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生物学の基礎 1 光学顕微鏡の構造
第 章
1章 はじめに Introduction 基礎
1
生物学 接眼レンズ
生物学の基礎
顕微鏡の誕生と生物学の発展
アーム
レボルバー
近代生物学の 対物レンズ
出発点 (×4,×10,×40)
顕微鏡の出現は,
生物学の研究方法
ステージ
▲レーウェンフック 生物の世界にはヒトの肉眼に および人類の生物
( p.35)が は見えない微小世界が存在する 観を大きく変えた。
つくった顕微鏡 ことが明らかになった。
現在では,顕微鏡やそれを用いた観察手法の進歩によって,生き物のみな ホルダー
らず,それを構成する細胞,さらには細胞をつくっているタンパク質などの しぼり
分子に至るまで見ることができる( p.16)。
光源
第 2 章以降では,さまざまな生物現象とそのしくみを学習す
る。そこには多くの顕微鏡写真が登場するが,おのおのについ
てどのような顕微鏡がどのように利用されたかを自問し,この
章に立ち返ってみて欲しい。そうすることによって現代生物学
の最前線に触れ,生き物をより具体的に理解しようとしている 調節ねじ
研究者の興奮をさらに身近に感じることができるだろう。
( )
外側…粗動ねじ
内側…微動ねじ 鏡台
2 顕微鏡の使い方 基礎
視野内での
①
像の動き
②
③
③
肉眼での見え方 ②
① プレパラートを
動かす方向 しぼりを開く。 しぼりを絞る。
顕微鏡での見え方 低倍率 高倍率
⑥観察する像を探す 観察しやすい像を探し,視 プレパラートの動きと ⑦倍率と視野の範囲 必要に応じて倍 ⑧しぼりの調節 しぼりを絞ると視野
生物基礎
りんかく
ピンセット 柄つき針
第 章
染 色 部 色素・染色液 染色
酢酸カーミン溶液 赤色 試料 カバーガラス ろ紙
1
酢酸オルセイン溶液 赤色
生物学の基礎
核 メチレンブルー溶液 青色
メチルグリーン・ 青色・ 10µm スライドガラス
ピロニン染色液 赤紫色
ヤヌスグリーンで染色した口腔粘膜細胞 ①透過光で観察するた ②カバーガラスは, ③余分な水または染色
ヤヌスグリーン 青緑色
ミトコンドリア * TTC は,ミトコンドリアに局 め,できるだけ薄くし 気泡が入らないよう 液をろ紙で吸い取って,
TTC *溶液 赤色
在するコハク酸脱水素酵素で た試料をスライドガラ に注意してかぶせる。 プレパラートをつくる。
中心体・紡錘体 鉄ヘマトキシリン 黒色 スの上に置き,水また
還元されて赤色になる。
液胞など ニュートラルレッド 赤色 は 染 色 液 を 1~2 滴 落
**サフラニンは,リグニンが蓄
とす。
細 胞 壁 サフラニン** 赤色 積して木化した部分を染める。
5 ミクロメーターの使い方 基礎
対物ミクロメーター
❶接眼ミクロメーターと対物ミクロメーターのセット
対物ミクロメーターは,接眼ミ
接眼ミクロメーター クロメーターの 1 目盛りの長さ
ステージ
にセット を測定するために用いられる。
目 盛 り は,1mm を 100 等 分 し
た間隔で刻まれている。
(1mm = 1000µm)
対物ミクロメーターの目盛り
接眼ミクロメーターの目盛り
接眼ミクロメーターには,等 数字が正しく見える側
対物ミクロメーターで試料
間隔の目盛りが刻まれている。 を上にしてセットする。 の大きさを測れない理由
①対物ミクロメーターの目盛りと試料との両方に
❷接眼ミクロメーターの 1 目盛りの長さの測定
同時にピントを合わせることができない。
両方の目盛りが並行に重なるようにし,目盛りの一 ②対物ミクロメーターの 1 目盛り(10µm)より小
致点を 2 か所探す。 さい観察物の大きさを正確に測定できない。
2 か所の目盛り数をそれぞれ読み取り,接眼ミクロ ③観察物に合わせて目盛りの方向を変えることが
メーターの 1 目盛りの長さを求める。 できない。
対物ミクロメーター
10 ×
接眼ミクロメーター の目盛り数
= 400 倍(×10×40)
1 目盛りの長さ(µm) 接眼ミクロメーターの
10 × 5
目盛り数 = 2.5 1 目盛り 2.5µm
20
対物ミクロメーターの目盛りにピントを合わせた場合
❸試料の大きさの測定
測定は接眼ミクロメーターを用いて行う。適当な倍
率で試料にピントを合わせ,測定する部分の目盛り
数を読み取る。
チョウチンゴケの細胞 (×400)
試料の その倍率での接眼ミクロ 読み取った 試料にピントを合わせた場合
= ×
大きさ(µm) メーターの 1 目盛りの長さ 目盛り数 細胞の大きさ= 2.5 × 20 目盛り= 50
(µm)
6 スケッチの仕方 基礎
スケッチをすることによって,対象物をより詳細に観察して記録できる。
みを描く。
⑤実際の大きさがわかるようにスケールを入れる。 塗りつぶ 陰影を線で
10µm
ダリアの花粉 している。 描いている。
! 豆知識 ヤヌスグリーンで口腔粘膜細胞を染色する場合,ミトコンドリアだけでなく,細胞表面の好気性細菌も染色されることがある。 15
02 細胞の研究方法
基礎 生物 progress of cell studying methods
基礎 発達に伴って,細胞の微細構造に関する知識が著しく拡大した。
1 ぶんかいのう
( )
焦点距離の短い多 対物レンズ
数のレンズが組み (電磁石)
合わされている。
中間像(実像) 中間像
ディスプレイ
接眼レンズ 投影レンズ(電磁石)
観察者 観察者
( )
試料表面付近
電子 での反射・放出
( )
中間像の一部を接眼 投影像 (蛍光板上の像を観察) 試料
レンズで拡大して観察 蛍光板 電子検出器
2 さまざまな顕微鏡の観察像 基礎
20µm ( GFP
)
液胞膜タンパク質を
( p.111
)で標識
(写真は上の透過型
電子顕微鏡と同じ種
生物基礎
方法を細胞分画法という。
第 章 生物学の基礎
❶分画遠心法 (植物の組織を用いた場合) ❷密度勾配遠心法
こうばい 1
①組織片をスクロース溶液とともにすり ②細胞破砕液を超遠心機にかけ,遠心力を段階的に作用さ あらかじめ密度勾配をつくったスクロースなどの
つぶして細胞破砕液をつくる。 せると,主に構造物の大きさによって分画される。 溶液の上に試料をおいて超遠心機にかける。遠心後,
細胞破砕液 弱い 遠 心 力 強い 個々の細胞成分は,それぞれの密度と一致する場所
(ホモジェネート) に移動して静止する。この方法では,分画遠心法で
スクロース 上澄み 分離困難なものでも分別することができる。
上澄み 上澄み
溶液 500g 3000g 8000g 105,000g
10 分 20 分 20 分 60 分
超遠心機にかける。
上澄み
試料
細胞破片
可溶性画分
低い 低い
細胞成分の密度
をろ過し
分別された細胞成分
溶液の密度
上下しながら回転
沈殿物
て除く。
超遠心機
すり棒 にかける。
〈ホモジェナイザー〉
〈遠心機〉
遠心機において試料にかかる力の大きさは,重
分画遠心法の操作は,等張なスクロース溶液を用いて低温で行う。これは,細胞小器官が浸透現象に 力の大きさ(g)を基準にして表され,遠心機の
よって変形・破壊されたり,破砕液中の酵素の働きによって分解されたりするのを防ぐためである。 回転速度が大きくなるほど強くなる。
4 細胞培養 生物
組織細胞を切り出 細胞の培養の方法(単層培養法)
し,適当な培地の中で
無菌的に培養すると,
変異して増殖を続ける
細胞群が現れる。これ 組織片
を細胞株という。
細胞株は,一定の間
隔をおいて新しい培地 酵素液
に植え継ぐことによっ けいだい 解離した
て増殖を続け(継代培 細胞
養),研究に用いられ
る。 ②トリプシンなどの ③培地の中で細胞を培養す 10µm
①生物体から組織片 酵素の働きで細胞 る。細胞は容器の底には せん い が
5 フローサイトメトリー 生物
細胞浮遊液を高速で流し,測定することによって個々の細胞の性質を解析する手法をフローサ
イトメトリーという。
❶フローサイトメトリーの原理 ❷フローサイトメトリーを用いた細胞周期の分析
1 生物体を構成する元素 基礎
第 章
生物
地球上に生息する生物は,約 30 種類の元素から成り立っている。
1
共通する元素 共通していない元素 人体,海洋,地殻表層
それぞれを構成する元素
生物学の基礎
H O Ca Na K C N S Cl P
人体 水素 酸素 カルシウム ナトリウム カリウム 炭素 窒素 硫黄 塩素 リン のうち,含量の多い上位
(1) (2) (5) (8) (9) (3) (4) (7) (10) (6) 10 種類の元素を比べる
と,人体と海洋では,ほ
H O Ca Na K C N S Cl Mg
水素 酸素 カルシウム ナトリウム カリウム 炭素 窒素 硫黄 塩素 マグネシウム とんどが共通している。
海洋 (1) (2) (7) (4) (8) (9) (10) (6) (3) (5) このことは,生物が海洋
H O Ca Na K Mg Si Al Fe Ti 中で誕生したことを示す
地殻
表層 水素 酸素 カルシウム ナトリウム カリウム マグネシウム ケイ素 アルミニウム 鉄 チタン 根拠とも考えることがで
(4) (1) (6) (5) (9) (8) (2) (3) (7) (10) きる。
( )内は,それぞれに含まれる原子の個数の順位
2 生物体を構成する物質とその働き 基礎
生物
3 脂質
ちょう さ し ぼうさん たん か すい そ さ
α 水の性質
基本的に水に不溶で,分子中に長鎖脂肪酸や炭化水素鎖をもつ。 プラス
生物 多くの種類があり,生体内で特に重要な役割をもつものには,脂肪,
リン脂質,糖脂質,ステロイドがある。
①水分子は極性をもつため,さまざまな物質を溶か
❶脂肪 主にエネルギー貯蔵の役割を担う。 ❷リン脂質 生体膜( p.30)の主成分であ
して化学反応や物質輸送の場となる。
る。
水分子の極性 弱い結合
グリセリン(1 分子) 脂肪酸(3 分子) グリセリン(1 分子) 脂肪酸(2 分子) O
(水素結合)
O
CH2 - O CO-C-C-C-C-…-CH3 CH2 - O CO-C-C-C-C-…-CH3 H H
- - H H
CH - O CO-C-C-C-C-…-CH3 CH - O CO-C-C-C-C-…-CH3
O は,H よりも電子を H と O は電
O
- -
CH2 - O CO-C-C-C-C-…-CH3 CH2 - O リン酸化合物 疎水部 引き寄せる力が強い。 気的な力で
H H 引き合う。
親水部 H
H
脂肪分子 O
親水性:電荷をもつ物質は,
H
O
❸糖脂質 ❹ステロイド
H
H 3C
②温まりにくく,冷めにくい性質をもつ(比熱が大
-
CH - O CO-C-C-C-C-…-CH3 青で示した構造をも
つ物質を総称して きい)
ため,細胞の温度の維持に役立つ。
-
CH2 - O 糖
HO ステロイドという。
生物
糖質は,C,H,O の 3 元素からできており,H:O = 2:1 のものが多い。多糖類は,(C6H10O5)n で表す。
第 章
たんとう
❶単糖類 糖質の単位物質を単糖という。
1
ヘキソース(六炭糖)
1 分子中に炭素原子を 6 個もつ ペントース(五炭糖)
1 分子中に炭素原子を 5 個もつ
生物学の基礎
グルコース(ブドウ糖) フルクトース(果糖) ガラクトース デオキシリボース リボース
C6H12O6 C6H12O6 C6H12O6 C5H10O4 C5H10O5
CH2OH CH2OH CH2OH CH2OH CH2OH
H C O H O OH HO C O H O OH O OH
C H C C C C H C C C C C
OH H H HO OH H H H H H
HO OH H CH2OH H OH H H H H
C C C C C C C C C C
H OH OH H H OH OH H OH OH
マルトース C12H22O11
(麦芽糖) グルコース+グルコース スクロース(ショ糖)C12H22O11 グルコース+フルクトース ラクトース(乳糖)C12H22O11 ガラクトース+グルコース
CH2OH
CH2OH CH2OH CH2OH CH2OH
CH2OH H C O OH
H C O H H C O H H C O H O H
C O C H C
C H C C H C C H C C C HO OH H
OH H OH H OH H H HO H O H
O O C C C C
HO OH HO CH2OH OH H
C C C C C C C C
H H H OH
C C
H OH H OH H OH OH H
H OH
デンプンが分解すると 砂糖の主成分で,スク 牛乳や母乳の中に含ま
きの中間生成物で,マ ラーゼによって分解さ れ,ラクターゼによっ
ルターゼによって分解 れる。サトウキビやテ て分解される。乳酸菌
される。麦芽中に存在。 麦芽 ンサイなどに含まれる。 砂糖 によって分解される。 母乳
た とうるい
❸多糖類 単位物質が多数結合したものを多糖類という。
アミロース アミロペクチン
α ビタミン
プラス
生物 無機養素と呼ばれる。
む き よう そ
無機養素は,需要量が多い多量元素と,要求量が少ない微量元素に分けられる。 タンパク質,脂質,核酸,無機物,糖質以外で微量に
・多量元素 N,P,Ca,S,Cl,K,Na,Mg,Fe などの元素がある。 必要とされる有機物をビタミンという。ビタミンには
Na,K,Ca,Mg,Cl…細胞の浸透圧維持( p.28),膜電位の形成 ( p.209) に関与。 以下のような特徴がある ( p.60)。
Ca…骨や歯の構成成分となる。 ・生理機能の調節作用をもつ
Fe…ヘモグロビン( p.117)に含まれ,酸素運搬に関与。 ・生体内で合成できないものもある
Mg…クロロフィル( p.50)に含まれ,光合成に関与。 ・補酵素( p.45)の成分として働くことが多い
・微量元素 B,F,Si,V,Cr,Mn,Co,Ni,Cu,Zn,As,Se,Mo,Sn,I の 15 元素がある。 ・酸化防止剤としても利用される (ビタミン C,E)
グリコーゲンはデンプンと同じ結合をもち,「動物デンプン」
と呼ばれることもある。分子中の多数の枝分かれは,グリコーゲンが溶けやすくなったり,また合成・分
! 豆知識
解の速度を上昇させたりすることに貢献している。
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