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01 顕微鏡を用いた観察

基礎 observation with microscope

生物学の基礎 1 光学顕微鏡の構造
第 章

1章 はじめに Introduction 基礎
1
生物学 接眼レンズ

生物学の基礎

生き物とは何か,どのようなしくみで 生物学では,正確で客観的な (×10,×15)


生きているのかを調べ,理解する学問。 観察が重要である。 鏡筒

顕微鏡の誕生と生物学の発展
アーム
レボルバー

近代生物学の 対物レンズ
出発点 (×4,×10,×40)
顕微鏡の出現は,
生物学の研究方法
ステージ
▲レーウェンフック  生物の世界にはヒトの肉眼に および人類の生物
 (  p.35)が は見えない微小世界が存在する 観を大きく変えた。
 つくった顕微鏡 ことが明らかになった。
 現在では,顕微鏡やそれを用いた観察手法の進歩によって,生き物のみな ホルダー
らず,それを構成する細胞,さらには細胞をつくっているタンパク質などの しぼり
分子に至るまで見ることができる(  p.16)。

光源
 第 2 章以降では,さまざまな生物現象とそのしくみを学習す
る。そこには多くの顕微鏡写真が登場するが,おのおのについ
てどのような顕微鏡がどのように利用されたかを自問し,この
章に立ち返ってみて欲しい。そうすることによって現代生物学
の最前線に触れ,生き物をより具体的に理解しようとしている 調節ねじ
研究者の興奮をさらに身近に感じることができるだろう。
(       )
外側…粗動ねじ
内側…微動ねじ 鏡台

2 顕微鏡の使い方 基礎

①運び方 一方の手でアーム ②光量の調節 視野が均一な ③プレパラートのセット 試 ④ピントの合わせ方 横から見 ⑤倍率の変更 より高い倍率で


を持ち,他方の手を鏡台の下 明るさになるように光量を調 料が対物レンズの真下になる ながらプレパラートと対物レン 見るときは,横から見ながらレ
に添えて持ち運ぶ。 節する。 ようにプレパラートをステー ズを近づける。プレパラートを ボルバーを回し,高倍率のレン
ジに置き,ホルダーで止める。対物レンズから遠ざけながらピ ズに変更する。変更後は微動ね
ントを合わせる。 じを操作してピントを合わせる。

視野内での

像の動き


肉眼での見え方 ②
① プレパラートを
動かす方向 しぼりを開く。 しぼりを絞る。
顕微鏡での見え方 低倍率 高倍率
⑥観察する像を探す 観察しやすい像を探し,視 プレパラートの動きと ⑦倍率と視野の範囲 必要に応じて倍 ⑧しぼりの調節 しぼりを絞ると視野
生物基礎

りんかく

野の中央に移動させる。倒立像をつくる顕微鏡で 視野内での像の動き 率を変える。高倍率では視野の範囲が は暗くなるが輪郭は明瞭になる。その


は,実際の移動方向と視野内での移動方向が異な 狭くなり,視野の明るさは低下する。 都度,最も観察しやすい光量になるよ
るので,プレパラートの動かし方には注意する。 うに調節する。

14 ! 豆知識 光学顕微鏡は,1590 年頃,オランダの眼鏡職人ヤンセン親子によって発明されたといわれている。その顕微鏡の倍率は 3 ∼ 9 倍程度であった。


3 染色液 基礎
 目的とする細胞小器官などは,特定の色素で染
色することで観察対象を明確にできる。 4 プレパラートのつくり方 基礎

ピンセット 柄つき針

第 章
染 色 部 色素・染色液 染色
酢酸カーミン溶液 赤色 試料 カバーガラス ろ紙
1
酢酸オルセイン溶液 赤色


生物学の基礎
核 メチレンブルー溶液 青色
メチルグリーン・ 青色・ 10µm スライドガラス
ピロニン染色液 赤紫色
ヤヌスグリーンで染色した口腔粘膜細胞 ①透過光で観察するた ②カバーガラスは, ③余分な水または染色
ヤヌスグリーン 青緑色
ミトコンドリア * TTC は,ミトコンドリアに局 め,できるだけ薄くし 気泡が入らないよう 液をろ紙で吸い取って,
TTC *溶液 赤色
在するコハク酸脱水素酵素で た試料をスライドガラ に注意してかぶせる。 プレパラートをつくる。
中心体・紡錘体 鉄ヘマトキシリン 黒色 スの上に置き,水また
還元されて赤色になる。
液胞など ニュートラルレッド 赤色 は 染 色 液 を 1~2 滴 落
**サフラニンは,リグニンが蓄
とす。
細 胞 壁 サフラニン** 赤色 積して木化した部分を染める。

5 ミクロメーターの使い方 基礎

対物ミクロメーター
❶接眼ミクロメーターと対物ミクロメーターのセット
対物ミクロメーターは,接眼ミ
接眼ミクロメーター クロメーターの 1 目盛りの長さ
ステージ
にセット を測定するために用いられる。
目 盛 り は,1mm を 100 等 分 し
た間隔で刻まれている。

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 1 目盛り= 0.01mm = 10µm

(1mm = 1000µm)
対物ミクロメーターの目盛り

接眼ミクロメーターの目盛り

接眼ミクロメーターには,等 数字が正しく見える側
対物ミクロメーターで試料
間隔の目盛りが刻まれている。 を上にしてセットする。 の大きさを測れない理由
①対物ミクロメーターの目盛りと試料との両方に
❷接眼ミクロメーターの 1 目盛りの長さの測定
同時にピントを合わせることができない。
両方の目盛りが並行に重なるようにし,目盛りの一 ②対物ミクロメーターの 1 目盛り(10µm)より小
致点を 2 か所探す。 さい観察物の大きさを正確に測定できない。
2 か所の目盛り数をそれぞれ読み取り,接眼ミクロ ③観察物に合わせて目盛りの方向を変えることが
メーターの 1 目盛りの長さを求める。 できない。

対物ミクロメーター
10 ×
接眼ミクロメーター の目盛り数
= 400 倍(×10×40)
1 目盛りの長さ(µm) 接眼ミクロメーターの
10 × 5
目盛り数 = 2.5 1 目盛り 2.5µm
20
対物ミクロメーターの目盛りにピントを合わせた場合
❸試料の大きさの測定

測定は接眼ミクロメーターを用いて行う。適当な倍
率で試料にピントを合わせ,測定する部分の目盛り
数を読み取る。
チョウチンゴケの細胞 (×400)
試料の その倍率での接眼ミクロ 読み取った 試料にピントを合わせた場合
= ×
大きさ(µm) メーターの 1 目盛りの長さ 目盛り数 細胞の大きさ= 2.5 × 20 目盛り= 50
(µm)

6 スケッチの仕方 基礎
スケッチをすることによって,対象物をより詳細に観察して記録できる。

よいスケッチの例 悪いスケッチの例 1 本線で描か


①多くの対象物を見て,全体を代表するものを選ん 陰影を点描 れていない。
でスケッチする。 で表現して
②対象物はできるだけ大きく描く。 おり,点の
③輪郭は線で,陰影は点の疎密で描く。 疎密もバラ
ンスがよい。
④見えるものをすべて描く必要はない。観察対象の
生物基礎

みを描く。
⑤実際の大きさがわかるようにスケールを入れる。 塗りつぶ 陰影を線で
10µm
ダリアの花粉 している。 描いている。

! 豆知識 ヤヌスグリーンで口腔粘膜細胞を染色する場合,ミトコンドリアだけでなく,細胞表面の好気性細菌も染色されることがある。 15
02 細胞の研究方法
基礎 生物 progress of cell studying methods

1 顕微鏡による研究  16 世紀末に光学顕微鏡が発明され,細胞の研究がはじまった。さらに,1930 年代以降,電子顕微鏡の


第 章

基礎 発達に伴って,細胞の微細構造に関する知識が著しく拡大した。
1 ぶんかいのう

光学顕微鏡 分解能( p.35)…0.2µm 透過型電子顕微鏡 分解能…0.2nm 以下 走査型電子顕微鏡 分解能…3 ∼ 20nm



生物学の基礎

2000 倍 程 度 ま で 厚さ 50 ∼ 100nm の試 重金属の薄層でおおっ


拡大できる。解像 料切片を,電子線を吸 た試料に電子線を当て
の限界は光の波長 収・散乱させる鉛など てスキャンする。各点
に依存するため, の重金属塩で染色して から散乱・放射される
0.2µm 程 度 の 物 観察する。試料を透過 電子の量が測定され,
体の識別が限度と するときに電子線に強 その強度は,焦点深度
なる。細胞の構造 弱が生じるため,細胞 の大きい立体的な画像
物は無色のものが 内の微細構造が明暗の としてディスプレイ上
多いので,ふつう, 差として観察される。 に映し出される。色の
染色して観察する。 色の識別はできない。 識別はできない。
(1µm = 1000nm)
光源 電子銃 電子源 電子銃 電子源
光線(波長 250~700nm)
集光レンズ 電子線(波長 0.001~0.01nm) 電子線
(コンデンサー) 集束レンズ(電磁石)
集束レンズ
しぼり(明るさの調節) しぼり
(電磁石)
試料(薄い切片など) 試料(超薄切片)
顕微鏡で 電子線
見える像 偏向器 走査装置
(虚像) 対物レンズ
対物レンズ(電磁石)

(        )
焦点距離の短い多 対物レンズ
数のレンズが組み (電磁石)
合わされている。
中間像(実像) 中間像
ディスプレイ
接眼レンズ 投影レンズ(電磁石)

観察者 観察者
(       )
試料表面付近
電子 での反射・放出

(          )
中間像の一部を接眼 投影像 (蛍光板上の像を観察) 試料
レンズで拡大して観察 蛍光板 電子検出器

2 さまざまな顕微鏡の観察像 基礎

❶光学顕微鏡 (写真はすべてシロイヌナズナの側根根端) ❷電子顕微鏡

明視野顕微鏡 位相差顕微鏡 透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope; TEM)


電子が透過した部分
は白っぽく,透過し
なかった部分は黒っ
ぽく見える。観察さ
れる像は,平面的で
ある。
(写真はケイソウの
20µm 20µm
一種)
最も一般的な光学顕微鏡。コントラストが弱く,詳 光の屈折率の差を強調することによって,明るい部
細な構造は見づらい。 分と暗い部分の差が強調された像が見られる。 5µm
微分干渉顕微鏡 蛍光顕微鏡 走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope; SEM)
試料表面付近で放出
されたり,反射した
りした電子などが測
定される。
20µm 観察される像は立体
的である。

20µm ( GFP
          )
液胞膜タンパク質を
(  p.111
)で標識
(写真は上の透過型
電子顕微鏡と同じ種
生物基礎

特定の一方向にのみ振動する光を偏光という。2 種 目的の物質を蛍光物質で標識したり,染色したりし 類のケイソウ)


類の偏光を用いることで,陰のある立体的な像が見 て観察する。蛍光物質は,特定の波長の光を吸収し,
られる。 蛍光を発する。
5µm

16 ! 豆知識 電子顕微鏡を用いると,走査型で約 10 万倍,透過型では数 100 万倍まで拡大して観察することができる。


3 細胞分画法による研究 生物
 細胞を破壊して核・ミトコンドリアなどの細胞小器官や,構成要素を遠心力の作用で分離する
さいぼうぶんかくほう

方法を細胞分画法という。

第 章 生物学の基礎
❶分画遠心法 (植物の組織を用いた場合) ❷密度勾配遠心法
こうばい 1
①組織片をスクロース溶液とともにすり ②細胞破砕液を超遠心機にかけ,遠心力を段階的に作用さ  あらかじめ密度勾配をつくったスクロースなどの
つぶして細胞破砕液をつくる。 せると,主に構造物の大きさによって分画される。 溶液の上に試料をおいて超遠心機にかける。遠心後,


細胞破砕液 弱い 遠 心 力 強い 個々の細胞成分は,それぞれの密度と一致する場所
(ホモジェネート) に移動して静止する。この方法では,分画遠心法で
スクロース 上澄み 分離困難なものでも分別することができる。
上澄み 上澄み
溶液 500g 3000g 8000g 105,000g
10 分 20 分 20 分 60 分

超遠心機にかける。

上澄み
試料
細胞破片

可溶性画分
低い 低い

細胞成分の密度
をろ過し

分別された細胞成分
溶液の密度
上下しながら回転

沈殿物
て除く。
超遠心機
すり棒 にかける。

核,細胞片 葉緑体 ミトコンドリア リボソーム, スクロー


遠 細胞骨格など 高い ス溶液
 心
  力 高い
組織片 遠心前 遠心後

〈ホモジェナイザー〉
〈遠心機〉
遠心機において試料にかかる力の大きさは,重
分画遠心法の操作は,等張なスクロース溶液を用いて低温で行う。これは,細胞小器官が浸透現象に 力の大きさ(g)を基準にして表され,遠心機の
よって変形・破壊されたり,破砕液中の酵素の働きによって分解されたりするのを防ぐためである。 回転速度が大きくなるほど強くなる。

4 細胞培養 生物

 組織細胞を切り出 細胞の培養の方法(単層培養法)
し,適当な培地の中で
無菌的に培養すると,
変異して増殖を続ける
細胞群が現れる。これ 組織片
を細胞株という。
 細胞株は,一定の間
隔をおいて新しい培地 酵素液
に植え継ぐことによっ けいだい 解離した
て増殖を続け(継代培 細胞
養),研究に用いられ
る。 ②トリプシンなどの ③培地の中で細胞を培養す 10µm
①生物体から組織片 酵素の働きで細胞 る。細胞は容器の底には せん い が

を取り出す。 をばらばらにする。 りつくように増殖する。 培養したヒトの繊維芽細胞

5 フローサイトメトリー 生物
 細胞浮遊液を高速で流し,測定することによって個々の細胞の性質を解析する手法をフローサ
イトメトリーという。

❶フローサイトメトリーの原理 ❷フローサイトメトリーを用いた細胞周期の分析

フローサイト  フローサイトメトリーは,フロー  DNA に 結 合 す る 蛍 光


メーター サイトメーターという機器を用いて G1 期の細胞 色 素 で 細 胞 を 染 色 し, フ
細胞浮遊液 ①
行う。これによって,細胞の大きさ ローサイトメーターで各
蛍光標識した や内部構造を調べたり,細胞を定 細胞の蛍光強度を測定する。
細胞 量・分別したりすることができる。 DNA 量が多い細胞ほど強
①細胞浮遊液は,蛍光色素などで特 い蛍光を発するため,蛍光
細胞数

定の物質を標識したものを用いる を測定することで DNA 量


ことが多い。 G2 期と M 期の の相対値を求めることがで
細胞
② ⑤ ②細胞は細い管に 1 個ずつ通される。 きる。
レーザー ③細胞にレーザー光を当てる。 S 期の  細胞数を縦軸,細胞当た
③ 検出器 ④ 分析器 ④散乱光や蛍光を検出器で検出する。 細胞 りの DNA 量(相対値)を横
⑤検出した情報を分析器で分析する。 軸にとってグラフで表すと,
⑥ ⑥分析結果にもとづいて,たとえば 細胞周期のそれぞれの段階
0 1 2
蛍光をもつ細胞ともたない細胞と の細胞数を示すことができ
蛍光をもつ細胞 蛍光をもたない細胞 を分別することもできる。 細胞当たりの DNA 量(相対値) る( p.76) 。

! 豆知識 研究で頻繁に用いられるヒーラ(HeLa)細胞というヒト細胞株は,1951 年に人体から分離されたがん細胞の株であり,分離した女性患者の名にちなんでつけられた。 17


03 生物体を構成する物質
基礎 生物 substance constructed organism

1 生物体を構成する元素 基礎
第 章

生物
地球上に生息する生物は,約 30 種類の元素から成り立っている。
1
共通する元素 共通していない元素  人体,海洋,地殻表層
それぞれを構成する元素

生物学の基礎

H O Ca Na K C N S Cl P
人体 水素 酸素 カルシウム ナトリウム カリウム 炭素 窒素 硫黄 塩素 リン のうち,含量の多い上位
(1) (2) (5) (8) (9) (3) (4) (7) (10) (6) 10 種類の元素を比べる
と,人体と海洋では,ほ
H O Ca Na K C N S Cl Mg
水素 酸素 カルシウム ナトリウム カリウム 炭素 窒素 硫黄 塩素 マグネシウム とんどが共通している。
海洋 (1) (2) (7) (4) (8) (9) (10) (6) (3) (5) このことは,生物が海洋
H O Ca Na K Mg Si Al Fe Ti 中で誕生したことを示す
地殻
表層 水素 酸素 カルシウム ナトリウム カリウム マグネシウム ケイ素 アルミニウム 鉄 チタン 根拠とも考えることがで
(4) (1) (6) (5) (9) (8) (2) (3) (7) (10) きる。
( )内は,それぞれに含まれる原子の個数の順位

2 生物体を構成する物質とその働き 基礎
生物

物 質 構成する元素 分 子 量 働き・特徴


❶植物体 タンパク質 2%
さまざまな物質を溶かす溶媒として,化学反応のな
脂質・核酸・
その他 1%
水 H,O 18 かだちとなる。流動性にすぐれ,比熱が大きい。温
度を保持する上でも重要。
無機物 2% アミノ酸の種類と配列順序によってさまざまなもの
糖質 タンパク質
水 20% C,H,O,N,
(S) 103 ∼ 105 がある。原形質を構成する主成分であるとともに,
数値はすべて ( p.80)
75% 酵素・ホルモン・抗体などとして働く高分子化合物。
質量 % を示す。
DNA と RNA があり,DNA は遺伝子の本体,RNA
核酸 DNA:106 ∼ 109
植物体は細胞壁をもつ C,H,O,N,P はタンパク質合成などに関与する。ヌクレオチドは
ため糖質の割合が高い。
( p.70) RNA:104 ∼ 106
長く鎖状につながって巨大な分子を形成する。
水に溶けず,有機溶媒に溶ける物質の総称。脂肪は,
脂肪酸とグリセリンでできており,生命活動のエネ
❷動物体 脂質 C,H,O,(P) 102 ∼ 103
ルギー源となる。リンを含むリン脂質は,生体膜の
成分として重要。
タンパク質 エネルギー源として貯蔵されているものが多いが,
糖質
15% C,H,O 102 ∼ 105 他の高分子化合物の成分となるものがある。セル
(炭水化物)
水 ロースは,細胞壁の主成分。
脂質
67% 13% 無機塩類として水に溶けているものが多く,細胞の
P,Na,Cl,K, 状態や働きを調節する作用がある。また,骨の成分
無機物 3% 無機物 Ca,Mg,Fe  ∼ 102 となるもの(リン酸カルシウム,Ca(
3 PO4)2)や,酸
糖質・その他 2% など 素の運搬に関与したりするもの(ヘモグロビンに含
まれる鉄,Fe)もある。

3 脂質
ちょう さ し ぼうさん たん か すい そ さ

α 水の性質
 基本的に水に不溶で,分子中に長鎖脂肪酸や炭化水素鎖をもつ。 プラス
生物 多くの種類があり,生体内で特に重要な役割をもつものには,脂肪,
リン脂質,糖脂質,ステロイドがある。
①水分子は極性をもつため,さまざまな物質を溶か
❶脂肪 主にエネルギー貯蔵の役割を担う。 ❷リン脂質 生体膜( p.30)の主成分であ
して化学反応や物質輸送の場となる。
る。
水分子の極性 弱い結合
グリセリン(1 分子) 脂肪酸(3 分子) グリセリン(1 分子) 脂肪酸(2 分子) O
(水素結合)
O
CH2 - O CO-C-C-C-C-…-CH3 CH2 - O CO-C-C-C-C-…-CH3 H H
- - H H
CH - O CO-C-C-C-C-…-CH3 CH - O CO-C-C-C-C-…-CH3
O は,H よりも電子を H と O は電
O
- -
CH2 - O CO-C-C-C-C-…-CH3 CH2 - O リン酸化合物 疎水部 引き寄せる力が強い。 気的な力で
H H 引き合う。
親水部 H
H

脂肪分子 O
親水性:電荷をもつ物質は,
H
O

❸糖脂質 ❹ステロイド
H

      細胞膜の成分。血液型の決定に関         生体膜やホルモン( p.127)


Na 周囲に水が集合し
与するものもある( p.144)。 などの構成成分となる
(コレステロール)。
O H て(水和)溶ける。
H

コレステロール H3C 疎水性:電荷や電気的な偏


グリセリン(1 分子) 脂肪酸(2 分子) CH3 H
H3C 水和水 りをもたない物質
H

Na+ が水に溶けるようす は,水和しない。


CH2 - O CO-C-C-C-C-…-CH3 CH3
生物基礎

H 3C
②温まりにくく,冷めにくい性質をもつ(比熱が大

CH - O CO-C-C-C-C-…-CH3 青で示した構造をも
つ物質を総称して きい)
ため,細胞の温度の維持に役立つ。

CH2 - O 糖
HO ステロイドという。

18 ! 豆知識 コレステロールの名称は,ギリシャ語の chole(胆汁)と,stereos(固体)に由来している。


4 糖質
とうしつ

生物
糖質は,C,H,O の 3 元素からできており,H:O = 2:1 のものが多い。多糖類は,(C6H10O5)n で表す。

第 章
たんとう

❶単糖類 糖質の単位物質を単糖という。
1
ヘキソース(六炭糖)           
1 分子中に炭素原子を 6 個もつ ペントース(五炭糖)           
1 分子中に炭素原子を 5 個もつ


生物学の基礎
グルコース(ブドウ糖) フルクトース(果糖) ガラクトース デオキシリボース リボース
C6H12O6 C6H12O6 C6H12O6 C5H10O4 C5H10O5
CH2OH CH2OH CH2OH CH2OH CH2OH
H C O H O OH HO C O H O OH O OH
C H C C C C H C C C C C
OH H H HO OH H H H H H
HO OH H CH2OH H OH H H H H
C C C C C C C C C C
H OH OH H H OH OH H OH OH

一般的な呼吸 糖類のなかで 牛乳などに含 D N A のヌ RNA の ヌ ク


基質で,ブド は甘味が最も まれるラクト クレオチド レオチドや
ウなどの果実 強く,各種の ース(乳糖)を の構成成分。 ATP の 構 成
や血液中に存 果実や蜂蜜に 加水分解して 成分。
在する。 存在する。 得られる。
はちみつ
ブドウ 蜂蜜 牛乳 DNA ATP の結晶
に とうるい

❷二糖類 単位物質が 2 つ結合したものを二糖類という。

マルトース C12H22O11
(麦芽糖) グルコース+グルコース スクロース(ショ糖)C12H22O11 グルコース+フルクトース ラクトース(乳糖)C12H22O11 ガラクトース+グルコース

CH2OH
CH2OH CH2OH CH2OH CH2OH
CH2OH H C O OH
H C O H H C O H H C O H O H
C O C H C
C H C C H C C H C C C HO OH H
OH H OH H OH H H HO H O H
O O C C C C
HO OH HO CH2OH OH H
C C C C C C C C
H H H OH
C C
H OH H OH H OH OH H
H OH
デンプンが分解すると 砂糖の主成分で,スク 牛乳や母乳の中に含ま
きの中間生成物で,マ ラーゼによって分解さ れ,ラクターゼによっ
ルターゼによって分解 れる。サトウキビやテ て分解される。乳酸菌
される。麦芽中に存在。 麦芽 ンサイなどに含まれる。 砂糖 によって分解される。 母乳
た とうるい

❸多糖類 単位物質が多数結合したものを多糖類という。

デンプン(C6H10O5)n グリコーゲン(C6H10O5)n セルロース(C6H10O5)n

アミロース アミロペクチン

グルコース数 250~300 デンプンと同じ結


合の仕方(a 結合)。 直鎖状。デンプンとはグルコース
分子量約 5 万。直鎖状 グルコース数 1000 の結合の仕方が異なる(b 結合)。
分子量 18 万。分枝
:グルコース残基 枝分かれが多い。

アミロースとアミロペク 動物の肝臓や筋肉中にた 細胞壁の主成分で,長い


チンの混合物で,アミラ くわえられている。消化 鎖状の繊維構造をつくる。
ーゼで分解される。 管内では,アミラーゼに 細菌などがもつセルラー
デンプン よって分解される。 骨格筋 ゼで分解される。 細胞壁

5 無機物  生物の生育に不可欠な元素のうち,C,H,O を除くものは

α ビタミン
プラス
生物 無機養素と呼ばれる。

む き よう そ

無機養素は,需要量が多い多量元素と,要求量が少ない微量元素に分けられる。 タンパク質,脂質,核酸,無機物,糖質以外で微量に
・多量元素 N,P,Ca,S,Cl,K,Na,Mg,Fe などの元素がある。 必要とされる有機物をビタミンという。ビタミンには
 Na,K,Ca,Mg,Cl…細胞の浸透圧維持( p.28),膜電位の形成 ( p.209) に関与。 以下のような特徴がある ( p.60)。
 Ca…骨や歯の構成成分となる。 ・生理機能の調節作用をもつ
 Fe…ヘモグロビン( p.117)に含まれ,酸素運搬に関与。 ・生体内で合成できないものもある
 Mg…クロロフィル( p.50)に含まれ,光合成に関与。 ・補酵素( p.45)の成分として働くことが多い
・微量元素 B,F,Si,V,Cr,Mn,Co,Ni,Cu,Zn,As,Se,Mo,Sn,I の 15 元素がある。 ・酸化防止剤としても利用される (ビタミン C,E)

グリコーゲンはデンプンと同じ結合をもち,「動物デンプン」
と呼ばれることもある。分子中の多数の枝分かれは,グリコーゲンが溶けやすくなったり,また合成・分
! 豆知識
解の速度を上昇させたりすることに貢献している。
19

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