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魂を浄化する服
魂を浄化する服
魂を浄化する『修道服』
「クソがっ……! 離しやがれ、テメエら……!」
深夜、ロウソクの明かりだけが照らす石造りの教会。数人の修道女によって、一人
の男が運ばれてくる。大声をあげているが、彼の身体は一切動かない。彼の首筋に
刺さっていた針、そこに塗られていた麻痺毒は、彼の自由の一切を奪ってしまってい
た。
「腕さえ動けばお前らなんざ、すぐにでも……!」
がなり立てる彼を他所に、シスター達は彼の四肢を掴んで、狩りの獲物のように宙
ぶらりんで運ぶ。男にとって、力で敵うはずのシスターたちにそのようなことをされる
のも屈辱であった。礼拝堂の最奥部に釣られていった彼。ようやく床に降ろされ、仰向
けで教会の天井を見る。
「──『アーノルド=ワイルディング』。貴方の名前ですね」
天井を見ていた彼を見下ろすように、別の人影が現われる。黒色の修道服を纏って
いたシスターと違い、その人物は赤色のマントを纏った祭服であった。彼、アーノルド
は吐き捨てるように言う。
「テメエなんぞに名乗るつもりは無ぇ!」
「分かりました、少しお静かに……私はセリア=マクドネル。この教会の司祭です」
「ハッ、悪いが俺は教会にお布施するつもりなんて少しも無いね! 分かったらさっさ
と俺を元に戻せっ!」
一瞬何かを考えるように、上を向くセリア。目を瞑って、静かに佇む。
「ええ、承服しております。天上におわす我らが────」
そして青色の瞳を見開き、ボブカットの金髪を揺らして。右手に握っていた、紫色の
アメジストが先端に嵌め込まれている杖をアーノルドに向けた。
「ふむ……貴方の『過去』を少しだけ拝見しました。強盗に詐欺、傷害……かなりの罪
を犯してきたようですね」
「うるせぇっ! やられる方が悪いんだよ、力も持ってないやつが金なんか持ってるの
が悪いんだ!」
盗賊アーノルドは、かつて冒険者として他の仲間とパーティを組んでいた。しかし、
報酬に目が眩んだ彼は仲間を裏切る計画を立てるも失敗。以来、日の当たる場所に
居られなくなった彼はちんけな盗みや詐欺を繰り返して日銭を稼ぎ、時には強盗まが
いの事をして各地を転々としていたのだった。
「彼を見つけたのは……リリーでしたよね?」
「はいっ! なんだか悪い事考えてそうな顔をしてたので痺れさせて連れてきました!」
一歩踏み出した赤髪の小さな修道女、リリー=ロイス。彼女は自らの凶行を、全く悪
びれもせず笑顔で告げる。そして、司祭であるセリアもそれを咎める事はなく。微笑み
と共に、杖を振り上げる。
「……良き行いをしましたね。貴方に聖典の祝福が与えられんことを」
その言葉と共に、司祭セリアは杖の先端をリリーにかざす。キラキラとした瞳で司祭
を見つめていたリリー。──だが。彼女は突然ガクンと膝を折り、教会の女神像に跪く
かのようにする。目を見開き、身体を震わせて。
ガクガクと身体を震わせて、突然リリーは。幸福の絶頂を味わったかのように、真っ
赤な顔で激しく乱れる。黒い修道服だったためアーノルドには彼女の様子が良く見え
なかったが、以前路地裏で一夜を共にした売春宿の女性と同じぐらい──あるいは、
それ以上に。今のリリーは、淫らに乱れているように見えた。ぷしゅ、と何かが漏れる
音。
「……何だよ、ここは淫売の女でも集めてるのか?」
せせら笑うように司祭のセリアに語るアーノルド。心なしか、彼の口元には余裕が戻
ってくる。乱れているリリーの傍に居る他の修道女も、司祭も。おかしくなったようなリ
リーに対して、不穏な様子を見せることはない。それどころか。
「あぁ……神よ、次はわたくしめにも『祝福』を……」
「ふふっ……リリーちゃん、ずっと頑張ってたものね……今日は一杯、『祝福』して頂か
なきゃ……♡♡」
『祝福』。彼女らがそう語る何かが、この教会の異常性を物語っている。信仰の深い宗
教者に捕らえられたという認識を改めなくてはならない、アーノルドはそう考えた。コイ
ツらは──路地裏や貧民街で時々見かける、目が血走った常識の通じない奴ら。そ
いつらに近い存在だと。
「へ……へっ。テメエらがイカレてやがるのは充分わかったよ……それでなんだ、身代
金でもせしめるのか?」
「いいえ。貴方には罪を悔い改めて欲しいのです」
凛とした声で、アーノルドを見据えた司祭セリアはそう告げる。思わず驚いた後、彼
は吹き出してしまう。
して悪しきものを清め正すために常に天上より見守って下さるのです」
「ぷ、くく……神、だってぇ……? なんだ、それを信じれば俺も金持ちになって贅沢な
暮らしが出来るってか?」
あくまで己の強欲さを隠そうとはしない盗賊アーノルド。ソレが己を破滅に導いた要
因であるという事を、彼自身は認識できていない。自身の醜い本能を制御せず、その
欲のまま行動し続けてきた。諭すように、司祭セリアは耳元で囁く。
「神はそのような存在ではありません……そして人が望むべき幸せは……貴方の様
に欲望のまま全てを貪る事では、満たされません。人との『結びつき』が幸福を創り上
げるのです」
「んなこたぁガキの頃に口煩く聞かされたんだよ! そんな幸せなんていらねえんだ!
何が『神』だぁ!? カミサマとやらを信じて救われた人がどれだけいる!? 俺みた
いな、路地裏でゴミ同然の暮らしをしてるやつを『カミサマ』はお救いくださるのか
ぁ!?」
「────罪を自ら告解することはないのですね。分かりました」
そして彼女は沈黙する。何かを思案しているかのように。そして、修道女に顔を向け
て。
「あなたたち。『修道服』を運んできてください。この者の罪を贖うためには、『儀式』し
か方法はありません」
「あっ……はい!」
2 人がかりで、何かが運ばれてくる。黒色をした棺桶だった。まさかアレの中に閉じ
込められるのか、と盗賊アーノルドは危惧する。棺桶の蓋が開けられると、そこには
先客がいた。
「これ……は……?」
内側は簡素な木造りであった。内側は茶色だった棺桶の中には、修道女たちが来
ているのと同じような、黒を基調としたシスターの修道服。そして──ソレを被せられ
ている、人型のナニカ。否、人というには厚みが無い。修道服と同じように布の厚み程
度しかない、人形のような、肌色の服のような不可解な物。修道女の 2 人が人形の上
下にそれぞれ立ち、片方を持ち上げる。すると、上の服と下の服に分かれるかのよう
に、その人形も泣き別れになる。上着の前はボタンで閉じるタイプだったのか、上側を
持った修道女が外している。
「は、ははっ……お人形遊びが『儀式』かよ? とことん面白い宗教だなぁ、えぇ?」
軽口を叩く盗賊アーノルド。しかし、突然彼は修道女に四肢を再び掴まれ、立たせら
れる。彼も驚いた事に、囲んでいる修道女たちはその線の細さに比べて力があった。
僅かに床から持ち上げられた彼は、思わず呻き声を上げる。
「何してんだテメエらっ! ベタベタくっつくんじゃねえ、放しやがれ!」
麻痺毒は未だにアーノルドの身体の自由を奪ったまま。『人形』の下半分を持った修
道女の 1 人が、しゃがみ込んで修道服を構えている。今の状況は、自分で着替えられ
ない病人に無理やり服を着させるかのようだ、とアーノルドは思う。だが、着させられ
ようとしているのは。修道服のスカート、そして不可解な『人形』。
四肢が動かぬ彼の足を通すように、『人形』の足と修道服が通される。──突如、ア
ーノルドの下半身にヒュンと寒気のような感覚が伝わる。高所から落下したときのよう
な、股間が縮み上がるような感じ。何故か、修道服と人形の脚に包まれているのに、
何も着ていないかのような覚束ない感覚。
「──おいッ、おめえらっ!? 今一体、何をしたんだ……!?」
「それでは、『儀式』を」
興味なしといった具合で、司祭セリアは続けるよう修道女たちに促した。『人形』の上
半分。上半身と、帽子、そして頭の部分がひとまとめになったソレ。両手を吊り上げさ
せられたアーノルドに服の袖を通すように、『人形』の腕が、肩が、頭が被さってゆく。
無理やり服を着せられる、ただそれだけだ。視界が暗転した、その刹那。
その瞬間、耳元で誰かが囁いたような声。
『──正しき行いをしなければ』
「なん……だ……?」
頭の中に、澄んだ声が響く。そう、錯覚した。違う。まるで──自分が、その声を発し
たかのような。己の内側から、そんな言葉が発せられたかのような。
「天上の神の代行者として、この者に──『魂の浄化』を与えん!」
司祭セリアが、背後の女神像に向き合って両手を組む。一瞬、石造りであるはずの
女神像の後ろに、不可思議な光が差したかのように、アーノルドには見えた。目を閉
じている女神が、一瞬赤色の瞳を開いたかのように。
突然。被さっていた衣服がギュっと服が締まる。強烈な窮屈さを味わう男。そして―
―不思議なことに、何故か裸になったかのようなうすら寒さ。狭い場所に押しつぶされ
るかのような痛み。ミシリ、と嫌な音が背中に響く。全身が、痛い。
「あ゛っ、があ゛ぁぁッ!? う゛っ、ぉお゛ぉぉぁ!!」
頭に急激な痛みが走った瞬間。アーノルドの意識は、闇に落ちた。
───────────────────────────────────
─────
目が、開く。赤色の絨毯が視界に入って、自分が床に横たわっている事に気が付く。
立ち上がろうと、手で床を押し──自分の身体が、動くことに『彼』は気が付く。数歩離
れた所に、さっきまで自分を吊るし上げていた修道女たち。そして、目の前には女司
祭のセリアが。
「ちっ……よくも、こんな事してくれたなぁ……!?」
体が動けば、女などどうにでもなる。セリアを恫喝しようと発した声だが──妙に高
い。だが、そこで止まって考えれるほど、『彼』は理性的な人物ではなかった。
「お゛らぁっ!! 覚悟しやがれッ!!」
一気に足を踏み込み、司祭セリアに向かって飛び掛かり、殴り掛かろうとした。──
だが。何故か、足元がふらついてよろけてしまう。体勢が安定しない。セリアは驚いた
様子も見せず佇み、そして声を発する。
「アーノルド……いえ、『アイリーン』。そのような行いは正しくありません。乱暴な言葉
遣いは舌禍を招きます。まずは──貴方の『声』を正しく矯正します」
クイ、と喉元を後ろから誰かに絞められたかのような息苦しさに襲われる。ゲホ、ゴ
ホとむせ返った。背後を振り返るも、誰もいない。もう一度飛びかかろうとした瞬間。
「『正しき行いをしなさい』」
ズン、と身体の中に重い何かが落ちる感覚。踏み出そうとした足が、勝手に止まる。
全身の力が抜けてしまい、ついさっきリリーがそうしていたように膝立ちになってしまう。
手のひらは動く。何故か女神像から、目が離せない。
「お゛、いっ……おれ、にっ……『わたし』に……なにを……ッ!?」
喉を突いて出た言葉に、アーノルド自身が驚く。妙に自分の声が高い。そして──
発しようとした言葉とは違う単語が、自分の口から出てくる。今まで、彼は自分自身の
事を『わたし』などと言った事は無い。喉元を手のひらで抑えようとして、自分の掌を見
る。妙に肌が白く、手が小さくすべすべしている。
口汚く罵ったはずだった。だが、『自分』から発せられる台詞は、妙に丁寧になってし
まう。奇怪な現象に、彼は焦りを感じていた。異常だ。この連中も、自分が襲われてい
る現象も、何もかも。
「貴方の身体に装備させたのは、己の悪行を悔い改めるための修行服──『ソウルク
リーナー』です。貴方がこれ以上罪を重ねないための拘束具であり、自ら正しきことを
為すための指針ともなってくれます」
「はぁ!? 何を言ってやが──ぐぅっ……おっしゃられてるのか、わたしには……わ
かりません……!」
アーノルドの頭の中に、声が響く。
『正しき事を為さねば』と。
「さぁ、己の罪を告解するのです──神は全てを御赦しになる」
「オ゛……わたし、は……たくさん、盗みを働きっ……ました……詐欺も、強盗も……
ググウ゛っ……ゆ……許されないことを、たくさん犯しまし、た……」
冷や汗が吹き出てくる。言いたくもない事が、口から勝手に飛び出てくる。まるで無
理やり言わされているかのような強烈な違和感。何故。
「己の罪を認め、神に正しき言葉で懺悔する……」
膝立ちで動けないアーノルドの前に立った司祭セリアは、ニコリと笑って。
「『正しき行いをしましたね』。神は祝福をお与えになるでしょう」
──その時であった。
誰かに、後ろから抱きつかれたかのような感触。
下半身にぞわりとした、こそばゆい感じ。
「ぁ……ふぇっ……?」
自分の口から、情けないふにゃりとした声。ドスの効いた男としての声ではなく、ひ
弱な少女のようなか細い声。誰かに触られている訳ではない。なのに──胸元をぎゅ
うと抱かれているように感じる。ジトッとしたナニカが、自分の局部をぞわりと蠢く。
「おぃっ……!? これ、なにか、教えやが……ぐぅっ……教えてくださいっ……!?」
気味が悪い、異常だ。アーノルドの理性はそう叫んでいる。そういえば、股間に違和
感を感じている。生温かい感触が己の股に残っているのに、自分の男の象徴である
はずのモノから何も伝わらない。まるで、肉棒が無くなってしまったような。足元を確認
する。毛の生えた瘦せぎすの脚、ではなく。まるで女性のような、すべすべして少しむ
っちりした太ももがそこにあった。
「これ……一体、何なんです、かぁあ゛っ……!?」
「案ずることはありません。神の寵愛を、ただ受ければ──」
そこに居たのは、黒い修道服に身を包んだ 1 人の『少女』だった。水色の髪に茶色
の瞳。濁った魚のような眼をしたアーノルドと違って、彼女の瞳は、澄んだ輝きを残し
ていた。そんな彼女は今、『初めて』の感覚に身悶えしている。
「な、に……なんなの、これ……っ……ひぃっ……♡」
悲鳴のような声に、わずかに嬌声が混じる。『彼女』に触れる不可視のナニカは、胸
元をゆっくりと包むように揉み、陰部の突起を舌で舐めるように生温かい感触を与え
る。背筋が冷えるかのように──だが、嫌な感覚ではなかった。見えない何かを振り
払うように手を動かすが、効果はなかった。
「『己の感じることを正直に語るのです』」
「あっ……♡♡ はぁんっ……♡♡♡ なんだかっ……♡♡ ぞくぞくっ、ふわふわしますっ
……♡♡♡♡」
自分の口が勝手に動いて、思ってもいない事を語る。だが口にしてしまうと、理性で
保っていた拒絶感が、どろりと溶けてゆく。胸元の突起をこり、こりと軽く弄られる。修
道服のスカート、その内側の下着など無視するかのように、ワレメをゆっくりと舐め上
げ、クリトリスに生温い風が当たるような感覚。
男の胸元とは違う、女性特有の乳房の膨らみ。それをやや乱暴とも言えるほど、ぎ
ゅうと形が変わる程度に揉みしだかれる。ソレと同時に────自分の身体の内側
に、ナニカが入り込んでくる感覚、圧迫感。知らない。そんなところに、逸物を受け入
れるための穴があるなんて、『彼女』は知らなかった。そんなことなどお構いなしに、不
可視の『ナニカ』は侵入してくる。
立ってなど居られなかった。仰向けに倒れ、天井を見る事しかできない。口元は緩
みきって、涎を垂らし。神への信仰などないはずなのに、知らずに両手を組んでいた。
『彼女』の胎の中にナニカが入り込み、一瞬出てゆく。それが何度も繰り返されるたび
に、全身にぞくぞく、ふわふわした感覚が浴びせられる。嫌だ。言いたくない。だが─
─
「きもち、イイ゛っ♡♡♡ いい、でしゅう゛ぅっ♡♡♡♡」
ぷしゅ、と情けない音。自分の股間が濡れる感覚。漏らしたのだろうか、と『彼女』は
僅かに残った理性で考える。彼女にとっては初めての潮吹き。イったときの衝撃。だ
が見えない何かは、彼女の身体を責め立てるのを止めたりはしなかった。むしろ、勢
いづいたかのように陰部への挿入を繰り返し、膣奥へのプレスを行う。
「ぁあ゛ぁぁぁっ♡♡♡♡♡ かみ、ひゃまぁぁっ♡♡♡ おまんこいじってくださってっ♡♡♡♡
ありがとうございまひゅぅぅっ♡♡♡♡♡♡」
知らない言葉を、わからない単語を、自分は喋っている。分からない。自分が自分で
なくなりそうな恐怖。────だが、ほんのわずかに。それでも『気持ちよくなれる方
がいい』。そんな風に考えてしまう、『自分』が居た。
「アーノルド……いえ、洗礼名は『アイリーン』。神の抱擁を、その温かさを。深く身に
刻みなさい。そして──『正しいことを為しなさい』」
「──あ゜っ♡♡♡ い゛っっ♡♡♡♡ おほぉぉお゛っ♡♡♡♡♡ んぐぅぅぅっ♡♡♡♡♡♡♡♡」
頭の中に、清く美しい歌声が響く。聞いているだけで幸せになりそうな、なにかの声。
ビクビクと身体を震わせ、ピンと跳ねる。動物的本能だけに支配された『彼女』は、
理性でそれを抑え込むことができない。
絶頂。絶頂が繰り返される。何度イっても、まだ足りない。まだ、終わらない。
地獄のような、至福の快楽が繰り返される。初めての、女としての絶頂。何度も何度
も見る事の出来ない『ナニカ』に犯され続け。やがて、正気と狂気が混ざり合い始めた
時に『彼女』の意識は闇に堕ちていった。
2.修道女の『ご奉仕』
教会の休憩室。毛布を被らず、ベッドで寝かされていた修道女の一人が目を開く。
頭を抱えながら、周囲を見渡す彼女。部屋の中は簡素な椅子とテーブル、茶や食器
の仕舞われている戸棚、そして今彼女が寝ていたベッドだけ。誰もいない事を確認す
る。
「う゛っ……ぐ……変な夢、見たな……ここ、何処だ……?」
立ち上がろうとして、自分の足元を見る。不自然な胸元の膨らみ。黒色の短めなス
カート、そこからすらりと伸びる綺麗な脚。自分の身体のあるはずの場所に、信じられ
ないものがある。
「は……嘘、だろ……」
ユ メ
悪夢だった。そう信じたかった。あの狂ってしまいそうな快楽。自分の身体がおかしく
なってしまったような感覚。全部、現実のモノとは思えなかった。だというのに。部屋の
中に置いてあった、身を整える用の姿見を見つけた『彼』は、慌ててそこに駆け寄り。
そして信じられないものを目にする。
「なんだよ……俺じゃ、ない……こいつ、誰だ……!?」
喉から出る声も、いつものアーノルドの物と違って。少女のような、高く震えた声だっ
た。そして──鏡の向こう側に映るその姿は、背が高く瘦せぎすな男、アーノルドの姿
ではなかった。
茶色のブーツを履き、傷一つない美しさすら感じさせる線の細い脚。そして、太もも
近くまでしか隠せていない、ミニスカートのような黒い修道服。半袖から伸びる腕の先
には白色の手袋が着けられており、白色頭巾のウィンプルの内側には水色ボブカット
の髪がのぞいている。身長は明らかにこじんまりとした感じ。茶色の瞳が、戸惑うよう
にこちらを見つめている。おずおずと手を胸元に当てようとすると、鏡の向こうの女も
同じ動きをする。
「ぉ……おい……これじゃ、俺がこの女になってる、みたいじゃ……」
胸元の膨らみに手を置くと、同じように触れられる感触が伝わってくる。自分の胸が
こうして膨らんでいる事に、強烈な違和感しか感じることができない。ふと思い出す。
昨日の事が夢でないのだったら、自分の身体がこうしておかしくなったのは、棺桶に
仕舞ってあった奇妙な修道服、そしてそれと一体化した『人形』を無理やり身に着けら
れた直後だった。ならば、この服と人形を脱ぐことが出来れば。
「ぃよいしょ……あ……れ……? 腕が、動かねぇ……!?」
上着を脱ごうと、裾の部分に手を掛けて持ち上げようとする。──だが、そこから腕
が動かなくなってしまう。身体が金縛りにあったかのように硬直する。手を離すと、普
通に動かすことができた。何度か試すが、うまく脱げない。あるいは、脱ごうとすると
身体が固まってしまう。スカートの方に手を掛けようとしたが、同じように体が動かなく
なる。
「クッソ……こうなりゃ破ってやらぁ!」
胸元の部分に乱暴に手を掛け、両手で引きちぎろうとする。普段のアーノルドであ
れば薄い布地を引き裂くことは可能であっただろう。しかし、か細い『彼女』の腕は、そ
もそも布地を引っ張るような力を発揮することすらできず。
修道服を脱ぐことも、破ることもできない『彼女』は、鬼気迫った表情で自分の右腿
の部分に被せられた『人形』の表面を全力で引きちぎろうと、ぐいと引っ張った。すると
──
あくまで自分の身体に被さっている『表皮』の部分を引き千切ろうとした、それだけだ
ったのに。まるでソコは、『自分の身体の一部』だと主張するかのように、直接アーノ
ルドに痛みを伝えてくる。闇雲に自分の顔を、同じように引っ搔く。しかし、痛みに呻く
ことしかできない。昨日から続く、異常事態。そして、ようやく彼は自分が居る状況を
理解する。
「ここって、教会……マズイ、逃げねぇと……!」
ドアから直接逃げるのは危険と判断したアーノルドは、休憩室の部屋の小窓を見つ
ける。彼にとって幸いなことに、鍵は掛かっていない。身体を乗り出せば、簡単にこの
建物から抜け出すことができるだろう。窓を開け、逃亡しようとした────その瞬間。
「『朝の祈り』を捧げなくては」
そんな発言をするつもりなど、全くなかったのに。口から、そんな言葉が飛び出る。
凛とした少女の声がそう響くと、窓をくぐろうとしていた身体の動きが急に止まって。
『少女』の腕が、唯一の逃走経路である窓を勝手に閉ざしてしまう。くるりと、振り返っ
て。
「うぉ……!? なんでだよ、勝手に体が、動くっ……!?」
足先は、教会のホールに続くドアに向かってしまう。操られている、そう感じた。自分
の意思で、身体を動かせない。手が、ドアを開いて。向こう側には、既に誰かが居た。
「──おや、おはようございます」
司祭セリアが、赤い髪をゆらりと揺らし。温かい笑顔で、アーノルドを迎え入れたの
だった。
─────────────────────────────────
既に教会のホールには、他の修道女達が集い会話を交わしていた。朝の祈り。当
然ながら、アーノルドはその手法を知らない。ただ、操られるままに他のシスターと同
じように並び立つ。セリアが講壇の前に立ち、全員に向け語りかける。
「皆様お揃いのようですね。それでは、朝の賛美歌から始めたいと思います」
指揮者のように二拍ほど手を振ると、周囲のシスター達は一斉にアカペラでの合唱
を始める。当然、アーノルドは口を開かない。聞いたことは何度があるが、歌い方など
知らない。何より、歌いたくなど無かった。しかし、不思議と心に響くような歌声。一瞬
聞き惚れそうになった彼は、慌てて頭を降る。この状況を、受け入れてはいけないの
だ。やがて司祭の最後の一振りと共に、歌声はシンと鳴り止む。
「素晴らしい歌声でした。天上の神もきっとお聴きになって下さることでしょう」
講壇から降りたセリアは、一人のシスターの元に歩み寄る。ちょうど、アーノルドの
右隣であった。うるさく聞こえるほど、しかしどこか体の奥底に心地良く響くような歌声
で謡っていたシスター。
「シスターアリサ、貴方の歌声は最も高らかに響き渡りました。神より『祝福』が与えら
れる事でしょう」
「あぁ、有りがたき幸せ……」
そう言って、栗色の髪をした少女はしゃがみ込み、頭を下げる。──次の瞬間、ビク
ンと身体を反らせた。
獣の咆哮に似た喘ぎ声。清らかで美しさすら感じさせた歌声を響かせた、同じ人間
から出たとは思えないほどの濁った声。教会の荘厳な雰囲気には全くそぐわない、雌
の匂いが漂う。隣の修道女の急変に、アーノルドは目をむく。
隣で歌っていた時は、おとなしそうな表情だった少女。だが今は、栗色の髪と身体を
びくびくと震わせ、『何か』から与えられる感覚に悶えている。否、受け入れて快楽に
よがっている。アーノルドは慌てて、周囲の様子を伺った。流石に、この状況を見て異
常だと思わない人間はいないだろうと考える。しかし。
「いいなぁ……♡♡♡♡ アリサちゃん、すっごい歌が上手いもんね……あたしも頑張ら
なきゃ」
「あぁ、慈悲深き我らが神よ……次はわたくしにも『祝福』を……♡♡♡♡」
周りのシスターたちはこの現象を見ているにもかかわらず、それを受け入れている。
異常だと思っているのは自分だけなのか。戸惑うアーノルドに対して、司祭セリアは
頭を上げて。
「『アイリーン』。貴方にもいずれ祝福が与えられるでしょう、正しき事を為すのです」
「っ……俺は、こんなの欲しくなんざ……」
「『私』ですよ。正しき言葉遣いから全ては始まるのですから」
「ぁぐっ……わたし……くっ……上手く、喋れなっ……」
またしても、喉元に何かがつっかえるような感覚。それと同時に、自分の事を『私』と
呼んでしまう。着せられた『修道服』の影響なのだろうか。今朝目覚めてから、身体に
違和感を『感じていない』のも彼にとっては恐ろしかった。自分の身の丈より一回りも
小さな少女の身体に自分が押さえつけられているのに、窮屈さを一切感じていない。
そして、これこそが自分の身体なのだと言わんばかりに、胸元はその膨らみを主張し
ている。
「オ……わたしを、こんな体にして……どうするつもり……ぅぐっ……ですかっ……」
「ふむ、そうですね……アイリーン。今日は教会の外で私と一緒に活動しましょう。村
の皆様にご奉仕をするのです」
答えになっていない返事を返し、司祭セリアは再び講壇の方へと戻る。うめき声のよ
うな、甘い声を漏らし続けるアリサ。次第にその声は小さくなっているが、未だに快楽
に震えているのはアーノルドの目から見ても明らかであった。
白目をむき、顔を真っ赤に火照らせて。アーノルドが路地裏で見てきた、ヤり捨てら
れた女と同じように──いや、ある意味それ以上に酷い。だが、間違いなく彼女は悦
んでいた。じわりと、教会の大理石に愛液が水たまりを作る。
「それでは皆さん。本日も神の徒として正しきことを為しましょう」
『はいっ!』
一斉に応ずる声が教会に響いた後、修道女たちは散り散りになる。後に残されたア
ーノルドと、祈るように屈んだままのアリサ。司祭セリアが近づき、アーノルドに再び声
をかける。
「それでは、行きましょう」
「ぐっ……この服さえ脱げれば、お前なんて……っ」
しかし。体は再び、セリアの声に従うかのように教会の出口まで付き従うのであった。
──────────────────────────────────
連れてこられたのが夜だったので、アーノルドは初めて教会の周囲を確認すること
が出来た。逃亡してきた街の裏路地から更に離れた、小さな村。街に対して農作物を
供給するため、畑や酪農に力を入れている村だった。路地裏の荒んだ空気に慣れて
いたアーノルドには、変にのどかなこの村の空気が合わなかった。
「おや、セリア様。おはようございます、今日も村の見回りですか? そちらの方は初
めてお見受けしますかな」
「おはようございます、えぇ。昨日から私達の教会に配属になったシスターのアイリー
ンです。以後、お見知りおきを」
「ぁぐっ……よろしく……お願いします……くぅっ」
村人の一人に声を掛けられると、アーノルドの身体は無理やりお辞儀をしてしまう。
セリアの『見回り』で村の各所を巡ることになった。そこで、彼は驚くべき光景を目にす
る。
「ふむ、井戸の汲み取りポンプが動かない。少し見てみましょう……ああ、ここですね。
よいしょ……ここを直せば、ほら。ちゃんと動きますよ」
「おお、セリア様! ありがとうございます……!」
「畑に魔物が侵入しているのですね……ここに神の御印を刻んでおきましょう。そうす
れば夜に侵入してくる事もありません。念のため仕掛け罠も教会の者に持たせます」
「これで作物を荒らされることも無くなりますだぁ! セリア様、ありがてぇありがてぇ…
…」
「洞窟から戻ってきてから体調が悪い患者、ですか。あそこは悪い気が満ちておりま
す。診せてください……『Estas pura venteto《清浄なる風よ》』! ──この様に寝かせ
て、しばらく風の魔法を口に優しく与え続けてください」
「む……なるほど、そうすればよいのですね。薬師として勉強になります、セリア様」
村に出るや否や、あちこちの村人の元を巡り、器具の故障や村の防衛、果ては病人
の対処までなんでもやり始める。その様子を、アーノルドは呆然と見るしかなかった。
少なくとも彼が知る神父や司祭は、神の教えとやらを人に説くだけで何かをしていた
記憶などない。それに、それだけの複数分野への知識を持っている人間に彼は出会
ったことなどなかった。
「……あんた、なんで教会で司祭なんかやってんだよ? それだけ色々出来たら、簡
単に金儲けできるじゃねえか」
「私のできる事など拙いものです。真に優れた人間には敵うことなどないでしょう。そ
れに──」
セリアは振り向き、にこりと笑う。
「私の目的、存在意義は。あくまで『神の教えを広める』ことですから。こうして村の皆
様をお助けするのも、神の御名を知らしめるための行為です」
「………………」
マトモ
やはり、こいつは普通じゃない。改めて警戒心を強めるアーノルド。しかし、彼にでき
る事はなかった。ただ彼女の後ろに付き従う事しかできない。やがて 2 人は、ある家
の前に立つ。
「ここが今日、貴方にとっての目的地です。あなたにとっても、関わりの深い相手でし
ょう」
「はぁ? こんな家に知り合いなんざ……」
セリアがドアをノックすると、1 人の男が現われる。その姿に、アーノルドは驚きを隠
せなかった。
「おぉ、セリアさんか。そちらの方は初めましてかな。俺はイヴァン。よろしく頼む」
「な……なんで、お前が……」
その声は小さく、家の主である青年には届かなかったが。アーノルドには見覚えが
あった。かつて冒険者として同じパーティに所属していた剣士。そして、報酬の取り分
で揉めて二度と会わなくなったヤツ。
「今日はこちらの『アイリーン』がイヴァン様のご奉仕を務めさせていただきます。どう
ぞよろしく」
「あぁ分かった、ありがとよ司祭さん」
そう言うなり、セリアはアーノルドを置いて他の村人の所に行く。身体が彼女につい
ていかない事を確認したアーノルドは、ようやく自分の身体が操られていない事を確
認する。キョロキョロと周囲を見渡し、逃げ出そうと脚を踏み出した瞬間。
「それじゃ、えぇと……アイリーンさん。マジックアイテムの鑑定があるんで、手伝いを
頼めるかな」
「──ぁグっ……はいっ! 分かりました!」
何故か顔が笑顔を作り。『彼女』は再び操られるように、かつての憎き相手の家へと
入り込んでしまう。部屋の中はそれほど家具はなく、机の上にはバックパックと山盛り
のガラクタのようなもの。まだ冒険者をやっているのか、大剣は鞘に仕舞われ玄関入
口に置かれている。
「この前の探索で色々と見つけてな、ただ調査も無しにギルドや店に売りつける訳に
もいかねぇ。自分で鑑定して売り捌くのが一番稼げるんだ。あぁ、その茶色の鞄を取っ
てくれるかな。鑑定道具が揃ってる」
そんなの知るか、と叫んで逃げ出したかった。しかし、身体が勝手に動いて荷物を
持ち上げ机に置く。その時。きゅん、と股に痺れるような感覚が走る。
「──っ♡」
「おし、ありがとよ。それじゃ、こいつはっと……ああ、少し部屋を暗くしないと。カーテ
ン閉めてくれ」
「はいっ」
拒絶したい。今すぐにでも、自分をギルドからの弾きものにしたコイツの背中に、玄
アイリーン
関の剣を突き差したい。それなのに、『 彼 女 』は、笑顔のままイヴァンに従うように部
屋を閉ざし、暗室にする。今度は、胸の先端。乳首にピクン、と刺激が走る。ふわりと
した空気に包まれるような、奇妙な快楽。顔つきにトロンとしたものが混じるのに、鑑
定作業中のイヴァンは気が付かない。
「コレは……チッ、開けると魔力が放出されて魔力切れになった瞬間作動する時限ア
ーティファクト……君ッ、ちょっとネジ回しを貸してくれ」
「あっはいっ、んぁあっ♡♡♡」
「げ、ヤバッ……魔力糸の配線まで混ざってやがる……眼鏡だ、あとハサミもっ」
「持ってきま、あ゛ぁぅっ♡♡♡♡」
マジックアイテムのトラップ解除に勤しむ中、彼女は不思議な感覚を味わっていた。
自分の身体を包み込む、窮屈な、しかし不思議と安心感のある心地よさ。それと同時
に襲い掛かる、秘所への攻め。防御が緩んだところに、的確に快楽による攻撃が加
えられてくる。イヴァンの言葉に従うと、まるでご褒美のようにソレが襲い掛かる。
それは、身にまとっている服──あるいは、アーノルドの脚や腕に被さっている人形
の腕から直接触ってくるかのように。きゅぅ、きゅぅと身体を締め付ける感覚。そして、
アイリーン
今の『 彼 女 』の身体は女性のモノ。股間にあるクリトリスに微弱な刺激が伝わると、
ふわりと腰が浮いてしまうような感覚に襲われる。
「──ふぅ、なんとか終わった。悪いな、シスターさん。……顔、真っ赤だな? 悪いな、
ヒヤヒヤさせちまった」
「ぃ……いえっ、大丈夫、です……っ」
(ぐっ……クソッタレ……こんな、皮なんてっ……)
そう叫びだしたい思いがあるのにも関わらず、イヴァンには丁寧な言葉を返すことし
かできない。作業を一旦止めた彼は、椅子の背もたれに身体を預けてあくびをする。
「ふわぁ……あぁ、なんというか。俺が罠を解除するのも変な話だよな。昔は同じ冒険
者の仲間に盗賊が居たんだよ。ちょっと、今は同じパーティーを組んでる訳じゃないん
だけどな」
アーノルド
自 分 の事だ、とすぐに分かる。
「ちょっと報酬関係で揉めてしまってな。アイツが盗もうとしなければもうちょっと穏便
に……いや、俺も何かするべきだったんだよな。惜しい仲間を失った。間違いなく、盗
賊としては一流の技能だった」
(──コイツ、は……ッ!)
『彼女』の瞳に、暗い炎が宿る。そもそもイヴァンが盗みに気が付かなければ、俺はこ
んな目に合う必要などなかったのだ。冒険者ギルドから爪弾きにしたのもこいつらだ。
──だというのに、この男は勝手に一人、悟ったように口走りやがって。身体は、動く。
玄関に置いてある、イヴァンの大剣を掴み、切りかかろうとした瞬間。
その瞬間。ぐりゅん、とアーノルドの頭の内側がかき混ぜられる感覚。気持ち悪い。
吐き気がする。立っていられずふらつく。ようやくその感覚が収まった時──
「『正しいこと』を為さなければ」
ア ー ノ ル ド
口から勝手に飛び出た言葉ではなく。『アイリーン』の本心から、そんな言葉が湧き
上がる。憎しみや殺意、怒り。それらの暗い感情に包まれた頭の中が、急に晴れやか
になる感覚。『正しい事』をする。それだけ考えればよいのだ。では、そうするにはどう
すればいい?
「イヴァン様──お疲れでしょう。少し、わたくしから『ご奉仕』させて頂いてもよろしい
ですか?」
アイリーン
『修道服』が、そんな風に誘導して。同時に、イヴァンに魔術をしかける。神聖なもので
はない。人を惑わし操る、催眠の魔術。本来なら魔族にしか扱えない魔法が、何故か
使える。アーノルドが覚えたその違和感は、しかし一瞬で霧散する。ぎゅむ、と自分の
身体に抱きつかれるような締め付け。きゅん、と子宮が疼く。
「え────あぁ、うん。ありがとう……」
催眠魔術の影響を受けたイヴァンは、どこか呆けたような表情でアイリーンを見つ
める。何をすればいいのか、『アイリーン』には分かっていた。短めなスカートの内側
に手を滑り込ませ、腰元の布をゆっくりと降ろしてゆく。黒色の修道服とは対照的な、
純白の布地。
「今日まで冒険でお疲れでしたでしょう。きっと『溜まっている』ものもあるはずです。ど
うか、わたくしで──」
「ん……? あぁ、助かるぜ……」
イヴァンの座っている椅子のすぐ下に陣取ったアイリーンは、彼のズボンのベルトを
外し、下着ごとずり降ろす。むわり、と雄の匂い──本来なら、自分と近いような臭い
が漂う。しかし、それを嗅いだアイリーンの秘所は。じゅん、と湿り気を増して。
「っはぁっ……♡♡ イヴァン様のここ、凄く大きいですっ……♡♡♡♡」
憎い相手の肉棒を、か細い『自分』の指を絡ませ上下に扱く。瞬く間に男根は硬さと
熱さを増してゆき、ドクン、ドクンと脈打つ。我慢するかのように目を細めるイヴァンを
見て、アイリーンの心が躍る。それは、憎い相手の弱みを握ったというよりは──相
手を手玉に取ることを喜ぶ、わずかな嗜虐心によるものだった。
「こんなにおっきいと……っ♡♡♡ わたくしのナカに入りきらない、かもっ……♡♡♡♡
あむぅっ♡♡♡」
澄んだ頭の中で、『誰か』が抵抗の声を上げる。しかし、『アイリーン』はそんなもの
に構わず。勃起しきったイヴァンのペニスを口に頬ばり、舌先で竿を、亀頭を舐める。
チロチロと微細な刺激が伝わるのに、イヴァンは耐えられない。
「っ……ぅぐぅっ……! アイリーンさんのクチっ……すげぇキモチイイッ……!」
「じゅるるぅっ♡♡♡ じゅぽっ♡♡ くぷぅっ♡♡♡♡」
そうすれば気持ちいい事が、的確にアイリーンには分かっている。口を窄め、肉棒
に適度に窮屈さを与えつつ、徐々に勢いを強めてゆけばいい。生温かい口のナカ、そ
してローション代わりの涎。怒張しきったイヴァンの逸物が暴発するのは、あっという
間だった。
で
「やばっ……! もう、射精るっ……! ぅくぅぅっ……! ぁぅっ……!」
決壊し、痙攣するようにビクビクと身体を震わせ。イヴァンはアイリーンの口に射精
する。一瞬息が詰まったアイリーンだったが、まだ竿の中に残す精液を余さず呑み込
もうと、バキュームフェラのようにちゅぅ、ちゅうと吸いつくす。雄の精子を喉を通らせ、
胃に落とし込むたびに。アイリーンの身体が疼き、不思議な圧迫感と共に『キモチイイ』
という感覚が湧き上がる。
「ぇへへ……っ♡♡♡ イヴァンさんのおちんちん、美味しかったですっ……♡♡♡♡ ─
─でもっ、わたくしももう我慢が出来なくなってしまって……♡♡♡♡♡」
その言葉は、雄を悦ばせるためだけの方便ではなかった。ただ男のペニスを舐めて
臭いを嗅ぐ、それだけでアイリーンの身体からは愛液が溢れ出していて、イヴァンの
家の床に水たまりを作るほどであった。
短いスカートをたくし上げれば、下着を脱ぎ捨てていた秘所は、雄の立派なものを今
にも吞み込みたいといわんばかりにひくひくと蠢く。アイリーンの問いかけに、イヴァン
は無言で頷いた。了解を得た『彼女』は、立ち上がって椅子に座ったイヴァンと対面し
い
ながら、射精の影響で少し萎えかけた男の逸物を、ゆっくりと腰を下ろして挿入れて
ゆく。
「んぅうぅうっ♡♡♡♡ はぁっ、んぅぁっ♡♡♡」
ナ カ
「ぅぁああっ……! アイリーンさんの膣内っ……ぎゅうって締め付けて、あったかいっ
……」
自分の身体に異物が入り込んでくる瞬間。脳天を灼かれるような衝撃。全身が痺れ
るような感覚。そして、一気に全身に広がる浮遊感。同時に、身体を締め付け、疼か
せる『服』の触覚。自分でイヴァンを犯していながら、不可視の『何か』に同時に犯され
ているかのような。それでいて──それはとても悦ばしいことだと、分かってしまう。
オ ク
「もっとっ……♡♡♡ わたくしのっ、膣奥までっ……♡♡♡♡」
ワザと『彼女』は自分の胸のふくらみを主張するかのように、身体を上下に揺らしな
がら、イヴァンの肉棒をより自分の身体の奥へと招き入れてゆく。彼女は、分かってい
た。それが興奮を誘う方法であることを。ゆさ、ゆさと揺れるおっぱいを眺めるイヴァ
ンの瞳が、興奮に染まってゆくことに。自分の内側で、どんどんと異物が圧を増して、
膣壁を圧迫してゆく。交わりながら。『アイリーン』は、自らの身体がぎちり、と絞まるの
を感じていた。その締め付けすら心地よい。
「アイリーン、さんっ……すげぇ、エロいなっ……! 我慢、できねぇよっ……!」
「ふっ♡♡♡ んぅう゛ぅっ♡♡♡ いい゛んですよっ♡♡♡♡ ぜんぶ、貴方の欲望を吐き出し
てっ……♡♡♡♡♡ わたくしに注ぎ込んでくだひゃいっ♡♡♡♡」
向かい合う 2 人が、互いに腰を振り始める。体同士がぶつかり合い、ぱちゅ、ぱちゅ
と水音が響く。イヴァンの抱えた熱が、衝動に任せて放出される。G スポットをごりゅ、
ごりゅと刺激されるとともに、『身体』が締め付けてくる。そして。
で
「もう、ムリだっ……すぐ射精るっ……!」
「 ぁ っ ♡♡ ─ ─ ひ ゃ ぁ ぁ あ あ ゛ ぁ ぁ っ ♡♡♡♡♡ ん ぁ あ ゛ ぁ つ ♡♡♡♡♡♡ ん ぅ う ゛ ぅ っ
♡♡♡♡♡♡♡」
精液の濁流が自分の身体に注ぎ込まれる瞬間。普通の性交では得られない、異常
な性感。脳を直接弄られたかのような、快楽の濁流。こんなものを知ってしまえば。
ア ー ノ ル ド
『アイリーン』のやるべき事は、ただ一つしか思いつくことはできなかった。
くださいっ♡♡♡♡♡」
ぎゅぅと、イヴァンの身体を椅子ごと抱きしめる。獲物を逃さない、肉食動物かのよう
に。自分の体のナカで、再び肉棒が硬さを取り戻す感覚を、アイリーンは敏感に感じ
取っていた。
───────────────────────────────────
─────
あれから、数時間経って。ぐったりと椅子に全身を預けて眠っているイヴァンを他所
に、アイリーンはまだ精液の零れているワレメに蓋をするかのように脱ぎ捨てた下着
を履き。
「それでは、本日はありがとうございました。神のご加護がありますように♡♡」
そう言い、アイリーンはイヴァンの家を後にする。玄関のドアを閉め、教会に歩みを
進める。その脚が教会に近づくにつれて──今までの事が、急激に頭に押し寄せる。
理性が、元に戻ってくる。『俺』は一体何をしていた。『俺』が『私』になっていた時の事
が、鮮明に蘇ってくる。
「ぐ……ぅがぁぁっ……!? 『俺』……はぁっ……何をッ……!?」
しゃがみ込んで、頭を抱えるしかないアーノルド。そこに、夕暮れ空が差し込む一つ
分の影。
「────『良きことをしましたね』」
司祭セリアが、笑顔でアーノルドを待っていた。
3.神に『触れられた』者の末路
教会の休憩室、今朝アーノルドが目覚めた場所に一度戻るよう伝えられ、部屋に入っ
た瞬間身体の自由が回復する。一瞬身体の動きを確認し、慌てて彼は自分の穿いて
いた下着を脱ぎ捨てる。こぽり、と零れ落ちる白濁液。その中身に、アーノルドは強い
拒絶感を覚える。
「ぐっ……クソッ、あいつのっ……」
自らのワレメを左手の指先で広げ、右手の指先で少しでも精液を掻き出そうと膣内
に指先を入れる。つい先ほどまでの行為のおぞましさに背筋が凍る。俺は男だという
のに、憎らしい相手の肉棒に貫かれて。そして、それを悦んでいた。有り得ない。何故
あんなことをしてしまったのだろう。
「汚ぇっ……でも、こんなのが身体の中にある方がもっと嫌だ……ッ」
必死で、内側に残っているモノを少しでも身体の外に出そうとする。だが。先ほどの
アイリーン
性交で浮かされた熱がまだ冷め切っていない『 彼 女 』の身体は、膣壁が指先で擦れ
るのにも敏感に反応してしまう。
い
人差し指だけで掻き出していたのが、次第に二本、同時に指を挿入れて。
思い出す。もっと気持ちよくなるには、どうしたらいい。無意識的に、陰核に指先が
伸びる。あの時は弄ってもらえなかった。だから、キモチヨクなるためにはここをもっと
触らないといけない。
立っている事が出来ず、教会の床に仰向けになって。アイリーンは淫らな行為を覚
えたての処女のように、自慰行為に溺れてゆく。濡れやすい体質なのか、愛液にまみ
れたワレメを撫でるように刺激し、クリトリスを優しくつまむ。そして指先を肉棒のよう
に乱暴に、己の内側に突き入れてゆく。
きもちいいしか、考えられない。頭の中がチカチカと弾けるような感覚であふれそう
になる。もうすぐだ。あと少しで、イく事ができる。勢いよく、自分の身体を乱暴に扱お
うとした。その瞬間。
休憩室のドアが開く。司祭セリアが、こちらを見つめていた。一気に、理性を取り戻
す。彼女は、今朝から変わらない笑顔のままこちらを見つめていた。
「正しい事をしましたね」
「──ひァっっ♡♡♡ な、なにぃい゛っ♡♡♡♡♡」
な か だ し
彼女がそう言葉を紡ぎ、杖をかざすと。イヴァンに膣内射精された時とは比べ物に
ならないほどの、頭の先から足の指先まで、全身を貫くような衝撃。身体中の筋肉が
弛緩し、潮が吹き出る。じんじんと、きもちいいという感覚に包まれる。射精した時の
充足感が、どんどんと波のように押し寄せてくる。異常だ。耐えられない。
全身が、思うように動かない。ただ与えられる快楽に身体をピクピクと震わせること
しかできない。昨日と今朝の、異様な乱れ様を見せた修道女たちを思い出す。『祝福』。
アレと同じ感覚を、味合わされているのか。
ようやく、身体に注がれる快楽の渦が止まる。息も絶え絶えで、肩で呼吸することし
かできない。この教会は異常だ、狂信者だと理解はしていたが。アーノルドは今初め
て、恐怖を覚えていた。この教会の連中は、神を信じている頭がお花畑の連中とは違
う。奴らの信じている『神』は、一体何なのか。
「っはぁっ……げほっ……オレ、を……早く元に戻しやがれ……!」
「うふふ……随分と『その体』を楽しんでいらっしゃるようでしたから、そんな事を言うと
は思いませんでしたよ……ですけど」
ずっと笑顔を作っていた司祭セリアが、ゆっくりと目を見開く。赤色の瞳が冷徹に、ア
ーノルドを品定めするかのように見つめる。今までアーノルドに向けられた、軽蔑や侮
辱の視線ではない。だが、それ以上に。今の彼には、セリアが恐ろしかった。隠してい
る事全てを見透かされてしまうかのような、秘密を覗かれるような。彼女に、隠し事は
できない。そんな風に思ってしまう。
ソウルクリーナー
「その 修 道 服 ……いいえ、その『皮』は。貴方に適合したのです。そして貴女の魂が
真に清く、自らの闇を乗り越えれるようになるまで、その衣を脱ぐことは許されません」
「自分の……闇だと? そんなもの……テメエらに勝手に言われる筋合いはねぇ…
…!」
殴り掛かろうとは、出来なかった。口では反論しつつも、仰向けのまま後退るように
セリアから離れてしまう。コイツには敵わない。そんな、言葉にできない恐れがあった。
セリアは近づくようなことはせず、軽く肩を落とす。
「では──質問を変えましょう。その『修道服』を脱ぐことが出来て、男のアーノルドに
戻ったとして。貴方はそれから、何をするのですか」
「は……? 決まってんだろ、この教会からおさらばしてどこか別の村に行って……」
「そこでまた、盗みと詐欺を繰り返す。明日の自分の命の保証すらないまま、ずっと続
けてゆく」
「あ゛ぁ!? 何が悪いってんだよ!?」
吠えるアーノルド。しかし、その声は似つかわしくない少女のもので。虚勢であること
が、自分ですら分かってしまう。
「貴方には──帰りたい過去があるのですか? 男の貴方として為したいことが、果
たして存在するのですか?貴方は、これから何処かに行きたいという思いがあるので
すか?」
「な……」
アーノルドは、セリアの瞳にはっきりと憐憫の情を見た。そして、彼はその問いかけ
に答える事ができない。
「行き場のない人間。自らを救うことができなくなった人。そんな人に『神』はこの衣装
を授けます。この服で自らの生き方を見つける助けをするために──『神』はその魂
ごと、姿を生まれ変わらせるのです。そうして神は人々をお救いになる」
「……待てよ、俺が初めてじゃ、ないのか……?」
その口ぶりが、自分一人を指している訳ではない事にアーノルドは気が付く。司祭
セリアは──初めて。ニヤリと、口元を歪めるような笑みを浮かべた。
「えぇ。この教会の修道女……そして私も。『この服』によって生まれ変わったものなの
です」
「オイ……あいつら……全員がか……!?」
信じられない。だが説明のつく事もある。自分を捕らえたシスター、その腕前はただ
の少女のモノではなかった。そして、他の修道女たちもその細い肢体からは考えられ
ないほどの力があった。そして司祭セリアは、その若さで異様なほどの多方面への知
識を有している。ただの司祭とは考えられない。──だとしても。教会にいる全員が、
『元は男』であったなどとは、理解が追い付かなかった。
「お……おかしいだろっ! だったら、なんで俺みたいなマトモな奴が居ねえんだ
よ!?」
「貴方を正気の人間とするのは少々不適切とは思いますが……そうですね。かつて
同じように抵抗し、『修道服』を着せてもすぐには意思を変えない人も居ました」
セリアは杖を壁にかけ、左手に持っていた『聖典』を開く。
「故にそういった人には──神の教えを、直接『肌で感じ取る』必要があります。『聖衣
よ包め』」
「がっ……ぁぅうぅう゛っ」
そう呪文を唱えられた瞬間。アーノルドの全身に寒気が走る。そして同時に、誰かに
視られていると気が付く。視線を向ける人物は分からないが、自分の全てを覗き見ら
れているかのような不気味な感じ。
「だ……誰だよ……!?」
目を血走らせて、辺りを見渡す。しかし教会の休憩室には、セリアと自分の他には
誰もいない事は彼にも十分分かっていた。ではこの奇妙な感覚は一体何だというの
だ。ふと、司祭セリアの背後、そして頭上に。『何か』の存在を視界に捉えてしまった。
「ぁ……ぇ……なに……?」
彼女の背後に控えるように居た『ソレ』は。彼の今まで見たことのない生物、あるい
は物体。巨大なミミズのような触手が塊のように岩のような形を作り、表面で脈動して
いる。気味が悪い。その触手の合間合間から、なにかがのぞく。──瞳だった。人間
のような眼が、瞬きをしながら。茶色、青色、赤色、金色、黒色。紫色。無数の目。
「──ヒっ」
恐怖のまま、アーノルドは少女のような声を上げて後ろに逃げる。その時。おびただ
しいほどの瞳たちが一斉に、アーノルドの方に視線を向ける。身体が金縛りにあった
かのように動かなくなる。
「ぁ……あぁぁ……!?」
「どうです? 神の御姿……今の貴方になら見えるはずです」
口をパクパクと動かすことしかできない。こんな。こんなおぞましいものが、神でなど
あっていいはずがない。叫びだしたくなった。しかし、抵抗の声を上げる間もなく。おび
ただしい数の瞳から、妖しげな光線が放たれる。『彼』は、それを視てしまった。
「逃げ、なきゃ……! アレから、逃げ……」
理性と本能が同時に警鐘を鳴らす。金縛りにあった身体をなんとかうごかそうとして
──頭に、誰かの声が響く。『正しい事をしなければ』と。
「逃げ……るために……どうすれば、いいんだっけ……」
危険な状態。正しい事をしなければ、無事に逃げられない。そのためにはどうすれ
ばいい。
「そう、だ……この眼を……見なきゃ……」
逃げようとした動きが止まり、恐怖した状態でありながら。少女の姿をしたアーノルド
は茶色の瞳を見開いて、異形の瞳たちから目が釘付けになり離せない。なぜなら、そ
れが『正しい行為』だから。
「ぁ……あ……光、が……強く……」
幾つもの目から放たれる怪光線。それを目に浴び続けるアーノルド。突如として、
『ぐりっ』と頭の内側を抉られるような感覚。痛みはない。だが、強烈なめまいを感じる。
──そして。頭の中で響いていた声。『正しい事をしなくては』と訴えかける声が、違う
ことを言い始める。
(『ただしいこと』は『きもちいい』こと)
(『きもちいいこと』は『ただしい』こと)
「ぁ……えっ……?」
ぐちゅり。そんな音が、自分の内側で鳴る。何の音だろう。そういえば、耳元に何か
が入り込んでいるような気がする。気持ち悪い肉塊から出てくる触手の一本が、自分
の耳から内側に入り込んでいた。
「ぁ────ぅ──」
だけど。この光を見なければ。不思議な光から、無数の瞳から、目を離さないように
しなければ。ぐちゅちゅ、ごきゅ、そんな音がするけど、気にならない。イヴァンの家で
感じたような、晴れやかな気分。何をすればいいのか、今の『私』なら分かる。
(人を『しあわせ』にするには、『ただしいこと』をすればいい)
(『ただしいこと』をすれば、あなたも『きもちいい』)
「ぉ……おれ……は……」
くちゅり。頭の中で響く清らかな少女の声。聴くだけで、心が浮く。触手の一本が自
うちがわ
分の陰部に滑り込んで、膣内に何度もぐちゅり、くちゅりと入り込む。長く暗く曇ってい
た心の内が、すっと透き通ってゆくのを感じる。──そうだ。男のままで居たところで。
こんな幸福な気持ちになんてなれないだろう。ごりゅ。身体を包む『修道服』が。指先、
足先、肩をぎゅうと締め付ける感覚が。今は、心地よいベッドに眠った時のように。誰
か信頼できる人に抱きしめられた時のように、温かい。
(だから──あなたも、『しあわせ』になろう)
(『しあわせ』を──みんなにわけてあげよう)
「ぉれ……わた、し……わたくし、はぁっ……♡♡」
自分をそう呼ぶことで。身体を包む幸福感はぐんと増す。司祭セリアが、へたり込ん
だアーノルドと同じように姿勢を下げ、声を掛ける。
「辛かったでしょう、間違った事も多くしてしまったでしょう。でも、今は──『神』の祝福
を受け取ってよいのですから」
(『しあわせ』になれ)
「──ぁ、ぁぁあ゛ぁぁっ♡♡♡♡♡♡ ひぁっ♡♡♡♡ んぉぉお゛ぁぁあ゛♡♡♡♡♡♡」
この『服』を着て、しばらく感じることのできなかった自分の肉棒の感覚。今、全身を
締め付けられ舌先で舐められるかのような感覚で、フェラされているかのように錯覚
する。そして本来なら同時に感じるはずのない、クリトリスへの刺激。皮の内側の男性
器、皮の表面の女性器の両方を弄られる。
『神』の前に、懺悔するかのように。『修道女アイリーン』は、涙を流しながら何度も身
体を震わせる。悲しみではない、ただ、身体を何度も吹き飛ばされてしまいそうな幸福
感だけでいっぱいになって。真っ赤に火照らせた顔は、喜色に満ちていた。
(『ただしいこと』は『きもちいい』こと 『きもちいいこと』は『ただしい』こと)
(『きもちいいこと』をするともっと『きもちよく』なる)
「ゎたし、ぃいい゛っ♡♡♡ はいぃっ゛♡♡♡♡♡ ただしくなりまひゅぅう゛♡♡♡♡♡♡ もっど
っ♡♡♡♡ ぎもぢいぃことっ♡♡♡ ひまひゅぅう゛♡♡♡」
何度も絶頂した。皮の内側の『アーノルド』も、皮の表面の『アイリーン』も。どちらが
どちらの快感なのか分からないほどに何度も、何度も。
(『この教会のもの』になれ もっときもちよくなる)
(ただしいことをしろ それはきもちいいこと)
(『しすたー』になれ)
その声に逆らう気持ちは、もはや『アイリーン』には無かった。
息も絶え絶えで、小声で「はい」と頷く。
司祭セリアが、笑顔で。
「正しい事をしましたね」
(『ただしいこと』は『きもちいい』)
「──ぁ」
ぎゅ、と内側で蠢く皮が。外側へのクリトリスへの刺激が。そして、無数の触手から
伸びる耳と、そして陰部への攻めが。──すべてが、一度にかみ合って。
──盗賊アーノルドは、その日姿を消した。
──────────────────────────────────
ある村の教会に修道女が 1 人増えて、しばらく経ったある日の夕べ。今日も司祭セ
リアは村を見回り、作業の手伝いなどをして教会に戻る途中であった。そこに合流す
る一人の影。
「……おや、アイリーンさん。お疲れさまでした」
「はいっ! 今日もイヴァン様にたくさん『ご奉仕』してきました!」
村にやって来た初日は無愛想な様子を見せていたアイリーンだったが、翌日からは
村人と積極的にかかわるようになり、その人柄から多くの人に慕われるようになって
いた。そんな彼女であったが。
「あぁ……えぇと、アイリーンさん。口元にその、まだ跡が……」
「あら、いけない……じゅるるっ♡ んうっ♡♡」
少したじろぐセリア。アイリーンの口元には、少し濁った液体がくっついていた。それ
を思い出したように呑み込む彼女は、またしても甘い声を上げる。
「『正しい事』ではありますが……何事にも節度というものがあるのですよ?」
「えへへ……すいません、気を付けます」
「それにしても。すっかり『染まり』ましたね。あれだけ拒絶していたのが噓みたいに」
『彼女』の元の姿を想像できる人は居ないだろう。たとえ彼の過去を知っていたとして
も、同一人物だとは誰も想像できまい。それほどまでに、彼女はこの教会に来て変わ
ってしまった。
「最近、毎日が楽しくて仕方ないんです。村の人たちの笑顔を見るのも嬉しいし、なに
より……んぅっ♡♡」
「えぇ、分かっています。──私も、そうですから」
『正しい事は気持ちいい事』。その暗示は強烈なほどにアイリーンの性質に影響を及
ぼしていた。今や、彼女は絶えず快楽に身体を震わせながら人々のために働く、淫乱
な修道女と化していた。村人の手助けをすればするほど、『きもちいい』で頭がいっぱ
いになる。それは、神の下僕である司祭セリアも同じであった。だからこそ、彼女もま
た村人の奉仕を続けているのである。
「おや、これは……?」
村の中央、酒場に併設されている掲示板に、一つの大きな絵がかけられている。ま
だ新しいそれは、指名手配の懸賞であった。凶悪そうな顔つきをした男と、彼の犯し
た罪がつらつらと書かれている。
「なんでも王都の刑務所から逃げ出したって──」
「近くの村に潜んでる──もしかしてこの村にも──」
遠くで村人たちの井戸端会議を耳にしたセリアは、少し考えこんで。
「アイリーンさん。この村にも少し慣れたでしょう。私も、もう少し人手が欲しいと思って
いたところです」
「……?」
一瞬怪訝そうな顔をしたアイリーンだったが。次のセリアの一言で、笑顔になる。
「新しい『修道服』を用意します」
───────────────────────────────────
─────
しくじった。今まで自分の罪がバレないように細心の注意は払っていたはずなのに、
たった一度のミスで全てが暴かれた。名声も、金も、すべて失った。そして──今は、
指名手配の身。『彼』は、気配を殺してある村の近くで待機していた。夜が深くなったら、
食料調達に行かなければ。
「……はぁ」
囚人の大量脱走が起き、それに乗じて刑務所の脱獄には成功したものの、思った
以上に情報が回るのは早かった。既に手配書が出回っているため、素性を隠しても
顔を隠すことのできない彼は、最早盗むことでしか生きる糧を得る方法が無かったの
だ。
「よし、そろそろいいか……」
村の灯りが全て消えたのを確認し、もうしばらく待って。『男』は行動を開始した。酒
場の近くはまだ酔っ払いが残っているかもしれない。食料品店に目星をつけ、侵入し
なければ。
「よし、カギは……ちょろいな、この程度なら……よいしょっと」
窓のカギは針金を差し込めば、簡単に開錠できた。窓を乗り越え、店に侵入。
──瞬間。視界がひっくり返った。
脚にロープのようなものが引っ掛かり、逆さまに宙吊り状態にされてしまった。
「ぅぉおぁっ!? クソッ、罠かよっ!?」
「──くすくす」
暗闇から、誰かの声。少女のような、高い声。
「はぁっ……♡♡♡ わたくしの手で、捕まえましたっ……んぅう゛ぅっ♡♡♡」
「は……? なに、してるんだ……!? これ、オマエが……!?」
水色の髪に、茶色の瞳。修道女のような黒い服、短いスカート。少女はどこか官能
的に悶えながらも、男の方に近づいてくる。
「そんなに怖い顔しないでください! だってわたくしは──」
アイリーンは、満面の笑みで。
「あなたを『しあわせ』にするためにやって来たんです♡♡♡」
その目は──狂信者のモノであった。