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Bolt Loosening
Bolt Loosening
*
軸直角方向繰返し変位を受けるボルト締結体のゆるみについて
石村光敏*1,山中啓司*2,正司康雅*3,小林隆志*4,沢俊行*5
Loosening mechanism of bolted joint was examined experimentally and numerically. The loosening tests were
carried out using Junker’s type loosening machine. In the Junker’s tests, transverse repeated displacements were applied
to the bolted joint with a hexagon bolt and nut, and then a reduction in the axial bolt force was measured.In the FEM
calculations, the loosening behavior of the bolted joint was examined for the model of Junker’s type loosening machine.
In addition, the effects of the flatness and the surface roughness at the bearing surfaces in the clamped part on the
reduction in the axial bolt force were examined in the FEM calculations. As the results, the loosening mechanism was
elucidated and it was shown that the effect of the nut rotation was important as well as the elastic torsion of the bolt.
The amount of the reduction in the axial bolt force was estimated in the FEM calculation taking account of the flatness
and the surface roughness. The numerical results were in a fairly good agreement with the measured results. Discussion
was made on the loosening mechanism in bolted joints under transverse repeated displacement.
Key Words : Bolt, Nut, Loosening, Finite Element Method, Transverse Displacement, Flatness, Surface Roughness
1. 緒 言
ボルト締結体は自動車産業,鉄道産業,機械構造物などに幅広く用いられている.しかし,ボルト締結体は衝
撃や振動などの外荷重下でゆるみが生じることが知られており,その結果として事故につながった事例もあるよ
うである.Junker の研究(1)は,ボルト締結体が軸直角方向の繰返し変位を受けるとゆるみが生じることを明らか
にしている.その後,ボルト締結体のゆるみ研究はかなり行われるようになっている(2)-(13).山本らの実験的研究
(2)(3)
により,以下のことが示されたとしている.すなわち軸直角方向繰返し変位を受けるボルト締結体のゆるみ機
構は,可動板(被締付け物)が左右死点に到達した際にボルトに弾性ねじれが発生し,それを解除しようとする成
分によりゆるみが生じる.最近になり,泉(10)-(12),福岡(13)らによって有限要素法(FEM)によるボルト締結体の応力
解析及びゆるみの解析がなされている.泉らの研究(10)-(12)によると,すべりをねじ面と座面に分けて議論する必要
があるとし,更に完全すべり・微小すべりに分けゆるみを調べている.他方,Haviland らの研究(4)では,ねじ部
のかみ合い時に生じるすきまがゆるみに影響するとされている.また Jiang ら(5)(6)は,繰返し変位と共にねじ谷底
でひずみラチェットが発生しゆるみが生じ,その結果ボルト軸力低下を生じさせるとしている.以上のように従
来の研究ではゆるみ機構に対していくつかの見解があり,ゆるみ機構が十分解明されているとは言い難い.
従来の研究では,ボルトの挙動や座面及びねじ面の接触面の接触状態に着目しており,可動板(被締付け物)が
軸直角方向に変位した際のナット(はめ合いねじ部)の応力状態などがゆるみ挙動に及ぼす影響は検討されていな
*
原稿受付 2011 年 4 月 20 日
*1
正員,湘南工科大学(〒251-8511 神奈川県藤沢市辻堂西海岸 1-1-25)
*2
正員,出光興産 (株) (〒261-8501 千葉県千葉市美浜区中瀬 1-3 幕張テクノガーデン B 棟 23F)
*3
正員,千代田アドバンスト・ソリューションズ (株)
(〒221-0031 神奈川県横浜市神奈川区新浦島町 1-1-25 テクノウェイブ 100 ビル)
*4
正員,沼津工業高等専門学校(〒410-8501 静岡県沼津市大岡 3600 番地)
*5
正員,フェロー,広島大学大学院(〒739-8527 広島県東広島市鏡山 1-4-1)
E-mail: sawa@mec.hiroshima-u.ac.jp
い.また,泉らの研究(10)-(12)では,FEM 解析により可動板の変位―荷重関係及び相対回転量(ゆるみ回転量)を求め,
解析結果と実験結果の比較を行っている.しかし,ボルト軸力低下の定量的検討も十分には行われていないよう
である.さらにゆるみ挙動について,ボルト軸力低下量の計算結果は示しているが,測定結果とは定量的には大
きな差異が生じている.このようにゆるみの研究は未だ問題点が多く残っていると考えられる.このためナット
(めねじ部)の挙動も考慮した締結体のゆるみ挙動の FEM 解析を行い,ボルト軸力低下に関する計算値と実験値と
の比較をすることにより定量的ゆるみ挙動を把握する必要がある.
そこで本研究では, Junker 式ゆるみ試験機を用いて標準六角ナットを使用したボルト締結体に軸直角方向繰返
し変位を与えた際のボルト軸力低下を測定する.他方,三次元 FEM 解析を用いて軸直角方向繰返し変位を受け
るボルト締結体のゆるみを定量的に解明することを目的としている.そのため本研究では,ゆるみの解明に加え
て,座面の傾きと表面粗さがゆるみに及ぼす影響を明らかにするために,次の 2 つのケースで評価を行った.1)
被締付け物の座面の平行度の影響を考慮し,座面が軸直角方向に対して 0~3°程度傾いた被締付け物をボルト・
ナットで締結したボルト締結体に軸直角方向繰返し変位を与えた状態,2)表面粗さなどにより実験の座面及びね
じ面が完全には接触していないと仮定して,座面及びねじ面の接触面積の割合を全接触面積の 33~66%と変化さ
せた状態.得られた結果を実験値と比較・検討し,ゆるみの定量的検討を行う.
2. Junker 式ゆるみ試験
Junker 式ゆるみ試験機を用いて,ボルト締結体に軸直角方向繰返し変位を与えたときのボルトの軸力低下を測
定する.Junker 式ゆるみ試験によるゆるみ実験は山本・賀勢(2)(3)らによってすでに行われているが,後に行う FEM
解析結果との比較のためにゆるみ試験を行う.図 1(a)は本実験で使用した Junker 式ゆるみ試験機の写真を,図 1(b)
は概要図を示す.この試験機は参考文献(1)(2)を参照し製作されたものである.標準六角ナットを装着後,可動板(被
締付け物)により軸直角方向繰返し変位を与える.予めボルト軸部に貼りつけたひずみゲージによりボルト軸力の
低下量を測定する.ボルトとナットの呼び径は M10×1.5 であり,材質は機械構造用炭素鋼(強度区分は 4.8)であ
る.また,締付け長さ(ボルト首下-ナット座面間距離)lf は 20mm としている.
本試験では,初期ボルト軸力 Ff を 5.0,9.0,及び 12.5kN とした.これらの初期ボルト軸力 Ff はボルトの降伏
応力(320MPa)の 30,50,及び 70%に相当する.本実験は従来の研究(1)(2)を参考に行っているため接触面のなじみ
を除去する必要がある.最初に,ボルト頭部とナットの座面のなじみを除去するために,初期ボルト軸力 Ff が
5.0kN になるまでボルトを締付け,その後初期ボルト軸力 Ff をゼロにする.この締付け・ゆるめ手順を 5 回繰返
し,ボルト締結体を上述の初期ボルト軸力 Ff で締付ける.Junker 式ゆるみ試験(1),(2)において,軸直角方向変位 S
は S=±0.35mm とし,軸直角方向変位の繰返し回数 N は N=500 回とする.本試験ではねじ面及び座面は二硫化モ
リブデン(MoS2)を用いて潤滑している.
Dial gauge
Transverse repeated displacements in the y-direction
Load cell
Movable plate
Bolt-Nut lf Movable plate
Bearing z
surface plate
Steel ball
Constraint in the x and
Fixed rig
y z-directions
Fixed plate
x Constraint in the x
Bolt preload
and y-directions
Transverse displacement (S=±0.35mm)
Fig.2 FEM model for loosening of the joint with hexagon nut
(a) Photograph (b) Schematic view (1) (2)
Fig.1 Junker’s type loosening test machine
3. 有権要素解析
3・1 軸直角方向繰返し変位を受けるボルト締結体のゆるみ機構
図 2 はゆるみを定量的に調べるための軸直角方向繰返し変位を受けるボルト締結体の解析モデルを示す.図中
に示される座標軸(x,y,z)を用いる.解析モデルは JIS 規格に規定されている標準六角ナットとボルト及び可動板で
構成される.ボルトとナットの呼び径は M10 であり,可動板の穴径は 12mm,長さは縦 300mm,横 300mm,厚
さは 4mm である.ボルトとナットの縦弾性係数は 189GPa,可動板の縦弾性係数は 206GPa,ポアソン比は全て
0.3 とし,座面及びねじ面の摩擦係数は 0.1 とする.解析には三次元六面体 8 節点要素と接触要素を使用し,接触
アルゴリズムはペナルティー法を採用し,ナット座面-可動板間とねじ山間に接触要素を定義している.ボルト
は,振動板下 20mm のボルト軸断面全域の x 方向及び y 方向変位を拘束した.なお本 3D モデル化にあたっては
文献(13)を参考にしている.解析モデルの節点数及び要素数は,それぞれ 15,965 及び 22,240 としている.
まず,可動板底面の z 方向と x 方向を拘束し,ボルト軸下端面に z 方向の強制変位を与えることによりボルト
軸力を発生させる.初期ボルト軸力 Ff は Ff =5.0kN とし,その後,可動板の側面の y 方向に軸直角方向変位(S=±
0.35mm)を 10 サイクル与える.なお使用した有限要素解析ソフトは ANSYS である.
3・2 被締付け物の表面の平行度がボルト締結体のゆるみに及ぼす影響
図 3 は解析モデルを示す.θy は座標軸 y に対しての可動板(被締付け物)の傾きを示し,θx は座標軸 x に対して
の被締付け物の傾きを示す.解析モデルの節点数及び要素数は 3.1 と同様,15,965 及び 22,240 としている.可動
板(被締付け物)の平行度を変化させるために,ナット座面と可動板の間に相対的な傾きを与える(θy= 0,0.1,1.0,2.0
及び 3.0,θx=3.0[degree]).その後,初期ボルト軸力 Ff=12.5kN に相当する強制変位を与え,可動板の側面の y
方向に軸直角方向変位(S=±0.35mm)を 10 サイクル与える.
この場合も可動板(被締付け物)底面の x 方向を拘束し,
ボルト軸下端面に z 方向の強制変位を与えることによりボルト軸力を発生させる.
3・3 座面及びねじ面の接触面積の割合がボルト締結体のゆるみに及ぼす影響
図 4 は接触面の状態を示す.各接触面積(ねじ面及び座面)の割合を全表面積の 33~66%と変化させる.その他の
条件は上述の解析モデルと基本的に同様であるが不完全ねじ部を考慮している.なお,解析モデルの節点数及び
要素数は,それぞれ 32,430 及び 50,316 としている.FEM 解析方法において,接触を定義する際に図4に示す通
りの要素のみ有効にし、接触面積の割合を減少させる.その後は 3.1 と同様に,初期ボルト軸力 Ff=12.5kN に相
当する強制変位を作用させ,可動板の側面の y 方向に軸直角方向変位(S=±0.35mm)を 10 サイクル与える.
x
y
θx z z
θy
θx θy
x y
Fig.3 FEM model for loosening the joint with hexagon nut
(the case where the movable plate is slant ) Fig.4 FEM model for the contact surface in the joint
4. 実験結果及び解析結果との比較検討
4・1 試験結果
図 5 は Junker 式ゆるみ試験機の試験結果を示す.縦軸はボルト軸力を示し,横軸は軸直角方向変位の繰
返し回数 N を示している.図 5 は一例として初期ボルト軸力 Ff=5.0kN の場合を示しており,繰返し回数 N
が増加するにつれてボルト軸力が低下していることが示されている.Ff=9.0kN,Ff=12.5kN の場合の実験も行
い,いずれの場合も,ボルト軸力は繰返し回数 N がより少ない初期段階で大きく低下し,その後緩やかに
ボルト軸力が低下していることが観察されている.これは初期には「非回転ゆるみ」と「回転ゆるみ」が同
時に生じており,座面のへたりやなじみが安定した後, 「回転ゆるみ」のみでボルト軸力が低下していると
考えられる.いずれの Ff の場合に対しても繰返し数 N は約 300 回でボルト軸力はほぼゼロになる結果が得
られている.
6 5
5
4 4
Bolt load [KN]
3
3
2 Exp
Num
1 2
0
–1 1
0 100 200 300 400 500 0 5 10
Number Number of repeated cycles
Numberofofrepeated cycles
repeated cycles N Number of repeated cycles N
Fig.5 Results of loosening test Fig.6 Change in the bolt load (Ff=5kN)
using Junker’s machine (Ff=5.0kN)
4・3 ゆるみ機構の検討
図 7 は 1 サイクル当たりのおねじ(黒色),めねじ(赤色),ナット座面(緑色)の回転角およびゆるみ回転量(青色)
を示す.回転角は各部分の全節点の平均値を示している.回転角の値は、正の場合は左回転(図 7 中の+方向)して
いること,負の場合は右回転(図 7 中の-方向)していることを意味している.ナット(めねじ)は左回りに回転する
とゆるみ,ボルト(おねじ)は右回りに回転するとゆるむ.ゆるみ回転量とは,めねじとおねじの周方向の相対回
転量とする.図 2 におけるモデルで中央位置(S=0)から右へ少し移動(+y 方向)したとき,おねじ(黒色の実線)は右
回転し,めねじ(赤色の破線)は左回転するので回転ゆるみ(青色の破線)が大きく生じる(図 7 中の①の左部分).そ
の後すぐにおねじは左回転し,同時にめねじも左回転する.次に右死点(S=+0.35mm)から左死点(S=-0.35mm)に
向かう際おねじは右回転し,めねじも相対的にわずかに右回転する.その回転角差により回転ゆるみ(青色)が生
じる.この挙動の繰返しにより,徐々にゆるみが生じると考えられる.図 7 により,ボルト-ナットの回転角差で
ある回転ゆるみ現象を説明することができ,この現象の説明のため図7中の①~⑧に区間分けする.青色の破線
(おねじとめねじの相対回転量)のゆるみ回転量をみると,区間①,③,⑦でより大きく回転ゆるみが進行しているこ
とが示されている.
350
rad] rad]
300
–6
250
[×10
200
-6
angle [×10
1
ELEMENTS
+
TYPE NUM
FEB 22 2011
01:17:03
150
Rotationalangle
‐
Rotational
50
0
–50 ① ② ③ ④ ⑤ ⑥ ⑦ ⑧
z
–100
0 0.35 0 –0.35 0
y
Displacement S [mm]
Displacement S [mm]
Rotational angle of the male
Rotational angle of the female
Rotational angle of the bearing surface
Loosening rotational angle Fig.9 Stress distributionσz in z - direction
Fig.7 Changes of the rotations of engaged screw thread (S=+0.35)
1
NODAL SOLUTION
軸直角方向繰返し変位を受けるボルト締結体のゆるみについて 1449
STEP=2
SUB =1
MX
TIME=2
Table 1 Each stress value at high compression point
UX (AVG) FEB 22 2011
MN
Stress Compression RSYS=0 01:54:34
componet stress value [MPa] DMX =.021735
SMN =-.00321 Z
σr 20
SMX =.002642 Y
σθ 40 X
z
σ z 150 MN
θ- direction y
σθ x
MN
x x
σz Z Y
MX
z - direction X
MX
Fig.10 The load directions on the female thread
at high compression point
(a) Top view (b) Bottom view
-.00321 -.500E-03 0 .500E-03 .00321
-.100E-02 -.500E-05 .500E-05 .100E-02
-.00321
-0.00321 -.500E-03
-0.5E-3 00 .500E-03
0.5E-3 .00321
0.00321
-.100E-02
-0.1E-2 -.500E-05
-0.5E-5 .500E-05
0.5E-5 .100E-02
0.1E-2 [mm]
Fig.12 Displacement in the x -directional (S=+0.35)
図 13 はボルト初期締付け時(S=0)から右死点(S=+0.35mm)を経由して左死点(S=-0.35mm)に移行する際のはめ
合いねじ部(めねじ部表面(図 11 に示した部分と同様))のすべり量分布を示す.すべり量とは、物体間の相対的な
変位量を意味しており、暖色(赤色,橙色)になるほど変位量が多いことを示している.図 13(a)~(c)のすべり量分
布に対して右死点(S=+0.35mm)から左死点(S=-0.35mm)に移行する際((d)~(j))のすべり量分布において,徐々に赤
色(すべり量:大)が増加していることが認められる.これよりナット座面側から徐々にすべりが生じていること
が分かる.これは図 8 に示すように曲げられた状態により生じた局所的な圧縮応力が徐々に減少し,摩擦力より
弾性ねじれの復元力の方が大きくなった為,すべりが生じたと考えられる.めねじのすべり量を検討すると,接
触状態と類似しているが,より多くのすべり(青色以外)が示されていると共に,相対的にはめ合いねじ部のほぼ
全接触面ですべりが生じていること(青色が減少していること)が示されている.
図 14 は右死点(S=+0.35mm)から左死点(S=-0.35mm)に移行する際のはめ合いねじ部(めねじ部表面(図 11 に示し
た部分と同様))の摩擦応力分布を示す.摩擦応力は接触面において摩擦の影響によって生じる応力のことを意味
する(摩擦応力=摩擦係数×垂直接触応力).ねじ部はらせん形状なので座標の定義が困難である.このため摩擦
応力を用いて検討する.
これも暖色(赤色)になるほど摩擦応力が大きくなっていることを示している.
図 14 より,
局所圧縮部(図 14(a)において上部右端,図 14(g)において上部左端)では摩擦応力が大きくなっていることが示され
ている.また,左右死点の移行により,局所圧縮部における摩擦応力も増減を繰返すことが示されている.
Z
z Y
(j) S=-0.35 (i) S=-0.2 (h) S=-0.05 (g) S=0 (f) S=0.05
X
y
x 0 .100E-02 .0012 .0014 .01
.500E-03 .0011 .0013 .0015 [mm]
Fig.13 Landslide displacement distributions in engaged female threads
1
STEP=2
SUB =1
TIME=2
CONTSTOT (AVG)
RSYS=1
DMX =.021298
SMX =142.344
MN
MX
Z
MX
Y
0
40
X
(a) S=0.35
42
44
46
48
50
60
120
(b) S=0.2 (c) S=0.05 (d) S=0
z Z
Y
y (g) S=-0.35 X (f) S=-0.2 (e) S=-0.05
x
0 42 46 50 120
40 44 48 60 [MPa]
Fig.14 Friction stress distributions in engaged female threads
4・4 被締結体に傾きが生じている場合の比較検討
図 15 は図 3 に示すように被締結体に傾きが生じている場合のボルト締結体に軸直角方向繰返し変位回数 N を 5
~10 サイクル与えたときのボルト軸力の変化を示している.縦軸は各サイクルでのボルト軸力 F を初期ボルト軸
力 Ff で無次元化した値を,横軸には繰返し数 N を示している.図 15(a)は傾き角がより小さい場合(0~1°),図
15(b)は傾き角がより大きい場合(2°~3°)の結果である.明らかに,ボルトが曲げられ締付けられたボルトの軸
力の方が,軸力低下率 F/Ff が大きいことが示されている.これは,ナットの左側部が可動板との間で片当たりが
生じているため,可動板が変位するときにナットが可動板から受ける力が大きいためである.さらに及びナット
座面右側と可動板との摩擦力が小さくなり座面がよりすべり易くなったことが原因である.比較検討の結果,被
締付け物(可動板)の表面精度が悪く傾きが生じている場合の方がゆるみ易くなる.実際の被締付け物は寸法誤差
により微小な傾きが生じていると推測される.このためボルト軸力の低下率が大きくなると考えられる.
EXP
1 θy =2.0°
θy =3.0°
1 θx =3.0°
0.9
F/Ff
F/Ff
0.9
F/Ff
F/Ff
0.8
EXP
θy =0° 0.8
θy =0.1°
0.7 θy =1.0°
0 2 4 6 0.7
0 5 10
Number
Number of cycles
of repeated cyclesNN Number of cycles
Number of repeated cycles NN
(a) Small incline (0~1°) (b) Large incline (2°~3°)
Fig.15 Effect of flatness error on reduction in axial bolt force
4・5 接触面積が減少している場合の比較検討
図 16 は図 4 に示すように接触面積が減少している場合のボルト締結体に軸直角方向繰返し変位 N を 10 サイク
ル与えたときのボルト軸力の変化を示す.これも縦軸は各サイクルでのボルト軸力 F を初期ボルト軸力 Ff で無次
元化した値を,横軸には繰返し回数 N を示している.赤色の線は実験結果を示し,◆は接触面積が 33%,●は
50%,▲は 66%のときの結果を示す.この結果から,接触面積の割合が減少すると,解析結果と実験値との差異
はより小さくなる.これは,接触面積が減少したことにより接触面間の摩擦に変化が生じ,すべり易くなったこ
とが原因と考えられる.比較検討の結果,接触面がより粗く接触面積の割合が減少している場合の方がゆるみ易
くなるとことが分かる.実際の実接触面積は不明であるが,上述したように接触面積を考慮することによりボル
ト軸力低下(ゆるみ)が定量的にも実験結果とかなり良く一致することが示されている.
図 17 は被締付け物の傾きθy=0.1°とし,接触面積を 50%とした場合のボルト軸力の低下量を示す.両因子を
考慮する FEM 解析結果(青色)と実験結果(黒色)はかなり良く一致していることが示されている.
EXP
EXP
NUM( 0°& 0%)
NUM(66%)
NUM(0.1°& 50%)
1 NUM(50%) 1
NUM(33%)
F/Ff
0.9 0.9
F/Ff
F/Ff
F/Ff
0.8 0.8
0.7 0.7
0 5 10 0 5 10
Number of cycles N Number of cycles N
Number of repeated cycles N Number of repeated cycles N
Fig.16 Effect of contact surface ratio Fig.17 Effect of flatness error and contact surface ratio on
on reduction in axial bolt force reduction in axial bolt force
5. 結 論
本研究は軸直角方向繰返し変位を受けるボルト締結体のゆるみに関してゆるみ量の定量的推定が十分出来てい
ないことを指摘し,座面の傾き及び表面接触状態を考慮した FEM 解析とゆるみ測定実験の両面より検討し,以
下の結果が得られた.
1) 可動板(被締付け物)の変位が S=0 からわずかに右に移動するときにおねじが右回転し,めねじが左回転する
ことを示した.
2) 可動板が右死点(S=+0.35mm)及び左死点(S=-0.35mm)から移動すると,ねじのゆるみ回転が増大することを
示した.
3) 被締付け物の平面度がボルト締結体のゆるみに及ぼす影響を検討し,平行度θy=0 に比べて平行度θy が 0~
3°でかなりの軸力低下を生じることが示された.
4) 接触面の粗さより,接触面積が減少したボルト締結体はゆるみが生じ易いことを示した.さらに接触面積の
割合が減少するほどボルト軸力の低下量の計算値は実験値とかなり良く一致することを示した.
5) 傾きと接触面積を考慮したゆるみによる軸力低下に関する FEM 解析結果は実験結果とかなりよく一致する
ことを示し,FEM 解析により定量的にもゆるみを推定することが可能であることを示した.
文 献