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1

00:00:02,528 --> 00:00:16,228


・~

2
00:00:18,610 --> 00:00:21,513
お待ち遠さま。
(印南)お~! さあ 飲め。

3
00:00:21,513 --> 00:00:25,951
もっと飲め。
(橋本)はい。
金の心配は いらんぞ。

4
00:00:25,951 --> 00:00:30,289
国許ならば いざ知らず
この江戸表にはな・

5
00:00:30,289 --> 00:00:33,959
打ち出の小槌が
転がっておるのよ。

6
00:00:33,959 --> 00:00:36,862
振れば振るだけ 金が出る。

7
00:00:36,862 --> 00:00:40,299
極楽 極楽という訳だ。

8
00:00:40,299 --> 00:00:45,170
おお~ 羨ましいなぁ。
どういう事ですか? 一体。

9
00:00:45,170 --> 00:00:48,640
私にも教えて下さいよ。
まあ そう慌てるな。

10
00:00:48,640 --> 00:00:53,312
もう一軒 行こう! もう一軒!
いや 印南さん。 私は もう…。

11
00:00:53,312 --> 00:00:58,183
何を言うか これしきの酒で…。
斗酒をも辞さぬ 心構えがなくば・

12
00:00:58,183 --> 00:01:05,883
天下は取れんぞ 天下は。
アハッハハハ! ハッハハハ!

13
00:01:13,932 --> 00:01:16,602
誰だ? 貴様。

14
00:01:16,602 --> 00:01:21,602
遺恨か? 物取りか?
名を名乗れ!

15
00:01:23,942 --> 00:01:26,845
貴様… 鶴木!

16
00:01:26,845 --> 00:01:28,845
あ…。

17
00:01:39,491 --> 00:01:41,960
印南さん?

18
00:01:41,960 --> 00:01:44,630
印南さん 印南さん!

19
00:01:44,630 --> 00:01:46,930
あ…。

20
00:01:54,306 --> 00:01:56,241
下がれ 下がれ!
(野次馬)何だよ?

21
00:01:56,241 --> 00:02:00,579
ただ一太刀。 すご腕だな。
身震いがするぜ。

22
00:02:00,579 --> 00:02:04,449
(鳥飼)所持金は そのままだ。
[外:117BACAEB67E3508D23A650B98F3C143]斬りや物取りの
類いではないな。

23
00:02:04,449 --> 00:02:07,252
そらそうだろう。
ただの金目当てなら・
24
00:02:07,252 --> 00:02:09,187
こんな面倒な相手は選ばねえ。

25
00:02:09,187 --> 00:02:12,591
どういうこって?
身なりの立派な侍じゃねえか。

26
00:02:12,591 --> 00:02:16,928
武芸のたしなみもあるはずだ。
[外:117BACAEB67E3508D23A650B98F3C143]斬りってやつは・

27
00:02:16,928 --> 00:02:19,598
金がありそうで
弱え 町人を狙うもんだぜ。

28
00:02:19,598 --> 00:02:21,533
(直吉)なぁる…。

29
00:02:21,533 --> 00:02:26,471
遺恨か あるいは物取りとしても
目当ては金以外…。
30
00:02:26,471 --> 00:02:29,941
いずれにしても 何か裏があるぜ。
へい!

31
00:02:29,941 --> 00:02:34,279
下がれ 下がれ!
道を開けろ!
下がらんか! どけ!

32
00:02:34,279 --> 00:02:39,951
おいおい おいおい!
何でえ? お前さんたちは。

33
00:02:39,951 --> 00:02:45,824
(村井)公儀・ご奏者番
堀井伯耆守 家中の者だ。

34
00:02:45,824 --> 00:02:50,295
何だと?
と申されますと このご遺骸は?
35
00:02:50,295 --> 00:02:53,965
さよう。 同じく家中の者。

36
00:02:53,965 --> 00:02:59,304
以後 下手人の探索方 一切
我が方で行う。

37
00:02:59,304 --> 00:03:03,909
早々に引き下がれ! それ!
はっ!

38
00:03:03,909 --> 00:03:08,580
おいおい ちょっと待て!
いくら 大名のご家中でも・

39
00:03:08,580 --> 00:03:11,249
こいつは ちっと
無法ってもんだぜ。

40
00:03:11,249 --> 00:03:14,152
ここは 城中でも藩邸でもねえ。
江戸の町なんだ。

41
00:03:14,152 --> 00:03:17,923
分かっている。
委細は追って知らせる。

42
00:03:17,923 --> 00:03:20,258
それで よかろう。
冗談じゃねえ!

43
00:03:20,258 --> 00:03:23,595
そんなもん 信用できるかい!
(鳥飼)神谷。

44
00:03:23,595 --> 00:03:26,264
貴公 名は?

45
00:03:26,264 --> 00:03:30,602
北町奉行所 定町回り同心
神谷玄次郎。

46
00:03:30,602 --> 00:03:32,537
覚えておこう。

47
00:03:32,537 --> 00:03:35,273
はっ!
おい ちょっと待て!

48
00:03:35,273 --> 00:03:39,144
旦那!
よしなよ 旦那。
おい!

49
00:03:39,144 --> 00:03:43,949
この件に関して
今後 一切 手出しは無用。

50
00:03:43,949 --> 00:03:48,820
町方風情の手を借りる事はない。
勝手にしろ!

51
00:03:48,820 --> 00:03:53,959
どうせ 侍同士の斬った張っただ。
こっちの知ったこっちゃねえ。

52
00:03:53,959 --> 00:03:58,630
何が 伯耆守だ。
何万石の大名だか知らねえが・

53
00:03:58,630 --> 00:04:05,237
所詮は田舎侍じゃねえか。 江戸の
町の事なんか 分かる訳がねえ。

54
00:04:05,237 --> 00:04:09,107
だからさ
今に 何とか言ってくるよ。

55
00:04:09,107 --> 00:04:12,577
「下手人の探索は やっぱり
私どもの手には負えません。・

56
00:04:12,577 --> 00:04:16,915
ご機嫌を直して どうぞ
お力をお貸し下さい」ってさ。
57
00:04:16,915 --> 00:04:20,252
バカ野郎! そんな甘え話が
あるもんか!

58
00:04:20,252 --> 00:04:23,922
第一 ヤツらにゃ 本気で
下手人を挙げようなんて気は・

59
00:04:23,922 --> 00:04:26,258
さらさら ねえんだ。

60
00:04:26,258 --> 00:04:30,595
ただただ お家が大事
侍の面目大事があるだけさ。

61
00:04:30,595 --> 00:04:32,531
へ~え。

62
00:04:32,531 --> 00:04:36,468
侍なんて そんなもんだ。
63
00:04:36,468 --> 00:04:38,470
あんただって 侍じゃないか。

64
00:04:38,470 --> 00:04:43,770
ああ 俺は侍だ。
侍の大嫌いな 侍なんだよ。

65
00:04:45,944 --> 00:04:49,614
おしのちゃん お銚子。
まだ飲むんですか?

66
00:04:49,614 --> 00:04:53,485
飲ましてあげて。 何だか
今日は すご~く荒れてんの。

67
00:04:53,485 --> 00:04:57,185
(勝蔵)たまにゃ
そういう時もあるんだよ。

68
00:04:59,291 --> 00:05:01,991
(橋本)ごめん。
69
00:05:06,097 --> 00:05:10,902
北町奉行所同心 神谷玄次郎殿が
こちらに お見えだと聞いて・

70
00:05:10,902 --> 00:05:13,805
伺ったのだが。
はい いらっしゃいますけれど。

71
00:05:13,805 --> 00:05:16,775
是非とも お会いして
お話ししたい儀がある。

72
00:05:16,775 --> 00:05:19,075
取り次いでくれぬか?

73
00:05:22,247 --> 00:05:25,584
一切 手を引けと言ったのは
そっちだぜ。

74
00:05:25,584 --> 00:05:32,257
だから 俺は手を引いた。
金輪際 動く気は ねえんだ。

75
00:05:32,257 --> 00:05:36,127
お怒りは 重々承知です。
そこを曲げて…。

76
00:05:36,127 --> 00:05:40,131
この件は
私たってのお願いなのです。

77
00:05:40,131 --> 00:05:44,269
お前さん一人の?
はい。

78
00:05:44,269 --> 00:05:48,607
お察しのとおり
印南数馬殿の死は・

79
00:05:48,607 --> 00:05:52,277
病死という事で
内々に済まされました。
80
00:05:52,277 --> 00:05:54,613
家中でも 名うての剣客が・

81
00:05:54,613 --> 00:05:57,282
[外:117BACAEB67E3508D23A650B98F3C143]斬り強盗の類い
の手に
かかったとあっては・

82
00:05:57,282 --> 00:06:03,088
お家の名折れ。 ひいては
殿のご威信にも関わる事と。

83
00:06:03,088 --> 00:06:05,891
しかしながら 私は・

84
00:06:05,891 --> 00:06:09,561
それでは 印南殿が
あまりにも ふびんと思い・

85
00:06:09,561 --> 00:06:14,232
こうして
恥を忍んで お手前に…。

86
00:06:14,232 --> 00:06:19,571
ふん!
そんなこったろうと思ったぜ。

87
00:06:19,571 --> 00:06:22,908
しかし お前さん
それほど 気にかけてんなら・

88
00:06:22,908 --> 00:06:24,843
どうして 手前で やらねえんだ?

89
00:06:24,843 --> 00:06:28,246
本来ならば
そうすべきかもしれませんが・

90
00:06:28,246 --> 00:06:33,118
私としても お家に背く訳には…。

91
00:06:33,118 --> 00:06:37,589
それに 私は この半月ほど前に
江戸詰になったばかり。

92
00:06:37,589 --> 00:06:42,260
江戸には不慣れです。

93
00:06:42,260 --> 00:06:49,935
あの晩も… 実は 印南殿に・

94
00:06:49,935 --> 00:06:53,605
江戸を案内してもろうた
帰りの事で…。

95
00:06:53,605 --> 00:06:58,905
何? それじゃ お前さん
殺しの時は そばに?

96
00:07:02,881 --> 00:07:08,753
あの折の くせ者の放つ
すさまじい剣気に・
97
00:07:08,753 --> 00:07:13,753
背筋も凍り 腰も抜けて…。

98
00:07:15,894 --> 00:07:19,230
橋本さんっていったか。
俺 あの一件は・

99
00:07:19,230 --> 00:07:22,133
ただの[外:117BACAEB67E3508D23A650B98F3C143]斬りじゃ
ねえ
訳ありと踏んだんだが・

100
00:07:22,133 --> 00:07:28,239
何か 手がかりになるような事は
なかったかい?
ございます。

101
00:07:28,239 --> 00:07:32,577
あの時 印南さんは
確か 下手人の名を…。

102
00:07:32,577 --> 00:07:34,877
[ 回想 ]
貴様… 鶴木!

103
00:07:36,915 --> 00:07:39,250
鶴木?
はい。
って事は やっぱり・

104
00:07:39,250 --> 00:07:41,920
顔見知りだったんだな。
彼の場合・

105
00:07:41,920 --> 00:07:45,790
14年ほど前にも
江戸詰でございました。

106
00:07:45,790 --> 00:07:50,929
ですから 恐らくは
その時分の知り合いかと。

107
00:07:50,929 --> 00:07:55,600
14年前?
それに もう一つ・

108
00:07:55,600 --> 00:08:00,271
印南さんは「この江戸には
打ち出の小槌がある。・

109
00:08:00,271 --> 00:08:04,142
振れば振るだけ金が出る」と。

110
00:08:04,142 --> 00:08:06,544
初めは 何の事やら
分かりませんでしたが・

111
00:08:06,544 --> 00:08:11,216
聞きただすうちに
何か 井筒屋とか申す・

112
00:08:11,216 --> 00:08:15,553
札差との つながりが
あるらしい事が分かりました。
113
00:08:15,553 --> 00:08:19,224
手がかりらしきものは
この2つです。

114
00:08:19,224 --> 00:08:24,095
しかし いずれにしても
この度の一件 火種は 14年前の・

115
00:08:24,095 --> 00:08:29,095
印南さんの江戸詰の折に
あるやに思われます。

116
00:08:34,572 --> 00:08:45,583
(戸をたたく音)

117
00:08:45,583 --> 00:08:48,253
(おさく)誰だい? こんな時分に。
誰だ?

118
00:08:48,253 --> 00:08:50,953
俺だ。 さっさと開けてくれ。
119
00:08:52,924 --> 00:08:54,859
おう 何だ 何だ? おい。

120
00:08:54,859 --> 00:08:57,262
「何だ」じゃないですよ。

121
00:08:57,262 --> 00:08:59,197
ああ びっくりした。

122
00:08:59,197 --> 00:09:03,497
泥棒かと思った。
戸をたたく泥棒があるもんか。

123
00:09:06,071 --> 00:09:09,207
痴話げんかでもして
追ん出されちゃったんですか?

124
00:09:09,207 --> 00:09:13,545
いや ちょいと大変な事に
なっちまってな。
え あの女と?

125
00:09:13,545 --> 00:09:18,245
うるさいな もう。
いいから とっとと寝てくれ。

126
00:09:27,092 --> 00:09:30,095
<父の日誌である。・

127
00:09:30,095 --> 00:09:34,232
母と妹 そして 後には・

128
00:09:34,232 --> 00:09:38,103
父までも死に追いやった
14年前の事件。・

129
00:09:38,103 --> 00:09:45,844
それは 蔵前の札差 井筒屋の手代
佐八殺しであった。・

130
00:09:45,844 --> 00:09:50,782
同心であった父 勝左衛門は
この一件が・

131
00:09:50,782 --> 00:09:55,253
井筒屋の内情と
深く関わりのあるものと見て・

132
00:09:55,253 --> 00:09:59,124
その内偵を推し進めていた。・

133
00:09:59,124 --> 00:10:03,928
母 ウノと 妹 邦江が・

134
00:10:03,928 --> 00:10:07,799
何者かの手によって
惨殺されたのは・

135
00:10:07,799 --> 00:10:11,269
その頃の事である。・

136
00:10:11,269 --> 00:10:14,939
斬り口は いずれも ただ一太刀。・

137
00:10:14,939 --> 00:10:19,611
下手人は相当の手練と思われた。・

138
00:10:19,611 --> 00:10:23,481
気落ちした勝左衛門は
やがて 病を得・

139
00:10:23,481 --> 00:10:28,481
2人の後を追うようにして
この世を去った>

140
00:10:31,956 --> 00:10:38,256
同じだ… 何もかも。

141
00:10:41,299 --> 00:10:44,202
<浅草 鳥越橋の周辺には・

142
00:10:44,202 --> 00:10:51,943
広壮な蔵宿が軒を連ね
これを「札差」と呼んだ。・

143
00:10:51,943 --> 00:10:58,650
「札差」とは いわば 幕府の
お蔵米の受け取り代理人である。・

144
00:10:58,650 --> 00:11:01,553
預かった米を区別するために・

145
00:11:01,553 --> 00:11:06,457
何々様と書いた札を
俵に刺しておく。・

146
00:11:06,457 --> 00:11:11,157
札差の呼称は そこから起こった>

147
00:11:12,931 --> 00:11:19,604
印南数馬様? さあ 存じませんな。

148
00:11:19,604 --> 00:11:22,941
一体どういうお方で
ございましょう?

149
00:11:22,941 --> 00:11:25,610
殺されたんだ。
そいつの口から・

150
00:11:25,610 --> 00:11:30,949
この井筒屋の名前が出てる。
打ち出の小槌だとな。

151
00:11:30,949 --> 00:11:34,819
知らねえはずは ねえだろう?
と申されましても 商売柄・

152
00:11:34,819 --> 00:11:38,823
お侍様との おつきあいは
多うございますからな。

153
00:11:38,823 --> 00:11:43,962
いちいち
ご家来衆のお名前までは。
154
00:11:43,962 --> 00:11:48,633
だがな こいつは
旗本や御家人じゃねえんだ。

155
00:11:48,633 --> 00:11:54,973
田舎大名の家来よ。 お前さんの
商いとは 縁がねえはずだぜ。

156
00:11:54,973 --> 00:11:58,643
それなら
なおさらの事でございます。

157
00:11:58,643 --> 00:12:03,248
何か 特別なおつきあいでも
ない限りは。

158
00:12:03,248 --> 00:12:06,150
特別なつきあいとは?
あ いやいや。

159
00:12:06,150 --> 00:12:10,121
近頃 世の中も
せちがらくなっておりますからな。

160
00:12:10,121 --> 00:12:15,827
お侍様方の暮らしも逼迫して
切米切符をカタにして・

161
00:12:15,827 --> 00:12:19,797
借金のご用立てをする事も
度々ございます。

162
00:12:19,797 --> 00:12:24,936
ところが これを
なかなか お返し下さらない。

163
00:12:24,936 --> 00:12:29,807
そこで こちらも ご浪人や
腕の立つ お侍様に・

164
00:12:29,807 --> 00:12:33,278
取り立てをお願いする事が
ございます。
165
00:12:33,278 --> 00:12:35,613
なるほどな。

166
00:12:35,613 --> 00:12:38,516
じゃあ 鶴木って侍も
その一人かい?

167
00:12:38,516 --> 00:12:42,954
鶴木?
印南を斬った男だよ。

168
00:12:42,954 --> 00:12:49,627
さあ? そのお名前も ちょっと。

169
00:12:49,627 --> 00:12:52,964
あれも知らねえ
これも知らねえか。

170
00:12:52,964 --> 00:12:57,835
だがな 14年前の佐八殺しの事は
覚えてるだろう?

171
00:12:57,835 --> 00:13:00,772
お前さんとこの雇い人だ。

172
00:13:00,772 --> 00:13:04,909
その一件を調べていた八丁堀の
女房と娘も・

173
00:13:04,909 --> 00:13:07,578
当時
何者かの手にかかって殺された。

174
00:13:07,578 --> 00:13:13,251
明らかに調べ封じだが
その時の死体の斬り口が・

175
00:13:13,251 --> 00:13:18,551
こたびの印南って侍の斬り口と
そっくり同じだったんだがな。

176
00:13:20,591 --> 00:13:24,929
佐八殺しの一件は
よ~く覚えております。

177
00:13:24,929 --> 00:13:29,267
しかし あれは 酔った上での
けんか沙汰という事で・

178
00:13:29,267 --> 00:13:31,936
お調べは ついたはず。

179
00:13:31,936 --> 00:13:34,605
八丁堀の方は どうでえ?

180
00:13:34,605 --> 00:13:38,943
それこそ 全く
当方のあずかり知らぬ事。

181
00:13:38,943 --> 00:13:41,846
斬り口がどうのと
おっしゃいますが・
182
00:13:41,846 --> 00:13:46,818
印南様というお方の事も
存じ上げぬと申したはずです。

183
00:13:46,818 --> 00:13:52,957
そのお方の口から
私どもの名前が出たなどと・

184
00:13:52,957 --> 00:13:57,829
一体 どこの誰が
申しましたのか。

185
00:13:57,829 --> 00:14:03,234
全くの言いがかりとしか
思えませぬな。

186
00:14:03,234 --> 00:14:07,105
手前 相当な狸だな。
え…。

187
00:14:07,105 --> 00:14:11,576
まあ いい。 今のうちだ。
言いてえ事を言ってやがれ。

188
00:14:11,576 --> 00:14:15,246
そんな… 私どもは何も。

189
00:14:15,246 --> 00:14:19,117
うるせえや!
そのぐれえの言い訳で・

190
00:14:19,117 --> 00:14:21,919
この俺が すごすご引っ込むとでも
思ってんのか?

191
00:14:21,919 --> 00:14:27,258
この店にゃ 必ず
何かドス黒い裏があるんだ。

192
00:14:27,258 --> 00:14:33,558
そのうち 化けの皮をひんむいて
狸汁にしてやるぜ。
193
00:14:35,600 --> 00:14:37,600
邪魔したな。

194
00:15:03,227 --> 00:15:05,927
(鶴木)俺だ。

195
00:15:40,131 --> 00:15:43,431
(お寿賀)右膳様。

196
00:16:03,888 --> 00:16:08,559
・(水野)お寿賀… 水…。

197
00:16:08,559 --> 00:16:11,859
(せきこみ)

198
00:16:30,581 --> 00:16:37,581
久しぶりに 亭主の顔を見た気分は
どうじゃ?

199
00:16:39,590 --> 00:16:43,461
うん? お寿賀。

200
00:16:43,461 --> 00:16:47,461
胸が騒ぐか? うん?

201
00:16:50,234 --> 00:16:52,934
まだ 恋しいか?

202
00:16:54,939 --> 00:17:00,278
ああ…。

203
00:17:00,278 --> 00:17:03,278
お寿賀… お寿賀。

204
00:17:10,087 --> 00:17:13,224
一体 何を考えておるのじゃ!?
何を!?

205
00:17:13,224 --> 00:17:19,564
貴公の無念は分からんではないが
14年前の あの一件のお調べは・
206
00:17:19,564 --> 00:17:22,900
上の方からの厳命で
中止と決まった。

207
00:17:22,900 --> 00:17:25,570
再度 触れてはならん事じゃ。

208
00:17:25,570 --> 00:17:27,905
中止をご下命したのは
どなたですか?

209
00:17:27,905 --> 00:17:31,576
お奉行だ。 我々は不満じゃった。

210
00:17:31,576 --> 00:17:36,247
しかし 奉行命令とあれば
かしこまらん訳には いかん。

211
00:17:36,247 --> 00:17:40,585
町奉行を黙らせるとなると
かなりの大物ですな。

212
00:17:40,585 --> 00:17:45,923
神谷! それを突き止めて
どうするつもりだ?

213
00:17:45,923 --> 00:17:53,264
貴公に何ができる?
いや… このわしにもだ。

214
00:17:53,264 --> 00:17:58,936
嫌な言葉だが「長い物には
巻かれろ」と言うではないか。

215
00:17:58,936 --> 00:18:04,542
印南を斬った男
私の母と妹を斬った男の名前は・

216
00:18:04,542 --> 00:18:08,879
分かっております。
その男を突き詰めれば・
217
00:18:08,879 --> 00:18:12,216
背後にある 黒い霧の正体も
つかめましょう。

218
00:18:12,216 --> 00:18:15,886
神谷…。
ご忠告は ありがたく
頂戴致しますが・

219
00:18:15,886 --> 00:18:20,224
私は 力の及ぶ限り
やってみるつもりです。

220
00:18:20,224 --> 00:18:26,224
亡き母と妹 父上のために。

221
00:18:29,567 --> 00:18:32,470
(お鷹)髪油をお持ちしました。
(おみち)そこ 置いといて。

222
00:18:32,470 --> 00:18:37,241
子細は分かりやした。
あっしも 若え時分には・

223
00:18:37,241 --> 00:18:40,144
旦那のお父上には 随分と
お世話になりやした。

224
00:18:40,144 --> 00:18:45,583
お力にならさして頂きやす。
しかし 雲をつかむような話だぞ。

225
00:18:45,583 --> 00:18:49,920
な~に 鶴木って名前さえ
分かってりゃ。 あっしにゃ・

226
00:18:49,920 --> 00:18:53,257
ふだんから 小遣い はたいて
飼いならしてる下引が・

227
00:18:53,257 --> 00:18:56,927
20人と おりやすからね。
そいつら使って・
228
00:18:56,927 --> 00:19:00,531
江戸中の凶状持から無宿人まで
調べ上げりゃ・

229
00:19:00,531 --> 00:19:03,434
必ず どっかで
引っ掛かってきやすよ。

230
00:19:03,434 --> 00:19:05,403
頼もしいな。
ヘヘヘッ。

231
00:19:05,403 --> 00:19:11,876
だが 構えて無理はするな。
相手は侍で 相当強えんだ。

232
00:19:11,876 --> 00:19:15,212
分かっておりやす。
尻尾をつかんだら・

233
00:19:15,212 --> 00:19:18,549
真っ先に旦那のところへ
ご報告に参上致しやす。

234
00:19:18,549 --> 00:19:21,886
さあ 旦那 お待たせ致しました。

235
00:19:21,886 --> 00:19:25,556
バカ! 旦那は 髪をあたりに
見えてるんじゃねえや。

236
00:19:25,556 --> 00:19:29,256
あ~ら!
だって 随分 伸びてるから。

237
00:19:39,570 --> 00:19:43,908
あら お前さん。 その辺で
橋本様に会わなかった?
橋本?

238
00:19:43,908 --> 00:19:48,245
堀井家のか?
ええ この間 見えた。

239
00:19:48,245 --> 00:19:50,581
おしのちゃん!
おしのちゃん あれを。

240
00:19:50,581 --> 00:19:52,516
(おしの)はい。

241
00:19:52,516 --> 00:19:54,919
是非とも お会いして
話す事があるとか言って・

242
00:19:54,919 --> 00:19:57,254
一刻ほども お待ちに
なってたんだけど・

243
00:19:57,254 --> 00:19:59,924
つい今し方。
おかみさん はい。

244
00:19:59,924 --> 00:20:04,261
ありがとう。
これを神谷様にって。

245
00:20:04,261 --> 00:20:06,561
ん?

246
00:20:13,938 --> 00:20:17,808
今 帰ったばかりなんだな?
ええ。

247
00:20:17,808 --> 00:20:19,808
ちょっと行ってくる。

248
00:20:25,950 --> 00:20:35,292
・~

249
00:20:35,292 --> 00:20:38,963
ちょいと開けてくんな。

250
00:20:38,963 --> 00:20:41,632
何があったんだ?
へえ。 人が斬られたんで。

251
00:20:41,632 --> 00:20:48,305
このお屋敷のお侍らしいですぜ。
あ~ くわばら くわばら。

252
00:20:48,305 --> 00:20:51,976
斬られたのは橋本さんだな?
言えよ! そうなんだな?

253
00:20:51,976 --> 00:20:56,647
町方の者に答える必要はない。
斬り口は どうだ?

254
00:20:56,647 --> 00:21:00,317
一太刀か?
えっ? こたびも そうか?

255
00:21:00,317 --> 00:21:02,586
うるさい。
256
00:21:02,586 --> 00:21:22,286
・~

257
00:21:31,615 --> 00:21:35,953
殺されてたぜ。
えっ?

258
00:21:35,953 --> 00:21:40,653
酒でも飲まなきゃ やりきれねえ。
支度してくれ。

259
00:22:37,281 --> 00:22:39,981
これが どうしたってんだ?

260
00:22:47,925 --> 00:22:51,295
(物音)

261
00:22:51,295 --> 00:23:06,777
・~

262
00:23:06,777 --> 00:23:08,779
鶴木か?

263
00:23:08,779 --> 00:23:21,258
・~

264
00:23:21,258 --> 00:23:23,258
(割れる音)
来るな! 引っ込んでろ!

265
00:23:25,129 --> 00:23:27,429
うっ…。
お津世!

266
00:23:29,600 --> 00:23:33,270
女 どけ。

267
00:23:33,270 --> 00:23:37,608
この人 斬るなら 私も一緒に!

268
00:23:37,608 --> 00:23:39,908
よせ!

269
00:23:59,296 --> 00:24:01,596
(足音)

270
00:24:08,906 --> 00:24:11,809
鶴木右膳?
へい。

271
00:24:11,809 --> 00:24:15,809
井筒屋の用心棒だって話ですぜ。

272
00:24:17,915 --> 00:24:21,585
札差って商えにゃ 危険が
つきもんでござんすからね・

273
00:24:21,585 --> 00:24:24,488
似たような食い詰め浪人を
雇ってる店は た~んとある。

274
00:24:24,488 --> 00:24:27,257
その浪人連中から
聞き込んだんですぜ。

275
00:24:27,257 --> 00:24:31,128
どういう男なんだ?
駆け落ち者らしゅうございやす。

276
00:24:31,128 --> 00:24:33,130
駆け落ち?
へい。

277
00:24:33,130 --> 00:24:38,268
山陰の ある大名家から
手に手を取って 江戸へ逃げた。

278
00:24:38,268 --> 00:24:41,605
ところが
暮らしは ままならねえ。

279
00:24:41,605 --> 00:24:46,276
まあ あの 剣一筋の
家柄だったそうですけどね・
280
00:24:46,276 --> 00:24:50,147
そんなものは この太平の世の中
屁の突っ張りにもなりゃしねえ。

281
00:24:50,147 --> 00:24:54,151
井筒屋の用心棒になったのは
その頃の事でござんしょう。

282
00:24:54,151 --> 00:24:58,856
だが 問題は その女だ。
な~に これが・

283
00:24:58,856 --> 00:25:02,559
おたふくだったら どうって事に
ならなかったんだが・

284
00:25:02,559 --> 00:25:06,430
一丁前の侍が
駆け落ちをしようってほどの・

285
00:25:06,430 --> 00:25:09,233
べっぴんでございますからね。

286
00:25:09,233 --> 00:25:12,903
借金で
がんじがらめにされたあげく…。

287
00:25:12,903 --> 00:25:17,241
井筒屋に取り上げられたのか?
へえ。

288
00:25:17,241 --> 00:25:23,113
井筒屋は その女を あるお方に
献上したんだそうですぜ。

289
00:25:23,113 --> 00:25:26,917
あるお方?
これが誰だか分かんねえんだが・

290
00:25:26,917 --> 00:25:33,590
多分 上の方の… 井筒屋と裏で
つるんで 悪さをしてるヤツ。
291
00:25:33,590 --> 00:25:38,262
一件の黒幕でござんしょう。

292
00:25:38,262 --> 00:25:42,132
そんな目に遭っておきながら
あの鶴木っていうヤツは・

293
00:25:42,132 --> 00:25:45,602
どうして 今でも あの連中と
つるんでるんだ?

294
00:25:45,602 --> 00:25:51,275
さあ? どうしてなんだか
その辺の気持ちはね。

295
00:25:51,275 --> 00:25:56,613
ただ 旦那のお袋さんと妹さん
2人の女を・

296
00:25:56,613 --> 00:26:00,884
平気で 手にかけた辺りを見ると
女についちゃ・

297
00:26:00,884 --> 00:26:05,556
何か わだかまるものを
持ってるのかもしれませんねえ。

298
00:26:05,556 --> 00:26:10,894
しかし あの男
お津世は斬らなかった。

299
00:26:10,894 --> 00:26:15,566
銀蔵。 住まいの調べは
ついてるな?
へい。

300
00:26:15,566 --> 00:26:30,566
・~

301
00:26:32,916 --> 00:26:35,216
邪魔するぜ。
302
00:26:38,789 --> 00:26:41,089
刀を置きな。

303
00:26:43,260 --> 00:26:46,560
斬られりゃ痛えからな。

304
00:26:51,602 --> 00:26:54,902
何のまねだ?
話をしに来た。

305
00:26:57,274 --> 00:26:59,574
まあ 飲め。

306
00:27:03,547 --> 00:27:07,417
心配するな。
俺は お前さんを・

307
00:27:07,417 --> 00:27:09,419
なんとかしようって訳じゃ
ねえんだ。
308
00:27:09,419 --> 00:27:14,191
俺のねらいは
お前さんの後ろにいるヤツだ。

309
00:27:14,191 --> 00:27:16,560
そいつの正体が
分からねえ限りは・

310
00:27:16,560 --> 00:27:21,231
お前さん一人を
召し捕ったところで始まらねえ。

311
00:27:21,231 --> 00:27:27,905
なるほどな。 それで 俺に
何の話がある?

312
00:27:27,905 --> 00:27:33,243
回りくどい事は嫌えなんだ。
ずばり言ってくれねえか?

313
00:27:33,243 --> 00:27:37,581
お前さんの後ろにいるヤツの
名前をよ。

314
00:27:37,581 --> 00:27:43,453
何をバカな。
なぜ 俺が そのような…。

315
00:27:43,453 --> 00:27:45,923
そうかい?

316
00:27:45,923 --> 00:27:49,793
俺は お前さんだからこそ
しゃべってくれると・

317
00:27:49,793 --> 00:27:52,796
踏んだんだがな。
なぜだ?

318
00:27:52,796 --> 00:27:56,567
ほれた女をとられたんだろ?

319
00:27:56,567 --> 00:27:59,937
山陰のある大名家。

320
00:27:59,937 --> 00:28:05,542
恐らくは お前さんが斬った
印南と同じ堀井家だろう。

321
00:28:05,542 --> 00:28:09,413
そこから 手に手を取って
逃げてきた女だ。

322
00:28:09,413 --> 00:28:11,882
それほど ほれた女を・

323
00:28:11,882 --> 00:28:17,554
しかも 札差風情に 借金がらみで
取り上げられておきながら・

324
00:28:17,554 --> 00:28:22,554
まだ そいつらに忠義を尽くす
お前さんじゃねえと思うんだよ。
325
00:28:24,428 --> 00:28:30,133
どうだい?
この辺で ケリをつけちゃ。

326
00:28:30,133 --> 00:28:33,833
煩悩地獄から抜け出せるぜ。

327
00:28:41,578 --> 00:28:44,878
地獄か…。

328
00:28:47,251 --> 00:28:49,251
ふん!

329
00:28:54,591 --> 00:29:01,198
俺を地獄に落としたのは
誰でもない その女だ。

330
00:29:01,198 --> 00:29:04,101
何?

331
00:29:04,101 --> 00:29:11,541
金に転んで 操を売ったのは
その女だ。

332
00:29:11,541 --> 00:29:18,882
しかも 俺は そうとも知らず
その金で暮らしを立てていた。

333
00:29:18,882 --> 00:29:25,222
あの女… お寿賀は・

334
00:29:25,222 --> 00:29:29,222
この俺の魂までも売ったのだ。

335
00:29:32,896 --> 00:29:37,567
女とは そういうものだ。

336
00:29:37,567 --> 00:29:47,244
腐った魚を食わされた この俺も
もはや 立ち戻る事は かなわん。

337
00:29:47,244 --> 00:29:50,944
共に地獄に落ちるまでよ。

338
00:29:54,117 --> 00:29:57,254
そうじゃねえ女もいるぜ。

339
00:29:57,254 --> 00:30:01,591
命を捨てて
男を守ろうとする女もいる。

340
00:30:01,591 --> 00:30:06,930
そうだろう?
その お寿賀さんって人だって・

341
00:30:06,930 --> 00:30:09,599
もしかしたら 金欲しさに
転んだんじゃねえ。

342
00:30:09,599 --> 00:30:13,470
お前さんのためだったかも
しれねえぜ。
343
00:30:13,470 --> 00:30:19,276
女の操は命と同じだ。
その命を捨てて・

344
00:30:19,276 --> 00:30:24,614
お前さんを
守ろうとしたのかもしれねえぜ。

345
00:30:24,614 --> 00:30:26,950
何をバカな…。

346
00:30:26,950 --> 00:30:29,286
いいや お前さんだって
きっと それが分かってたんだ。

347
00:30:29,286 --> 00:30:32,189
だから お前さんは
お津世を斬らなかった。

348
00:30:32,189 --> 00:30:38,489
お津世の中に
お寿賀さんの面影を見たんだ。

349
00:30:40,630 --> 00:30:46,503
怒ったのかい? だけど
こいつばかりは しょうがねえ。

350
00:30:46,503 --> 00:30:51,641
今でも ほれてるんだぜ
お前さんは。

351
00:30:51,641 --> 00:30:57,981
それを認めたくねえのは
侍の意地ってやつだ。

352
00:30:57,981 --> 00:31:01,852
そんな事で
ヤケになってるんだとすりゃ・

353
00:31:01,852 --> 00:31:06,590
くだらねえ14年じゃねえか。

354
00:31:06,590 --> 00:31:10,260
その14年に
ケリをつけるためにも・

355
00:31:10,260 --> 00:31:12,929
洗いざらい ぶちまけたら
どうだ?

356
00:31:12,929 --> 00:31:18,229
え? さぞかし
気分も すっきりするぜ。

357
00:31:21,938 --> 00:31:24,638
フッ…。

358
00:31:30,280 --> 00:31:36,620
聞かぬ方がいいのではないか?
何?

359
00:31:36,620 --> 00:31:42,320
聞いたところで 町方風情の
手に負える相手ではないからな。
360
00:31:44,961 --> 00:31:48,298
井筒屋が お寿賀を献上したのは・

361
00:31:48,298 --> 00:31:54,598
先の老中 水野康方だ。

362
00:31:56,973 --> 00:32:01,244
井筒屋は 当時 老中であった
水野と結託して・

363
00:32:01,244 --> 00:32:06,917
悪事を働いていたのだ。
その何事かは 俺は知らん。

364
00:32:06,917 --> 00:32:10,253
ただ 証拠の品を盗み出して・

365
00:32:10,253 --> 00:32:14,925
井筒屋を いたぶろうとした
手代の佐八を・
366
00:32:14,925 --> 00:32:19,796
頼まれて 俺は斬った。
そして・

367
00:32:19,796 --> 00:32:29,096
その探索の手を伸ばしてきた
町方同心の妻と子もな。

368
00:32:33,276 --> 00:32:38,615
貧しさに長く耐えていた
俺の心の糸は・

369
00:32:38,615 --> 00:32:43,915
お寿賀の一件で
プツンと切れてしまったのだ。

370
00:32:50,227 --> 00:32:54,164
当時 江戸詰であった
印南数馬は・

371
00:32:54,164 --> 00:32:57,634
そんな俺の心を知る
ただ一人の友であったが…。

372
00:32:57,634 --> 00:33:05,909
フッ… 友などといっても
所詮は信ずるに足らん。

373
00:33:05,909 --> 00:33:09,579
佐八を丸め込んで
証拠の品を手に入れ・

374
00:33:09,579 --> 00:33:12,249
井筒屋を脅していたのだ。

375
00:33:12,249 --> 00:33:19,589
14年たって 再び
江戸詰になった この度もな。

376
00:33:19,589 --> 00:33:25,462
だから 俺は斬った。
377
00:33:25,462 --> 00:33:33,937
さあ どうする? 俺を召し捕るか
井筒屋を獄門に問うか。

378
00:33:33,937 --> 00:33:37,807
だが 水野には手が出まい。

379
00:33:37,807 --> 00:33:44,107
悔しくとも 歯がゆくともな。

380
00:33:46,283 --> 00:33:51,283
巧妙手柄に はやった
町方風情の出る幕ではないわ!

381
00:33:54,624 --> 00:34:00,924
巧妙手柄だと? 笑わせるな。

382
00:34:05,569 --> 00:34:11,441
お前さんが斬った
町方風情の妻と子は・
383
00:34:11,441 --> 00:34:16,212
俺のお袋と妹だ。

384
00:34:16,212 --> 00:34:18,148
何?

385
00:34:18,148 --> 00:34:23,119
悔しいさ 歯がゆいさ。

386
00:34:23,119 --> 00:34:28,592
さっきから はらわたが
煮えくり返ってら。

387
00:34:28,592 --> 00:34:37,267
その悔しさを笑いもんにして
お前さん うれしいのかい?

388
00:34:37,267 --> 00:34:50,267
・~

389
00:34:55,619 --> 00:34:58,955
つまり この帳簿によると
井筒屋は・

390
00:34:58,955 --> 00:35:03,793
ご公儀から 上質の米を受け取り
それを着服して・

391
00:35:03,793 --> 00:35:11,534
取引先の武家に対しては
安い米を渡していた事になる。

392
00:35:11,534 --> 00:35:19,909
ん… すると 米の質を落として
もうけた 差額の帳簿という訳か。

393
00:35:19,909 --> 00:35:26,783
こういう事が広まれば
米相場は めちゃくちゃになる。

394
00:35:26,783 --> 00:35:32,255
ご支配 これさえあれば
井筒屋をお縄にする事は?

395
00:35:32,255 --> 00:35:34,924
無論だ。 これほどの大事・

396
00:35:34,924 --> 00:35:39,796
いかに水野様といえども
かばいきれるものではない。

397
00:35:39,796 --> 00:35:42,599
このような事に
加担していたとなれば・

398
00:35:42,599 --> 00:35:45,502
むしろ
ご自身の身が危ないからな。

399
00:35:45,502 --> 00:35:51,941
いや~ お手柄。 大手柄だ!・

400
00:35:51,941 --> 00:35:56,613
亡きお父上も さぞかし
この度の貴公の働きには・

401
00:35:56,613 --> 00:35:59,949
ご満足なさっておる事じゃろう。

402
00:35:59,949 --> 00:36:05,555
この上は 鶴木とか申す 直接の
下手人の探索に全力を注げば・

403
00:36:05,555 --> 00:36:10,226
もう それでよいではないか。
な! な!

404
00:36:10,226 --> 00:36:23,573
・~

405
00:36:23,573 --> 00:36:26,242
御用改めである。

406
00:36:26,242 --> 00:36:31,581
これは一体 何事で!?

407
00:36:31,581 --> 00:36:36,453
申し開きは お白州でするんだな。

408
00:36:36,453 --> 00:36:40,924
さあ お縄に かかれ。
下衆な手で触るな!

409
00:36:40,924 --> 00:36:44,624
ああ… 離せ!

410
00:37:18,762 --> 00:37:22,062
(水野)鶴木…。

411
00:37:25,235 --> 00:37:29,105
貴様 血迷うたか?

412
00:37:29,105 --> 00:37:33,109
おい 待て。 鶴木 待て。
413
00:37:33,109 --> 00:37:36,579
ああ… 鶴木。

414
00:37:36,579 --> 00:37:39,916
待て 待て 待て…。

415
00:37:39,916 --> 00:37:44,216
うっ… あ…。

416
00:37:47,590 --> 00:37:55,290
あ~… ああ…。

417
00:38:04,874 --> 00:38:20,223
・~

418
00:38:20,223 --> 00:38:22,158
う…。

419
00:38:22,158 --> 00:38:28,565
・~
420
00:38:28,565 --> 00:38:36,239
これで… やっと あなたと…。

421
00:38:36,239 --> 00:38:53,790
・~

422
00:38:53,790 --> 00:38:56,090
(鐘の音)

423
00:39:06,202 --> 00:39:09,902
(鐘の音)

424
00:39:16,212 --> 00:39:19,512
(鐘の音)

425
00:39:50,914 --> 00:40:45,914
・~

426
00:40:50,306 --> 00:40:54,644
<全てが終わった。・

427
00:40:54,644 --> 00:40:58,514
玄次郎が
水野康方の死を知ったのは・

428
00:40:58,514 --> 00:41:01,918
それから 数日の後である。・

429
00:41:01,918 --> 00:41:07,790
病死という事であった。・

430
00:41:07,790 --> 00:41:17,467
14年 捜し求めてきた霧の果てに
今は何も残らない>

431
00:41:17,467 --> 00:42:26,467
・~

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