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Midnight Journey

ミッドナイト ジャーニー

さく:たなか けんご / え:Midjourney


まち よあ そんざい

この街には、夜明けが存在しない。

たいよう まち   て つき あ まち いちばん あか

太陽が街を照らすことはなく、月明かりがこの街で一番明るかった。

よる               まち ほしぞら きれい かがや

夜しかないこの街には、星空がいつも綺麗に輝いて見えた。
私はこの街で病気の母と二人で暮らしていた。

母は昔から体が弱く、医者にはあと数年の命と言われていた。

この街に母の病気を治す治療薬はなく、

母は寿命が尽きるその時を待つことしかできなかった。
だた一つだけ、母の病気を治すことができるかもしれない言い伝えがあった。

数百年に一度、日の光差しこむほど、一輪の花咲く

その花の蜜を飲まば、いかなる災ひも立ち去なむ

私の父はまだどこかに咲いているかもしれないその花を探しに旅に出た。
「母さんの病気は父さんがきっと治してやる。

だからここで待っていなさい。すぐに帰ってくるから」

そう言って、父は私が小さい頃に飛行機で夜空へ飛び立ったきり

帰って来ることはなかった。
父はよく私に、空飛ぶクジラの話を聞かせてくれた。

この世界のどこかに空を飛ぶ幻のクジラがいるという。

その姿を見たものには幸せが訪れるらしい。

私はいつかこの目で見てみたいと思った。

父は信じていればきっといつか出会うことができると私に言った。
そんな想いとは裏腹に、母の体調は日を増すごとに悪化していた。

窓から風が吹き込み、懐かしい香りが漂ってきた。

それは庭に咲いている花の香りだった。

その香りは、昔に父と母と遊んだ記憶を蘇らせた。

窓の外を眺める母の顔が少し明るくなったような気がした。
外に出ると心地よい風が肌を撫でた。

私は夜空が好きだった。

夜空ではない空を見たことはないのだけれど。

遠くに輝いている星は私より小さく見えるけど、とても大きいのだろう。

どこまでも続く夜空はとても綺麗で、ちっぽけな私は無力だった。
突然、地面が揺れているような気がして私は目を覚ました。

少しばかりうたた寝をしてしまっていたようだ。

気づくと、私は大きなクジラの背中に乗って空を飛んでいた。

ウォーという大きな声と共に夜空には光の粒が拡散した。
しばらくの間、私は大きなクジラと一緒に夜空を旅した。

大きなクジラは私を様々なところへ連れて行ってくれた。

そこには今まで見たことのない生き物がたくさんいた。

世界はとても広いことを、私は知った。
私を地上に降ろすと、大きなクジラの体が輝き始めた。

夜空が呼吸しているようであった。

父はこの光景を見ているのだろうか。

母はこの光景を見ているのだろうか。

私は心の中で願いごとを唱えた。
目覚めると、私はベットの上にいた。

母は隣のベットで気持ちよさそうに寝ていた。

空からは小さなリズムが聞こえてきた。
それは飛行機のエンジン音のようであった。

遠くの空が少し明るくなっているような気がした。

夜明けはもうすぐそこまで来ているのかもしれない。

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