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土木学会論文集 G(環境),Vol.67,No.6(環境システム研究論文集 第 39 巻),II_449-II_458,2011.

産業系プラスチック廃棄物の広域循環
システムに関する輸送計画モデル

荒井康裕1・河村永1・小泉明1・茂木敏2

首都大学東京大学院 都市環境科学研究科(〒192-0397 東京都八王子市南大沢 1-1)
E-mail: y-arai@tmu.ac.jp

東京都環境整備公社 東京都環境科学研究所(〒136-0075 東京都江東区新砂 1-7-5)

都市で発生する産業系プラスチック廃棄物(産廃プラ)は,その多くが再生利用されずに埋立処分や焼却処理され
てきた.しかし,今後においては有用な資源としてそれらを積極的に活用し,環境負荷の少ない循環型社会を実現化
する必要がある.合理的なリサイクルシステムを構築するためには,産廃プラをどの場所へ,どれくらい輸送するの
が適切なのかといった「輸送問題」に取り組むことが必要となる.本研究では,埋立ゼロ化に伴って発生する東京都
の産廃プラに着目し,線形計画法を用いた輸送計画モデルを検討した.設定シナリオの下で最適化計算を行い,東京
を中心とした首都圏でのリサイクル処理の実現可能性のみならず,広域的な循環システムの有効性について論じた.

Key Words : industrial waste plastic, material flow, linear programming,


transportation problem, model analysis, wide area recycling system

1.はじめに 減方針を示し,2010(平成 22)年度末までに産廃プラの


埋立量がゼロとなるような計画目標を定めた.都市部の
私たちの生活が持続可能な発展を遂げるためには,天 場合にはオフィスビル等から排出される産廃プラの割合
然資源の消費量を削減しながら,廃棄物排出量を抑制す が高く,それらは種々雑多で異物の混入・汚れの付着を
るとともに,廃棄物処理過程の環境負荷を最小化する社 伴う点や,一事業所当たりの排出量が少量である点を理
会構造への転換が重要である.こうした循環型社会への 由にリサイクル化が進まず,それらの多くが廃棄物とし
変革を目指すべく,全国の自治体では廃棄物処理やリサ て埋立処分されるといった実情もある3).このような都
イクルに関する様々な施策が展開されている.廃棄物処 市型の産廃プラのリサイクルを促進する場合,①単一素
理計画の中で「埋立処分に依存している廃プラスチック 材で再資源化し易いものはプラスチック原材料として再
類」を基本課題の一つに位置付ける東京都では,一般廃 資源化する,分別や異物の除去等が困難なものは②産業
棄物・産業廃棄物ともに,廃プラスチック類の多くが依 用の原燃料として再資源化する,あるいは③廃棄物発電
然として埋立処分されている点を問題に挙げている1). 用の燃料として有効利用する等の柔軟的かつ戦略的な計
事業者が排出するプラスチック廃棄物(以下, 「産廃プ 画が必要とされる.
ラ」と言う)に注目すると,全国的には製造工場でのロ そこで本論文では,埋立ゼロ化に伴ってリサイクルの
ス品等を再資源化している事例が多く,一般家庭から排 増加が見込まれる東京都の産廃プラに関して,広域的な
出されるプラスチック廃棄物よりもリサイクル率が高い 循環利用の一層の拡大を視野に入れた,リサイクルシス
とされている.しかし,東京都の産廃プラの処理状況は, テムの実現可能性について論じる.具体的には,まず遠
排出量:57 万トンの内,再生利用:26%,焼却:27%, 方の施設を利用した広域的な資源循環の可能性を分析す
埋立:47%であり,全国(排出量:498 万トン,再生利用: る前に,輸送トン距離(輸送する産廃プラの重量[ton]と
61%,焼却:31%,埋立:8%)に比べて再生利用の割合 移動距離[km]の積)の最小化を考え, 「よりコンパクト
が格段に低い2)(東京都・全国いずれも平成 18 年度推計 な」リサイクル計画代替案を検討する.この検討を通じ,
値) .これらの状況を踏まえ,東京都は 2008(平成 20) 対象となる産廃プラは都市圏内で十分に処理することが
年 1 月に都の埋立処分場への産廃プラ受入量の段階的削 可能か否か,遠方での処理が必要となるのはどのような

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場合か等を確認する.また,処理過程における環境負荷 る静脈物流のモデル化,線形計画問題としての定式化等
が少ないリサイクル施設が「遠方に」存在する時,この について述べる.4.では,提案モデルを適用したケース
遠方施設を積極的に利用すべきか否かについても言及す スタディを行い,輸送トン距離の最小化した場合の代替
る.遠方の施設を利用する広域的な循環システムは,輸 案を作成するとともに,環境負荷の低減を優先させたシ
送過程における負担増加を伴うといったデメリットもあ ナリオ分析を試み,産廃プラの広域循環に関する可能性
る.処理過程の低炭素化といった環境負荷低減の観点か を考察して行く.
ら,本論文では遠方の処理施設でのリサイクルを展開し
た結果,輸送過程における CO2 排出量がどれだけ増加す
るのかを定量的に示した上で,広域循環の望ましい在り 2.産廃プラの排出及び循環利用の実態
方を探求したいと考える.
上述の内容に取り組むため,本研究では線形計画法 (1) 産廃プラのごみ組成分析
(LP: Linear Programming)によるモデル分析を展開する. 埋立に依存しない処理システムへの転換を図るために
その際に登場する輸送計画モデルは,産廃プラのごみ組 は,ごみ組成調査によって産廃プラの質的な特性を把握
成や,リサイクル施設での受入れ基準を考慮した定式化 した上で,適切なリサイクル手法の選択を行う必要があ
が行われるため,種々の産廃プラをどの地域に輸送し, る.東京都における産廃プラの主要な排出業態として,
どんなリサイクル手法の下で処理することが可能なのか ①「製造業系」 ,②「オフィス・小売業系」及び③「建設
を具体的かつ現実的に検討できる点が特徴と言える.以 業系」の 3 つが挙げられ,これらを合計すると都内排出
下,2.では,対象とする都市部の産廃プラがどんな質的 量の約 8 割に相当する.各業種に対してごみ組成分析を
な特性を有するのか,また現状の静脈物流がどのように 実施したところ,図-1,図-2 及び図-3 に示すような結果
展開しているのか等を明らかにする.3.では,産廃プラ が得られた4).なお,実施期間は① 2009 年 2 月~3 月,
の排出及び循環利用の実態を踏まえ,発生から処理に至 ② 2007 年 2 月~3 月,③ 2007 年 10 月~12 月であり,

1 紙くず・木くず 8.9% 8 その他の廃プラスチック類 8.9% 15 容器-PET 1.3% 22 樹脂製品-ポリメタクリル酸メチル 0.5%


2 繊維くず(天然繊維くず) 0.5% 9 樹脂フィルム-ポリエチレン 26.1% 16 樹脂製品-ポリエチレン 0.8% 23 樹脂製品-塩ビ 0.2%
3 樹脂フィルム-その他(異物付着) 5.7% 10 樹脂フィルム-ポリプロピレン 7.8% 17 樹脂製品-ポリプロピレン 4.2% 24 樹脂フィルム-塩ビ 1.0%
4 発泡材-その他(異物付着) 5.3% 11 樹脂フィルム-PET 6.0% 18 樹脂製品-ポリスチレン 3.0% 25 金属等と一体-塩ビ 0.0%
5 容器-その他(異物付着) 1.0% 12 発泡材-ポリスチレン 0.7% 19 樹脂製品-PET 0.0% 26 金属くず 3.5%
6 樹脂製品-その他(異物付着) 1.4% 13 容器-ポリエチレン 5.0% 20 樹脂製品-ABS樹脂 0.2% 27 ガラス・陶磁器くず 3.4%
7 金属等と一体-塩ビ管以外 0.3% 14 容器-ポリプロピレン 1.4% 21 樹脂製品-ポリカーボネート 0.7% 28 その他 2.1%
20
6 7 15 16 19
2 5 12 21 28
14

1 3 4 8 9 10 11 13 17 18 26 27

22 25
23 24
0% 20% 40% 60% 80% 100%
図-1 「製造業系」のごみ組成

1 食品系プラスチック(異物付着) 33.0% 5 食品系プラスチック 5.7% 9 ゴム等 0.4%


2 その他のプラスチック 4.9% 6 ペットボトル 1.9% 10 不燃物 3.7%
3 文具・OA関連品 0.9% 7 トレイ 0.7%
4 プラスチック包装材 31.4% 8 可燃物 17.6%

3 7 9

1 2 4 5 6 8 10

0% 20% 40% 60% 80% 100%

図-2 「オフィス・小売業系」のごみ組成

II_450
1 可燃物(木くず・紙くず・繊維くず) 7.0% 6 プラスチック包装材 16.1% 11 塩ビ管 9.7% 16 汚泥(粘土・砂を含む) 1.0%
2 プラスチック包装材(異物付着) 13.1% 7 硬質プラスチック 12.0% 12 塩ビ管(異物付着) 11.9% 17 金属くず(鉄くず・電線くず・缶等) 2.2%
3 硬質プラスチック(異物付着) 8.6% 8 発泡スチロール・断熱材 5.6% 13 その他 10.0%
4 養生シート類(異物付着) 1.6% 9 プラスチック型枠等 0.4% 14 ガラスくず,陶磁器くず 0.0%
5 養生シート類 0.0% 10 電線被覆くず(金属含まないもの) 0.6% 15 がれき類 0.1%
15
4 5 9 10 14

1 2 3 6 7 8 11 12 13

16
17

0% 20% 40% 60% 80% 100%

図-3 「建設業系」のごみ組成

は,異物付着の食品系プラスチック (33.0%)
が最も多く,
排出 次いでプラスチック包装材(31.4%) ,可燃物(17.6%)
排出事業者
事業者
が多く含まれている.ここでの可燃物には,分別し切れ
ずに排出された紙類が多く混在している点も1つの特徴
と言える.建設業系の平均組成(n=8)では,異物付着(図
収集・運搬
収集・運搬事業者
事業者 中の項目番号2,3,4及び12)
の組成割合が35.2%であり,
他の業種に比べて高い割合となっている.以上の質的特
性から,本研究では輸送計画モデルに反映させる産廃プ
ラの質的な優先順位は①「製造業系」 ,②「オフィス・小
中間処理
中間処理事業者
事業者 売業系」,③「建設業系」の順にあると考え,上位は下位
に比較してリサイクル施設において受入れ易い産廃プラ
であると仮定する.

リサイクル
(2) 産廃プラの静脈物流について
リサイクル事業者
事業者
産廃プラの静脈物流フローを一般化すると,図-4 のよ
埋立処分
埋立処分事業者
事業者
うに図示できる.既往の調査研究として,首都圏 1 都 3
図-4 産廃プラの静脈物流フロー 県の「中間処理施設」を対象にしたアンケート調査の分
析がある5),6).中間処理施設からリサイクル化される産
ごみ組成の分類項目は各々の業種の排出傾向の特徴が把 廃プラの搬出量を集計したところ,関東を中心にしたリ
握できるように設けた.また,本研究で扱う建設業系の サイクル処理が展開される一方,北海道・東北,九州と
産廃プラとは,建設現場から排出される「廃プラスチッ いった東京から遠く離れた施設への搬入実績も確認され
ク類」と「混合廃棄物」の内,前者を対象とする.今回 た. また,発生から中間処理施設の受入までの「1 次輸送」

のごみ組成調査は,統計上の信頼度を確保し得るサンプ 並びに中間処理施設から搬出先までの「2 次輸送」に着目
ル数で実施することは困難であったため,排出事業者等 し,両者の運搬距離を算出した結果,2 次輸送が占める割
に対して排出量や分別状況に関する事前アンケート(送 合が大きく,静脈物流の合理化を図る上では 2 次輸送の
付数:製造業系 460 件,オフィス・小売業系 666 件,建 効率性向上が必要であることを明らかにしている.こう
設業系 308 件)を行い,これらの結果を参考にしながら した実態を踏まえ,以降に行う輸送計画モデルの構築で
可能な限り代表性に留意した上で調査対象の選定を行っ は,静脈物流における 2 次輸送の最適化問題,すなわち
ている. 中間処理施設に集められた産廃プラが,最終的にどの施
製造業系に関する調査結果の平均組成(n=15)を見る 設へと輸送されるのが望ましいのかといった課題に焦点
と,「ポリエチレン樹脂フィルム」が 26.1%を占めており, を当てることにする.
包装材として用いられているものが多く存在している. 一方,リサイクル施設で受入れる産廃プラは,その処
プラスチック以外の廃棄物が 2 割程度に留まっている点 理技術の特性に応じて異なる.本研究で扱う製造業,オ
から,製造業系は他の業種に比べて適正な分別がなされ フィス・小売業,建設業の各業種から排出される産廃プ
ていると言える.オフィス・小売業系の平均組成(n=10) ラが,実際にどのような比率で受入れられているのか把
3

II_451
表-1 リサイクル処理技術別の受入れ比率 を想定し,中間処理施設からリサイクル施設までの静脈
高炉・ 物流フローを単純化したものである.各エリアでのリサ
セメント
コークス
マテリアル RPF
イクル処理技術 j に関しては,セメント:C,高炉・コー
C K M R
クス:K,マテリアル:M,RPF:R,サーマル:T を候
製造業 70 90 65 60 補に挙げ,これらに埋立処理:Z も含めた体系とする.
オフィス・
小売業 10 5 25 25 それぞれの施設には年間受入れ許容量 qi j[ton]があり,エ
建設業 20 5 10 15 リア i までの輸送距離は li[km]によって表現される.この
モデルの特長は,ある1つの処理技術(処理ノード)に
は必ず 3 つの排出元(排出ノード)からの輸送ルート(リ
北海道 ンク)が結束している点である.これは,異なる業種か
セメント(C) ‥q1C
Q1
らの産廃プラを 1 つの処理ノードが同時に受入れ,それ
高炉・コークス(K) ‥q1K

製造業 X1ij マテリアル(M) ‥q1M らを処理する「処理の同時性」を表現している.例えば,


RPF(R) ‥q1R 処理施設における受入れ許容量を考えた場合,特定の排
サーマル(T) ‥q1T
埋立(Z) ‥q1Z
出ノードから輸送する産廃プラを増量すれば,他の排出
Q2
X2ij
ノードからの輸送量は少なくせざるを得なくなり,1 つの
九州 全国
オフィス・小売業 9エリア 産廃プラに関する輸送計画が他のそれに影響を及ぼす構
セメント(C) ‥q9C
高炉・コークス(K) ‥q9K 造になっている.また,処理においても,受入れた産廃
X3ij
マテリアル(M) ‥q9M
プラは,排出元が異なっていても処理の段階では混ぜ合
Q3 RPF(R) ‥q9R
サーマル(T)
わせて扱うため,分別や異物除去等が困難なプラスチッ
建設業 ‥q9T

li
埋立(Z) ‥q9Z クの構成割合が増大化すれば,リサイクル処理に支障を
もたらすことになり,排出元に対する受入れ基準を定め
図-5 静脈物流のネットワークモデル る必要がある.単に対象となる産廃プラを 1 種類ずつ扱
い,その結果を総計するといったアプローチと性格を異
握するため,筆者らは過去にアンケート調査7)を行って にする点が本モデルの特徴である.
いる.この調査データを基に,セメント原燃料化(以下, 上述のネットワークモデルに対し, 「輸送トン距離の
「セメント」と言う) ,高炉原料化及びコークス炉化学原 最小化」を目的にした場合の線形計画問題として定式化
料化(「高炉・コークス」 )
,マテリアルリサイクル( 「マ すると以下のようになる8).
テリアル」 ),固形燃料化(「RPF」
)の処理技術別に集計す
【目的関数】
ると表-1 のような概算値が得られる.ヒアリング調査の
規模が全体で 61 件と少なく,全体の処理実績に対する捕 Min. ∑∑ li X 1i j + ∑∑ li X 2i j + ∑∑ li X 3i j (1)
i j i j i j
捉率が必ずしも十分ではないため,同表に示す結果は一
【制約条件】
つの参考情報に過ぎない.しかし,以降に試みるモデル
分析においては,リサイクル技術の特性に差異を設ける 発生量 ∑∑ X 1i j = Q1 (2.1)
i j
必要上,これらの数値を各々の受入れ基準として活用す
ることとする(サーマルリサイクルについては後述する) . ∑∑ X 2i j = Q 2 (2.2)
i j

∑∑ X 3i j = Q3 (2.3)
i j
3.産廃プラの質的特性を考慮した輸送計画モデル
受入れ許容量 q i j ≧ X 1 i j+ X 2 i j+ X 3 i j (3)
の構築
【受入れ基準】
① X 1 i j ≧ X 3 i j×(α i j÷γ i j) (4.1)
(1) ネットワークモデルと定式化
② X 1 i j ≧ X 2 i j×(α i j÷β i j) (4.2)
本研究では,産廃プラの静脈物流を図-5 に示す「ネッ
③ X 2 i j ≧ X 3 i j×(β i j÷γ i j) (4.3)
トワークモデル」と見立て,線形計画問題として定式化
する.このネットワークモデルは,製造業,オフィス・ ここで添え字 i,j はエリア i(1,2,・・・,9)の処理技術 j
小売業及び建設業の産廃プラ年間発生量 Q 1,Q 2 及び (C,K,M,R,T,Z)を表す.X 1 i j,
X 2 i j 及び X 3 i j:製造業,
Q 3[ton]に対し,全国のエリア i(i=1,2,...,9,北海道: オフィス・小売業及び建設業から輸送する産廃プラ [ton]

1,東北:2,関東(東京を除く) :3,東京:4,中部:5, l i:エリア i までの輸送距離[km],Q 1,Q 2 及び Q 3:製造
近畿:6,四国:7,中国:8,九州:9)で処理する場合 業,オフィス・小売業及び建設業の産廃プラの年間発生
4

II_452
表-2 エリア・処理技術別の受入れ許容量
X1i j : 製造業系
エリア i j 許容量 エリア i j 許容量
αi j %
C 0.06 C 0
② K 0 K 0
X2i j : オフィス・小売業系
北海道 1 M 0 近畿 6 M 0.18
R 0.04 R 0
βi j %
T 0.14 T 0
C 0 C 0
③ K 0 K 0
① 東北 2 M 0 四国 7 M 0
X3ij:建設業系
R 0.70 R 0.04
γi j % T 2.44 T 0
C 9.22 C 0.06
K 0.43 K 0
図-6 受入れ基準に関する定式化の相互関係
関東 3 M 12.30 中国 8 M 0
R 6.19 R 0
量[ton] ,q i j:各リサイクル施設の年間受入れ許容量[ton] , T 21.44 T 0
α i j,β i j 及び γ i j:エリア i の処理技術 j における X 1,X 2 C 0 C 0.70
K 0 K 0
及び X 3 の受入れ比率を示す. 東京 4 M 1.86 九州 9 M 0
式(4.1)から(4.3)に示される受入れ基準について,相互 R 0 R 0.47
関係を図示すると図-6 のようになる.図の上から,製造 T 3.25 T 0
C 0
業系,オフィス・小売業系,建設業系となっており,ご K 0 C セメント
み組成分析の結果から定めた産廃プラの質的な優先順位 中部 5 M 0 K 高炉・コークス
を意味している.式(4.1)から(4.3)の制約条件に「不等号」 R 0 M マテリアル
T 0 R RPF
が用いられている理由は,上位の産廃プラが下位の産廃 (単位:万ton) T サーマル
プラに対して現状の受入れ比率(表-1)の相対関係より
も多く確保されることを要求するためである.再資源化 こととした.
されていなかった産廃プラを埋立ゼロ化に伴って追加的 受入れ許容量 q i j の算定に先立ち,まず公表された統計
に受入れる状況では,全体的にごみ質が低下し,再資源 データや,別途行った施設稼動実績のヒアリング調査結
化の難易度が現行に比べて高まると推察される.リサイ 果7)等を元に,現有施設の余力量をエリア毎に集計した.
クル処理の安定化を図るためには,現状よりも積極的に 従前から処理していた産廃プラに加え,新たに受入れる
上位の産廃プラを獲得し,産廃プラの質を引き上げるこ べき産廃プラがある場合,現有施設の余力量の全てを東
とが要件になるとの判断から,式(4.1)から(4.3)のような 京都由来の産廃プラのみに割り振るのは現実的ではない
受入れ基準を設けることとした. と考え,本論文では過去の搬入実績から東京都由来の割
合を処理技術別に推定し,この割合を当該エリアの余力
(2) パラメータの設定 量に按分した値を受入れ許容量と定義した(表-2) .現状
本研究のモデル化は,前掲図-5 に示すように当該エリ の搬入実績は,処理コストや引取り価格等の影響を受け
アに同じ処理技術を有する施設が複数箇所にあった場合 た結果であると解釈し,将来の許容量を検討する場合,
にも,ある 1 つの仮想的な地点(処理ノード)に集約し 従前の枠組みをある程度は引き継ぐことも必要であろう
て扱う.また,各処理施設までの輸送に関して,同一の との考え方に基づく.
エリア内であれば所在地による輸送距離の差異は無視し 受入れ比率 α i j,β i j 及び γ i j は,本来エリア i 毎に異な
て考える(同じエリアであれば輸送距離は等しいと仮定 るパラメータであるが,今回の分析では前掲表-1 に示し
する) .一方,遠方・近郊といったエリアの相対的な位置 た一律の数値を用いることとした.なお,サーマル(T)
関係を考慮するため,各エリアを代表する主要鉄道駅ま に関しては,異物の付着有無や樹脂の性状等に幅広く対
での道路距離等を参考に, 輸送距離 l i は北海道:1,200 km, 応している実情を考慮し,受入れ基準を設けないままに
東北:500 km,関東:50 km,東京:20 km,中部:300 km, モデル分析を試みる.
近畿:550 km,四国:700 km,中国:800 km,九州:1,100
km とする.ただし,埋立処理(Z)の ton・km の算定では, (3) 処理過程における環境負荷の低減化と評価指標
リサイクル処理への輸送を優先させる意味からペナルテ 「輸送トン距離の最小化」は,できるだけ近くのエリ
ィを付与し,北海道や九州の輸送距離に比べて十分に大 アに産廃プラを運搬することを是とするものであり,そ
きい数値になるよう,実際の計算では 10,000 倍を乗じる こで得られた計画代替案は「輸送」過程における環境負
5

II_453
表-3 処理過程における環境負荷の低減を のエリアのそれを選択しても良いとはせず,受入れ許容
優先させた順序尺度行列
量があるならば,できるだけ近郊のエリアから順次配分
小← 環境負荷の大きさ →大
して行くことを前提にしている.以上より,9 エリアと 6
(K ) (C ) (R ) (M ) (T ) (Z ) 処理技術の組合せ(54 通り)に対し,処理過程における
東京 (4) 1 10 19 28 37 46 環境負荷が最も少なく,かつ輸送距離が最も短い場合
関東 (3) 2 11 20 29 38 47 ( p4K;行列内の左上)を「1」に,処理過程における環
長← 輸送距離 →短

中部 (5) 3 12 21 30 39 48
境負荷が最大で輸送距離も最長の場合( p1Z;同右下)を
東北 (2) 4 13 22 31 40 49
近畿 (6) 5 14 23 32 41 50 「54」とした.順序尺度行列 P を縦の並び(列)毎に捉
四国 (7) 6 15 24 33 42 51 えると,左側の列は右側の列よりも必ず小さな数値にな
中国 (8) 7 16 25 34 43 52 っているため,エリアの近郊・遠方に関わらず,まず環
九州 (9) 8 17 26 35 44 53 境負荷の小さな処理技術を優先的に(複数のエリアに存
北海道 (1) 9 18 27 36 45 54 在する場合は,近郊のエリアから)選択する機構になっ
ていることが理解できる.
荷の低減に寄与すると解釈できる.しかし,輸送先にお なお,以降で処理過程と輸送過程の各々の環境影響を
ける処理技術の選択については,受入れ許容量と受入れ 比較する際,その指標として CO2 排出量を用いる.処理
基準の 2 点が考慮される以外は特段の制約を受けないた 過程に関しては,リサイクル技術別の CO2 排出原単位と
め, 「処理」過程での環境負荷が大きいのか否かといった いった詳細なデータが十分に明らかになっていないこと
問題は一切問われない. を理由に,本研究では環境省10)が公表した「産業廃棄物
そこで,モデル分析の後半では,処理過程における環 (廃プラスチック類)の焼却に伴う排出係数(廃プラス
境負荷に着目した分析へ展開する.具体的には,既存の チック類 1 トンを焼却した際に排出される kg で表した二
研究成果によって示された評価結果を元に,対象となる 酸化炭素の量) :2,600[kg-CO2/ton]」を 1 つの基準値とし
処理技術の環境負荷の大小関係を「順序尺度行列」によ て捉え,前述した指標の評価点(CO2 に関する相対値9)
り定義し,これを組み込んだ最適化計算を試みる.ここ は T:100 の時,K:62,C:52,R:64,M:75)から算
で「順序尺度」を扱う理由として,産業系プラスチック 出した原単位(K:1.61,C:1.35,R:1.66,M:1.95,T:
ごみを対象としたリサイクルについての詳細な環境負荷 2.60[ton-CO2/ton])を代用することとした.一方,輸送
等の情報は,必ずしも十分に明らかになっておらず,本 過程の CO2 排出原単位 3) は,貨物自動車の場合は
研究では PET ボトル以外のプラスチック製容器包装を対 302[g-CO2/ton・km],鉄道の場合は 21[g-CO2/ton・km]を
象とした調査結果を代用している点が挙げられる.すな 用いて評価して行く.なお,以降の分析で鉄道の CO2 排
わち,対象となるプラスチックが異なっても「相対的な 出を計算する場合,貨物自動車と同一の輸送距離を用い
順序」であれば,環境負荷に関する処理技術の優劣関係 て行う.
に逆転現象は生じず,ある一定の共通性が保持されると
判断したからである.本論文が参考とする調査結果9)に
よると,化石資源消費,CO2,大気酸性化ガス(NOx,SOx) , 4.輸送計画モデルによる代替案作成と評価
並びに固形廃棄物の排出量に関する評価点(各指標の最
大値を 100 とした相対値)を明らかにした上で,各指標 (1) 輸送トン距離を最小化した場合の代替案
に重み付けした統合化を試み,環境負荷の少ない処理技 代替案の作成に先立ち,産廃プラの年間発生量は以下
術の順に高炉・コークス(K) ,セメント(C)
,RPF(R) , のように定めた.東京都内から排出される産廃プラに対
マテリアル(M) ,サーマル(T),埋立処理(Z)と定め し,再生利用されずに焼却ないし埋立処分されている産
ている.こうした調査結果を踏まえ,本論文では表-3 に 廃プラが年間 40 万トン程度ある(年間排出量 57 万トン
示す「順序尺度行列 P」を考案し,式(1)の l i を p i j(行列 の内, 再生利用されていない 74%[焼却:27%, 埋立:47%]
P の i-j 要素)に置き換えた場合の目的関数を最小化する に相当)と仮定した.その内訳は,東京都はオフィスや
ような最適化計算を試みる.この順序尺度では,同じ処 小売店が多い等の特徴に加え,別の調査結果に示される
理技術に関してエリア間の差異を設け,輸送距離の最も 排出傾向6)を考慮し,製造業 Q 1:16 万トン,オフィス・
短いエリア(東京)から最も長いエリア(北海道)まで 小売業 Q 2:11 万トン,建設業 Q 3:13 万トンになるよう
(行列 P の縦方向に)一連の数値で定義し,その次に環 配分した.
境負荷の小さい処理技術(ひとつ右側の縦方向)におい 「輸送トン距離の最小化」を目的とする輸送計画モデ
ては,継続した数値を起点に同様に割り当てることにし ルを適用した結果,図-7 のような計画代替案が得られた
ている.これは,ある 1 つの処理技術を選択する際,ど (図中の柱状グラフは,各エリア・処理技術の受入れ量
6

II_454
北海道 北海道
[万ton] [万ton]
:許容量 :許容量 0.06 0.04

:製造業系 C R T :製造業系 C R T
:オフィス :オフィス
・小売業系 東北 ・小売業系 東北
0~ 1.8~ 6.0~ 20.0~ 0~ 1.8~ 6.0~ 20.0~
1.8 6.0 20.0 :建設業系 1.8 6.0 20.0 :建設業系 0.7

21.4
関東 関東

9.2
12.3
7.3 6.2 R T 6.2 R T
4.7

0.43

九州 0.7 九州
C K M R T 0.5
C K M R T
0.06
中国 中国
C 3.3 C 3.3
東京 東京
C R C R
M 1.9 M 1.9

近畿 0.04 近畿

R R
四国 M T 四国 M T

図-7 輸送トン距離を最小にする代替案 図-8 処理過程における環境負荷の低減を優先させた代替案

の特徴が明確に伝わるよう,適宜その横幅・高さを相対 高炉・コークス(K;α K = 90%)へと分配するように機能


的に調整して表現した) .この代替案は,埋立処理(Z) する.関東における処理技術の選択傾向は,本モデルの
を必要とせず,かつ輸送エリアが「東京」及び「関東」 戦略性を反映した格好になっており,産廃プラの多くが
のみに限定されている点から,東京を中心とした首都圏 サーマル(T)によって処理される代替案と特徴付けられ
内での処理は十分に実現可能であることを示している. る.
選択される処理技術に着目すると,東京ではマテリアル
(M)及びサーマル(T)の許容量を全て満たす計画内容 (2) 処理過程における環境負荷の低減を優先した
であるが,関東においては 5 種類の処理技術の内,セメ シナリオ分析
ント(C)及び高炉・コークス(K)には輸送されない結 式(1)の輸送距離l i を順序尺度行列の要素p i j に変換し,
果となっている.関東における処理技術の選択傾向につ 環境負荷の低減化を目的にした場合の計算を行った結果,
いて,前掲表-1 及び図-6 に示した各処理技術の「受入れ 図-8 に示す第二の代替案が得られた.この図が示すとお
基準」と関連付けて考えると,次のようになる.本論文 り,輸送先のエリアが北海道から九州の全国に拡大して
で行った受入れ基準に関する定式化では,下位の産廃プ おり,輸送トン距離を最小化にする場合とは対照的に,
ラ(建設業系:X 3)を残さずにリサイクル化できるか否 より広域的な計画内容に変化していることがわかる.ま
かは,最も上位の産廃プラ(製造業系:X 1)の分配方法 た,選択される処理技術に関しても差異が認められ,各
に大きく左右される.つまり,限りある X 1 を効率良く分 エリアにおけるセメント(C)や RPF(R)への輸送がな
配することが,結果として全体のリサイクル量を増加さ されている.なお,環境負荷の最も小さい処理技術は高
せるような計画方針になっている. 同量の X 1 を処理する 炉・コークス(K)であるが,受入れが関東のみであり,
のであれば,X 1 の受入れ比率が高い処理技術を選択する かつその許容量が少ないため,K がもたらす計画全体へ
よりも,その比率が小さい処理技術を積極的に活用する の影響は限定的である.
方が有利と言える.以上のことから,提案した輸送計画 処理技術の中で最も環境負荷が大きいサーマル(T)は,
モデルの戦略性の下では,まず受入れ基準の束縛を受け 輸送トン距離を最小化にする代替案と比較して大幅に減
ずに済むサーマル(T)に許容量があれば優先的に輸送し, 少している.特筆すべきは,関東における T の内訳を見
次いでX 1の受入れ比率が小さい順にRPF (R;α R = 60%)
, ると,オフィス・小売業系(X 2)及び建設業系(X 3)を
マテリアル(M;α M = 65%)
,セメント(C;α C = 70%), 受入れ,最も良質な産廃プラである製造業系(X 1)は含

II_455
:処理過程
[万ton]
120000.0

(+5) 北海道 :輸送過程(首都圏)


[万ton] 100
:許容量 100000.0

:輸送過程(上記以外)
92.4
80000.0

:製造業系 C R T 70
80.0 75.4 75.4
:オフィス
60000.0

・小売業系 東北 40000.0

0~ 1.8~ 6.0~ 20.0~


1.8 6.0 20.0 :建設業系 20000.0

5.1 14.2 関東 0 0.0

(+5) (+5) 0.56


-20000.0
1.08 0.61
(+5) 3
[万ton] -40000.0 2.74
13.8
R T 代替案1 代替案2 代替案3 代替案4

3.2 図-10 各代替案の CO2 排出量


0.43
注)図中の代替案 1 とは「輸送トン距離を最小にする代替案」

九州
C K M R T 代替案 2 とは「処理過程における環境負荷の低減を優先させ
た代替案」
,代替案 3 とは「セメントの受入れ拡大を想定した
中国
C 3.3 代替案」
,代替案 4 とは「代替案 3 をモーダルシフト化した代
C R 東京 替案」を意味する.
M
近畿
また,東京及び関東に分配されていたマテリアル(M)
R
及び RPF(R)が,5 万トンずつ増加させた場合ではゼロ
四国 M T
になっている点から,より環境負荷の小さい処理技術(こ
図-9 セメントの受入れ拡大を想定した代替案 こではセメント C に相当する)への配分が高まったと言
(北海道,関東,中国及び九州の C の許容量を一律 5 万トン増) えるが,その反面,セメント(C)への優先度を高めた影
響が,オフィス・小売業系(X 2)及び建設業系(X 3)の
まれていない点である.これは,前述した本モデルの戦 余剰を招き,関東のサーマル(T)の受入れ量を僅かなが
略性に「環境負荷の低減化」が目的に加わったことによ ら増加させる格好になった.図-9 は,該当する処理技術
り,環境負荷の小さい処理技術に対して X1 の分配が率先 の許容量を一律 5 万トンずつ増加させた場合の結果であ
してなされた結果,X 2 と X 3 のみが余剰となり,これら る.
を受入れ基準のない T において処理することが必要にな 最後に,本論文で示した代替案に関して,処理・輸送
ったと解釈される.ただし,この第二の代替案において 過程における CO2 排出量を算定した結果を図-10 に示す.
も,環境負荷の大きなサーマル(T)に大きく依存した計 ここで「代替案 4」は,貨物自動車による長距離輸送を「モ
画内容となっており,更なる環境負荷の削減を図るため ーダルシフト」 ,すなわち大量輸送が可能で,かつ環境負
には,サーマル(T)以外の処理技術の積極的な活用が必 荷の小さい鉄道や船舶へ切り替えた場合の効果を検討す
要と判断される. るための参考案とする.具体的には,既に提示した 3 つ
そこで,第三の代替案として,廃プラスチック類の受 の代替案の中で最も輸送過程の負担が大きい「代替案 3」
入れ拡大が期待されるセメント(C)に着目し,セメント に対し,東京からの輸送距離が 500 km 以上である四国
業界での産廃プラ使用量が増大した場合の輸送計画案を (700 km),中国(800 km),九州(1100 km)及び北海道
作成することにする.具体的には,セメント(C)の受入 (1200 km)の各エリアへの輸送手段を「鉄道」にモーダ
れ実績が既にある北海道,関東,中国及び九州の 4 エリ ルシフトした状況を仮定し,前述した輸送過程における
アの許容量を一律① 3 万トン,② 5 万トンずつ増加させ CO2 排出原単位(21[g-CO2/ton・km])により評価した(産
た場合の計算を行った.これらの許容量に関する設定は, 廃プラの配分は代替案 3 と等しいため,輸送過程の CO2
セメント業界における全国の廃プラスチック類の使用量 排出量のみ計算した) .代替案 1(輸送トン距離を最小に
が 2004 年度からの 5 年間で約 16 万トン増加しており, する代替案)に比べ,代替案 2(環境負荷の低減を優先さ
今後も産廃プラ 10 万トンから 20 万トン程度の利用拡大 せた代替案)では,処理過程の CO2 排出量が 92.4 万トン
が十分に見込まれるといった推察に基づく.モデルを適 から 80.0 万トンへ 13.4%削減する一方,輸送過程は遠方
用して得られた代替案から,いずれも受入れ許容量を増 への広域輸送を伴うために 0.56 万トンから 1.08 万トンに
加させた関東,中国及び九州への輸送量に変化が生じる 増加している.代替案 3(セメントの受入れ拡大を想定し
一方,北海道は最も遠方のため,許容量を増加させたに た代替案)を見ると,処理過程の削減が一段と促進され
も関わらず他と同様の効果は見られなかった. て 75.4 万トンとなり,代替案 1 を基準に 18.3%の削減が
8

II_456
達成されている.ただし,輸送過程については首都圏以 する一方,処理過程における CO2 排出量の大幅な削
外への輸送分が増加し,代替案 1 の 5 倍弱に CO2 排出量 減が可能であることが明らかになった.
が膨らむ.この代替案 3 に見られる輸送過程の負担増に
ついては,代替案 4 が示すとおり,東京・関東エリアに 処理過程における環境負荷の低減化に伴い,輸送過程
限定した輸送計画(代替案 1)と同程度の輸送負担であり の CO2 排出量が増大する傾向にあるが,処理過程におけ
ながら,処理過程では大幅な CO2 排出量の削減が確認で る大幅な削減効果が認められることから,システム全体
きる点から,モーダルシフトを導入した広域循環システ の CO2 排出量削減を図るためには,より広域的な連携を
ムは有効的と判断される.以上の結果を総括すると,単 強め,環境負荷の少ない処理技術による積極的な産廃プ
に輸送トン距離を最小化する代替案 1 に比べ,環境負荷 ラの利活用が大切であると考える.ただし,今回の計算
の低減を目的にした計画(代替案 2~4)には,適正な処 に用いた「受入れ比率」は,アンケート調査によって得
理技術を利用するための広域輸送が伴うが,その分の負 られた数値を全エリアで一律に与えている点や,再資源
荷は CO2 排出量全体に占める割合で見ると極めて小さく, 化されていなかった産廃プラを追加的に受入れる状況に
処理・輸送過程のトータルで 13%~18%の CO2 排出削減 おいても今回の基準が維持されるか否か等について検討
が見込まれることが明らかになった. の余地が残されている.また, 「受入れ許容量」の設定に
関して,現有施設の余裕量と東京都由来の搬入実績に基
づいて論理を展開したが,どのエリアに,どれくらいの
5.おわりに 受入れ拡大があると望ましいのかといった戦略分析に本
モデルを適用することは 1 つの有効策と考える.
本研究では,産業系プラスチック廃棄物のリサイクル 本研究は,産廃プラに関する各種データが必ずしも十
に関する実態について述べ,線形計画法による輸送計画 分に蓄積されていない状況の中で,順序尺度行列に基づ
モデルを作成した上で,いくつかの計画代替案を提案・ く評価方法の考案や関連データの代用により論理展開さ
比較することで,より合理的な資源循環システムの在り せた点で有意義であり,課題解決の方向性を具体的に示
方について検討した.以下に,本研究で得られた主要な した意味においても一定の有用性があると評価している.
成果を述べる. また,東京都の産廃プラ問題を事例とした分析であった
が,論文の中で提案した輸送計画モデル,並びに広域的
1) 製造業系,オフィス・小売業系,及び建設業系の産 な循環利用の可能性に関する考察結果は,他の資源循環
廃プラに関するごみ組成について述べる一方,リサ システムの最適化に対しても有用な知見を提供し得ると
イクル施設での受入れ実態を把握し,排出側と処理 考えている.
側の双方の質的な特徴を明らかにした.
2) 排出ノードから処理ノードまでの静脈物流フローを 謝辞:本論文の一部は,(財)東京都環境整備公社 東京
「ネットワークモデル」と見做し,まず「輸送トン 都環境科学研究所との共同研究による成果であることを
距離の最小化」を目的にした場合の線形計画問題と 付記し,ここに発表した成果が持続可能社会の実現の一
して定式化した.つぎに,処理過程における環境負 助となるならば幸甚である.
荷の低減を優先させる係数として, 「順序尺度行列」
(9 エリアと 6 処理技術の組合せ[54 通り]に対し, 参考文献
処理過程における環境負荷が最も少なく,かつ輸送 1) 東京都環境局:東京都廃棄物処理計画-循環型社会に向け
距離が最も短い場合を「1」に,処理過程における環 た新たなステージへ-,2006
境負荷が最大で輸送距離も最長の場合が「54」とす 2) 東京都環境局:東京の資源循環 2010,pp.11-13,2010
る)を考案した. 3) 事業系プラスチック資源リサイクル研究会:事業者排出プ
3) モデルの適用結果として,「輸送トン距離の最小 ラスチック廃棄物のリサイクル促進について,2006 年
化」を目的とする第一の代替案を示した.この代替 4) 茂木敏,辰市祐久,中浦久雄,大久保伸,荒井康裕,小泉
案により,首都圏内での処理は十分に実現可能であ 明:都市型廃プラスチック類の排出特性とリサイクル手法,
るが,産廃プラの多くはサーマル(T)によって処理 第 20 回廃棄物資源循環学会研究発表会講演論文集,pp.15-16,
する計画内容であることが明らかになった. 2009
4) 第二・第三の代替案として,処理過程における環境 5) 大久保伸,荒井康裕,小泉明,茂木敏,辰市祐久,中浦久
負荷の低減を優先させた代替案,並びにセメントの 雄:東京圏における産業廃棄物プラスチックの静脈物流に関
受入れ拡大を想定した代替案を作成した結果,輸送 する一考察,第 19 回廃棄物学会研究発表会講演論文集,
先が全国のエリアに拡大し,輸送過程の負担が増加 pp.194-196,2008

II_457
6) 茂木敏,辰市祐久,中浦久雄,大久保伸,荒井康裕,小泉 するエコ効率分析,第 18 回廃棄物学会研究発表会講演論文
明:都内から排出される廃プラスチック類の東京圏リサイク 集,pp.297-299,2007
ル実態,東京都環境科学研究所年報,pp.123-126,2008 10) 環境省 温室効果ガス排出量算定方法検討会:平成 14 年度
7) 茂木敏,辰市祐久,中浦久雄,大久保伸,荒井康裕,小泉 温室効果ガス排出量算定方法検討会 廃棄物分科会報告書,
明:廃プラスチック類の組成とリサイクル手法に関する研究, pp.69-71,2002
東京都環境科学研究所年報,pp.56-60,2009
8) 河村永,荒井康裕,大久保伸,小泉明,茂木敏,
:産廃プラ (2011. 8. 18 受付)
の質を考慮した最適輸送計画モデルの提案,土木学会第 65
回年次学術講演会講演概要集,pp.323-324,2010
9) 中橋順一,尾崎吉美:プラスチック製容器包装の処理に関

TRANSPORT PLANNING MODEL FOR WIDE AREA RECYCLING SYSTEM


OF INDUSTRIAL WASTE PLASTIC

Yasuhiro ARAI , Hisashi KAWAMURA , Akira KOIZUMI and Satoshi MOGI

To date, the majority of industrial waste plastic generated in an urban city has been processed
into landfill. However, it is now necessary to actively utilize that plastic as a useful resource to
create a recycling society with a low environment influence. In order to construct a reasonable
recycling system, it is necessary to address the "transportation problem," which means determining
how much industrial waste plastic is to be transported to what location.
With the goal of eliminating landfill processing, this study considers a transport planning
model for industrial waste plastic applying linear programming. The results of running optimized
calculations under given scenarios clarified not only the possibilities for recycle processing in the
Metropolitan area, but also the validity of wide area recycling system.

10

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