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サムエル記第一

概要
1章
エルカナと2人の妻(1‐8節)
子供のいないハンナは男の子を祈り求める(9‐18節)
サムエルが生まれ,エホバのものとなる(19‐28節)
2章
ハンナの祈り(1‐11節)
エリの2人の息子の罪(12‐26節)
エリの家系へのエホバの処罰(27‐36節)
3章
サムエルは呼ばれて預言者になる(1‐21節)
4章
フィリスティア人が箱を奪う(1‐11節)
エリと息子たちが死ぬ(12‐22節)
5章
箱がフィリスティア人の領土に運ばれる(1‐12節)
ダゴンへの災い(1‐5節)
フィリスティア人は神罰を受ける(6‐12節)
6章
フィリスティア人は箱をイスラエルに返す(1‐21節)
7章
箱がキルヤト・エアリムに運ばれる(1節)
サムエルは「エホバだけに仕えなさい」と勧める(2‐6節)
ミツパでのイスラエルの勝利(7‐14節)
サムエルはイスラエルを裁く(15‐17節)
8章
イスラエルは王を求める(1‐9節)
サムエルは民に警告する(10‐18節)
エホバは,王を求める願いに応じる(19‐22節)
9章
サムエルはサウルと会う(1‐27節)
10章
サウルは油を注がれて王になる(1‐16節)
サウルは民の前に立つ(17‐27節)
11章
サウルはアンモン人を打ち破る(1‐11節)
サウルが王であることが再び宣言される(12‐15節)
12章
サムエルの最後の講話(1‐25節)
実体のないものに従ってはならない(21節)
エホバは民を見捨てることはしない(22節)
13章
サウルは兵士たちを選ぶ(1‐4節)
サウルは出過ぎたことをする(5‐9節)
サムエルはサウルを戒める(10‐14節)
イスラエルには武器がない(15‐23節)
14章
ミクマシュでのヨナタンの快挙(1‐14節)
神がイスラエルの敵を敗走させる(15‐23節)
サウルの軽率な誓約(24‐46節)
兵士たちが肉を血抜きせずに食べる(32‐34節)
サウルの戦いとサウルの家族(47‐52節)
15章
サウルは神に従わず,アガグを生かしておく(1‐9節)
サムエルはサウルを戒める(10‐23節)
「犠牲よりも,従うことが重要」(22節)
サウルは王位から退けられる(24‐29節)
サムエルはアガグを殺す(30‐35節)
16章
サムエルは次の王になるダビデに油を注ぐ(1‐13節)
「エホバは心の中を見る」(7節)
サウルから神の聖なる力が取り去られる(14‐17節)
ダビデがサウルのたて琴奏者になる(18‐23節)
17章
ダビデはゴリアテを打ち負かす(1‐58節)
ゴリアテがイスラエルに挑む(8‐10節)
ダビデは受けて立つ(32‐37節)
ダビデはエホバの名によって戦う(45‐47節)
18章
ダビデとヨナタンの友情(1‐4節)
サウルはダビデの活躍を見て嫉妬する(5‐9節)
サウルはダビデを殺そうとする(10‐19節)
ダビデはサウルの娘ミカルと結婚する(20‐30節)
19章
サウルは依然としてダビデを憎む(1‐13節)
ダビデはサウルから逃げる(14‐24節)
20章
ヨナタンのダビデへの揺るぎない愛(1‐42節)
21章
ダビデはノブで供えのパンを食べる(1‐9節)
ダビデはガトで気が狂ったふりをする(10‐15節)
22章
ダビデはアドラムとミツペに行く(1‐5節)
サウルはノブの祭司たちを殺させる(6‐19節)
アビヤタルが逃れる(20‐23節)
23章
ダビデはケイラの町を救う(1‐12節)
サウルはダビデを追う(13‐15節)
ヨナタンがダビデを力づける(16‐18節)
ダビデは辛うじてサウルから逃れる(19‐29節)
24章
ダビデはサウルに危害を加えない(1‐22節)
ダビデはエホバが選んだ人に敬意を払う(6節)
25章
サムエルの死(1節)
ナバルがダビデの部下たちを追い返す(2‐13節)
アビガイルの賢い行動(14‐35節)
「エホバ神の命の袋」(29節)
分別がないナバルはエホバに打たれる(36‐38節)
アビガイルがダビデの妻になる(39‐44節)
26章
ダビデは今回もサウルに危害を加えない(1‐25節)
ダビデはエホバが選んだ人に敬意を払う(11節)
27章
ダビデはフィリスティア人からチクラグをもらう(1‐12節)
28章
サウルはエン・ドルの霊媒師を訪ねる(1‐25節)
29章
フィリスティア人がダビデを疑う(1‐11節)
30章
アマレク人がチクラグを襲撃して焼き払う(1‐6節)
ダビデは神から力を得る(6節)
ダビデはアマレク人を打ち破る(7‐31節)
ダビデは捕虜たちを奪還する(18,19節)
戦利品についてのダビデの規定(23,24節)
31章
サウルと3人の息子の死(1‐13節)
  1 章
  1 エフライムの山地のラマタイム・ツォフィムに1人の男性がいた。エフライムの人で名前をエルカナとい
った。父はエロハムで,順にさかのぼると,エリフ,トフ,ツフである。 2 エルカナには妻が2人いた。一方
はハンナ,もう一方はペニンナである。ペニンナには子供がいたが,ハンナには子供がいなかった。 3 エルカ
ナは,大軍を率いるエホバを崇拝して 犠牲を捧げるため,毎年自分の町からシロに上った。そこでは,エリの
2人の息子ホフニとピネハスが祭司としてエホバに仕えていた。
  4 エルカナは犠牲を捧げたある日,妻ペニンナとその息子や娘たち皆に犠牲の中からそれぞれの分を与え
た。 5 一方,ハンナには特別の分を与えた。ハンナを愛していたからである。しかしエホバは彼女に子供を授
けていなかった。 6 しかも,彼女と張り合う妻ペニンナが彼女を傷つけようとして,エホバから子供を授かっ
ていないことをしきりにあざけっていた。 7 毎年,エホバの家に上っていくたびにそのようにしていた。ハン
ナはひどくあざけられるので,泣いて,食事をしようとしなかった。 8 夫エルカナは言った。「ハンナ,どう
して泣いているのか。なぜ食事をしないのか。そんなに悲しまないでほしい。私がいるではないか。10人の
息子がいるよりもいいではないか」。
  9 皆がシロで食べて飲んだ後,ハンナは立ち上がった。その時,祭司エリはエホバの神殿の入り口のそば
の席に座っていた。 10 ハンナは非常に苦しんでいて,エホバに祈って激しく泣きだした。 11 そしてこう誓
約した。「大軍を率いるエホバ,もしあなたが私の苦悩をご覧になり,私のことを思い出してお忘れにならず,
男の子を授けてくださるなら,私はその子をエホバにお捧げし,一生涯,仕えさせます。その子の頭には決し
てかみそりを当てません」。
  12 ハンナはエホバの前で長く祈った。その間,エリは彼女の口元を見ていた。 13 ハンナは心の中で話
していたので,唇が震えているだけだった。声が聞こえなかったため,エリは彼女が酔っていると思った。 14
エリは言った。「いつまで酔っているのか。ぶどう酒を飲むのをやめなさい」。 15 ハンナは答えた。「酔っ
ているのではございません。私はひどく思い悩んでいるのです。ぶどう酒などは飲んでおりません。ただ,エ
ホバに気持ちを全てお伝えしているのです。 16 私をどうしようもない女のように見ないでください。あまり
に苦しくてつらいので,今まで祈っていたのです」。 17 エリは言った。「安心して行きなさい。あなたが願
い求めたことをイスラエルの神がかなえてくださいますように」。 18 ハンナは言った。「これからも私のこ
とを良く思ってくださいますように」。彼女はそこを離れて,食事をした。もう沈んだ顔ではなかった。
  19 一行は朝早く起き,エホバの前でひれ伏してから,ラマにある家に帰った。エルカナは妻のハンナと関
係を持った。エホバは彼女に目を留めた。 20 1年もしないうちに,ハンナは妊娠して男の子を産み,サムエ
ルと名付けた。彼女が言うには,「エホバにこの子を願い求めていた」からである。
  21 やがてエルカナは家の人全てと共に,エホバに年ごとの犠牲と誓約の捧げ物を捧げるために上った。
22 しかしハンナは上っていかなかった。夫にこう言った。「この子が乳離れしたらすぐに連れていきます。そ
してこの子はエホバの前に出て,ずっとそこにとどまります」。 23 夫エルカナは彼女に言った。「あなたが
良いと思うようにしなさい。その子が乳離れするまで家にいたらよい。エホバがあなたの言った通りにしてく
ださいますように」。こうしてハンナは家にとどまり,その子が乳離れするまで育てた。
  24 その子が乳離れするとすぐにハンナはその子を連れて上り,シロにあるエホバの家に行った。3歳の雄
牛1頭,麦粉22リットル,ぶどう酒が入った大きなつぼを持って,その子を連れていった。 25 雄牛はほふ
られ,その子はエリの所に連れていかれた。 26 そこでハンナは言った。「私は確かに,この場所であなたの
もとに立ち,エホバに祈った者です。 27 この子のことを私は祈り,エホバは願いをかなえてくださいました。
28 それで私はこの子をエホバにお渡しします。この子は一生涯,エホバのものです」。
  すると彼はそこでエホバにひれ伏した。
  2 章
  1 ハンナは祈った。
  「私の心はエホバのゆえに喜び,
  私の角はエホバによって高く上げられます。
  私の口は敵に向かって大きく開きます。
  あなたによる救いを喜ぶからです。
  2 エホバのように聖なる方はいません。
  あなたのほかにはいないのです。
  私たちの神のような岩はありません。
  3 傲慢に語ってはなりません。
  横柄な言葉を口から出してもなりません。
  エホバは知識の神であり,
  人々の行いを正しく評価なさるからです。
  4 強い人の弓は砕かれますが,
  つまずく人は力を得ます。
  5 十分に食べていた人はパンのために働かなければならなくなり,
  飢えていた人はもう飢えることがありません。
  子供がたくさんできた人は産めなくなり,
  子供ができなかった人は7人も産みます。
  6 エホバは殺すことも生かすこともします。
  墓に下らせることも,そこから引き上げることもします。
  7 エホバは貧しくすることも裕福にすることもします。
  卑しめることも重んじることもします。
  8 立場が低い人を地面から起き上がらせます。
  貧しい人を灰の山から引き上げて,
  高官たちと共に座らせ,栄誉ある席を与えます。
  大地の土台はエホバのもので,
  神はその上に土地を据えます。
  9 神はご自分に尽くす人の一歩一歩を守りますが,
  悪い人は闇の中で沈黙させられます。
  人は力によって勝利することはできないのです。
  10 エホバは逆らう人を砕きます。
  彼らの上に天から雷を落とします。
  エホバは地の果てまで裁きます。
  任命した王に力を与え,
  選んだ者の角を高く上げます」。
  11 エルカナはラマの家に帰った。少年サムエルは祭司エリの前でエホバの奉仕者になった。
  12 さて,エリの息子たちは悪く,エホバへの敬意がなかった。 13 民から受け取る祭司の分に満足せず,
次のようにしていた。誰かが犠牲を捧げていると,肉を煮ている間にいつも祭司の従者が大きな肉刺しを持っ
てやって来て, 14 それを釜,両手鍋,大釜,片手鍋などに突き入れた。祭司は,肉刺しに刺さった物をどれ
も自分のために取った。彼らは,シロに来る全てのイスラエル人に対してこのようにしていた。 15 また,犠
牲を捧げる人が脂肪を焼いて煙にする前に,祭司の従者が来て,こう言っていた。「祭司のために焼く肉を渡
しなさい。祭司は,煮た肉はお受け取りにならない。生の肉でなければならない」。 16 その人が,「どうか,
まず脂肪を焼いて煙にさせてください。それから,お望みの物を何でもお取りください」と言うと,従者は,
「駄目だ。今よこせ。さもないと,力ずくで取るぞ」と言った。 17 このように,従者たちはエホバの前で非
常に重大な罪を犯した。エホバへの捧げ物を不敬に扱ったのである。
  18 さて,サムエルは少年だったが,亜麻布のエフォドを着てエホバの前で奉仕していた。 19 母親はサ
ムエルのために小さな袖なしの上着を作り,夫と一緒に年ごとの犠牲を捧げに来る時,毎年それを持ってきた。
20 エリはエルカナと妻のために祝福を願い求め,こう言った。「あなたがエホバに渡した子供の代わりに,
エホバがあなたと妻の間に子供を与えてくださいますように」。そして彼らは家に帰った。 21 エホバがハン
ナに注意を向けたので,ハンナは妊娠し,さらに3人の息子と2人の娘を産んだ。少年サムエルはエホバの前
で成長していった。
  22 エリは非常に年を取っていた。彼は息子たちがイスラエル全体に対してしていた全てのことを聞いてい
た。会見の天幕の入り口で仕える女性たちと寝ていたことについても聞いていた。 23 息子たちにこう言って
いた。「なぜそのようなことをしているのだ。民の皆から,あなたたちについて悪いことを聞いている。 24
息子たち,それはいけないことだ。エホバの民の間に良くないうわさが広まっている。私もそれを聞いた。 25
人に対して罪を犯すなら,誰かがその人のためにエホバに懇願してくれる。だが,エホバに対して罪を犯すな
ら,いったい誰がその人のために祈ってくれるだろうか」。ところが,息子たちは父親の言うことを聞こうと
しなかった。エホバは彼らを死に至らせることにしていた。 26 その間,少年サムエルはすくすくと成長して
いき,エホバからも人からもますます好まれるようになった。
  27 神に遣わされた人がエリの所に来て,言った。「エホバはこう言っています。『あなたの父祖の一家が
エジプトでファラオの奴隷だった時,私は父祖たちに私のことをはっきり知らせたではないか。 28 あなたの
父祖がイスラエルの全部族の中から選ばれた。祭司として私に仕え,祭壇に上って犠牲を捧げ,香を捧げ,私
の前でエフォドを身に着けるためである。私は,イスラエル人の火による捧げ物全てをあなたの父祖とその子
孫に与えた。 29 あなたたちは,私が私の住まいのために命じた犠牲と捧げ物をなぜ軽く扱うのか。なぜあな
たは私よりも息子たちを尊んでいるのか。あなたたちは,私の民イスラエルのどの捧げ物からも最良の部分を
奪って私腹を肥やしているではないか。
  30 それでイスラエルの神エホバは言う。「私は確かに,あなたの家系の人とあなたの父祖の家系の人はい
つまでも私に仕える,と言った」。しかし今,エホバは宣言する。「もうそのようにはならない。私を敬う人
は私に尊ばれ,私を侮る人は軽んじられるからだ」。 31 私があなたの力とあなたの父祖の家系の力を奪う時
が来て,あなたの家系の人は誰も寿命を全うしなくなる。 32 イスラエルがあらゆる良いことを経験する中,
あなたは私の住まいで敵対者を見,あなたの家系に年を重ねた人はいなくなる。 33 私が祭壇での奉仕をやめ
させずに残しておく人が,あなたの目を衰えさせ,悲嘆に暮れさせる。あなたの家系の大多数は剣によって死
ぬ。 34 あなたの2人の息子ホフニとピネハスに起きることがしるしとなる。1日のうちに2人は死ぬのであ
る。 35 私は1人の忠実な祭司を私のために立てる。彼は私の心の願いに沿って行動する。私は彼の家系がず
っと続くようにし,彼は私が選んだ者のために奉仕する。 36 あなたの家系の生き残っている人は,賃金と1
個のパンを求めてその祭司の所に来てひれ伏し,「どうか私を祭司の職に就けて,1切れでもパンを食べられ
るようにしてください」と言う』」。
  3 章
  1 その間,少年サムエルはエリの前でエホバに奉仕していた。その頃,エホバからの言葉はまれで,幻も
あまりなかった。
  2 ある日,エリはいつもの場所で寝ていた。目はかすみ,見ることができなかった。 3 神のランプはま
だ消されておらず,サムエルは神の箱があるエホバの神殿で寝ていた。 4 その時,エホバはサムエルを呼んだ。
サムエルは,「はい,何でしょうか」と答えた。 5 そしてエリの所に走っていき,「お呼びになりましたか」
と言った。しかしエリは,「呼んではいない。戻って寝なさい」と言った。それでサムエルは戻って寝た。 6
エホバはもう一度,「サムエル!」と呼んだ。サムエルは起きてエリの所に行き,「お呼びになりましたか」
と言った。しかしエリは,「サムエル,呼んではいない。戻って寝なさい」と言った。 7 (サムエルはまだエ
ホバをよく知らず,エホバの言葉はまだサムエルに啓示されていなかった。) 8 エホバは3度目に,「サムエ
ル!」と呼んだ。サムエルは起きてエリの所に行き,「お呼びになりましたか」と言った。
  その時エリは,エホバが少年サムエルを呼んでいることに気付いた。 9 エリはサムエルに言った。「戻っ
て寝なさい。もし呼ばれたら,『エホバ,お話しください。聞いております』と言いなさい」。そこでサムエ
ルは自分の場所に戻って寝た。
  10 エホバはもう一度,「サムエル,サムエル!」と呼んだ。サムエルは,「お話しください。聞いており
ます」と言った。 11 エホバはサムエルに言った。「私はイスラエルで,あることをしようとしている。それ
について聞く人は皆,衝撃を受けるだろう。 12 その日,私はエリとその家系について言ったことを全て,初
めから終わりまで実行する。 13 あなたはエリに伝えなければならない。彼も知っている過ちのゆえに,私が
彼の家系に永遠の処罰を下すということを。息子たちが神を侮辱しているのに,彼は叱らなかったのである。
14 それで私はエリの家系に関して誓った。エリの家族の過ちは,犠牲によっても捧げ物によっても決して贖わ
れることはない」。
  15 サムエルは朝まで眠り,それからエホバの家の戸を開けた。彼は,見た幻についてエリに伝えるのを恐
れた。 16 ところがエリから,「サムエル!」と呼ばれた。そこでサムエルは,「はい,ここにおります」と
言った。 17 エリは尋ねた。「どんな知らせを聞いたのか。どうか隠さないでほしい。もし聞いた言葉を一言
でも隠すなら,神があなたを厳しく罰しますように」。 18 それでサムエルは全てを話し,何も隠さなかった。
エリは言った。「それはエホバだ。神が,良いと思われることを行われますように」。
  19 サムエルはさらに成長していった。エホバが共にいて,彼の言葉をどれも実現させた。 20 イスラエ
ル全体はダンからベエル・シェバまで,サムエルがエホバの預言者として認められたことを知った。 21 エホ
バは引き続きシロで現れた。エホバは自分のことをサムエルに明らかにしたのである。エホバの言葉によって
そうした。
  4 章
  1 サムエルの言葉はイスラエル全体に広まった。
  イスラエルはフィリスティア人と戦うために出ていった。そしてエベネゼルのそばに野営した。フィリス
ティア人の方はアフェクで野営した。 2 フィリスティア人はイスラエルに対して戦闘隊形を組んだ。戦いでイ
スラエルは劣勢になり,フィリスティア人に打ち破られた。戦場で約4000人が討たれた。 3 民が陣営に戻
ると,イスラエルの長老たちは言った。「今日,エホバはなぜ私たちがフィリスティア人に打ち破られるまま
にしたのだろう。シロからエホバの契約の箱をここに持ってこよう。それがあれば,敵の手から救われるかも
しれない」。 4 そこで民はシロに人を遣わした。そして,ケルブたちの上に王として座っている,大軍を率い
るエホバの契約の箱を運んでこさせた。エリの2人の息子ホフニとピネハスも真の神の契約の箱のそばにいた。
  5 エホバの契約の箱が陣営に入ると,イスラエル人は皆,大きな叫び声を上げ,地面が揺れた。 6 フィ
リスティア人はその叫び声を聞いて,言った。「ヘブライ人の陣営のあの叫び声はいったい何だ」。やがて彼
らはエホバの箱が陣営に入ったことを知った。 7 フィリスティア人は怖くなって言った。「神が陣営に入っ
た!」 そして言った。「大変なことになった! これまでこんなことは起きたことがない。 8 大変だ! この
強力な神の手から,誰がわれわれを救えるだろうか。あの神は,荒野でエジプトをあらゆる災いで打った神だ。
9 フィリスティア人よ,勇気を出し,男らしく戦え。ヘブライ人はおまえたちに仕えたが,おまえたちが彼ら
に仕えることがあってはならない。男らしく戦え!」 10 こうしてフィリスティア人は戦った。イスラエルは
打ち破られ,おのおのが自分の天幕に逃げていった。戦死者は非常に多く,イスラエルの側は歩兵3万人が倒
れた。 11 その上,神の箱は奪われ,エリの2人の息子ホフニとピネハスは死んだ。
  12 ベニヤミン族のある人が戦場から出て走り,その日のうちにシロに着いた。衣服は引き裂かれ,頭に土
をかぶっていた。 13 到着した頃,エリは道端の席に座って見張っていた。真の神の箱のことが気掛かりだっ
たのである。その人が町の中に入り,事の次第を伝えると,町中が叫びだした。 14 エリはその叫び声を聞き,
言った。「この騒ぎは何事か」。その人は急いでエリに報告しにやって来た。 15 (エリは98歳で,目が動
かず,見ることができなかった。) 16 その人はエリに言った。「私は戦場から来た者です。今日,戦場から
逃げてきたのです」。するとエリは,「どうなったのか」と尋ねた。 17 知らせを持ってきた人は言った。
「イスラエルはフィリスティア人から逃げ,民は大敗を喫しました。それに,あなたの2人のご子息ホフニと
ピネハスも亡くなり,真の神の箱まで奪われてしまいました」。
  18 その人が真の神の箱のことを話した時,エリは門のそばの席から後ろ向きに倒れ,首が折れて死んだ。
高齢で,体重が重かったからである。エリは40年イスラエルを裁いた。 19 エリの息子ピネハスの妻は妊娠
していて出産が近かった。真の神の箱が奪い取られ,しゅうとと夫が死んだという知らせを聞くと,彼女はう
ずくまり,突然,陣痛が起こって出産した。 20 彼女は死にそうになり,そばに立っていた女性たちが,「し
っかりしてください。男の子が生まれましたよ」と言った。彼女は答えず,何も反応しなかった。 21 ただ,
その子をイカボドと名付け,「イスラエルから栄光は去った」と言った。真の神の箱が奪われたことと,しゅ
うとと夫が死んだことについて言っていたのである。 22 彼女は,「イスラエルから栄光は去った。真の神の
箱が奪われてしまったから」と言った。
  5 章
  1 フィリスティア人は真の神の箱を奪って,エベネゼルからアシュドドに運んだ。 2 それから真の神の
箱を持ってダゴンの家に運び,ダゴンのそばに置いた。 3 翌日,アシュドドの人たちが早く起きると,ダゴン
はエホバの箱の前でうつぶせに倒れていた。そこで彼らはダゴンを起こし,元の場所に戻した。 4 その翌朝,
早く起きると,ダゴンはエホバの箱の前でうつぶせに倒れていた。ダゴンの頭と両手が切り落とされて,敷居
の上にあった。魚の部分はそのままだった。 5 こうしたことがあったため,ダゴンの祭司やダゴンの家に入る
人は皆,今もアシュドドのダゴンの敷居を踏まない。
  6 エホバはアシュドドの人たちを処罰した。アシュドドとその地域の人たちを痔にならせて苦しめた。 7
アシュドドの人たちは起きていることを見て,言った。「イスラエルの神の箱をここにとどまらせるな。イス
ラエルの神が,われわれとダゴン神に災いをもたらしているからだ」。 8 そこで彼らは人を遣わしてフィリス
ティア人の全領主を集め,尋ねた。「イスラエルの神の箱をどうしたらよいか」。領主たちは言った。「イス
ラエルの神の箱をガトに移動させるとよい」。こうして彼らはイスラエルの神の箱をそこに移動させた。
  9 彼らが箱をガトに移動させると,エホバはその町に災いをもたらし,大混乱に陥れた。若者も年寄りも,
町の皆が痔になった。 10 それで彼らは真の神の箱をエクロンに送った。真の神の箱がエクロンに着くと,エ
クロンの人たちは叫びだした。「彼らはイスラエルの神の箱を持ってきて,われわれと民を死なせようとして
いるのだ!」 11 そして彼らは人を遣わしてフィリスティア人の全領主を集め,言った。「イスラエルの神の
箱を運び出して元の場所に戻し,われわれと民が死なずに済むようにしてもらいたい」。死の恐怖が町全体に
広がっていたのである。真の神は厳しい処罰を下し, 12 死ななかった人たちも痔になった。町の人々は,天
に向かって助けを求めて叫んだ。
  6 章
  1 エホバの箱は7カ月間,フィリスティア人の領土にあった。 2 フィリスティア人は祭司と占い師たち
を呼んで,尋ねた。「エホバの箱をどうしたらよいか。どうやって元の場所に送り返したらよいか教えてほし
い」。 3 彼らは答えた。「イスラエルの神エホバの契約の箱を送り返すのなら,捧げ物なしで送り返してはな
りません。必ず有罪の捧げ物と一緒に返すべきです。そうすれば,皆さんは癒やされ,なぜ神が皆さんを処罰
し続けるのかが分かります」。 4 するとフィリスティア人は,「どんな有罪の捧げ物を送るとよいか」と尋ね
た。彼らは言った。「フィリスティア人の領主の人数に合わせて,5つの金の痔と5つの金のネズミを送って
ください。皆さんも領主たちも同じ神罰を受けているからです。 5 痔の像と,土地を荒らしているネズミの像
を作り,イスラエルの神を敬わなければなりません。神はおそらく,皆さんと皆さんの神と土地への処罰を軽
くしてくださるでしょう。 6 皆さんは,エジプトやファラオのように心を固くしてはいけません。イスラエル
の神の厳しい扱いにより,彼らはイスラエルを去らせざるを得なくなり,イスラエルは出ていきました。 7 そ
れで,新しい牛車を1台と,くびきを付けたことがない,子牛のいる雌牛を2頭用意してください。雌牛は牛
車につなぎ,子牛は離して帰らせます。 8 エホバの箱を牛車に載せ,有罪の捧げ物として神に送る金の像はそ
の横の入れ物に入れます。そしてそれを送り出し, 9 見守ります。もしそれが元の土地,ベト・シェメシュへ
の道を上っていけば,私たちに災厄をもたらしたのは神です。しかし,そうならなければ,災厄は神によるの
ではなく偶然に起きたことだったのです」。
  10 人々はその通りにした。子牛のいる雌牛2頭を用意して牛車につなぎ,子牛は小屋に入れた。 11 エ
ホバの箱を牛車に載せ,金のネズミと痔の像を入れた入れ物も載せた。 12 雌牛はベト・シェメシュへの道を
真っすぐ進んだ。1本の街道を鳴きながら進み,右にも左にもそれなかった。その間ずっと,フィリスティア
人の領主たちはベト・シェメシュの境界まで後を付いていった。 13 ベト・シェメシュの人たちは谷あいの平原
で小麦の刈り入れをしていた。目を上げて箱を見ると,喜びにあふれた。 14 牛車はベト・シェメシュの人ヨ
シュアの土地に入り,大きな石の近くに止まった。彼らは牛車の木を割り,雌牛を全焼の捧げ物としてエホバ
に捧げた。
  15 レビ族の人たちがエホバの箱と,金の像が入った入れ物を降ろし,大きな石の上に置いた。ベト・シェ
メシュの人たちは全焼の捧げ物を捧げ,その日,ほかの犠牲もエホバに捧げた。
  16 フィリスティア人の5人の領主はそれを見て,その日,エクロンに帰っていった。 17 フィリスティ
ア人がエホバに有罪の捧げ物として送った金の痔は,アシュドドのために1つ,ガザのために1つ,アシュケ
ロンのために1つ,ガトのために1つ,エクロンのために1つである。 18 金のネズミの数は,防備された町
から無防備の田舎の村まで,5人の領主のものであるフィリスティア人の町全部の数に相当した。
  彼らがエホバの箱を据えた大きな石は,記念碑として今もベト・シェメシュの人ヨシュアの土地にある。
19 神はベト・シェメシュの人たちを打った。彼らがエホバの箱を見たからである。民のうち5万70人が打た
れて死んだ。エホバが大勢の人を死なせたので,民は嘆き悲しんだ。 20 ベト・シェメシュの人たちは言った。
「この聖なる神エホバの前に誰が立てるだろう。私たちの所から離れて別の人たちの所へ行ってくださらない
だろうか」。 21 彼らはキルヤト・エアリムの住民に使者たちを送り,こう伝えさせた。「フィリスティア人
がエホバの箱を返してきました。下ってきて,あなたたちの所へ持っていってください」。
  7 章
  1 キルヤト・エアリムの人たちはやって来て,エホバの箱を持って上り,丘の上のアビナダブの家に入れた。
そしてエホバの箱を守らせるため,アビナダブの子エレアザルを神聖なものとした。
  2 箱がキルヤト・エアリムに来た日から長い年月がたって20年が過ぎ,イスラエルの民全体は,エホバに
助けを求めるようになった。 3 それでサムエルはイスラエルの民全体に言った。「もし皆さんが心を尽くして
エホバのもとに戻ろうとしているなら,皆さんの中から外国の神々やアシュトレテの像を取り除き,心を真っ
すぐに向けてエホバだけに仕えなさい。そうすれば,神はフィリスティア人の手から救い出してくださいま
す」。 4 そこでイスラエル人はバアルやアシュトレテの像を処分し,エホバだけに仕えるようになった。
  5 サムエルは言った。「イスラエル全体をミツパに集めてください。皆さんのためにエホバに祈ります」。
6 民はミツパに集まり,水をくんでエホバの前に注いで,その日は断食をした。そして言った。「私たちはエ
ホバに対して罪を犯しました」。こうしてサムエルはミツパでイスラエル人を裁き始めた。
  7 フィリスティア人はイスラエル人がミツパに集まったことを聞いた。そしてフィリスティア人の領主た
ちがイスラエルに攻め上ってきた。イスラエル人はそのことを聞き,フィリスティア人を恐れた。 8 イスラエ
ル人はサムエルに言った。「私たちを助け,フィリスティア人から救ってくださるよう,私たちの神エホバに
祈り続けてください」。 9 そこでサムエルは,乳離れしていない1匹の子羊を全焼の捧げ物としてエホバに捧
げた。サムエルはイスラエルのためにエホバに助けを求め,エホバはサムエルに答えた。 10 サムエルが全焼
の捧げ物を捧げていると,フィリスティア人がイスラエルと戦うために向かってきた。その日,エホバは雷鳴
をとどろかせてフィリスティア人を混乱に陥れた。彼らはイスラエルの前で打ち破られた。 11 イスラエルの
人たちはミツパから出てフィリスティア人を追い,討ちながらベト・カルの南まで行った。 12 サムエルは石
を取ってミツパとエシャナの間に置き,その石をエベネゼルと名付けた。彼が言うには,「今までエホバが私
たちを助けてくださった」からだった。 13 こうしてフィリスティア人は制圧され,もうイスラエルの領土に
は入ってこなかった。サムエルの時代中ずっとエホバがフィリスティア人を押しとどめていた。 14 フィリス
ティア人がイスラエルから奪った町は,エクロンからガトまで,イスラエルに戻され,イスラエルはフィリス
ティア人から領土を取り返した。
  そして,イスラエルとアモリ人の間に平和があった。
  15 サムエルは生涯にわたってイスラエルを裁いた。 16 彼は毎年,ベテルとギルガルとミツパを回り,
その各地でイスラエルを裁いた。 17 戻る場所はラマだった。そこに家があったからである。そこでもイスラ
エルを裁いた。また,エホバのためにそこに祭壇を作った。
  8 章
  1 サムエルは年を取り,息子たちを任命してイスラエルを裁かせた。 2 長男はヨエルといい,次男はア
ビヤといった。2人はベエル・シェバで裁いていた。 3 しかし,息子たちは父親の歩みに倣わなかった。不当
な利益を得ようとし,賄賂を受け取り,公正をゆがめた。
  4 やがてイスラエルの長老の皆が集まり,ラマのサムエルの所にやって来た。 5 そして言った。「あな
たは年を取られましたが,ご子息たちはあなたの歩みに倣ってはいません。どうか,他の国々と同じように,
私たちを裁く王を立ててください」。 6 サムエルは,彼らが「私たちを裁く王をお与えください」と言ったの
を不快に思った。それでエホバに祈った。 7 エホバはサムエルに言った。「民が言うことを全て聞き入れなさ
い。彼らが退けたのはあなたではない。彼らは,私が王であることを認めず,私を退けたのである。 8 私がエ
ジプトから連れ出した日から今日までの間,彼らはいつも私を捨て,ほかの神々に仕えてきた。それと同じこ
とをあなたにもしているのだ。 9 彼らが言うことを聞き入れなさい。ただし,厳重に警告すべきである。統治
する王には民に何を要求する権利があるのか,彼らに伝えなさい」。
  10 それでサムエルは,王を求める民にエホバの言葉を全て伝えた。 11 こう言った。「王には,民に次
のことを要求する権利があります。王は皆さんの息子を集めて兵車に乗せ,騎手にします。ある人たちは,兵
車の前を走ることになります。 12 王は,千人長や五十人長を任命します。耕作や刈り入れ,武器や兵車の製
造をさせられる人もいます。 13 王は,皆さんの娘を集めて,香油を調合させたり料理をさせたりパンを焼か
せたりします。 14 皆さんの畑やブドウ園やオリーブ畑の最良の部分を取って家来たちに与えます。 15 穀物
畑やブドウ園の収穫の10分の1を取って廷臣や家来たちに与えます。 16 皆さんから男女の召し使いや最良
の牛やロバを取って働かせます。 17 皆さんの羊の10分の1を取ります。皆さんは王の召し使いになります。
18 皆さんが自分のために選んだ王のことで泣き叫ぶ日が来ます。それでも,エホバは答えてくださいませ
ん」。
  19 しかし,民はサムエルの言ったことに耳を貸さず,こう言った。「いや,私たちはどうしても王に治め
てほしいのです。 20 そうすれば私たちは他の国々と同じようになります。王が私たちを裁き,率い,敵と戦
うのです」。 21 サムエルは民が言うことを全部聞いてから,それをエホバに話した。 22 エホバはサムエル
に言った。「彼らが言うことを聞き入れ,王を立てて治めさせなさい」。サムエルはイスラエルの人たちに,
「それぞれ自分の町に帰りなさい」と言った。
  9 章
  1 さて,キシュという名前のベニヤミン族の男性がいた。とても裕福な人だった。父祖はアビエルで,順
にさかのぼると,ツェロル,ベコラト,アフィアハである。 2 キシュには,サウルという若くてりりしい顔立
ちの息子がいた。イスラエル人の中に彼よりもりりしい人はいなかった。そして,民の誰よりも,頭1つ分,
背が高かった。
  3 ある時,サウルの父キシュのロバがいなくなった。キシュは息子サウルに言った。「従者を1人連れて,
ロバを捜しに行ってくれないか」。 4 彼らはエフライムの山地を通り,シャリシャの地域を抜けたが,見つか
らなかった。シャアリムの地域を巡ったが,ロバはそこにもいなかった。ベニヤミン族の土地全体を通ったが,
見つからなかった。
  5 ツフの地域に来た時,サウルは一緒にいた従者に言った。「さあ,もう帰ろう。父がロバではなく私た
ちのことを心配し始めるといけない」。 6 従者は言った。「あの町には神に仕える人がいて,尊敬されていま
す。その人の言うことは全部,必ずその通りになります。これからそこに行ってみましょう。どこへ行けばよ
いか教えてくれるかもしれません」。 7 サウルは従者に言った。「行くとしても,その人の所に何を持ってい
けるだろうか。袋にはパンが一つもなく,真の神に仕える人に贈り物として持っていけるものは何もない。何
かあるだろうか」。 8 従者はさらに言った。「ご覧ください。私の手に銀が3グラムあります。真の神に仕え
る人にこれを差し上げます。そうすれば,どこへ行けばよいかきっと教えてくれます」。 9 (昔,イスラエル
では,神の導きを求めに行くときに,「さあ,予見者の所に行こう」と言った。今の預言者は昔,予見者と呼
ばれていたのである。) 10 サウルは従者に言った。「おお,それはいい。行こう」。2人は真の神に仕える
人がいる町に向かった。
  11 その町に行く坂道を上っていると,水をくみに出てきた若い女性たちに会った。それで,「ここに予見
者がおられますか」と話し掛けた。 12 彼女たちは答えた。「いらっしゃいます。このすぐ先です。お急ぎく
ださい。町に今日来られたところです。今日,民が高い場所で犠牲を捧げるからです。 13 町に入ると,あの
方を見つけられます。まだ,食事をするために高い場所に上ってはおられないでしょう。あの方が来るまでは,
民は食事をしません。あの方が来て祈って初めて,招かれた人たちは食事ができます。ですから,今すぐ上っ
ていってください。見つけられると思います」。 14 そこで2人は町に行った。町の中心に入っていくと,サ
ムエルが会いに出てきた。彼らと一緒に高い場所に上るためだった。
  15 サウルが来る前の日に,エホバはサムエルにこう言っていた。 16 「明日の今ごろ,ベニヤミンの土
地から1人の人をあなたの所に遣わす。あなたはその人に油を注いで私の民イスラエルの指導者としなければ
ならない。その人はフィリスティア人から私の民を救う。私は民の苦悩を見,民の叫びが私のもとに届いたの
である」。 17 サムエルがサウルを見ると,エホバは言った。「『私の民を治める人』と私があなたに言った
のは,この人のことだ」。
  18 サウルは門の所でサムエルに近寄って言った。「予見者の家はどこか,どうか教えてください」。 19
サムエルはサウルに答えた。「私がその予見者です。私の前を行って高い場所に上ってください。あなたたち
は今日,私と一緒に食事をします。朝になったら,あなたをお送りし,あなたが知りたいことを全部教えまし
ょう。 20 3日前にいなくなったロバのことは心配要りません。見つかりました。それに,イスラエルにある
貴重なものは全て,あなたとあなたの父の一族全体のものです」。 21 サウルは言った。「私はイスラエルの
部族の中で最も小さいベニヤミン族の者で,私の氏族はベニヤミン族の中で最も取るに足りない氏族です。そ
れなのに,どうしてこのようなことを私に話されるのですか」。
  22 サムエルはサウルと従者を食堂に連れていき,上座に座らせた。そこに30人ほどの人がいた。 23
サムエルは料理人に言った。「取り分けておくようにと言って渡した分を持ってきてください」。 24 料理人
は,ももとその周りの肉を取り出してサウルの前に置いた。サムエルは言った。「取り分けておいたものをお
出ししました。召し上がってください。『来客がある』と言って,あなたのために取り分けてもらったので
す」。こうしてサウルはその日,サムエルと一緒に食事をした。 25 その後,高い場所から町まで下り,サム
エルは家の屋上でサウルと話し続けた。 26 朝になり,彼らは早く起きた。夜が明けると,サムエルは屋上の
サウルに言った。「支度をしてください。お送りします」。それでサウルは支度をし,サウルとサムエルは外
に出ていった。 27 町の外れまで下っていくと,サムエルがサウルに言った。「従者に,先に行くように言っ
てください」。従者は先に行き,サムエルは続けて言った。「あなたはここにとどまってください。神の言葉
をお聞かせしましょう」。
  10 章
  1 サムエルは油の瓶を取って,サウルの頭に油を注いだ。そしてサウルに口づけして言った。「エホバは
確かにあなたを選んで,あなたをご自分の民の指導者にしました。 2 今日あなたが私のもとから去っていく時,
ベニヤミンの領地のゼルザにあるラケルの墓のそばで2人の人に出会うでしょう。2人はあなたにこう言いま
す。『あなたが捜しに行ったロバは見つかりましたが,お父さまはロバのことは忘れてあなたたちのことを心
配し,「息子のために何をしたらよいだろう」と言っています』。 3 そこからさらに進むと,タボルの大木の
所で,ベテルの真の神のもとに向かっている3人の人に会います。1人は子ヤギを3匹,1人はパンを3つ,
1人はぶどう酒の入った大きなつぼを持っているでしょう。 4 彼らはあなたに元気かどうか尋ね,パンを2つ
くれます。それを受け取ってください。 5 その後,フィリスティア人の守備隊がいる真の神の丘に行きます。
町に行くと,高い場所から下ってくる預言者の一団に会います。弦楽器,タンバリン,笛,たて琴を演奏する
人たちが前を進み,預言者たちは預言しているでしょう。 6 あなたはエホバの聖なる力を受け,彼らと共に預
言し,別人のようになります。 7 こうしたしるしがその通りに起きたなら,あなたはできることを何でも行っ
てください。真の神があなたと共にいるからです。 8 それで,先にギルガルに行ってください。私もそこに行
って,全焼の犠牲と共食の犠牲を捧げます。私があなたの所に行くまで,7日間,あなたは待っていなければ
なりません。それから,すべきことをあなたに知らせます」。
  9 サウルが立ち去ろうとしてサムエルに背を向けると,神はサウルの心を変えていき,別人の心のように
した。そしてその日,全てのしるしがその通りに起きた。 10 彼らが丘に行くと,預言者の一団に会った。す
るとサウルは神の聖なる力を受け,預言者たちの中で預言し始めた。 11 以前から彼を知っている人は皆,彼
が預言者たちと共に預言しているのを見て,こう言い合った。「キシュの子に何が起きたのか。サウルも預言
者の1人なのか」。 12 そこにいた1人の人は,「あの預言者たちの父親はどうなのか」と言った。こうして,
「サウルも預言者の1人なのか」という言い方が生まれた。
  13 サウルは預言し終えると,高い場所に行った。 14 その後,サウルのおじがサウルと従者に言った。
「どこに行っていたのか」。サウルは言った。「ロバを捜しに行っていました。でも見つからなかったので,
サムエルの所に行きました」。 15 サウルのおじは尋ねた。「話してくれないか。サムエルは何と言ったの
か」。 16 サウルはおじに,「ロバは見つかったと教えてくれました」と答えた。しかし,王になるとサムエ
ルから言われたことは話さなかった。
  17 サムエルはミツパで民をエホバのもとに呼び集め, 18 イスラエル人に言った。「イスラエルの神エ
ホバはこう言っています。『私は,エジプトからイスラエルを連れ出し,エジプトや,あなたたちを圧迫して
いた全ての王国からあなたたちを救い出した。 19 それなのに,あなたたちは今日,あなたたちのためにあら
ゆる悪と苦難からの救い主となった神を退け,「いや,あなたは私たちを治める王を立てるべきだ」と言った。
それで今,部族ごと,氏族ごとにエホバの前に立ちなさい』」。
  20 サムエルはイスラエルの全部族を近くに来させた。そしてベニヤミン族が選ばれた。 21 サムエルは
ベニヤミン族を氏族ごとに近くに来させた。そしてマトリ氏族が選ばれ,最終的にキシュの子サウルが選ばれ
た。それで人々はサウルを捜しに行ったが,見つからなかった。 22 彼らはエホバに尋ねた。「彼はここに来
ているのですか」。エホバは答えた。「彼は荷物の間に隠れている」。 23 それで彼らは走っていって,そこ
からサウルを連れてきた。サウルが民の真ん中に立つと,ほかの誰よりも頭1つ分,背が高かった。 24 サム
エルは民の皆に言った。「エホバが選んだ人を見ましたか。民の中に彼のような人はいません」。民は皆,
「王が栄えますように!」と叫びだした。
  25 サムエルは王の権限について民に話した。それを書物に記し,エホバの前に納めた。そして民を皆,家
に帰した。 26 サウルもギベアにある家に帰った。エホバに心を動かされた戦士たちも付いていった。 27 一
方,どうしようもない人たちは,「こんな人がどうしてわれわれを救えるだろうか」と言った。サウルを見下
し,何の贈り物もしなかった。しかしサウルは何も言わなかった。
  11 章
  1 アンモン人ナハシュがやって来て,ギレアデのヤベシュを攻めるため陣営を張った。ヤベシュの人たち
は皆,ナハシュに言った。「私たちと契約を結んでください。私たちはあなたに仕えます」。 2 アンモン人ナ
ハシュは言った。「契約を結びたいなら,条件がある。おまえたち皆の右目をえぐり取るという条件だ。イス
ラエル全体に屈辱を味わわせてやる」。 3 ヤベシュの長老たちは彼に言った。「7日間猶予を下さい。イスラ
エルの領土中に使者を送るためです。私たちを救える人が誰もいなければ降伏します」。 4 やがて使者たちは
サウルがいるギベアに来て,民に報告した。民は皆,声を上げて泣きだした。
  5 野原から,サウルが牛の群れを追いながらやって来た。サウルは言った。「民に何があったのですか。
どうして泣いているのでしょう」。そこで使者たちはヤベシュの人たちが言ったことを伝えた。 6 サウルはそ
れを聞くと,神の聖なる力を受け,激しく怒った。 7 サウルは2頭の雄牛を切ってばらばらにし,使者たちに
渡してイスラエルの領土中に送って,「サウルとサムエルに付いていかない人がいれば,その人の牛はこのよ
うになる!」と伝えさせた。すると民はエホバからの恐れに襲われ,同じ思いで出てきた。 8 サウルがベゼク
で民を数えると,イスラエル人は30万人,ユダの人たちは3万人だった。 9 サウルたちは,ヤベシュから来
ていた使者たちに言った。「ギレアデのヤベシュの人たちにこう言ってください。『明日,日差しが強くなる
頃,皆さんは救われます』」。使者たちがヤベシュに戻って報告すると,人々は喜びにあふれた。 10 ヤベシ
ュの人たちはアンモン人に言った。「明日,私たちはあなた方に降伏します。良いと思うことを何でも私たち
にしてください」。
  11 翌日,サウルは民を3つの部隊に分け,部隊は朝の見張りの時間に陣営の真ん中に侵入し,真昼ごろま
でアンモン人を討った。生き残った人たちはおのおの散り散りに逃げていった。 12 民はサムエルに言った。
「『サウルがわれわれの王となるのか』と言っていたのは誰ですか。その人たちを引き渡してください。殺し
ます」。 13 しかしサウルは,「今日は誰も殺してはいけない。エホバが今日イスラエルを救ってくださった
のだから」と言った。
  14 その後サムエルは民に言った。「さあ,ギルガルに行って,サウルが王であることをもう一度宣言しま
しょう」。 15 それで民は皆ギルガルに行き,エホバの前でサウルを王とした。それからそこでエホバの前に
共食の犠牲を捧げた。サウルとイスラエルの全ての人たちは,非常に喜んで祝いの時を過ごした。
  12 章
  1 サムエルはイスラエル全体に言った。「私は皆さんが求めたことを全て行い,皆さんを治める王を立て
ました。 2 今ここに,皆さんを導く王がいます! 私は年老いて白髪になり,息子たちは皆さんと共にいます。
私は若い時から今日まで皆さんを導いてきました。 3 私はここにいます。私に関して訴えたいことがあるなら,
エホバとその方が選んだ人の前で言いなさい。私は誰かの雄牛やロバを取りましたか。誰かからだまし取った
り,誰かを虐げたりしましたか。賄賂を受け取って,見て見ぬふりをしたでしょうか。もしそうなら,償いを
します」。 4 民は言った。「あなたはだまし取ったことも,虐げたことも,誰かの手から何かを受け取ったこ
ともありません」。 5 サムエルは言った。「皆さんは私に関して訴えたいことを何も挙げませんでした。今日,
エホバがそのことの証人です。神が選んだ人も証人です」。民は言った。「その方が証人です」。
  6 サムエルは民に言った。「モーセとアロンを用い,父祖たちをエジプトから連れ出したエホバが証人で
す。 7 それで今,しっかり立ちなさい。私は,エホバが皆さんと父祖たちのために行われたあらゆる正しい事
柄に照らして,皆さんをエホバの前で裁きます。
  8 ヤコブがエジプトに入り,父祖たちがエホバに助けを求めると,エホバはモーセとアロンを遣わしまし
た。2人は父祖たちをエジプトから連れ出し,この場所に住まわせました。 9 ところが,父祖たちは自分たち
の神エホバを忘れました。神は彼らをハツォルの軍隊の長シセラ,フィリスティア人,モアブの王に売り渡し,
戦いになりました。 10 彼らはエホバに助けを求めて言いました。『私たちは罪を犯しました。エホバから離
れてバアルやアシュトレテの像を崇拝しました。今,私たちを敵から救い出してください。私たちはあなたに
仕えます』。 11 それでエホバはエルバアルやベダンやエフタやサムエルを遣わして,皆さんを周囲の敵から
救い出し,安心して暮らせるようにしてくださいました。 12 皆さんは,アンモン人の王ナハシュが攻めてく
るのを見た時,『いや,私たちはどうしても王に治めてほしいのです!』と私に言い張りました。エホバ神が
皆さんの王であるにもかかわらず,そうしたのです。 13 そして今ここに,皆さんが選んだ王,求めた王がい
ます。エホバは皆さんを治める王を立てました。 14 皆さんがエホバを畏れ,その方に仕え,その声に従い,
エホバの命令に背かず,皆さんも皆さんを治める王もエホバ神に従うなら,うまくいきます。 15 しかし,エ
ホバの声に従わず,エホバの命令に背くなら,エホバは皆さんと皆さんの父たちを処罰します。 16 今しっか
り立ち,目の前でエホバがこれから行われる偉大な事柄を見なさい。 17 今は小麦の収穫の時ですが,私は雷
が生じて雨が降るようにとエホバに呼び掛けます。その時,皆さんは,王を求めることによってエホバの前で
どれほど悪いことを行ったのかを悟りなさい」。
  18 サムエルはエホバに呼び掛けた。するとその日,エホバは雷を起こして雨を降らせた。それで民は皆,
エホバとサムエルを非常に畏れた。 19 民は皆,サムエルに言った。「私たちのためにあなたの神エホバに祈
ってください。死にたくありません。私たちは王を求めることによって,あらゆる罪の上にさらに悪を加えま
した」。
  20 サムエルは民に言った。「おびえてはなりません。皆さんがそうしたあらゆる悪いことを行ったのは確
かです。とにかく,エホバに従うのをやめてはなりません。心を尽くしてエホバに仕えなさい。 21 実体のな
いものに従おうとしてはなりません。そうしたものは役に立たず,救ってもくれません。実体がないからです。
22 エホバはご自分の偉大な名のために,民を見捨てることはしません。エホバは自ら皆さんをご自分の民と
したのです。 23 私としても,皆さんのために祈るのをやめたりしてエホバに対して罪を犯すことなど考えら
れません。これからも皆さんに,正しい良い生き方を教えます。 24 エホバをただ畏れ,心を尽くして忠実に
仕えなさい。どんな偉大なことをしてくださったのかを覚えていなさい。 25 もし悪いことをかたくなに行う
なら,皆さんも王も滅ぼされます」。
  13 章
  1 サウルは……歳で王になり,イスラエルを2年治めた。 2 サウルはイスラエルから3000人を選ん
だ。そのうち2000人はサウルと共にミクマシュとベテルの山地に,1000人はヨナタンと共にベニヤミ
ンのギベアに配置された。そのほかの民は,それぞれ自分の天幕に帰された。 3 ヨナタンはゲバにいたフィリ
スティア人の守備隊を討ち,フィリスティア人はそのことを聞いた。サウルは,国中で角笛を吹き鳴らすよう
命じ,「ヘブライ人たち,聞きなさい」と言わせた。 4 イスラエル全体は,「サウルがフィリスティア人の守
備隊を討ち,イスラエルはフィリスティア人に憎まれるようになった」という知らせを聞いた。それで民はギ
ルガルのサウルのもとに招集された。
  5 フィリスティア人も,イスラエルと戦うために集結した。戦車は3万両,騎手は6000人で,兵士は
海辺の砂のように多かった。彼らは上ってきて,ベト・アベンの東,ミクマシュに陣営を張った。 6 イスラエ
ルの人たちは,窮地に立たされたのを知った。非常に追い詰められたのである。民は,洞窟,岩の裂け目,岩
陰,穴蔵,水ために隠れた。 7 中には,ヨルダン川を渡ってガドとギレアデの土地に行ったヘブライ人もいた。
しかしサウルはギルガルにとどまり,サウルに従う民は皆おびえていた。 8 サウルはサムエルが決めた所定の
時まで7日間待ったが,サムエルはギルガルに来なかった。民はサウルのもとから去り始めていた。 9 ついに
サウルは,「全焼の犠牲と共食の犠牲を私の所に持ってきなさい」と言った。そして全焼の犠牲を捧げた。
  10 サウルが全焼の犠牲を捧げ終えると,間もなくサムエルがやって来た。サウルは迎えに出ていき,あい
さつした。 11 するとサムエルは言った。「いったい何をしたのですか」。サウルは言った。「民が私のもと
から離れ始めていました。それに,あなたは所定の時までに来てくださいませんでしたし,フィリスティア人
がミクマシュに集結していました。 12 それでこう思いました。『今フィリスティア人がギルガルの私の所に
向かってくるのに,私はエホバの恵みを求めていない』。私は全焼の犠牲を捧げなければならないと感じたの
です」。
  13 サムエルはサウルに言った。「あなたは愚かなことをしました。エホバ神から与えられたおきてを守り
ませんでした。もし守っていたら,エホバは,イスラエルを治めるあなたの王国がいつまでも続くようにした
でしょう。 14 しかしもう,あなたの王国は長続きしません。エホバはご自分の心にかなう人を見つけます。
エホバはその人を,ご自分の民の指導者に任命します。あなたはエホバに命じられたことを守らなかったから
です」。
  15 サムエルは立って,ギルガルからベニヤミンのギベアへ上っていった。サウルが民の人数を数えると,
なおも共にいたのはおよそ600人だった。 16 サウルと息子のヨナタン,そして2人のもとから離れずにい
た民は,ベニヤミンのゲバにとどまっていた。フィリスティア人の方はミクマシュで陣営を張っていた。 17
フィリスティア人の陣営から3つの襲撃部隊が出ていった。1つはシュアルの土地の方,オフラへの道に向か
い, 18 1つはベト・ホロンの道に向かい,もう1つは荒野の方,ツェボイムの谷を望む境界への道に向かっ
た。
  19 さて,イスラエルにはどこにも鍛冶屋がいなかった。フィリスティア人が,「ヘブライ人に剣ややりを
作らせてはならない」と言ったためである。 20 そのためイスラエル人は皆,すき,つるはし,おの,鎌を研
いでもらうため,フィリスティア人の所に行かなければならなかった。 21 すき,つるはし,フォーク,おの
を研いでもらう場合,また牛追い棒を修理してもらう場合,代金は銀8グラムだった。 22 それで戦いの日,
サウルやヨナタンと共にいた民は誰も,剣もやりも手にしていなかった。サウルと息子のヨナタンだけが武器
を持っていた。
  23 フィリスティア人の守備隊はミクマシュの峡谷を渡る場所に出てきていた。
  14 章
  1 ある日,サウルの子ヨナタンは,武器を運ぶ従者に言った。「さあ,向こう側にいるフィリスティア人
の前哨部隊の所に渡っていきましょう」。ヨナタンはそのことを父親に告げなかった。 2 サウルは,ギベアの
外れのミグロンにあるザクロの木の下にいた。およそ600人が彼と共にいた。 3 (そして,シロでエホバの
祭司だったエリの子ピネハスの子イカボドの兄弟アヒトブの子アヒヤが,エフォドを持っていた。)兵士たち
はヨナタンが出ていったことを知らなかった。 4 ヨナタンがフィリスティア人の前哨部隊を目掛けて渡ってい
こうとしていた道の両側には歯のような大岩があり,一方はボツェツ,他方はセネと呼ばれていた。 5 一方の
岩は北にあり,ミクマシュに面して柱のように立っていた。他方は南にあり,ゲバに面していた。
  6 ヨナタンは,武器を運ぶ従者に言った。「さあ,あの割礼を受けていない人たちの前哨部隊の所に渡っ
ていきましょう。おそらくエホバが私たちのために行動してくださいます。こちらの人数が多くても少なくて
も,エホバにとっては救う上で問題ではありません」。 7 従者は言った。「心に感じた通りになさってくださ
い。お望みの所へ向かってください。どこへでも付いていきます」。 8 ヨナタンは言った。「これから,あの
人たちの所まで渡っていって,私たちの姿を見せます。 9 もし彼らが,『われわれがそっちへ行くまで,じっ
としていろ!』と言ったなら,私たちは動かず,登ってはいきません。 10 しかし,もし彼らが,『われわれ
に向かって上がってこい!』と言ったなら,私たちは登っていきます。それは,エホバが私たちを勝たせてく
ださることのしるしだからです」。
  11 2人はフィリスティア人の前哨部隊に姿を見せた。するとフィリスティア人は言った。「見ろ,ヘブラ
イ人が,隠れていた穴から出てきたぞ」。 12 前哨部隊の人たちはヨナタンと従者に言った。「われわれの所
に上がってこい。思い知らせてやる!」 ヨナタンは直ちに従者に言った。「付いてきなさい。エホバはイスラ
エルを勝たせてくださいます」。 13 ヨナタンはよじ登り,従者も付いていった。フィリスティア人はヨナタ
ンに倒されていき,従者はヨナタンの後ろで彼らを殺していった。 14 ヨナタンと従者は最初の攻撃により,
短い距離の間でおよそ20人を討った。
  15 そのため,恐怖が陣営にも前哨部隊の皆にも広まり,襲撃部隊さえもおびえた。地面は揺れ,神が人々
を恐怖に陥れた。 16 ベニヤミンのギベアでサウルのために見張っていた人たちが見ると,混乱が至る所に広
まり始めていた。
  17 サウルは共にいた兵士たちに言った。「人数を数えて,誰が出ていったかを調べてくれないか」。彼ら
が人数を数えると,ヨナタンと武器を運ぶ従者がいなかった。 18 サウルはアヒヤに言った。「真の神の箱を
持ってきてください!」(真の神の箱はその時,イスラエル人の所にあった。) 19 サウルが祭司アヒヤと話
している間にも,フィリスティア人の陣営で生じた混乱はますます大きくなっていった。それでサウルは祭司
に,「もう結構です」と言った。 20 サウルと,共にいた兵士たちは皆,集まって戦場に向かった。すると,
フィリスティア人は互いに剣を振るい合い,大混乱に陥っていた。 21 それまではフィリスティア人の味方を
して共に陣営まで来ていたヘブライ人も,サウルやヨナタンが率いるイスラエルの側に付き始めた。 22 エフ
ライムの山地に隠れていたイスラエルの人たちも皆,フィリスティア人が逃げ去ったことを聞き,戦場に行っ
て追撃に加わった。 23 こうしてエホバはその日,イスラエルを救った。ベト・アベンにまで及ぶ戦いだった。
  24 とはいえ,その日イスラエルの人たちは消耗し切っていた。サウルが兵士たちに関して次のような誓約
をしていたからである。「日が暮れる前,私が敵に復讐をする前に,食べ物を口にする人は災いを受ける!」
それで兵士は誰も食べ物を口にしていなかった。
  25 兵士たち皆が森に入ると,そこに蜂蜜があった。 26 兵士たちが森に入った時,蜂蜜が滴り落ちてい
たが,誰も食べなかった。誓約のことを恐れていたからである。 27 しかしヨナタンは,父親が兵士たちに関
して誓約したのを聞いていなかったので,持っていたつえの先を蜜蜂の巣に付けた。そして食べると,生き返
ったように元気になった。 28 すると兵士の1人が言った。「あなたの父上は兵士に関して厳重な誓約をし,
『今日食べ物を口にする人は災いを受ける!』と言いました。それでみんな疲れているのです」。 29 ヨナタ
ンは言った。「父は兵士たちを困らせるようなことをしました。見てください。蜂蜜を少し食べただけで,私
はこんなに元気になりました。 30 今日みんなが戦利品を自由に食べていれば,どんなにかよかったでしょう。
もっと多くのフィリスティア人を打ち負かしていたはずです」。
  31 その日,兵士たちはミクマシュからアヤロンにかけてフィリスティア人を討っていった。そのため非常
に疲れた。 32 兵士たちは欲のままに戦利品に飛び付き,その場で羊や牛や子牛を殺し,血を抜かずに食べた。
33 サウルに知らせが届いた。「兵士たちは肉を血抜きせずに食べて,エホバに対して罪を犯しています」。
サウルは言った。「あなたたちは不忠実なことをした。すぐに私のもとに大きな石を転がしてきなさい」。 34
サウルはさらに言った。「兵士の中に散らばって,こう言いなさい。『各自,雄牛や羊をここに連れてきて,
殺して食べなさい。血抜きせずに食べてエホバに対して罪を犯してはならない』」。それでその夜,兵士はそ
れぞれ雄牛を連れてきて殺した。 35 サウルはエホバのために祭壇を作った。エホバのために彼が作った最初
の祭壇だった。
  36 その後サウルは言った。「夜のうちにフィリスティア人を追い,明け方まで略奪し続けよう。一人も生
かしてはおかない」。兵士たちは言った。「良いと思う通りにしてください」。それから祭司が言った。「こ
こで真の神に近づきましょう」。 37 それでサウルは神に尋ねた。「フィリスティア人を追っていくとよいで
しょうか。あなたはイスラエルを勝たせてくださるでしょうか」。ところがその日,神は答えなかった。 38
そこでサウルは言った。「兵士たちの長は皆,ここに来て,今日どのような罪が犯されたのかをはっきりさせ
なさい。 39 イスラエルを救い出した方,生きている神エホバに懸けて私は誓う。罪を犯した人は,それがた
とえ私の子ヨナタンでも,死ななければならない」。しかし兵士の誰も答えなかった。 40 サウルはイスラエ
ル人たちに言った。「あなたたちはそちら側にいなさい。息子ヨナタンと私はこちら側にいる」。彼らはサウ
ルに言った。「良いと思う通りにしてください」。
  41 サウルはエホバに言った。「イスラエルの神,トンミムで答えてください!」 するとヨナタンとサウ
ルが選ばれ,ほかの人たちは解放された。 42 サウルは言った。「私と息子ヨナタンのどちらなのか,くじを
引きなさい」。するとヨナタンが選ばれた。 43 サウルはヨナタンに言った。「何をしたのか,話しなさい」。
ヨナタンは言った。「持っていたつえの先で蜂蜜を少し食べました。私はここにいます! 死ぬ覚悟はできてい
ます!」
  44 サウルは言った。「ヨナタン,もし死なないなら,神が私を厳しく罰しますように」。 45 兵士たち
はサウルに言った。「イスラエルに大勝利をもたらした,このヨナタンが死ななければならないのですか。そ
のようなことは考えられません! 生きている神エホバに懸けて言います。ヨナタンの髪の毛1本でさえ地面に
落ちるべきではありません。ヨナタンは今日,神と共に行動したのです」。こうして兵士たちがヨナタンを救
ったので,ヨナタンは死ななかった。
  46 サウルはフィリスティア人を追うのをやめ,フィリスティア人は領土に戻った。
  47 サウルはイスラエルに対する王権を確立し,モアブ人,アンモン人,エドム人,ツォバの王たち,フィ
リスティア人など周囲の全ての敵たちと戦った。行く先々で相手を打ち破った。 48 勇敢に戦ってアマレク人
を征服し,イスラエルを略奪者から救い出した。
  49 サウルの息子はヨナタン,イシュビ,マルキ・シュアだった。2人の娘の名前は,長女がメラブ,次女
がミカルだった。 50 サウルの妻はアヒノアムといい,アヒマアツの娘だった。サウルの軍隊の長はアブネル
といい,サウルのおじ,ネルの子だった。 51 サウルの父はキシュで,アブネルの父ネルはアビエルの子だっ
た。
  52 サウルの時代中,フィリスティア人との激しい戦いが続いた。サウルは強い人や勇敢な人を見つけると,
軍務に就かせるのだった。
  15 章
  1 サムエルはサウルに言った。「エホバは私を遣わして油を注がせ,あなたを神の民イスラエルの王にし
ました。ですから今,エホバの言うことを聞きなさい。 2 大軍を率いるエホバはこう言っています。『私はア
マレク人に対して,イスラエルにした仕打ちの責任を問う。彼らはイスラエルがエジプトから上ってきた時,
敵対した。 3 さあ,アマレク人を討ちに行き,所有物も一緒に滅ぼし尽くしなさい。生かしておいてはならな
い。男性も女性も,子供も幼児も,牛も羊も,ラクダもロバも殺しなさい』」。 4 サウルは兵士を招集した。
テライムで人数を数えると,歩兵は20万人,ユダの人は1万人だった。
  5 サウルはアマレクの町まで進み,谷のそばで待ち伏せした。 6 サウルはケニ人に言った。「アマレク
人の中から出ていきなさい。あなたを彼らと共に滅ぼしてしまわないためです。イスラエルの民がエジプトか
ら上ってきた時,あなたは民の皆に揺るぎない愛を示しました」。そこでケニ人はアマレクの中から出ていっ
た。 7 その後,サウルはハビラからエジプトの近くのシュルにかけてアマレク人を討った。 8 サウルはアマ
レクの王アガグを生け捕りにし,他の人々は剣で滅ぼし尽くした。 9 しかし,サウルと部下たちは,アガグと
羊や牛の最も良いもの,肥えた家畜や雄羊やさまざまな良いものを生かしておいた。それらを滅ぼそうとしな
かったのである。一方,価値のない,好ましくないものは滅ぼし尽くした。
  10 エホバはサムエルに言った。 11 「私はサウルを王にしたことを嘆いている。彼は私に従うのをやめ,
私の言った通りにしなかった」。サムエルは非常に心を痛め,夜通しエホバに向かって叫んだ。 12 サウルに
会うためにサムエルが朝早く起きると,次のような知らせがあった。「サウルはカルメルに行って自分のため
に記念碑を建て,そこから向きを変えてギルガルに行きました」。 13 サムエルがついにサウルの所に行くと,
サウルは言った。「あなたにエホバの祝福がありますように。私はエホバが言った通りにいたしました」。 14
サムエルは言った。「では,聞こえてくるこの羊の鳴き声,牛の鳴き声は何ですか」。 15 サウルは言った。
「部下たちがアマレク人の所から連れてきました。彼らが羊や牛の最も良いものを生かしておいたのです。あ
なたの神エホバに犠牲として捧げるためです。でも,ほかのものは滅ぼし尽くしました」。 16 サムエルはサ
ウルに言った。「もう結構です! エホバが昨夜私に話したことを教えましょう」。サウルは言った。「お話し
ください」。
  17 サムエルは言った。「あなたがイスラエルの諸部族の長にされた時,エホバがあなたを選んでイスラエ
ルの王にした時,あなたは自分のことを取るに足りない者と思っていたのではないですか。 18 その後エホバ
はあなたに任務を与え,『罪深いアマレク人を滅ぼし尽くしに行きなさい。全滅させるまで戦いなさい』と言
いました。 19 それなのに,どうしてエホバの言うことに従わず,貪欲にも敵のものに飛び付き,エホバから
見て悪いことをしたのですか!」
  20 サウルはサムエルに言った。「でも,私はエホバの言ったことに従いました! エホバからの任務を果
たしに出掛けました。アマレクの王アガグを連れてきて,アマレク人を滅ぼし尽くしました。 21 でも部下た
ちが,敵のものの中から羊と牛の最も良いものを取ったのです。ギルガルであなたの神エホバに犠牲として捧
げて滅ぼし尽くすためです」。
  22 サムエルは言った。「エホバの言うことに従うよりも,動物を焼いて捧げた方が,エホバは喜んでくだ
さるのでしょうか。いいですか。犠牲よりも,従うことが重要であり,雄羊の脂肪よりも,注意を払うことが
重要なのです。 23 反抗は占いの罪と同じで,出過ぎた行動は魔力や偶像を使うのと同じです。あなたがエホ
バの言葉を退けたので,神もあなたを王位から退けました」。
  24 サウルはサムエルに言った。「私は罪を犯しました。エホバの命令とあなたの言葉を踏み越えました。
部下たちを恐れて,言うことを聞き入れたのです。 25 どうか今,私の罪を許し,一緒に帰って,私がエホバ
にひれ伏すことができるようにしてください」。 26 サムエルはサウルに言った。「あなたと一緒には帰りま
せん。あなたがエホバの言葉を退け,エホバがあなたをイスラエルの王位から退けたからです」。 27 サムエ
ルが背を向けて去ろうとした時,サウルはサムエルの袖なしの上着の裾をつかんだ。するとそれは裂けた。 28
サムエルはサウルに言った。「エホバは今日,イスラエルの王権を引き裂いてあなたから取り上げました。神
は王権をあなたより優れた仲間の1人に与えます。 29 イスラエルの卓越した神は偽ったり意思を変えたりは
しません。神は人間ではないので意思を変えることはないのです」。
  30 サウルは言った。「私は罪を犯しました。でも,どうか私の民の長老たちとイスラエルの前で私の顔を
立ててください。私と一緒に帰ってください。あなたの神エホバにひれ伏します」。 31 それでサムエルはサ
ウルに付いて帰り,サウルはエホバにひれ伏した。 32 サムエルは言った。「アマレクの王アガグを私の所に
連れてきなさい」。アガグは渋々彼の所に行った。「死の危険は去ったのだ」と思っていたからである。 33
ところが,サムエルは言った。「あなたが剣で女性たちから子供を奪ったように,あなたの母親も子供を奪わ
れる」。そしてギルガルで,サムエルはエホバの前でアガグを剣で切り刻んだ。
  34 サムエルはラマに行き,サウルはギベアにある家に帰った。 35 サムエルは死ぬ日まで,二度とサウ
ルに会わなかった。サウルのことで嘆き悲しんだからである。エホバもサウルをイスラエルの王にしたことを
嘆いた。
  16 章
  1 エホバはやがてサムエルに言った。「あなたはいつまでサウルのことで嘆き悲しむのか。私は彼をイス
ラエルの王位から退けたのである。角に油を満たし,行きなさい。あなたをベツレヘムの人エッサイの所に遣
わす。私は,彼の息子の中から私のために王を選んだからだ」。 2 サムエルは言った。「どうして行けましょ
う。サウルが聞いたら,きっと私を殺します」。エホバは言った。「1頭の若い雌牛を連れていき,『エホバ
に犠牲を捧げに来ました』と言いなさい。 3 そしてエッサイを犠牲の所に呼びなさい。その後,何をすべきか
知らせよう。あなたは,私が指名する人に私に代わって油を注がなければならない」。
  4 サムエルはエホバに言われたことを行った。サムエルがベツレヘムにやって来ると,町の長老たちは恐
れながら迎え,「平和なことで来られたのですか」と言った。 5 サムエルは言った。「平和なことです。エホ
バに犠牲を捧げに来ました。あなたたちは自分を神聖なものとし,私と一緒に犠牲の所に来てください」。サ
ムエルはその後,エッサイとその息子たちを神聖なものとしてから,犠牲の所に呼んだ。 6 一同が入ってくる
と,サムエルはエリアブを見て言った。「エホバが選んだ人はこの人に違いない」。 7 しかしエホバはサムエ
ルにこう言った。「彼の容姿や背の高さに注目してはいけない。私は彼を選んでいない。人間の見方と神の見
方は違う。人間は目に見えるものを見るが,エホバは心の中を見る」。 8 それからエッサイはアビナダブを呼
んでサムエルの前に来させたが,サムエルは,「この人もエホバが選んだ人ではありません」と言った。 9 次
にエッサイはシャマを来させたが,サムエルは,「この人もエホバが選んだ人ではありません」と言った。 10
エッサイは7人の息子をサムエルの前に来させたが,サムエルはエッサイに,「どの人もエホバが選んだ人で
はありません」と言った。
  11 サムエルはエッサイに言った。「息子さんはこれで全員ですか」。エッサイは言った。「一番下の子が
まだいます。その子は今,羊を連れて牧草地に行っています」。そこでサムエルはエッサイに言った。「誰か
に連れてきてもらってください。その子がここに来るまで,私たちは食事をしません」。 12 それでエッサイ
はその子を連れてこさせた。その子は血色が良く,美しい目をしていて,姿がりりしかった。エホバは言った。
「この人だ。立ち上がって,油を注ぎなさい!」 13 サムエルは油が入った角を取り,兄たちの前で彼に油を
注いだ。その日からダビデはエホバの聖なる力を受けるようになった。その後サムエルは立ってラマに向かっ
た。
  14 エホバはサウルから聖なる力を取り去った。そしてエホバはサウルが陰鬱な気持ちに襲われるままにし
た。 15 家来たちはサウルに言った。「神はあなたが陰鬱な気持ちに襲われるままにしています。 16 王よ,
どうかたて琴を上手に弾く人を探すよう私どもに命じてください。あなたが陰鬱な気持ちになる時,その人に
弾かせるのです。そうすれば,気持ちが楽になるでしょう」。 17 サウルは家来たちに言った。「上手に弾く
人を見つけ,私の所に連れてきてくれないか」。
  18 従者の1人が言った。「私はベツレヘムの人エッサイの子がたて琴を上手に弾くのを見たことがありま
す。勇敢な強い戦士です。雄弁でりりしく,エホバが共にいる人です」。 19 サウルはエッサイの所に使者を
遣わし,こう言わせた。「羊の群れと共にいる,あなたの息子ダビデを私の所に来させなさい」。 20 それで
エッサイはロバに,パン,ぶどう酒が入った革袋,子ヤギを載せ,息子ダビデに託してサウルのもとに送った。
21 こうしてダビデはサウルのもとに来て仕え始めた。サウルはダビデをとても愛するようになり,ダビデは
サウルの武器を運ぶ人になった。 22 サウルはエッサイの所に人を遣わし,こう伝えさせた。「ダビデを気に
入った。彼が私にずっと仕えるようにさせてもらいたい」。 23 神が,サウルが陰鬱な気持ちになるままにし
た時,ダビデはたて琴を取って弾いた。するとサウルは安心して気持ちが楽になり,陰鬱ではなくなった。
  17 章
  1 フィリスティア人は戦いのために兵士たちを集めた。軍隊はユダのソコに集まり,ソコとアゼカの間,
エフェス・ダミムに陣営を張った。 2 サウルとイスラエルの人たちは集まって,エラの谷に陣営を張り,フィ
リスティア人に立ち向かうため戦闘隊形を組んだ。 3 フィリスティア人は一方の側の山に,イスラエル人はも
う一方の側の山に陣取った。その間には谷があった。
  4 フィリスティア人の陣営から1人の代表戦士が出てきた。ゴリアテという名前で,ガトの人だった。背
丈は290センチほどあった。 5 銅のかぶとをかぶり,うろことじの銅のよろいを着けていた。そのよろいの
重さは60キロほどだった。 6 銅のすね当てを着け,銅の投げやりを背負っていた。 7 やりの木の柄は機織
りが使う巻き棒のように太く,やりの鉄の刃は7キロほどあった。そして盾を持つ兵士が彼の前を歩いていた。
8 ゴリアテは立ち止まり,イスラエルの戦列に呼び掛けて言った。「どうしておまえたちはやって来て戦闘隊
形を組んだのか。俺はフィリスティア人だが,おまえたちはサウルの手下ではないか。おまえたちの中から1
人を選んで,こっちに来させろ。 9 もしそいつが俺と戦って俺を倒したら,俺たちはおまえたちに仕えてやろ
う。だが,俺がそいつに勝って倒したら,おまえたちが仕えるのだ」。 10 フィリスティア人ゴリアテは言っ
た。「今日,俺がイスラエルの戦列に挑んでやる。誰か1人を出せ。掛かってこい!」
  11 サウルとイスラエル全体はこのフィリスティア人の言葉を聞き,おびえ,非常に恐れた。
  12 ダビデは,ユダのベツレヘムつまりエフラタの人エッサイの息子だった。エッサイは8人の息子を持ち,
サウルの時代にはすでに年老いていた。 13 エッサイの上の3人の息子はサウルに従って戦いに行った。長男
エリアブ,次男アビナダブ,三男シャマである。 14 ダビデは一番下の子だった。上の3人の子がサウルに従
って出ていった。
  15 ダビデはサウルの所で仕えながら,父親の羊の番をするため,ベツレヘムとの間を行き来していた。
16 その間,例のフィリスティア人は40日にわたり,朝と夕方に出てきては挑発した。
  17 エッサイは息子ダビデに言った。「この炒った穀物22リットルとパン10個を,陣営にいる兄さんた
ちの所に急いで届けてくれないか。 18 このチーズ10個は千人長の所に持っていってほしい。あと,兄さん
たちが無事かどうかを確かめ,その証拠をもらってきなさい」。 19 兄たちは,サウルやイスラエルの人たち
皆と共に,フィリスティア人と戦うためエラの谷にいた。
  20 ダビデは朝早く起きて羊を代わりの人に任せ,エッサイに命じられた通り,荷物をまとめて出掛けた。
陣営の囲いの所に来ると,軍勢はときの声を上げて戦場に出ていくところだった。 21 イスラエルとフィリス
ティア人は戦列を整え,向き合った。 22 すぐにダビデは持ってきた物を荷物の番人に預け,戦列に走ってい
った。そこに着くと,兄たちが無事かどうかを尋ねた。
  23 ダビデが話していた時,ガトのフィリスティア人,代表戦士ゴリアテがやって来た。フィリスティア人
の戦列から出てきて,前と同じことを言いだしたのである。ダビデはそれを聞いた。 24 イスラエルの人たち
は皆,その男を見て恐れ,逃げ出した。 25 イスラエルの人たちは言った。「やって来たあの男を見たか。イ
スラエルに挑むために来たのだ。あの男を討ち取る人がいれば,王は多額の報酬を出し,自分の娘を与え,そ
の人の父の一家をイスラエルの中で優遇してさまざまな義務を免除するそうだ」。
  26 ダビデはそばにいた人たちに言った。「あのフィリスティア人を討ち取ってイスラエルの屈辱を晴らす
人には,何が与えられるのですか。生きている神の戦列に挑むとは,この割礼を受けていないフィリスティア
人はいったい何者なのですか」。 27 そこで人々は「あの男を討ち取る人には,これこれのものが与えられる
そうだ」と言い,前に言っていたのと同じことを伝えた。 28 一番上の兄エリアブは,ダビデが話しているの
を聞き,怒ってこう言った。「どうして来たのか。荒野のわずかな羊は誰に預けてきたのか。おまえはいつも
出しゃばる。魂胆はよく分かっている。ただ戦いを見に来たんだろう」。 29 ダビデは言った。「私が何をし
たというのですか。ただ質問しただけではないですか」。 30 ダビデが別の人の方を向いて前と同じことを尋
ねると,前と同じ答えが返ってきた。
  31 ダビデが語った言葉は,人々の耳に入り,サウルに伝えられた。それでサウルはダビデを連れてこさせ
た。 32 ダビデはサウルに言った。「あの男のせいで士気が下がることがありませんように。私が行って,あ
のフィリスティア人と戦います」。 33 サウルはダビデに言った。「あなたがあのフィリスティア人と戦うこ
とはできない。あなたはまだ少年だが,彼は若い時から戦士なのだ」。 34 ダビデはサウルに言った。「私は
父の羊の羊飼いになりましたが,ライオンや熊が来て群れから羊を奪っていくことがありました。 35 私は後
を追い,打ち倒し,くわえられていた羊を助け出しました。野獣が襲い掛かってくると,私は毛をつかんで打
ち倒し,殺しました。 36 私はライオンも熊も打ち倒しました。この割礼を受けていないフィリスティア人も
同じようになります。生きている神の戦列に挑んだからです」。 37 ダビデはさらに言った。「ライオンや熊
から助け出してくださったエホバが,このフィリスティア人からも私を助け出してくださいます」。そこでサ
ウルはダビデに言った。「行きなさい。エホバがあなたと共にいてくださいますように」。
  38 サウルは自分の装備をダビデに身に着けさせた。銅のかぶとをかぶらせ,よろいを着けさせた。 39
ダビデはその装備の上に剣を帯び,歩いてみたが,うまくいかなかった。そういう装備に慣れていなかったの
である。ダビデはサウルに,「これでは歩けません。慣れていないのです」と言った。それでダビデは装備を
脱いだ。 40 それから自分のつえを取り,川床から滑らかな石を5つ選んで羊飼いのかばんのポケットに入れ,
石投げ器を持った。そしてフィリスティア人ゴリアテに近づいていった。
  41 フィリスティア人ゴリアテもダビデにだんだん近づいてきた。盾を持つ兵士がゴリアテの前にいた。
42 そのフィリスティア人はダビデを見て,侮った。血色が良くてりりしい,ただの少年だったからである。
43 彼はダビデに,「おまえはつえを持って向かってくるが,俺を犬だとでも思っているのか」と言った。そし
てダビデに災いがあるようにと神々に願い求めた。 44 彼はダビデに言った。「さあ,向かってこい。おまえ
の肉を鳥や野獣の餌にしてやろう」。
  45 ダビデはそのフィリスティア人に言った。「あなたは剣とやりと投げやりを持って向かってくるが,私
はあなたが挑んだイスラエルの戦列の神,大軍を率いるエホバの名によって向かっていく。 46 今日,エホバ
はあなたを私の手に渡し,私はあなたを討ち,あなたの首をはねる。私は今日,フィリスティア人の陣営の死
体を鳥や野獣の餌にする。地上の人々は皆,イスラエルに神がいるのを知ることになる。 47 ここに集う人は
皆,エホバが私たちを救うのに剣ややりを必要とはしないことを知る。戦いはエホバのものだからだ。神はあ
なた方皆を私たちに渡してくださる」。
  48 フィリスティア人ゴリアテはダビデの方に近づいてきた。ダビデはゴリアテに立ち向かうため,敵の戦
列へ勢いよく走った。 49 ダビデはかばんに手を入れて石を1つ取り,石投げ器で投げ,彼の額を撃った。石
は額にめり込み,彼はうつぶせに倒れた。 50 こうしてダビデは石投げ器と石だけでそのフィリスティア人に
勝った。撃ち倒して殺したのである。ダビデの手に剣はなかった。 51 ダビデは走り寄って彼のそばに立った。
それから彼のさやから剣を抜き,それで首をはねて確実に殺した。フィリスティア人たちは仲間の強い戦士が
死んだのを見て,逃げていった。
  52 するとイスラエルとユダの人たちは立ち上がって叫び声を上げ,谷からエクロンの門までフィリスティ
ア人を追っていった。シャアライムからの道に,ガトやエクロンまでフィリスティア人の死体が転がった。 53
その後,イスラエル人はフィリスティア人への追撃をやめて引き返し,陣営を略奪した。
  54 ダビデはフィリスティア人ゴリアテの首を取り,エルサレムに持ち帰った。ゴリアテの武器は自分の天
幕に置いた。
  55 サウルは,ダビデがフィリスティア人に立ち向かおうと出ていった時,軍隊の長アブネルに言った。
「アブネル,あの少年は誰の子か」。アブネルは答えた。「王よ,誓って言います。私は知りません!」 56
王は言った。「誰の子か調べなさい」。 57 ダビデがフィリスティア人ゴリアテを討ち取って帰ると,アブネ
ルは,ゴリアテの首を持ったダビデをサウルの前に連れていった。 58 サウルが「少年よ,あなたは誰の子
か」と言うと,ダビデは「ベツレヘムの人エッサイの子です」と言った。
  18 章
  1 ダビデがサウルと話し終えた後,ヨナタンとダビデは固い友情で結ばれ,ヨナタンはダビデを自分自身
のように愛するようになった。 2 その日からサウルはダビデを自分の家来とし,父の家に帰らせなかった。 3
ヨナタンはダビデを自分自身のように愛していたので,ヨナタンとダビデは契約を結んだ。 4 ヨナタンは着て
いた袖なしの上着を脱いでダビデに与えた。他の服や剣や弓やベルトも与えた。 5 ダビデは戦いに出ていくよ
うになり,サウルに遣わされて行った先々で功績を上げた。それでサウルはダビデに戦士たちをまとめさせた。
民の皆もサウルの家来たちもそのことを喜んだ。
  6 ダビデたちがフィリスティア人を討って帰ってくると,イスラエルの全ての町で女性たちが歌ったり踊
ったりしながら出てきて,タンバリンとリュートを奏で,喜びつつサウル王を迎えるのだった。 7 女性たちは
祝いながら,こう歌った。
  「サウルは何千もの敵を討ち,
  ダビデは何万もの敵を討った」。
  8 サウルは非常に怒った。この歌に機嫌を損ね,「ダビデについては何万と言い,私については何千と言
う。彼に与えられていないのは王権だけだ!」と言った。 9 その日以降,サウルは絶えずダビデを疑うような
目で見た。
  10 翌日,神はサウルが陰鬱な気持ちになるままにしたので,サウルは家の中で異常な行動を取りだした。
ダビデはいつものようにたて琴を奏でていた。やりを手にしていたサウルは, 11 「ダビデを壁に突き刺して
やる」と思い,それを投げ付けた。ダビデは2度,身をかわした。 12 エホバはダビデと共にいたが,サウル
からは離れていたので,サウルはダビデを恐れた。 13 それでサウルはダビデを自分のもとから遠ざけ,千人
長に任命した。ダビデはいつも軍隊を率いて戦いに行った。 14 何をしても必ず功績を上げ,エホバが共にい
た。 15 サウルは,ダビデが大きな功績を上げるのを見て,恐れた。 16 一方,イスラエルとユダは皆,ダビ
デを愛した。彼が戦いで皆を統率していたからである。
  17 やがてサウルはダビデに言った。「私の一番上の娘メラブがいる。彼女をあなたに妻として与えよう。
ただ,私のためにこれからも勇敢にエホバの戦いを戦ってほしい」。サウルは,「自ら手を下すのはやめよう。
フィリスティア人に彼を討たせよう」と考えたのである。 18 ダビデはサウルに言った。「王の婿になるなん
て,私が何者だというのでしょう。私の親族,私の父の一族がイスラエルの中で何者だというのでしょう」。
19 ところが,サウルの娘メラブがダビデに与えられる時になると,メラブはすでにメホラの人アドリエルに妻
として与えられていた。
  20 さて,サウルの娘ミカルはダビデを愛していた。サウルはそのことを人から聞き,好都合だと思った。
21 そしてこう考えた。「彼にミカルを与えて,わなにはめてやろう。フィリスティア人の手に掛かるようにす
るのだ」。サウルはダビデに再び,「あなたは今日,私と結婚による同盟を結ぶ」と話した。 22 それからサ
ウルは家来たちに命じた。「命令されたとは言わずに,ダビデにこう告げよ。『王はあなたを気に入っていま
すし,家来たちもあなたを慕っています。ですから今,王と結婚による同盟を結んではどうですか』」。 23
サウルの家来たちがそう告げると,ダビデは言った。「皆さんは,王と結婚による同盟を結ぶのは何でもない
ことだと思っているのですか。私は貧しくて身分の低い者なのに」。 24 サウルの家来たちは王に,「ダビデ
はこれこれのことを話しました」と言って報告した。
  25 サウルは言った。「ダビデにこう言え。『王は花嫁料を望んではいません。フィリスティア人100人
の包皮をお望みです。敵たちに報復するためです』」。サウルは,ダビデがフィリスティア人の手に掛かるこ
とをもくろんでいたのである。 26 家来たちがダビデにサウルの言葉を伝えたところ,ダビデは王と結婚によ
る同盟を結んでもよいと思った。期限が来ないうちに, 27 ダビデは部下たちと一緒に出ていってフィリステ
ィア人200人を討った。そして王と結婚による同盟を結ぶため,200人の包皮を王のもとに持っていった。
それでサウルは娘ミカルを妻としてダビデに与えた。 28 サウルは,エホバがダビデと共にいること,また娘
ミカルがダビデを愛していることを知った。 29 そのためダビデをいっそう恐れた。サウルはその後ずっとダ
ビデに敵意を抱いた。
  30 フィリスティア人の高官たちがたびたび攻めてきたが,その都度ダビデはサウルのどの家来よりも功績
を上げた。ダビデの名声は非常に高まった。
  19 章
  1 やがてサウルは息子ヨナタンと家来たち皆に,ダビデを殺すことについて話した。 2 サウルの子ヨナ
タンは,ダビデのことをとても大切に思っていたので,ダビデにこう言った。「父サウルはあなたを殺そうと
しています。朝になったら,用心して人目につかない場所に行き,身を隠してください。 3 私はあなたがいる
野原まで行って,父のそばに立ち,あなたについて話します。何か分かれば,必ずあなたに知らせます」。
  4 ヨナタンは父サウルにダビデのことを良く言った。こう話した。「王が家来ダビデに対して罪を犯すよ
うなことはしないでください。彼はあなたに対して罪を犯していませんし,あなたのために貢献してきました。
5 彼は命懸けであのフィリスティア人を討ち取り,エホバがイスラエル全体に大勝利をもたらしてくださいま
した。あなたはそれを見て,非常に喜びました。それなのに,理由もなくダビデを殺し,無実の人の血を流し
て罪を犯すようなことがあってよいでしょうか」。 6 サウルはヨナタンの言うことを聞き入れ,こう誓った。
「生きている神エホバに懸けて私は誓う。彼が殺されることはない」。 7 その後ヨナタンはダビデを呼び,こ
のやりとりを全て伝えた。そしてダビデをサウルのもとに連れていき,ダビデは前と同じようにサウルに仕え
た。
  8 やがて再び戦いが起こった。ダビデは出ていってフィリスティア人と戦い,大勢の人を討ち,敵兵は敗
走した。
  9 ある時,エホバはサウルが陰鬱な気持ちになるままにした。サウルは家で手にやりを持って座っていて,
ダビデはたて琴を奏でていた。 10 サウルはやりでダビデを壁に突き刺そうとしたが,ダビデは身をかわし,
やりは壁に突き刺さった。ダビデはその夜のうちにそこから出て逃げた。 11 サウルはその後,ダビデの家に
使者たちを遣わして見張らせ,朝にダビデを殺させようとした。妻ミカルはダビデに言った。「もし今夜逃げ
なければ,あした殺されてしまいます」。 12 ミカルはすぐにダビデを窓から下りさせ,逃げられるようにし
た。 13 それからテラフィム像を取ってベッドの上に置き,頭の位置にヤギの毛でできた網を置き,全体を服
で覆った。
  14 サウルはダビデを捕まえようとして使者たちを遣わしたが,ミカルは,「あの人は病気です」と言った。
15 それでサウルは再び使者たちにダビデを見に行かせ,言った。「彼をベッドごと,ここに連れてこい。殺
すのだ」。 16 使者たちが入ると,テラフィム像がベッドの上にあり,頭の位置にヤギの毛でできた網があっ
た。 17 サウルはミカルに言った。「おまえはなぜこんなことをして私をだまし,私の敵を逃げさせたのか」。
ミカルはサウルに言った。「あの人に,『行かせてくれ。さもないと,殺す!』と言われたのです」。
  18 ダビデは走って逃げ,ラマのサムエルの所に行った。そしてサウルからされたことを全部話した。その
後ダビデとサムエルはそこから離れ,ナヨトに滞在した。 19 やがてサウルのもとに,「ダビデはラマのナヨ
トにいる」という報告があった。 20 すぐにサウルはダビデを捕まえようとして使者たちを遣わした。使者た
ちは,年長の預言者たちが預言し,サムエルが立ってその人たちをまとめているのを見た。すると神の聖なる
力がサウルの使者たちに働き,使者たちも預言者のように振る舞いだした。
  21 そのことがサウルに伝わると,サウルはすぐにほかの使者たちを遣わしたが,その使者たちも預言者の
ように振る舞いだした。それでサウルはもう一度使者たちを遣わした。3度目だった。彼らも預言者のように
振る舞いだした。 22 ついにサウルもラマに行った。セクにある大きな水ためまで来た時,サウルは「サムエ
ルとダビデはどこにいるか」と尋ねた。人々は「ラマのナヨトにいます」と言った。 23 そこからラマのナヨ
トに向かっている途中,サウルにも神の聖なる力が働き,サウルは預言者のように振る舞いながらラマのナヨ
トまで歩いた。 24 彼も服を脱ぎ,サムエルの前で預言者のように振る舞い,その日もその夜もずっと裸でそ
こに横になっていた。それで,「サウルも預言者の1人なのか」という言い方がある。
  20 章
  1 ダビデはラマのナヨトから逃げ去った。ヨナタンの所に行き,こう言った。「私がいったい何をしたと
いうのでしょう。私はどんな過ちを犯したのでしょうか。どんな罪を犯したというので,あなたの父上に命を
狙われるのですか」。 2 ヨナタンは言った。「あなたが死ぬことなどあり得ません! 父は何でも,大きなこ
とでも小さなことでも,私に話してから行います。この件についても隠すことはないはずです。そのようなこ
とはありません」。 3 ダビデはさらに言った。「あなたの父上は,あなたが私のことを良く思っているのをき
っとご存じなので,『ヨナタンにつらい思いをさせないため,この件は知らせないでおこう』と言われるはず
です。生きている神エホバとあなたに懸けて言います。私の一歩先には死が待っています!」
  4 ヨナタンはダビデに言った。「あなたが言うことを何でもします」。 5 ダビデはヨナタンに言った。
「あしたは新月です。私は王と共に座って食事をすることになっています。それで,私を抜け出させてくださ
い。あさっての夕方まで野原に身を隠します。 6 もしあなたの父上が私の不在について気にしたら,こう言っ
てください。『ダビデは故郷のベツレヘムに至急行かせてほしいと頼んできました。一族全体が集まって年ご
との犠牲を捧げるそうです』。 7 もし父上が『いいだろう』と言われるなら,安心です。しかし,もしお怒り
になるなら,私に危害を加えるつもりだと思ってください。 8 この私に,揺るぎない愛を示してください。あ
なたはエホバの前で私と契約を結んでくださったのです。ですが,もし私に罪があるなら,あなたの手で私を
殺してください。父上に引き渡したりはしないでください」。
  9 ヨナタンは言った。「そんなことは考えないでください! もしも,父が危害を加えるつもりであること
が分かったなら,あなたに必ず伝えます」。 10 ダビデは言った。「父上の返答が厳しいものだったかどうか,
誰が私に教えてくれますか」。 11 ヨナタンはダビデに言った。「さあ,野原に行きましょう」。それで2人
とも野原に出ていった。 12 ヨナタンはダビデに言った。「イスラエルの神エホバに証人となっていただき,
言います。私は,あしたの今ごろかあさってまでに,父に当たってみます。もし父があなたのことを良いと見
なしているなら,人を遣わしてそのことをあなたに伝えます。 13 もし父があなたに危害を加えるつもりなら,
そのことを伝えてあなたを安全に逃れさせます。私がもしそうしないなら,エホバが私を厳しく罰しますよう
に。エホバがあなたと共にいてくださいますように。かつて私の父と共にいてくださったように。 14 私が生
きている間,そして死ぬ時も,エホバのような揺るぎない愛を私に示してくれませんか。 15 私の家の人たち
に揺るぎない愛をずっと示してください。エホバがあなたの敵を地上から一掃するとしても」。 16 こうして
ヨナタンはダビデ家と契約を結んだ。そして,「エホバはあなたの敵に責任を問います」と言った。 17 ヨナ
タンは再びダビデに,愛による誓いを立てさせた。ダビデを自分自身のように愛していたのである。
  18 ヨナタンは言った。「あしたは新月です。あなたの席が空くので,父はあなたがいないことを気にする
でしょう。 19 あさってには,もっと気になるでしょう。以前に身を隠したこの場所に来て,この石のそばに
とどまっていてください。 20 私は,的を射るときのように,石の一方の側に3本の矢を放ちます。 21 そし
て従者を遣わし,『矢を見つけてきなさい』と言います。もし私が従者に『矢はあなたの近くにある。取って
きなさい』と言ったなら,あなたは戻ってきてください。生きている神エホバに懸けて誓いますが,それは平
穏で危険はないという意味です。 22 しかし,もしその若者に,『矢はあなたよりもっと遠くにある』と言っ
たなら,去ってください。エホバがあなたを去らせたからです。 23 この私たちの約束に関し,エホバがいつ
までも私とあなたの間にいてくださいますように」。
  24 こうしてダビデは野原に身を隠した。新月となり,王は食事のために席に着いた。 25 王は壁を背に
していつもの席に座っていた。ヨナタンはその向かいに,アブネルはサウルのそばに座っていたが,ダビデの
席は空いていた。 26 サウルはその日は何も言わなかった。「何かがあって彼は清くないのだ。きっと汚れて
いるのだ」と思ったのである。 27 新月の翌日,2日目も,ダビデの席は空いていた。それでサウルは息子ヨ
ナタンに言った。「エッサイの子は,どうして昨日も今日も食事に来なかったのか」。 28 ヨナタンはサウル
に答えた。「ダビデはベツレヘムに行かせてほしいと頼んできました。 29 彼はこう言いました。『どうか行
かせてください。私たち一族が町で犠牲を捧げるので,兄から来るようにと言われたのです。もしあなたが私
のことを良く思ってくださっているのでしたら,どうか私をそっと出させて兄弟たちに会わせてください』。
それで,王の食卓に来なかったのです」。 30 サウルはヨナタンに激怒し,言った。「この反逆的な女の息子
め,おまえがエッサイの子の肩を持って自分の恥と母親の恥をさらしていることを,私が知らないとでも思っ
ているのか。 31 エッサイの子が地上に生きている限り,おまえの王権が確立されることはないんだぞ。誰か
を遣わしてあいつを連れてこさせろ。殺してやる」。
  32 ヨナタンは父サウルに言った。「なぜ彼が殺されなければいけないのでしょうか。彼が何をしたという
のですか」。 33 するとサウルはヨナタンを刺そうとやりを投げ付けた。それでヨナタンは,父がダビデを殺
すつもりであることを知った。 34 すぐにヨナタンは怒りに燃えて食卓から立ち上がった。その日は何も食べ
なかった。ダビデのことで気を乱されていたのである。父が彼を辱めたからである。
  35 朝になり,ヨナタンはダビデと約束した通り,野原に出掛けていった。若い従者も一緒だった。 36
ヨナタンは従者に言った。「私が射る矢を,走って見つけてきてくれないか」。従者は走っていき,ヨナタン
は従者よりも遠く離れた所に向けて,矢を射た。 37 ヨナタンが射た矢の所まで従者が行くと,ヨナタンは従
者に呼び掛けた。「矢はあなたよりもっと遠くにあるではないか」。 38 ヨナタンはさらに従者に呼び掛けた。
「急いで! 早くしなさい! 立ち止まってはいけない!」 ヨナタンの従者は矢を拾い上げ,主人の所に戻って
きた。 39 従者はこのことについて何も知らず,ヨナタンとダビデだけがその意味を知っていた。 40 その後
ヨナタンは弓矢を従者に渡し,「さあ,これを町に持っていきなさい」と言った。
  41 従者が去っていくと,ダビデは南の方のある場所から立ち上がった。それから地面に顔を伏せ,3度身
をかがめた。2人は口づけし,泣いた。ダビデの方が激しく泣いた。 42 ヨナタンはダビデに言った。「安心
して行きなさい。私たちはお互いエホバの名によって誓い,『私とあなたの間,私の子孫とあなたの子孫の間
に,エホバがいつまでもいてくださいますように』と言ったのですから」。
  ダビデは立ち上がって去っていき,ヨナタンは町に戻った。
  21 章
  1 ダビデはノブにいる祭司アヒメレクの所に行った。アヒメレクはダビデを恐れつつ迎え,言った。「ど
うしてお独りなのですか。お供はいないのですか」。 2 ダビデは祭司アヒメレクに言った。「王からある指示
を受けたのですが,『おまえに与えた任務と指示について,誰にも何も話してはいけない』と言われました。
私はある場所で部下たちと落ち合う約束をしています。 3 今もしパンが5つありましたら,頂けませんか。あ
るいは何でもある物で構いません」。 4 祭司はダビデに言った。「普通のパンは手元にないのですが,聖なる
パンがあります。部下の皆さんがしばらく女性から離れてきたならば,差し上げられます」。 5 ダビデは祭司
に言った。「今までの戦いの時と同じく,私たちは女性から離れています。通常の任務の時に部下たちの体は
聖なるものなのですから,このたびも当然,聖なる状態です」。 6 そこで祭司は聖なるパンを渡した。供えの
パン以外にパンがなかったからである。それは,新しいパンと取り換える日にエホバの前から取り下げられた
パンだった。
  7 さて,その日,サウルの家来の1人がそこにいて,エホバの前で待たされていた。ドエグというエドム
人で,サウルの羊飼いの長だった。
  8 ダビデはアヒメレクに言った。「ここには,やりか剣がありますか。王からの任務が急だったため,剣
も武器も持ってこなかったのです」。 9 祭司は言った。「あなたがエラの谷で討ち取ったフィリスティア人ゴ
リアテの剣があります。布にくるんでエフォドの後ろに置いてあります。お望みでしたら,持っていってくだ
さい。それ以外には何もありません」。ダビデは言った。「それで申し分ありません。それを下さい」。
  10 その日,ダビデは立ち上がってサウルからさらに逃げ,やがてガトのアキシュ王の所に来た。 11 ア
キシュ王に家来たちが言った。「あれは,あの国の王ダビデではないですか。人々が踊りながらこう歌った人
ではないでしょうか。
  『サウルは何千もの敵を討ち,
  ダビデは何万もの敵を討った』」。
  12 ダビデはこの言葉を気にして,ガトのアキシュ王を非常に恐れた。 13 それで彼は家来たちの前で気
が狂ったふりをし,拘束されても,狂人のように振る舞った。門の扉に印を付けたり,顎ひげによだれを垂ら
したりした。 14 ついにアキシュは家来たちに言った。「この男は気が狂っているではないか! 何で連れてき
たんだ。 15 ここに狂人が不足しているとでもいうのか。こいつの狂った行動を私が見たいとでも思うのか。
こんな者は私の家に入れるな」。
  22 章
  1 ダビデはそこから出ていって,アドラムの洞窟に逃れた。彼の兄弟たちと父の家族全体がそのことを聞
き,彼の所にやって来た。 2 また,困窮して借金のある人,生活に不満のある人が皆,彼のもとに集まるよう
になり,彼はそうした人たちの長となった。およそ400人がダビデと共にいるようになった。
  3 その後,ダビデはそこからモアブのミツペに行き,モアブの王に言った。「神が私に何をなさるかが分
かるまで,どうか父と母を皆さんのもとに滞在させてください」。 4 こうしてダビデは両親をモアブの王のも
とに残し,2人は,ダビデが隠れがにいる間ずっとそこに滞在した。
  5 やがて預言者ガドがダビデに言った。「隠れがにずっといてはいけません。ユダの土地に行きなさい」。
それでダビデはそこを去ってヘレトの森に行った。
  6 サウルは,ダビデとその部下たちが見つかったと聞いた。その時サウルは,ギベアの高い場所のギョリ
ュウの木の下でやりを持って座っていた。周りには家来たち皆が立っていた。 7 サウルは周りに立っていた家
来たちに言った。「ベニヤミン族の人よ,聞いてもらいたい。エッサイの子も,おまえたち皆に畑やブドウ園
を与えると思うか。彼はおまえたち皆を千人長や百人長に任命するだろうか。 8 おまえたちは皆,謀反を企て
たのだ! 息子がエッサイの子と契約を結んでも,誰も私に知らせなかった! 今回のように,息子が私の家来
にけしかけて私を狙わせても,誰も私を心配して知らせてはくれない」。
  9 すると,その場にいてサウルの家来をまとめていたエドム人ドエグが言った。「私はノブで,エッサイ
の子がアヒトブの子アヒメレクの所に来るのを見ました。 10 アヒメレクは彼のためにエホバに尋ね,食べ物
を与えました。フィリスティア人ゴリアテの剣も渡しました」。 11 王は直ちにノブに人を遣わして,アヒト
ブの子である祭司アヒメレクとその父の一族の祭司全員を呼んだ。彼らは皆,王のもとに来た。
  12 サウルは言った。「アヒトブの子よ,聞いてもらいたい」。アヒメレクは言った。「はい。王よ」。
13 サウルは言った。「あなたとエッサイの子はどうして謀反を企てたのか。あなたが彼にパンと剣を与え,彼
のために神に尋ねたというではないか。今回のように,彼は私に逆らい,私をひそかに狙っている」。 14 ア
ヒメレクは王に答えた。「あなたの家来の中にダビデほど信頼できる人がいるでしょうか。彼は王の婿,護衛
官の長で,あなたの家で重んじられています。 15 私が彼のために神に尋ねたのは,今回が初めてではありま
せん。あなたが言ったようなことは,考えもしません! 王が私と父の一族に何も負わせませんように。この件
について私は何も知らなかったのです」。
  16 しかし王は,「アヒメレク,あなたは必ず死ぬ。あなたも,父の一族全体もだ」と言った。 17 そし
て周りに立っている護衛たちに言った。「エホバの祭司たちを殺せ! 彼らはダビデの肩を持ったからだ。ダビ
デが逃亡者だと分かっていながら,私に知らせなかった!」 ところが,護衛たちはエホバの祭司たちを襲いた
いとは思わなかった。 18 それで王はドエグに言った。「おまえが祭司たちを襲え!」 エドム人ドエグは直ち
に祭司たちを襲った。その日,亜麻布のエフォドを着ていた85人を殺した。 19 祭司の町ノブも襲い,男性
も女性も,子供も幼児も,牛もロバも羊も剣で倒した。
  20 アヒトブの子アヒメレクの息子の1人,アビヤタルが逃れ,ダビデのもとに走ってやって来た。 21
アビヤタルはダビデに言った。「サウルがエホバの祭司たちを殺しました」。 22 ダビデはアビヤタルに言っ
た。「あの日,エドム人ドエグがあそこにいたので,サウルに報告するのではないかと思っていました。あな
たの父の一族皆が亡くなった責任は私にあります。 23 そばにいてください。恐れることはありません。あな
たの命を狙う者は私の命を狙ったも同然だからです。私があなたを守ります」。
  23 章
  1 ダビデに,「フィリスティア人がケイラを攻めており,脱穀場を略奪している」という報告があった。
2 それでダビデはエホバに尋ねた。「私はフィリスティア人を討ちに行くべきでしょうか」。エホバはダビデ
に言った。「行きなさい。フィリスティア人を討ってケイラを救いなさい」。 3 ダビデの部下たちが言った。
「私たちはここユダにいながら恐れています。ケイラに行ってフィリスティア人の戦列に立ち向かうとなれば,
なおさらでしょう」。 4 ダビデはもう一度エホバに尋ねた。エホバは答えた。「立って,ケイラに下っていき
なさい。私はあなたをフィリスティア人に勝たせるからだ」。 5 それでダビデは部下たちと共にケイラに行き,
フィリスティア人と戦い,家畜を奪って大勢の人を討った。こうしてダビデはケイラの住民を救った。
  6 さて,アヒメレクの子アビヤタルは,ケイラのダビデのもとに逃げた時,エフォドを持っていた。 7
サウルは,「ダビデがケイラに来た」という報告を受けた。それでサウルは言った。「神は彼を私の手に渡し
てくださった。彼は門とかんぬきのある町に入って逃げられなくなった」。 8 サウルは,ケイラに下ってダビ
デとその部下たちを包囲しようと,兵士たち皆を招集した。 9 ダビデはサウルのたくらみを知り,祭司アビヤ
タルに,「エフォドを持ってきてください」と言った。 10 そしてダビデは言った。「イスラエルの神エホバ,
サウルがケイラに来ようとしており,私のことでこの町を滅ぼそうとしていると聞きました。 11 ケイラの指
導者たちは私を彼に引き渡すでしょうか。サウルは,私が聞いた通り,下ってくるでしょうか。イスラエルの
神エホバ,どうか教えてください」。エホバは,「彼は下ってくる」と言った。 12 ダビデは尋ねた。「ケイ
ラの指導者たちは私と部下をサウルに引き渡すでしょうか」。エホバは,「彼らはあなたを引き渡す」と言っ
た。
  13 ダビデは直ちにおよそ600人の部下と共に立ち上がってケイラを出て,あちこちを転々とした。サウ
ルは,ダビデがケイラから逃げたことを知らされ,捕まえに出ていくのをやめた。 14 ダビデは,荒野の奥ま
った岩場,ジフの荒野の山地で野宿した。サウルは絶えずダビデを捜したが,エホバはダビデをサウルの手に
渡さなかった。 15 ジフの荒野のホレシャにいた時,ダビデは自分の命を狙ってサウルが出陣したことを知っ
た。
  16 サウルの子ヨナタンはホレシャのダビデの所に出掛けていき,エホバへの信頼を強めるよう助けた。
17 ヨナタンは言った。「恐れることはありません。私の父サウルがあなたを見つけることはありません。あな
たはイスラエルの王になり,私はあなたの次の地位に就きます。父サウルもそうなることを知っているので
す」。 18 それから2人はエホバの前で契約を結んだ。ダビデはホレシャにとどまり,ヨナタンは家に帰った。
  19 その後,ジフの人たちがギベアのサウルのもとに上ってきて言った。「ダビデは私たちの近く,ホレシ
ャの奥まった岩場に隠れています。エシモンの南,ハキラの丘の上です。 20 王よ,良いと思われる時に下っ
てきてください。彼を王に引き渡します」。 21 サウルは言った。「あなたたちがエホバに祝福されますよう
に。あなたたちは私のことを思ってくれた。 22 彼の居場所はどこか,誰が彼を見たのかを調べに行ってくれ
ないか。彼は非常にずる賢いと聞いている。 23 彼の隠れ場所を全て突き止め,その証拠も持ってきてほしい。
そうしたら,私はあなたたちと一緒に行く。彼がその地方にいるなら,私はユダの全氏族の中から彼を捜し出
す」。
  24 それで彼らはサウルより先にジフに向かった。一方,ダビデと部下たちは,エシモンの南のアラバにあ
る,マオンの荒野にいた。 25 やがてサウルが部下たちと共にダビデを捜しに来た。その知らせを受けたダビ
デはすぐに大岩の所に下り,マオンの荒野にとどまった。サウルはそのことを聞き,ダビデの後を追ってマオ
ンの荒野に行った。 26 サウルが山の一方の側に来た時,ダビデと部下たちはその山のもう一方の側にいた。
ダビデはサウルから急いで逃げたが,サウルと部下たちはダビデたちを捕まえようと迫っていった。 27 とこ
ろが,サウルのもとに使者が来て,言った。「急いで戻ってきてください。フィリスティア人が襲撃してきま
した!」 28 それでサウルはダビデの後を追うのをやめて引き返し,フィリスティア人に立ち向かうために出
ていった。そのため,その場所は「分岐の大岩」と名付けられた。
  29 ダビデはそこから上っていって,エン・ゲディの奥まった岩場に身を潜めた。
  24 章
  1 サウルがフィリスティア人を追うのをやめて帰ると,「ダビデはエン・ゲディの荒野にいる」という報告
があった。
  2 そこでサウルはイスラエル全体から選ばれた3000人を率いて,山ヤギの岩場にダビデたちを捜しに
行った。 3 サウルは,道の脇にある羊の石囲いの所に来た。そこには洞窟があり,用を足すために中に入った。
その洞窟の一番奥に,ダビデと部下たちが座っていた。 4 部下たちはダビデに言った。「まさに今日エホバは,
『あなたの敵をあなたの手に渡そう。良いと思う通りにしてよい』と言っています」。そこでダビデは立ち上
がり,サウルの袖なしの上着の裾をそっと切り取った。 5 しかし,その後ダビデは,サウルの袖なしの上着の
裾を切り取ったことで,心が痛んだ。 6 ダビデは部下たちに言った。「私の主人に,エホバが選んだ人に,私
が手を出してこのようなことをするなど,エホバの観点からは考えられないことです。エホバが選んだ人なの
ですから」。 7 ダビデはそう言って彼らをとどめ,サウルを襲うことを許さなかった。サウルは立ち上がり,
洞窟から出ていった。
  8 ダビデは立ち上がって洞窟から出ていき,サウルの後ろから,「ご主人さま,王よ!」と呼び掛けた。
サウルが振り向くと,ダビデは身をかがめてひれ伏した。 9 ダビデはサウルに言った。「なぜあなたは,『ダ
ビデがあなたに危害を加えようとしている』と言う人の言葉に耳を傾けるのですか。 10 まさに今日,あなた
は自分の目で,エホバが洞窟の中であなたを私の手に渡したのを見ました。ある者があなたを殺そうと言いま
したが,私はあなたに同情し,『私の主人に手を出すことはしない。エホバが選んだ人なのだから』と言いま
した。 11 ご覧ください,ご主人さま。私の手にある,あなたの袖なしの上着の裾を見てください。この裾を
切り取った時,私はあなたを殺しませんでした。あなたに危害を加えるつもりも,歯向かうつもりもないこと
をこれで分かっていただけますか。私はあなたに対して罪を犯していないのに,あなたは私の命を奪おうと付
け狙っているのです。 12 エホバが私とあなたを裁いてくださいますように。あなたへの復讐はエホバがして
くださいますように。私の手があなたに向かうことはありません。 13 古い格言の通り,『悪は悪人から出
る』のであって,私の手があなたに向かうことはありません。 14 イスラエルの王は誰を追って出てこられた
のですか。私はどんな者でしょう。私は死んだ犬にすぎません。ただの1匹のノミです。 15 エホバが裁いて
くださいますように。神が私とあなたを裁きます。神はご覧になり,私を弁護して判決を下し,あなたの手か
ら助け出してくださいます」。
  16 ダビデがそう言い終えると,サウルは「ダビデ,あなたの声なのか」と言い,声を上げて泣きだした。
17 そしてダビデに言った。「あなたの方が正しい。あなたは私に良くしてくれたが,私はあなたにひどいこと
をした。 18 あなたは今日,私にした良いことを教えてくれた。エホバが私をあなたの手に渡したのに,あな
たは私を殺さなかった。 19 敵を見つけたのに何もせずに逃がしてやる人がいるだろうか。今日私にしてくれ
たことのゆえに,エホバはあなたに良い報いを与えてくださる。 20 あなたが必ず王として治め,あなたの手
でイスラエルの王国が存続するということが今よく分かった。 21 だから今,私の子孫を絶やさず,私の父の
一族から私の名前を消し去らないと,エホバに懸けて私に誓ってくれ」。 22 それでダビデはサウルに誓った。
その後サウルは家に帰った。ダビデと部下たちは隠れがに上っていった。
  25 章
  1 やがてサムエルが死んだ。イスラエル全体が集まり,彼のことで嘆き悲しみ,彼をラマの家の近くに葬
った。その後ダビデは立ち上がり,パランの荒野に下っていった。
  2 さて,マオンに1人の男性がいた。カルメルで仕事をしているとても裕福な人で,羊3000匹とヤギ
1000匹を持っていた。その頃,彼はカルメルで羊の毛を刈っていた。 3 その人はナバルといい,妻はアビ
ガイルといった。妻は機転が利く美しい人だったが,カレブの子孫である夫は荒っぽくて行状が悪かった。 4
ダビデはナバルが羊の毛を刈っていることを荒野で聞いた。 5 それでダビデは次のように言って,10人の部
下をナバルの所に遣わした。「カルメルに上っていきなさい。ナバルの所に着いたら,私の名前を告げて,元
気かどうか尋ねてください。 6 そしてこう言うのです。『あなたが健やかに長生きされますように。あなたの
家の人たちもお持ちのものも全てご無事でありますように。 7 あなたが羊の毛を刈っているとお聞きしました。
あなたの羊飼いたちと一緒にいた時,私たちは何の危害も加えませんでした。彼らはカルメルにいた間ずっと
何の損失も被っていないはずです。 8 あなたの若者たちに尋ねていただければ,そう話すと思います。私の部
下たちがあなたの好意を得られますように。この喜ばしい時にやって来たのですから。どうか部下たちと私ダ
ビデに何かを分け与えてください』」。
  9 それでダビデの部下たちは行き,ダビデの名前を告げて,全てをナバルに伝えた。伝え終えると, 10
ナバルはダビデの従者たちに言った。「ダビデとは誰だ。エッサイの子とは誰だ。最近は主人のもとから逃げ
出すやつが多い。 11 私のパンと水,毛を刈る者たちのためにさばいた肉を,どこの誰だか分からないやつら
に与えないといけないのか」。
  12 部下たちは戻って,全てをダビデに報告した。 13 ダビデは直ちに部下たちに言った。「皆,剣を身
に着けなさい!」 それで彼らは皆剣を身に着け,ダビデも剣を身に着けた。およそ400人がダビデと共に上
っていき,200人は荷物のそばにとどまった。
  14 その間に,ナバルの召し使いの1人がナバルの妻アビガイルにこう伝えた。「ご主人の健康を願う言葉
を伝えるため,ダビデが荒野から使者を送ってこられたのに,ご主人は怒鳴って侮辱しました。 15 あの人た
ちは私たちにとても良くしてくれました。私たちは危害を加えられたことはなく,彼らと野原にいた間ずっと
何の損失も被りませんでした。 16 彼らと共にいて羊の群れを世話していた間ずっと,彼らは昼も夜も私たち
の周りで防護壁のようになってくれました。 17 それで今,どうすべきかをご判断ください。ご主人と家の人
たち皆に災難が降り掛かろうとしています。ご主人はどうしようもない方で,誰も何も言えないのです」。
  18 アビガイルは急いでパン200個,ぶどう酒が入った大きなつぼ2つ,下ごしらえした羊の肉5匹分,
炒った穀物35リットル,干しぶどうの菓子100個,干しいちじくの菓子200個を用意し,全部をロバに
載せた。 19 そして召し使いたちに,「先を進んでください。付いていきます」と言った。夫ナバルには何も
言わなかった。
  20 アビガイルがロバに乗って山陰を下っている時,ダビデと部下たちもちょうどそこへ下っていた。アビ
ガイルは彼らと出会った。 21 ところで,ダビデはこう言っていた。「荒野であの人のものを全て守ったのは
無駄なことだった。私のおかげで彼は何の損失も被らなかったのに,恩をあだで返すとは。 22 もし私が彼の
下にいる男を1人でも朝まで生かしておくなら,神が私の敵を厳しく罰しますように」。
  23 アビガイルはダビデを見掛けると,急いでロバから下り,ダビデの前でひれ伏した。 24 そしてダビ
デの足元に伏して,こう言った。「悪いのはこの私でございます。どうか,申し上げさせてください。私の言
葉をお聞きください。 25 どうか,あのどうしようもない男ナバルに心をお向けになりませんように。名前の
通りの人ですから。ナバルがその名前で,分別がない人です。私は,あなたがお遣わしになった部下たちには
お目に掛かりませんでした。 26 それで今,生きている神エホバとあなたに懸けて申し上げます。あなたが流
血の罪を犯して自分の手で復讐することがないよう,エホバはあなたをとどめました。あなたの敵と,あなた
に危害を加えようとする人がナバルのようになりますように。 27 あなたのために持ってまいりましたこの贈
り物を,あなたに従う部下たちにお与えください。 28 どうか私の違反をお許しください。あなたはエホバの
戦いを戦っておられるのですから,エホバは必ずあなたの家系を存続させてくださいます。あなたはこれまで
ずっと何の悪いこともしてこられませんでした。 29 誰かがあなたを追跡して命を狙う時,あなたの命はエホ
バ神の命の袋の中に安全に包まれます。一方,神はあなたの敵の命を石投げ器で投げる石のように放り投げま
す。 30 エホバが約束通りあなたにさまざまな良いことをしてくださり,あなたをイスラエルの指導者に任命
する時, 31 あなたは,理由もなく人の血を流して自分の手で復讐したという後悔の気持ちを抱くことはあり
ません。エホバがあなたに良くしてくださる時,どうか私を思い出してください」。
  32 ダビデはアビガイルに言った。「今日あなたを遣わしてくださったイスラエルの神エホバが賛美されま
すように! 33 分別があるあなたを,神が祝福してくださいますように! 今日,流血の罪を犯して自分の手で
復讐しないよう,私を思いとどまらせたあなたを,神が祝福してくださいますように。 34 あなたに危害を加
えないよう私をとどめたイスラエルの生きている神エホバに懸けて言います。もしあなたが急いで会いに来て
くれなかったなら,朝までにナバルのもとに男は一人も残らなかったでしょう」。 35 ダビデは彼女が持って
きた物を受け取り,言った。「安心して家に帰りなさい。あなたの言うことはよく分かりました。望み通りに
しましょう」。
  36 アビガイルがナバルの所に戻ると,ナバルは家で王のような宴会を楽しんでいた。いい気分になり,非
常に酔っていた。アビガイルは夜が明けるまで彼に何も話さなかった。 37 朝になり,ナバルの酔いがさめる
と,妻アビガイルはあったことを伝えた。すると彼の心臓はまひし,彼は石のように動かなくなった。 38 約
10日後,ナバルはエホバに打たれて死んだ。
  39 ダビデはナバルが死んだことを聞き,こう言った。「ナバルに非難された私を弁護し,悪を行わないよ
う私をとどめてくださったエホバが賛美されますように! エホバはナバルの悪が彼の身に降り掛かるようにさ
れた」。それからダビデは人を遣わして,アビガイルを妻として迎えたいという申し入れを伝えさせた。 40
ダビデの従者たちはカルメルのアビガイルの所に来て,言った。「ダビデはあなたを妻として迎えるために私
たちを遣わしました」。 41 彼女はすぐに立ち上がり,ひれ伏して言った。「ご主人さまの従者の足を洗う者
にぜひともならせてください」。 42 それからアビガイルは急いで立ち上がってロバに乗り,召し使いの女性
5人を連れて,ダビデの使者たちに付いていった。こうしてアビガイルはダビデの妻になった。
  43 ダビデはエズレルの人アヒノアムとも結婚していたので,この2人の女性が妻となった。
  44 一方,サウルの娘である,ダビデの妻ミカルは,サウルによってガリムの人ライシュの子パルティに与
えられていた。
  26 章
  1 やがてジフの人たちがギベアのサウルのもとに来て言った。「ダビデはエシモンに面するハキラの丘に
隠れています」。 2 そこでサウルは立ち上がり,ジフの荒野に下っていった。ジフの荒野でダビデを捜すため,
イスラエルから選ばれた3000人を連れていった。 3 サウルはエシモンに面するハキラの丘で,道のそばに
野営した。一方,ダビデは荒野に住んでいて,自分を追ってサウルが荒野に来たことを知った。 4 それで,サ
ウルが本当に来たかどうかを確かめようと偵察を送った。 5 その後,ダビデはサウルが陣営を張っていた所に
行った。そして,ネルの子である軍隊の長アブネルとサウルが寝ている場所を見つけた。陣営の中でサウルは
寝ており,兵士たちがサウルの周りで野営していた。 6 ダビデはヘト人アヒメレクと,ツェルヤの子でヨアブ
の兄弟のアビシャイに言った。「サウルがいる陣営に誰が私と共に行きますか」。アビシャイが,「私が共に
行きます」と答えた。 7 夜,ダビデとアビシャイは兵士たちの所に進んでいった。そして,サウルが陣営の中
で寝ているのを見つけた。サウルの頭のそばにやりがあり,地面に突き刺さっていた。アブネルと兵士たちも
サウルの周囲で寝ていた。
  8 アビシャイはダビデに言った。「神は今日,あなたの敵をあなたの手に渡されました。それで今,どう
か私に,彼をやりで地面に突き刺させてください。一度で仕留めます」。 9 ダビデはアビシャイに言った。
「危害を加えてはいけません。エホバが選んだ人に手を出しながら無罪でいられる人などいるでしょうか」。
10 ダビデは続けて言った。「エホバは生きています。彼はエホバに必ず打たれます。あるいは,生涯の終わり
が来て死ぬか,戦いで命を落とすかします。 11 エホバが選んだ人に私が手を出すなど,エホバの観点からし
て考えられないことです! さあ,彼の頭のそばにあるやりと水差しを取ってきてください。それから立ち去り
ましょう」。 12 こうしてダビデはサウルの頭のそばからやりと水差しを取り,2人は立ち去った。誰にも見
つからず,気付かれなかった。目を覚ました人もいなかった。エホバが深く眠らせていたため,皆,眠り込ん
でいたのである。 13 それからダビデは反対側に渡っていき,いくらか離れた山の頂上に立った。両者の間に
はかなりの距離があった。
  14 ダビデは兵士たちとネルの子アブネルに叫んだ。「アブネル,聞こえますか」。アブネルは答えた。
「王に向かって叫ぶあなたは誰だ」。 15 ダビデはアブネルに言った。「あなたは勇ましい人ではありません
か。イスラエルの中にあなたのような人がいるでしょうか。それなのに,なぜ自分の主人である王を見守って
いなかったのですか。兵士の1人が,あなたの主人である王を亡き者にしようとして入り込みました。 16 あ
なたは務めを怠りました。生きている神エホバに懸けて言います。あなたたちは死に値します。自分たちの主
人を,エホバが選んだ人を見守っていなかったからです。王の頭のそばにあったやりと水差しがどこにあるか,
見てみなさい」。
  17 サウルはダビデの声に気付き,言った。「ダビデ,あなたの声なのか」。ダビデは言った。「ご主人さ
ま,王よ,私の声です」。 18 そしてこう続けた。「ご主人さまはどうして私の後を追うのですか。私が何を
したというのでしょうか。私にどんな罪があるのですか。 19 ご主人さま,王よ,どうか私の言葉を聞いてく
ださい。もし,私に敵対するようあなたを駆り立てたのがエホバでしたら,私は穀物の捧げ物を捧げます。し
かし,もし人々が駆り立てたのでしたら,その人たちはエホバから災いを受けますように。『行って,ほかの
神々に仕えよ』と言い,私をエホバの民から引き離して追い出したからです。 20 エホバのもとから離れた場
所で私の血が地面に落ちることがないようにしてください。イスラエルの王は,山でシャコを追うかのように,
1匹のノミを捜しに出てこられました」。
  21 サウルは言った。「私は罪を犯した。ダビデ,戻ってきなさい。もう危害を加えたりはしない。あなた
が今日,私の命を尊んでくれたからだ。私は愚かなことをした。大変な間違いをした」。 22 ダビデは言った。
「ここに王のやりがあります。あなたの部下に取りに来させてください。 23 エホバは,正しくて忠実なこと
をする人に報いてくださいます。今日,エホバはあなたを私の手に渡しましたが,私はエホバが選んだ人に手
を出そうとはしませんでした。 24 私が今日あなたの命を尊んだように,エホバも私の命を尊び,あらゆる苦
難から助け出してくださいますように」。 25 サウルはダビデに言った。「ダビデ,あなたが祝福されますよ
うに。あなたは必ず偉大なことをし,必ず成功する」。そしてダビデは去っていき,サウルは家に帰った。
  27 章
  1 ダビデは心の中でこう言った。「私はいつかサウルの手で殺されるだろう。フィリスティア人の地方に
逃げるのが一番いい。そうすれば,サウルはイスラエルの領土中で私を捜すのを諦め,私は逃げ切れる」。 2
そこでダビデは立ち上がり,共にいた600人と一緒に,ガトの王,マオクの子アキシュの所に行った。 3 ダ
ビデと部下たちやそれぞれの家の人たちは,ガトのアキシュのもとに滞在した。ダビデは2人の妻と一緒だっ
た。エズレルのアヒノアムと,以前ナバルの妻だった,カルメルの人アビガイルである。 4 サウルは,ダビデ
がガトに逃げ去ったという報告を聞き,捜すのをやめた。
  5 ダビデはアキシュに言った。「もし私があなたの好意を得ていましたら,どこかの田舎町に場所を下さ
り,そこに住まわせてください。この私がどうして王が住む町に住んでよいでしょうか」。 6 それでアキシュ
はその日,チクラグを与えた。そのような訳で,チクラグは今もユダの王の所有地である。
  7 ダビデがフィリスティア人の土地に住んだ期間は1年4カ月だった。 8 ダビデはしばしば部下たちと
共に出ていき,ゲシュル人,ギルズ人,アマレク人を襲撃した。その人々はテラムからシュル,そしてエジプ
トにまで広がる地域に住んでいたのである。 9 ダビデはその地域を攻めると,男性も女性も生かしておかなか
った。羊,牛,ロバ,ラクダ,衣類を奪っては,アキシュのもとに帰るのだった。 10 アキシュが,「あなた
方は今日どこを襲撃したのか」と尋ねると,ダビデは,「ユダの南です」,「エラフメエルの子孫の土地の南
です」,「ケニ人の土地の南です」などと答えていた。 11 ダビデは男性や女性を生かしたままガトに連れて
くることはしなかった。彼が言うには,「私たちのことを報告させないため,『ダビデはこれこれのことをし
た』と言わせないため」だった。(ダビデは,フィリスティア人の土地に住む間ずっと,こういう方法を取っ
た。) 12 それでアキシュはダビデを信じ,こう思った。「彼は間違いなくイスラエル人に憎まれるようにな
った。だから,私にずっと仕えるに違いない」。
  28 章
  1 その頃,フィリスティア人がイスラエルと戦うため軍隊を集めた。そこでアキシュはダビデに言った。
「当然分かっていると思うが,あなたも部下たちも私と共に戦いに行くことになる」。 2 ダビデはアキシュに
言った。「あなたは私のすることを確かにご存じです」。アキシュはダビデに言った。「ならば,あなたをず
っと私の護衛官にしよう」。
  3 さて,サムエルはすでに死んでいた。イスラエル全体が彼のことで嘆き悲しみ,故郷のラマに彼を葬っ
た。そして,サウルは領土から霊媒師や占い師を排除していた。
  4 フィリスティア人は集まって進み,シュネムに陣営を張った。それでサウルはイスラエル全体を集め,
ギルボアに陣営を張った。 5 サウルはフィリスティア人の陣営を見ると,恐れ,ひどくおびえた。 6 サウル
はエホバに尋ねたが,エホバは夢によっても,ウリムによっても,預言者によっても答えなかった。 7 サウル
はやがて家来たちに言った。「女の霊媒師を探してこい。その女の所に行って相談しようと思う」。家来たち
は言った。「エン・ドルに女の霊媒師がいます」。
  8 それでサウルは変装し,服を着替え,夜に2人の部下を連れてその女性の所に行った。サウルは言った。
「霊媒師として占ってくれ。私が言う人を呼び出してほしい」。 9 女性は言った。「あなたはサウルがしたこ
とを知っているはずです。彼は領土から霊媒師や占い師を排除したのです。それなのに,どうして私をわなに
掛けて死なせようとするのですか」。 10 するとサウルはエホバに懸けて誓って,こう言った。「生きている
神エホバに懸けて誓う。この件であなたが罪を負うことはない!」 11 女性は,「誰を呼び出しましょうか」
と言った。サウルは,「サムエルを呼び出してくれ」と答えた。 12 女性は“サムエル”を見ると,大声で叫
び,サウルに言った。「どうして私をだましたのですか。あなたはサウルではないですか!」 13 王は言った。
「恐れなくてよい。何が見えるのか」。女性はサウルに答えた。「神のような者が地面から上ってくるのが見
えます」。 14 サウルはすぐ尋ねた。「どんな姿をしているか」。女性は言った。「年取った人が上ってきて
います。袖なしの上着を着ています」。それでサウルは,サムエルに間違いないと思い,身をかがめてひれ伏
した。
  15 すると“サムエル”はサウルに言った。「どうして私を呼び出して煩わすのですか」。サウルは言った。
「非常に困っているのです。フィリスティア人が攻めてきているのに,神は私から離れてしまい,預言者によ
っても夢によっても答えてくださいません。それで,どうすればよいかを教えていただきたくて,お呼びしま
した」。
  16 “サムエル”は言った。「エホバがあなたから離れ,敵となっているのに,どうして私に尋ねるのです
か。 17 エホバは,私を通して予告したことを行います。エホバはあなたから王国を引き裂いて取り上げ,あ
なたの仲間ダビデに与えます。 18 あなたはエホバの言うことに従わず,神を怒らせたアマレク人を滅ぼしま
せんでした。それでエホバは今あなたをこのように扱っているのです。 19 また,エホバはイスラエルもあな
たもフィリスティア人に引き渡し,明日,あなたとあなたの子たちは私と一緒になります。エホバはイスラエ
ルの軍勢もフィリスティア人に引き渡します」。
  20 するとサウルはばったり倒れた。“サムエル”の言葉のために非常に恐れた。サウルは一昼夜何も食べ
ていなかったので,力がなくなっていた。 21 女性が近づいて見ると,サウルはひどく動揺していた。それで
サウルにこう言った。「あなたの言うことに従い,命懸けで,言われた通りにいたしました。 22 今度はどう
か私の言うことを聞いてください。パンを1切れお出ししますので,召し上がってください。そうすれば力が
出て,お帰りになれます」。 23 ところがサウルは拒み,「食べない」と言った。家来たちや女性がしきりに
勧めると,ようやく彼は聞き入れ,立ち上がってベッドに座った。 24 女性は,家にいた肥えた子牛を急いで
ほふり,麦粉をこねて無酵母パンを焼いた。 25 そしてサウルと家来たちに振る舞った。彼らは食べ,その後
立ち上がり,夜のうちに去っていった。
  29 章
  1 フィリスティア人は軍隊を皆アフェクに集めた。一方,イスラエル人はエズレルの泉のそばに野営して
いた。 2 フィリスティア人の領主たちが百人隊,千人隊を率いて進み,ダビデと部下たちはアキシュと共にそ
の後に続いた。 3 フィリスティア人の高官たちが言った。「あのヘブライ人たちは何でここにいるんだ」。ア
キシュはフィリスティア人の高官たちに言った。「あれはイスラエルのサウル王の家来ダビデで,ここ1年以
上,私のもとにいる。脱走してやって来た日から今日まで,彼には何の非もない」。 4 ところが,フィリステ
ィア人の高官たちは憤慨し,こう言った。「あの男を帰らせろ。あなたが与えた場所に戻らせるのだ。われわ
れと一緒に戦いに行かせてはならない。戦いの時に敵に回るといけないからだ。彼が自分の主人の好意を得る
ために,われわれの部下の首はまさにうってつけではないか。 5 彼は,人々が踊りながらこう歌ったあのダビ
デではないか。
  『サウルは何千もの敵を討ち,
  ダビデは何万もの敵を討った』」。
  6 そこでアキシュはダビデを呼んで言った。「生きている神エホバに懸けて言う。あなたは正直な人だ。
私は,あなたがわが軍と共に戦いに行くのは良いと思っている。やって来た日から今日まであなたには何の非
もないからだ。だが,領主たちはあなたを信頼していない。 7 だから,気を付けて帰りなさい。フィリスティ
ア人の領主たちの嫌がることは何もしてはいけない」。 8 ダビデはアキシュに言った。「私が何をしたという
のですか。あなたのもとに来た日から今日まで私にどんな非があったというのですか。王よ,あなたの敵と戦
うために,どうしてあなたと一緒に行ってはいけないのでしょうか」。 9 アキシュはダビデに言った。「私か
らすれば,あなたは神の天使のように良い人だ。だが,フィリスティア人の高官たちが,『われわれと一緒に
戦いに行かせてはならない』と言っているのだ。 10 だから,あなたが連れてきた部下たちと一緒に朝早く起
きなさい。明るくなったらすぐ出ていきなさい」。
  11 それでダビデと部下たちは朝早く起きて,フィリスティア人の土地に帰っていった。フィリスティア人
はエズレルに向かった。
  30 章
  1 ダビデと部下たちは3日後にチクラグに戻った。南部とチクラグはそれより前にアマレク人に襲撃され
ていた。アマレク人はチクラグを攻め,火で焼き, 2 女性たちとそこにいた全ての人を,若者も年寄りも,捕
虜として連れ去っていた。誰も殺さず,連れ去っていた。 3 ダビデと部下たちが町に戻ると,そこは焼き払わ
れ,妻や息子や娘たちが捕虜として連れ去られていた。 4 ダビデと部下たちは声を上げて泣きだし,やがて泣
く力もなくなった。 5 ダビデの2人の妻,エズレルのアヒノアムと,かつてカルメルの人ナバルの妻だったア
ビガイルも捕虜として連れ去られていた。 6 部下たちがダビデを石打ちにすると言いだしたため,ダビデは非
常に追い詰められた。息子や娘を失ったことで皆,逆上したのである。それでもダビデはエホバ神に頼って自
分を力づけた。
  7 それからダビデはアヒメレクの子,祭司アビヤタルに言った。「どうかエフォドを持ってきてくださ
い」。それでアビヤタルはダビデの所にエフォドを持ってきた。 8 ダビデはエホバに尋ねた。「略奪隊の後を
追うべきでしょうか。追い付けるでしょうか」。神は彼に言った。「追っていきなさい。あなたは必ず追い付
き,全てを取り返すことになる」。
  9 直ちにダビデは,共にいた600人の部下を連れて出ていき,ベソルの谷にまで行った。部下の一部は
そこにとどまった。 10 ダビデと400人の部下は追い続けたが,200人は疲れ切っていたためベソルの谷
を渡れそうになく,そこにとどまったのである。
  11 部下たちは野原で1人のエジプト人を見つけ,ダビデの所に連れていった。そして食べ物と水を与え,
12 干しいちじくの菓子1切れと干しぶどうの菓子2つも与えた。すると彼は食べて元気を取り戻した。3日3
晩,何も食べず,水も飲んでいなかったのである。 13 ダビデは彼に尋ねた。「あなたの主人は誰ですか。ど
こから来たのですか」。彼は言った。「私はエジプト人で,あるアマレク人の奴隷ですが,3日前に病気にな
ったため,主人に置き去りにされました。 14 私たちは,ケレト人の南部とユダの領地とカレブの南部を襲撃
し,チクラグを火で焼きました」。 15 ダビデは彼に言った。「その略奪隊の所まで案内してくれますか」。
彼は言った。「私を殺したり主人に引き渡したりしないと,神に懸けて私に誓ってくださるなら,略奪隊の所
まで案内します」。
  16 彼がダビデを案内していくと,アマレク人は辺り一面に広がって飲み食いし,祝宴を開いていた。フィ
リスティア人の土地とユダの土地から非常に多くの物を奪ってきたからである。 17 ダビデは朝の暗いうちか
ら夕方まで彼らを討った。ラクダに乗って逃げた400人のほかは,誰一人逃れた人はいなかった。 18 ダビ
デはアマレク人に奪われたものを全て取り返した。2人の妻も救い出した。 19 自分たちのものを何もかも一
つ残らず奪い返した。息子や娘たちも奪われた物も,全てをダビデは取り返した。 20 ダビデは全ての羊と牛
を奪い,取り返した自分たちの家畜の前を行かせた。部下たちは,「これはダビデの戦利品だ」と言った。
  21 ダビデは,ベソルの谷のそばにとどまっていた200人の部下の所に戻ってきた。彼らは疲れ切ってい
たため一緒には行けなかったのである。彼らはダビデと部下たちを迎えに出てきた。ダビデは近づき,具合は
どうかと尋ねた。 22 ところが,ダビデと一緒に行った部下のうち,悪くてどうしようもない人たちが皆,こ
う言った。「彼らは一緒に来なかったのだから,われわれが取り返した物をやるわけにはいかない。妻と子供
たちは連れていってよいが」。 23 ダビデは言った。「私の兄弟たち,エホバが下さった物について,そのよ
うな扱いをしてはいけません。神が私たちを守ってくださり,私たちを襲った略奪隊を私たちの手に渡してく
ださったのです。 24 あなたたちの考えに同意する人がいるでしょうか。戦いに行った人の分け前も,荷物の
そばに座っていた人の分け前も同じです。皆が一緒に分け前を受け取るのです」。 25 その日以降,ダビデが
言ったことはイスラエルの規定また決まりとなり,今に至っている。
  26 ダビデはチクラグに戻ると,戦利品の幾らかを友人であるユダの長老たちに送って,こう言った。「贈
り物を差し上げます。エホバの敵から奪った物です」。 27 送った相手は,ベテルの人たち,ネゲブのラモト
の人たち,ヤティルの人たち, 28 アロエルの人たち,シフモトの人たち,エシュテモアの人たち, 29 ラカ
ルの人たち,エラフメエルの子孫の町々の人たち,ケニ人の町々の人たち, 30 ホルマの人たち,ボルアシャ
ンの人たち,アタクの人たち, 31 ヘブロンの人たち,ダビデと部下たちがよく訪れた場所の人たちだった。
  31 章
  1 フィリスティア人はイスラエルと戦っていた。イスラエルの人たちはフィリスティア人から逃げ,多く
がギルボア山で殺されて倒れた。 2 フィリスティア人はサウルとその子たちに迫っていった。そしてサウルの
子ヨナタン,アビナダブ,マルキ・シュアを討った。 3 サウルへの攻撃が激しくなり,弓を射る人たちに見つ
かったサウルは撃たれ,ひどい傷を負った。 4 サウルは武器を運ぶ従者に言った。「剣を抜き,私を刺し通し
てくれ。あの割礼を受けていない者たちに刺し通され,むごく扱われるのはごめんだ」。しかし従者は恐れの
あまり,そうしようとしなかった。それでサウルは剣を取って,その上に突っ伏した。 5 従者もサウルが死ん
だのを見て,剣の上に突っ伏し,サウルと共に死んだ。 6 こうしてその日,サウルと3人の息子と武器を運ぶ
従者,そして部下たちも皆,共に死んだ。 7 谷の地域やヨルダン地方にいたイスラエルの民は,イスラエルの
兵士たちが逃げ去ったこと,サウルと息子たちが死んだことを知ると,町を捨てて逃げ始めた。その後フィリ
スティア人がやって来て,そこを占領した。
  8 翌日,フィリスティア人が戦死者から物品を剥ぎ取ろうとして来てみると,サウルと3人の息子がギル
ボア山で倒れていた。 9 そこで彼らはサウルの首を切り落とし,武具を剥ぎ取った。そしてフィリスティア人
の領土中に人を送り,彼らの偶像の神殿や民の所に知らせを伝えた。 10 それからサウルの武具をアシュトレ
テの像の神殿に置き,遺体はベト・シャンの城壁にくぎ付けにした。 11 ヤベシュ・ギレアデの住民はフィリス
ティア人がサウルにしたことを聞くと, 12 戦士たちが皆立ち上がって夜通し移動し,サウルと息子たちの遺
体をベト・シャンの城壁から取り外し,ヤベシュに持ち帰って焼いた。 13 それから骨を取り,ヤベシュのギ
ョリュウの木の下に葬り,7日間断食をした。

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