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“空飛ぶクルマ”の新ビジネス

“空飛ぶクルマ”の実現により、何が変わるのか
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
“空飛ぶクルマ”の実現によって、空の大衆化が進み、
今よりも手軽に空の移動を選択することができるように
はじめに 空の大衆化
1903年ライト兄弟により誕生した固定翼機は、第一次世界大戦の実用 現状の空の移動の活用
化を経て、1960年頃までに「より速く・より遠くへ」と改良が重ねられてき 現在、空の移動の活用として最も一般的なものはエアラインを通しての
た。鉄道や自動車等の地上移動と比較すると航空機は機体を持ち上げ 飛行機の利用であろう。空の移動といえば、飛行機を思い浮かべる方が
る必要があるためエネルギー効率が悪く、昨今までは長距離・高速移動 多いのではないだろうか。例えば、東京から博多へ移動する際にどのよ
が主たる目的として活用されてきた。一方、古くから構想のあった回転翼 うな移動手段を活用するだろうか。自動車(バス)、新幹線、飛行機が考
機は1940年頃から実用化がされたが、本格的な運用に耐え得る機体は えられるが、時間・コストを考慮すると飛行機を選択する方が多いと思わ
1950年に開発されたターボシャフトエンジンからと考えられる。離着陸場 れる。一方、東京から成田空港や横浜への移動で“空の移動”を検討す
のインフラのみで移動できることから、エネルギー効率よりも利便性を求 ることは(富裕層のヘリコプター移動を除くと)ないと思われる。それはな
めるドクターヘリや災害救助等で活躍しているものの、一般大衆が利活 ぜだろうか。一般的な移動に対する考え方として、移動に要する時間とコ
用するまでには至っていない。 ストを天秤に掛けて最も効率的な手段を選択する。現在の“空の移動”の
2000年代初頭より開発が進められている“空飛ぶクルマ”は利便性の 優位性は遠距離での移動でしか発揮できないため、近・中距離の移動に
高い「垂直離着陸」、環境性の高い「電動化」、コスト削減・安全性の向上 おいては選択肢にすら入っていないのが現状である。
のための「自律化」をキーワードに開発が進められており、今までは限ら
れた用途のみで活用されていた「空の移動」を大衆化していく可能性を秘
めていると考えられる。
そこで本稿では、まだまだ課題が多い“空飛ぶクルマ”が実現した際に、
世の中がどのように変わるかを考察していきたい。

図1 各交通手段を利用した場合の所要時間・費用

陸の移動 空の移動

東京→博多 13時間 / 5時間 / 2時間 /


(約1,000キロ) 30,000円(10,000円) 23,000円 10,000~40,000円

東京→成田空港 1時間 / 1時間 / 1時間 /


距離 (約70キロ) 3,000円(1,000円) 3,000円 50,000円

東京→横浜 40分 / 25分 /


-
(約30キロ) 1,500円(500円) 500円

()内は、クルマを3名で利用した場合の一人当たり費用
空の移動に関しては、チェックイン時間等を考慮して所要時間を30分追加

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“電動化”“自律化”“垂直離着陸”が
空の大衆化のカギに

空の移動を大衆化するために 便性が悪くなってしまっている。
そもそも、どのような状態になると“大衆化された”といえるのだろうか。本 上記の空の大衆化を阻む「コストが高い」「移動効率が悪い」を解消す
稿では大衆化の定義を「国民の大多数が、コストや移動に係る効率性に るためにはどうしたら良いのだろうか。現在開発されている“空飛ぶクル
鑑み、日常的に使用しようと思い浮かべること」と置くことにする。前項で マ”はその阻害要因を解決するポテンシャルを保有していると考えられる。
記載した通り、現状の空の移動は長距離時のみ“思い浮かべる”こととな “空飛ぶクルマ”の特徴として「電動化」「自律化」「垂直離着陸」が挙げら
る。つまり、通勤・通学といった普段の生活での移動選択肢には入らず れており、「電動化」は騒音や有害ガス排出等の環境性改善に期待され、
“日常的に”思い浮かべることのない移動手段であるといえる。短・中距 離発着場所の自由度が向上すると考えられる。また、現状のヘリコプ
離で空が活用されているヘリコプターがなぜ大衆化していないかを考え ターよりも軽量化されることも期待されるためビルの屋上等の既存建造
てみると、活用されない理由として「コストが高い」「移動効率が悪い」の2 物を活用した利便性の高い離発着場所の提供が可能と考えらえられる。
点が挙げられる。ヘリコプターは高度なスキルを必要とする操縦士が必 また、「自律化」により専門性の高いパイロットの人件費を抑制することが
要であり、空中移動するため燃料費が地上移動と比して高くなると共に でき、「電動化」による整備コストの削減も見込まれることから運用コスト
安全性確保のための整備・点検等が厳重に定められているため、運用 の低減が期待される。“空飛ぶクルマ”が実現すると、空の大衆化を阻む
費が高くなる。また、騒音やダウンウォッシュ等の環境性の問題から発着 要因から解放され、タクシーに乗るのと同じ感覚で空を利用する日が
場所が限られており、目的地の近くで乗降することができず結果的に利 やってくる可能性がある。

図2 “空飛ぶクルマ”のポテンシャル

想定される“空飛ぶクルマ”の機体要件 “空飛ぶクルマ”のサービスイメージ

動力・ • 電動 • キロ単価30~200円
操縦方式 • 自律飛行 価格 (タクシーは約300円)
※20キロ移動する場合
離着陸方式 • 垂直離着陸

定員・ • 4人程度の定員 • “Skyport”設置場所


離発着場所
最大積載量 • 最大積載量400kg程度 ※大型商業施設、鉄道駅、公園等

巡航速度・ • 巡航速度200km/h程度
最高速度 • 最高速度300km/h程度

• 100km程度 乗車方法 • 簡単なセキュリティチェックのみで乗車可能


航続距離
(1回の飛行あたり)

短・中距離において“空飛ぶクルマ”は利用しやすい価格帯かつ移動効率も高いため、大衆化し得る

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都心・地方を問
わず、既存の 図3 都市部での移動の変化
例: オフィス(六本木)→東京ビッグサイトの移動
人流/物流を 現在の移動
(Before)
“空飛ぶクルマ”が大衆化した社会での移動
(After)

破壊的に変化
徒歩10分 徒歩10分

オフィス オフィス
六本木駅 “空飛ぶクルマ”2分
空の大衆化による人流/物流の変化 汐留駅
現状の移動は、公共交通機関のインフラに依 地下鉄等41分 離発着場所
存しており、幹線道路や鉄道路線をメインに移 都営大江戸線 国際展示場
動設計がされている。例えば、直線距離であれ 正門駅
ば近いにも関わらず鉄道路線が通っていない ゆりかもめ 離発着場所
場合は遠回りして移動する必要がある。現在 徒歩15分
の移動はヒト・モノの移動量が多い“線”を中心 徒歩15分
に設計されていると言える。そのため、人流・物 所要時間 所要時間
流の滞留が生まれ、混雑する駅や道路が現出 計66分 計27分
してしまっている。“空飛ぶクルマ”が実現する
東京ビッグサイト 東京ビッグサイト
ことで、既存インフラに依存することなく移動が
可能となり、移動はより直線的なものとなる。
乗車時間は平日09:00六本木駅発の条件でYahoo!乗り換えにて算出(乗り換え時間含む)
ターミナル駅等の移動中継点を介せず移動す 東京ビッグサイト東展示場7ホールまでの所要時間を想定
ることが可能となり、人流・物流の滞留が分散 離発着場所は、オフィス、東京ビッグサイトそれぞれの最寄駅と同等距離の位置と仮定
することが予想される。 “空飛ぶクルマ”の巡航速度は200km/hと仮定
また、既存インフラに依存しない移動が可能
となるため、災害時にインフラの機能が不全と
なっても、離着陸場所を確保しておけば、能動
的な避難が可能となることも特筆しておきたい。
図4 地方都市での移動の変化
例: 自宅→病院の移動(高齢者)
現在の移動 “空飛ぶクルマ”が大衆化した社会での移動
(Before) (After)
徒歩15分 徒歩15分

自宅
待ち時間20分
バス30分 “空飛ぶクルマ”3分
離発着場所
バス停
乗り継ぎ20分
バス10分
駅前

所要時間 所要時間
計95分 計18分
病院 病院

バスの表定速度を15km/h、高齢者が歩く速度を2km/hと仮定
バスの総移動距離の70%が2地点間の直線距離として仮定
病院の敷地内に“空飛ぶクルマ”の離発着設備を具備しているものと仮定

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図5 ヒトの移動×離島や中山間地域での利活用例

現在の移動(Before) “空飛ぶクルマ”が大衆化した社会での移動(After)

バス停

受動的な移動 能動的な移動
交通インフラのカバー範囲が限定的、 限られた交通インフラに頼らない
または無い過疎地域等においては交通インフラに合わせた移動 能動的・効率的(行先・時間は自由)な移動が可能に
(行先・時間が限定的)をせざるを得ない

人流/物流の変化による価値観の変化 空の大衆化が進むと、
前段にて、人流・物流の滞留が分散することが
予想されると説明した。人流・物流の滞留が分
散されると人の価値観はどう変わるのか。現在
既存インフラの制約が取り払われ、
は既存インフラに依存した人流・物流が設計さ
れているため、ヒト・モノの“集まる場所”が予測 価値観の大変革が起きる
しやすい環境となっている。そのため、移動の
中継が起こり易いエリアの価値が高くなってお
り、商業施設や住宅街が鉄道駅や幹線道路を 図6 “空飛ぶクルマ”によってもたらされる商業施設の立地の変化
中心に展開されている。しかしながら、“空飛ぶ
クルマ”の実現により、ヒト・モノの流れが既存イ
ンフラに依存しない移動に変わるため、人流・ 商業施設の
ヒトの動き方 :ヒトの動き
立地条件
物流の滞留箇所の予測が困難になると予想さ
:商業施設
れる。そのため、現在価値の高いとされている 既存のインフラ
ヒトが
鉄道駅周辺等のエリアの価値が下がる可能性 (鉄道・道路等)
集まる場所に
がある。一方、鉄道駅から遠い、道路整備が追 だけに囚われず、
立地
い付いていない等の“価値の低い”エリアが既 自由に移動
存インフラに依存しない移動が可能になる“空
飛ぶクルマ”の実現により、ヒト・モノの集積地
になる可能性すらある。“空飛ぶクルマ”の実現
既存のインフラに囚われることなく、
により、今までは既存インフラに依存しており、 ヒトを集めることが可能となり、
変えるのが困難であったヒト・モノの流れを変え 自由な商業施設開発が可能
られる可能性が生まれたのである。今までは、
莫大な投資をする必要があったため、インフラ 商業地としての利用価値が
整備が一部の都心に集中してしまい、結果的 見出されなかった土地を活用した
新しいビジネスの創出
に一極集中していた人口がいわゆる“郊外”に
分散する可能性もあると考える。

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変化はチャンス!
“空飛ぶクルマ”の実現により生まれるビジネスは
無限大の拡がりを持つ可能性
“空飛ぶクルマ”が実現することにより生まれる新規ビジネス 新たな価値観での都市開発が活発となり、既存インフラであれば不便と
“空飛ぶクルマ”が実現することにより、既存ビジネスの拡張や特有のビ されてきた山間地域や離島地域等にも大型のショッピングモールや高級
ジネスが創出される。既存ビジネスの拡張としては、地上で走行している 住宅地が出現することも考えられ、様々な価値観を持つ人々に適合した
タクシーやトラックが空を飛びサービスを提供するエアタクシーや物流 個々の生活スタイルを叶えられることとなる。一方、既存インフラに依存し
サービスが現出するであろう。また、自動車保険等のモビリティに関する てきた価値観が変化することとなり、より一層集客のための工夫が求め
保険が“空飛ぶクルマ”に適用されることが予想される。特有のビジネス られるため、ビジネスの複雑性が増すことも考慮しなければならない。各
としては、“空飛ぶクルマ”自体の機体開発や製造・整備はもちろんのこと、 企業体においても、この変化をリスクではなくチャンスと捉えて、“空飛ぶ
現状管理されていない150m以下の空域を管制する必要が出てくる。 クルマ”の実現を見据えたビジネス変革をいち早く検討して頂きたい。
また、前段でも記載したように、ヒトの価値観が変化することにより、

図7 “空飛ぶクルマ”の出現によって生まれるビジネス(例)

保険 輸送サービス(ヒト・モノ)
 “空飛ぶクルマ”向け保険 機体開発(モノづくり)  エアタクシー
(自動車における任意保険)  機体/部品開発・製造  物流サービス

インフラ構築・運営(街づくり) 通信・管制
 離発着設備の建設・運営  通信インフラの構築・運営 :機体
 “空飛ぶクルマ”を活用した  管制システムの構築・運営 :サービス
都市・商業地開発
:インフラ

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参考資料
経済産業省 産業構造審議会 製造
産業分科会
http://www.meti.go.jp/committee/s
ankoushin/seizou/001_haifu.html

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デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
航空宇宙・防衛セクター
E-mail : Deloitte_Japan_A_D@tohmatsu.co.jp
www.deloitte.com/jp/dtc
デロイト トーマツ グループは日本におけるデロイト トウシュ トーマツ リミテッド(英国の法令に基づく保証有限責任
会社)のメンバーファームであるデロイト トーマツ合同会社およびそのグループ法人(有限責任監査法人トーマツ、
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社、デロイト トーマツ ファイナンシャルアドバイザリー合同会社、デロイト
トーマツ税理士法人、DT弁護士法人およびデロイト トーマツ コーポレート ソリューション合同会社を含む)の総称で
す。デロイト トーマツ グループは日本で最大級のビジネスプロフェッショナルグループのひとつであり、各法人がそ
れぞれの適用法令に従い、監査・保証業務、リスクアドバイザリー、コンサルティング、ファイナンシャルアドバイザ
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