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エステル記

概要
1章
アハシュエロス王がシュシャンで宴会を催す(1‐9節)
ワシテ王妃が王の命令を拒む(10‐12節)
王は賢人たちに相談する(13‐20節)
王の命令が各地に送られる(21,22節)
2章
新しい王妃を探す(1‐14節)
エステルが王妃になる(15‐20節)
モルデカイがたくらみを暴く(21‐23節)
3章
王はハマンを昇進させる(1‐4節)
ハマンはユダヤ人を滅ぼすことをたくらむ(5‐15節)
4章
モルデカイは嘆き悲しむ(1‐5節)
モルデカイは,仲介役をするようエステルに頼む(6‐17節)
5章
エステルは王の前に出る(1‐8節)
ハマンの怒りと高慢さ(9‐14節)
6章
モルデカイが王から栄誉を受ける(1‐14節)
7章
エステルはハマンのたくらみを暴く(1‐6節前半)
ハマンは自分が用意した杭に掛けられる(6後半‐10節)
8章
モルデカイが昇進する(1,2節)
エステルは王に嘆願する(3‐6節)
形勢を逆転させる王の命令(7‐14節)
ユダヤ人の希望の光と喜び(15‐17節)
9章
ユダヤ人の勝利(1‐19節)
プリムの祭りの制定(20‐32節)
10章
モルデカイの偉大さ(1‐3節)
  1 章
  1 アハシュエロスがインドからエチオピアまで127州を支配していた時代のことである。 2 アハシュ
エロス王はシュシャン城で王座についており, 3 治世の第3年に全ての高官と家来のために宴会を催した。ペ
ルシャとメディアの軍人,貴族,州の高官が出席していた。 4 王は180日もの間,輝かしい王国の富や,自
分の栄光と威厳を示した。 5 その日々が終わると,王は,身分の上下を問わずシュシャン城にいた民全員のた
めに,王の宮殿の庭で7日間の宴会を催した。 6 そこには,亜麻布と上等の綿布と青布が,大理石の柱,銀の
輪に,上等の織物,紫の羊毛の綱でしっかり取り付けられていた。また,金や銀でできた寝椅子が,斑岩や大
理石,真珠,黒大理石を敷いた床の上に置かれていた。
  7 ぶどう酒が金の杯で出され,杯は一つ一つ異なっていた。王が提供しただけあって,ぶどう酒は大量だ
った。 8 飲むことについて,誰も強制されないことになっていた。それぞれが好きにすればよいと,王が宮殿
の役人たちと取り決めておいたからである。
  9 ワシテ王妃も,アハシュエロス王の家で女性たちのために宴会を催した。
  10 7日目に,アハシュエロス王は,ぶどう酒で上機嫌になっていた時,そばで仕える7人の廷臣メフマン,
ビズタ,ハルボナ,ビグタ,アバグタ,ゼタル,カルカスに命じて, 11 ワシテ王妃に王妃の頭飾りをかぶら
せて王の前に連れてこさせようとした。その美しさを民と高官に見せるためだった。王妃はとても美しかった
のである。 12 しかし,ワシテ王妃は廷臣が伝えた王の命令を拒み続け,来ようとしなかった。それで王は大
変腹を立て,激しい怒りに燃えた。
  13 そこで王は,先例を熟知している賢人たちと話した。(王は,法律と訴訟に通じた全ての人に相談する
のが常だった。 14 王の側近は,カルシェナ,シェタル,アドマタ,タルシシュ,メレス,マルセナ,メムカ
ンという,ペルシャとメディアの7人の高官で,王に会うことができ,王国で最も位の高い人たちだった。)
15 王は尋ねた。「法律によれば,ワシテ王妃をどうすべきか。廷臣が伝えた私アハシュエロス王の命令に従わ
ないのだ」。
  16 メムカンは王と高官たちの前で言った。「ワシテ王妃は,王に対してだけでなく,アハシュエロス王の
全ての州の全ての高官と民に対しても,不当なことをしました。 17 王妃のしたことが知れ渡り,妻たちは皆,
夫を軽く見て,『アハシュエロス王が,ワシテ王妃を連れてくるようにと言っても,王妃は行こうとしなかっ
た』と言うでしょう。 18 今日にも,ペルシャとメディアの高官の夫人たちは王妃のしたことを知って,夫に
そのことを話すでしょう。そうすると,大変な軽蔑と憤りが生じます。 19 もし王が良いと思われるのでした
ら,ワシテはアハシュエロス王の前に二度と来てはならないという命令を出し,それをペルシャとメディアの
法律の中に記して,取り消せないものとなさいますように。そして,王妃の位をワシテより優れた女性に授け
られますように。 20 王のこの命令が広大な領土全体に伝わるなら,身分の上下を問わず,妻は皆,夫に敬意
を払うでしょう」。
  21 王と高官たちはこの提案を気に入り,王はメムカンが話した通りにした。 22 王は,全ての州に,そ
れぞれの州の文字を使ってそれぞれの民族の言語で手紙を送った。夫が皆,引き続き家を治め,自分の民族の
言語で話すためだった。
  2 章
  1 こうしたことの後,アハシュエロス王は激しい怒りが収まり,ワシテがしたこととその処分を思い起こ
した。 2 その時,王のそばで仕える人たちは言った。「王のために,美しい乙女たちを探すのがよいかと思い
ます。 3 王は領土の全ての州に事務官を任命なさってください。美しい乙女たちを全員シュシャン城にある女
の家に集め,女性たちの世話係で王の宦官であるヘガイの下で,美容のためにマッサージを施させましょう。
4 そして,王が一番お気に召す娘をワシテの代わりに王妃とするのです」。王はこの提案を気に入り,その通
りにした。
  5 シュシャン城に,モルデカイという名前のユダヤ人がいた。その父はヤイル,祖父はシムイ,曽祖父は
キシュだった。この人はベニヤミン族の人で, 6 バビロンのネブカドネザル王が捕らえたユダのエコニヤ王と
共に,エルサレムから強制移住させられた民の1人だった。 7 モルデカイは,おじの娘であるハダサつまりエ
ステルの保護者だった。エステルには父も母もいなかったからである。この若い女性は容姿が美しく,父と母
が死んだ時にモルデカイに養女として引き取られた。 8 王の言葉と法令が布告され,多くの娘がシュシャン城
のヘガイの下に集められた時,エステルも王の家に連れていかれ,女性たちの世話係ヘガイに託された。
  9 ヘガイはこの娘が気に入り,好感を持ったので,すぐに美容のためのマッサージと食事の手配をし,王
の家から選ばれた7人の娘を付けた。また,エステルとその付き人たちを女の家の最も良い所に移した。 10
エステルは自分の民族や親族のことを何も語らなかった。モルデカイからそう命じられていたからである。 11
モルデカイは,エステルが元気か,どうしているかを知ろうと,女の家の庭の前を毎日歩いていた。
  12 娘たちは,アハシュエロス王の所に順番に行く前に,女性のために定められた12カ月の期間を過ごし
た。というのも,美容のために,6カ月は没薬の油で,さらに6カ月はバルサム油とさまざまなクリームでマ
ッサージを施されることになっていたからである。 13 こうして娘は,王のもとに行くことができた。女の家
から王の家に行く時,求める物は何でも与えられた。 14 夕方に行き,朝には第2の女の家に戻り,側室たち
の世話係で王の宦官であるシャアシュガズに託された。王に特に気に入られて名前で呼び出されるのでなけれ
ば,もう王のもとに行くことはなかった。
  15 エステルが王のもとに行く順番が来た。モルデカイの養女で,モルデカイのおじアビハイルの娘である。
エステルは,女性たちの世話係で王の宦官であるヘガイが勧めた物以外は何も求めなかった。(その間ずっと,
エステルを見る人は皆,好感を持った。) 16 エステルは,王の治世の第7年,第10の月すなわちテベトの
月に,王の家のアハシュエロス王の所に連れていかれた。 17 王は,ほかのどの女性よりもエステルを愛する
ようになり,エステルは,ほかのどの乙女よりも王の好意と称賛を得た。そこで王は,王妃の頭飾りをエステ
ルの頭に置き,ワシテの代わりに王妃とした。 18 王は,全ての高官と家来のための大宴会を催し,エステル
の宴会とした。そして,州のために恩赦を行い,王として気前よく贈り物を与えていった。
  19 さて,乙女たちが2度目に集められた時,モルデカイは王の門の所に座っていた。 20 エステルは,
モルデカイに命じられた通り,自分の親族や民族のことを何も語らなかった。モルデカイの世話を受けていた
時と同じく,言われたように行動していた。
  21 その頃,モルデカイが王の門の所に座っていた時,王の2人の廷臣で戸口番のビグタンとテレシュが腹
を立て,アハシュエロス王の殺害をたくらんだ。 22 けれども,モルデカイがそのことを知って直ちにエステ
ル王妃に告げたので,エステルはモルデカイの名前で王に話した。 23 調査がなされて事実が明らかになり,
2人は杭に掛けられた。この件は王の前でその時代の歴史書に記された。
  3 章
  1 その後,アハシュエロス王はアガグ人ハメダタの子ハマンを昇進させ,どの高官よりも上の位に就けた。
2 王の門にいた王の家来たちは皆,ハマンに身をかがめてひれ伏すのだった。王がそう命じていたからである。
しかしモルデカイは,身をかがめようともひれ伏そうともしなかった。 3 それで,王の門にいた王の家来たち
はモルデカイに,「どうして王の命令に従わないのか」と言った。 4 毎日そう言ったが,聞き入れないので,
モルデカイの振る舞いが許されるのかを見ようとして,ハマンに告げた。モルデカイは,自分がユダヤ人であ
ると語っていたのである。
  5 ハマンは,モルデカイが身をかがめようともひれ伏そうともしないのを見て,激しい怒りを抱いた。 6
しかし,モルデカイだけを殺害するのでは十分でないと感じた。モルデカイの民族のことを聞いていたからで
ある。それで,アハシュエロスの全領土にいるユダヤ人すなわちモルデカイの民族を全滅させようとした。
  7 アハシュエロス王の治世の第12年,第1の月すなわちニサンの月に,日付を決めるためにハマンの前
でプル(つまり,くじ)が引かれた。結果は,第12の月すなわちアダルの月と出た。 8 それからハマンはア
ハシュエロス王に言った。「王の領土の全州にいる諸民族の間に離散している1つの民族がいます。どの民族
とも違う法律を持っていて,王の法律に従っていません。この民族を放っておくのは王のためになりません。
9 もし王が良いと思われるのでしたら,この民族を滅ぼす命令が出されますように。私は役人たちに銀を34
0トン支払い,王の金庫に納めることにします」。
  10 そこで,王は自分の手から認印指輪を外し,アガグ人ハメダタの子でユダヤ人の敵であるハマンに渡し
た。 11 王はハマンに言った。「銀と民族はあなたに与えられる。良いと思うように扱いなさい」。 12 第1
の月の13日に王の秘書官が招集された。秘書官たちは,王の太守や,州を治める総督や,各民族の高官に対
するハマンの命令全てを,それぞれの州の文字を使ってそれぞれの民族の言語で書面にした。それはアハシュ
エロス王の名前で書かれ,王の認印指輪で印が押された。
  13 手紙は急使によって王の全州に送られた。その内容は,第12の月すなわちアダルの月の13日,その
1日のうちに,ユダヤ人を若者も老人も子供も女性も殺し,滅ぼし,全滅させ,財産を奪い取れというものだ
った。 14 この書面の写しは,その日の備えができるように,どの州でも法令として出されて全民族に公布さ
れることになっていた。 15 急使は王の命令ですぐに出発し,シュシャン城でもその法令が出された。王とハ
マンは座って酒を飲んでいたが,シュシャンの都は混乱していた。
  4 章
  1 モルデカイは,起きたこと全てを知ると,衣服を引き裂き,粗布をまとい,灰をかぶった。そして都の
中に出ていき,大声で激しく叫んだ。 2 王の門まで来て,立ち止まった。粗布を身に着けて王の門を入っては
ならなかったからである。 3 王の言葉と命令が届いたどの州でも,ユダヤ人はひどく嘆き悲しみ,断食し,す
すり泣き,泣き叫んだ。多くの人が粗布と灰の上に横たわった。 4 エステル王妃は,付き人の女性たちと宦官
たちが入ってきて報告すると,非常に苦しんだ。モルデカイに衣服を届けて粗布の代わりに着させようとした
が,モルデカイは受け取らなかった。 5 そこでエステルは,王に任命されて自分に仕えている宦官のハタクを
呼び寄せ,これはどういうことか,何が起きているのかをモルデカイに聞いてくるよう命じた。
  6 それでハタクは,王の門の前にある都の広場に行き,モルデカイに会った。 7 モルデカイは,自分に
起きたことを全部話し,ハマンがユダヤ人を滅ぼすために王の金庫に支払うと約束した金額を告げた。 8 また,
シュシャンで出されたユダヤ人全滅の命令の写しを渡した。それをエステルに見せて説明した上で,エステル
が王のもとに行って憐れみを乞うように,自分の民族のために王に直接お願いするように,と伝えてもらうた
めだった。
  9 ハタクは戻ってモルデカイの言葉をエステルに伝えた。 10 エステルはハタクに,モルデカイへの伝言
を託した。 11 「王の家来も州の民も皆知る通り,男性でも女性でも,呼ばれていないのに王の内側の庭に入
っていく人には,1つの法律が適用されます。その人は処刑されるのです。ただし,王が金の王笏を差し出す
なら,許されます。私はこの30日間,王に呼ばれていません」。
  12 モルデカイはエステルの言葉を聞くと, 13 こう返答した。「王の家にいる自分はほかのユダヤ人と
は違って安全だろう,と考えてはなりません。 14 もしこのような時に黙っているなら,ユダヤ人は別の仕方
で助け出されますが,あなたもあなたの父の家族も命を失うことになります。それに,王妃となったのは,こ
のような時のためなのかもしれません」。
  15 エステルはモルデカイに返答した。 16 「行って,シュシャンにいるユダヤ人を全員集め,私のため
に断食してください。3日間,昼も夜も,食べることも飲むこともしないでください。私も,付き人の女性た
ちと共に断食をいたします。そして,法律に反しますが,王のもとへ参りましょう。命を失うとしても,その
覚悟はできております」。 17 モルデカイは去り,全てエステルの指示通りにした。
  5 章
  1 3日目に,エステルは王妃の装いをし,王の家の内側の庭で,王の家に向かって立った。王は,王の家
の王座に,入り口に向かって座っていた。 2 王は,庭に立っているエステル王妃を見ると喜び,持っていた金
の王笏を差し出した。エステルは近づき,その王笏の先に触った。
  3 王は言った。「エステル王妃,どうしたのか。何か願い事でもあるのか。王国の半分であっても与えよ
う!」 4 エステルは答えた。「もしよろしければ,王のために用意しました宴会に今日,ハマンと一緒におい
でくださいますように」。 5 王は家来に言った。「エステルの願い通り,すぐに来るようハマンに伝えよ」。
そして,王とハマンはエステルが用意した宴会に出掛けた。
  6 酒宴の間に,王はエステルに言った。「あなたの請願は何か。それをかなえよう! あなたの願いは何か。
王国の半分であっても与えよう!」 7 エステルは答えた。「私の請願,また願いですが, 8 もし私が王の好
意を得ており,王にとって,私の請願をかなえ,願いを聞き入れることが良いと思われるのでしたら,明日お
二人のために催します宴会に,ハマンと一緒においでくださいますように。明日,私の願いを申し上げます」。
  9 その日,ハマンは喜びながら上機嫌で出ていった。しかし,王の門で,モルデカイが自分を見ても立ち
上がらず,怖がらないので,モルデカイに対する激しい怒りに満たされた。 10 けれども,ハマンは自分を制
して家に帰った。そして,友人たちと妻ゼレシュを連れてこさせた。 11 ハマンは,莫大な富や多くの息子の
こと,また王が自分を昇進させて高官や王の家来たちより高い地位に就けたことを自慢した。
  12 さらにハマンは言った。「しかも,エステル王妃が用意した宴会に王と一緒に来るよう招かれたのは,
私だけだった。あしたも,王と一緒に王妃に招かれている。 13 それでも,王の門の所に座っているユダヤ人
モルデカイを見る限りは,どうしても喜べない」。 14 すると,妻ゼレシュと友人たちは皆,言った。「高さ
20メートルの杭を立てさせ,朝になったら,モルデカイをそれに掛けるよう王に申し上げるのです。それか
ら,王と一緒に出掛けて宴会を楽しんでください」。ハマンはこの案を気に入り,杭を立てさせた。
  6 章
  1 その夜,王は眠れなかった。それで,その時代の歴史を記した書物を持ってくるように言った。その書
物が王の前で朗読された。 2 すると,次の記述が見つかった。王の2人の廷臣で戸口番のビグタナとテレシュ
がアハシュエロス王の殺害をたくらんだことについて,モルデカイが報告した,という記述である。 3 王が,
「この件で,モルデカイにどんな栄誉と褒美が与えられたか」と尋ねると,王のそばで仕える人たちは,「何
も与えられておりません」と答えた。
  4 その後,王は言った。「庭にいるのは誰か」。ハマンが王の家の外側の庭に入ってきていた。用意した
杭にモルデカイを掛けることについて王に話すためだった。 5 王に仕える人たちは言った。「ハマンが庭に立
っております」。それで王は,「通せ」と言った。
  6 ハマンが入ってくると,王は言った。「王が栄誉を与えたいと思う人には,何をすればよいか」。ハマ
ンは心の中で言った。「王は私以外の誰に栄誉を与えたいと思うだろうか」。 7 そして王に言った。「王が栄
誉を与えたいと思われる人のために, 8 王がお召しになる王の服を持ってこさせ,王がお乗りになる馬に特別
な頭飾りを付けて,引いてこさせてください。 9 その衣服と馬を,王に仕える著名な高官の1人に託すのです。
王が栄誉を与えたいと思われる人は,それを着て都の広場でその馬に乗ります。その前で,『王が栄誉を与え
たいと思う人はこのようにされる』という宣言がなされますように」。 10 直ちに王はハマンに言った。「急
げ! その衣服と馬を取って,あなたが言った通りに,王の門の所に座っているユダヤ人モルデカイに行うのだ。
あなたが述べたことを全て行いなさい」。
  11 それでハマンは衣服と馬を取り,モルデカイに着せ,都の広場で馬に乗せ,その前で,「王が栄誉を与
えたいと思う人はこのようにされる」と宣言した。 12 その後,モルデカイは王の門に戻った。ハマンは,嘆
いて頭を覆い,家へと急いだ。 13 ハマンが妻ゼレシュと友人たち全員に,自分に生じたことを何もかも語る
と,賢人たちと妻ゼレシュは言った。「あなたはすでにモルデカイに負けそうになっていますが,モルデカイ
がユダヤ人でしたら,あなたはかないません。必ず負けるでしょう」。
  14 話し合いが続いているうちに,王の廷臣たちが到着し,エステルの設けた宴会に,急いでハマンを連れ
ていった。
  7 章
  1 王とハマンは,エステル王妃の宴会にやって来た。 2 王は,2日目の酒宴の間にもエステルに言った。
「エステル王妃,あなたの請願は何か。それをかなえよう。あなたの願いは何か。王国の半分であっても与え
よう!」 3 エステル王妃は答えた。「王よ,もし私が王の好意を得ており,王にとって良いと思われるのでし
たら,私の命を助け,私の民族を救ってくださるよう,請願し,お願いいたします。 4 私も私の民族も売られ
ており,殺され,滅ぼされ,全滅させられようとしているのです。もし奴隷として売られただけでしたら,私
は黙っておりました。けれども,この苦難は王にとって損失となりますので,好ましいことではございませ
ん」。
  5 アハシュエロス王はエステル王妃に言った。「誰だ,そんなことをしようとしたのは。その者はどこに
いる」。 6 エステルは言った。「その敵対者,敵は,この悪人ハマンです」。
  ハマンは王と王妃におびえた。 7 王は激怒して酒宴の席を立ち,宮殿の庭へ行った。ハマンは,身を起こ
してエステル王妃に命乞いをしようとした。王が自分を処罰するつもりだと分かったからである。 8 王が宮殿
の庭から酒宴の家に戻ると,エステルがいる寝椅子の上にハマンがひれ伏していた。王は,「この私の家で,
王妃を犯そうとまでするのか」と怒鳴った。この言葉が王の口から出ると,ハマンの顔は覆われた。 9 王の廷
臣のハルボナが言った。「しかもハマンは,王を救う報告をしたモルデカイを掛けるために,杭を用意してい
ました。ハマンの家に,高さ20メートルの杭が立っています」。すると王は言った。「ハマンをそれに掛け
よ」。 10 こうして,ハマンはモルデカイのために用意しておいた杭に掛けられ,王の激しい怒りは収まった。
  8 章
  1 その日,アハシュエロス王はユダヤ人の敵ハマンの家をエステル王妃に与えた。そして,モルデカイは
王の前に来た。エステルが,モルデカイとのつながりを明らかにしたからである。 2 王は,ハマンから取り返
した認印指輪を外し,モルデカイに渡した。エステルはハマンの家をモルデカイに託した。
  3 エステルは再び王に話した。王の足元にひれ伏して,アガグ人ハマンの悪事とユダヤ人に対する企てを
終わらせてくれるよう,涙ながらに王に嘆願した。 4 王が金の王笏を差し出したので,エステルは身を起こし
て王の前に立ち, 5 こう言った。「もし王にとって良いと思われ,私が王の好意を得ており,王がこのことを
適切と思われ,私が王の目にかなうのでしたら,あの陰険なアガグ人ハメダタの子ハマンの書状を取り消す命
令が書き記されますように。ハマンが王の全ての州のユダヤ人を滅ぼすために書いた書面でございます。 6 自
分の民族に降り掛かる災難をどうして見ていられるでしょうか。親族の滅びをどうして見ていられるでしょう
か」。
  7 アハシュエロス王はエステル王妃とユダヤ人モルデカイに言った。「私はハマンの家をエステルに与え,
ハマンを杭に掛けた。ユダヤ人殺害を企てたからだ。 8 さあ,ユダヤ人のために良いと思うことを王の名前で
書き,王の認印指輪で印を押しなさい。王の名前で書かれて王の認印指輪で印を押された命令は撤回できない
からだ」。
  9 その時,第3の月すなわちシワンの月の23日に,王の秘書官が招集された。そして,ユダヤ人と,イ
ンドからエチオピアに及ぶ127の州の太守や総督や高官に宛てて,モルデカイが命じたこと全てを書いた。
それぞれの州の文字を使ってそれぞれの民族の言語で,またユダヤ人にはその文字と言語で書いた。
  10 書面は,アハシュエロス王の名前で書かれ,王の認印指輪で印を押され,急使によって送られた。急使
たちは,王室用に育てられた早馬に乗っていった。 11 王はその書面で,全ての町のユダヤ人に,集合して自
分たちの命を守ることを許し,女性や子供も含め,ユダヤ人を襲おうとするどの民族や州の者たちをも殺し,
滅ぼし,全滅させて,財産を奪い取ることを許した。 12 それは,アハシュエロス王の全ての州で,第12の
月すなわちアダルの月の13日に,1日のうちに行われるのである。 13 その書面は,全ての州の至る所で法
令として出され,全ての民族に公布されることになった。ユダヤ人が,敵に復讐するその日に備えるためだっ
た。 14 王室用の早馬に乗る急使たちは,王の命令で急いですぐに出ていった。その法令はシュシャン城でも
出された。
  15 モルデカイは,青布と白布の王の服,見事な金の冠,紫に染めた上等の毛織物のマントを身に着けて,
王の前から出ていった。すると,シュシャンの都に歓声が上がった。 16 ユダヤ人には希望の光と喜びと歓喜
と栄誉があった。 17 そして,どの州,どの町でも,王の命令と法令が届いた所では,ユダヤ人は喜び,歓喜
し,宴会を開き,祝った。この土地の諸民族の多くの人が,自分はユダヤ人だと宣言していた。ユダヤ人に対
する恐れを抱いたからである。
  9 章
  1 第12の月すなわちアダルの月の13日に王の言葉と法令が実施されることになっていた。しかし,敵
がユダヤ人を征服しようと望んでいたその日に,反対にユダヤ人が自分たちを憎む者たちを打ち負かした。 2
ユダヤ人は,危害を加えようとする者たちを手に掛けようと,アハシュエロス王の全州の自分たちの町で集合
した。ユダヤ人に立ち向かえる者は一人もいなかった。全ての民族はユダヤ人に対する恐怖に襲われていたの
である。 3 州の高官,太守,総督,王の仕事を扱う人たちも皆,ユダヤ人を支援していた。モルデカイを恐れ
たのである。 4 モルデカイは王の家で力を持っており,その名声は全州の至る所に伝わっていった。ますます
力を強めていたからである。
  5 ユダヤ人は敵を皆,剣で殺し,滅ぼした。自分たちを憎む者に対して思いのままに行った。 6 シュシ
ャン城で500人を殺し,滅ぼした。 7 そして以下の者を殺した。パルシャヌダタ,ダルフォン,アスパタ,
8 ポラタ,アダルヤ,アリダタ, 9 パルマシュタ,アリサイ,アリダイ,ワエザタ, 10 すなわち,ユダヤ
人の敵であるハメダタの子ハマンの10人の息子である。しかし,殺した後,略奪はしなかった。
  11 その日,シュシャン城で殺された人の数が王に報告された。
  12 王はエステル王妃に言った。「ユダヤ人はシュシャン城で,500人とハマンの10人の息子を殺し,
滅ぼした。王のその他の州ではどうだったか。さて,あなたの請願は何か。それをかなえよう。あなたのほか
の願いは何か。それも聞き入れよう」。 13 エステルは答えた。「もし王にとって良いと思われるのでしたら,
シュシャンにいるユダヤ人が明日も,今日の法令通りにすることが許され,ハマンの10人の息子が杭に掛け
られますように」。 14 王は,その通り行われるようにと命じた。シュシャンで法令が出され,ハマンの10
人の息子は杭に掛けられた。
  15 シュシャンのユダヤ人はアダルの月の14日にも集合し,シュシャンで300人を殺した。しかし略奪
はしなかった。
  16 王の州にいたほかのユダヤ人も集合し,自分たちの命を守った。敵に打ち勝ち,自分たちを憎む者7万
5000人を殺したが,略奪はしなかった。 17 これはアダルの月の13日のことで,14日は休んで,祝宴
と喜びの日とした。
  18 シュシャンのユダヤ人は,13日と14日に集合し,15日は休んで,祝宴と喜びの日とした。 19
こうして,周辺地域の町に住む,地方のユダヤ人は,アダルの月の14日を喜びと祝宴の日,祝いの日とし,
互いに食物を送り合う時とした。
  20 モルデカイはこれらのことを記録し,アハシュエロス王の全州にいる全てのユダヤ人に,近くにも遠く
にも,正式な手紙を送った。 21 そして,毎年アダルの月の14日と15日を祝うよう指示した。 22 その日
にユダヤ人は敵に悩まされずに休み,その月に悲しみが喜びに,嘆きが祝いの日に変えられたからである。ユ
ダヤ人は,その2日を祝宴と喜びの日として祝い,互いに食物を,また貧しい人々に贈り物を送る時とするの
である。
  23 ユダヤ人は,始めた祝いを今後も続けること,またモルデカイが書き送った事柄を行うことに同意した。
24 ユダヤ人全ての敵であるアガグ人ハメダタの子ハマンは,ユダヤ人を滅ぼすことを企てて,ユダヤ人を動
揺させ,また滅ぼそうと,プル(つまり,くじ)を引いた。 25 しかし,エステルが王の前に入ると,王は次
の命令を書面で出した。「ユダヤ人に対する彼の悪い企てが彼の身に降り掛かるようにせよ」。そしてハマン
と息子たちは杭に掛けられた。 26 それで,これらの日はプルにちなんでプリムと呼ばれている。こうして,
この手紙に書かれた全てのこと,この件で目にしたこと,また直面したことのために, 27 ユダヤ人は,この
2日を必ず祝って,それについて書かれていることを毎年の定められた時に行うことを,自分たちと子孫,お
よび仲間に加わる人全てに義務付けた。 28 これらの日は,どの世代でも,各氏族,各州,各町で,記憶され,
祝われることになった。ユダヤ人がこれらプリムの日をなくしてはならず,子孫がその記念を途絶えさせては
ならなかった。
  29 プリムに関する第2の手紙が書かれ,アビハイルの娘であるエステル王妃とユダヤ人モルデカイは,全
権をもってそれを確かなものとした。 30 アハシュエロスの領土,127の州にいる全てのユダヤ人に,温か
で誠実な言葉を記した正式な手紙が送られ, 31 ユダヤ人モルデカイとエステル王妃が指示した通り,またユ
ダヤ人が自分たちと子孫に義務付けた通り,断食と祈願を含め,プリムの日を定められた時に祝うことが確認
された。 32 エステルの命令は,プリムに関するこうした事柄を確かなものとし,それは書物に記録された。
  10 章
  1 アハシュエロス王は本土と海の島々に強制労働を課した。
  2 大々的に力強く成し遂げられた事柄全てと,王が高い地位に就けたモルデカイの偉大さに関する詳細は,
メディアとペルシャの王の時代の歴史書に記されている。 3 ユダヤ人モルデカイは,アハシュエロス王に次ぐ
地位にあったのである。また,ユダヤ人の間で偉大な人で,大勢の兄弟たちから尊敬され,自分の民族の幸せ
のために働き,子孫全ての福祉を推進した。

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