You are on page 1of 8

環 境 シ ス テ ム研 究 論 文 集Vol.

34,2006年10月

都市 ごみ の広域的処理 システムの
多 目的最適化に関す る研究

○ 荒 井 康 裕1・ 小 泉 明2・ 稲 員 と よ の3・ 西 出 成 臣4

1
正 会員 工修 首都大学東京/東 京都立大 学大学院工学研究科 助手(〒192-0397東 京都 八王子市南大沢1-1)
E-mail: y-arai@ecomp.metro-u.ac.jp
2
フェロー 工博 首都 大学東 京/東 京都立大学大学院 工学研 究科 教授(〒192-0397東 京都 八王子 市南大沢1-1)
E-mail: akoiz@ecomp.metro-u.ac.jp
3
正会員 工博 首都 大学東京/東 京都立大学大学院 工学 研究科 准教授(〒192-0397東 京都 八王子 市南大沢1-1)
E-mail: inakazu@ecomp.metro-u.ac.jp
4
工修 東京都立大学大学院工学研究科土木工学専攻 大学院博士前期課程修了(現 在,(株)建設技術研究所)

本研 究では,都 市 ごみ の広域 的処 理システムの最適化 に焦 点を当て,最 も適切 な広域 ブ ロックの選択 と処理 シナ リ


オの組 合せについて分析 した.す なわち,処 理 システ ムの多 目的最適化 を図るため,経 済 性及び環 境性 に関す る評価

指標について検討 する一方,線 形 メ ンバー シップ 関数及 びフ ァジ ィ決定 の理論 を組 み込んだ多 目的 ファジィ整数 計画


問題 として定式化す る とともに,遺 伝的アル ゴ リズム(GA)に よる多 目的最適化 モデルの提案 を行 った.ケ ースス
タデ ィの結果,経 済 性と環境 性をバ ランス良 く満 足す る計画代替案 が得 られ,モ デル の有効 性を示す ことがで きた.

Key Words :municipal solid waste, area-wide treatment system, multipurpose optimization,
linear membership function, fuzzy decision, genetic algorithm

1.は じめ に 総 費 用 の 最 小化(経 済 性 の 向 上)と,ご み発電出力の最


大化(環 境 性 の 向 上)の2つ を同 時 に扱 い,こ の 多 目的
近年,我 が国では廃 棄物処理 ・リサイ クルに関連 した 最 適 化 問題 を解 決 す るた め の 「
多 目的 フ ァ ジ ィGAモ デ
新 しい法律が整備 され,循 環型社 会の実現に向 けた取 り ル 」 を 提 案 す る と と もに,ケ ー ス ス タデ ィ に よ る提 案 モ

組 みが一段 と促進 され ている1).こ うした中,市 町村が デル の 有用 性 を検 証 す る点 に あ る.以 下,2.で は,分 析


取 り組 む一般 廃棄物 処理 の在 り方2)に つ いても議論が な に 用 い る デー タ につ い て 述 べ,3.で は,広 域 ブ ロ ック及

され,特 に処理施設の整備について は,広 域的な取 り組 び 処 理 シナ リオ の組 合 せ 最 適 化 問 題 を定 式 化 し,GAの

みの推進や,都 市 ごみ処理システム の最適化等が今後 の 適 用 方 法 につ いて 説 明 す る.最 後 に4.で は,多 目的 フ ァ

検討課題 と して挙 げ られ る.地 区の適正 な集約規模 を検 ジ ィGAモ デ ル を用 い た ケー ス ス タデ ィ を試 み,総 費 用

討 しなが ら,同 時 に最適 な処理 シナ リオ の決定 も求 め ら と ごみ 発 電 出力 へ の 要 求 をバ ラ ン ス 良 く満 足す る計 画 代

れ る広域化計画 において は,考 え得 る様 々な計画代替案 替 案 を示 す.

を準備 し,そ の中か ら経済 性と環境性 をバ ランス良 く満


足す るよ うな解 を如何 に して見 出す のかが,シ ステム全
体 の最適化を図る上で重要なポイ ン トとなる. 2.分 析 に用 いる デー タ
そ こで本研究 では,都 市 ごみ の広域 的な処理施設整備
とその最適化 に主眼を置 き,複 数 の 目標 を同時に考慮す (1)対 象地域の ブロック割 りと処理 シナ リオの設 定
る多 目的最適化 をテーマに,ど のよ うな規模 で施設 の集 本研究 の対象地域 を,東 京都 西部に位 置す るT地 域の
一部 とす る.こ の地域に属する11地 区(広 域事業組合 を
約化(広 域化)を 図 り,さ らに各 々の広域ブ ロックで ど
の処理 シナ リオを選 択す るのが計 画代替案 として最 も適 含む)の ごみ組成[%]は 図-1に 示す とお りである.なお,
切 なのかを考え る.こ こでの 目的は,ご み処理に要す る これ らの組成には,PETボ トル や新聞紙等の別途マテ リア

― 405―
図-1対 象地区の ごみ組成[%1

ル リサイクル され る資源 物は含 まれていない.複 数の地


区を統合 し,地 域全 体 をい くつかの区域(以 下,こ れ を

広域 ブロック」と呼ぶ)に ブ ロック化す る方法 と して,
ごみ排 出量の多い大規模 地区を広域化の中核(コ ア)と
位 置付け,そ の周辺に隣接す る中小規模の地区 を統合 ・
再編化す る体系的 な手順 が提案 されてい る3).こ の方法
を実際に適用す ると,ブ ロック数 を1区 域 か ら6区 域ま
で段階的に設定す ることで,合 計74種 類の広域 ブロ ック
が得 られ る.
また,上 述の広域ブ ロックで導入す る処理 方法 として,
以下の3種 類 のシナ リオを検討 した.こ こで,
シナ リオI:焼 却処理
シナ リオII:焼 却 十灰 溶 融 処 理
図-2処 理費及 び収集 費の回帰分析デー タ
シナ リオIII:ガ ス化 溶 融 処 理
とす る.シ ナ リオI及 びIIの 中間処理施設 での受入 ごみ ととした.
種 は,い ずれ も可燃 ごみのみ とした.た だ し,最 終処分 建設費 に関す る費用 関数 は,対 象地域 で十分 な実績 デ
の内容 に関 して,シ ナ リオIは 焼却処理後 の残渣 と不燃 ー タが得 られた なか ったこ とを理 由に,既 往 の研 究成果

ごみ を埋 立処分す るのに対 し,シ ナ リオIIでは灰溶融 施 で示 されたモデル式4)を 参考 とす る.耐 用年数20年 で償


設 を付設 し,減 容化 が施 され た残渣(溶 融 スラグ)が 不 却す る場 合の建設費 を考 え,そ の費用 関数 を次式 に示す.
燃 ごみ と共に埋 立処 分 される点で異な る.一 方,シ ナ リ
(1)
オIIIでは,可 燃 ごみ と不燃 ごみ中のプ ラスチ ック類 を対
象 に,ガ ス化溶融 炉で焼却処 理す る方式を採用す るもの こ こ で,YTik:建 設 費[円/年],Tik:施 設 規 模[ト ン/年]
とし,最 終処分 の内容 も溶融 ス ラグ,並 びにプラスチ ッ で あ る.添 え字 のi及 びkは,広 域 ブ ロ ック及 び そ の広 域
ク類 を除 く不燃 ごみ となっている. ブ ロ ック 内 で選 択 され る処 理 シ ナ リオ を意 味 して い る,
ま た,CTikは 設 備 形 式 別 の 建 設 費係 数[円/年]を 表 わ し,

(2)経 済性 に関す る評価指標 図-1に 示 した ごみ 組 成 の違 い や,施 設 の整 備 内容 等 を考


経済性 に関す る評価 指標 として,(1)処理施設の建設償 慮 して広 域 ブ ロ ッ ク毎 に 定 め る 。(1)式 が示 す とお り,施
却費(建 設費),(2)処理施設 での処理 に要す る費用(処 理 設 規 模Tikを0.7乗 す る関数 で あ る こ とか ら,規 模 の経 済
費),及 び(3)ご
み を処理 施設まで収集 ・運搬す るた めに要 性(ス ケ ー ル メ リ ッ ト)を考 慮 して 建 設 費 が 算 出 され る.
す る費用(収 集 費)の 合計 を 聡 費用」 と定義 し,こ れ 処 理 費 及 び 収集 費 の 費 用 関 数 は,対 象 地 区 を含 むT地
を最小化す るよ うな計画代替案の策定 を 目的 にす る.広 域(計31市 町村)が 公 表 す る統 計 資 料 を元 に,人 件 費,
域ブ ロックi及び処理シナ リオkの 下で想定 され る各費 目 処 理 費,車 両 等購 入 費,委 託 費 とい っ た 区分 で計 上 され

を算定す るた め,本 研究で は以下の費用関数 を用い るこ た もの を 処理 費 及 び 収 集 費 に集 計 し直 したデ ー タ(図-2)

― 406―
を用 い,こ れ を回帰分析す ることで得たモデル式5)で あ
る.ま ず,処 理費 につ いては,集 約化 に規模 の経 済 性を
考慮 に入 れ,処 理量 の指数 回帰 モデ ルを検討 した結果,
実績値 と推定値 の 自由度調整済み重相関係 数R*が0.92と
なる次式 を得た.

(2)

た だ し,YAik及 びWAikは,広 域 ブ ロ ックiで 処 理 シナ リ


オkが 選 択 され た場 合 の処 理 費[円/年]及 び処 理 量[ト ン/
年]と す る.な お,(2)式 の費用関数は焼却処理施設での
処理 費 を 表 わす もの で あ るた め,同 一 の 広 域 ブ ロ ッ ク に 図-3発 電 出力 と処理規模 の関係
お け る処 理 費YAikの 違 い は,処 理 シ ナ リオ毎 に異 な る 中

間 処理 施 設 で の 処 理 量WAikの み に依 存 す る. 1.45,処 理 シナ リオIIIの時1.52)を 表 わす.


一方 ま た,本 研 究 で は ごみ 処 理 の広 域 化 計 画 を 検討 す る 際,
,収 集 費 で は,収 集 量 及 び 処 理 施 設 の 位 置 の影 響
を 受 け る もの と し,両 者 の 合 成 変 数 を説 明 変 数 とす る直 埋 立 処 分 量 の 削 減 目標 レベ ル を制 約 条 件 に与 え て最 適 化
線 回 帰 モ デ ル を 検 討 した 結 果,次 式 に示 す 費 用 関 数 を得 を 図 る.こ の 際,焼 却 残 渣 量 及 び 溶 融 ス ラ グ量 は,ご み
た.な お,実 績 値 と推 定 値 の 自 由度 調 整 済 み 重 相 関係 数 組 成 に応 じた 配 分 比 率4)を 考慮 し,焼 却 ごみ 量,集 塵 灰
R*は0.91と な っ た. 比 率 並 び に 焼 却灰 比 率 等 に 依 存す る推 定 式5)に よ り算 定
した.
(3)

こ こで,YBi:収 集 費[円/年],WBi:収 集 量[ト ン/年],

LBi:処 理 施設 ま で の最 大 距 離[km]と す る.処 理 施 設 ま で 3.多 目的 フ ァ ジ ィGAモ デル の 構 築


の 最 大 距 離 と は,ご み の搬 入先 で あ る 処理 施 設 か ら最 も

離 れ た 地 点 まで の直 線 距 離 で あ る.複 数 の 地 区 か ら構 成 (1)多 目的 最適 化 問題 の定 式 化
され る広 域 ブ ロ ック の 収集 費YBiの 計 算 は,各 地 区 毎 に ごみ 処 理 に 要す る総 費 用TCの 最小 化 と,発 電 出力TE

(3)式 を用 い て算 定 し,こ れ らを合 算 した 値 を収 集 費YBi の最 大 化 とい う2つ の 目的 を 同 時 に扱 い,こ の 多 目的 最

と した. 適 化 問題 を解 決 す る た め の数 理 計 画 モ デ ル に つ い て 考 え
る.具 体 的 に は,異 な る評 価 項 目を 定 量 化 ・基 準 化 す る
(3)環 境性に関する評価 指標 た め の方 法 と して,線 形 メ ンバ ー シ ップ 関 数7)を 導 入 し,
ごみ処理 の広域化 における経済 性のみな らず,環 境性 フ ァ ジ ィ決 定8)の 理 論 を応 用 した 最 適 化 を 図 る.ま た,

に関す る向上 も考慮 に入れ るため,未 利用エネル ギーの 最 適 化 計算 に用 い る ア ル ゴ リズ ム と して は,近 年 こ の分


活用 を図 る 「ごみ発 電」に着 目し,本 研究では発電出力 野 で盛 ん に研 究 が行 わ れ て い る遺 伝 的 ア ル ゴ リズ ム(G
[kW]の最大化 を多 目的最適化にお ける第2の 指標 として A)を 採 用 し9),10),問題 の 特 性に 応 じた ア ル ゴ リズ ム の

導入 す る.全 国の実績デ ータ6)を対象 に,ご み発電 に有 構 築 を 検 討 す る.な お,本 研 究 で は上 述 の考 え に基 づ く

利 とされ るガ ス化溶融施設(デ ータ数56)と それ以外 の 数理計画モデルを 「


多 目的 フ ァ ジ ィGAモ デ ル 」 と呼ぶ
施設(同47)と に分類 し,発 電 出力 と処理規模[ト ン/日] こ とにす る.
の関係 を回帰分析 した結果を図-3に 示す.こ の分析結果 本 研 究 で 対 象 に 扱 う広 域 ブ ロ ック及 び 処 理 シ ナ リオ の
か ら,処 理規模の増大 に伴 う発電 出力 の増加 は非線形 的 組 合 せ最 適 化 問 題 を 「
多 目的 フ ァ ジ ィ整 数 計 画 問題 」 と
で あ り,同 じ処理ス ケールで あれ ばガス化溶融 施設 の方 して 定 式化 す る と,以 下 の よ うに 表 現 で き る.
が,ガ ス化以外の施設 よ りも大 きな発電 出力 が期待 でき
【目的 関 数 】
ることがわか る.そ こで,以 降 の最適化分析 では,次 式
(5)
を用い て各処理 シナ リオにお ける発 電出力を算 出す るも
の とす る。 【
制約条件】

(4)

た だ し,Pik及 びTik:広 域 ブ ロ ックiで 処 理 シナ リオkが (6)


選 択 され た場 合 の発 電 出 力[kW]及 び 処 理 規模[ト ン/日],
α:設 備 形 式別 の 出 力係 数(処 理 シ ナ リオI及 びIIの 時

― 407―
(7)

(8)

(9)

(10)

(11)

(12)

こ こに,TC,TE及 びTRを 計 画 全 体 の 総 費 用[円/年],


発 電 出 力[kW]及 び 埋 立 処 分 量[ト ン/年]と し,YTik,YAik,
YBi,Pik及 びZikは,広 域 ブ ロ ックi(i=1∼74)で 処理シ 図-4多 目的フ ァジ ィGAモ デル で用い る
ナ リオk(k=1∼3)が 選 択 され た 場 合の 建 設 費,処 理 費, 線形 メンバー シップ 関数
(上:総 費用TC,下:発 電出力TE)
収 集 費[円/年],発 電 出力[kW]及 び 発 生 す る 埋 立 処 分 量
[ト ン/年],dは 埋 立 処 分 量 の 削 減 目標 レベ ル[ト ン/年]
をそ れ ぞれ 表 わす また,yikは 広 域 ブ ロ ッ クiで シ ナ リ
オkが 選 択 され る場 合 を 「1」,選択 しな い場 合 を 「0」と

す る0-1変 数 を表 わ し,こ れ らの組 合 ぜにお け る重 複 を


防 ぐ論 理 的 制 約 条 件 で あ る(11)式 の ωは,各 地 区 が 属 す
る広 域 ブ ロ ックiの 集 合 を意 味 す る.
(6)式及 び(7)式 は,TC(総 費 用)及 びTE(発 電 出 力)
に関 す る線 形 メ ンバ ー シ ップ 関数 を表 わ して お り,こ れ
ら を図 示 す る と図-4の よ うに な る.な お,TCmax及 び7Cmin
は総 費 用 の 上 限値 及 び 下 限値 を,TEmaxは 発 電 出力 の上 限

値 を各 々表 わ す.こ れ らの メ ンバ ー シ ップ 関数 で は,意
思 決 定 者 が 許容 す るTC及 びTEの 上 限値 及 び 下 限 値 を与
え る こ とに よ り,各 々 の 関数 値 は0か ら1ま で の値 に基
準 化 され,計 画 代 替 案 に対 す る望 ま し さの 度合 い(満 足
度)が これ に よ っ て表 現 され る.線 形 メ ンバ ー シ ップ 関

数 の上 隣 直及 び 下 限値 の設 定方 法 に 関 して は,複 数 の 目
的 関数 を 同 時 に扱 う場 合,そ れ ぞ れ を単 一 目的 と した 個
別 問題 の解 を参 考 に して 定 め る方 法 がZimmermann7)に
よ っ て提 案 され て い る.本 研 究 で は この 考 え方 に 従 って
上 限値 及 び 下 限値 を設 定 す る こ と と し,実 際 の 検 討 内容
は4.で 詳 しく述 べ る.(5)式 は,Bellman & Zadehに よ る
フ ァ ジ ィ決 定 の理 論 を適 用 した もの で あ り,対 象 に な る

計 画 問題 の 目的 関数,並 び に 後 述 す る多 目的 フ ァ ジ ィG
Aモ デ ル で の 適合 度 関数 とな る.

(2)GA適 用 と ファ ジ ィ決 定 プ ロセ ス
多 目的 フ ァジ ィGAモ デル の計 算 フ ロー を図-5に 示 す.
モ デ ル で は,広 域 ブ ロ ッ クに 関 す る条 件 選 択 に 加 え,候 図-5多 目的フ ァジィGAモ デル の計算手順

― 408―
図-6多 目的ファジ ィGAモ デルの遺伝子型表現 図-7総 費用 の最小化 を図った計画代 替案

補 に挙 げ た処 理 シナ リオ の 内,ど の処 理 シナ リオ を採 用
す べ き か とい っ た条 件 も 同 時 に扱 っ て行 く.広 域 ブ ロ ッ
ク及 び処 理 シナ リオ の組 合 せ をGA空 間 で表 現 す る た め,

図-6に 示 す よ うな対 応 を考 案 した.す な わ ち,本 研 究 で


は3つ の処 理 シ ナ リオ を対 象 に扱 う点 か ら,同 図 に 示す2
ビ ッ トで 表 現す る こ とを 考 え,こ れ を 各GA個 体 の遺 伝

子 座 に割 り当 て る個 体 表 現(74×2=148ビ ッ トの 遺伝 子
長)を 採 用 した.
計 算 フ ロー 内 の フ ァジ ィ決 定 プ ロセ ス は,異 な る単位
を持 つ 目的 関数 値TC[円/年]及 びTE[kW]に 対 し,(6)式
図-8発 電 出力 の最 大化 を図った計画代替案
及 び(7)式 の線 形 メ ン バ ー シ ップ 関数 に よ る基 準 化 を 行
い,両 者 を比較 して値 の小 さい μiを判 定 す る もの で あ る.

この プ ロセ ス に よ って 決 定 した 一 方 の線 形 メ ンバ ー シ ッ
プ 関 数 値 を,該 当す るGA個 体 の適 合 度fν と して与 え,
この 適 合 度 を基 準 に各 個 体 の優 劣 を評 価 しな が ら,よ り
適 合 度 の高 い 個 体 を遺 伝 的 オペ レー タ に よ って 誕 生 させ
る仕 組 み に な って い る.こ れ に よ り,ど ち らか 一 方 の線
形 メ ンバ ー シ ップ 関数 値 が大 き くて も,他 方 の値 が 極 端
に小 さけれ ば,結 果 的 に そ の適 合 度 は 小 さ くな る作 用 が

働 くこ とに な る.μ1と μ2を1つ の 適 合 度 と して表 現 す


る方 法 に は,両 者 の和 や 積 を用 い る場 合 も考 え られ るが,
本 モデ ル で は μiの最 小 値 を適 合 度 とす る こ とで,相 異 な
図-9多 目的最適化 を図った計画代替案
る 目的 を 互 い に 競 い 合 わ せ る環 境 を 与 え,双 方 のバ ラ ン
ス が 取 れ たGA個 体 を高 く評価 す る よ うな構 造 に な っ て
い る. な計 画 目標 の 下 で計 算 を行 っ た.そ れ ぞ れ の 結果 は,図
-7及 び 図-8に 示 す とお りで あ る.以 上 の 単一 目的 で の 結

果 を踏 ま え,多 目的 フ ァジ ィGAモ デ ル に用 い る線 形 メ
4.最 適 化 モ デ ルの 適 用結 果 と考察 ンバ ー シ ップ 関数 の 上 限値 及 び 下 限値 は,TCmin:個 別問
題(1)(総 費用TCの 最 小化)を 解 い て 得 られ る総 費 用[円/

多 目的 ファジィGAモ デル の適用 に先 立ち,線 形 メン 年],TEmax及 びTCmax:個 別 問 題(2)(発 電 出力TEの 最 大 化)


バー シ ップ関数 の上 限値及び下限値 を検討す るた め,2 か ら求 め た発 電 出力[kW]及 び 総 費 用[円/年]を 参考 に し
つ の個別問題 すなわち(1)総
費用TCの 最小化 問題 及び て決 定す る こ とにす る.

(2)発電 出力TEの 最大化問題 を各 々解 くことにす る.た だ {TCmax,TCmin}={220,160}[億 円/年],TEmax=100[千kW]と


し,埋 立処分量TRに 関す る制約条件 としてTR<100[千 し,多 目的 フ ァ ジ ィGAモ デ ル の 適 用 を試 み る.GAパ

トン/年]を 設 け,埋 立 処 分 量 が 最 も多 く な る場 合 ラメ ー タに つ い て は過 去 の研 究11)を 考 慮 して 定 め,個 体

(TR=146[千 トン/年])に比べて3割 ほ ど削減 させ るよう 数N=100,最 大 世 代 数T=100,000,交 叉 率pc=0.8,突 然

― 409―
図-11各 代替案 の線形 メンバーシ ップ関数値

位:138[千 トン/年]),G(同2位:86[千 トン/年]),F


(同3位:75[千 トン/年])を 中核 と した3つ の広 域 ブ ロ
ックで,上 位 シナ リオ の 導 入 が 図 られ て い る.す なわ ち,
埋 立処 分 量 の 削減 に 寄 与す る シ ナ リオIIな い しIIIの選 択
が必 要 とな るが,TRの 制 約 条 件 を満 足 す る候 補 の 中 で,
総 費 用 の負 担 増 が最 も小 さ く抑 え られ る組 合 せ とな っ て
い る.一 方,発 電 出 力TEの 最 大化 を 目的 と した 代 替案 で
は,対 象 地域 に あ る11の 構成 地 区 を1つ の広 域 ブ ロ ック
図-10多 目的 ファジィGAモ デル にお ける解探索 の状況 に集 約 化 させ,発 電 出力 の 面 で最 も有 利 とな る シ ナ リオ
(上:μ1-μ2平面上の変遷,下:適 合度fνの進 歩状況) IIIの導 入 を 図 り,検 討 候 補 の 中 で最 も大 規模 な広 域 シ ス
テ ムが 示 され て い る.
変 異 率pm=0.05を 用 い た.用 い る乱 数 の ゆ らぎ に考 慮 す これ ら単 一 目的 で の結 果 に対 し,経 済性 と環 境 性 との
るた め,5種 類 の乱 数 パ ター ンを 与 え て計 算 した 結 果,適 両 立 を図 る多 目的最 適 化 で は,TC最 小 化 の計 画 代 替案 で
合度fν の最 も大 き な多 目的GA解(fν=0.536)と して, 見 られ た4つ の 広域 ブ ロ ック を3区 域 に再 編 し,広 域 化
図-9に 示 す 計 画代 替 案 が得 られ た.こ の 時 の多 目的 フ ァ を さ らに一 段 階 推 し進 め る よ うな枠 組 み に変 更 した上 で,
ジ ィGAモ デ ル に よ る解 探 索 の状 況 を確 認 す る た め,μ1- 発 電 出力 を高 め るべ く,全 て の広 域 ブ ロ ック にお い て シ
μ2平面 上 の変 遷,並 び に適合 度fν の進 歩 状 況 を図-10に ナ リオIIIの導 入 が な され て い る こ とが わ か る.そ して,
示 す. 選 択 され た3つ の 広 域 ブ ロ ック の内,地 区C及 びDか ら
図-7,図-8及 び図-9の 計 画 代 替案 を 定量 的 に 評価 す る 構 成 され る広域 ブ ロ ック に着 目す る と,TC最 小 化 の代 替
た め,そ れ ぞ れ の 総 費 用TC及 び 発 電 出力TEを 線 形メン 案 で 選 択 され た 中 の1つ で あ る こ とか ら,他 の広 域 ブ ロ
バ ー シ ップ 関 数 値 を用 い て表 わす と,各 々 の μ1及 び μ2 ッ クが 拡 大 され る こ とで 懸 念 され る輸 送 効 率 の悪 化 を最
の 関係 は図-11の よ うに な る.こ の 図か ら,多 目的 フ ァジ 小 限 に 止 め る よ うな 配 慮 が 現れ て い る.他 方,こ れ 以 外
ィGAモ デ ル に よっ て得 られ た 解 は,総 費 用TCの 最小 化 の 広 域 ブ ロ ック を見 る と,TC最 小 化 の 代 替案 で は,ご み
と,発 電 出力TEの 最 大 化 とい う2つ の異 な る 目標 に対 し, 排 出 量 の 多 い 地 区J,G及 びFを 中核 と した広 域 ブ ロ ッ
両者 の 中 間的 な計 画 内容 に な っ て い る こ とが確 認 で き る. クが 各 々 形 成 され て い た の に対 し,多 目的 の最 適 化 計 画
こ こ で,3つ の計 画 代 替 案 に 関 して,ど の よ うな広 域 で は,第2位 の地 区Gと 第3位 の 地 区Fを 同 一 の ブ ロ ッ
ブ ロ ック と処 理 シナ リオ が選 択 され て い る のか を詳 し く ク に含 む よ うな 広 域 化 が 図 られ て い る.ご み 排 出量 の 少
考 察 す る こ とにす る.ま ず,総 費用TCの 最 小 化 を 目的 と な い 広 域 ブ ロ ッ ク(構 成 地 区:C及 びD)は そのまま維
した代 替 案 で は,輸 送 効 率 の面 で最 も有 利 とな る地 区 の 持 し,ご み 発 電 に 有 利 な 規 模 を確 保 す る 目的 か ら,ご み
組 合 せ5)と な って い る こ とが わ か る.た だ し,こ れ ら4 排 出 量 の 多 い 地 区 を 基 軸 に ブ ロ ッ ク割 りの 大 幅 な 変 更 が
つ の広 域 ブ ロ ック で,全 て シナ リオIを 選 択 す る のが 最 な され た 点 を考 え る と,ご み 処 理 シ ス テ ムの 広 域 化 に お
も安 価 とな り得 る が,こ の計 画 内容 で は埋 立処 分 量TRの い て は,ご み 排 出 量 の 多 い 地 区 が シ ス テ ム全 体 の 枠 組 み
制 約 条 件 を満 たす こ とが で きな い.こ の た め,TC最 小化 に よ り大 き な影 響 力 を 有 す る と判 断 され る.
の 代 替 案 で は,ご み排 出量 の多 い 地 区J(対 象 地 域 で 第1

― 410―
5.お わ りに 案 した最適化モデルを用い ることで,幅 広い可能 性の 中
か ら適切 な計画代替案 を見出す ことがで きるもの と考 え
本研 究では,都 市ごみの広域的処理システムに関 して, る.
総費用の最小化 と,ご み発電出力の最大化 を目的 に した
多 目的最適化問題 を考 えた.以 下に,本 研究で得 られた 謝辞:本 研 究の一部は首都大学東京傾 斜的研究費の助成
主要な成 果について述べ る. によ り行 われ たものであ る.

1)対象地域の広域 ブ ロック(74種 類)及 び処理 シナ リ 参 考 文献

オ(3種 類)を 設定す るとともに,経 済性に関す る評 1) 田 中信 壽: 循 環 型 社 会 にお け る廃 棄 物 処 理 の 姿 を 議 論 し よ う,

価指標 として,建 設費,処 理費及び収集費 の合計 を 廃 棄 物 学 会 誌, Vol. 16, No.1, pp.1-2, 2005

総費用[円/年]と定義 し,それぞれの費用関数 を示 し 2) 中央 環 境 審 議会 廃 棄 物 ・リサ イ クル 部 会: 循 環 型 社 会 の 形 成

た.一 方,環 境性 の評価指標 では,未 利用エネル ギ に 向 けた 市 町 村 に よ る 一般 廃 棄物 処 理 の 在 り方 につ い て (意


ー を活用す るごみ発電 に着 目し,全 国の実績デー タ 見 具 申) , 2005, http: // www. env. go. jp/ council/ toshin/

を参考 に,ガ ス化溶融 施設 とそれ以外 の施設 との発 t030-h1609/ mat01. pdf

電 出力[kW]を推定する回帰式 を作成 した. 3) 荒 井 康 裕, 稲 員 と よの, 小 泉 明: ご み 処 理 シ ス テ ム の 広 域 化

2)総費用TCの 最小化 と,発 電出力TEの 最大化 を同時 計 画 に 関 す る最 適 化 モ デ ル 分 析, 鋼 境シ ス テ ム研 究論 文集,

に扱 う 「
多 目的フ ァジィGAモ デル 」を提案 した. Vol. 31, pp. 267-276, 2003

このモデル の特徴 は,異 なる2つ の 目標 を基準化 ・ 4) 北 海 道 大 学 大 学 院: 都 市 ご み の 総 合 管 理 を支 援 す る評 価 計 算

評価す るため,線 形メンバー シ ップ関数及び ファジ シ ステ ム の 開 発 に 関す る研 究, 同工学研究科廃棄物 資源工学

ィ決 定の理論 を導入す る点である. 講 座 廃 棄 物 処 分 工学 分 野 (1998)

3)ケーススタデ ィを行 った結果,多 目的ファジィGA 5) 荒 井 康裕, 稲 員 と よの, 小 泉 明: 都 市 ごみ の 広 域 処 理 に 関す

モデルによ る解 は,2つ の個別最適化 問題(① 総 費 る最 適 化 分 析-東 京 都 多 摩 地 域 の ケ ー ス ス タデ ィ ー, 総 合 都

用TCの 最小化問題 ②発電 出力TEの 最大化問題) 市 研 究, 第82号, pp. 5-17, 2003

を解 いた時に得 られ る各々の計画代 替案に対 し,両 6) 環境 技 術情 報 ネ ッ トワー ク ・ライ ブ ラ リ: ごみ 焼 却 処 理 法 の

者 の中間的な内容に位 置付け られ ることが確 認 され 最 新 技 術 に つ い て, http: // e-tech. eic. or. jp/ libra/

た.す なわち,経 済 性の観 点か ら,ご み輸送効率を lib _17/ lib17_1. html

極端に悪 化させない程度 に広域化を図 りつつ,発 電 7)Zimmermann,H. J. , Fuzzyprogrammingand linearprogramming


効率の面で有利 な規模 を確保 す るよ うな広域システ with several objective functions,Fuzzy Sets and Systems, 1,
ムがモデル によって示 された. pp. 45-55, 1978
8) Bellman,R E. and Zadeh, L. A. , Decisionmakingin a fuzzy
本研 究では,工 学的な視 点か らごみ処理システムの最 environment,ManagementScience,17, pp. 141-164, 1970
適 性を展開 したが,実 際の広域化にお ける最終結論は, 9) 荒 井 康 裕, 小 泉 明, 稲 員 とよ の, 前 田雅 史: 遺 伝 的 アル ゴ リ

政治 ・社会的な判断 に大 きく依存す ると言 える.現 実の ズ ム に よ る静 脈 物 流 の 最 適 化 計 画 に 関す る研 究-家 電 リサ イ

意思決定の場面において,提 案 した計画手法 をどの よ う ク ル に お け る 回 収 シ ステ ム を 対 象 と して 一, 環 境 シ ス テ ム研

に援用 させ るかについて は,公 平 性や社会的受容性 とい 究論 文集, Vol. 32, pp. 225-233, 2004

った別次元の評価軸 との対応 も含め,今 後の検討すべ き 10) 小 泉 明, 稲 員 とよ の, 荒 井 康 裕, 吉 井 恭 一 朗: 多 目的HGA

課題で ある.ま た,実 際 の適用に際 して は,評 価指標 に モ デ ル に よ る配 水 管 網 シ ス テ ム の 最 適 化, 環境 システム研究

関す る最新情報の取得 に努 め,技 術進歩 に伴 って変化す 論 文 集, Vol. 33, pp. 335-341, 2005

るコス トや環 境性能 を的確 に評価す る必要が ある.ご み 11) 荒 井 康 裕, 稲 員 と よの, 小 泉 明: ごみ 広 域 処 理 の 地 区 集 約 に

処理 システ ムに対す る要求が多様化す る現在,最 適 なシ お け る組 合 せ最 適 化 問題 へ のGA適 用 と改 良, 第15回 廃 棄物

ステ ムの構築が 困難 さを増す一方で あるが,本 研究 で提 学 会 研 究 発 表 会 講 演 論 文集I, pp. 293-295, 2004

― 411―
STUDY ON MULTIPURPOSE OPTIMIZATION OF AREA-WIDE
TREATMENT SYSTEM OF MUNICIPAL SOLID WASTE

Yasuhiro ARAI, Akira KOIZUMI, Toyono INAKAZU and Naruomi NISHIDE

The purpose of this study is to show the optimum planning of an area-wide treatment system for
municipal solid waste. We analyzed the optimal scale on area integration and the most suitable
combination of waste treatment scenarios at each of the integrated areas. Firstly, we considered
indexes of economical and environmental efficiency in order to design the system taking account
its multipurpose optimization. Furthermore, this paper described a formulation of multipurpose
fuzzy IP (Integer Programming), which was expressed by the linear membership functions and the
fuzzy decision, and proposed a method using GA (Genetic Algorithm) to find the optimal solution
to the fuzzy IP problem. Finally, we conducted a case study in order to show the validity of our
solution method. As a result, it was revealed that our model building and solution were useful for
striking a happy medium in the area-wide waste treatment planning.

― 412―

You might also like