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【あい】「わ、わかりました。それでは……」

向かう先は、オリンピア虹園寺店。寮から歩いて十分ほど。

虹園寺で日用雑貨といえば、ここで決まり……だと思います。

一緒にお店に向かいながら、マリーさんには、ちょっと聞いてみたいこともあったりして。

【あい】「マリーさんって、さきさんと仲がいいんですか?色々話していたみたいですけど」

【マリー】「サキと私がつきあっているかどうか、心配ですか?」

それは、どっちの意味でしょうか?文脈から考えれば、恋人のほう……

文脈から考えれば、恋人のほう……だとは思います。

でも……。

【マリー】「確かに、サキはかわいらしい女性ですね」

【マリー】「あの小さな身体からは考えられないほど、内にパワーを秘めていて、まるで燃えさかる炎のよ
う」

【あい】「た、確かに」

ミニレックスなんて呼ばれてくるくらいですし。

【マリー】「ユリイカソフトは、本当に魅力的な女性が多くて困ります。ホノカは成熟した美しさがあり、金
糸のような艶やかな髪のナナも、甲乙つけ難くもあり」

【あい】「……綺麗ですよね、ほのかさん。それに、ななさんも」

なんだろう……わたしだってそう思ってるのに、なんだかちょっと、複雑な気分。

【マリー】「ココロも、繊細で少し危うい所は感じますが、あなたに似て、内側には何かを秘めている気がし
ます」

そんなにみんなのことを褒めるのなら、その人を誘えば――。

なんて、思っていたのもつかの間。

【マリー】「ですが、私が今付きあって欲しいのは、アイなのですよ」

【あい】「………………………………」

そういうことを、また……さらっと言うものだから。

【あい】「ひょっとして、またからかってます?」

【マリー】『Ναι』

ない?

……どっち?
【マリー】「今は、キャラクターのデザインに専念してるのですが、設定の確認や服装、小物についての相談
をするために、必然的に話す機会が多いだけです」

【あい】「そ、そうだったんですか」

そうこうしている内に、目的地に到着しそうで。買い物する気まんまんのマリーさんは、すでにお店の方を向
いていて。

だから、最後に一つだけ聞いてみました。

【あい】「……それで、さっきのって、どっちだったんですか?」

マリーさんは、笑って答えてくれました。

【マリー】「どちらがよかったですか?」

あれから数時間。マリーさんの買い物に『付き合い』ました。

日用品だけでなく、カーテン、ドライヤー、ペンタブの替え芯、etc。

なんでも揃ってしまう、オリンピア、すごい。

【マリー】「ありがとうございました、アイ。荷物を半分、部屋まで運んでもらって」

【あい】「いえ、わたしも買いたいものがあったから、大丈夫です」

そして。

どうして、お休みの日の、買い物に付き合った後。こうして、会社にいるのかというと。

【あい】「それで、新デザインですが……」

マリーさんは、わたしに突然、絵を見て欲しいって言い出して。

【マリー】「まだ、皆には内緒にして欲しいのですが、まず、アイに見てもらえたらと思いまして」

【あい】「内緒に? どうしてですか?」

【マリー】「本当なら、ココロやホノカ、そしてサキに確認してもらうのが筋なのでしょうが、それよりも前
に、アイに見て欲しかったからです」

【マリー】「それに、まだ、本当にラフの段階ですから。他の人に見せるのは、恥ずかしいのです」

秘密とか、恥ずかしいとか。本当に……

本当に……この人は。

無自覚にやってるのだとしたら、反則です。

【あい】「そ、そういうことなら……ぜひ」

【マリー】「はい、お願いします」

マリーさんの席に座り、マリーさんのPCのモニターを覗き込むと。
【あい】「わぁ……」

画面に映し出されているのは、新『ニエと魔女』のキャラだった。

まだラフのラフって感じだったけど、なんというか……とってもきれい。

【マリー】「どう……ですか?」

同人版のデザインとは、少し……というか、かなり違う。

【あい】「ほえ~……。これがマリーさんの、ニエと魔女なんですね」

キャラクターのデザインで悩んでいる、とマリーさんが言ったのは、荷物を部屋まで運び入れて、少し休憩し
ていたときのこと。

そして、わたしに見て欲しいと言ったマリーさんは、ちょっとだけ不安そうで。

【マリー】「それは、どういう意味ですか?良い? 悪い?」

でも、実際にラフ画を見せてもらったら、そんな不安は、まったく感じないような、すごくいい絵でした。

だからわたしは、素直に答えられる。

【あい】「もちろん、いい意味です」

【あい】「デザインはかなり変わっていますけど、ニエはニエらしくて、魔女は魔女らしいといいますか」

【あい】「うまく言えないですけど、わたし、やっぱりマリーさんの絵が好きです」

【マリー】「……アイ」

【あい】「えっと……ごめんなさい。こんな、ただの感想しか言えなくて」

【マリー】「好き……ですか?」

【あい】「はい! マリーさんの――」

【マリー】「それは、愛の告白と受け取っても?」

【あい】「ち、違いますよ!」

【マリー】「……大丈夫、わかっています」

【あい】「やっぱり、からかってますね?」

【マリー】『Ναι』

……だから、それはどっちの意味なのでしょうか?

【マリー】「でも、まだ完成には程遠いといえます」

そして、やっぱり何事もなかったかのように、マリーさんは続けて言いました。

【マリー】「ニエはなぜ、ニエなのか。魔女はなぜ、魔女なのか」
【あい】「ほぇ?」

【マリー】「そこに、答えがあるとは思うのですが……」

なにやら、難しいお話の様子。哲学? それとも禅?だから、わたしに答えられるとは思わなくて。

【あい】「さきさんは、なんて言ってるんですか?色々相談してるって言ってましたけど」

【マリー】「サキは、確かに質問には答えてくれます」

【マリー】「例えば、デザインしたアクセサリーが、この世界に存在するのかどうか。その材質は、シルバー
でいいのかどうか」

【マリー】「でも、良いとも悪いとも、言ってはくれません。ただ、シナリオを読めとしか」

【あい】「そうだったんですか」

わたしは、具体的な何かを創造しているわけでもなく、さきさんと直接そういう話をしたことがなくて。だか
ら、上手くは言えないけど……。

【あい】「なんだか、うらやましいです」

【マリー】「うらやましい?」

【あい】「わたし、絵やシナリオを書いているわけでもなくて、そういう、創作の話をしたことがないから」

【マリー】『Όχι』

【あい】「お……おち?」

【マリー】「それは違います、アイ。あなたも、作品を創っているのですから」

【マリー】「あなたの想い、考え――単純な、好き嫌いも。アイの選択は、このゲームを形成する一部なので
す」

【マリー】「その一つが、私です。あなたが、好きだと言ってくれたこと。あなたが選び、連絡をしてくれた
こと」

マリーさんは、力強くそう言って、モニターを指さしました。

【マリー】「その結果が、これなのです」

【あい】「……マリーさん」

【マリー】「私は、アイが好きだと言ってくれる絵を描きたい。最初に私の絵を好きだといってくれた、あな
たに」

【マリー】「それは、このゲームを遊んでくれる人をないがしろにするという意味ではなく、まず、最初にユ
ーザーと同じ目で見てくれる、あなただから」

【あい】「……ありがとうございます」

【マリー】「いいえ、ただ本当のことを言っただけです」

【あい】「そっか……わたしも、ゲームをつくってるんだ」
【マリー】「ええ。アイとココロ、サキにナナ、そしてホノカも。皆で創っているのです」

【あい】「えへへ……なんだか楽しいですね」

【マリー】「私も、楽しいと感じています。生まれて初めて……といって良いほどに」

そう言ってマリーさんは、遠くを見つめていました。わたしも感動で、言葉が出なくなって、そんなマリーさ
んの横顔を、ただ見つめていたのです。

時間にすれば、ほんの数秒。マリーさんは、顔を私に向けて、言いました。

【マリー】「迷いは、ほとんどなくなりました」

【あい】「ほとんど?」

【マリー】「悩むことをやめてしまったら、そこで止まってしまいます。だから、ほとんどです」

やっぱり、難しい話になってしまったような?

【マリー】「さて、そろそろ帰りますか」

【あい】「そうですね」

【マリー】「今度は、私が部屋までアイをエスコートしましょう。それでは、お手を」

【あい】「え……あ……はい」

【あい】「そうですね」【マリー】「今度は、私が部屋までアイをエスコートしましょう。それでは、お手
を」【あい】「え……あ……はい」

差し出されたマリーさんの手を、自然に取ってしまいそうになったけど……。

【あい】「絶対、からかってますよね?」

【あい】「え……あ……はい」差し出されたマリーさんの手を、自然に取ってしまいそうになったけど……。
【あい】「絶対、からかってますよね?」

【マリー】『Ναι』

マリーさんは笑いながら、手を引いたけど……。

あれ?

さっきの『おち』っていうのが否定だったら、『ない』っていうのは、イエスってこと……『ない』っていう
のは、イエスってこと……かな?

ひとつ、勉強になりました。

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