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オフィスビルにおけるトイレの計画に関する統計調査

正会員  〇 今井一貴 *
正会員   門脇耕三 **
オフィス    トイレ    ビルディングレター                          
 同    長谷川敦大 ***
快適性

1. 研究の背景と目的 17 件
1960 年代 26 件
 近年、業務形態やワーカーの価値観の多様化に伴い、オ 調査事例
収集事例
フィスに要求される性能も変化し、より快適なオフィス環 1970 年代 93 件 132 件

境が求められている。 1980 年代 88 件 102 件


 トイレはその快適なオフィス環境に大きく寄与する存
1990 年代 80 件 526 件
在であるが、オフィスが民間主体のビルディングタイプ
であり、大学での研究があまり進んでこなかったことが 2000 年代 74 件 130 件
9件
要因となって、オフィスのトイレの計画に関する統計 2010 年代
10 件
データはこれまでほとんど明らかにされていない。 0 50 100 150 200 250 300 350 400 450 500 550
 そこで本研究では、これまでのオフィストイレに関す 事例数
図 1 年代別の調査事例数
るデータを収集、調査することで、今まで統計的な議論
件数 180
が進んでこなかったオフィストイレの位置づけを明らか 2件
160 7件 高さ
にするとともに、オフィストイレの計画に関する基礎的 50 件 ~250㎡
140
な統計資料を作成することを目的とする。 ~200㎡
~150㎡
120
1件 ~100㎡
100 ~50㎡
2. 研究の方法
80
 本研究では、オフィスビルの基準階平面図を用いた 103 件
2件
60 6件 1件
調査を行った。資料には、( 一財 ) 日本建築センターが 62 件
2件
19 件 3件 1件 2件
発行する機関誌「ビルディングレター」を用いた。1966 40
6件 2件 1件
36 件 1件
年から現在まで毎月発行されており、評価・評定を受け 20
27 件
2件 4件
1件
2件
16 件 11 件
た建物の情報が一般図とともに掲載されている。創刊号 0
~1,000㎡ ~2,000㎡ ~3,000㎡ ~4,000㎡ ~5,000㎡ ~6,000㎡ ~7,000㎡
から調査時の最新号にいたるまで、全てのオフィスビル 面積(㎡)
図 2 調査事例の基準階と高さ
の事例を収集した。その結果、全事例数は 1566 事例と
なった。さらに、基準階平面図が掲載されていないもの 執務エリア

コア
を除外した 926 事例から、年代ごとに無作為にサンプリ
ングし、合計 361 事例のオフィスについて、トイレに限 センターコア 偏心コア ダブルコア

らず、様々なデータを収集した(図 1)。それらのデー 図 3 コア配置


採光あり 採光なし
タからグラフを作成し、変数の関係を分析した。
センターコア 34件 172件
 なお、調査したオフィスの基準階面積は 1,000 ㎡代の
偏心コア 229件 115件
ものが半数近くを占めているが、中には 6,000 ㎡を超え
ダブルコア 77件 47件
る大規模オフィスも含まれている。高さは 50 mを超え その他 70件 49件
るものが大半を占めており、比較的大規模なオフィスが 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
調査対象となった(図 2)。 図 4 コア配置とトイレ採光
センターコア 偏心コア ダブルコア その他

3. オフィストイレに関するデータ分析 1960 年代 9件 10件 2件 4件

3-1. コア配置とトイレ採光の関係 1970 年代 40件 26件 16件 11件


1980 年代 26件 33件 15件 17件
 オフィスの基準階におけるコア配置は、平面の中央に
1990 年代 11件 42件 16件 11件
コアが計画されるセンターコア、いずれかの外壁面に寄
2000 年代 7件 50件 5件 12件
せられる偏心コア、正対する外壁面にふたつのコアが計 2010 年代 9件
画されるダブルコア、その他に分類することができる(図 0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80% 90% 100%
図 5 コア配置の推移
3)。
 オフィストイレの採光の有無は、快適性を大きく左右 ダブルコアのオフィスでは、トイレに積極的に採光を取
する要素だが、 センターコア配置で採光をとるには光庭 り入れていることが読み取れる(図 4)。
を設けるなどの特別な工夫を要する。一方で偏心コアや  また、コア配置の年代別の推移を見ると(図 5)1960
A Fundamental Statistical Survey on Planing of Restrooms in Kazuki Imai, Kozo Kadowaki, Nobuhiro Hasegawa
Office Buildings
年代から 70 年代まではセンターコア配置が主流であっ トイレ
面積(㎡)
たが、80 年代より偏心コア配置が増加し、2000 年代以 100
90
降は大きな割合を占めるようになっている。コア配置は 近似直線
80
構造的な制約などに左右されるため、この結果には 構 70
3.0%
造技術の進展も関わっていると考えられるが、同時にト 60
50
イレの環境も着実に向上していると言える。 40 平均
2.1%
3-2. 基準階面積とトイレ面積・トイレの距離との関係 30
1.0%
 オフィスの面積のうちトイレが占めている割合を見る 20
10
と(図 6)、基準階面積とトイレ面積の合計は相関関係 0
にあり、平均すると基準階の面積の 2.1% がトイレにあ 0 200 400 600 800 1,000 1,200 1,400 1,600 1,800 2,000
基準階
てられている。しかしばらつきも大きく、1% を切る事 面積 (㎡)
図 6 基準階面積とトイレ面積
例はほとんどないものの、3% を超える事例は多数認め
トイレ
られる。面積を切り詰めるのには限界がある一方で、ゆ 距離(m)
とりのあるトイレを計画する事例もそれなりに多く見ら 30
最長
れた。 25
最短
近似直線(最長)
 執務エリアからトイレまでの距離も、オフィスの生産 近似直線(最短)
20
性等を左右する重要な要素である。執務エリアからトイ
15
レまでの最大距離は、基準階面積が大きくなるにつれ長
くなる傾向が見て取れる(図 7)。一方で、最短距離で 10

はその傾向が弱くなっており、どのオフィスでも平均す 5
ると 6m から 9m 内外におさまっている。このことから、
0
基準階面積がある程度大きくなると、トイレを分散させ 0 200 400 600 800 1,000 1,200 1,400 1,600 1,800 2,000
基準階
るなどして、トイレまでの距離を一定に保っていること 面積(㎡)
がわかった。 図 7 基準階面積とトイレの距離

3-3. トイレ面積とトイレ器具数の関係 大便器数 大便器数 30.8㎡


6 6
 トイレ面積と便器の数の関係を見ると、男子トイレ、 36.8㎡ 25.7㎡
5 5
女子トイレとも、おおむね相関関係を示している。しか 23.0㎡ 22.0㎡
4 4
し設置されている便器の数が同数であっても、トイレ面 20.5㎡
平均 18.2㎡ 平均
3 3
積にはかなりのばらつきがあることもわかる(図 8、9)。 15.2㎡ 11.9㎡
2 2
このことから、オフィストイレの計画は個別性が高いこ 12.9㎡ 9.2㎡
1 1
とが伺える。
0
 しかし、年代ごとに見るとオフィストイレの計画にも 0 10 20 30 40 50
0
0 10 20 30 40 50
傾向があることがわかる。女子トイレの面積を便器の数 面積(㎡) 面積(㎡)
図 8 男子トイレ面積と大便器数 図 9 女子トイレ面積と大便器数
で割った値の時代推移を見ると(図 10)、徐々にではあ
るが、トイレの面積が時代とともにゆとりのあるものへ 面積(㎡)
10
と変化していることがわかる。さらに、10 年ごとに区 平均
切って平均値を算出すると、1970 年前後から 2000 年前 8
6.6㎡
後の 30 年間で、便器 1 台あたりのトイレ面積は 30% 以 6.3㎡
6 5.5㎡
5.3㎡
上増加しているという結果が得られた。 4.9㎡

4. まとめ
2
 本研究では、オフィスに関する資料を統計的に分析
し、オフィストイレの計画の実態を明らかにした。 0
1965 1975 1985 1995 2005 2015 年
 昨今のオフィストイレは、トイレ面積や執務室からト 図 10 女子トイレにおける大便器一台あたりの面積の推移
イレまでの距離、トイレ器具数といった、利用における
快適性を担保するのに必要最低限な条件を満たしたうえ
で、採光の確保やトイレ面積の拡幅等、より快適性を追
参考文献
求した計画が個別に行われていることが、本研究を通し 1)一般財団法人日本建築センター(BCJ):ビルディングレター
て明らかになった。
本研究は、株式会社 LIXIL からの委託研究として、明治大学門脇耕三研究室、日本大
学山中新太郎研究室および古澤大輔・二瓶士門研究室が共同で行った調査に基づいて
いる。

*   明治大学大学院理工学研究科建築・都市学専攻 大学院生 * Grad. Student, Dept. of Arch., Graduate Sch. and Tech., Meiji Univ.
**  明治大学理工学部建築学科 専任講師・博士 ( 工学 ) ** Senior Assist. Prof. , Dept. of Arch., Sch. of Sci . and Tech., Meiji Univ., Ph.
***  明治大学大学院理工学研究科建築・都市学専攻 博士後期課 ***Doctoral Student, Dept. of Arch., Graduate Sch. ofSci. and Tech., Meiji
程・修士 ( 工学 ) Univ.

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