斷言し難いのである、その眞髓研究の餘地は前途遼遠
である。
左に諸說を類別して參考とせん。

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一、忍術は魔法にも催眠術にも非ずと
二、忍術は心力集注法應用の結果即ち催眠術の變形術であると
三、忍術は全く神秘的のものであつて科學的說明を與へべきものでないと以上諸說に就き著
者は之れを論評すれば(一)忍術は魔法にも催眠術にも非ずと云ふ說はその根本を科學的に
歸着せしむるものゝ樣であるが、そは餘りに早計の感がある、若し論者の說の動くんば結極
は人工的魔術即ち手品に均しき種仕掛を以て欺瞞する方式となるのである、又な、(二)忍術
は心力集注法應用即ち催眠術の變形術であるとのみ斷定するも聊か物足らぬ感じがする、忍
術そのものが催眠術のみを以て孤獨的に活用は出來ぬのである、(三)忍術は全く神秘
的のものであるとの說はこれは古來の習慣を襲踏したる井蛙的の陳腐說であると思ふので
ある。
著者が茲に忍術に關する新學說として公表せんとするもの即ち第一、第二、の

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併合共同說である、即ち物理的作用と心理的作用を適法によりて活用する術であると云ふ事
になる。
この說を解决するは常識の判斷によりて直ちに分明する——且つ古來よの忍術の秘傳極意
書に據りて研究するも明白である。
先づ忍術を行ふには必ずや呪文や結印を行ひて心力集注法(心理作用)をなし然して後ち、
忍術用の人工的道具や之の術を行ふに必要なる補助的器物や物體を應用するのである、つま
り忍術と云へば直きに讀者の腦裡に浮び出づる處の兒雷也の結印は心力集注法であつて蝦
蟇は補助物である、その他忍術使ひの術式を印象するにすべてこの兩者の共同作用を行ふも
のである。

〇忍術の應用
忍術は前にも述べた通りその應用の範圍は隨分廣いのである。

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昔——は専ら武家に於て軍事上の偵察暗殺として敵地敵陣に潜入する塲合に用ひられたり、
個人的の爭闘の塲合にも用ひられたのであつた、この術を惡用してはならぬのであるが今日
にありても警察官が密行探偵に應用するとか又た一步應用の範圍を擴めて社交術の或る方
面に應用すれば必ずや人心を收纜し操縱し立身出世の捷徑法となる事であらう。

〇忍術の起源と來歴
忍術の起源を探究するに古より其の名稱ありと雖もその起源詳かならず正忍記によれば源
平の頃源九郎義經ガ勇士を撰んで用ひ、又た建武の年間楠正成が數度之れを行ひ(泣男によ
りて敵を欺いたのも忍術の類である)又た北條氏康が(風麻)と云ふ盜人に知行を與へて改
あて召抱へて使用したり甲斐の信玄が(徒者)と云ふ盜人を家來に採用して使用したのを始
め導ら世に用ひられ

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