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解 説

H-Iロ ケ ッ ト 開 発 の 現 況*1

松 田 敬*1

Key words: H-I launch vehicle; rocket

す るた め,技 術 導入 を行 い 宇 宙開 発 にお け る世界 の 時
1. ま え が き
流 か らの 遅 れ を,短 期 間に 短 縮 す る こ とを 目標 に,昭
宇 宙開 発 事 業 団は,昭 和50年9月9日 技 術 試験衛 和45年 度 よ りN-Iプ ロジ ェ ク トを 発 足 させ た.し か
星I型 を 打 ち上 げて 以 来,7個 の 人 工 衛 星 を 打 ち上 げ, し衛 星の 大 型 化 の傾 向 は 強 く,衛 星 利 用 者側 か らは 人
N-Iロ ケ ッ トに よ る技 術 修 得 の 時 代を 終 えた .現 在 工 衛 星打 上 げ能 力の 増 強を 要 望 され た.こ れ に対 処 す
はN-II型 ロケ ッ トに よ って 実 用 衛 星の 打上 げを 行 っ べ く,昭 和50年 度 よ り,次 世 代 打 上 げ ロ ケ ッ トの 調
て いる.昭 和59年1月23日 に は 放送 衛星BS-2aを 査研 究 に 着手 した.
打 ち上 げこの 放 送 衛 星を 通 じて 地 上 ヘ テ レビの 直 接 放 1. 昭 和60年 代 初 頭 か ら10年 以 上,わ が 国 の主 力
送を行 い,難 視 聴 地 域 の 解 消 が 実 現 さ れ る.今 後 も 機 種 として,活 躍 で きる もの で あ る こ と
N-II型 ロケ ッ トに よ っ て,気 象 衛 星GMS-3,放 送 2. 静止 軌道 上 に500∼800kg程 度 の人 工 衛 星 を 打
衛星BS-2b,海 洋 観 測 衛 星MSS-1の 打 上 げ が 予定 ち 上 げ る こ とが 可能 で あ る こ と
されて い る. 3. 昭 和60年 代 後半 の 宇 宙輸 送 系 の 技 術 基 盤を 蓄
また 増大 す る衛 星 需 要 に対 処 す る た め,昭 和60年 積 で きる もの で あ る こ と
代前半 の主 力 機 種 を 目指 して,H-Iロ ケ ッ トの 開発 4. 原則 と して 自主 技 術 に よ る もの で あ る こ と
を行 ってい る.液 体 酸 素・ 液 体水 素 を 推 進 薬 として 使 を 基本 的 な枠 組 に設 定 し,調 査 検討 を 行 った.
用 す る液酸 ・液 水 エ ン ジン(LE-5)の 開 発 も認定 試験 次 世 代 ロケ ッ トの 開発 の 進 め方,コ ン フ ィギ ュ レー
を実 施 す る段 階 に 至 った.こ のLE-5エ ン ジン を2段 シ ョン等 につ い ての 調 査 研 究 の成 果 は,宇 宙開 発 委 員

目の 推進 系 統 に 使用 し たH-Iロ ケ ッ トも,昭 和61年 会 第2部 会 に お い て 審 議 され,昭 和55年7月 に了承


1・2月 期 に は 試験 飛 行 が 実 施 で き る 目途 が 得 られ た. されてH-I計 画 と して 正式 に発 足 した.H-I計 画に

以下 にH-Iロ ケ ッ トの 構 成 ・諸 元 お よ び 開発 試 験 の よって 開 発 され るH-Iロ ケ ッ トが 完 成 す る ま で の期

過程 につ いて 紹 介す る. 間 の 衛 星打 上 げ要 望 に 対 処 す るた めN-Iロ ケ ッ トの
性 能 向上 を 図 り,米 国 よ り第2段 ロ ケ ッ トを 購 入 す る
2. 開 発 過 程 こと と な った.こ れ がN-IIプ ロ ジェ ク トで あ り,衛

宇 宙開 発 事業 団は,中 型 液 体 ロケ ッ トを 製 作 し運 用 星 打上 げ用 ロケ ッ トがN-IIロ ケ ッ トで あ る.N-I,


N-IIお よびH-Iロ ケ ッ トの 技 術 的 関 連を 第1図 に示

著 者 紹 介 す.ま た 主 要 目を第1表 に示 す.

松田 敬(正 会員) N-Iロ ケ ッ トの 第1段 は 米 国の デル タ ロ ケ ッ トの


大正15年 生.昭 和27年 東京大学 第1段 を ラ イセ ン ス国 産 し た もの で あ る.機 体 は 米 国
第一工学 部応用数学科卒業.同 年汽 マ ク ダ ネル ・ダ グ ラ ス社 のLT(Long Tank),エ ンジ
車製造(株)入社.昭 和29年 新三菱
ン は ロケ ッ トダ イン社 のMB-3エ ン ジ ン,固 体 補 助
重工(株)名古屋 製 作 所 入 社.昭 和
45年 宇宙開発事業団入社,現 在に至 ロケ ッ トは サ イ ヤ コー ル社 のCASTOR-IIを ラ イセ

る.N-Iロ ケ ッ ト,N-IIロ ケ ッ ト,H-Iロ ケ ット ン ス国 産 した.第2段 ロケ ッ トは 宇 宙 開発 推 進 本部 時


の設 計 の 総 括 開 発 部 員 お よ び打 上 げ時 に は ロケ ッ ト主
代 よ り開 発を 進 めて きたLE-3エ ン ジ ンを 使 用 し 自主
任 を担 当.
開 発 した 液体 ロ ケ ッ トで あ る.第3段 には サ イヤ コー
ル 社 よ り購 入 した 固 体 ロケ ッ トを 使用 して い る.衛 星
*1 昭 和59年3月17日 原 稿 受 理Present Status of H -I

フ ェア リン グは 直 径1.65mのFRP製 で あ るが,マ
Program
*2 宇 宙 開 発 事 業 団Takashi MATSUDA
クダ ネル・ ダ グ ラス社 よ り購 入 した.誘 導 シ ステ ムは

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2 日本 航 空 宇 宙学 会誌 第32巻 第370号(1984年11月)

第1図 ロケ ッ ト開 発 の な が れ

第1表 N-I, N-II, H-Iロ ケ ッ トの 主 要 目

プ リプ ロ グ ラ ム/電 波誘 導 方 式 で 装 置は 米 国 製 で あ H-Iロ ケ ッ トの 開 発 に 際 し て は,開 発 期間 や必 要


る.N-Iロ ケ ッ トか らN-IIロ ケ ッ トへ の 性 能 向 上 資 金 の 増大 を 合 理 的 に抑 制 す る と とも に,ク リテ ィカ
は,1段 機 体 は 延 長 型 ロン グ・ タ ン ク(ELT)を ライ ルな 開発 要 素 を 極 力 少 な くし,ま た 将来 の 開発 技 術基

セ ン ス国 産 し,エ ン ジ ンはN-Iロ ケ ッ ト同様MB-3 盤を 固 め る た め,第2段 液 体 酸 素 ・液体 水 素 ロ ケ ッ


を 使 用,ま た 固 体 補 助 ロケ ッ トは3本 か ら9本 に増 加 ト,第3段 固 体 ロケ ッ トお よ び慣性 誘導 装 置の 開発 に

し,地 上 点 火6本,空 中点 火3本 の 組 合 せ に よ り1段 重点 を おい た.し た が ってN-IIロ ケ ッ トで ライセ ン


ロケ ッ トの 推 力 の 増 強を 行 った.第2段 ロケ ッ トは 米 ス 国 産 した 第1段 を その ま ま使 用 し,固 体 補 助 ロケ ッ
国 エ ア ロ ジ ェ ッ ト社 の再 着 火機 能 を 有 す る118F型 を トもN-IIロ ケ ッ トと 同様 に9本 とした.
わが 国の 仕 様 に合 わせ る べ く改 良 を行 って 購入 した.
3. H-Iロ ケ ッ トの 構 成 と諸 元
第3段 を 大 型 固 体 ロケ ッ トに変 更 しサ イア コ ー ル社 よ
り購 入 して,衛 星 打 上 げ能 力の 向 上を 達成 した.ま た H-Iロ ケ ッ トは,全 長 約40.3m,直 径2.4m,打

衛 星 フェ ア リン グ の 直径 を2.4mと して 衛 星の 大 型 化 上 げ 時 総重 量 約140ト ンの 液・ 液・ 固 の3段 式 ロケ ッ

に対 処 した.誘 導 シス テ ムは 米 国デ ル タ・ ロケ ッ トで トで あ る.

実 績 の あ る慣 性誘 導 機器 を 購入 して,慣 性 誘導 方 式 で 諸元 お よび 概 観 図 はN-Iロ ケ ッ ト,N-IIロ ケ ッ トと

衛 星 打上 げ精 度 の 向 上を 図 った. 対 比 し て第2表 お よび 第2図 に示 す.ま た 打上 げ能 力

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H-Iロ ケ ッ ト開発 の現 況(松 田 敬) 3

第2表 N-I, N-II, H-Iロ ケ ッ トの 主 要 諸 元

第2図 N-I, N-IIロ ケッ トと の対 比 概 観 図

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4 日本 航 空 宇 宙学 会 誌 第32巻 第370号(1984年11月)

の 向上 に つ い ては 静止 軌 道 上 の 人 工 衛 星重 量 で 比 較 し 水 素 を推 進 薬 と して 使 用 す るLE-5(型 式 名 称)エ ン
て 第3図 に示 した. ジン,液 体 酸 素・ 液 体 水 素 タン ク お よび ヘ リウム気 蓄

世 界 の 代 表 的 な ロケ ッ トと対 比 して 第4図 に 示 す. 器 か ら構 成 され て い る.LE-5エ ン ジ ンは,ガ ス発 生

器 サ イ クル の ター ボ ポン プ方 式 で,液 酸 タ ー ボ ポンプ
4. LE-5エ ンジン
と液水 ター ボ ポ ンプは 互 いに 独 立 し て い る.LE-5エ
H-Iロ ケ ッ トの 第2段 推 進 系 は,液 体 酸 素 ・液 体 ン ジンは 宇 宙 科 学研 究 所 お よび 航 空 宇 宙 技術 研 究所 の

協 力の も とに,昭 和52年 度 よ り エ ン ジ ン の 各 構成要


素 の 試 験 に 着手 し た.こ の 試 験 の成 果 を 受 け,原 型 エ
ン ジ ン3基,実 機 型 エ ン ジ ン5基 を製 作 し,昭 和54

年11月 よ り昭 和58年12月 ま で に,常 圧 燃 焼試 験,


高 空 燃 焼 試 験,ス テ ー ジ燃 焼 試 験 を行 った.こ の 間の
燃 焼試 験 は207回,累 積 燃 焼 秒 時は14,493秒 で あ る.
LE-5エ ンジ ンの 系 統 図 を 第5図 に 示 す.エ ン ジン
の 始 動 は,燃 焼 室の 冷 却 管 路 を 通 って,ガ ス化 した水

素 の 一 部 を 始動 弁を 通 して,タ ー ボ ポ ンプ に導 き,2
個 の ター ボポ ン プを 駆 動 す る こ とに よ り行 わ れ る.エ
ン ジン の 燃 焼に よ り推 力 が定 格 の50%に 達 した こと

を 検 知 した時 点 で,ガ ス発生 器を 点 火 し始動 弁 を 閉 じ


る.こ の後 タ ー ボ ポン プ の 回転 数 は 速 か に上 昇 し定 常
燃 焼 状 態 に 移行 す る.こ の方 式 を 採 用 す る こ と に よ

り,ス ター ト ・タ ン ク等 の複 雑 な機 構 は不 要 とな り,
再 着 火 が容 易 とな る.仕 様を 第3表 に 示 す.ま た概 要
を 第6図 に示 す.
燃 焼 室 は240本 の ダ ブル・ テ ーパ ー・ チ ュ ーブ を ロ
ー付 けし た 管構 造 で あ る.こ の 管路 に 液 体水 素 を導 き

燃 焼 室 の 冷 却を 行 う.噴 射器 は208個 の 同 軸型 推進 薬
第3図 打上げ能力の向上

第4図 世 界 の代 表 的 な ロケ ッ トとの 対 比

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H-Iロ ケ ッ ト開発 の 現 況(松 田 敬) 5

第6図 LE-5エ ンジ ン概 観 図

第5図 LE-5エ ン ジ ン系 統 図

第3表 LE-5エ ンジ ンの仕 様

噴射 孔を 備 えて お り フ ェー ス ・プ レー トは 多孔 質 材 料
第7図 液水 ポ ンプ構成説 明図
を 用 いて 発 汗 冷 却 を行 って い る.液 酸 ター ボ ポ ン プ お
よび液水 ター ボ ポン プは,そ れぞ れ ヘ リカ ル イ ンデ ュ
ー サ付 き遠心 ポ ンプで あ り,2段 衝 動 ター ビン に よ り

駆 動 され る.液 酸 ター ボポ ン プ にお い て は,水 素 を 含
む ター ビン駆 動 ガ ス と液 体酸 素 とを 完 全 に分 離す るた
め,セ グ メ ン トシー ル を 二 重 に し,中 間 を ヘ リウ ム ・
ガスで パ ー ジし安 全 を 確 保 して い る.点 火 器 は各 タ ー
ボポ ンプ 出 口 よ りバ イパ スし た 液体 酸 素 と液 体水 素 を
ガス化 し て燃 焼 させ る.主 推 力 室用 とガ ス発 生 器用 の
二 つの 点 火器 が あ り,そ れ ぞ れ 大 きさ は異 な るが エ キ
サイ ター等 は 可 能 な 限 り共 通 化 を 図 っ て い る.エ ンジ
ン ・コ ン トロー ル ・ボ ック スは バ ル ブ の作 動 シー ケ ン
スを制 御 す る た めの もの でCPUに イ ン テル8085Aを

使 用 した マ イ ク ロ コン ピュ ー タで あ る.
高 膨 張 ノズ ル は,ノ ズル 面 積 比140ま で 燃 焼排 気 ガ 第8図 高 膨張 ノズル

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6 日本 航 空 宇 宙 学 会 誌 第32巻 第370号(1984年11月)

スを 膨 張 す る もので,薄 肉 テ ーパ ー チ ュ ー ブ650本 を して 液 酸 タ ン ク底部 に装 着 さ れて い る.ヘ リウム気 蓄


ロー付 け した 管 構造 で あ る.燃 焼 室 冷 却 管路 を 出 た 水 器 は チ タニ ウ ム製 球 型 タ ン クで2種 類 あ り,常 温 ヘ リ
素 の 一 部 に よ り,ダ ン プ冷 却 して い る.油 圧 ポ ン プ駆 ウ ム気 蓄器4個 は ス ラス トコ ー ン部 に装 備 して い る.

動 用 タ ー ビ ンは,燃 焼 室冷 却 管路 出口 マ ニ ホー ル ドか 極 低 温 ヘ リウム気 蓄器2個 は 液 水 タン ク内に 装備 し


ら噴 射 器 入 口 までの 水素 通 路 内に 装 備 さ れて い る.2 液 体 水 素 に よ り冷 却を 行 って い る.常 温 ヘ リウムは各
段式 タ ー ビ ン に よ り 油圧 ポン プを 駆 動 す る.主 燃 料 種 弁 類 の 駆 動 用 に使 用 し,極 低温 ヘ リウムはLE-5エ
弁,主 酸 化 剤 弁,予 冷 弁,始 動 弁 等 の 弁類 の 型 式 は, ン ジ ンの 排 熱 を 利用 した 熱 交 換 器 に よ って ガ ス 化 し液
す べて ポ ペ ッ ト弁 で あ って ヘ リウ ム ・ガ ス に よ り駆 動 酸 タ ン ク加圧 用 に使 用 され る.液 水 タン クの 加圧 は再
され る. 生 冷 却 管 路 で ガ ス化 され た 水 素 を タ ンクの 頂 部 に導 き
タ ン ク加 圧を 行 う.LE-5エ ン ジン再 着 火 の 場合,無
5. 液酸 ・液 水 タ ン ク
重 力 環 境 下で,タ ン ク 内に 浮 遊 して い る推 進 薬を そ れ
第4表 お よび 第9図 に液 酸・ 液 水 タ ン クの 主 要 諸 元 ぞれ の タン ク底 部 に 集 め る た め,ア レ ッジ・ ジ ェ ッ ト
お よび 概 要 を示 す.タ ン クは 共 通 隔 壁型 の イ ンテ グ ラ 操 作 が 必 要 とな る.こ の た め 姿 勢 制 御用 ガ ス・ ジ ェッ
ル ・タ ン クで シ リン ダ ー部 は一 体 削 り出 し加 工 に よ る ト装 置を 有 効 に利 用 して い る.
ア イ ソ グ リッ ト板を 溶 接 した 構造 で あ る.前 方 お よ び 液 水 タン ク上 部 に は,前 方 ス カ ー ト部 構 造を 介 して
後 方 の ドー ム は ケ ミカ ル ・ミー リン グに よ り薄 肉 化 し ガ イダ ン ス・ セ ク シ ョンが 装 着 され る.
た モ ノ コ ッ ク構 造 で あ る.タ ン クの 金 属 材 料 は極 低 温
液 酸 ・液水 タ ン ク・ シ ス テ ムは,昭 和48年 度 よ り
で 靱性 に 優 れ た高 張 力 アル ミ合 金の う ち と くに 溶 接性 設 計検 討 に着 手 し,金 属 構 造 要 素,断 熱 構造 要 素等 の
の よい2219合 金を 採 用 し た.液 酸 タ ン ク部 と 液水 タ
試 作 試 験,共 通 隔壁部 の 部 分 構 造 試 験 等の 開 発 試験を
ン ク部 との 間の 共 通 隔壁 はFRPハ ニ カム サ ン ドウ ィ
積 み重 ね て きた.小 型 タ ン ク を 使 用 し液 体 水素 の加
ッチ 構 造 で あ る.共 通 隔壁 構 造 内部 を 約10-2Torrに 圧,液 流 し試 験 を 行 った後 昭 和58年8月 には角 田ロ
真 空 引 きを 行 い液 水 部 と液 酸部 の 間 の 断 熱 を 確保 して ケ ッ ト開 発 セ ン ター の タ ン ク熱 特性 試験 設 備 を使 用 し
い る.液 水 タ ン クの シ リン ダ ー部 の 外 壁 断 熱 は施 工 性
原 型 タ ン ク・ シ ステ ム試 験 を 実 施 した.こ の 試験 に お
の 点 で 有 利 な ポ リウ レ タン フ ォー ムを 直接 吹 き付 けす い て,ロ ケ ッ トの推 力 飛 行 時 に 受 け る 空力 加 熱相 当の
る.ま た ドー ム部 は アル ミ蒸 着 ポ リエ ステ ル フ ィル ム
加 熱,慣 性 飛 行 時 に 受 け る太 陽照 射 に よ る加 熱,冷 暗
の 多 層 断 熱 構造 で あ る.液 酸 タ ン ク側 ドー ム部 中央 は
黒面 の 極 低 温 環 境 に対 して タ ン クの 断熱 構 造 が どの よ
LE-5エ ン ジンの 液 酸 ター ボ ポ ンプ入 口に 管 結合 され うに機 能 す るか を確 認 し,設 計 の 妥 当性 を 立 証 した.
る.液 水 タ ン ク底 部 よ りシ リン ダー 部 外 側 に導 か れ た
配 管 を 通 じて 液体 水 素 は 液水 ポ ンプ 入 口に導 か れ る.
LE-5エ ン ジ ンは ス ラス トコ ー ン と称 す る 構 造体 を 介

第4表 液酸 ・液 水 タ ンクの 主 要 諸元

第9図 液 酸 ・液 水 タ ン クの 概 要 第10図 原 型 タ ンク シス テ ム試 験

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H-Iロ ケ ッ ト開発 の現 況(松 田 敬) 7

第11図 厚 肉タンク地上燃焼供試体の概要

6. 液 酸 ・液 水 推 進 系

LE-5エ ン ジン の 開発 試 験,液 酸・ 液 水 タ ン ク・ シ
ステ ムの開 発 試 験 の成 果 を 受 けて,そ れ ぞ れ を組 み 合

わせた 推進 系 の 機 能 ・性 能 を 確 認 す る 地 上 燃 焼試 験
は,小 型 タ ン ク(容 積:実 機 の1/7)地 上 燃 焼 試験 と
厚 肉タ ン ク(容 積:実 機 の1/3)地 上 燃 焼 試 験 を 計画
した.小 型 タ ン ク地 上 燃 焼 試験 は 昭 和56年12月 に実
施 し,液 酸 ・液 水 推 進 系 として のLE-5エ ン ジンの
始動 特性 ・定 常 燃 焼 特 性 に つ い て 基礎 デ ー タを 取得 し
た.厚 肉 タン ク地 上 燃 焼 試 験 は 昭 和58年12月 ∼59年
2月 の間 に実 施 し機 能 ・性 能の 確 認,飛 行 予 測 計 算 に

必要 なデ ー タの 取 得 を 行 った.

厚 肉タ ン ク地 上 燃 焼 供 試 体 の 概 要を 第11図 に 示 す.
第12図 地上燃焼試験
昭和59年5月∼10月 に は,実 機 型LE-5エ ンジンと
実機 型 タ ン クを 組 み 合 わ せ て 地 上 燃 焼 試験 を 行 い最 終 て,第1段 と第2段 の制 御を 行 う.慣 性 誘 導 装 置の 主

的な総合 機能・ 性 能 を 確 認 し て,実 機 の 飛 行 に 備 え 要 諸 元 お よ び ブ ロ ック ダ イ ア グ ラ ムを第13図,第5


る. 表 に 示 す.慣 性 セ ンサ ユニ ッ トに 内蔵 し て い る ジ ャイ
ロ と加 速 度 計 は,ロ ケ ッ トの 姿勢 角 と加 速度 を 検 知 し
7. 慣 性 誘 導 系
て,そ の デ ー タ を慣 性 誘 導 計 算 機 に入 力 す る.慣 性 誘

H-Iロ ケ ッ トの 慣 性 誘 導 装 置 は,第2段 ロケ ッ トの 導 計 算 機 は 航 法 計 算誘 導 計 算 を 行 い 制 御信 号 を 出力 す
上部 のガ イダ ン ス・ セ クシ ョン に その 主 要 部 を 搭 載 し る.制 御 信 号 は デ ー タ・イ ン タ フ ェー ス・ユ ニ ッ トか ら

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8 日本 航 空 宇 宙学 会誌 第32巻 第370号(1984年11月)

第13図 慣性 誘導 装 置 の ブ ロ ック ダ イ ア グ ラ ム

第5表 慣性誘導装置 の主要諸元

第14図 第3段 固体 ロ ケ ッ トモー タの概 要

第6表

で,3段 式 に よ り衛 星 を 打 ち上 げ る場 合,第3段 は固

そ れ ぞ れ第1段,第2段 の 制 御電 子機 器 を 経 由 して, 体 ロ ケ ッ トとして い る.第3段 の 性 能 は ロケ ッ トの 打


第1段 で は メ イン・エ ン ジ ン,バ ー ニ ヤ・エ ン ジ ンの ジ 上 げ能 力 に 敏 感 に効 い て く るた め,可 能 な 限 り比 推力
ンバ ル制 御 を,第2段 で はLE-5エ ン ジン の ジ ンバ ル お よび 推 進 薬充 填 率 を 高 くし な け れば な らな い.第14

制 御 と ガ ス ジ ェ ッ トのON-OFF制 御を 行 って ロ ケ ッ 図,第6表 に 第3段 固 体 ロケ ッ トモ ー タの 概要 を 示す.


トを所 定 の 目標 に誘 導 す る.ま た誘 導 計 算 機 は 航 法 計 第3段 固 体 ロ ケ ッ トの 推 進 薬 に は,新 し く開 発 した
算・ 誘 導 計 算 を行 う とと もに 飛 行時 の 主 要 イベ ン トを HTPB(末 端 水 酸 基 ポ リブ タ ジ ェン)を 使用 し,6Al-

検 知 して 搭 載 機 器 の作 動 制 御 を行 う.レ ー ト ・ジ ャイ 4Vチ タ ン合 金 製の 球 型 タ ン クに充 填 す る.燃 焼方 式


ロ・パ ッ ケー ジは,姿 勢 角 角 速 度 を検 出 し誘 導計 算機 は 内面 燃 焼方 式 を採 用 し,8光 芒 ス リ ッ トを 内蔵 して

に 送 り制 御 の 安定 化 を 図 る. 推 力 パ ター ンの 平 滑 化 を 図 って い る.ノ ズ ル には 軽量
慣 性 誘 導 系 は,昭 和52年 度 に そ の 中 心 装 置で あ る の カー ボン ・ノズ ル を 用 い半 没 様 式 に 装 着 して 全 長が

慣 性 セ ンサ ユ ニ ッ トお よび 慣性 誘 導 計 算 機 の ブ レ ッ ド 短 くな る よ うに して い る.
ボー ド・モ
デ ルの 試 作 に 着 手 し,エ ン ジ ニヤ リン グ ・モ 第3段 固体 ロケ ッ ト・モ ー タ の 開 発 は,昭 和53年
デ ル に よ りシ ミユ
ー レ ー タを 使用 して シ ス テム試 験 お よ 度 各 コン ポ ー ネ ン トご との 開発 基 礎 試 験 に着 手 しその
び 航 空 機 に 搭 載 して 飛 行 させ る こ とに よ る加速 度 環 境 成 果 を 受 けて サ ブサ イズ(推 進 薬 量1.2ト ン)の 燃焼
下 で の シ ス テ ム試 験 を 実 施 し て設 計 の 妥 当性 を確 認 し 試 験 を行 い所 期 の性 能を 実 現 す る見 通 しを得 た.今 後
た.59年 度 か ら 誘 導制 御系 の 工 場 内整 備 作 業 が 開始 は デ ザ イ ン ・モー タの 試作 試 験,プ ロ トタイ プ ・モー
され る ため,現 在 は これ に 使用 す る発 射 前 テ ス トプ ロ タの 試作 試 験 を 通 じて 軽量 化 を 行 い 耐 環 境性 を 確 認す
グ ラ ム(PLTP)お よび 慣性 誘 導 プ ログ ラム(IGP)を る予定 で あ る.
開 発 中で あ る.
9. 打 上 げ 計 画
8. 第3段 固体 モー タ
H-Iロ ケ ッ トは2段 式 に よ り 昭 和61年1∼2月 期
H-Iロ ケ ッ トはN-I, N-IIロ ケ ッ トで 確 立 した に 飛行 試 験 を 実 施 す る 目途 が 得 られ た.試 験 機1号 機
静 止 衛 星 打上 げ 技術 を 継 承 して い る(第1図 参 照)の により

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H-Iロ ケ ッ ト開 発 の 現 況(松 田 敬) 9

部 に 約40rpmの ス ピンを与 えて 分 離 す る.そ の 後 再


度 姿 勢変 更を 行 って ア マ チ ュ ア衛 星 を分 離 す る.こ れ
らの分 離は スプ リン グ分 離 方 式 に よ っ て行 わ れ る.以
上 の複 数 衛 星 打上 げ技 術 試験 終 了後 に 追 突 防 止の た め
の マ ヌー バ ー を行 って 磁 気浮 上 型 フ ラ イホイー ル の 試

験 を実 施 す る.昭 和62年 夏期 に は,3段 式 試 験 機2


号 機 に よ り技 術試 験 衛 星V型 を 打 ち上 げ て人 工 衛 星 打
上 げ能 力 の 確認 を 行 い,昭 和60年 代 前 半 の 実 用 衛 星
打上 げ に 活 躍す る こ とに な って い る.

10. む す び

昭和59年2月23日,宇 宙 開 発 委員 会 は 「宇 宙開 発
政 策 大 綱 」(昭 和53年3月 策定)の 改 定 を 行 った.新
し い大 綱 の最 大 の ポイ ン トは2ト ン級 静 止 衛 星 を打 ち
上 げ る能 力を もつ大 型 ロケ ッ トの 開発 を 決 定 し た こ と
で あ る.従 来 の計 画で は,本 稿で 紹 介 し たH-Iロ ケ
ッ トの後 継 機 と し て,800kg級 静 止 衛 星打 上 げ用 ロ
ケ ッ トの 開 発 を 経 て大 型 ロケ ッ トの 開 発 に進 む こ とに
な って いた.わ が 国に 本 格 的な 実 用 衛 星 利用 の 時 代 が
到 来 し,そ れ に 伴 う衛 星 の大 容 量 化,高 性 能 化 の 要求
が 高 ま った こ と,ま た 国 際的 に は,米 国の ス ペー ス ・
シ ャ トル の 実 用化,ヨ ー ロ ッパ の ア リア ン ・ロケ ッ ト
の 打上 げ成 功 な ど,宇 宙 開発 を め ぐる情 勢 に 大 きな変
第15図 試 験 機1号 機 の ペ イ ロ ー ド搭 載 の概 要
化 が あ った こ とに よる 改定 で あ った.

(1) 第2段 推 進 系の 性 能/機 能 の 確 認 LE-5エ ン ジ ンの 開 発の 延 長 線上 に お い て 大 型 液

(2) 慣 性 誘 導 系の 性 能/機 能 の 確 認 酸 ・液 水 エ ン ジ ンを 開発 して本 格 的 な大 型 ロケ ッ トの

(3) 複 数 衛 星 打上 げ技 術 試 験 開 発 を し よ うとす る計 画が 緒 に つ いた ば か りで あ る.

を 実施 す る.第15図 に試 験 機1号 機の ペ イ ロ ー ド搭 開 発 の 基本 方 針や 細 部 に わ た る 技 術 検 討が 行 わ れ る

載の概 要 を 示 す.試 験 機1号 機 は,種 子 島 宇 宙 セ ン タ が,種 々の 審議 に お い て は,H-Iロ ケ ッ トの 開発 の

大 崎射 場 よ り垂 直に 発 射 し,第2段 エ ン ジ ン第1回 燃 技 術 資 料 に 基づ い て 検討 され るもの と想 定 さ れ る.こ

焼 停止 時(発 射 後 約613秒)に 近 地点 高 度 約250km, の た め に も一 日も早 くH-Iロ ケ ッ トの 玉 成 を期 さな

遠地 点 高度 約1,500km,軌 道 傾 斜 角 約48° の コー ス ト けれ ば な らない と考 えて い る.

フ ェーズ に入 り遠 地点 に お いて,第2段 エ ン ジンを 再 これ まで に 賜 りま した 関 係各 位の ご支 援,ご 鞭撻 に

着 火し(発 射 後 約3,148秒)約24秒 後 に 傾斜 角 約50。, 感 謝 い たす と と もに,新 しい 計 画に も ご指 導 いた だ け

高度 約1,500kmの 円 軌道 に入 る.そ の 後 機 体 軸が 赤 ま す よ うお願 い い た し ます.

道 面 に垂 直 に な る よ うに姿 勢 を 変 更 し,測 地 実 験 機 能

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