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JSPFSM 55 237
JSPFSM 55 237
バスケットボール選手におけるプライオメトリックスがジャンプと
フットワーク能力およびパス能力に及ぼす効果
図 子 浩 二
( )
運動初期から大きな力を発揮できたり,効率のよい
.緒 言
運動の遂行が可能になることが明らかにされてい
)
優れたバスケットボール選手になるためには,試 る .
合状況に応じて多彩なプレーを,適時に効果的なタ 一方, 運動のパフォーマンスは,爆発的な
イミングで遂行することができなくてはならない. 反動動作を伴いながら大きな仕事をする能力と運
そのためには,素早く高い跳躍,巧みなフットワー 動を短時間に遂行する能力によって構成されてい
)
ク動作や方向変換動作,素早く速いパスやシュート る .この 運動のパフォーマンスを改善
を行う運動能力が要求される.このような運動に関 するためには,
プライオメトリックトレーニング
(以
与する筋群の働きに注目すると,下肢では地面への 降プライオメトリックスと略す)が有効であると思
着地,上肢ではボールを受け止めることによって, われる.プライオメトリックスの手段については,
主動筋群にエキセントリックな筋収縮が生じ,その 下肢の場合には台上から跳び下り,着地して即座に
)
後即座にコンセントリックな筋収縮に切り換わる伸 跳び上がるドロップジャンプ が,上肢の場合
張 短縮サイクル運動( にはメディシンボールを用いた投動作やパス動作
)
)になっていることが推察できる.この で が 代表的である.したがって,バスケットボー
は,コンセントリックな筋収縮のみの運動よりも, ルのトレーニングに,上述のドロップジャンプおよ
弾性エネルギーの利用や伸張反射の効果によって, びメディシンボールを用いた投動作やパス動作を取
鹿屋体育大学スポーツパフォーマンス系
鹿児島県鹿屋市白水町 番地
図 子
上肢のプライオメトリックス
.結 果
トレーニング内容
上肢のプライオメトリックスには, 人 組にな 下肢のプライオメトリックスによるジャンプ
って,メディシンボールを投げ合うチェストパス動 能力の変化
作を行わせた. 図 はリバウンドジャンプとボールを保持したジ
両者内の距離間隔を , , に設定し, ャンプショットの跳躍高と接地時間を,トレーニン
のメディシンボールをできるだけ素早く高速 グ前後で比較したものである.いずれのジャンプに
度で投げ合うチェストパスを, 回を セットとし おいても,跳躍高には,トレーニング前後で有意な
て,各距離ごとに セットづつ行わせた.さらに, 変化は認められなかったが,接地時間はトレーニン
その後, の距離間隔で,バスケットボールを グ後に有意に短縮することが認められた.
用いた同様のチェストパスを 回 セット実施させ
た.この試技では,ボールを胸の前でできるだけ素 下肢のプライオメトリックスによるフット
早く受け止めて跳ね返すように投げることを指示し ワーク能力の変化
た.これらのトレーニングは,前述した下肢の場合 図 は, の直線を全力で走った場合の平均
と同様に,トレーニング期間は 週間とし, 週間 速度を,トレーニング前後で比較したものである.
に 日の割合で実施させた.なお,下肢と上肢のト 直線走速度は,トレーニング前後で有意な違いは認
レーニングは異なる日に行わせ,約 分の時間を要 められなかった.
した. 図 は, 方向変換走における全体の平均速
測定および評価方法 度とフットワークに要した時間を除いた走区間のみ
トレーニング効果は,チェストパスにおける速投 の平均速度,フットワークに要した接地時間(外側
能力をトレーニング前後で比較し評価した. の軸足が接地した瞬間から,方向変換が終了して足
速投能力については, の区間をドリブルし が離地するまでの時間)を,トレーニング前後で比
ながら,助走を付けて行うチェストパスと,その場 較したものである.全体の平均速度はトレーニング
でドリブルをしながら助走を付けないで行うチェス 後に有意に短縮するが,フットワークに要した接地
トパスによって,前方の網に向かってできるだけ速 時間を除いた走区間のみの平均速度にはトレーニン
いボールをまっすぐに投げる動作を行わせ,網の後 グ前後で有意な変化は認められなかった.フット
方から構えたスピードガン(トーアススポーツマ ワークに要した接地時間は,トレーニング後に有意
シーン社製 )を用いてボール速度 に短縮することが認められた.
を測定した.
さらに,速投の試技を,ハイスピードビデオカメ 上肢のプライオメトリックスによるチェスト
ラ( 社製 )を用いて,対象者の左側方か パス能力の変化
ら で撮影し,それをもとにして,各試技に 図 は,チェストパスにおける速投のボール初速
おいて,ボールが両手に触れた瞬間,ボールが両手 度とその動作に要する接手時間を,助走のある場合
から離れた瞬間の時間を読み取り,チェストパス動 とない場合に分けてトレーニング前後で比較したも
作に要する接手時間を算出した. のである.ボール速度は,助走のある場合とない場
合のいずれにおいても,トレーニング後に有意に速
統計処理 くなることが認められた.また,チェストパス動作
測定値はすべて平均値 標準偏差で示した.ト に要する接手時間についても,トレーニング後に有
レーニング前後における測定値の差を比較するため 意に短縮することが認められた.
に,対応のある 検定を用いた.なお,有意水準は
.考 察
未満とした.
本研究では,リバウンドドロップジャンプとメデ
ィシンボールを用いたプライオメトリックスを,
図 子
)
が ,現在でも至適台高については明確にな 定した.
っていない.そこで,反動動作の効果を効果的に引 下肢のプライオメトリックスがジャンプ能力に及
き出し,最も高い跳躍高が得られる台高が ぼす効果をみると,トレーニング導入後では,リバ
)
から であるという知見にもとづいて , ウンドロップジャンプとジャンプシュートの跳躍高
本研究の台高は跳び箱 段( )に設定した.ま には有意な増加は認められなかったが,接地時間に
た,メディシンボールを用いたチェストパストレー (図 )
は有意な短縮が認められた .これらのことか
ニングのボール重量に関しては, から の ら,リバウンドドロップジャンプを用いた下肢のプ
重量にすると,接手時間とボール速度が急激に変化 ライオメトリックスは,リバウンドロップジャンプ
し,スピード型から力型になるという知見にもとづ の接地時間を短縮するとともに,ジャンプシュート
)
いて ,本研究で用いるボールの重量を に設 の接地時間も短縮できることが明らかになった.
図 子
一方,下肢のプライオメトリックスがフットワー プジャンプを用いた下肢のプライオメトリックス
ク能力に及ぼす効果をみると,トレーニング導入後 は,バスケットボールによる方向変換走の際の接地
では, 直線走の平均速度に変化は認められな 時間を短縮できることが明らかになった.
かったが(図 ),方向変換走の平均速度には有意な 跳躍高や直線走の速度は,下肢の筋群が行う仕事
増大が認められた(図 ).これらのことから,リバ 量や筋出力の大きさによって決定されるが,接地時
ウンドドロップジャンプを用いた下肢のプライオメ 間の長さは力の立ち上がり速度や伸張 短縮運動に
トリックスは,直線走よりも方向変換走の能力を向 よって発生する伸張反射などの神経系の要因に依存
)
上できることが明らかになった.そこで,この方向 することがこれまでに認められている .ま
変換走を,走区間と方向変換のためのフットワーク た,スクワットを用いたウエイトトレーニングとプ
区間に分けてみると,上述の方向変換走速度の増大 ライオメトリックスを比較すると,ウエイトトレー
は,走る区間ではなく,方向変換に要する接地時間 ニングが筋肥大を生じさせて最大筋力を高めること
が有意に短縮することに起因していることが認めら に対して,プライオメトリックスは筋肥大を伴わず
れた(図 ).これらのことから,リバウンドドロッ に,神経系の改善によって力の立ち上がりの速度を
バスケットボール選手におけるプライオメトリックスがジャンプとフットワーク能力およびパス能力に及ぼす効果
)
高めることも認められている .さらに, このような手順を用いていなくても,スクワットや
ウエイトトレーニングは,コンセントリックな筋収 ベンチプレス等の下肢および上肢に関するウエイト
縮による力発揮を高めるのに対して,プライオメト トレーニングは,これまでの練習の中で数年間にわ
リックスは,エキセントリックな筋収縮による力発 たって計画的に取り入れてきた選手であるために,
揮を特異的に高め,立ち上がり速度に効果があるこ 本研究で得られた顕著なトレーニング効果が,ウエ
)
とも認められている .このような基礎的なト イトトレーニングや通常実施しているバスケット
レーニング実験によって得られた知見は,プライオ ボールの練習手段によるものではなく,今回初めて
メトリックスが神経系の要因を向上させて,力の立 導入した 週間のプライオメトリックスによるもの
ち上がり速度や運動遂行時間の短縮に効果があるこ であると判断することは適切であると思われる.
とを示している.これらのことから,実践的な競技 上述した本研究の結果から, リバウンドドロッ
場面で見られるジャンプシュートやフットワークな プジャンプを用いた下肢のプライオメトリックス
どの遂行時間の短縮に対しても,上述したようなプ は,相手よりも短時間に踏切を遂行してジャンプシ
ライオメトリックスの特異的な効果が影響を及ぼし ュートを打つ能力や,素早く切り返して相手を抜き
ていることが推察できる. 去るフットワークの能力を向上させること, メデ
次に,上肢のプライオメトリックスがチェストパ ィシンボールのチェストパスを用いた上肢のプライ
ス能力に及ぼす効果をみると,トレーニング導入の オメトリックスは,短時間で素早く高速のボールを
前後における速投速度は,助走のない場合とある場 投げることのできるチェストパス能力を向上させる
合のいずれにおいても有意な増大が認められた(図 ことが明らかになり,プライオメトリックスがバス
).また,チェストパス動作に要する接手時間も ケットボールのプレーで要求されるジャンプやフッ
(図 )
同様に有意に短縮することが認められた .こ トワーク,パスの能力を高めるための有効なトレー
れらのことから,チェストパスを用いた上肢のプラ ニングプログラムになり得ることが示唆された.
イオメトリックスは,バスケットボールをチェスト
.要 約
パスで投げ出すボール速度を増大させるとともに,
運動遂行時間を短縮させることが明らかになった. 本研究では,体育大学の男子バスケットボール選
前述した下肢の場合には,プライオメトリックス 手 名を対象にして,リバウンドドロップジャンプ
が,ジャンプシュートやフットワークなどの運動遂 とメディシンボールを用いたプライオメトリックス
行時間の短縮に対して効果のあることが認められた を, 週間に 日, 週間にわたってバスケットボー
が,上肢の場合にはチェストパスにおけるボール速 ルの練習後に計画的に取り入れ,トレーニング導入
度の増大と動作速度の短縮のいずれに対しても効果 前後における効果について検討した.
のあることが認められた.上肢に比較して下肢の運 下肢および上肢のプライオメトリックスを導入し
動は,常に重力に抗した 運動になる場合が多 た結果,トレーニング後に以下のような結果が認め
いことが考えられる.下肢と上肢との間で生じるプ られた.
ライオメトリックスの効果が異なる原因について リバウンドロップジャンプとジャンプシュート
は, 運動に関する経験の少ない上肢に対して の跳躍高に有意な増加はなかったが,接地時間
強く表れていることが推察できるが,これらのこと には有意な短縮が認められた.
に関しては今後さらに検討していく必要がある. 直線走の平均速度に有意な短縮はなかったが,
本研究の対象者は,実際に競技的にバスケット 方向変換走には有意な短縮が認められた.この
ボールを行っており,重要な試合の勝利を目指して 方向変換走速度の短縮は,方向変換に要する接
激しい練習を繰り返している大学生プレーヤーであ 地時間の有意な短縮に起因していることが認め
った.そのために,通常のトレーニング実験で行う られた.
ようなコントロール群や他のウエイトトレーニング チェストパスにおける速投速度は,助走のない
群をチーム内に設けて,その効果を種々の群間で比 場合とある場合のいずれも有意に速くなり,チ
較する方法を用いることはできなかった.しかし, ェストパス動作に要する接手時間も有意に短縮
図 子
することが認められた.
これらの結果から,リバウンドドロップジャンプ
を用いた下肢のプライオメトリックスは,短時間に
踏切を遂行することができるジャンプ能力や,素早 ) ( )
く切り返して方向変換するフットワーク能力を向上
)図子浩二,高松 薫.( )バリスティックな伸張
させることが明らかになった.
また,
メディシンボー
短縮サイクル運動の遂行能力を決定する要因
ルのチェストパスを用いた上肢のプライオメトリッ 筋力および瞬発力に着目して .体力科学.
クスは,短時間で素早く高速のボールを投げること
のできるチェストパス能力を向上させることが明ら )図子浩二,高松 薫.( )リバウンドジャンプ能
力の向上に伴う踏切時間と跳躍高の変化パターン.
かになった. 第 回日本バイオメカニクス学会大会論文集.
(受理日 平成 年 月 日)
)図子浩二,( )ばね を高めるためのトレーニン
グ理論.トレーニング科学. .
文 献
)図子浩二,( ) 理論を応用したトレーニング
) ( ) の可能性.トレーニング科学. .
) ( )
) ( )
)
( )
) ( )
)
) ( ) ( )
( ) ) ( )
) ( )
( )
)高松 薫,図子浩二,会田 宏,吉田 亮,石島 繁.
( )デプスジャンプにおける台高と踏切中の膝曲
) ( ) げ動作の相違が跳躍高および下肢筋にかかる負荷特
性に及ぼす影響.昭和 年度日本体育協会スポーツ
科学研究報告 プリオメトリック・リアクテ
ィブ筋力トレーニングに関する研究 第 報 .
)勝田 茂,高松 薫,酒井俊郎,会田 宏,図子浩二. .
( )プライオメトリッ クトレーニングに関する研 )三浦 健,図子浩二,鈴木章介,松田三笠,清水信行.
究のレビュー.昭和 年度日本体育協会スポーツ科 ( )バスケットボールにおけるチェストパス能力
学 研究報告 プリオメトリック・リアクティ を高める上肢のプライオメトリックス手段に関する
ブ筋力トレーニングに関する 研究 第 報 . 研究.体育学研究.
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バスケットボール選手におけるプライオメトリックスがジャンプとフットワーク能力およびパス能力に及ぼす効果
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