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サムエル記第二

概要
1章
ダビデはサウルの死について聞く(1‐16節)
サウルとヨナタンのためのダビデの哀歌(17‐27節)
2章
ユダの王ダビデ(1‐7節)
イスラエルの王イシ・ボセテ(8‐11節)
ダビデ家とサウル家の戦い(12‐32節)
3章
ダビデ家は勢力を増す(1節)
ダビデの息子たち(2‐5節)
アブネルがダビデの側に付く(6‐21節)
ヨアブがアブネルを殺す(22‐30節)
ダビデはアブネルのことを嘆き悲しむ(31‐39節)
4章
イシ・ボセテが暗殺される(1‐8節)
ダビデは暗殺者たちを処刑する(9‐12節)
5章
ダビデはイスラエル全体の王になる(1‐5節)
エルサレムの攻略(6‐16節)
ダビデの都市シオン(7節)
ダビデはフィリスティア人を打ち破る(17‐25節)
6章
箱がエルサレムに運ばれる(1‐23節)
ウザが箱をつかみ,処刑される(6‐8節)
ミカルがダビデを軽蔑する(16,20‐23節)
7章
ダビデが神殿を建てることはない(1‐7節)
王国のためのダビデとの契約(8‐17節)
ダビデの感謝の祈り(18‐29節)
8章
ダビデの数々の勝利(1‐14節)
ダビデの統治体制(15‐18節)
9章
ダビデは揺るぎない愛をメピボセテに示す(1‐13節)
10章
アンモンとシリアに対する勝利(1‐19節)
11章
ダビデのバテ・シバとの姦淫(1‐13節)
ダビデはウリヤが死ぬように画策する(14‐25節)
ダビデはバテ・シバを妻にする(26,27節)
12章
ナタンがダビデを戒める(1‐15節前半)
バテ・シバの子が死ぬ(15後半‐23節)
バテ・シバがソロモンを産む(24,25節)
アンモン人の都市ラバの攻略(26‐31節)
13章
アムノンがタマルを強姦する(1‐22節)
アブサロムがアムノンを殺害する(23‐33節)
アブサロムはゲシュルに逃亡する(34‐39節)
14章
ヨアブとテコアの女性(1‐17節)
ダビデはヨアブの関与を見抜く(18‐20節)
アブサロムは帰還を許される(21‐33節)
15章
アブサロムの謀反と反乱(1‐12節)
ダビデはエルサレムから逃げ出す(13‐30節)
アヒトフェルがアブサロムの側に付く(31節)
アヒトフェルへの対策としてフシャイが遣わされる(32‐37節)
16章
ツィバがメピボセテを中傷する(1‐4節)
シムイがダビデをののしる(5‐14節)
アブサロムは,やって来たフシャイを受け入れる(15‐19節)
アヒトフェルの助言(20‐23節)
17章
フシャイがアヒトフェルの助言の実行を阻む(1‐14節)
ダビデは報告を受けてアブサロムから逃れる(15‐29節)
バルジライたちからの物資の供給(27‐29節)
18章
アブサロムの敗北と死(1‐18節)
ダビデはアブサロムが死んだことを知る(19‐33節)
19章
ダビデはアブサロムのことで嘆き悲しむ(1‐4節)
ヨアブがダビデをたしなめる(5‐8節前半)
ダビデはエルサレムに帰還する(8後半‐15節)
シムイがダビデに許しを請う(16‐23節)
メピボセテの疑いが晴れる(24‐30節)
バルジライが敬意を表される(31‐40節)
部族間の争い(41‐43節)
20章
シェバが反逆し,ヨアブがアマサを殺す(1‐13節)
シェバは追い詰められ,首をはねられる(14‐22節)
ダビデの統治体制(23‐26節)
21章
ギベオンの人たちによるサウル家への報復(1‐14節)
フィリスティア人との戦い(15‐22節)
22章
ダビデは,救い出してくださった神を賛美する(1‐51節)
「エホバは私の大岩」(2節)
エホバは,揺るぎない愛を示す人に,揺るぎない愛を示す(26節)
23章
ダビデの最後の言葉(1‐7節)
ダビデの勇士たちの活躍(8‐39節)
24章
ダビデの人口調査の罪(1‐14節)
疫病で7万人が死ぬ(15‐17節)
ダビデは祭壇を作る(18‐25節)
犠牲とは何かを費やして捧げるもの(24節)
  1 章
  1 サウルの死後のこと,ダビデはアマレク人を打ち破って帰還し,2日間チクラグにとどまっていた。 2
3日目に,サウルの陣営から1人の人がやって来た。衣服は引き裂かれ,頭に土をかぶっていた。その人はダ
ビデに近寄り,身をかがめてひれ伏した。
  3 ダビデが「どこから来たのですか」と尋ねると,その人は「イスラエルの陣営から逃げてきました」と
言った。 4 ダビデは尋ねた。「戦いはどうなりましたか。話してください」。彼は言った。「兵士たちは戦場
から逃げ,大勢が死にました。サウルと息子のヨナタンも死にました」。 5 ダビデは,知らせを持ってきたそ
の若者に言った。「サウルと息子ヨナタンが死んだことをどうやって知ったのですか」。 6 若者は答えた。
「私がたまたまギルボア山にいた時,そこにサウルがいて,やりにもたれ掛かっていました。兵車や騎手たち
が彼に迫っていました。 7 彼が振り向いて私を呼んだので,『何でしょうか』と答えました。 8 彼は『おま
えは誰だ』と尋ねたので,『私はアマレク人です』と言いました。 9 彼は言いました。『そばに来て,私を殺
してくれ。耐え難い痛みだ。死んだ方がましだ』。 10 それで私はそばに行って彼を殺しました。負傷して倒
れており,もう助からないと思ったからです。そして,頭から王冠を取り,腕輪を外しました。それらをここ
に,あなたのもとに持ってまいりました」。
  11 するとダビデは自分の衣服をつかんで引き裂いた。ダビデと共にいた人たちも皆そうした。 12 そし
て彼らは,サウルと息子ヨナタンとエホバの民とイスラエル人のことで嘆き悲しんで泣き,夕方まで断食した。
その人たちが剣によって倒れたからである。
  13 ダビデは,知らせを持ってきた若者に尋ねた。「あなたはどこの人ですか」。若者は言った。「私はア
マレク人の外国人居住者の子です」。 14 ダビデは言った。「エホバが選んだ人に恐れもなく手を出して殺す
とは,いったいどういうことですか」。 15 ダビデは部下の1人を呼び,「前に出て,この人を討ちなさい」
と言った。若者は討たれ,死んだ。 16 ダビデは言った。「あなたが死んだ責任はあなた自身にあります。あ
なたの口が,『エホバが選んだ人を私が殺した』と証言したからです」。
  17 ダビデは,サウルと息子ヨナタンのために次の哀歌を歌い, 18 「弓」と題するその哀歌をユダの人
たちに学ばせるべきであると言った。その歌はヤシャルの書に記されている。
  19 「イスラエルよ,あなたの美が高い場所で殺された。
  ああ,勇士たちが倒れた。
  20 ガトで知らせてはいけない。
  アシュケロンの通りで触れ回ってはいけない。
  フィリスティア人の娘たちを喜ばせないため。
  割礼を受けていない者の娘たちを歓喜させないため。
  21 ギルボアの山々よ。
  あなたの所からは露も雨もなくなれ。
  聖なる寄進物を生み出す畑もなくなれ。
  そこで,勇士たちの盾が汚されたからだ。
  サウルの盾に油が塗られることはもうない。
  22 ヨナタンの弓はぶれることなく,
  サウルの剣も空を切ることなく,
  敵の血を流し,戦士の肉を貫いた。
  23 サウルもヨナタンも生涯ずっと愛され,大切にされた。
  死ぬ時も2人は離れなかった。
  ワシよりも速く,
  ライオンよりも強かった。
  24 イスラエルの娘たち,サウルのために泣け。
  サウルはあなたたちに緋色の服と装飾品をまとわせ,
  服に金の飾りを付けた。
  25 ああ,勇士たちが戦いで倒れた。
  ヨナタンが高い場所で殺された!
  26 私の兄弟ヨナタン,あなたを失ってとても苦しい。
  あなたは本当に慕わしい人だった。
  私にとってあなたの愛は女性の愛よりも素晴らしかった。
  27 ああ,勇士たちが倒れた。
  戦いの武器が砕かれた!」
  2 章
  1 その後ダビデはエホバに尋ねた。「ユダの町に上っていくとよいでしょうか」。エホバは,「上ってい
きなさい」と言った。ダビデはさらに尋ねた。「どこへ上っていくとよいですか」。神は,「ヘブロンへ」と
答えた。 2 そこでダビデは,2人の妻,エズレルのアヒノアムと,かつてカルメルの人ナバルの妻だったアビ
ガイルを連れ,そこへ上っていった。 3 ダビデは,共にいた人たちやそれぞれの家の人たちも連れていった。
彼らはヘブロンと周辺の町に住んだ。 4 そこへユダの人たちがやって来て,ダビデに油を注いでユダ族の王と
した。
  ダビデのもとに,「ヤベシュ・ギレアデの人たちがサウルを葬った」という知らせがあった。 5 それでダ
ビデはヤベシュ・ギレアデの人たちの所に使者たちを送り,こう伝えさせた。「皆さんがエホバに祝福されます
ように。サウルを葬り,王への揺るぎない愛を示したからです。 6 エホバが皆さんに揺るぎない愛を示し,支
え続けてくださいますように。皆さんがしたことのゆえに,私も皆さんに親切にします。 7 それで今,力を奮
い起こし,勇気を出してください。サウル王は死に,ユダ族は私に油を注いで王としたのです」。
  8 一方,サウルの軍隊の長,ネルの子アブネルは,サウルの子イシ・ボセテを連れてマハナイムに渡り,
9 イシ・ボセテを,ギレアデ,アシュル人,エズレル,エフライム,ベニヤミン,イスラエル全体の王にした。
10 サウルの子イシ・ボセテは40歳でイスラエルの王になり,2年治めた。ただ,ユダ族はダビデを支持した。
11 ダビデがヘブロンでユダ族の王だった期間は7年6カ月だった。
  12 やがてネルの子アブネルと,サウルの子イシ・ボセテの家来たちはマハナイムを出てギベオンに向かっ
た。 13 ツェルヤの子ヨアブと,ダビデの家来たちも出ていき,両部隊はギベオンの池のそばで相対した。池
の一方の側と他方の側にそれぞれが座った。 14 アブネルがヨアブに言った。「若者を出して,われわれの前
で戦わせるのはどうか」。ヨアブは,「そうしよう」と言った。 15 それで,ベニヤミンとサウルの子イシ・
ボセテの側から12人,ダビデの家来の中から12人,同数の人たちが立ち上がって進み出た。 16 彼らは頭
をつかみ合い,剣で相手の脇腹を刺し,皆が共に倒れた。それで,ギベオンのその場所はヘルカト・ハツリムと
呼ばれた。
  17 その日,戦いは非常に激しくなり,アブネルとイスラエルの人たちはダビデの家来たちの前で打ち破ら
れた。 18 ところで,そこにはツェルヤの3人の息子,ヨアブ,アビシャイ,アサエルがいた。アサエルは野
原のガゼルのように足が速かった。 19 アサエルはアブネルの後を追った。右にも左にもそれずに追っていっ
た。 20 アブネルは振り向いて,「アサエル,おまえなのか」と言い,アサエルは「そうだ」と答えた。 21
するとアブネルは言った。「右か左に行って若者の1人を捕まえ,何でも欲しい物を剥ぎ取れ」。しかしアサ
エルは追うのをやめようとしなかった。 22 それでアブネルはもう一度アサエルに言った。「私を追うのはや
めておけ。おまえを討つわけにはいかない。おまえの兄弟ヨアブに合わせる顔がなくなる」。 23 それでもア
サエルは追うのをやめなかった。それでアブネルは,やりの石突きでアサエルの腹部を突き刺した。やりは後
ろから突き出て,アサエルは倒れ,その場で死んだ。アサエルが倒れて死んだ場所に来る人は皆,そこで立ち
止まるのだった。
  24 ヨアブとアビシャイもアブネルの後を追った。日が沈む頃,彼らはアマの丘に来た。そこはギベオンの
荒野への途上にあるギアハに面していた。 25 ベニヤミン族の人たちがアブネルの後ろに集まり,一団となっ
て丘のてっぺんに立っていた。 26 アブネルはヨアブに呼び掛けた。「剣をいつまでも振るい合うつもりなの
か。結局は悲惨なことになるだけだと思わないのか。いつになったら兵士たちに,兄弟たちを追うのをやめる
よう指示するのか」。 27 ヨアブは言った。「生きている真の神に懸けて言う。もしもおまえが言いださなか
ったなら,兵士たちは兄弟たちを追うのを朝までやめなかっただろう」。 28 ヨアブが角笛を吹いたので,兵
士たちはイスラエルを追うのをやめ,戦いは終わった。
  29 アブネルと部下たちは一晩かけてアラバを通り抜け,ヨルダン川を渡り,渓谷全域を通ってマハナイム
に着いた。 30 ヨアブはアブネルを追うのをやめて引き返した後,兵士全員を集合させた。すると,ダビデの
家来19人とアサエルがいなくなっていた。 31 一方,ベニヤミン族の人たちとアブネルの部下たちは,ダビ
デの家来たちに打ち破られ,360人が死んでいた。 32 アサエルは運ばれて,ベツレヘムにある父の墓に葬
られた。ヨアブと部下たちは一晩中移動し,明け方ヘブロンに着いた。
  3 章
  1 サウル家とダビデ家の戦いは長引いた。ダビデはますます強くなり,サウル家は徐々に衰えていった。
  2 その間に,ヘブロンでダビデに息子たちが生まれた。長男はエズレルのアヒノアムが産んだアムノン。
3 次男は,かつてカルメルの人ナバルの妻だったアビガイルが産んだキルアブ。三男はゲシュルの王タルマイ
の娘マアカが産んだアブサロム。 4 四男はハギトが産んだアドニヤ。五男はアビタルが産んだシェファトヤ。
5 六男はダビデの妻エグラが産んだイトレアム。これらの子がヘブロンでダビデに生まれた。
  6 サウル家とダビデ家の戦いが続く中,アブネルはサウル家で権力を強めていった。 7 ところで,サウ
ルには,アヤの娘でリツパという名前の側室がいた。イシ・ボセテはアブネルに言った。「どうして私の父の側
室と関係を持ったのか」。 8 アブネルはイシ・ボセテの言葉に非常に怒り,こう言った。「私はユダの犬だと
でもいうのですか。私は今日まで,あなたの父サウルの一家や兄弟や友人たちに揺るぎない愛を示してきまし
た。あなたを裏切ってダビデの手に渡したりはしませんでした。それなのに,こうして女に関する過ちをとが
めるのですか。 9 もし,エホバがダビデに誓った通りのことを,私がダビデのためにしないとすれば,神が私
を厳しく罰しますように。 10 神は,サウル家から王国を取り上げて,ダビデの王権を確立し,ダンからベエ
ル・シェバにかけてイスラエルとユダを治めさせると誓いました」。 11 イシ・ボセテはアブネルを恐れ,一言
も言い返せなかった。
  12 アブネルはすぐにダビデのもとに使者たちを送り,こう伝えさせた。「この土地は誰のものでしょうか。
私と契約を結んでください。イスラエル全体をあなたの側に付けるため,できることは何でもします」。 13
ダビデはこう答えた。「いいでしょう。あなたと契約を結びます。ただし,1つ条件があります。私に会いに
来ても,サウルの娘ミカルを連れてこない限り,私に会うことはできません」。 14 ダビデはそれからサウル
の子イシ・ボセテに使者たちを送り,こう伝えさせた。「私がフィリスティア人100人の包皮で婚約した妻ミ
カルを引き渡してください」。 15 それでイシ・ボセテは人を遣わして,ミカルをその夫,ライシュの子パル
ティエルから取り上げた。 16 しかし夫パルティエルはミカルと一緒に歩き続け,泣きながらバフリムまで付
いてきた。やがてアブネルに「さあ,帰れ!」と言われ,帰っていった。
  17 アブネルはイスラエルの長老たちと連絡を取り,こう言った。「あなたたちは以前から,ダビデに王に
なってほしいと願ってきました。 18 それで今,そうしなさい。エホバはダビデにこう言いました。『私は,
私に仕えるダビデの手によって,フィリスティア人など全ての敵から私の民イスラエルを救う』」。 19 それ
からアブネルはベニヤミン族の人たちと話した。ヘブロンに行ってダビデとも個人的に話し,イスラエルとベ
ニヤミン族全体が同意した事柄を伝えた。
  20 アブネルが部下20人を連れて,ヘブロンのダビデのもとにやって来た時,ダビデはアブネルと部下た
ちのために宴を開いた。 21 アブネルはダビデに言った。「ご主人さま,王よ,あなたのもとにイスラエル全
体を集めに行かせてください。彼らがあなたと契約を結ぶため,あなたがお望みのもの全てを治める王となる
ためです」。それでダビデはアブネルを送り出し,アブネルはそのまま出ていった。
  22 ちょうどその時,ダビデの家来たちとヨアブが,戦利品をたくさん持って襲撃から帰ってきた。アブネ
ルは,すでにダビデに送り出されてそのまま出ていっていたので,ヘブロンのダビデのもとにはいなかった。
23 ヨアブと兵士たち皆が到着すると,ヨアブにこう報告があった。「ネルの子アブネルが王のもとに来ました
が,王に送り出されてそのまま出ていきました」。 24 ヨアブは王の所に行き,こう言った。「何ということ
をなさったのですか。アブネルがあなたの所に来たのに,どうして送り出して,そのまま行かせてしまったの
ですか。 25 ネルの子アブネルをよくご存じのはずです! 彼はあなたをだましてあなたの動向を探り,あなた
がすることを全部知ろうとして来たのです」。
  26 ヨアブはダビデのもとから離れ,使者たちにアブネルを追わせた。使者たちはシラの水ための所からア
ブネルを連れ戻した。しかしダビデはそのことを知らなかった。 27 アブネルがヘブロンに戻ってから,ヨア
ブは,2人だけで話したいと言って,アブネルを門の内側に連れ込んで腹部を突き刺した。兄弟のアサエルが
殺されたことの復讐だった。こうしてアブネルは死んだ。 28 ダビデは後でそのことを聞き,こう言った。
「ネルの子アブネルに関する流血の罪について,私と私の王国はエホバの前で永遠に潔白です。 29 この罪の
罰は,ヨアブとヨアブの父の一家全体に下されますように。ヨアブ家からは,生殖器から流出物がある男,重
い皮膚病の人,糸を紡ぐ男,剣によって倒れる人,食べ物に事欠く人が絶えませんように!」 30 このように
して,ヨアブとアビシャイは,自分たちの兄弟アサエルがギベオンの戦いでアブネルに殺されたため,アブネ
ルを殺した。
  31 ダビデは,ヨアブと,共にいた人たち皆に言った。「衣服を引き裂き,粗布を身に着け,アブネルのこ
とを嘆き悲しみなさい」。ダビデ王自ら,遺体を載せた台に付いていった。 32 アブネルはヘブロンに葬られ
た。王はアブネルの墓で声を上げて泣き,ほかの人も皆,泣きだした。 33 王はアブネルのためにこう歌った。
  「愚か者のような死を,
  どうしてアブネルが味わうのか。
  34 あなたは手を縛られているわけでも,
  足をかせにつながれているわけでもなかった。
  あなたは犯罪者の前で倒れる人のように倒れた」。
  すると人々は皆,彼のことで再び泣いた。
  35 その後,日が暮れる前に,あらゆる人がダビデにパンを食べさせようとしてやって来たが,ダビデはこ
う誓った。「もし日が沈む前に私がパンか何かを口にするなら,神が私を厳しく罰しますように!」 36 人々
は皆そのことを知り,良いと思った。王がしたこと全てと同じように,そのことも良いと思った。 37 それで
その日,全ての民とイスラエル全体は,ネルの子アブネルの殺害について,王には責任がないことを知った。
38 王は家来たちに言った。「今日,イスラエルで1人の高官,1人の偉人が倒れたことが分かっていますか。
39 私は油を注がれた王ですが,今は力がないのです。このツェルヤの息子たちはあまりに残忍です。悪いこと
をする人に,エホバがその悪事に応じて報いてくださいますように」。
  4 章
  1 サウルの子イシ・ボセテは,アブネルがヘブロンで死んだことを聞いて力を落とし,イスラエル人も皆,
動揺した。 2 サウルの子イシ・ボセテの下に,略奪隊をまとめる2人の人がいた。1人はバアナ,もう1人は
レカブといった。ベニヤミン族で,ベエロトの人リモンの子たちだった。(ベエロトもかつてはベニヤミンの
一部とされていた。 3 ベエロトの人たちはギタイムに逃げて,そこの外国人居住者となり,今に至ってい
る。)
  4 サウルの子ヨナタンには,両足が不自由な息子がいた。その子が5歳の時,エズレルからサウルとヨナ
タンの死の知らせがあり,乳母はその子を抱え上げて逃げだしたが,慌てていたために落としてしまい,その
子は足が不自由になった。名前はメピボセテといった。
  5 ベエロトの人リモンの子レカブとバアナは,日中の暑い頃,イシ・ボセテの家に行った。イシ・ボセテは
昼寝をしていた。 6 レカブとバアナは,小麦を取りに行くふりをして家の中に入り,イシ・ボセテの腹部を突
き刺し,逃げた。 7 家の中に入った2人は,寝室のベッドで寝ていたイシ・ボセテを殺して首をはねたのであ
る。それから,その首を持って夜通しアラバへの道を歩いた。 8 2人はイシ・ボセテの首をヘブロンのダビデ
王のもとに持ってきて,言った。「あなたの命を付け狙った敵サウルの子イシ・ボセテの首をお持ちしました。
今日,エホバは王のために,サウルとその子孫に復讐しました」。
  9 ダビデはベエロトの人リモンの子レカブとバアナに言った。「私をあらゆる苦難から助け出してくださ
った,生きている神エホバに懸けて言います。 10 ある人が『サウルが死んだ』と報告してきた時,その人は
良い知らせを伝えたつもりでしたが,私はその人を捕まえ,チクラグで殺しました。それが私から受けるべき
報いだったのです。 11 そうであれば,悪人が正しい人をその人の家のベッドで殺した場合は,なおさらでは
ないですか。私は彼の血を流した責任をあなたたちに問い,あなたたちを地上から除き去るべきではないでし
ょうか」。 12 ダビデは部下たちに2人を殺すよう命じた。2人は手足を切り落とされ,ヘブロンの池のそば
につるされた。イシ・ボセテの首は,ヘブロンにあるアブネルの墓に葬られた。
  5 章
  1 やがてイスラエルの全部族がヘブロンのダビデのもとに来て,言った。「私たちはあなたの肉親です。
2 かつてサウルが私たちの王だった時,あなたはイスラエルを率いて戦いに行きました。それにエホバは,
『あなたは牧者として私の民イスラエルを世話し,イスラエルの指導者になる』とあなたに言いました」。 3
イスラエルの長老全員がヘブロンにいる王のもとに来た。ヘブロンでダビデ王はエホバの前で彼らと契約を結
び,彼らはダビデに油を注いでイスラエルの王とした。
  4 ダビデは30歳で王になり,40年治めた。 5 ヘブロンで7年6カ月ユダを治め,エルサレムで33
年イスラエル全体とユダを治めた。 6 王と部下たちはエルサレムに向かい,そこに住むエブス人を攻めようと
した。エブス人は,「おまえはここに入れやしない! 目や足が不自由な人に追い払われるだろう」とダビデを
あざけった。「ダビデはここには決して入れない」と思っていたのである。 7 それでもダビデはシオンのとり
でを攻め取った。そこが現在の「ダビデの町」である。 8 その日ダビデは,「エブス人を攻撃する人は,地下
水道を通って,『足や目が不自由な人』も討ちなさい! 私が憎む者たちなのだ」と言った。そのため,「目や
足が不自由な人は家に入れない」という言い方がある。 9 その後ダビデはそのとりでに住むようになり,そこ
は「ダビデの町」と呼ばれた。そしてダビデは塚の上と都市の中に城壁などを築き始めた。 10 こうしてダビ
デはますます強くなっていった。大軍を率いる神エホバが彼と共にいた。
  11 ティルスのヒラム王がダビデのもとに使者たちを遣わし,杉材,大工,城壁を築く石工を送ってきた。
彼らはダビデのために家を建て始めた。 12 ダビデはイスラエルでの王権をエホバが確立してくださり,神の
民イスラエルのために王国を強化してくださったことを確信した。
  13 ヘブロンから来た後,ダビデはエルサレムでさらに側室や妻たちを迎え,息子や娘たちが生まれた。
14 エルサレムでダビデに生まれた子の名前は次の通りである。シャムア,ショバブ,ナタン,ソロモン, 15
イブハル,エリシュア,ネフェグ,ヤフィア, 16 エリシャマ,エルヤダ,エリフェレト。
  17 フィリスティア人は,ダビデが油を注がれてイスラエルの王になったことを聞き,ダビデを捜しに上っ
てきた。それを聞いたダビデは隠れがに向かった。 18 フィリスティア人はやって来て,レファイムの谷に陣
取った。 19 ダビデはエホバに尋ねた。「フィリスティア人を攻めるとよいでしょうか。あなたは私を勝たせ
てくださいますか」。エホバはダビデに言った。「行きなさい。私は必ずあなたをフィリスティア人に勝たせ
る」。 20 そこでダビデはバアル・ペラツィムに行き,フィリスティア人を討った。ダビデは言った。「水が
壁を決壊させるように,エホバが私の前で敵を壊滅させた」。それでダビデはその場所をバアル・ペラツィムと
名付けた。 21 フィリスティア人が偶像をそこに残していったので,ダビデと部下たちはそれを処分した。
  22 その後,フィリスティア人が再び上ってきて,レファイムの谷に陣取った。 23 ダビデが尋ねるとエ
ホバはこう言った。「真っすぐ向かっていってはいけない。彼らの後方に回り,バカの茂みの前で出撃しなさ
い。 24 バカの茂みの上部から行進のような音が聞こえたら,迷わず行動を起こしなさい。その時,エホバが,
フィリスティア軍を討つため,あなたの前を進んだのである」。 25 そこでダビデはエホバに命じられた通り
にし,ゲバからゲゼルにかけてフィリスティア人を討った。
  6 章
  1 ダビデは再びイスラエルの精鋭3万人を全て集めた。 2 ダビデと共にいた部下たち皆は,真の神の箱
を運び出すため,バアレ・ユダに向かった。その箱の前で人々は,ケルブたちの上に王として座っている,大軍
を率いるエホバの名を呼ぶ。 3 彼らは,真の神の箱を丘の上のアビナダブの家から移動させるため,新しい牛
車の上に載せた。アビナダブの子たちであるウザとアフヨが新しい牛車を先導していった。
  4 こうして真の神の箱は,丘の上のアビナダブの家から運び出された。アフヨが箱の前を歩いていた。 5
ダビデとイスラエル国民全体は,ネズの木でできたさまざまな楽器,たて琴,弦楽器,タンバリン,シストラ
ム,シンバルによって,エホバの前で祝っていた。 6 しかし,ナコンの脱穀場まで来た時,牛が真の神の箱を
ひっくり返しそうになったため,ウザは手を出してそれをつかんだ。 7 するとウザに対してエホバの怒りが燃
え,真の神はその場でウザを打った。彼が不敬な行為をしたからである。彼は真の神の箱のそばで死んだ。 8
ダビデは,エホバがウザに憤りを表したために怒った。その場所はペレツ・ウザと呼ばれて,今に至っている。
9 ダビデはその日,エホバを恐れて,「エホバの箱をどうして私の所に持っていけるだろうか」と言った。
10 ダビデはエホバの箱を「ダビデの町」の自分のもとに持っていこうとはせず,ガトの人オベデ・エドムの家
に移動させた。
  11 エホバの箱はガトの人オベデ・エドムの家に3カ月間置かれ,エホバはオベデ・エドムと家の人たち皆
を祝福し続けた。 12 「エホバは,真の神の箱のゆえにオベデ・エドムの家とその全てのものを祝福した」と
いう知らせがダビデ王に伝えられた。そこでダビデは真の神の箱をオベデ・エドムの家から「ダビデの町」に運
ぶため,喜びながら出掛けていった。 13 エホバの箱を担ぐ人たちが6歩進むと,ダビデは牛と肥えた家畜を
犠牲として捧げた。
  14 ダビデはエホバの前で力いっぱい踊り,くるくると回っていた。その間ずっと,亜麻布のエフォドを着
ていた。 15 ダビデとイスラエル国民全体は,歓声を上げ,角笛を鳴らしながら,エホバの箱を運んでいった。
16 エホバの箱が「ダビデの町」に入った時,サウルの娘ミカルが窓から見下ろし,ダビデ王がエホバの前で
跳ねて踊り,くるくると回っているのを見た。ミカルは心の中でダビデのことを軽蔑した。 17 こうしてエホ
バの箱は運び入れられ,ダビデが箱のために張った天幕の中の所定の位置に置かれた。その後ダビデはエホバ
の前で全焼の捧げ物と共食の犠牲を捧げた。 18 ダビデは全焼の捧げ物と共食の犠牲を捧げ終えると,大軍を
率いるエホバの名によって,民のために祝福を願い求めた。 19 さらにダビデは,全ての民,イスラエルの全
群衆の一人一人に,男性にも女性にも,輪型パン1個,ナツメヤシの菓子1個,干しぶどうの菓子1個を配っ
た。それから民は皆,それぞれ家に帰った。
  20 ダビデが,自分の家の人たちのために祝福を願い求めようとして戻ると,サウルの娘ミカルが迎えに出
てきて,こう言った。「イスラエルの王は今日,何と威厳があったのでしょう。まるで愚か者が裸をさらすよ
うに,召し使いの女奴隷たちの前で裸になったのですから」。 21 ダビデはミカルに言った。「あの祝いはエ
ホバの前でしたことだ。神は,あなたの父や家の人たちではなく私を選んで,エホバの民イスラエルの指導者
に任命してくださった。だから,私はこれからもエホバの前で祝い, 22 今回よりもいっそう謙遜になり,自
分を低い立場の者と見る。あなたが言った女奴隷たちが,私をたたえるだろう」。 23 サウルの娘ミカルは,
死ぬまで子供がいなかった。
  7 章
  1 王は,自分の家に住んで,エホバのおかげで周囲の敵から守られ,安心できるようになった時, 2 預
言者ナタンに言った。「私は杉の家に住んでいるのに,真の神の箱は天幕の中にあります」。 3 ナタンは王に
言った。「何でも心にあることを行いなさい。エホバがあなたと共にいます」。
  4 その夜,エホバはナタンに言った。 5 「私に仕えるダビデにこう言いに行きなさい。『エホバはこう
言っている。「あなたは私が住む家を建てるというのか。 6 イスラエルの民をエジプトから連れ出した日から
今日まで,私は家に住んだことはなく,天幕や幕屋に住んで移動してきた。 7 私がイスラエル人皆と共に進ん
だ間,私の民イスラエルを世話させるために任命したイスラエルの部族長の誰かに,『どうして私のために杉
の家を建てなかったのか』と言ったことが一度でもあっただろうか」』。 8 私に仕えるダビデにこう言いなさ
い。『大軍を率いるエホバはこう言っている。「羊の群れを追っていたあなたを,私は牧草地から取って,私
の民イスラエルの指導者にした。 9 あなたがどこに行くとしても,私はあなたと共にいる。あなたの前から敵
を全て滅ぼす。あなたの名を,地上の偉人たちの名のように偉大なものにしよう。 10 私は,私の民イスラエ
ルのために場所を定めて,そこに定住させる。彼らはそこに住み,煩わされることはもうなくなる。昔のよう
に悪人たちに虐げられることはもうない。 11 イスラエルの民のために私が裁き人を任命した頃のようなこと
はもうない。あなたを全ての敵から守って,あなたが安心できるようにする。
  エホバがあなたのために王朝をつくる,とエホバはあなたに言った。 12 あなたの最期の日が来て,あな
たが死ぬ時,私はあなたの子孫,あなたの子を立て,その人の王国を確立する。 13 その人こそが私の名のた
めに家を建てる。私は彼の王国の王座が永遠に揺るがないようにする。 14 私は彼の父となり,彼は私の子と
なる。彼が間違ったことをするとき,私は人のつえ,人の子たちの殴打によって彼を戒める。 15 私は彼に揺
るぎない愛を示し続ける。サウルにはそうせず,あなたの前で退けた。 16 あなたの王朝と王国はあなたの前
で永遠に安定する。あなたの王座は永遠に揺らぐことがない」』」。
  17 ナタンは,この言葉全てとこの幻全体をダビデに話した。
  18 ダビデ王はエホバの前に座って言った。「主権者である主エホバ,私は何者なのでしょう。私の一族が
どれほどのものだというので,あなたは私にここまでしてくださるのですか。 19 主権者である主エホバ,あ
なたはそれでも足りないかのように,私の家系について遠い将来のことまで話してくださいます。主権者であ
る主エホバ,あなたがおっしゃったことは人類のための指示です。 20 私ダビデがこれ以上あなたに何を申し
上げることができましょう。主権者である主エホバ,あなたは私をよくご存じです。 21 あなたはお言葉の通
りに,また望まれる通りに,さまざまな偉大なことを行い,私に知らせてくださいました。 22 それで,主権
者である主エホバ,あなたは本当に偉大です。あなたのような方はほかにおらず,あなた以外に神はいません。
私たちが耳にしたどんなことからしても,それは確かです。 23 地上に,あなたの民イスラエルのような国民
がほかにいるでしょうか。神は来て,彼らをご自分の民にするために救い出し,彼らのために偉大で驚異的な
ことを行って名を上げられました。そして,エジプトから救い出した民のために国々とその神々を追い払いま
した。 24 あなたはイスラエルの民がいつまでもご自分の民となるようにしました。エホバ,あなたは彼らの
神となりました。
  25 エホバ神,私と私の家系について約束なさったことをずっと守ってください。どうか約束通りにしてく
ださいますように。 26 あなたの名が永遠にたたえられ,『大軍を率いるエホバはイスラエルの神』と人々が
言いますように。私ダビデの家系があなたの前で揺るがないものとなりますように。 27 イスラエルの神,大
軍を率いるエホバ,あなたは,『私はあなたのために王朝を築く』と知らせてくださいました。それで私は勇
気を持ってこの祈りを捧げています。 28 主権者である主エホバ,あなたは真の神です。あなたの言葉は真実
です。あなたは私に良いことを約束してくださいました。 29 あなたが私の家系を喜んで祝福して,あなたの
前で永遠に続くようにしてくださいますように。主権者である主エホバ,あなたが約束してくださいました。
あなたの祝福によって,私の家系が永遠に祝福されますように」。
  8 章
  1 その後,ダビデはフィリスティア人を打ち破って制圧した。そしてフィリスティア人からメテグ・アマを
取った。
  2 ダビデはモアブ人を打ち破った。そして彼らを地面に横にならせて縄で測った。縄2本分の人たちを殺
し,縄1本分の人たちを生かしておくためである。こうしてモアブ人はダビデに仕え,貢ぎ物を納めることに
なった。
  3 ダビデは,ツォバの王レホブの子ハダドエゼルを打ち破った。ハダドエゼルがユーフラテス川付近での
権力を取り戻そうとして出てきた時のことだった。 4 ダビデは騎手1700人と歩兵2万人を捕らえた。また,
100頭を除いて全ての兵車の馬の膝のけんを切った。
  5 ダマスカスのシリア人がツォバのハダドエゼル王を助けに来た時,ダビデはシリア人2万2000人を
討った。 6 ダビデはシリアのダマスカスに守備隊を置いた。こうしてシリア人はダビデに仕え,貢ぎ物を納め
ることになった。ダビデはどこに行っても,エホバのおかげで勝利した。 7 ダビデはまた,ハダドエゼルの家
来たちから金の円盾を取り,エルサレムに持ってきた。 8 ハダドエゼルの町,ベタハとベロタイからは,大量
の銅を奪った。
  9 さて,ハマトのトイ王は,ダビデがハダドエゼルの全軍勢を打ち破ったことを聞いた。 10 それでトイ
は自分の子ヨラムをダビデ王のもとに遣わしてあいさつさせ,ハダドエゼルを打ち破ったことへの祝辞を伝え
させた。(ハダドエゼルとトイはよく戦っていたのである。)ヨラムは,銀,金,銅の品々を持ってきた。 11
ダビデ王はそれらを神聖なものとしてエホバに捧げた。以前に制圧した国々から奪った銀や金も,同じように
神聖なものとしていた。 12 シリアやモアブ,アンモン人,フィリスティア人,アマレク人,ツォバの王レホ
ブの子ハダドエゼルから奪った物である。 13 また,ダビデは塩の谷でエドム人1万8000人を討って帰っ
てきて,名を上げた。 14 ダビデはエドムに守備隊を置いた。エドム全土に守備隊を置き,エドム人は皆,ダ
ビデに仕えることになった。ダビデはどこに行っても,エホバのおかげで勝利した。
  15 ダビデはイスラエル全体を治め続けた。民全てに対して公正で正しいことを行った。 16 ツェルヤの
子ヨアブは軍隊の長,アヒルドの子エホシャファトは記録官だった。 17 アヒトブの子ザドクとアビヤタルの
子アヒメレクは祭司,セラヤは秘書官だった。 18 エホヤダの子ベナヤはケレト人とペレト人をまとめ,ダビ
デの子たちは奉仕者の長になった。
  9 章
  1 ダビデは言った。「サウル家には生き残っている人が誰かいますか。ヨナタンのために,揺るぎない愛
を示したいのです」。 2 サウル家にはツィバという家来がおり,ダビデのもとに呼ばれた。王が「あなたがツ
ィバですか」と尋ねると,彼は「私はあなたに仕える者です」と答えた。 3 王は続けた。「サウル家に生き残
っている人が誰かいますか。神の揺るぎない愛を表したいのです」。ツィバは王に答えた。「ヨナタンの子が
1人います。両足が不自由な人です」。 4 王は尋ねた。「その人はどこにいますか」。ツィバは王に答えた。
「ロ・デバルのアミエルの子マキルの家にいます」。
  5 ダビデ王は直ちに,ロ・デバルのアミエルの子マキルの家からその人を連れてこさせた。 6 サウルの子
ヨナタンの子メピボセテがダビデのもとにやって来て,すぐにひれ伏した。ダビデが「メピボセテ!」と言う
と,彼は「はい,王よ」と言った。 7 ダビデは言った。「恐れることはありません。あなたの父親ヨナタンの
ために,私は必ずあなたに揺るぎない愛を示します。あなたの祖父サウルの土地を全てあなたに返します。あ
なたはいつも私の食卓で食事をすることになります」。
  8 メピボセテはひれ伏して,「私が何者だというので,私のような死んだ犬に目を留めてくださるのです
か」と言った。 9 王はサウルの従者ツィバを連れてこさせ,こう言った。「サウルとその一家全体のものを全
て,あなたの主人の孫に与えます。 10 彼のためにあなたは土地を耕してください。あなたの子たちも召し使
いたちもです。あなたは実った物を集め,あなたの主人の孫の家族に食物として与えます。あなたの主人の孫
メピボセテは,いつも私の食卓で食事をすることになります」。
  ツィバには15人の息子と20人の召し使いがいた。 11 ツィバは王に言った。「王がお命じになること
は全部いたします」。こうしてメピボセテは王の子の1人のようにダビデの食卓で食事をするようになった。
12 メピボセテにはミカという幼い息子がいた。ツィバの家に住む人は皆,メピボセテの召し使いになった。
13 メピボセテはエルサレムに住み,いつも王の食卓で食事をした。彼は両足が不自由だった。
  10 章
  1 その後,アンモン人の王が死に,代わりに王の子ハヌンが王になった。 2 ダビデは言った。「ハヌン
の父ナハシュは私に揺るぎない愛を示してくれた。私も揺るぎない愛をナハシュの子ハヌンに示そう」。こう
してダビデは,父を失ったハヌンを慰めようとして家来たちを遣わした。ところが,ダビデの家来たちがアン
モン人の土地に入ると, 3 アンモン人の高官たちが主人であるハヌンにこう言った。「ダビデはあなたの父上
を敬っているので,あなたを慰めるために人を遣わしてきた,とお考えですか。ダビデが家来たちを送ってき
たのは,この町を探って偵察し,征服しようとしてのことではないでしょうか」。 4 それでハヌンはダビデの
家来たちを捕まえ,顎ひげを半分そり落とし,服も腰から下半分を切り落として,追い返した。 5 ダビデはそ
のことを聞き,すぐに人を送って家来たちを迎えに行かせた。家来たちがひどい辱めを受けたからである。王
はこう伝えさせた。「顎ひげが伸びるまでエリコにいて,それから帰ってきなさい」。
  6 やがてアンモン人は,ダビデの憎しみを買ったことを悟った。それで人を送って,ベト・レホブのシリア
人とツォバのシリア人の歩兵2万人,マアカの王と1000人,イシュトブの1万2000人を雇った。 7 ダ
ビデはそれを聞き,ヨアブと全軍,最も強い戦士たちを送った。 8 アンモン人は出ていき,町の門の入り口で
戦闘隊形を整えた。ツォバとレホブのシリア人,またイシュトブとマアカは野原にいた。
  9 ヨアブは前後から戦いの前線が向かってくるのを見ると,イスラエルの精鋭から兵士たちを選び,シリ
ア人に対して戦闘隊形を整えた。 10 残りの兵士たちを,兄弟アビシャイの指揮下に配置し,アンモン人に対
して戦闘隊形を整えた。 11 ヨアブは言った。「もし私がシリア人に苦戦していたら,助けに来てくれ。あな
たがアンモン人に苦戦したときは,私が助けに行く。 12 私たちの民のため,私たちの神の町々のため,力を
奮い起こし,勇気を出そう。エホバは,良いと思われることを行われる」。
  13 ヨアブと兵士たちはシリア人と戦うために進み出,シリア人はヨアブの前から敗走した。 14 アンモ
ン人は,シリア人が敗走したのを見て,アビシャイの前から逃げ出し,町に戻った。その後ヨアブはアンモン
人の所を出て,エルサレムに帰った。
  15 シリア人は,イスラエルに打ち破られたので,軍隊を再編成した。 16 ハダドエゼルは人を送って,
川の地方にいたシリア人をヘラムに来させた。ハダドエゼルの軍隊の長ショバクが彼らを率いた。
  17 そのことについて報告を受けたダビデは,直ちにイスラエル全体を集め,ヨルダン川を渡ってヘラムに
行った。シリア人はダビデに対して戦闘隊形を整え,戦った。 18 だが,シリア人はイスラエルの前から敗走
した。こうしてダビデはシリア人の兵車の乗り手700人と騎手4万人を殺し,軍隊の長ショバクを討った。
ショバクはそこで死んだ。 19 ハダドエゼルに仕えていた王たちは皆,イスラエルに打ち破られたので,速や
かにイスラエルと和平を結び,イスラエルに従属するようになった。シリア人は恐れ,もうアンモン人に加勢
しようとはしなかった。
  11 章
  1 年の初め,王たちが戦いに出掛ける頃,ダビデはアンモン人を滅ぼすため,ヨアブと家来たちとイスラ
エルの全軍を派遣した。彼らはラバを包囲した。一方,ダビデはエルサレムにとどまっていた。
  2 ある夕暮れ時,ダビデはベッドから起き上がり,王の家の屋上を歩いていた。屋上から,1人の女性が
体を洗っているのが見えた。非常に美しい女性だった。 3 ダビデはその女性について調べさせたところ,「ヘ
ト人ウリヤの妻で,エリアムの娘バテ・シバです」という報告があった。 4 ダビデは使者たちにバテ・シバを
連れてこさせた。こうして彼女はダビデの所に来て,ダビデは彼女と寝た。(彼女が汚れから自分を清めてい
る期間に起きたことだった。)その後,彼女は家に帰った。
  5 バテ・シバは妊娠した。それで人を遣わしてダビデに,「子供ができました」と伝えた。 6 そこでダビ
デは人を遣わしてヨアブに,「ヘト人ウリヤを私の所に送りなさい」と伝えた。ヨアブはウリヤをダビデの所
に送った。 7 ウリヤがやって来ると,ダビデは,ヨアブはどうしているか,兵士たちはどうしているか,戦い
はどうなっているかと尋ねた。 8 それからダビデはウリヤに言った。「家に帰ってくつろぎなさい」。ウリヤ
は王の家から出ていき,王からの贈り物がその後に続いた。 9 ところが,ウリヤは王の家の入り口の所で,王
のほかの家来たち皆と一緒に眠った。自分の家には帰らなかった。 10 ダビデに,「ウリヤは家に帰らなかっ
た」という報告があった。それでダビデはウリヤに言った。「遠征から戻ってきたのではないですか。どうし
て家に帰らなかったのですか」。 11 ウリヤはダビデに答えた。「箱もイスラエルとユダの兵士たちも天幕に
とどまり,私の主人ヨアブも主人の家来たちも野原で宿営しています。それなのに,私は家に帰って飲み食い
し,妻と寝るのでしょうか。生きているあなたに懸けて誓います。私はそんなことはいたしません!」
  12 ダビデはウリヤに言った。「今日もここにとどまりなさい。明日あなたを送り出します」。それでウリ
ヤはその日と翌日,エルサレムにとどまった。 13 その後ダビデは彼を呼んで,共に食べたり飲んだりし,彼
を酔わせた。ところが,晩にウリヤは出ていって王のほかの家来たちと一緒に眠り,家に帰らなかった。 14
朝になると,ダビデはヨアブに手紙を書き,ウリヤに託した。 15 ダビデは手紙にこう書いた。「ウリヤを戦
いが最も激しい前線に置きなさい。そして彼を残して退却し,彼が討たれて死ぬようにしなさい」。
  16 町を注意深く見ていたヨアブは,手ごわい戦士たちがいる場所を知っており,そこにウリヤを配置した。
17 町の人たちが出てきてヨアブと戦い,ダビデの家来たちの一部が倒れ,ヘト人ウリヤも死んだ。 18 ヨア
ブは人を遣わし,戦況を全てダビデに報告させることにした。 19 使者にこう指示した。「戦況を全て王に話
し終えた後, 20 王は怒って,こう言うかもしれない。『どうしてそんなに町に接近して戦ったのか。彼らが
城壁の上から矢を射てくることが分からなかったのか。 21 エルベシェトの子アビメレクを討ったのは誰だっ
たか。テベツで1人の女性が城壁の上からひき臼の石を投げ付けたので,死んだのではないか。どうしてそん
なに城壁に接近したのか』。そう言われたら,『あなたの家来ヘト人ウリヤも死にました』と言いなさい」。
  22 こうして使者は出掛け,ヨアブからの伝言を全てダビデに伝えた。 23 使者はダビデに言った。「彼
らの戦力は私たちを上回っていて,彼らは私たちに向かって野原に出てきました。それでも私たちは彼らを町
の門の入り口まで押し戻しました。 24 すると弓を射る人たちが城壁の上からあなたの家来たちを射たので,
一部の者たちは死にました。あなたの家来ヘト人ウリヤも死にました」。 25 ダビデは使者に言った。「ヨア
ブに,『今回のことは気にしなくてよいでしょう。剣は誰かしらをあやめるものです。町を激しく攻め,征服
しなさい』と言って,励ましなさい」。
  26 ウリヤの妻は夫が死んだのを聞いて,嘆き悲しんだ。 27 喪の期間が終わると,ダビデは人を遣わし
て彼女を自分の家に連れてこさせた。彼女はダビデの妻になり,男の子を産んだ。しかし,ダビデがしたこと
はエホバにとって非常に不快なことだった。
  12 章
  1 それでエホバはナタンをダビデの所に遣わした。ナタンはダビデの所に来て言った。「ある町に2人の
男性がいました。1人は裕福な人,もう1人は貧しい人でした。 2 裕福な人は非常に多くの羊や牛を持ってい
ました。 3 しかし貧しい人には,自分で買った小さな雌の子羊が1匹いるだけで,ほかには何もいませんでし
た。その人はその子羊を世話し,子羊はその人の家族と一緒に成長していきました。その人は,少ない食べ物
の中から子羊に食べさせ,自分の器から飲ませ,腕の中で寝かせました。子羊は娘のようになりました。 4 あ
る時,1人の旅人が裕福な人の所にやって来ました。ところが裕福な人は,その旅人のために自分の羊や牛を
振る舞おうとはせず,貧しい人の雌の子羊を取って,それを振る舞いました」。
  5 するとダビデはその人に非常な怒りを感じ,ナタンに言った。「生きている神エホバに懸けて言います。
そんな男は死に値します! 6 その男は4匹の子羊で償うべきです。相手の気持ちも考えずにそんなことをした
からです」。
  7 そこでナタンはダビデに言った。「その人はあなたのことです! イスラエルの神エホバはこう言ってい
ます。『私はあなたを選んでイスラエルの王とし,あなたをサウルから助け出した。 8 あなたの主人の家のも
のと妻たちを喜んで与え,イスラエルとユダの民を与えた。もしそれでも足りなければ,もっと与えるつもり
だった。 9 どうして私エホバにとって悪いことを行って,私の言葉を軽く見たのか。あなたはヘト人ウリヤを
剣で討った! 彼をアンモン人の剣で殺してから,彼の妻を自分の妻にした。 10 今後,あなたの家族は常に剣
に悩まされる。あなたがヘト人ウリヤの妻を自分の妻にし,私を侮ったからだ』。 11 エホバはこう言ってい
ます。『私はあなたへの災いをあなたの家族の中から生じさせる。あなたの目の前で妻たちを取り上げて別の
人に与える。その人は白昼堂々あなたの妻たちと寝る。 12 あなたはひそかに行ったが,私はイスラエル全体
の前で堂々とこのことを行う』」。
  13 ダビデはナタンに言った。「私はエホバに対して罪を犯しました」。ナタンはダビデに言った。「エホ
バはあなたの罪をお許しになります。あなたは死ぬことはありません。 14 しかし,あなたはエホバに対して
非常に不敬なことをしたので,生まれたばかりのあなたの子は必ず死にます」。
  15 こうしてナタンは家に帰った。
  エホバはウリヤの妻が産んだダビデの子を打ち,その子は病気になった。 16 ダビデはその子のことで真
の神に懇願した。厳格な断食をしながら,部屋に入っては,床の上で夜を過ごすのだった。 17 彼の家の年長
者たちが周りに立って,起き上がらせようとしたが,彼は応じず,一緒に食事をしようとはしなかった。 18
そして7日目,子供は死んだ。ダビデの家来たちは,子供が死んだことをダビデに知らせるのを恐れ,こう言
った。「子供が生きていた時,王は,話し掛けても聞いてくださらなかった。それなのに,子供が死んだとど
うして言えるだろう。王は何をするか分からない」。
  19 ダビデは,家来たちがひそひそ話し合っているのを見て,子供が死んだことを悟った。そして家来たち
に,「あの子が死んだのですか」と言った。家来たちは,「お亡くなりになりました」と答えた。 20 すると
ダビデは床から起き上がり,体を洗って油を塗り,着替え,エホバの家に行ってひれ伏した。その後,自分の
家に行って食べ物を用意させ,食べた。 21 家来たちはダビデに尋ねた。「どうしてそのようになさるのです
か。お子さまが生きていた時は断食して泣いておられたのに,亡くなられるとすぐに起き上がって食事をなさ
いました」。 22 ダビデは答えた。「あの子が生きていた時,私は断食し,泣いていました。それは,『エホ
バが私に憐れみを掛け,あの子が生きられるようにしてくださるかもしれない』と思ったからです。 23 しか
し死んでしまった以上,断食をする必要があるでしょうか。あの子を連れ戻せるでしょうか。私はいずれあの
子の所に行きます。もうあの子は私の所に戻ってきません」。
  24 その後ダビデは妻のバテ・シバを慰めた。彼女の所に行き,彼女と寝た。やがて彼女は男の子を産み,
その子はソロモンと名付けられた。エホバはその子を愛し, 25 預言者ナタンを遣わして,エホバのために,
その子をエディデヤと名付けさせた。
  26 ヨアブはアンモン人の王の都市ラバを攻め続け,攻略した。 27 ヨアブは使者たちをダビデに送り,
こう伝えさせた。「ラバを攻め,水の都市を攻略しました。 28 残りの兵士を集めて都市に向かって陣営を張
り,攻め落としてください。さもないと,私が都市を攻め落とすことになり,私の功績になってしまいます」。
  29 それでダビデは全軍を集めてラバに行き,戦って攻め落とした。 30 そしてマルカムの頭から冠を取
った。それは34キロの金でできた冠で,宝石が付いており,ダビデの頭に置かれた。ダビデは都市から非常
に多くの物を奪った。 31 また,都市にいた民を連れ出して,石切り,鉄の刃物や鉄のおのを使う仕事,れん
が作りを行わせた。アンモン人の全ての町に対してそのようにした。やがてダビデと兵士たち皆はエルサレム
に帰った。
  13 章
  1 ダビデの子アブサロムにはタマルという美しい妹がいた。ダビデの子アムノンはタマルに恋をした。 2
アムノンは妹タマルのことで思い悩み,具合が悪くなるほどだった。彼女は処女で,アムノンは彼女に何もで
きそうになかったからである。 3 アムノンには,ダビデの兄弟シムアの子で,エホナダブという名前の友人が
いた。エホナダブは利口な人だった。 4 エホナダブは言った。「王の子であるあなたが,どうして毎朝そんな
に思い悩んでいるのですか。話してくれませんか」。アムノンは言った。「タマルに恋をしているのです。私
の弟アブサロムの妹です」。 5 エホナダブは言った。「ベッドに横になり,病気のふりをしなさい。あなたの
父上が見舞いに来たら,こう言うのです。『妹のタマルがここに来るようにしていただけませんか。私が食べ
る物をタマルに用意させてください。目の前で彼女が病人のための食事を作って出してくれるなら,食べま
す』」。
  6 そこでアムノンは横になって病気のふりをした。王が見舞いにやって来たので,王に言った。「妹のタ
マルがここに来るようにしていただけませんか。タマルが私の目の前で菓子を2つ焼くようにしてください。
それを出してもらったら,食べます」。 7 それでダビデは人を遣わし,家にいるタマルにこう伝えさせた。
「アムノン兄さんの家に行って,食事を作ってあげてほしい」。 8 タマルが兄アムノンの家に行くと,アムノ
ンは横になっていた。タマルは彼の目の前で生地をこねて菓子を作った。 9 そして鍋から菓子を取り出してア
ムノンの前に出した。しかし彼は食べようとせず,「みんな,出ていきなさい!」と言った。それで皆が出て
いった。
  10 アムノンはタマルに言った。「食事を寝室で食べられるよう持ってきてくれないか」。タマルは作った
菓子を寝室にいる兄アムノンの所に持っていった。 11 すると,アムノンはタマルをつかまえて言った。「妹
よ,さあ,私と寝てくれ」。 12 彼女は言った。「いけません,お兄さま! 私を辱めないでください。イスラ
エルではそのようなことをしてはならないのです。そんなひどいことをしないでください。 13 辱めを受けた
ら私は耐えられません。お兄さまもイスラエルで恥をかくことになってしまいます。ですから,どうか王に話
してください。王はきっと私をお兄さまに与えてくださるでしょう」。 14 それでもアムノンは聞き入れず,
力ずくで彼女を犯し,辱めた。 15 するとアムノンはタマルを憎み始めた。非常に強い憎しみだった。彼女に
対する憎しみが,彼女に抱いていた愛よりも大きくなり,「起きて,出ていけ!」と言った。 16 タマルは言
った。「嫌です,お兄さま。私を追い出すなんて,すでに私にしたことよりももっとひどいことです!」 それ
でもアムノンは聞き入れなかった。
  17 アムノンは若い従者を呼んで言った。「この女をここから外に出し,鍵を掛けておけ」。 18 (タマ
ルは特別な長い服を着ていた。それは,処女である王の娘たちが着る服だった。)従者は彼女を外に連れ出し,
鍵を掛けた。 19 タマルは頭に灰をかぶり,着ていた上等の長い服を引き裂いた。手を頭に置いて歩き,泣き
ながら去っていった。
  20 兄のアブサロムが彼女に言った。「一緒にいたのはアムノン兄さんだったのか。いいか,タマル,黙っ
ていなさい。彼はあなたの兄だ。このことを気に病まなくていい」。それでタマルは兄アブサロムの家に住み,
人と会わないようにした。 21 ダビデ王は一部始終を聞き,非常に怒ったが,アムノンを責めるようなことは
しなかった。長男であるアムノンを愛していたからである。 22 アブサロムはアムノンに何も言わなかった。
妹タマルを辱めたアムノンを憎んでいた。
  23 丸2年がたった頃,エフライムの近くのバアル・ハツォルに,アブサロムの羊の毛を刈る人たちがいた。
アブサロムは王の子全員を招いた。 24 アブサロムは王のもとに来て言った。「今,羊の毛を刈っております。
どうか王と家来たちも私と共においでください」。 25 王はアブサロムに言った。「でも,アブサロム,皆が
行って負担を掛けるといけない」。アブサロムはしきりに頼んだが,王は行こうとせず,ただアブサロムのた
めに祝福を願い求めた。 26 アブサロムは言った。「おいでにならないのでしたら,どうかアムノン兄さんを
共に行かせてください」。王は言った。「どうしてアムノンが行かなければいけないのか」。 27 しかしアブ
サロムが強く頼んだので,王はアムノンと王の子全員をアブサロムと共に行かせた。
  28 アブサロムは従者たちに命じた。「よく見ていなさい。アムノンがぶどう酒でいい気分になったら,私
はあなたたちに,『アムノンを討て!』と言う。そうしたら,彼を殺しなさい。恐れてはいけない。これは私
の命令だ。強くあって,勇気を出しなさい」。 29 それでアブサロムの従者たちは,命じられた通り,アムノ
ンを殺した。王のほかの子たちは皆,立ち上がり,それぞれラバに乗って逃げた。 30 彼らが到着する前に,
ダビデは,「アブサロムが王の子全員を討ち,皆死んだ」という報告を受けた。 31 王は立ち上がって衣服を
引き裂き,床に横になった。家来たちは皆,衣服を引き裂き,そばに立っていた。
  32 ダビデの兄弟シムアの子エホナダブがこう言った。「ご主人さま,王の子全員が殺されたとは思わない
でください。亡くなったのはアムノンだけです。アブサロムが,妹タマルがアムノンに辱められた日から決意
していたことを命令したのです。 33 それで,ご主人さま,王よ,『王の子たちが皆死んだ』という言葉に心
を留めないでください。亡くなったのはアムノンだけなのです」。
  34 その間にアブサロムは逃げ去った。見張りが目を上げると,後ろの山沿いの道から多くの人がやって来
るのが見えた。 35 それでエホナダブは王に言った。「ご覧ください。王の子たちが戻ってこられました。私
が申し上げた通りです」。 36 彼が話し終えると,王の子たちが来て,声を上げて泣いた。王も家来たち皆も
非常に激しく泣いた。 37 一方,アブサロムは逃げ去り,ゲシュルの王アミフドの子タルマイの所に行った。
ダビデは何日も息子の死を嘆き悲しんだ。 38 逃げてゲシュルに行ったアブサロムは,3年そこにとどまった。
  39 やがてダビデ王はアブサロムの所に行きたいと思った。アムノンの死を受け入れたのである。
  14 章
  1 ツェルヤの子ヨアブは,アブサロムを思う王の気持ちに気付いた。 2 そこでヨアブはテコアに人を遣
わし,1人の利口な女性を連れてこさせた。そして彼女に言った。「喪服を着て,嘆き悲しんでいるふりをし
てくれないか。体に油を塗ってはいけない。誰かを亡くして長い間嘆き悲しんでいる女性のように振る舞うの
だ。 3 王のもとに行き,こう言いなさい」。そうしてヨアブは言うべきことを彼女に伝えた。
  4 テコアの女性は王のもとに行き,身をかがめてひれ伏し,「王よ,助けてください!」と言った。 5
王は彼女に,「どうしたのですか」と言った。すると彼女は言った。「私はやもめです。夫は亡くなりました。
6 私には2人の息子がおり,息子たちは野原でけんかを始めました。割って入る人は誰もおらず,1人がもう
1人を殴打して殺してしまいました。 7 すると一族全体が私に向かって立ち上がり,『兄弟を殴打した者を引
き渡せ。殺された兄弟のために,その者を殺すのだ! 跡継ぎが途絶えることになっても構わない』と言うので
ございます。彼らは,私に残された最後の炭火を消して,夫の名前も子孫も地上から消し去ろうとしているの
です」。
  8 王は女性に言った。「家に帰りなさい。あなたのことで命令を出しましょう」。 9 テコアの女性は王
に言った。「王よ,罪の責任は私と父の家の者にあります。王とその王座は潔白です」。 10 王は言った。
「あなたに何かを言ってくる人がいれば,その人を私の所に連れてきなさい。その人があなたを悩ますことは
二度となくなります」。 11 女性は言った。「どうか王がエホバ神を覚えていてくださり,復讐者が息子を殺
害することがありませんように」。王は言った。「生きている神エホバに懸けて言います。あなたの息子の髪
の毛1本でさえ地面に落ちることはありません」。 12 女性は,「どうか王に一言申し上げさせてください」
と言った。王は,「話しなさい」と言った。
  13 女性は言った。「王はどうして神の民にとって損失となることをしておられるのですか。王がおっしゃ
ったことからすると,追放した子を連れ戻さない王には罪があるのではありませんか。 14 私たちは皆,必ず
死にます。地面に注ぎ出され,取り戻すことのできない水のようです。しかし,神は命を取り去ったりはしま
せん。神は,誰かが追放されたとしても,ご自分のもとからは追放されるべきではない理由を考慮されます。
15 私がこうしたことを王にお話しに参りましたのは,人々が怖くなったからです。私は考えました。『王に話
そう。王はきっと私の願いを聞いて行動してくださる。 16 王は聞いて,私を救ってくださるに違いない。神
に頂いた土地から私とたった1人の息子を消し去ろうとする人の手から,救ってくださる』。 17 そしてこう
願いました。『王が私を安心させることを言ってくださいますように』。王は,真の神の天使のように,良い
ことと悪いことを見分けるからです。エホバ神が王と共にいてくださいますように」。
  18 王は女性に答えた。「私が尋ねることに隠さずに答えてください」。女性は言った。「王よ,どうぞお
っしゃってください」。 19 王は尋ねた。「これは全部,ヨアブがさせたことなのですか」。女性は答えた。
「王よ,生きているあなたに懸けて申します。王が言われる通りです。あなたの家来ヨアブから指示を受け,
言うべきことを教えられました。 20 王に状況を違った観点で見ていただくため,あなたの家来ヨアブがした
ことです。ですが,王は真の神の天使のような知恵をお持ちで,地上で起きていることを全てご存じです」。
  21 それで王はヨアブに言った。「いいでしょう。こうしましょう。若者アブサロムを連れ戻しに行きなさ
い」。 22 ヨアブは身をかがめてひれ伏し,王を称賛した。そして言った。「ご主人さま,王よ,今日私は王
の好意を得ていることを知りました。王が私の願いを聞いて行動してくださったからです」。 23 こうしてヨ
アブは立ち上がってゲシュルに行き,アブサロムをエルサレムに連れてきた。 24 王は,「彼を自分の家に戻
らせなさい。ですが,彼は私に会いに来てはなりません」と言った。それでアブサロムは自分の家に戻り,王
に会いには行かなかった。
  25 イスラエルのどこにも,アブサロムほどりりしくて称賛される人はいなかった。頭のてっぺんから足の
裏まで欠点がなかった。 26 彼が髪の毛を切ると,重さは王室の石重りで量って2.3キロだった。(彼は髪
が非常に重かったので,年に1度切っていた。) 27 アブサロムには3人の息子と1人の娘が生まれた。娘は
タマルといい,とても美しい女性だった。
  28 アブサロムは丸2年エルサレムに住んでいたが,王に会いに行くことはなかった。 29 アブサロムは
ヨアブを呼んで王のもとに遣わそうとしたが,ヨアブは来なかった。再び人を送って彼を呼んだが,それでも
来ようとしなかった。 30 ついにアブサロムは家来たちに言った。「私の土地の隣にヨアブの土地があり,大
麦が植えてある。そこに火を付けに行け」。それでアブサロムの家来たちはその土地に火を付けた。 31 ヨア
ブは立ち上がり,アブサロムの家に来て言った。「あなたの家来たちはどうして私の土地に火を付けたのです
か」。 32 アブサロムはヨアブに答えた。「私は人を送ってあなたにこう伝えさせた。『こちらに来てほしい。
あなたを王のもとに遣わし,こう尋ねてもらいたいのだ。「なぜ私はゲシュルから来たのでしょうか。私にと
ってはあそこにいた方がましでした。王に会わせてください。もし私に罪があるのでしたら,王は私を殺すべ
きです」』」。
  33 それでヨアブは王のもとに行って話した。王がアブサロムを呼び寄せたので,アブサロムは王のもとに
来て,王の前で身をかがめてひれ伏した。王はアブサロムに口づけした。
  15 章
  1 そうしたことの後,アブサロムは自分のために兵車と馬と護衛50人を配備した。 2 また,アブサロ
ムは朝早く起きて,都市の門に通じる道の脇に立つようにした。訴え事のある人が,裁いてもらおうと王の所
にやって来ると,アブサロムはその人を呼んで,「あなたはどこの町の人ですか」と言い,その人は「イスラ
エルのこれこれの部族の者でございます」と言うのだった。 3 アブサロムは,「あなたの訴えは正しくてもっ
ともですが,王の下には,あなたの件を扱ってくれる人はいません」と言った。 4 そしてこう言うのだった。
「私がこの国の裁判人に任命されていれば,訴え事や争い事がある人はみんな私のもとに来て,公正な裁きを
受けられるのですが」。
  5 誰かが近づいてきてひれ伏そうとすると,アブサロムは手を出して引き寄せ,口づけするのだった。 6
裁いてもらおうとして王の所に来る全てのイスラエル人に,アブサロムはこうしたことをしていた。イスラエ
ルの人たちの心を盗んでいたのである。
  7 4年がたった頃,アブサロムは王にこう言った。「どうか私をヘブロンに行かせてください。エホバに
した誓約を果たしたいのです。 8 私はシリアのゲシュルに住んでいた時,『もしエホバが私をエルサレムに連
れ戻してくださるなら,エホバに捧げ物をします』という厳粛な誓約をいたしました」。 9 王は言った。「気
を付けて行きなさい」。そこでアブサロムは立ち上がって,ヘブロンに行った。
  10 アブサロムはイスラエルの全部族にひそかに使者たちを送った。こう言っておいた。「角笛の音を聞い
たらすぐ,『アブサロムがヘブロンで王になった!』と宣言しなさい」。 11 200人の人がアブサロムと共
にエルサレムを出ていった。彼らは招集されるままに,何も疑わず,事情を知らずに付いていった。 12 さら
に,アブサロムは犠牲を捧げた時,ギロに人を遣わして,ダビデの顧問官でギロの人アヒトフェルを呼び寄せ
た。こうして謀反は勢いを増し,アブサロムの支持者は増えていった。
  13 やがてダビデのもとに人がやって来て,こう報告した。「イスラエルの人たちの心はアブサロムに向い
ています」。 14 ダビデは直ちに,共にエルサレムにいる家来たち皆に言った。「今すぐ逃げましょう。さも
ないと,アブサロムから誰も逃げられなくなります! 急ぎなさい。彼はすぐに追い付いて,私たちに危害を加
え,都市を剣で討つでしょう!」 15 家来たちは王に言った。「王がお決めになることは何でもいたします」。
16 王は,留守にする家の番として側室10人を残し,家の人全員を連れて出発した。 17 王は連れてきた人
たちと共に進んでいき,一行はベト・メルハクで立ち止まった。
  18 王と共に出発する家来たち,ケレト人,ペレト人,王に付いてきたガトの人600人の皆が王の前を通
り,王は確認を取った。 19 王はガトの人イッタイに言った。「どうしてあなたも私たちと一緒に行くのです
か。戻って,新しい王と共にとどまりなさい。あなたは外国人ですし,亡命者なのです。 20 昨日来たばかり
のあなたを,私たちと一緒にさまよわせるわけにはいきません。私はいつどこに行くか分からないのです。あ
なたの兄弟たちを連れて戻りなさい。エホバがあなたに揺るぎない愛を示し,支え続けてくださいますよう
に!」 21 イッタイは王に言った。「生きている神エホバと王に懸けて誓います。たとえ死ぬことになっても,
どこでも王が行かれる場所に私も参ります!」 22 それでダビデはイッタイに言った。「では,谷を渡って向
こうに行きなさい」。こうしてガトの人イッタイは,部下や家族の皆と共に谷を渡った。
  23 人々が谷を渡る中,付近の住民たちは皆,声を上げて泣いていた。王はキデロンの谷のそばに立ち,
人々は荒野に通じる道に向かってそこを渡っていった。 24 ザドクもそこにいて,ほかに真の神の契約の箱を
運ぶレビ族の人たち皆が共にいた。彼らは真の神の箱を下ろした。人々が都市から出て谷の向こう側まで行く
中,アビヤタルもそこにいた。 25 王はザドクに言った。「真の神の箱を都市に戻しなさい。もし私がエホバ
の好意を得ているなら,神は私を連れ戻して,箱とその住まいを見させてくださいます。 26 しかし,もし神
が,『あなたのことを喜んではいない』と言われるなら,神が良いと思われることを私になさいますように」。
27 王は祭司ザドクに言った。「あなたは予見者ですね。気を付けて都市に戻りなさい。あなたたちの2人の
子も連れていきなさい。あなたの子アヒマアツとアビヤタルの子ヨナタンです。 28 あなたたちから知らせが
あるまで,私は荒野に近い渡り場で待っています」。 29 それでザドクとアビヤタルは真の神の箱をエルサレ
ムに戻し,そこにとどまった。
  30 ダビデは泣きながらオリーブ山を登った。頭を覆い,はだしで歩いた。ダビデと共にいた人々も頭を覆
い,泣きながら登っていった。 31 それからダビデのもとに,「アヒトフェルが,アブサロムと共にいる謀反
者たちに加わった」という報告があった。ダビデは,「エホバ,どうかアヒトフェルの助言が愚かなものと見
なされるようにしてください!」と言った。
  32 民がよく神にひれ伏していた山頂にダビデが着くと,アルキ人のフシャイが会いに来ていた。フシャイ
の長い服は引き裂かれ,頭に土をかぶっていた。 33 ダビデは彼に言った。「もしあなたが私と一緒に来るな
ら,私の負担になります。 34 しかし,もしあなたが都市に戻ってアブサロムに,『王よ,私はあなたの家来
です。以前はあなたの父上の家来でしたが,今はあなたの家来です』と言うなら,あなたは私のために,アヒ
トフェルの助言が実行されるのを阻むことができます。 35 都市には祭司のザドクとアビヤタルもいます。王
の家から聞くことは全て,祭司のザドクとアビヤタルに伝えてください。 36 また,彼らの息子2人,ザドク
の子アヒマアツとアビヤタルの子ヨナタンも都市にいます。聞いたことは全部,2人を通して私に伝えてくだ
さい」。 37 それでダビデの友人フシャイは都市に行った。アブサロムもエルサレムに入った。
  16 章
  1 ダビデが山頂から少し下ると,メピボセテの従者ツィバが会いに来ていた。くらを置いた1対のロバを
連れ,それにパン200個,干しぶどうの菓子100個,夏の果物の菓子100個,ぶどう酒の入った大きな
つぼを載せていた。 2 王はツィバに言った。「これらの物をどうして持ってきたのですか」。ツィバは答えた。
「ロバは王の家の方たちに乗っていただくため,パンと夏の果物は部下の方たちに食べていただくため,ぶど
う酒は荒野で疲れ切った方たちに飲んでいただくため,持ってまいりました」。 3 王は言った。「ところで,
あなたの主人の孫はどこにいますか」。ツィバは王に言った。「今,エルサレムにとどまっております。彼は,
『今日,イスラエル国民は祖父の王権を私に返すことになる』と言っていました」。 4 王はツィバに言った。
「メピボセテのものは全部あなたのものです」。ツィバは言った。「あなたの前でひれ伏します。王の好意を
得られますように」。
  5 ダビデ王がバフリムまで来ると,サウル家の一族の男性が出てきた。ゲラの子で,シムイという名前だ
った。彼はののしりながら近づいてきた。 6 そしてダビデ王と家来たち皆に石を投げ付けた。ほかの人々と王
の両脇にいた戦士たちにもそうした。 7 シムイはこうののしった。「出ていけ,出ていけ! 流血の罪のある
男,どうしようもないやつめ! 8 サウル家の血を流して王権を奪ったおまえに,エホバは罪の報いを与える。
エホバはおまえの子アブサロムに王権を渡す。おまえは流血の罪のある男だから,災いに遭っているのだ!」
  9 ツェルヤの子アビシャイが王に言った。「どうして,あの死んだ犬に王をののしらせておくのですか。
どうか私を行かせて彼の首をはねさせてください」。 10 王は言った。「ツェルヤの子たち,これは私のこと
で,あなたたちには関係のないことです。ののしらせておきましょう。エホバが彼に,『ダビデをののしりな
さい』と言ったのです。そうであれば,いったい誰が,『どうしてこんなことをしているのだ』と言ってよい
でしょう」。 11 ダビデはアビシャイと家来たち皆に言った。「私の子,私から出た子が私の命を狙っている
のですから,ベニヤミン族の人であればなおさらでしょう。放っておいて,ののしらせておきなさい。彼はエ
ホバに言われてそうしているのです。 12 エホバは私の苦難を見てくださるでしょう。エホバは,私が今日受
けたののしりの代わりに,良いことを与えてくださいます」。 13 こうしてダビデと部下たちは道を下ってい
った。その間,シムイは並行して山沿いを歩き,ののしりながら石やたくさんの土を投げ付けてきた。
  14 ついに王と人々は目的地に着いた。非常に消耗しており,そこで疲れを癒やした。
  15 一方,アブサロムとイスラエルの人たち皆は,エルサレムに着いた。アヒトフェルも一緒だった。 16
ダビデの友人でアルキ人のフシャイがアブサロムの所にやって来た。フシャイはアブサロムに言った。「王が
栄えますように! 王が栄えますように!」 17 アブサロムはフシャイに言った。「友ダビデへのあなたの揺る
ぎない愛はどこに行ってしまったのか。どうして友と一緒に行かなかったのか」。 18 フシャイはアブサロム
に言った。「そんなことはできません。私は,エホバとこの民とイスラエルの人たち皆が選んだ方の側に付き,
そのもとにとどまります。 19 では,私は誰に仕えるべきでしょうか。私の友の子ではありませんか。あなた
の父上に仕えたように,あなたに仕えます」。
  20 その後,アブサロムはアヒトフェルに言った。「助言はあるか。私たちはどうしたらよいか」。 21
アヒトフェルはアブサロムに言った。「あなたの父上が留守にする家の番として残した側室たちと関係を持ち
なさい。あなたが父上に憎まれることをした,とイスラエル全体が聞けば,あなたの支持者たちは勢いづくで
しょう」。 22 それでアブサロムのために屋上に天幕が張られた。アブサロムはイスラエル全体の目の前で,
父親の側室たちと関係を持った。
  23 当時,アヒトフェルの助言は真の神の言葉のように見なされていた。彼の助言は全て,ダビデからもア
ブサロムからもそのように重んじられていた。
  17 章
  1 アヒトフェルはアブサロムに言った。「どうか私に1万2000人を選ばせ,今夜,ダビデの後を追わ
せてください。 2 疲れて弱っているところを襲い,彼を混乱に陥れます。共にいる皆が逃げ出すでしょうから,
私は王だけを討ちます。 3 そして民全てをあなたのもとに連れ戻します。あなたが狙っている男さえ何とかす
れば,民は皆,戻ってきて,やがて穏やかになるでしょう」。 4 アブサロムとイスラエルの全ての長老にとっ
て,これは名案と思えた。
  5 それでもアブサロムは,「アルキ人のフシャイを呼んでもらいたい。彼の言うことも聞こうではない
か」と言った。 6 それでフシャイがアブサロムの所に来た。アブサロムは言った。「アヒトフェルはこのよう
な助言をした。この助言を実行してよいだろうか。よくないなら,どうすればよいか話しなさい」。 7 フシャ
イはアブサロムに言った。「アヒトフェルがした今回の助言は良くありません!」
  8 フシャイは続けた。「よくご存じのように,あなたの父上と部下たちは強く,野原で子を奪われた雌熊
のように気が立っています。それに,あなたの父上は戦士ですから,民と共に夜を過ごすことはありません。
9 今はどこかの洞窟かほかの場所に隠れているでしょう。あなたの父上が先に攻撃してきたら,『アブサロム
に付いていた民は打ち破られた!』といううわさが広まります。 10 そうなると,ライオンのように勇敢な人
でもおじけづいてしまいます。イスラエル全体が知っている通り,あなたの父上は強く,共にいる部下たちも
勇敢なのです。 11 私の助言はこうです。イスラエル全体をあなたのもとに集めてください。ダンからベエル
・シェバにかけて,海辺の砂のように多くの人を集め,あなたが率いて戦いに行くのです。 12 そうすれば,
彼がどこにいようとも私たちは見つけ,露が地面に降りるかのように彼に襲い掛かれます。彼も部下たちも,
一人も生き残りません。 13 もし彼がどこかの町に逃げ込むなら,イスラエル全体と共に行ってその町に綱を
掛け,町を谷まで引きずっていき,そこに小石一つさえ残らないようにします」。
  14 するとアブサロムとイスラエルの人たち皆は言った。「アルキ人フシャイの助言は,アヒトフェルの助
言よりも優れている!」 エホバの決定により,アヒトフェルの的確な助言は実行を阻まれることになっていた。
エホバはアブサロムに災難をもたらそうとしていたのである。
  15 フシャイは,祭司のザドクとアビヤタルに言った。「アヒトフェルはアブサロムとイスラエルの長老た
ちにこれこれの助言をし,私はこれこれの助言をしました。 16 それですぐに人を遣わしてダビデにこう伝え
てください。『今夜は,荒野に近い渡り場にいてはいけません。必ず川を渡っていってください。そうしない
と,王も民も皆,消し去られてしまいます』」。
  17 ヨナタンとアヒマアツはエン・ロゲルで待機していた。あえて都市に入ることをしなかったのである。
そこに召し使いの女性がやって来て報告し,2人はダビデ王の所に伝えに向かった。 18 ところが,ある若者
が2人を見掛け,アブサロムに話した。それで2人はすぐに去っていき,バフリムのある男性の家に行った。
庭に井戸があったので,2人はその中に下りた。 19 男性の妻が井戸の口に覆いを掛け,その上に砕いた穀物
を載せたため,誰にも気付かれなかった。 20 アブサロムの家来たちが家に来て女性に言った。「アヒマアツ
とヨナタンはどこにいるのか」。女性は答えた。「ここを通り過ぎて川の方に行きました」。家来たちは捜し
たが,見つけられず,エルサレムに帰った。
  21 家来たちが去ると,2人は井戸から出てきて,ダビデ王の所に行ってこう伝えた。「さあ,すぐに川を
渡ってください。アヒトフェルはあなたを討つためにこれこれの助言をしました」。 22 ダビデと民の皆は直
ちに出発して,ヨルダン川を渡った。夜明けまでに,全員がヨルダン川を渡り切った。
  23 アヒトフェルは,自分の助言が実行されなかったのを知って,ロバを用意し,故郷の自分の家に帰った。
そして家の人たちに指示を与えてから,首をつった。彼は死に,父祖たちの墓に葬られた。
  24 その間にダビデはマハナイムに行った。アブサロムもイスラエルの人たち皆を連れてヨルダン川を渡っ
た。 25 アブサロムはヨアブの代わりにアマサに軍隊を任せた。アマサは,イスラエル人イトラとナハシュの
娘アビガイルの間の子である。アビガイルは,ヨアブの母ツェルヤの姉妹だった。 26 イスラエルとアブサロ
ムは,ギレアデ地方に陣営を張った。
  27 ダビデがマハナイムに着くとすぐ,アンモン人の都市ラバの人ナハシュの子ショビと,ロ・デバルの人
アミエルの子マキルと,ギレアデのロゲリムの人バルジライが, 28 寝具,鉢,土器,小麦,大麦,麦粉,炒
った穀物,空豆,レンズマメ,あぶった穀物を持ってきた。 29 蜂蜜,バター,羊,チーズもあった。彼らは,
ダビデと民が食べられるようにとこれら全てを持ってきた。「民は荒野で飢えて疲れ,喉が渇いている」と思
ったのである。
  18 章
  1 ダビデは共にいた部下たちを数え,千人長や百人長たちを任命した。 2 そして,部下の3分の1をヨ
アブ,3分の1をヨアブの兄弟でツェルヤの子アビシャイ,3分の1をガトの人イッタイの指揮下に置いた。
王は部下たちに言った。「私も皆さんと共に出陣します」。 3 部下たちは言った。「あなたは出陣してはいけ
ません。あなたは私たちの1万人に値します。私たちが逃げようと,私たちの半分が死のうと,彼らは何とも
思わないでしょう。あなたは町にいて支援してくださる方がよいのです」。 4 王は言った。「皆さんが最善と
思うことをしましょう」。こうして王は町の門の近くに立ち,部下たちは皆,百人隊ごと,千人隊ごとに出て
いった。 5 王はヨアブ,アビシャイ,イッタイにこう命じた。「私のために,若いアブサロムを優しく扱って
ください」。アブサロムについて王が長たち皆にそう命じた時,部下全員が聞いていた。
  6 部下たちはイスラエルに立ち向かうため野原に出ていった。戦いはエフライムの森で行われた。 7 イ
スラエルの民はそこでダビデの家来たちに打ち破られた。その日の戦死者は非常に多く,2万人に上った。 8
戦いは地域一帯に広がり,その日,剣で死んだ人よりも多くの人が森に潜む危険の犠牲になった。
  9 やがてアブサロムはダビデの家来たちに出くわした。アブサロムはラバに乗っており,ラバは大木の入
り組んだ枝の下に来た。するとアブサロムは,髪が大木に引っ掛かって宙づりになり,乗っていたラバはその
まま走っていった。 10 それを見た人がヨアブにこう伝えた。「アブサロムが大木に宙づりになっているのを
見ました」。 11 ヨアブはその人に言った。「それを見ておきながら,どうしてその場で仕留めなかったのか。
そうしていたら,銀10枚とベルトを与えてやったのに」。 12 その人はヨアブに言った。「私はたとえ銀1
000枚を渡されても,王のご子息に手は出しません。私たちが聞いている所で,王はあなたとアビシャイと
イッタイに,『みんな,若いアブサロムを大事に扱いなさい』と命じたからです。 13 私が背いて彼の命を奪
っていたなら,王に必ず知られたでしょうし,あなたは私を守ってはくださらなかったでしょう」。 14 ヨア
ブは言った。「これ以上おまえと話しても時間の無駄だ!」 そうしてヨアブは3本の投げ矢を取り,大木に宙
づりになってまだ生きていたアブサロムの心臓に突き刺した。 15 ヨアブの武器を運ぶ10人の従者も来て,
アブサロムを討って息の根を止めた。 16 ヨアブは角笛を吹き鳴らし,部下たちはイスラエルを追うのをやめ
て戻った。ヨアブが停止を呼び掛けたのである。 17 彼らはアブサロムを運んで森の大きな穴に投げ込み,そ
の上に石を積んで非常に大きな山にした。一方,イスラエルは皆,それぞれ自分の家に逃げた。
  18 ところでアブサロムは存命中,王の谷に1つの石を自分のために立てていた。彼が言うには,「私には,
私の名前を思い起こさせる息子が一人もいない」からだった。彼はその石に自分の名前を付け,それは今も
「アブサロムの記念碑」と呼ばれている。
  19 ザドクの子アヒマアツは言った。「どうか私に走らせ,この知らせを王に伝えさせてください。エホバ
は王を敵から解放して,王が正しいということを示されたからです」。 20 ヨアブは彼に言った。「今回,知
らせを持っていくのはあなたではない。王の子が死んだのだから,今回はあなたが伝えてはいけない。あなた
が伝えるのは別の時だ」。 21 ヨアブはあるクシュ人に言った。「あなたが見たことを王に伝えに行きなさ
い」。そこでクシュ人はヨアブに頭を下げ,走っていった。 22 ザドクの子アヒマアツはもう一度ヨアブに言
った。「どんなことになろうとも,どうかクシュ人の後を走らせてください」。ヨアブは言った。「アヒマア
ツ,どうしてあなたが走らなければいけないのか。あなたが伝えることは何もない」。 23 それでもアヒマア
ツは,「どんなことになろうとも,走らせてください」と言った。ヨアブは,「走れ!」と言った。そこでア
ヒマアツは走ってヨルダン地域を通り,やがてクシュ人を追い越した。
  24 さて,ダビデは町の2つの門の間に座っていた。見張りが城壁の門の屋上に行って見ると,1人で走っ
てくる人がいた。 25 それで見張りが叫んで王に知らせると,王は「1人なら,その人は知らせを持っていま
す」と言った。その人が近づいてくる中, 26 見張りは別の人が走ってくるのを見た。そして門番に叫んだ。
「見てください! 別の人が1人で走ってきます!」 王は,「その人も知らせを持っています」と言った。 27
見張りは言った。「走り方からして,最初の人はザドクの子アヒマアツのようです」。王は,「彼は良い人で
す。良い知らせを持ってくるでしょう」と言った。 28 アヒマアツは叫んで,「全て順調です!」と王に言っ
た。そして王にひれ伏し,こう言った。「あなたの神エホバが賛美されますように! 神は王に反逆した人たち
を王の手に渡してくださいました」。
  29 王は,「若いアブサロムは無事ですか」と尋ねた。アヒマアツは言った。「私と王の家来がヨアブから
遣わされた時,大きな騒ぎが起きているのを見ましたが,何かは分かりませんでした」。 30 王は,「脇に寄
って,立っていなさい」と言った。それでアヒマアツは脇に寄り,そこに立った。
  31 そこへクシュ人が到着し,こう言った。「ご主人さま,王よ,この知らせをお聞きください。エホバは
今日,あなたを反逆者たちから解放して,あなたが正しいということを示されました」。 32 王はクシュ人に
言った。「若いアブサロムは無事ですか」。クシュ人は言った。「王の敵と,あなたに危害を加えようとした
反逆者が皆,あの若者のようになりますように!」
  33 すると王はひどく動揺して,門の上の屋上の部屋に行って泣いた。歩きながら,こう言った。「わが子
アブサロム,わが子,わが子アブサロム! 私が代わりに死ねばよかったのに。わが子,わが子アブサロム!」
  19 章
  1 ヨアブの所に,「王がアブサロムのことで泣き,嘆き悲しんでいる」という報告があった。 2 そのた
め,兵士たち皆にとって,その日の勝利の喜びは嘆きに変わった。息子のことで王が悲しんでいると聞いたか
らである。 3 兵士たちはその日,屈辱のうちに敗走する人たちのように,ひっそりと町に帰った。 4 王は顔
を覆い,「わが子アブサロム! わが子,わが子アブサロム!」と大声で泣き叫んでいた。
  5 ヨアブは王がいる家に入り,こう言った。「あなたは今日,家来たち皆に恥をかかせました。彼らはあ
なたの命を救い,息子や娘,妻や側室の命も救ったのではないですか。 6 あなたは,あなたを憎む人たちを愛
し,あなたを愛する人たちを憎んでいます。あなたが今日していることからすれば,あなたにとって長や家来
たちは大して重要ではありません。今日アブサロムが生きていて私たちが死んでいる方が,あなたにとっては
よかったのだと思います。 7 さあ,立ち上がって出ていき,家来たちを安心させてください。私はエホバに懸
けて誓います。もしあなたが出ていかないなら,今夜は誰もあなたのもとにとどまりません。そうなれば,若
い時からこれまでにあなたに降り掛かったどんな災難よりもひどいことが起きるでしょう」。 8 そこで王は立
ち上がり,町の門の所に座った。そして民は皆,「王は門の所に座っている」と知らされ,王の前にやって来
た。
  一方,イスラエルは,それぞれ自分の家に逃げ帰っていた。 9 イスラエルの全部族の中で,人々は皆こう
言い争っていた。「王は私たちを敵から救い,フィリスティア人から救い出してくれたが,今はアブサロムの
ことで逃亡している。 10 私たちが選んだアブサロムが戦いで死んでしまった今,どうして王を連れ戻そうと
しないのか」。
  11 ダビデ王は人を遣わして,祭司のザドクとアビヤタルにこう伝えさせた。「ユダの長老たちにこう話し
なさい。『どうしてあなたたちは王を家に連れ戻そうとせず,ほかの部族に後れを取っているのですか。イス
ラエルの皆の声が私の家に届いています。 12 あなたたちは,私の兄弟,私の肉親です。それなのにどうして
王を連れ戻そうとせず,ほかの部族に後れを取るのですか』。 13 また,アマサにこう言いなさい。『あなた
は私の肉親ではないですか。もしあなたが今後ヨアブの代わりに軍隊長にならないなら,神が私を厳しく罰し
ますように』」。
  14 こうしてユダの全ての人の心がすっかり傾いた。彼らは人を遣わして王に,「あなたも,あなたの家来
たちも皆,お戻りください」と伝えさせた。
  15 王は帰還し始め,ヨルダン川まで来た。ユダの民は,王を迎えてヨルダン川を渡るのを助けようとして,
ギルガルにやって来た。 16 ベニヤミン族でゲラの子である,バフリムの人シムイも,ダビデ王を迎えるため
にユダの人たちと一緒に急いでやって来た。 17 ベニヤミンの人たち1000人がシムイと共にいた。また,
サウル家の従者ツィバも15人の息子や20人の召し使いを連れて,王が来るよりも前にヨルダン川に駆け付
けた。 18 彼は,王の家の人を渡らせたり王の要望に応えたりするため,渡り場を渡った。一方,ゲラの子シ
ムイは,王がヨルダン川を渡ろうとした時,その前でひれ伏した。 19 そして王に言った。「王が私を有罪と
お考えになりませんように。王がエルサレムから出ていかれた日に,私が犯しました過ちを思い出さないでく
ださい。王よ,心に留めないでください。 20 私は,自分が罪を犯したことをよく分かっております。それで
今日,王をお迎えするためにヨセフの一族の中で一番先に参りました」。
  21 ツェルヤの子アビシャイが言った。「シムイは殺されるべきではないでしょうか。エホバが選んだ方を
ののしったのですから」。 22 ダビデは言った。「ツェルヤの子たち,これは私のことで,あなたたちには関
係のないことです。どうして私に反発するのですか。今日イスラエルで誰かが殺されてよいでしょうか。私が
今イスラエルの王であることを,私は分かっています」。 23 王はシムイに,「あなたは死ぬことはありませ
ん」と言い,誓った。
  24 サウルの孫メピボセテも王を迎えに出た。メピボセテは,王が出ていった日から無事に帰還した日まで,
足も洗わず,口ひげの手入れもせず,服も洗わなかった。 25 彼が王を迎えるためにエルサレムに来た時,王
は彼にこう言った。「メピボセテ,あなたはどうして私と一緒に来なかったのですか」。 26 メピボセテは言
った。「ご主人さま,王よ,私は召し使いのたくらみにはまったのです。私は足が不自由ですので,『ロバに
乗って王と一緒に行けるよう,くらを置いておいてください』と言ってありました。 27 それなのに,彼は王
の前で私のことを中傷しました。ですが,王は真の神の天使のような方ですから,王が良いと思うことをなさ
ってください。 28 私の父の家の者は皆,王に滅ぼされてもおかしくないのに,あなたは私を同じ食卓に着か
せてくださいました。私には,これ以上何かを王に求める権利などございません」。
  29 王はメピボセテに言った。「それ以上話さなくて結構です。こうします。あなたとツィバで畑を分け合
いなさい」。 30 メピボセテは王に言った。「王が無事に家に戻られたのですから,全部彼のものになっても
構いません」。
  31 ギレアデの人バルジライもロゲリムからやって来て,ヨルダン川まで王に付き添った。 32 バルジラ
イは非常に年を取っており,80歳だった。とても裕福で,王がマハナイムにいた時には食物を供給した。 33
王はバルジライに言った。「一緒に渡りましょう。エルサレムであなたに食物を与えます」。 34 バルジライ
は王に言った。「王と共にエルサレムに行ったとしても,私はあと何年生きられるでしょうか。 35 私は今8
0歳です。私は,物の良しあしを見分けられるでしょうか。食べるものや飲むものを味わえるでしょうか。男
女の歌い手たちの声を聞けるでしょうか。王に余計な重荷を負わせるわけにはいきません。 36 ヨルダン川ま
でお連れできただけで十分です。そこまでしていただくには及びません。 37 どうか帰らせてください。父と
母の墓に近い私の町で死なせてください。ここにキムハムがおります。彼を王と共に渡らせてください。良い
と思うことを彼になさってください」。
  38 王は言った。「キムハムと一緒に渡ります。あなたが良いと思うことを彼にしましょう。あなたの願い
は何でもかなえます」。 39 民は皆ヨルダン川を渡り始めた。王は渡る時,口づけしてバルジライのために祝
福を願った。そうしてバルジライは町に帰っていった。 40 王は川を渡ってギルガルに向かい,キムハムも一
緒に行った。ユダの民の皆とイスラエルの民の半分が王を渡っていかせた。
  41 ほかのイスラエルの人たち皆が王のもとに来て,こう言った。「私たちの兄弟であるユダの人たちは,
どうしてあなたを横取りして,王と家の人たちや部下たちにヨルダン川を渡らせたのですか」。 42 ユダの人
たち皆がイスラエルの人たちに答えた。「王は私たちの身内だからだ。このことでどうして怒っているのか。
私たちは王の費用で何かを食べたり,贈り物を受け取ったりしたか」。
  43 イスラエルの人たちはユダの人たちに言った。「私たちの部族の数は10に上り,ダビデについてあな
たたちよりも大きな権利がある。それなのに,どうして私たちを見下すようなことをしたのか。私たちが先に
王を連れ戻すべきではなかったか」。しかし,ユダの人たちの発言はイスラエルの人たちを圧倒した。
  20 章
  1 さて,ベニヤミン族で,ビクリの子であるシェバというどうしようもない人がいた。シェバは角笛を吹
き鳴らしてこう言った。「われわれはダビデと分け合うものは何もない。エッサイの子から受けるものは何も
ない。イスラエルよ,おのおの自分の神々のもとに帰れ!」 2 そこでイスラエルの人たちはダビデに従うのを
やめ,ビクリの子シェバに従った。しかしユダの人たちは,ヨルダン川からエルサレムまでずっと自分たちの
王から離れなかった。
  3 ダビデはエルサレムの家に戻ると,留守の家の番として残しておいた側室10人を集め,監視付きの家
に入れた。食物を供給したが,彼女たちと関係を持つことはなかった。彼女たちは,夫が生きているにもかか
わらず,やもめのような生活を送り,死ぬまでずっとそこに入れられていた。
  4 王はアマサに言った。「ユダの人たちを3日以内に招集し,あなたもここに来なさい」。 5 それでア
マサはユダを招集しに行ったが,決められた期限内には戻ってこなかった。 6 ダビデはアビシャイに言った。
「ビクリの子シェバはアブサロム以上に私たちに痛手を加えるかもしれません。私の家来たちを連れて,シェ
バの後を追いなさい。彼が防備された町を見つけ,私たちから逃げ切ることがないようにするのです」。 7 こ
うしてヨアブの部下,ケレト人とペレト人,戦士たちの皆が,彼の後に付いていった。エルサレムを出て,ビ
クリの子シェバの後を追いに行ったのである。 8 彼らがギベオンにある大きな石の近くにいると,アマサが会
いにやって来た。その時ヨアブは武装し,さやに入れた剣を腰に帯びていた。ヨアブが前に出ると,剣は抜け
落ちた。
  9 ヨアブはアマサに,「私の兄弟,無事か」と言った。そして口づけするように見せ掛け,右手でアマサ
のひげをつかんだ。 10 アマサは,ヨアブが手にしていた剣に注意していなかった。ヨアブはその剣でアマサ
の腹部を突き刺し,腸が地面に流れ出た。それが致命傷になり,2度突くまでもなかった。それからヨアブと
兄弟のアビシャイは,ビクリの子シェバの追跡を続けた。
  11 ヨアブの部下の1人がアマサのそばに立ち,「ヨアブに付く者,ダビデの側にいる者は皆,ヨアブに続
け!」と言った。 12 その間,アマサは道の真ん中で血まみれになって転がっていた。部下は,そこに来る人
たちが皆立ち止まるのを見て,アマサを道から野原に運び,その上に服を掛けた。 13 アマサが道から除かれ
た後,部下たちは皆ヨアブに続いてビクリの子シェバを追跡した。
  14 シェバはイスラエルの全部族の中を通ってベト・マアカのアベルに行った。ビクリ一族の人たちも集合
し,シェバの後に付いてそこに行った。
  15 ヨアブと部下たちは,シェバがいるベト・マアカのアベルを包囲した。町は土塁に囲まれていたので,
攻め落とすためにまず土塁を築いた。また,ヨアブと共にいた部下たちは皆,城壁の下を掘って崩そうとした。
16 1人の賢い女性が町からこう叫んだ。「聞いてください,皆さん。聞いてください! どうかヨアブに,
『お話ししたいので,こちらに来てください』と言ってください」。 17 ヨアブが女性の所に近づくと,女性
は「あなたがヨアブですか」と言った。ヨアブが「そうだ」と答えると,女性は「私の言葉をお聞きくださ
い」と言った。ヨアブは「私は聞いている」と言った。 18 それで女性は続けた。「昔はよく,『アベルで尋
ねよう。そうすれば片が付く』と言ったものです。 19 私は,平和を好む忠実なイスラエルの人の1人です。
あなたはイスラエルにある母のような町を壊滅させようとしています。どうしてエホバのものを滅ぼそうとす
るのですか」。 20 ヨアブは答えた。「町を滅ぼして壊滅させることなど,考えていない。 21 そういうこと
ではない。ビクリの子で,エフライムの山地のシェバという男がダビデ王に反逆したのだ。その男さえ引き渡
してくれれば,ここから引き揚げよう」。すると女性はヨアブに言った。「では,その男の首を城壁の上から
あなたの所に投げ渡します!」
  22 その賢い女性はすぐに民の所に戻り,ビクリの子シェバの首は切り落とされてヨアブの所に投げられた。
ヨアブは角笛を吹き鳴らし,部下たちは町から散って,それぞれ自分の家に帰った。ヨアブもエルサレムの王
のもとに戻った。
  23 ヨアブはイスラエルの全軍を指揮し,エホヤダの子ベナヤはケレト人とペレト人をまとめていた。 24
アドラムは強制労働に徴用された人たちをまとめ,アヒルドの子エホシャファトは記録官だった。 25 シェワ
は秘書官で,ザドクとアビヤタルは祭司だった。 26 ヤイル人イラもダビデのための奉仕者の長になった。
  21 章
  1 ダビデの時代に3年連続で飢饉が起き,ダビデはエホバに相談した。するとエホバは言った。「サウル
とその一家には流血の罪がある。サウルがギベオンの人たちを殺したからである」。 2 それで王はギベオンの
人たちを呼び寄せて話した。(ギベオンの人たちはイスラエル人ではなく,アモリ人の生き残りだった。イス
ラエル人はかつて彼らに危害を加えないと誓っていたが,サウルはイスラエルとユダの民への極端な愛ゆえに,
彼らを討とうとした。) 3 ダビデはギベオンの人たちに言った。「私は皆さんのために何ができますか。どん
な償いをすれば,皆さんはエホバの民のために祝福を願ってくれますか」。 4 ギベオンの人たちは言った。
「サウルとその家の人たちのことは銀や金の問題ではありません。また,私たちがイスラエルで誰かを殺すこ
ともできません」。ダビデは言った。「皆さんの言うことは何でも皆さんのために行います」。 5 彼らは王に
言った。「私たちを絶滅させようとした人,イスラエルの領土では生きていけないよう私たちを滅ぼし尽くそ
うとした人, 6 その人の子孫の中から7人を私たちに引き渡してください。エホバが選んだ人であるサウルの
町ギベアで,エホバの前に彼らの遺体をつるします」。それで王は,「引き渡しましょう」と言った。
  7 しかし王は,サウルの子ヨナタンの子メピボセテに同情を覚えた。ダビデとサウルの子ヨナタンは,エ
ホバの前で誓いを交わしていたからである。 8 それで王は,サウルとアヤの娘リツパとの間に生まれた2人の
息子アルモニとメピボセテと,メホラの人バルジライの子アドリエルとサウルの娘ミカルとの間に生まれた5
人の息子を集め, 9 ギベオンの人たちに引き渡した。ギベオンの人たちは彼らの遺体を山でエホバの前につる
した。収穫の初めの頃,大麦の収穫の初めの頃に7人は処刑され,一緒に死んだ。 10 アヤの娘リツパは粗布
を取り,収穫の初めから雨が遺体に降り注ぐ時まで,それを岩の上に広げた。昼は鳥が降りてこないよう,夜
は野生動物が近寄らないようにしたのである。
  11 サウルの側室,アヤの娘リツパがしたことがダビデに伝えられた。 12 ダビデは,サウルとその子ヨ
ナタンの骨を取りに,ヤベシュ・ギレアデの指導者たちの所に行った。その人たちは以前,フィリスティア人が
ギルボアでサウルを討った時に遺体をつるしたベト・シャンの広場から,それをひそかに奪ってきたのである。
13 ダビデはサウルとその子ヨナタンの骨をそこから運んだ。処刑された人たちの骨も集められた。 14 サウ
ルとその子ヨナタンの骨は,ベニヤミンの土地ツェラにあるサウルの父キシュの墓に葬られた。王が命じたこ
とは全て実行され,その後,神は国に関する願いを聞き入れた。
  15 フィリスティア人とイスラエルの戦いが再び起きた。ダビデと家来たちは下っていき,フィリスティア
人と戦ったが,ダビデは非常に疲れた。 16 レファイム人の子孫イシュビ・ベノブがダビデを討とうと狙った。
彼は重さ約3キロの銅のやりと新しい剣で武装していた。 17 すぐにツェルヤの子アビシャイが助けに来て,
そのフィリスティア人を殺した。するとダビデの部下たちは,ダビデにこう言って譲らなかった。「もう私た
ちと一緒に戦いには来ないでください。イスラエルの明かりを消してはいけません!」
  18 その後,ゴブでまたフィリスティア人との戦いが起き,フシャ人シベカイがレファイム人の子孫サフを
討った。
  19 ゴブでまたもフィリスティア人との戦いが起き,ベツレヘムの人ヤアレ・オレギムの子エルハナンがガ
トの人ゴリアテを討った。ゴリアテのやりの柄は,機織りが使う巻き棒のように太かった。
  20 ガトでまたしても戦いが起きた。そこには,手と足にそれぞれ指が6本あり,合わせて24本の指があ
る巨人がいた。その人もレファイム人の子孫だった。 21 彼はイスラエルをあざけっていたので,ダビデの兄
弟シムイの子ヨナタンが彼を討った。
  22 以上の4人はガトのレファイム人の子孫で,ダビデと家来たちの手によって倒された。
  22 章
  1 ダビデは,サウルと全ての敵の手からエホバに助け出された日に,この歌をエホバに向かって歌った。
  2 「エホバは私の大岩,私のとりで,私を助け出す方。
  3 私の神は私の岩。私が身を寄せる方。
  私の盾,救いの角,安全な避難所。
  私が逃げ込む場所,私の救い主。
  あなたは私を乱暴な敵から救ってくださる。
  4 私は賛美されるべき方エホバに呼び掛け,
  敵から救われる。
  5 死の波がしぶきを上げて私に押し寄せ,
  どうしようもない人たちの激流に私はおびえた。
  6 墓の綱が私に絡み付き,
  死のわなに私は直面した。
  7 苦難の時に私はエホバに呼び掛けた。
  私の神に呼び掛け続けた。
  すると,神殿にいる神が私の声を聞いてくださった。
  助けを求める叫びが神の耳に届いた。
  8 地面は大きく揺れ,震動し始め,
  天の土台がぐらついた。
  神の怒りで揺れ動いた。
  9 神の鼻から煙が立ち上り,
  口から焼き尽くす火が出た。
  神のもとから炭火が燃え上がった。
  10 神は天を押し曲げて降りてきた。
  足元には濃い闇があった。
  11 神はケルブに乗って飛んできた。
  天使の翼に乗って現れた。
  12 そして闇の中に身を置いた。
  暗い雨雲の中に。
  13 神の前が光り,そこから炭火が燃え上がった。
  14 エホバは天から雷鳴をとどろかせ始めた。
  至高者が声を響かせた。
  15 矢を放って敵を散らし,
  稲妻によって混乱に陥れた。
  16 エホバの叱責により,神の鼻から出た突風により,
  海の底が見え,大地の土台があらわになった。
  17 神は高い所から手を伸ばし,
  私をつかんで深い水の中から引き上げてくださった。
  18 神は強い敵から助け出してくださった。
  私を憎む,私よりも強い人たちから。
  19 私の災難の日に,彼らは私に立ち向かってきた。
  しかしエホバが支えてくださった。
  20 神は私を安全な場所に連れていってくださった。
  私のことを喜び,助け出してくださった。
  21 エホバは私の正しさに応じて報い,
  私の潔白さに応じて報いてくださる。
  22 私はエホバの道を守った。
  神を捨てるという悪に陥らなかった。
  23 神の法規全てが私の前にあり,
  私は神の法令に背かない。
  24 非難されるところがない生き方をして神の前に立ち,
  過ちから身を守る。
  25 エホバが私に報いてくださいますように。
  私の正しさに応じて,
  神の前での潔白さに応じて。
  26 あなたは,揺るぎない愛を示す人に,揺るぎない愛を示す。
  誠実な人に誠実である。
  27 純粋な人に純粋であり,
  不正直な人には鋭い賢さを示す。
  28 謙遜な人を救い,
  傲慢な人を厳しい目で見,卑しめる。
  29 エホバ,あなたは私のランプ。
  私の闇を照らしてくださるのはエホバ。
  30 あなたの助けで,私は略奪隊に突撃できる。
  神の力によって,城壁をよじ登れる。
  31 真の神の道は完全,
  エホバの言葉は精錬されたもの。
  神のもとに逃れるなら,神は盾となってくださる。
  32 エホバのほかに誰が神なのか。
  私たちの神以外に誰が岩なのか。
  33 真の神は私の強固な要塞。
  神は私の道を完全にしてくださる。
  34 神は私の足を鹿のようにし,
  高い場所に私を立たせる。
  35 神は私の手を戦いのために鍛え,
  私の腕は銅の弓を曲げる。
  36 あなたは救いの盾を私に下さる。
  私が優れた者になれるのはあなたが謙遜だから。
  37 あなたは私が進む道を広くしてくださる。
  私の足が滑ることはない。
  38 私は敵を追跡して滅ぼす。
  一掃するまで帰らない。
  39 敵を一掃して打ち倒し,立ち上がれないようにする。
  敵は私の足元に倒れる。
  40 あなたは戦う力を私に授け,
  敵を私の前に倒れさせる。
  41 あなたが私の敵を退却させ,
  私は,私を憎む人たちを消し去る。
  42 彼らは助けを求めて叫ぶが,救う者はいない。
  エホバに向かって叫んでも,答えはない。
  43 私は彼らを土ぼこりのように粉々にし,
  路上の泥のように踏みつぶす。
  44 民が私に言い掛かりをつけても,あなたが助け出してくださる。
  あなたは私を守り,国々の長にしてくださる。
  私の知らなかった民が私に仕える。
  45 外国人たちはやって来て,私を恐れて頭を下げる。
  私のことを耳にして,私に従う。
  46 外国人たちは意気をくじかれ,
  震えながらとりでから出てくる。
  47 エホバは生きている。
  私の岩が賛美されますように。
  私の神,私を救う岩がたたえられますように。
  48 真の神が私のために復讐し,
  人々は私に屈服する。
  49 神は敵から私を助け出す。
  あなたは,攻めてくる人たちの上に私を引き上げ,
  暴力を振るう人から救ってくださる。
  50 それで,エホバ,私は国々であなたに感謝し,
  あなたの名を賛美して歌う。
  51 神はご自分の王を見事に救う。
  選んだ者に揺るぎない愛を示す。
  ダビデとその子孫に,永遠に」。
  23 章
  1 以下はダビデの最後の言葉である。
  「エッサイの子ダビデの言葉,
  栄光を与えられた者の言葉。
  ヤコブの神が選んだ者,
  イスラエルの歌の朗らかな歌い手。
  2 私はエホバの聖なる力によって語った。
  神の言葉が私の舌の上にあった。
  3 イスラエルの神は語った。
  イスラエルの岩が私に言った。
  『人を治める者が正しい人で,
  神を畏れつつ治めるとき,
  4 それは,雲一つない朝の,
  照り輝く太陽の光のようだ。
  地面に草を芽生えさせる,
  雨上がりの日差しのようだ』。
  5 神の前で私の家系はそのようではないだろうか。
  神は永遠の契約を私と結んだ。
  事細かに整えられた,確かな契約を。
  それは私にとって完全な救い,喜び。
  神が繁栄させてくださらないことがあるだろうか。
  6 しかし,どうしようもない人は皆,いばらのように捨てられる。
  手でつかむことはできない。
  7 触るときには鉄ややりを手にし,
  その場で焼き払うべきだ」。
  8 以下は,ダビデの勇士たちの名前である。3勇士の長,ハクモニの子孫ヨシェブ・バシェベト。彼はやり
を振るって800人を一度に打ち殺した。 9 次に,アホヒの子ドドの子エレアザル。彼は,戦いのために集結
していたフィリスティア人にダビデと共に挑んだ3勇士の1人である。イスラエルの兵士たちが退却しても,
10 彼は踏みとどまり,腕が疲れて,剣を握った手が固まって離れなくなるまで,フィリスティア人を討ち続け
た。こうしてその日,エホバは大勝利をもたらした。兵士たちはエレアザルの所に戻ってきて,倒れた人たち
から物品を剥ぎ取った。
  11 次は,ハラル人アゲの子シャマ。フィリスティア人が,レンズマメの密生した畑があるレヒに集結した
時,兵士たちはフィリスティア人の前から逃げた。 12 しかし,彼は畑の中に踏みとどまって畑を守り,フィ
リスティア人を討ち続けた。こうしてエホバは大勝利をもたらした。
  13 収穫の頃,30人の長のうちの3人が,アドラムの洞窟にいるダビデの所に来た。フィリスティア人の
一団がレファイムの谷で宿営していた。 14 ダビデは隠れがにいて,フィリスティア人の前哨部隊がベツレヘ
ムにいた。 15 ダビデは,「ベツレヘムの門のそばにある水ための水を飲めたらよいのに」と願望を口にした。
16 そこで,3勇士はフィリスティア人の宿営に無理に突入して,ベツレヘムの門のそばにある水ためから水
をくみ,ダビデの所に持ってきた。しかしダビデは飲もうとはせず,エホバの前で注ぎ出した。 17 彼は言っ
た。「エホバ,命を懸けて行った人たちの血を飲むなど,私には考えられないことです!」 こうして彼は水を
飲もうとはしなかった。以上は3勇士が行ったことである。
  18 ツェルヤの子ヨアブの兄弟アビシャイは,別の3人の長だった。彼はやりを振るって300人を打ち殺
し,3勇士のような名声を得た。 19 彼は,3人の中でも特に優れていて長だったが,3勇士には及ばなかっ
た。
  20 エホヤダの子ベナヤは勇敢な人で,カブツェエルで多くの手柄を立てた。モアブのアリエルの2人の子
を討ち,雪の降るある日,貯水穴に下りてライオンを殺した。 21 また,エジプト人の巨人も討った。そのエ
ジプト人はやりを手にしていたが,ベナヤは棒を持って立ち向かい,相手の手からやりを奪い取ってそれで殺
した。 22 エホヤダの子ベナヤはこれらのことを行い,3勇士のような名声を得た。 23 彼は30人の人より
も優れてはいたが,3勇士には及ばなかった。だが,ダビデは彼に自分の護衛をまとめさせた。
  24 ヨアブの兄弟アサエルは例の30人の1人だった。ほかに以下の人がいた。ベツレヘムのドドの子エル
ハナン, 25 ハロドの人シャマ,ハロドの人エリカ, 26 パルティ人ヘレツ,テコアの人イケシュの子イラ,
27 アナトテの人アビ・エゼル,フシャ人メブナイ, 28 アホアハの子孫ツァルモン,ネトファの人マハライ,
29 ネトファの人バアナの子ヘレブ,ベニヤミン族の町ギベアのリバイの子イッタイ, 30 ピルアトンの人ベ
ナヤ,ガアシュの谷のヒダイ, 31 ベト・アラバの人アビ・アルボン,バフリムの人アズマベト, 32 シャアル
ビムの人エルヤフバ,ヤシェンの子たち,ヨナタン, 33 ハラル人シャマ,ハラル人シャラルの子アヒアム,
34 マアカト人の子アハスバイの子エリフェレト,ギロの人アヒトフェルの子エリアム, 35 カルメルの人ヘ
ツロ,アラブの人パアライ, 36 ツォバのナタンの子イグアル,ガド族のバニ, 37 アンモン人ツェレク,ツ
ェルヤの子ヨアブの武器を運ぶ従者であるベエロトの人ナハライ, 38 イトル氏族のイラ,イトル氏族のガレ
ブ, 39 ヘト人ウリヤ。全部で37人である。
  24 章
  1 エホバの怒りがイスラエルに向かって再び燃えた。ある者がダビデを駆り立てて,「さあ,イスラエル
とユダを数えなさい」と言った時のことである。 2 王は,共にいた軍隊の長ヨアブに言った。「ダンからベエ
ル・シェバまで,イスラエルの全部族を回って,民を登録しなさい。民の数を知るためです」。 3 ヨアブは王
に言った。「あなたの神エホバが民を百倍に増やしてくださいますように。そして王がそれをご覧になります
ように。ですが,王はどうしてそのようなことをなさるのですか」。
  4 しかし王はヨアブと軍隊の長たちを説き伏せた。ヨアブと軍隊の長たちは,イスラエルの民を登録しに
王の前から出ていった。 5 ヨルダン川を渡り,谷の真ん中にある町の右側のアロエルで野営し,ガド族の土地
に行き,ヤゼルに進んだ。 6 その後,ギレアデとタフティム・ホドシ地方に行き,ダン・ヤアンに進み,シド
ンに回った。 7 それから,ティルスの要塞とヒビ人やカナン人の全ての町に行き,最後にユダのネゲブにある
ベエル・シェバに到達した。 8 こうして9カ月と20日をかけて全土を回り,エルサレムに戻ってきた。 9
ヨアブは登録した民の数を王に伝えた。イスラエルの剣を帯びた戦士は80万人,ユダの人たちは50万人だ
った。
  10 こうしてダビデは民を数えたが,その後,後悔し,心が痛んだ。それでエホバに言った。「こんなこと
をして,私は大きな罪を犯しました。エホバ,どうか私の過ちをお許しください。私は本当に愚かなことをし
ました」。 11 ダビデが朝起きると,エホバは預言者ガドに次のように言った。ガドは,ダビデに神からの幻
を伝える人だった。 12 「ダビデにこう言いに行きなさい。『エホバはこう言っている。「あなたに3つの中
から1つを選ばせよう。それをあなたに対して行う」』」。 13 それでガドはダビデの所に行って,こう話し
た。「あなたの国が7年間飢饉に見舞われるのがよいですか。あなたが,追ってくる敵対者から3カ月間逃げ
るのがよいですか。それとも,あなたの国が3日間疫病に襲われるのがよいですか。私を遣わした方に私がど
う答えるとよいか,よく考えてください」。 14 ダビデはガドに言った。「それは私にとって非常につらいこ
とです。私たちがエホバの手に掛かっても構いません。神の憐れみは大きいからです。ですが,人の手に掛か
るようにはしないでください」。
  15 するとエホバは,その朝から,決められた時まで,イスラエルに疫病を広めたので,ダンからベエル・
シェバにかけて7万人の民が死んだ。 16 天使がエルサレムに手を伸ばして滅ぼそうとしたが,エホバは災い
のことを嘆き,民の中で滅びをもたらす天使にこう言った。「もう十分だ! さあ,手を下ろしなさい」。エホ
バの天使は,エブス人アラウナの脱穀場のそばにいた。
  17 ダビデは民に滅びをもたらしている天使を見て,エホバに言った。「罪を犯したのは私です。私が悪い
ことをしたのです。この民が何をしたのでしょうか。どうか私と父の家族をあなたの手に掛けてください」。
  18 その日,ガドがダビデの所に来て言った。「エブス人アラウナの脱穀場に行って,エホバのために祭壇
を作りなさい」。 19 ダビデは,ガドがエホバに命じられて語った言葉を聞いて,出ていった。 20 アラウナ
が見ると,王と家来たちが向かってきていた。アラウナはすぐに出ていき,王にひれ伏した。 21 アラウナは
尋ねた。「この私の所にどうして王がおいでになったのですか」。ダビデは答えた。「あなたから脱穀場を買
って,エホバのために祭壇を作るためです。そうすれば,民への神罰が収まるはずです」。 22 アラウナはダ
ビデに言った。「王に差し上げます。そこで良いと思われるものをお捧げください。ここに全焼の捧げ物のた
めの牛もあります。脱穀そりと牛のくびきもまきとして使ってください。 23 王よ,私アラウナはそれら全部
を王に差し上げます」。アラウナはさらに王に言った。「あなたの神エホバがあなたを祝福されますように」。
  24 しかし王はアラウナにこう言った。「いいえ,私は絶対に代金を払ってあなたから買います。何も費や
さずに私の神エホバに全焼の犠牲を捧げたりはしません」。こうしてダビデは脱穀場と牛を570グラムの銀
で買った。 25 それからそこにエホバのために祭壇を作り,全焼の犠牲と共食の犠牲を捧げた。エホバは国に
関する願いに応え,イスラエルへの神罰は収まった。

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